2025 Volume 74 Issue 1 Pages 73-80
1回呼吸法による肺拡散能検査は,洗い出し量(washout volume; WV)750~1,000 mL,サンプリング量(sampling volume; SV)500~1,000 mLを基準として測定する。日本呼吸器学会の呼吸機能検査ハンドブックでは,肺活量低値例に対してWVは500 mL程度まで減量可能とされているが,肺活量が1,000 mL未満の症例は検査不能とされている。本検討では,健常人21名を対象とし,標準法(WV 750 mL,SV 1,000 mL)とWVおよびSV 500 mLからさらにWVのみ100 mLずつ減量した5条件の肺拡散能(diffusing capacity of the lung for carbon monoxide; Dlco)をそれぞれ比較し,計測値への影響および信頼性を検討した。標準法とWV 500 mL,400 mL,300 mLとの間には計測値に有意差を認めず,WV 200 mL,100 mLで有意に低値を示した。また,標準法とWV 500 mL,400 mL,300 mLとの間にはそれぞれ強い相関が認められた。以上より,WVを300 mLまで減量しても参考値として信頼性のある結果が得られる可能性が高く,これまで検査不能であった症例にも対応できる可能性が示唆された。
The single-breath carbon monoxide diffusing capacity of the lung is based on the washout volume (WV) of 750–1,000 mL and the sampling volume (SV) of 500–1,000 mL. According to the Practical Handbook Respiratory Function Testing of The Japanese Respiratory Society, WV can be reduced to about 500 mL in cases of low vital capacity or forced expiratory volume in one second. In this study, we compared the diffusing capacity of the lung for carbon monoxide (Dlco) in 21 healthy subjects between the standard method (WV 750 mL, SV 1,000 mL) and the WV reducing method in five conditions (only WV was reduced by 100 mL from 500 mL), examined the effects for the measured values and its validity of the methods. No significant differences in measured values were found between the standard method and the WV reducing methods up to 300 mL, and significantly lower values were found for the WV reducing methods below 200 mL. In addition, strong correlations were found between the standard method and the WV reducing methods up to 300 mL. From the above, Dlco could provide reliability results as a reference value in cases of WV reduced to 300 mL. These results suggested measurable cases may be expanded.
1回呼吸法による肺拡散能検査は,洗い出し量(washout volume; WV)750~1,000 mL,サンプリング量(sampling volume; SV)500~1,000 mLを基準として測定する1),2)。日本呼吸器学会の呼吸機能検査ハンドブック3)において,肺活量低値例(2,000 mL未満)に対してWVは500 mL程度まで減量可能であるが,肺活量が1,000 mL未満の症例には検査不能との記載がある。実際に臨床では検査不能とされている症例に遭遇することがあり,これらの症例に対して測定条件を変更することで参考値としての報告が可能ではないかと考えた。測定条件に関する先行研究および文献として,滑川ら4)はWV 750 mL,SV 1,000 mLとWV 300 mL,SV 700 mLの計測値の比較において良好な相関が得られた,久保田5)はWVを750 mLから300 mLまで減量しても計測値に差がないと報告している。しかし,宮澤6)は肺活量が1,000 mL以下の場合,WV 400 mLに設定するのが妥当である,山本7)はWV 500 mL以下には減量しないことが適当であるとしている。このように現状ではWVの設定量は明確に決まっていない。そこで今回,減量可能とされているWV・SV 500 mLからさらにWVのみを100 mLずつ減量し,標準法と比較することで計測値への影響および信頼性を検討することを目的とした。
