Japanese Journal of Medical Technology
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Original Article
Detection of deep vein thrombosis in the general population compared to earthquake evacuees
Shuhei KIDOGUCHIHidenori ONISHIHiromasa TSUBOUCHIFumie MAEDAYuka OTAKEYoichiro HASHIMOTOYutaka KAIOsamu YAMAMURA
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2024 Volume 73 Issue 4 Pages 667-673

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Abstract

【目的】大規模災害後には深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)が増加するとされ,その原因として避難所環境,長期的な活動量の低下,車中泊などが考えられている。さらに加齢は一般的なDVTの危険因子であり,避難所でDVTを認める症例の多くは高齢者である。また,非被災地と比較したDVT検出率に関する報告は少ない。そこで,福井県敦賀市の一般住民(熊本地震被災地で実施したDVT検診対象者と同年代)を対象にDVT検診を実施し,DVT検出率とその背景因子について熊本地震での被災者と比較検討した。【方法】対象は敦賀市で実施した健康イベントに参加しDVT検診を希望した81名(男性24名,女性57名,平均年齢69.4 ± 8.0歳)とした。被災地群は熊本地震の被災者207名(男性48名,女性159名,平均年齢68.2 ± 16.1歳)とした。問診,下肢静脈超音波検査を実施し,被災地群と非被災地群に分類してDVT検出率と背景因子を比較した。【結果】被災地におけるDVT検出率は11.1%(23/207)であり,非被災地では2.5%(2/81)であった。両群間で有意差のあった項目はDVT,不眠,起立困難,臥床時間増加,脱水症状(排尿回数を減らすために意図的に水分摂取が低下することにより引き起こされる),車中泊,脂質異常症であった。非被災地のDVT検出率は低かったが,DVTがある一般住民にはひらめ静脈拡張を認めた。【結語】被災地におけるDVT検出率は一般住民の4倍以上であり,避難所環境に関連する因子がDVT発症の主な原因であった。

Translated Abstract

Objectives: The incidence of deep vein thrombosis (DVT) has been reported to increase after large-scale disasters. Shelter environments, decreased activity, and overnight stays in cars have been reported as causes of DVT after disasters, while aging is a common risk factor for DVT. There are few reports on DVT detection rates in evacuees compared to those in the general population. In this study, we screened DVT in the elderly general population and compared the DVT detection rate and its background factors to those of elderly evacuees (Kumamoto earthquakes, April 2016). Methods: We conducted DVT screening in the elderly general population at a health event in Tsuruga City, Fukui Prefecture, Japan. The number of subjects in the general population was 81 (69.4 ± 8.0 years old) and in the earthquake evacuees was 207 (68.2 ± 16.1 years old). Medical interviews and lower limb venous ultrasounds were performed in all cases. Results: The DVT detection rate in earthquake evacuees was 11.1% (23/207) and that in the general population was 2.5% (2/81). DVT, insomnia, difficulty standing up from the floor or bed, dehydration, staying in a car, and dyslipidemia were significantly higher in earthquake evacuees than in the general population. Although the prevalence of DVT was low in the general population, soleus vein dilatation and hypertension were observed in DVT-positive individuals. Conclusion: The DVT detection rate in elderly earthquake evacuees was over 4 times higher than that in the elderly general population, and various background factors directly related to large-scale disasters were involved.

I  はじめに

災害関連疾患のひとつである深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)は,2004年の新潟県中越地震以降注目され1),避難所や仮設住宅で静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism; VTE)発症の予防を目的としたDVT検診が実施されるようになった。大規模災害後の避難所や仮設住宅での避難生活では,DVT発症が増加すると報告されている2)~4)。避難生活におけるDVT発症の要因として,避難所環境,排尿回数を減らすために意図的に水分摂取が低下することにより引き起こされる脱水症状,長期的な活動量の低下,車中泊,睡眠薬使用による影響などが考えられている5),6)。また,加齢は一般的なDVTの危険因子であり7),避難所でDVTを認める症例の多くは高齢者である。被災地におけるDVT発症や背景因子の検討には年齢も考慮する必要がある。我々は2016年4月16日(本震)に発生した熊本地震において避難所(阿蘇地区周辺)の被災者を対象にDVT検診を実施し,DVT検出率が11.1%(平均年齢68.2 ± 16.1歳,女性76.8%)であったことを報告している7)。しかし,DVT発症の背景因子に年齢が含まれるにもかかわらず,同年代の非被災者である一般住民と比較したDVT検出率の報告は少ない。また,被災者と非被災者のDVT発症に関わる背景因子について十分に比較されていない。そこで今回,非被災地である福井県敦賀市の一般住民の高齢者(被災地で実施したDVT検診対象者と同年代)を対象にDVT検診を実施し,DVT検出率とその背景因子について被災地群と非被災地群に分けて比較検討したので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

