Japanese Journal of Medical Technology
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Questionnaire survey results on the quality assurance of cardiovascular disease-related laboratory tests
Fumihiko KITAGAWARyosuke KIKUCHITakashi FUJITA
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2024 Volume 73 Issue 4 Pages 770-779

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Abstract

2018年に「循環器病対策推進基本計画」が策定された。一般社団法人日本臨床衛生検査技師会は,国策に則った臨床検査の精度管理体制の拡充を目指し,循環器病関連検査項目についても精度管理調査を検討している。循環器病関連検査項目精度管理検討ワーキンググループでは,精度管理調査用試料の作成と,プレサーベイ実施に向けたタイムスケジュールの検討を開始した。その過程で,各医療機関における循環器病関連検査項目の運用状況を把握するために令和5年度日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査時に「循環器病関連検査項目精度管理に関するアンケート調査」を実施した。アンケートには1,811施設からの回答があった。その結果,循環器病関連検査項目の外部精度管理調査への受検希望は検討中の施設も含め1,251施設(88.4%)であった。各項目における基準範囲,病態識別値およびパニック値の設定の有無についても調査したが,施設ごとで設定値は大きく異なっていた。病態識別値については設定している施設は,設定率が高い項目においても36施設(14.8%)であった。また,BNP測定用採血管は,多くの施設が各試薬添付書の推奨採血管で採取していたが,一部施設ではEDTA-2Naアプロチニン加採血管が用いられていた。今回の調査結果から,精度管理調査の仕組み作りだけでなく,単位の統一化,基準範囲やパニック値の設定などの課題が明らかとなった。

Translated Abstract

In 2018, the “Basic Plan for the Promotion of Cardiovascular Disease Measures” was formulated. The Japanese Association of Medical Technologists is considering an accuracy control survey for cardiovascular disease-related laboratory test items with the aim of expanding the accuracy control system for clinical laboratories in accordance with national policy. The Cardiovascular Disease-Related Laboratory Test Item Accuracy Control Survey Working Group has begun preparing samples for the accuracy control surveys and discussing a time schedule for conducting pre-surveys. In the process, a “Questionnaire Survey on Cardiovascular Disease-related Laboratory Test Item Accuracy Management” was conducted during the 2023 Japan Society of Clinical Hygiene Technologists Clinical Laboratory Accuracy Management Survey to ascertain the status of operation of cardiovascular disease-related laboratory test items at each medical institution. The questionnaire received responses from 1,811 institutions. As a result, 1,251 (88.4%) institutions, including institutions currently under consideration, willing to undergo an external accuracy control survey for cardiovascular disease-related laboratory test items. We also investigated whether reference intervals, pathology identification values, and panic values were set for each item, but the values differed greatly between institutions, and 36 (14.8%) institutions that set pathology identification values, even for items with a high setting rate. In addition, most of the institutions used recommended blood collection tubes for BNP measurement in the reagent package inserts, but some institutions used EDTA-2Na aprotinin-added blood collection tubes. The results of this survey revealed issues such as not only establish a system for accuracy control surveys, but also unifying units, setting reference intervals, and panic values.

I  はじめに

2022年の人口動態統計によれば,心疾患は死亡原因の第2位,脳血管疾患は第4位であり,両者の死亡総数は悪性新生物(腫瘍)に次ぐ割合で,年間約34万人の国民が亡くなっている1)。2019年12月1日には,「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(平成三十年十二月十四日)」(法律第百五号)が施行され,個々の取り組むべき施策の目標達成に向けて「循環器病対策推進基本計画」が策定された2),3)。日本臨床衛生検査技師会においても国策に則った臨床検査の精度管理体制の拡充を目指し,令和7年度本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査時に循環器病関連検査項目についても精度管理調査の実施を予定している。近年,循環器(心血管)疾患の診断や予後評価において循環器関連検査項目測定の有用性が確立されているが,各検査項目の精度管理体制は整備されていない。

現在,循環器病関連検査項目精度管理検討ワーキンググループでは,精度管理調査用試料の作成と,プレサーベイ実施に向けたタイムスケジュールを調整中である。また,各医療機関における循環器病関連検査項目の運用状況を把握すべく,令和5年度日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査において,「循環器病関連検査項目精度管理に関するアンケート調査」を実施したので,集計結果を報告する。