対象は,呼吸器疾患がなく,本検査に対して理解および要領が得られた健常人21名(男性11名,女性10名,中央値29歳)とした。21名中1名のみ喫煙歴(喫煙年数不明,約20年前より現在まで禁煙)を認めたが,他の20名は喫煙歴を認めなかった。
2. 方法使用機器はCHESTAC-8900(チェスト株式会社)とし,以下の方法にて測定を行った。
1) 各呼吸機能検査肺活量(vital capacity; VC),努力肺活量(forced vital capacity; FVC),機能的残気量(functional residual capacity; FRC)の順に座位で測定した。
2) 肺拡散能検査の連続測定による影響肺拡散能(diffusing capacity of the lung for carbon monoxide; Dlco)の連続測定による計測値への影響を考慮し,WV 750 mL,SV 1,000 mLの標準法にて6回連続測定を行った。本検討は上記の対象21名のうち9名で実施し,肺内ガス洗い出しのために測定間隔を5分以上あけ座位で検査を行った。
3) 肺拡散能検査における標準法と減量法の比較標準法での測定後,WV 500 mL,SV 500 mLにそれぞれ減量し測定,以降SVは500 mLに固定し,WVのみ100 mLずつ減量し,WV 100 mL,SV 500 mLとなるまで減量して測定した。連続測定による影響を考慮し,2)を実施した9名は本検討を2)とは別日で実施し,いずれも肺内ガス洗い出しのために測定間隔を5分以上あけ座位で検査を行った。本検討ではWV・SVを減量して測定する方法を標準法に対して減量法と呼ぶ。
4) 統計学的解析2)で得られたDlcoに対して,各回の計測値を群として多群間検定であるFriedman検定および2群間比較であるWilcoxonの符号順位和検定を行った。
3)で得られたDlco,He希釈率で補正した肺拡散能(Dlco'),肺胞気量(alveolar ventilation; Va),He希釈率で補正した肺胞気量(Va')に対して,各測定条件下における中央値と95%信頼区間を算出し,これらの項目についてFriedman検定を行った。Friedman検定において有意差を認めた項目に対してWilcoxonの符号順位和検定におけるBonferroni法を行い,2群間および多群間における有意差の有無を検討した。上記の有意差検定にて有意差を認めなかった各測定条件において単相関係数および近似曲線を算出した。統計学的解析にはフリー統計ソフトEZR(Ver. 1.61)を使用し,有意水準は5%とした。
5) 使用機器におけるDlco,Dlco',Va,Va'の算出式B.H.T:呼吸停止時間(sec)
FICO:吸気ガス中のCO濃度(%)
FAHe:呼気ガス中のHe濃度(%)
FACO:呼気ガス中のCO濃度(%)
FIHe:吸気ガス中のHe濃度(%)
IVC (ATPD):ガス吸入時の吸気
VD (INST):装置内死腔量150 mL
VD (ANAT):解剖学的死腔量150 mL
FACO2:肺胞内CO2濃度5%
対象者背景および対標準肺活量(vital capacity % predicted; %VC),1秒率(forced expiratory volume in one second/forced vital capacity; FEV1/FVC),FRCの予測値に対する実測値(%FRC),残気率(residual volume/total lung capacity; RV/TLC)の中央値と95%信頼区間を示す(Table 1)。全ての対象において,標準法でのDlco測定が可能である肺活量が2,000 mL以上であり,フローボリューム曲線(flow-volume curve;F-V曲線)の下行脚が下方に凸パターンを示す例は認めなかった。
| Age (years) |
Height (cm) |
Weight (kg) |
BMI (kg/m2) |
BSA (m2) |
%VC (%) |
FEV1/FVC (%) |
%FRC (%) |
RV/TLC (%) |
|
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Median | 29 | 164.0 | 58.0 | 21.36 | 1.60 | 100.3 | 87.38 | 107.8 | 31.2 |
| 95% CI | 22.4–35.6 | 159.6–168.4 | 53.4–62.6 | 20.33–22.49 | 1.52–1.68 | 93.7–106.6 | 85.33–89.43 | 97.0–118.6 | 28.4–34.0 |
9名の測定回数毎におけるDlcoの分布を示す(Figure 1)。9名それぞれの1回目と5回目の計測値の差は0.34~1.46 mL/min/mmHg,1回目と6回目の計測値の差は0.01~1.68 mL/min/mmHgであった。統計学的解析を行った結果,Friedman検定では有意差を認めず,Wilcoxonの符号順位和検定においても全ての群間で有意差を認めなかった。

