2024 Volume 73 Issue 4 Pages 652-660
C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus; HCV)抗体検査未受検者の受検率向上と効率化のために,大学病院を受診する患者における無症候性HCV感染早期発見に有用な基礎的資料を提示することを目的とした。研究デザインは単施設横断研究である。解析除外基準を満たす患者を除き,最終解析対象者は6,945人である。大阪大学医学部附属病院の電子カルテデータを用い,性別,年齢,入院外来区分,血液検査データおよび保有傷病名を収集した。血液検査データは患者が入院時や手術前検査として実施する基本的検査項目とし,無症候性HCV感染患者とHCV抗体陰性患者において収集した項目について統計学的に群間比較した。HCV核酸(HCV ribonucleic acid; HCVRNA)定量検査陽性を目的変数とした2項ロジスティック回帰モデルを用いて,単変量および多変量解析を行った。説明変数には,性別,年齢,入院外来区分,血液検査データおよび保有傷病名を用いた。解析の結果,性別,入院外来区分,クロール,クレアチニン,C-反応性蛋白を除く項目で2群間に有意差がみられ,無症候性HCV感染と関連する項目として高齢,外来患者,血小板数低下,アルブミン低下および総蛋白上昇が挙げられた。これらの結果より,大学病院を受診する患者において,無症候性HCV感染と関連する要因として,高齢,外来患者,血小板数低下,アルブミン低下および総蛋白上昇が可能性として示唆された。
This study aimed to identify essential factors for the early detection of asymptomatic hepatitis C virus (HCV) infection among patients visiting university hospitals. This initiative seeks to enhance the testing rates and efficacy of HCV antibody tests for individuals who have yet to undergo the same. This research employed a single-center cross-sectional design. After excluding patients based on the exclusion criteria, the final analysis included 6,945 patients. Data on sex, age, inpatient–outpatient classification, blood test results and medical history were extracted from the electronic medical records from Osaka University Hospital. Blood tests served as routine admission and pre-surgery test for patients. Basic statistics were used to analyze the data collected from patients with asymptomatic HCV infection and those with negative HCV antibody tests after which statistical comparisons between the groups were conducted. Uni- and multivariable binary logistic regression models were used to identify variables independently associated with HCV ribonucleic acid (HCVRNA) detection. Explanatory variables included sex, age, inpatient–outpatient classification, blood test data, and medical history. Significant differences were found between the parameters of the two groups, except for sex, inpatient–outpatient classification, chloride, creatinine, and C-reactive protein. Factors associated with asymptomatic HCV infection included older age, outpatient, the decrease in platelet counts and albumin, as well as the increase in total protein based on blood test results. Therefore, older age, outpatient, the decrease in platelet counts and albumin and the increase in total protein may be associated with asymptomatic HCV infection among patients attending the university hospital.