II  対象と方法

対象は,2023年6月に実施された「令和5年度日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査」に参加した4,537施設を対象に,データ標準化システム(JAMTQC)にて循環器病関連検査項目精度管理に関するアンケートを実施した。アンケート内容は,循環器病関連検査項目の自施設における実施状況,精度管理調査の受検希望,実施項目,報告に用いているトロポニンの単位,基準範囲,病態識別値およびパニック値の設定,B型ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)測定用採血管の種類など7項目とした。また,III 結果の2.以降の集計は,自施設で循環器関連検査を実施している施設のみを対象とした。

III  結果

アンケートはJAMTQCより一括出力し解析を行った。アンケート回答施設数は4,537施設のうち,1,811施設(39.9%)であった。アンケート回答施設の概要をTable 1に示す。

Table 1 Overview of medical institutions that responded to the questionnaire

北日本
支部
関甲信
支部
首都圏
支部
中部圏
支部
近畿
支部
中四国
支部
九州
支部
合計
回答施設数 304 225 296 231 243 270 242 1,811
全支部に占める割合(%) 16.8 12.4 16.3 12.8 13.4 14.9 13.4 100
施設分類
 一般病院I (特定機能病院) 10 7 13 10 11 12 8 71
 一般病院II (地域医療支援病院) 28 38 41 43 35 37 45 267
 一般病院III (機能指定無し) 210 133 157 137 156 168 145 1,106
 健診センター 2 6 8 2 2 1 0 21
 検査所 27 18 36 21 25 24 21 172
 検診センター 1 1 5 4 2 3 4 20
 研究所 0 0 2 0 1 3 0 6
 歯科(病院) 1 0 1 0 0 0 0 2
 診療所(無床) 8 10 18 3 3 5 5 52
 診療所(有床) 4 2 1 2 0 2 2 13
 精神病院 8 9 6 6 7 7 4 47
 療養所(一般) 4 1 2 1 0 5 5 18
 療養所(結核) 0 0 0 0 0 1 2 3
 その他 1 0 6 2 1 2 1 13
病床数
 なし 33 28 57 27 29 28 27 229
 1~19 3 2 1 2 0 2 2 12
 20~99 53 28 22 29 26 40 30 228
 100~199 83 56 61 43 75 70 65 453
 200~299 34 23 34 38 29 36 39 233
 300~499 56 49 62 49 51 46 46 359
 500~699 21 15 20 22 13 26 16 133
 700~999 4 5 6 8 7 6 3 39
 1,000以上 3 2 6 3 4 1 4 23
 未記入 14 17 27 10 9 15 10 102

1. 循環器関連検査を自ら実施していますか。

回答が得られた1,811施設のうち,1,415施設(78.1%)において自施設で循環器関連検査を実施していた。一方,外部委託している施設が190施設,検査を実施していない施設が152施設,無回答33施設,その他が19施設および検討中が2施設であった。循環器病関連検査項目を実施していない152施設のうち,最も多い施設分類は検査所が72施設(47.4%),次いで一般病院III(機能指定無し)が41施設(27.0%)であった。一方,自施設における循環器関連検査を24時間対応している施設は1,040施設(73.5%)であった(Figure 1A)。24時間対応施設の内訳は,200床未満では対応率が80%以下であったが,200床以上の施設では80%以上の対応率,さらに300床以上の施設では90%以上の対応率であった(Figure 1B)。

Figure 1  Implementation status at own institution and implementation rate of 24-hour support

Graph A shows the rate of implementation status at own institution among the 1,811 institutions that responded to the questionnaire. Graph B shows the percentage of 24-hour support.

2. 当会の精度管理調査において循環器病関連項目の調査が始まった場合には受検を希望されますか。

精度管理調査が開始された際に,「受検を希望する」もしくは「受検を検討する」を選択した施設はそれぞれ685施設(48.4%),566施設(40.0%)であった。一方,受検しないと回答した施設は61施設(4.3%)であった(Table 2)。

Table 2 Number of institutions willing to participate in external accuracy control surveys for cardiovascular disease-related test items

解答施設数 割合
受検する 685 48.4%
受検を検討する 566 40.0%
受検しない 61 4.3%
その他 4 0.3%
無回答 99 7.0%
合計 1,415

3. 現在,貴施設で実施している項目を選択してください。*同一項目で複数の装置,試薬が有る場合は主とするものを記載して下さい。

最も多施設で測定されていた項目はD-dimerであり,対象の1,231施設(87.0%)で測定されていた。2番目に多く測定されていたのは,BNPであり933施設(65.9%)であった。一方,心筋トロポニンT(cardiac troponin T; TnT),心筋トロポニンI(cardiac troponin I; TnI)およびN末端プロBNP(N-Terminal pro Brain Natriuretic Peptide; NT-proBNP)はそれぞれ560施設(39.6%),603施設(42.6%)および596施設(42.1%)の実施率であった。また,3項目の循環器関連検査を実施している施設が最も多く760施設(53.7%)であった(Figure 2)。複数項目を測定している施設における測定項目の内訳は,TnI採用施設ではBNPが,TnT採用施設ではNT-proBNPとの組み合わせが多く,またいずれの組み合わせにおいてもD-dimerの測定が実施されていた(Table 3)。

Figure 2  Implementation items and number of implementation items at each institution

Graph A shows the testing items for the 1,415 facilities that have implemented testing at their own institution. Graph B shows the percentage of implementation items at each institution.