非被災地である一般住民の対象者は,2018年11月25日に福井県敦賀市で実施した健康イベントに参加し,DVT検診を希望した81名(男性24名,女性57名,平均年齢69.4 ± 8.0歳)とした。福井県敦賀市は,人口約6万6,000人(男性約3万2,500人,女性約3万3,500人,2018年)であり,65歳以上人口は約28%であった。

被災地の対象者は,2016年4月16日に発災した熊本地震被災者とし,熊本県阿蘇市,南阿蘇村において避難所生活をされていた被災者207名(男性48名,女性159名,平均年齢68.2 ± 16.1歳)とした。DVT検診は2016年4月27日,5月3日,5月4日に実施した。熊本県阿蘇市は,人口約2万7,000人(男性約1万3,000人,女性約1万4,000人,2016年)であり,65歳以上人口は約36%であった。南阿蘇村は人口約1万1,000人(男性約5,300人,女性約5,700人,2016年)で65歳以上人口は約37%であった。

2. 方法

検診チームは福井大学医学部附属病院が中心となり福井,石川,富山と被災地および被災地周辺の医師,保健師,看護師,診療放射線技師,臨床検査技師から協力を得て編成した。

検診方法は,被災地DVT検診7)と同様に,同意を得られた対象者から問診(年齢,性別,生活習慣,行動制限,基礎疾患),血圧測定,下肢静脈超音波検査を実施した。下肢静脈超音波検査は,ポータブル超音波装置を用い座位にて行った。左右の膝窩静脈,腓骨静脈,前脛骨静脈,後脛骨静脈,ひらめ静脈内血栓の有無について静脈圧迫法を用いて確認した。血栓性状は,内部エコーが等~高輝度で血栓が退縮し索状や壁在にあるものを陳旧性血栓(器質化血栓),内部エコーが低輝度で血管内に充満しているものあるいは浮遊しているものを新鮮血栓とした。ひらめ静脈径は8 mm以上を拡張とした8)。以上の判定基準について検査担当技師に事前に周知し,技師間の統一性を図った。以下に使用した機器を示す。熊本被災地検診:フクダ電子株式会社UF-760AG PaoLus(5–12 MHzリニアプローブ),富士フイルム社SonoSite NanoMaxx(6–13 MHzリニアプローブ),富士フイルム社SonoSite TITAN(5–10 MHzリニアプローブ),富士フイルム社SonoSiteMTurbo(5–13 MHzリニアプローブ),GEHealthcare社LOGIQe(5–12 MHzリニアプローブ),コニカミノルタジャパン社SONIMAGE HS1(3–11 MHzリニアプローブ)。敦賀一般住民検診:フィリップス社CX50(リニア3–12 MHz),日立メディコ社Noblus(リニア5–18 MHz),GEHealthcare社LoGIQe(リニア3.3–10.0 MHz),富士フイルム社SonoSiteFC1X(リニア6–13 MHz),富士フイルム社SonoSiteEDGE II(リニア6–13 MHz)。

3. 統計解析

統計解析はEZRを使用し,2群間の比較にはMann-Whitney U検定,χ2乗検定を行った。DVTを規定する因子の検出にはロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った。いずれもp < 0.05を統計的有意とした。

年齢,収縮期血圧,拡張期血圧は平均値 ± 標準偏差で表記し,名義変数は,例数および各項目における頻度(%)で表記した。

III  結果

1. 被災者と非被災者(一般住民)のDVT検出率と背景因子の比較(Table 1
Table 1 熊本地震被災者(阿蘇地区)と一般住民(福井県敦賀市)のDVT検出率と背景因子の比較