世界的には,5,000万人の慢性C型肝炎患者がいるとされ,新規感染者は年間100万人と推計されている1)。わが国の慢性C型肝炎患者は約150万人と推定されており2),肝細胞癌の死亡数が2022年において死因第5位であることから3),いかにC型肝炎の早期発見・早期治療を行い,肝発癌および肝疾患関連死を防ぐかということが依然,重要な課題となっている。一方,すでに国や自治体などはC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus; HCV)抗体検査受検率向上に関する様々な取り組みを実施しており4)~6),かつ効果の高い治療法がありスクリーニングが可能である状況があるものの7),受検勧奨はいまだ十分ではない。そこで肝炎対策基本法に基づく一生に一度のHCV抗体検査受検を基本方針としたうえでHCV抗体検査未受検者の受検率向上と効率化を目的とし,患者が入院時や手術前検査として実施する基本的検査項目8)と基本属性を用いて,大学病院を受診する患者における無症候性HCV感染早期発見に有用な基礎的資料を提示することとした。
本研究の研究デザインは単施設横断研究である。
2. 「無症候性HCV感染患者」の定義本研究では電子カルテデータから収集可能な情報を用いて「無症候性HCV感染患者」を「大阪大学医学部附属病院の外来受診時もしくは入院時においてHCV抗体初回検査時に傷病名C型肝炎が付与されていない患者で,初回のHCV抗体検査陽性でその後のHCV核酸(HCV ribonucleic acid; HCVRNA)定量検査陽性であった患者」と定義した。
3. データベース大阪大学医学部附属病院の電子カルテデータ(期間:2009年10月1日~2023年2月28日)を使用した。収集した項目は,当該期間に関わらずHCV抗体検査実施日までに付与されていたすべての傷病名,性別,HCV抗体検査実施日時点の年齢,HCV抗体検査実施日と同一日に実施した血液検査データおよびFIB4 index9)である。尚,FIB4 indexは数値が高くなるほど肝線維化が進行していることを間接的に示す簡易的指標である10)。使用した血液検査データの項目はTable 1に示す通りである。
血球 | 凝固 | 生化学 | |
---|---|---|---|
白血球数 | プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR) | ナトリウム | 乳酸脱水素酵素(LD) |
赤血球数 | 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) | カリウム | グルコース |
ヘモグロビン | クロール | コリンエステラーゼ | |
ヘマトクリット | 尿素窒素 | 総コレステロール | |
血小板数 | 尿酸 | 中性脂肪 | |
クレアチニン | 総ビリルビン | ||
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST) | C-反応性蛋白 | ||
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT) | 総蛋白 | ||
γ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GT) | アルブミン | ||
アルカリフォスファターゼ(ALP) |
無症候性HCV感染患者およびHCV抗体陰性患者の抽出条件として以下の条件を用いた。
1) 無症候性HCV感染患者の抽出条件2009年10月1日~2023年2月28日の期間に大阪大学医学部附属病院の外来受診時または入院時にHCV抗体検査を実施したすべての患者のうち,初回のHCV抗体検査が陽性となり,その後にHCVRNA定量検査を実施し陽性であった患者を無症候性HCV感染患者とした。ただし,このうちC型肝炎の傷病名付与日が抗体検査で初回に陽性であった日以降の患者とした。
2) HCV抗体陰性患者の抽出条件大阪大学医学部附属病院における初回のHCV抗体検査結果が陰性であり当該実施日が上述の初回HCV抗体検査日と同一の年月日であった患者を抽出した。また,HCV抗体陰性であっても,HCVRNA定量検査を実施した患者,C型肝炎の傷病名が付与されていた患者は除いた。原則,HCV抗体陰性患者抽出数は,HCV抗体検査が陽性でその後のHCVRNA定量検査を実施した患者1人に対し10人を抽出するものとし,抽出可能な患者数が10人に満たない場合は抽出可能な最大人数とした。
上記の2つの抽出条件いずれかを満たす患者は計8,117人であった(Figure 1)。解析にあたり,除外基準として,1)HCV抗体検査実施日時点の年齢が20歳に満たない患者,2)HCV抗体検査実施日にB型肝炎,梅毒,ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus; HTLV)感染症,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus; HIV)感染症のいずれかが傷病名として付与されていた患者を設定した(Figure 1)。本研究の解析対象者は,HCV抗体検査陽性でその後のHCVRNA定量検査陰性者424人を除外した6,945人とした(Figure 1)。