No significant differences were found.
DlcoおよびDlco'ではWV 500 mL~300 mLまでの減量で中央値が保たれ,WV 200 mL,100 mLの減量では低値傾向を認めた。Vaでは各測定条件下で中央値に差は認めず,Va'ではWV 100 mLのみ低値傾向であった(Table 2)。
| Standard methods | WV reduce methods | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 500 mL | 400 mL | 300 mL | 200 mL | 100 mL | ||
| Dlco | 22.91 | 24.52 | 23.95 | 23.84 | 19.44 | 17.34 |
| (20.28–25.54) | (21.83–27.21) | (21.19–26.71) | (21.56–26.12) | (17.46–21.42) | (15.15–19.53) | |
| Dlco' | 21.92 | 24.41 | 23.89 | 22.89 | 18.28 | 16.04 |
| (19.34–24.50) | (21.76–27.06) | (21.24–26.54) | (20.74–25.04) | (16.46–20.10) | (13.88–18.20) | |
| Va | 5.17 | 5.23 | 5.21 | 5.33 | 5.36 | 5.27 |
| (4.57–5.77) | (4.63–5.83) | (4.60–5.82) | (4.71–5.95) | (4.74–5.98) | (4.66–5.88) | |
| Va' | 5.06 | 5.03 | 5.00 | 5.09 | 5.02 | 4.88 |
| (4.47–5.65) | (4.44–5.62) | (4.42–5.58) | (4.51–5.67) | (4.47–5.57) | (4.33–5.43) | |
Dlco·Dlco': mL/min/mmHg Va·Va': L
Friedman検定では,Dlco,Dlco',Va'で有意差を認め(p < 0.01),Vaは有意差を認めなかった。Wilcoxonの符号順位和検定におけるBonferroni法では,DlcoおよびDlco'は標準法とWV 500 mL~300 mLまでの減量では有意差を認めず,WV 200 mL,100 mLの減量で有意に低値となった(Figure 2,3)。Vaは有意差を認めず(Figure 4),Va'では標準法とWV 100 mLのみ有意差を認めた(Figure 5)。標準法およびWV 500 mL,300 mLに減量した際の測定波形の1例について示した(Figure 6)。