熊本地震被災者
(阿蘇地区)
n = 207
一般住民
(福井県敦賀市)
n = 81
p value
年齢(歳) 68.2 ± 16.1 69.4 ± 8.0 n.s
性別(男/女) 48 / 159 24 /57 n.s
血圧
 収縮期血圧(mmHg) 132.7 ± 19.0 135.8 ± 19.2 n.s
 拡張期血圧(mmHg) 78.2 ± 13.4 78.4 ± 12.5 n.s
生活習慣
 喫煙 n(%) 20 (9.7) 4 (4.9) n.s
 飲酒 n(%) 46 (22.2) 21 (25.9) n.s
 睡眠薬服薬 n(%) 40 (19.3) 13 (16.0) n.s
 不眠 n(%) 107 (51.7) 23 (28.4) p < 0.001
行動
 床やベッド等からの起立困難 n(%) 57 (27.5) 7 (8.6) p < 0.001
 臥床時間増加 n(%) 74 (35.7) 9 (11.1) p < 0.001
 歩行時間短縮 n(%) 93 (44.9) 32 (39.5) n.s
 脱水症状n(%) 46 (22.2) 6 (7.4) p < 0.01
 車中泊 n(%) 123 (59.4) 6 (7.4) p < 0.001
基礎疾患
 心疾患 n(%) 41 (19.8) 20 (24.7) n.s
 糖尿病 n(%) 28 (13.5) 9 (11.1) n.s
 高血圧 n(%) 100 (48.3) 33 (40.7) n.s
 脂質異常症 n(%) 58 (28.0) 37 (45.7) p < 0.01
 悪性腫瘍 n(%) 18 (8.7) 12 (14.8) n.s
下肢静脈超音波検査
 深部静脈血栓症 n(%) 23 (11.1) 2 (2.5) p < 0.05
 もやもやエコー n(%) 71 (34.3) 37 (45.7) n.s
 静脈拡張 n(%) 78 (37.7) 31 (38.3) n.s
 静脈拡張 (mm) 7.0 ± 2.3 7.5 ± 1.9 n.s

平均値 ± 標準偏差,ns:非有意差,Mann-Whitney U検定,χ2検定

今回対象とした熊本地震被災者(熊本県阿蘇市,南阿蘇村)におけるDVT検出率は11.1%(23名/207名),非被災者である一般住民(福井県敦賀市)では2.5%(2名/81名)であった(p < 0.05)。被災者群と一般住民群の背景因子の2群間比較で有意であった項目は,DVT(p < 0.05),不眠(p < 0.001),床やベッド等からの起立困難(p < 0.001),臥床時間増加(p < 0.001),脱水症状の有無(p < 0.01),車中泊の有無(p < 0.001),脂質異常症(p < 0.01)であった。

2. DVTの有無と背景因子の比較(Table 23
Table 2 被災者,一般住民におけるDVTの有無と背景因子の比較

DVT検出 n = 25
(阿蘇/敦賀:23/2)
DVT未検出 n = 263
(阿蘇/敦賀:184/79)
p value
年齢(歳) 78.7 ± 8.4 67.6 ± 14.4 p < 0.001
性別(男/女) 3/22 69/194 n.s
収縮期血圧(mmHg) 131.8 ± 20.4 133.7 ± 19.0 n.s
拡張期血圧(mmHg) 73.8 ± 13.9 78.7 ± 13.0 n.s
生活習慣
 喫煙 n(%) 0 (0) 24 (9.1) n.s
 飲酒 n(%) 3 (12.0) 64 (24.3) n.s
 睡眠薬服薬 n(%) 7 (28.0) 46 (17.5) n.s
 不眠 n(%) 10 (40.0) 120 (45.6) n.s
行動
 床やベッド等からの起立困難 n(%) 12 (48.0) 52 (19.8) p < 0.01
 臥床時間増加 n(%) 12 (48.0) 71 (27.0) p < 0.05
 歩行時間短縮 n(%) 12 (48.0) 113 (43.0) n.s
 脱水症状n(%) 5 (20.0) 47 (17.9) n.s
 車中泊 n(%) 9 (36.0) 120 (45.6) n.s
基礎疾患
 心疾患 n(%) 10 (40.0) 51 (19.4) p < 0.05
 糖尿病 n(%) 1 (4.0) 36 (13.7) n.s
 高血圧 n(%) 13 (52.0) 120 (45.6) n.s
 脂質異常症 n(%) 7 (28.0) 88 (33.5) n.s
 悪性腫瘍 n(%) 1 (4.0) 29 (11.0) n.s
下肢静脈超音波検査
 深部静脈血栓症 n(%) 25 (100) 0 (0)
 もやもやエコー n(%) 9 (36.0) 99 (37.6) n.s
 静脈拡張 n(%) 16 (64.0) 93 (35.4) p < 0.01
 静脈拡張 (mm) 8.2 ± 2.2 7.0 ± 2.1 p < 0.01