*:重複症例を含む。除外基準を満たすHCV抗体検査陽性かつHCVRNA定量検査を実施した患者は,20歳に満たない患者(2人),B型肝炎患者(1人),梅毒患者(1人)であった。
解析対象者は,HCV抗体検査陰性患者(6,624人)とHCV抗体検査陽性かつHCVRNA定量検査陽性患者(321人)を合わせた6,945人。
本研究は大阪大学医学部附属病院倫理審査委員会の承認を得て行った(受付番号:22385-2,承認日:2023年3月31日)。
5. 統計解析無症候性HCV感染患者とHCV抗体陰性患者2群における基本統計量を算出した。当該2群における性別,年齢,FIB4 indexおよび血液検査データ,傷病名保有率についてWilcoxon rank-sum testもしくはχ2 testにて群間比較した。尚,FIB4 indexは[年齢(歳)×AST(IU/L)]/[
次にHCVRNA定量検査陽性(1.2 Log IU/mL以上)を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。多変量解析の説明変数には,性別,年齢,入院外来区分,傷病名,血液検査データ項目(Table 1)およびFIB4 indexを用いた。年齢のみで調整したオッズ比,年齢に加え先行研究11),12)より無症候性HCV感染との関連が示されているALT濃度,アルブミン濃度で調整したオッズ比を求めた。さらに年齢,ALT濃度,アルブミン濃度で調整した際に有意な関連がみられた変数と性別,ALT濃度を用いたモデルでの検討も行った。
解析にあたり,各変数の分散拡大係数(variance inflation factor; VIF)を確認し,多重共線性の有無を確認した。結果,AST濃度とALT濃度および,LD濃度とALT濃度に直線関係を示したため,AST濃度とLD濃度を除外した。解析は強制投入法により実施した。モデルの適合性評価にはHosmer-Lemeshow testを用い,適合度の低かったものを除外した(p-value < 0.05を除外)。コリンエステラーゼを説明変数に含むモデル以外のすべてのロジスティック回帰分析において,Hosmer-Lemeshow testの検定結果はp-value ≥ 0.05であった。尚,各ロジスティック回帰分析に用いた無症候性HCV感染患者数およびHCV抗体陰性患者数はSupplementary Table 1に示した。
統計解析にはR version 4.0.3(R Development Core Team),RStudio version 1.4.1106(Posit, PBC)を用い,統計的有意水準は両側5%とした。
性別,年齢,入院外来区分および血液検査データおよびFIB4 indexについて基本統計量を算出し,無症候性HCV感染患者とHCV抗体陰性患者の2群間比較した結果をTable 2に示す。性別,入院外来区分,クロール,クレアチニン,C-反応性蛋白を除く項目で2群間に有意差がみられた。
Overall N = 6,945 |
HCVRNA(+) N = 321 |
HCVAb(−) N = 6,624 |
p値 | |
---|---|---|---|---|
男性n(%) | 3,293(48%) | 159(50%) | 3,134(47%) | 0.400 |
年齢n(歳) | 63(47, 73) | 71(60, 78) | 62(46, 73) | < 0.001*** |
外来n(%) | 5,428(78%) | 243(76%) | 5,185(78%) | 0.300 |
白血球数(×103/μL) | 6.4(5.3, 7.9) | 5.5(4.5, 7.0) | 6.4(5.3, 8.0) | < 0.001*** |
赤血球数(×106/μL) | 4.4(4.0, 4.7) | 4.1(3.7, 4.4) | 4.4(4.0, 4.7) | < 0.001*** |
ヘモグロビン(g/dL) | 13.4(12.2, 14.5) | 13.0(11.5, 14.1) | 13.4(12.3, 14.5) | < 0.001*** |
ヘマトクリット(%) | 40.6(37.3, 43.6) | 39.0(34.8, 42.3) | 40.6(37.4, 43.7) | < 0.001*** |
血小板数(×103/μL) | 228(189, 272) | 168(123, 226) | 229(192, 274) | < 0.001*** |
PT-INR | 1.02(0.98, 1.07) | 1.07(1.02, 1.14) | 1.02(0.97, 1.06) | < 0.001*** |
APTT(s) | 29(27, 31) | 30(28, 33) | 29(27, 31) | < 0.001*** |
ナトリウム(mEq/L) | 140(139, 141) | 139(138, 141) | 140(139, 141) | < 0.001*** |