Table 3 Ranking of combinations of inspection items

項目組合せ 1位 2位
2項目 BNP/D-dimer(n = 98) TnT/D-dimer(n = 42)
3項目 TnI/BNP/D-dimer(n = 330) TnT/NT-proBNP/D-dimer(n = 168)
4項目 TnI/BNP/NT-proBNP/D-dimer(n = 150) TnT/BNP/NT-proBNP/D-dimer(n = 63)

4. 貴施設で使用しているTnTおよびTnIの単位を教えて下さい。

TnT定量法を用いていると回答した243施設のうち166施設(68.3%)が「ng/mL」を用いているのに対し,TnIでは回答が得られた572施設のうち337施設(58.9%)が「pg/mLもしくはng/L」を用いているという違いがみられた(Table 4)。

Table 4 Troponins unit notation at each medical institution

ng/mL
施設数(%)
pg/mL/ng/L
施設数(%)
両方を併記
施設数(%)
回答の記載なし
施設数(%)
TnT#(n = 243) 166(68.3%) 34(14.0%) 2(0.8%) 41(16.9%)
TnI#(n = 572) 174(30.4%) 337(58.9%) 3(0.5%) 58(10.1%)

#Evaluation using data from medical institutions that responded to the questionnaire and excludes equipment name not listed and visual method.

5. 貴施設にて設定している各項目の基準範囲および病態識別値を教えて下さい。

1) 基準範囲および病態識別値の設定割合

基準範囲および病態識別値の回答が得られた施設をもとに算出した各項目の基準範囲および病態識別値の設定率をTable 5に示す。TnTは243施設中の基準範囲設定率は221施設(91.0%),病態識別値の設定率は36施設(14.8%)であった。同様に,その他項目の基準範囲設定率および病態識別値の設定率はそれぞれ,TnIは572施設中531施設(92.8%),32施設(5.6%),BNPは867施設中825施設(95.2%),31施設(3.6%),NT-proBNPは564施設中511施設(90.6%),47施設(8.3%),およびD-dimerは1,123施設中1,063(94.7%),43施設(3.8%)であった。5項目における基準範囲設定率の平均は93.5%であったが,病態識別値の設定率は5項目の平均で5.6%と低率であった。

Table 5 Setting rate of reference intervals and pathology identification values at each medical institution

項目(施設数) 基準範囲の設定率
施設数(%)
病態識別値の設定率
施設数(%)
TnT#(n = 243) 221(91.0%) 36(14.8%)
TnI#(n = 572) 531(92.8%) 32(5.6%)
BNP#(n = 867) 825(95.2%) 31(3.6%)
NT-proBNP#(n = 564) 511(90.6%) 47(8.3%)
D-dimer#(1,123) 1,063(94.7%) 43(3.8%)
5項目の平均 93.5% 5.6%

# Evaluation using data from medical institutions that responded to the questionnaire.

2) 各項目における基準範囲の設定状況

 ①TnTの基準範囲

TnT測定に用いられる分析装置は4社,6試薬であった。主な分析装置における基準範囲は以下の通りである。A社の分析装置使用施設135施設のうち,基準範囲の記載があった106施設(6機種,2試薬)における基準値範囲は「0.014 ng/mL以下(≤ 0.014 ng/mLおよび0–0.014 ng/mL含む)」が61施設(57.6%)であった。また,B社の分析装置使用施設29施設のうち,基準範囲の記載があった25施設(3機種,1試薬)における基準値範囲は「0.016 ng/mL以下(0–0.016 ng/mL含む)」が20施設(80.0%)であった。なお,0.014 ng/mLおよび0.016 ng/mLは,各試薬における健常成人母集団における99パーセンタイル値である。なお,一部の施設ではいわゆる急性心筋梗塞診断のカットオフ値(0.1 ng/mL)を採用している施設もみられた。