No significant differences in measured values were found between the standard method and the WV reducing methods up to 300 mL.

No significant differences in measured values were found between the standard method and the WV reducing methods up to 300 mL.

No significant differences were found.

No significant differences in measured values were found between the standard method and the WV reducing methods up to 200 mL.

Indicate one example of the measurement waveforms of Dlco for standard method (left) and WV 500 mL (middle), 300 mL (right).
These waveforms show inspection validity and sampling position shifts according to measurement conditions.
有意差を認めなかった標準法とWV 500 mL,標準法とWV 400 mL,標準法とWV 300 mLにおけるDlcoの相関および近似曲線をそれぞれ示す(Figure 7–9)。全てでr = 0.95以上と強い正の相関を示した。



肺拡散能検査は間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患など呼吸器疾患による拡散障害の程度の把握,薬剤性肺障害や造血幹細胞移植後の肺移植片対宿主病のチェックなど,さまざまな目的で用いられる8)。現在,ほとんどの施設で肺拡散能検査は1回呼吸法により行われている3)。1回呼吸法による肺拡散能検査は比較的多くの肺気量を必要とするため,肺活量低値例では標準法での測定はできず,WVおよびSVを減量して検査を行う必要がある。実臨床における検査不能症例に対して,測定条件を変更することで検査実施でき,参考値として信頼性のある結果の報告が可能ではないかと考え,現在参考値として報告可能な最小量(WV 500 mL)からさらに減量して検討を行った。また,使用機器における肺拡散能検査時の分析可能なSV最小量は500 mLであり,これ以上SVの減量はできなかった。
Dlcoの連続測定は血中COHbが上昇し,測定毎にDlcoが低下すると言われている2)。そこで,健常人9名でDlcoを6回連続測定し,計測値への影響を確認した。その結果,測定毎にDlcoは低下傾向を認めなかった。Dlcoは5回以上の計測でCOHbが増加するため,検査は4回以内にとどめるよう推奨されている3)。6回連続測定の1回目と5回目,1回目と6回目の計測値の差を確認したところ,いずれも2 mL/min/mmHg以内であり,測定回数が4回を超えても1回目と再現性のある計測値が得られた。同様に健常人1名でDlcoを10回連続測定して同時再現性を評価した松原ら9)の研究でも,測定毎にDlcoは低下傾向を認めなかった。以上より,検査間隔・座位等の条件を確保した上で,健常人でのDlcoの連続測定は計測値に影響を及ぼすことなく,標準法と減量法の比較検討において連続測定の影響はないと考えられた。
標準法と減量法を比較した検討では,標準法とWV 500 mL~300 mLまでの減量において,DlcoおよびDlco'で有意差を認めず,標準法と強い相関を示した。WV 200 mL,100 mLの減量でDlcoおよびDlco'が有意に低値であったことから,本来死腔の影響を受けないよう洗い出されるCOがSVに含まれることで,Dlcoが低値傾向となったと考えられる。解剖学的死腔量は一般的に約150 mLとされ10),さらに装置内死腔量である150 mLを足し合わせれば,肺拡散能検査において呼出開始から約300 mLはSVとしてサンプリングすべきではない。これはWV 200 mL,100 mLの減量において標準法と比較して有意差を認めたことと合致する。ただ,死腔量には個人差があり,WV 500 mL~300 mLにおいても死腔量がSVに含まれる可能性はある。しかし,WV 500 mL~300 mLまでの減量において標準法と比較して有意差を認めなかった結果より,SVに含まれる死腔量の割合は小さく,Dlcoの計測には影響のない範囲であったと考える。一方,本研究で使用した機器では,DlcoおよびDlco'算出の際にVaおよびVa'がそれぞれ使用されていることから,VaおよびVa'の変動によってDlcoおよびDlco'の計測値に影響を及ぼす可能性を考え,VaおよびVa'も評価項目とした。Vaにおいて標準法といずれのWV減量法でも有意差を認めなかったことは,Vaの算出がガス吸気時の肺活量(inspiratory vital capacity; IVC)のみに依存し,本研究の対象は検査の要領が得られた健常人であることから,測定毎のIVCのばらつきが小さかったためと考える。また,Va'の算出はIVCのみならず呼気ガス中のHe濃度(FAHe)が影響し,Va'において標準法とWV 100 mL間で有意差を認めたことは,FAHeの増加によりVa'が低値を示したと考える。しかし,WV減量によるVaおよびVa'への影響について言及されている文献等はなく,本検討でも原因が突き止められなかった。
今回の検討からWV 500 mL~300 mLまで減量して肺拡散能検査を実施した場合でも,標準法と有意差なく,強い相関を示す計測値が得られることが明らかとなった。通常,WVやSVを減量して得られる計測値は臨床側に参考値として報告する。参考値ではあるが信頼性の高い結果として報告可能であると考える。今回の検討は健常人のみを対象としたが,健常人と比較して呼吸器疾患のある患者は,肺胞死腔量の増加に伴い生理学的死腔量が増加することが想定される11),12)。生理学的死腔量は解剖学的死腔量と肺胞死腔量の和と定義されており13),14),健常人では肺胞死腔量がほとんどなく,生理学的死腔量は解剖学的死腔量とほぼ等しくなる15)。疾患による生理学的死腔量の増加によりWV 300 mLの減量では,死腔の影響を大きく受ける可能性があり,健常人と同様の結果が得られないことも考えられる。この減量法を臨床に応用するためには,呼吸器疾患のある患者での検討が必要であると考える。
肺活量低値例における肺拡散能検査は洗い出し量を300 mLまで減量しても参考値として信頼性のある結果が得られる可能性が高く,これまで検査不能であった症例にも対応できる可能性が示唆された。
本研究は,近畿大学奈良病院倫理委員会にて承認されている(承認番号:23-32)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本論文作成に際してご助言いただきました近畿大学奈良病院臨床検査部 増田詩織副技師長に深謝いたします。