カリウム(mEq/L) | 4.1(3.9, 4.3) | 4.0(3.8, 4.3) | 4.1(3.9, 4.3) | 0.044* |
クロール(mEq/L) | 105(103, 107) | 105(102, 107) | 105(103, 107) | 0.110 |
尿素窒素(mg/dL) | 15(12, 18) | 16(12, 21) | 15(12, 18) | < 0.005** |
尿酸(mg/dL) | 5.1(4.2, 6.3) | 5.6(4.3, 6.8) | 5.1(4.2, 6.2) | 0.008* |
クレアチニン(mg/dL) | 0.73(0.61, 0.89) | 0.73(0.61, 0.96) | 0.73(0.61, 0.89) | 0.400 |
FIB4 index | 1.37(0.88, 2.03) | 2.92(1.75, 5.06) | 1.34(0.86, 1.95) | < 0.001*** |
AST(U/L) | 21(17, 27) | 38(26, 58) | 21(17, 26) | < 0.001*** |
ALT(U/L) | 18(13, 26) | 31(18, 53) | 17(13, 25) | < 0.001*** |
γGT(U/L) | 25(16, 45) | 33(19, 68) | 24(16, 45) | < 0.001*** |
ALP(IU/L) | 216(161, 277) | 275(199, 365) | 214(159, 273) | < 0.001*** |
LD(IU/L) | 190(165, 226) | 218(187, 268) | 189(164, 224) | < 0.001*** |
グルコース(mg/dL) | 101(92, 114) | 109(95, 128) | 101(92, 113) | < 0.001*** |
コリンエステラーゼ(U/L) | 296(243, 352) | 230(175, 301) | 299(249, 354) | < 0.001*** |
総コレステロール(mg/dL) | 197(171, 224) | 167(143, 202) | 198(172, 225) | < 0.001*** |
中性脂肪(mg/dL) | 104(73, 154) | 83(64, 116) | 105(74, 156) | < 0.001*** |
総ビリルビン(mg/dL) | 0.6(0.4, 0.8) | 0.6(0.5, 0.8) | 0.6(0.4, 0.8) | < 0.001*** |
C-反応性蛋白(mg/dL) | 0.1(0.0, 0.2) | 0.1(0.0, 0.3) | 0.1(0.0, 0.2) | > 0.900 |
総蛋白(g/dL) | 7.2(6.9, 7.6) | 7.5(7.0, 7.9) | 7.2(6.9, 7.6) | < 0.001*** |
アルブミン(g/dL) | 4.2(3.9, 4.5) | 3.9(3.5, 4.2) | 4.2(3.9, 4.5) | < 0.001*** |
値は患者数(%)または中央値(第1四分位,第3四分位)
p値,性および入院外来区分はχ2 test,それ以外の項目はWilcoxon rank-sum test
* < 0.05,** < 0.005,*** < 0.001
傷病名保有率について無症候性HCV感染患者とHCV抗体陰性患者の2群間比較した結果をTable 3に示す。大動脈弁狭窄症と胃潰瘍の項目で2群間に有意差がみられた。
傷病名 | HCVRNA(+) N = 321 |
HCVAb(−) N = 6,624 |
p値 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
保有率 | 95% C.I. | 保有率 | 95% C.I. | ||||
下限 | 上限 | 下限 | 上限 | ||||
糖尿病(%) | 7.8(25) | 5.1 | 11.3 | 6.5(429) | 5.9 | 7.1 | 0.400 |
高血圧(%) | 6.9(22) | 4.3 | 10.1 | 6.4(427) | 5.9 | 7.1 | 0.800 |
大動脈弁狭窄症(%) | 5.3(17) | 3.1 | 8.3 | 1.3(84) | 1.0 | 1.5 | < 0.001** |
胃潰瘍(%) | 5.3(17) | 3.1 | 8.3 | 3.0(202) | 2.7 | 3.5 | 0.024* |
白内障(%) | 4.4(14) | 2.4 | 7.2 | 6.3(414) | 5.7 | 6.9 | 0.200 |
近視性乱視(%) | 4.0(13) | 2.2 | 6.8 | 6.6(440) | 6.1 | 7.3 | 0.066 |
腰痛(%) | 3.4(11) | 1.7 | 6.1 | 2.4(159) | 2.1 | 2.8 | 0.200 |
不眠症(%) | 2.5(8) | 1.1 | 4.9 | 2.1(136) | 1.7 | 2.4 | 0.600 |
便秘症(%) | 2.5(8) | 1.1 | 4.9 | 2.2(144) | 1.8 | 2.6 | 0.700 |