 ②TnIの基準範囲

TnI測定に用いられる分析装置は10社,17試薬であった。TnIの基準範囲は,同一試薬であっても設定値は施設ごとに設定されており,その分布は広い。最も採用施設が多かったC社の分析装置使用施設343施設のうち,基準範囲の記載があった249施設における基準値範囲は「26.2 pg/mL以下(0–26.2 pg/mL含む)」が96施設(38.6%)であった。TnIの26.2 pg/mLはTnTの0.014および0.016 ng/mLと同様,健常成人母集団における99パーセンタイル値が基準範囲として用いられていた。

 ③BNPの基準範囲

BNP測定に用いられる分析装置は12社,13試薬であった。BNPの基準範囲は収束しており,867施設のうち,基準範囲の記載があった636施設では「18.4 pg/mL以下」を設定している施設が516施設(81.1%)であった。

 ④NT-proBNPの基準範囲

NT-proBNP測定に用いられる分析装置は10社,15試薬であった。BNPと同様NT-proBNPの基準範囲は収束しており,564施設のうち,基準範囲の記載があった401施設における基準範囲は「125 pg/mL以下」が257施設(64.1%),「125 pg/mL未満」が72施設(18.0%)であった。

 ⑤D-dimerの基準範囲

D-dimer測定に用いられる分析装置は18社,18試薬であった。D-dimerを採用している施設は1,123施設(装置・試薬未記載の106施設除外)と,今回対象とした循環器関連検査の中で最多であり,機器・試薬の種類も多種存在した。一方,基準範囲は比較的収束しており,1,123施設のうち,基準範囲の記載があった813施設における基準範囲は「1.0 μg/mL以下(1 μg/mL以下・未満および1.00 μg/mL以下・未満含む)」が642施設(79.0%),「0.5 μg/mL以下(0.5 μg/mL以下・未満および0.5 mg/L以下・未満含む)」が37施設(4.6%)であった。

3) 各項目における病態識別値の設定状況

TnTの病態識別値は36施設(14.8%)が設定しているが,173施設(71.2%)は未設定であった。一方,TnI,BNP,NT-proBNPおよびD-dimerにおける病態識別値を設定している施設は少数であり,それぞれ5.6%,3.6%,8.3%,および3.8%であった。

6. 貴施設にて設定している各項目のパニック値を教えて下さい。

1) TnTのパニック値設定状況(Figure 3
Figure 3  Distribution of TnT and TnI panic values

パニック値を設定しているとの回答は103施設(18.4%)から得られた。イムノクロマト法(目視)を採用している施設では「陽性」がパニック報告基準であった。一方,定量法を採用している施設で今回のアンケートにパニック値の設定があると回答した施設は44施設であった。各試薬添付書に記載されている急性心筋梗塞のカットオフ値「0.1 ng/mL(100 ng/L)」をパニック値として採用している施設が,44施設中27施設(61.4%)であった。

2) TnIのパニック値設定状況(Figure 3

パニック値を設定しているとの回答は107施設(17.8%)から得られた(パニック値未記入33施設)。パニック値を回答入力した74施設において「0.3 ng/mL(300 pg/mL)以上」の設定が12施設(16.2%)と最多であり,次いで「0.1 ng/mL(100 pg/mL)以上」が10施設(13.5%)であった。

3) BNPのパニック値設定状況(Figure 4
Figure 4  Distribution of BNP and NT-proBNP panic values

パニック値を設定しているとの回答は116施設(12.4%)から得られた(パニック値未記入34施設)。BNP測定機器および試薬は多種存在するが,ある程度の収束が見られる。「1,000 pg/mL以上」を設置している施設が23施設(28.1%)と最多であり,次いで「500 pg/mL以上」が19施設(23.2%),「2,000 pg/mL以上」が16施設(19.5%)であった。

4) NT-proBNPのパニック値設定状況(Figure 4

パニック値を設定しているとの回答は51施設(8.6%)から得られた(パニック値未記入9施設)。BNPとは異なりNT-proBNPのパニック値設定範囲は広く,125 pg/mLから75,000 pg/mLまでの幅を認めた。

5) D-dimerのパニック値設定状況(Figure 5
Figure 5  Distribution of D-dimer panic values

パニック値を設定しているとの回答は319施設から得られた(パニック値未記入45施設,装置未記入6施設)。D-dimerのパニック値設定範囲は,0.5 μg/mLから800 μg/mLと非常に幅が広い。パニック値設定値として最も多いのが20 μg/mL(58施設),次いで30 μg/mL(38施設),10 μg/mL(37施設)であった。