平均値 ± 標準偏差,ns:非有意差,Mann-Whitney U検定,χ2検定

Table 3 被災者,一般住民におけるDVTの危険因子

背景因子 オッズ比 95%信頼区間下限 95%信頼区間上限 p value
年齢(歳) 1.09 1.03 1.15 p < 0.001
床やベッド等からの起立困難n(%) 2.65 1.06 6.65 p < 0.05
臥床時間増加n(%) 0.96 0.35 2.61 n.s
心疾患n(%) 2.00 0.79 5.07 n.s
静脈拡張n(%) 3.93 1.56 9.89 p < 0.01

ns:非有意差,ロジスティック回帰分析

対象となる被災者(阿蘇),一般住民(敦賀)においてDVT検出の有無で2群に分け背景因子を比較した。DVT検出群は25名(阿蘇23名,敦賀2名)であり,未検出群は263名(阿蘇184名,敦賀79名)であった。DVT検出群で有意に高値を認めた項目は,年齢(p < 0.001),床やベッドからの起立困難(p < 0.01),臥床時間増加(p < 0.05),心疾患(p < 0.05),静脈拡張(p < 0.01)であった。これら有意であった項目についてロジスティック回帰分析を行い,DVTの危険因子を解析すると,年齢(p < 0.001),起立困難(p < 0.05),静脈拡張(p < 0.01)が有意であった。

3. 一般住民におけるDVT発症の背景因子(Table 4
Table 4 一般住民DVT陽性者の背景因子

症例1 症例2
年齢(歳) 63 66
性別 女性 女性
血圧
 収縮期血圧(mmHg) 159 138
 拡張期血圧(mmHg) 90 74
生活習慣
 喫煙習慣 なし なし
 飲酒習慣 なし なし
 睡眠薬服薬 なし なし
 不眠 なし あり
行動
 床やベッド等からの起立困難 なし なし
 臥床時間増加 なし あり
 歩行時間短縮 なし あり
 脱水症状 なし なし
 車中泊 なし あり
基礎疾患
 心疾患 なし あり
 糖尿病 なし なし
 高血圧 なし あり
 脂質異常症 なし あり
 悪性腫瘍 なし なし
下肢静脈超音波検査
 DVT あり あり
 もやもやエコー あり なし
 静脈拡張実測値(mm) 11 8.3

一般住民においてDVT陽性となった2名の背景因子をTable 4に示す。DVT陽性症例1は63歳女性で収縮期血圧159 mmHg,拡張期血圧90 mmHgで下肢静脈超音波検査にて静脈拡張ともやもやエコーを認めた。陽性症例2は66歳女性で収縮期血圧138 mmHg,拡張期血圧74 mmHgで不眠,臥床時間増加,歩行時間短縮を認め,車中泊を行ったことがあり,基礎疾患として心疾患,高血圧,脂質異常症を認めた。下肢静脈超音波検査では静脈拡張を認めた。

IV  考察

災害関連疾患としてのDVTは,新潟県中越地震(2004年)において肺塞栓症との関係が報告され注目された1)。熊本地震被災地のDVT発症背景因子として我々の既報では,年齢,起立困難,心疾患,ひらめ静脈拡張を認め,ロジスティック回帰分析では,年齢,ひらめ静脈拡張が危険因子となった7)。危険因子の一つであった年齢に関して,避難所におけるDVT検出率として64歳以下で1.5%,65~74歳で6.1%,75歳以上で20.6%と報告されており7),避難所の生活環境に加えて加齢によりDVTが増加することが示されている。そのため被災地におけるDVT発症の背景因子検討には年齢も考慮する必要がある。今回我々は,被災地被災者(平均年齢68.2 ± 16.1歳)と非被災地一般住民(平均年齢69.4 ± 8.0歳)において同年代を対象としてDVT発症および危険因子について比較した。

対象とした熊本地震被災者(阿蘇地区)のDVT検出率11.1%に比べ,非被災者である一般住民(福井県敦賀市)におけるDVT検出率は2.5%であり,被災地のDVT検出率は4倍以上であった。被災地群で有意に高値であった項目は不眠,床やベッドからの起立困難,臥床時間増加,車中泊など避難所環境に関係する因子であり,DVT発症の原因とされる。DVTは一般的にVirchowの3徴である血流のうっ滞,血管内皮細胞障害,凝固能亢進が原因となり発生する。下肢の静脈血栓では血流うっ滞の関与が重要である。通常,下肢深部静脈の血流は筋肉のポンプ作用により心臓に戻るが,被災地避難所などでは臥床時間が増加し,日中の活動量が低下するなど下肢の筋肉を使わない状況が増えることで静脈血がうっ滞し血栓形成の原因となる9),10)。車中泊も同様に長時間同じ姿勢を保つことによる下肢静脈うっ滞が原因となる。