慢性胃炎(%) | 2.2(7) | 1.0 | 4.4 | 2.3(154) | 2.0 | 2.7 | 0.900 |
95% C.I.,95%信頼区間。かっこ内は保有人数を示す。
p値,χ2 test * < 0.05,** < 0.001
次に,無症候性HCV感染についての関連要因を単変量ロジスティック回帰分析により検討した結果をTable 4に示す。Hosmer-Lemeshow testで適合度が低かったのはコリンエステラーゼ(p < 0.05)のみであった。基本属性では年齢が有意な正の関連を示した。血液検査データおよびFIB4 indexではPT-INR,APTT,尿素窒素,尿酸,ALT,γGT,ALP,グルコース,総ビリルビン,総蛋白,FIB4 indexが有意な正の関連を示した。白血球数,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット値,血小板数,ナトリウム,総コレステロール,中性脂肪,アルブミンが有意な負の関連を示した。保有傷病名では大動脈弁狭窄症有り,胃潰瘍有りが有意な関連を示した。尚,解析に用いた患者を年齢,アルブミン,ALTが欠損していない者のみにした場合にはALTおよび胃潰瘍有りのみ有意性が保たれなかった(Supplementary Table 2)。
粗オッズ比 | 年齢調整オッズ比 | 年齢・アルブミン・ ALT調整オッズ比 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
オッズ比(95% C.I.) | p値 | オッズ比(95% C.I.) | p値 | オッズ比(95% C.I.) | p値 | |
男性 | 1.09(0.87, 1.37) | 0.437 | 1.04(0.83, 1.30) | 0.741 | 1.07(0.84, 1.37) | 0.592 |
年齢 | 1.03(1.03, 1.04) | < 0.001*** | 1.03(1.03, 1.04) | < 0.001*** | 1.03(1.02, 1.04) | < 0.001*** |
外来 | 0.86(0.67, 1.12) | 0.276 | 0.99(0.76, 1.29) | 0.925 | 1.72(1.25, 2.38) | < 0.001*** |
血液検査データ | ||||||
白血球数 | 0.86(0.82, 0,.92) | < 0.001*** | 0.87(0.82, 0.92) | < 0.001*** | 0.84(0.79, 0.89) | < 0.001*** |
赤血球数 | 0.49(0.41, 0.58) | < 0.001*** | 0.57(0.47, 0.68) | < 0.001*** | 0.73(0.59, 0.92) | 0.006* |
ヘモグロビン | 0.87(0.82, 0.92) | < 0.001*** | 0.90(0.85, 0.96) | < 0.001*** | 1.02(0.95, 1.10) | 0.612 |
ヘマトクリット | 0.94(0.93, 0.96) | < 0.001*** | 0.96(0.94, 0.98) | < 0.001*** | 0.99(0.97, 1.02) | 0.606 |
血小板数 | 0.99(0.99, 0.99) | < 0.001*** | 0.99(0.99, 0.99) | < 0.001*** | 0.99(0.99, 0.99) | < 0.001*** |
PT-INR | 2.02(1.31, 3.12) | 0.001** | 1.70(1.10, 2.61) | 0.016* | 1.10(0.73, 1.67) | 0.652 |
APTT | 1.02(1.01, 1.04) | < 0.001*** | 1.02(1.01, 1.04) | 0.006* | 1.00(0.99, 1.02) | 0.535 |
ナトリウム | 0.91(0.88, 0.94) | < 0.001*** | 0.91(0.88, 0.94) | < 0.001*** | 0.95(0.91, 0.99) | 0.013* |
カリウム | 0.74(0.54, 1.02) | 0.060 | 0.64(0.47, 0.88) | 0.005* | 0.65(0.50, 0.86) | 0.002** |
クロール | 0.97(0.93, 1.01) | 0.130 | 0.97(0.93, 1.01) | 0.095 | 0.98(0.95, 1.02) | 0.414 |
尿素窒素 | 1.01(1.00, 1.02) | 0.002** | 1.01(1.00, 1.02) | 0.165 | 1.00(0.99, 1.01) | 0.539 |
尿酸 | 1.16(1.07, 1.26) | < 0.001*** | 1.13(1.04, 1.22) | 0.004** | 1.09(1.00, 1.18) | 0.044* |
FIB4 index | 1.01(1.00, 1.01) | < 0.001*** | 1.01(1.00, 1.01) | 0.041* | 1.01(1.00, 1.01) | 0.416 |