7. BNP測定用採血管を教えて下さい。

BNP測定施設のうち,回答記載のあった853施設で集計を行った。最も使用されていた採血管はEDTA-2Na採血管で620施設(72.7%),次いでEDTA-2Kが211施設(24.7%)であった。両者は各BNP試薬添付書にて推奨される採血管である。一方,プロテアーゼ阻害剤であるEDTA-2Naアプロチニン加採血管を用いている施設も29施設(3.4%)認めた。

IV  まとめ

近年,循環器病関連検査項目の測定意義は高く,循環器疾患に関するガイドラインにおいてエビデンスレベルは高い4)~6)。しかし,現在各検査項目の外部精度管理調査の仕組みは整備されていない。この現状を踏まえ,令和5年度日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査において,「循環器病関連検査項目精度管理に関するアンケート調査」を実施した。アンケートにご協力頂いた1,811施設のうち自施設にて測定を行っている施設が1,415施設(78.1%)であり,さらには複数項目測定している施設が多くみられた。また,自施設で測定を行っている施設において,当会が実施予定である外部精度管理調査への受検希望は検討中の施設も含め88.4%であり,外部精度管理調査が必要であると考える施設が多いことが示唆された。循環器病関連検査項目の中でも,TnTおよびTnIは高感度測定系が広く臨床展開されて以降,急性心筋梗塞をはじめとした急性冠症候群の診断において,第一選択とされ臨床的有用性が高まっている。欧州心臓病学会から提唱された急性冠症候群治療におけるガイドラインでは,来院時(0 hour)と1時間後(1 hour)に高感度トロポニンを測定し,急性心筋梗塞患者をルールイン,ルールアウトする0 h/1 hアルゴリズムの有用性が示されている7)。低濃度領域における変化が急性心筋梗塞の診断に繋がることを考慮すると,さらに精度管理の重要性が高まると予想される。

本アンケートでは,各項目における基準範囲,病態識別値およびパニック値の設定の有無についても調査した。今回対象とした5項目において基準範囲の設定はいずれの項目も90%以上の施設で設定されていた。一方,病態識別値については設定している施設が15%以下とわずかであった。また,両者ともに設定範囲は広く,一部の項目を除きバラツキが大きかった。最も基準範囲が収束していたのはBNPおよびNT-proBNPであった。BNPおよびNT-proBNPについては,日本心不全学会より「血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」と題してステートメントが提唱され,心不全診断におけるカットオフ値が提示されていることも大きな要因であると考える5)。2023年10月には心不全学会がBNP/NT-proBNPに関するステートメントを改定したことから,各施設における基準範囲および病態識別値の設定が再検討される可能性がある8)。D-dimerについては,機器・試薬の種類が多数存在するが基準値は比較的収束していた。しかしながら,D-dimerを始めとした凝固・線溶系検査は,測定対象が単一物質でないことが多いため精度管理試料では反応性の違いが大きく表れる可能性がある。今回対象とした5項目はいずれも測定法の標準化がされていないため,精度管理試料との反応性についてはプレサーベイにおける事前評価が重要である。パニック値を設定している施設はいずれの項目についても20%以下であった。循環器病関連検査項目は,生命予後に大きく関与することが多いため,パニック値(もしくはアドバイスサービス基準)を臨床との協議のうえ決定することが重要であると考える。

本アンケートではBNP測定用採血に用いられる採血管についても確認を行った。多くの施設は各試薬添付書の推奨採血管で採取されていたが,一部の施設ではEDTA-2Naアプロチニン加採血管が用いられていた。プロテアーゼ阻害剤であるアプロチニンはA型Na利尿ペプチド測定用採血として使用されており,その効果はBNP測定においても有用であることが報告されている9)。BNPは全血放置により測定値が低下することが報告されており,採取後速やかな血漿分離が推奨されている。一方,病棟での採取後,搬送までの時間経過による影響を考慮する必要もあり,検査前プロセスの管理も重要と考える。

今回の循環器病関連検査項目に関するアンケートを通じて,精度管理調査の仕組み作りだけでなく,単位の統一化,基準範囲やパニック値の設定など課題が多いことが明らかとなった。“はじめに”に記載したように日本臨床衛生検査技師会においても国策に則った臨床検査の精度管理体制の拡充を目指し,精度を担保するための分析に関連する全プロセスを評価する必要があると考える。

最後に,令和5年度日本臨床衛生検査技師会臨床検査精度管理調査においてアンケート調査にご協力頂いた全ての御施設に感謝いたします。また,本検討を進めるためには,企業,メーカーおよび関連団体の全面的な参画が必要です。是非,ご協力(バックアップ)をお願いいたします。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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