DVT検出群(25名:阿蘇23名,敦賀2名)と未検出群(263名:阿蘇184名,敦賀79名)の2群間比較では,DVT検出群で年齢,床やベッドからの起立困難,臥床時間増加,心疾患,静脈拡張が有意に高値であった。ロジスティック回帰分析では年齢,起立困難,静脈拡張が有意なDVT危険因子となった。今回の検討においてもDVT発症には年齢,避難所環境が影響することが示された。避難所生活では,高齢者の活動量低下による臥床時間増加が共通しているためと考えられる。また,静脈拡張に関しては,被災地を対象とした報告にて,ひらめ静脈径が細いとDVT検出率は低いとされている11)

一般住民におけるDVT検出率は,これまで1.8~2.3%と報告されている11)~13)。いずれも地震対照地として集団検診形式で実施されており,今回の非被災地におけるDVT検出率と同様であった。その理由として,新潟県中越地震の対照地検査(新潟県阿賀町)として実施された報告11)と比較すると,対照地が日本海側気候であること,希望して検査を受けており健康に関心がある住民であること,年齢は60代などの共通点を認めている。しかし,大都市や気候が異なる太平洋側地域の一般住民のDVT検出率とは異なる可能性も考えられるが,今回の結果は60代一般住民のDVT検出率と推測される。

しかし,一般住民のDVT発症の背景因子について明らかなものは示せなかった。そこで2名の背景因子について考察する。症例1は,ひらめ静脈径が11 mmと拡張し,もやもやエコーも確認されている。血圧実測値が収縮期血圧159 mmHg,拡張期血圧90 mmHgと高血圧を疑う所見であった。新潟中越地震6年後のDVT検診の報告14)において,高血圧がDVTの危険因子とされていることから,高血圧が長期間持続することとDVT発症に関係があるのかもしれない。症例2では,静脈拡張を認め,臥床時間増加や歩行時間短縮など活動量低下がDVT発症の一因と考えられる。また高血圧や心疾患の既往がある。心疾患,静脈拡張,DVT発症には密接な関わりが示唆されており,東日本大震災後の宮城県亘理郡の仮設住宅や自宅で行われたDVT検診の報告15)では,DVT陽性群にひらめ静脈拡張が多く,ひらめ静脈拡張群に心疾患既往者が多いと報告されている。

以上のように,同年代(高齢者)の被災者と非被災者一般住民のDVT検出率を比較すると,被災者で有意に高い検出率を認め,その背景因子として不眠,床やベッド等からの起立困難,臥床時間増加,脱水症状,車中泊など避難所環境に関連する因子が挙げられた。避難所生活の環境を改善することにより,DVT発症を抑えられる可能性が示された。一方,非被災者である一般住民のDVT検出率は低いが,DVT検出例ではひらめ静脈拡張や高血圧を認めた。

今回の検討に関する制限および限界について,第一に対象となる一般住民は健康イベントの参加者であり,健康に関心がある,気をつけているなど対象者に偏りが認められること。第二に対照地である熊本県と福井県に食生活や気候などの地域差があること。第三に下肢全体のDVTは評価されていないこと。また,他の年代における被災者と一般住民の比較検討は行えていない。今後は,上記項目を考慮してさらに検討を行う必要があると考える。

V  結語

今回対象とした被災者と非被災者一般住民の平均年齢に有意差はなく,同年代のDVT発症および背景因子を比較することができた。被災地におけるDVT検出率は一般住民の4倍以上であり,避難所環境に関連する因子がDVT発症の主な原因であった。一般住民でDVTを認めた症例ではひらめ静脈拡張や高血圧を認めた。

本研究は,福井大学医学系倫理審査委員会20160024,20160089の承認を得て,ヘルシンキ宣言も厳守し実施した。被災地研究において研究自体に倫理的問題がなくても,被災者に負担になる可能性を留意する必要がある。本研究では阿蘇地域の医師や行政と十分に協議し,活動時に保健師が同行し,被災者への配慮を十分に考えて実施した調査である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

この活動は,熊本県阿蘇市,南阿蘇村,敦賀市の協力と鹿児島県,熊本県,石川県,富山県,福井県の医療機関の方々(医師,保健師,看護師,診療放射線技師,臨床検査技師,医学部学生,歯学部学生,看護学部学生),対象地域の保健師にご協力頂いた。この場をお借りし深く御礼申し上げたい。

文献
 
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