クレアチニン | 1.05(0.97, 1.14) | 0.256 | 1.05(0.96, 1.15) | 0.273 | 0.99(0.89, 1.10) | 0.849 |
AST | 1.00(1.00, 1.00) | 0.113 | 1.00(1.00, 1.00) | 0.201 | ― | ― |
ALT | 1.00(1.00, 1.00) | 0.040* | 1.00(1.00, 1.00) | 0.074 | 1.00(1.00, 1.00) | 0.360 |
γGT | 1.00(1.00, 1.00) | < 0.001*** | 1.00(1.00, 1.00) | < 0.001*** | 1.00(1.00, 1.00) | 0.001** |
ALP | 1.00(1.00, 1.00) | < 0.001*** | 1.00(1.00, 1.00) | < 0.001*** | 1.00(1.00, 1.00) | < 0.001*** |
LD | 1.00(1.00, 1.00) | 0.859 | 1.00(1.00, 1.00) | 0.733 | ― | ― |
グルコース | 1.00(1.00, 1.01) | 0.003** | 1.00(1.00, 1.01) | 0.040* | 1.00(1.00, 1.00) | 0.168 |
コリンエステラーゼa) | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
総コレステロール | 0.98(0.98, 0.99) | < 0.001*** | 0.98(0.98, 0.99) | < 0.001*** | 0.99(0.98, 0.99) | < 0.001*** |
中性脂肪 | 0.99(0.99, 1.00) | < 0.001*** | 0.99(0.99, 1.00) | < 0.001*** | 0.99(0.99, 1.00) | < 0.001*** |
総ビリルビン | 1.16(1.04, 1.30) | 0.010* | 1.17(1.05, 1.31) | 0.006* | 1.11(0.99, 1.24) | 0.076 |
C-反応性蛋白 | 1.03(0.99, 1.08) | 0.149 | 1.02(0.98, 1.07) | 0.313 | 0.92(0.87, 0.98) | 0.009* |
総蛋白 | 1.81(1.48, 2.22) | < 0.001*** | 1.90(1.55, 2.33) | < 0.001*** | 2.82(2.31, 3.43) | < 0.001*** |
アルブミン | 0.45(0.38, 0.53) | < 0.001*** | 0.50(0.42, 0.59) | < 0.001*** | 0.50(0.42, 0.59) | < 0.001*** |
傷病名 | ||||||
糖尿病 | 1.22(0.80, 1.86) | 0.354 | 1.11(0.73, 1.69) | 0.631 | 1.04(0.64, 1.68) | 0.883 |
高血圧症 | 1.07(0.69, 1.66) | 0.772 | 0.92(0.59, 1.43) | 0.705 | 0.91(0.56, 1.48) | 0.706 |
大動脈弁狭窄症 | 4.35(2.55, 7.42) | < 0.001*** | 2.41(1.39, 4.18) | 0.001** | 2.46(1.41, 4.29) | 0.001** |
胃潰瘍 | 1.78(1.07, 2.96) | 0.026* | 1.62(0.97, 2.71) | 0.060 | 1.23(0.67, 2.72) | 0.500 |
白内障 | 0.68(0.40, 1.18) | 0.172 | 0.50(0.29, 0.86) | 0.012* | 0.64(0.36, 1.14) | 0.131 |
近視性乱視 | 0.59(0.34, 1.04) | 0.069 | 0.57(0.32, 1.00) | 0.049* | 0.66(0.36, 1.23) | 0.192 |
腰痛 | 1.44(0.77, 2.69) | 0.248 | 1.25(0.67, 2.33) | 0.492 | 1.34(0.69, 2.61) | 0.388 |
不眠症 | 1.22(0.59, 2.51) | 0.590 | 1.23(0.59, 2.53) | 0.584 | 1.35(0.61, 2.97) | 0.455 |
便秘症 | 1.15(0.56, 2.37) | 0.704 | 1.06(0.51, 2.20) | 0.870 | 0.67(0.24, 1.84) | 0.436 |
慢性胃炎 | 0.94(0.44, 2.01) | 0.867 | 0.83(0.39, 1.80) | 0.645 | 0.75(0.30, 1.87) | 0.539 |
95% C.I.,95%信頼区間
a)Hosmer-Lemeshow test:p < 0.05 * < 0.05,** < 0.005,*** < 0.001
年齢のみを調整変数としたモデルでHosmer-Lemeshow testで適合度が低かったのはコリンエステラーゼ(p < 0.05)のみであった。年齢調整オッズ比で有意であった項目は,PT-INR,APTT,尿酸,γGT,ALP,グルコース,総ビリルビン,総蛋白,FIB4 indexであり,これらはHCV抗体陰性群に比べて無症候性HCV感染群で有意に高い年齢調整オッズ比の値を示した(Table 4)。また,白血球数,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット値,血小板数,ナトリウム,カリウム,総コレステロール,中性脂肪,アルブミンについては,有意に低い調整オッズ比の値を示した(Table 4)。また,無症候性HCV感染群ではHCV抗体陰性群に比べて大動脈弁狭窄症有りの者が有意に多く,白内障や近視性乱視の者は有意に少なかった(Table 4)。尚,解析に用いた患者を年齢,アルブミン,ALTが欠損していない者のみにした場合にはFIB4 indexおよび白内障有りのみ有意性が保たれなかった(Supplementary Table 2)。
年齢に加え,先行研究11),12)から無症候性HCV感染との関連が示唆されているALTおよびアルブミンを調整変数としたオッズ比について示す(Table 4)。Hosmer-Lemeshow testで適合度が低かったのはコリンエステラーゼ(p < 0.05)のみであった。無症候性HCV感染群ではHCV抗体陰性群に比べて,年齢が高く,外来患者である者の割合が有意に多かった。また,年齢調整の結果と同様に尿酸,γGT,ALP,総蛋白の有意性は保たれた。白血球数,赤血球数,血小板数,ナトリウム,カリウム,総コレステロール,中性脂肪,アルブミンの有意性も年齢調整の結果と同様であった。保有傷病名では大動脈弁狭窄症のみが有意であった。
年齢,アルブミン,ALTで調整したモデルで有意な関連がみられた項目と性別,ALTを調整変数としたオッズ比の完全データ解析の結果を示す(Table 5)。尚,解析に用いた人数は1,600人(うち無症候性HCV感染患者97人)であった。Hosmer-Lemeshow testの結果,適合度は良好であった。完全データ分析では,無症候性HCV感染群ではHCV抗体陰性群に比べて,高齢である患者の割合が有意に多かった。また,総蛋白のみ,有意に高い調整オッズ比の値を示した。血小板数,中性脂肪,アルブミンについては,有意に低い調整オッズ比の値を示した。保有傷病名では大動脈弁狭窄症の有意性は保たれなかった。
調整オッズ比(完全データ分析) N = 1,600 |
||
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オッズ比(95% C.I.) | p値 | |
男性 | 1.08(0.63, 1.87) | 0.770 |
年齢 | 1.03(1.01, 1.04) | < 0.001** |
外来 | 1.76(0.97, 3.20) | 0.062 |
血液検査データ | ||
白血球数 | 0.96(0.86, 1.07) | 0.465 |
赤血球数 | 0.92(0.60, 1.41) | 0.695 |
血小板数 | 0.99(0.99, 0.99) | < 0.001** |
ナトリウム | 1.00(0.91, 1.09) | 0.982 |
カリウム | 0.63(0.37, 1.07) | 0.087 |
尿酸 | 1.10(0.96, 1.26) | 0.181 |
ALT | 1.00(1.00, 1.00) | 0.258 |
γGT | 1.00(1.00, 1.00) | 0.398 |
ALP | 1.00(1.00, 1.00) | 0.780 |
総コレステロール | 1.00(0.99, 1.00) | 0.412 |
中性脂肪 | 0.99(0.99, 1.00) | 0.005* |
C-反応性蛋白 | 0.95(0.84, 1.07) | 0.375 |
総蛋白 | 2.55(1.79, 3.62) | < 0.001** |
アルブミン | 0.31(0.18, 0.54) | < 0.001** |
傷病名 | ||
大動脈弁狭窄症 | 1.69(0.77, 3.71) | 0.192 |
95% C.I.,95%信頼区間。参照カテゴリは女性,入院とした。
表内の変数をモデルに投入した。* < 0.05,** < 0.001
本研究では,性別,年齢,入院外来区分,日本臨床検査医学会が推奨する入院時や手術前に実施される基本的検査項目8)および傷病名保有の有無を用いて,無症候性HCV感染患者群とHCV抗体陰性患者群とを比較検討した。
結果,HCV抗体陰性患者と比較して高齢患者で無症候性C型肝炎患者が多かった。国立感染症研究所の報告によれば,健康増進事業による検査受検者集団における無症候性HCV感染患者割合は若年齢集団と比較し,高年齢集団で高いとの報告がある13)。この点はHCVRNA定量検査陽性の年齢中央値が71歳の本研究の結果と一致している。入院外来区分において,年齢のみの調整では関連がみられず,年齢,アルブミン,ALTを調整変数としたモデルおよびTable 5に示した変数で調整したモデルにおいて関連がみられた。したがって,入院患者と比較し,外来患者は肝細胞障害が軽度であり,患者ごとが抱える疾病の重症度および進行度が高くはないこと,これまで病院を受診する機会が多くなかったことからHCV抗体検査を受ける機会もなかったためと考える。さらに,年齢および入院外来区分は情報へのアクセスが容易であることからも無症候性HCV感染早期発見に有用な項目であると考える。
血液検査データおよびFIB4 indexでは年齢,アルブミン,ALTを調整変数としたモデルで関連が示唆されたほとんどの項目が肝機能低下に関連するものであった。つまり,尿酸,γGT,ALP,白血球数,赤血球数,血小板数,ナトリウム,カリウム,総コレステロール,C-反応性蛋白,アルブミンである。このうち,Table 5に示した変数で調整したモデルでも有意性が保たれたのは血小板数とアルブミンのみであった。この要因としてデータ欠損による解析時のサンプルサイズの減少に伴い,統計学的検出力が低下したことが一因として考えられる。しかし一方で,有意性が保たれた血小板数およびアルブミンは有意性が保たれなかった項目に比べ,無症候性HCV感染との関連がより強いと推測され,無症候性HCV感染早期発見に有用な項目であると考える。
さらに,年齢,アルブミン,ALTを調整変数としたモデルおよびTable 5に示した変数で調整したモデルにおいて総蛋白で有意な正の関連がみられた。総蛋白濃度の上昇についてはその背景にγグロブリン濃度の上昇があると考えられる。肝線維化が進むことで高γグロブリン血症が生じる機序として,鈴木ら14)は腸管由来の抗原に対する抗体の産生が促進していることを示唆している。また,中性脂肪において年齢,アルブミン,ALTを調整変数としたモデルおよびTable 5に示した変数で調整したモデルで有意な負の関連がみられた。しかし,食事の影響を大きく受けることやデータ欠損によりおよそ半数の患者が解析から除外されていること,推定されたオッズ比がほぼ1であることから無症候性HCV感染早期発見に有用な項目ではないと判断した。
血液検査データにおいて無症候性HCV感染患者とHCV抗体陰性患者を比較すると2群ともに基準範囲内での変動にとどまっている項目が多数を占めており,基準範囲を超える,あるいは下回ることをHCV抗体検査受検勧奨の判断基準とすることは適切ではない可能性が示唆された。検査データが系統誤差および偶然誤差が加算されたものとして観察されることを考慮すると個人の変動を観察するには不十分であり,個体間差を十分に反映したものとは言えない。一方,C型肝炎患者の肝線維化を評価する指標としても活用されているFIB4 indexでは有意な関連はみられなかった。FIB4 indexは数値が高くなるほど肝線維化が進行していることを間接的に示す指標である9),15)。一般的に無症候性HCV感染患者の感染期間は長期化しており,それに比例して肝線維化が進み,HCV抗体陰性患者群に比べ値が高いことが予想され,有意差はなかったが,本研究でも同様の結果が得られた。
保有傷病名では大動脈弁狭窄症が,年齢,アルブミン,ALTで調整したモデルでは有意な関連がみられたものの,Table 5に示した変数で調整したモデルでは有意性は保たれなかった。HCV感染によりインスリン抵抗性が増悪するとの報告がある一方で,大動脈弁狭窄症発症のリスク因子として知られている総頸動脈の内中膜壁厚16)においてHCV感染者と非感染者とで比較した研究ではHCV感染者で有意に小さかったとの報告17)もある。大動脈弁狭窄を呈する患者がもつ臨床的特徴等で,本研究で収集しえなかった要因が無症候性HCV感染と関連する可能性は否定できないと考える。
本研究の限界としては第一に,電子カルテデータから収集可能な情報を用いて「無症候性HCV感染患者」を「大阪大学医学部附属病院の外来受診時もしくは入院時においてHCV抗体初回検査時に傷病名C型肝炎が付与されていない患者で,初回のHCV抗体検査陽性でその後のHCVRNA定量検査陽性であった患者」と定義した点である。本研究では偶発的に発見された症候性HCV感染患者が解析対象者に含まれている可能性もあり,無症候性HCV感染患者を適切に選択できていない可能性がある。さらに,入院時にはすべての診療科でHCV抗体検査を実施することが病院の方針として示されていることを確認できたものの,方針の徹底がなされていない可能性がある。また,外来診察時には各診療科でHCV抗体検査を実施するか否かの選択基準が異なっていた。したがって,入院および外来患者における解析対象者の選択にバイアスが生じている可能性は否定できないと考える。第二に,本研究デザインが横断研究である点である。したがって因果関係を結論付けることはできない。第三に,単施設での研究である点である。今回の結果が病院ごとの特徴,たとえば病床数や診療科に影響を受けることは否定できない。したがって,さまざまな施設で調査を重ね,一般性を高めることが必要である。これらの限界はあるものの,本研究で大学病院を受診する患者において,無症候性HCV感染と関連する要因として,高齢であること,外来患者であること,血小板数の低下,アルブミンの低下および総蛋白の上昇が可能性として示唆された。このように,無症候性HCV感染患者の特性を明らかにしたことはHCV抗体検査受検勧奨につなげる知見をもたらした点で意義がある。
本研究により,大学病院を受診する患者において,無症候性HCV感染と関連する要因として,高齢であること,外来患者であること,血小板数の低下,アルブミンの低下および総蛋白の上昇が可能性として示唆された。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。