Japanese Journal of Medical Technology
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A case of xanthogranulomatous cholecystitis in which changes were observed on ultrasonography
Ayako HIROIHiroaki MATSUDAHiromi TANAKAAyaka MATSUDAAira MATSUIToshiyuki HABARAHiroko TODANobuo SEZAKI
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2025 Volume 74 Issue 1 Pages 133-139

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Abstract

症例は60代の女性。主訴は発熱,右季肋部痛。発症7日目に当院を受診し,超音波検査(US)では,胆嚢腫大と層構造を伴う全周性壁肥厚を認めた。CTでも胆嚢腫大とRokitansky-Ashoff sinusの拡張を伴う全周性壁肥厚を認め,黄色肉芽腫性胆嚢炎(XGC)と診断された。抗生剤の治療により軽快したが,発症27日目に右季肋部痛が再発し,USでは胆嚢壁肥厚の進行を認め,層構造の消失した不整な所見を呈したが,胆嚢粘膜面との境界である壁最内層の高エコー帯(IHL)の明らかな断絶は認められなかった。また,高エコーレベルの壁内部には低エコー域を認めた。CTでは肝床部への炎症の波及もみられたため,XGCの増悪が疑われたが,進行性胆嚢癌が鑑別に挙がった。その後の経過観察で壁内部に低エコー域を認め,IHLの明らかな断絶は認められず,胆嚢壁肥厚の改善がみられたことより,XGCの診断がより確実となった。発症98日目に腹腔鏡下胆嚢摘出術が施行され,病理検査でXGCと診断された。発症からのUS所見の経過より,当院初診時は急性胆嚢炎からXGCへの移行段階,発症27日目には黄色肉芽腫が形成されていたことが示唆された。USでXGCの経過観察を行う際は,胆嚢壁構造の変化,IHLの連続性に着目することで胆嚢癌との鑑別を行い,さらにはXGC以外の部位に胆嚢癌が存在する可能性も念頭に置き,胆嚢全体を注意深く観察する必要がある。

Translated Abstract

A woman in her 60s presented with the chief complaints of fever and right hypochondriac pain. Ultrasonography (US) showed an enlarged gallbladder and circumferential wall thickening with laminar structures, and CT showed circumferential wall thickening with dilatation of the Rokitansky-Ashoff sinus. She was diagnosed with xanthogranulomatous cholecystitis (XGC). The patient’s condition was relieved with antibiotic treatment. However, 27 days after onset, US showed a progression of the gallbladder wall. The wall was irregular with a loss of layering, but the innermost hyperechoic layer (IHL) was continuous. The wall was hyperechogenic with a hypoechoic area inside the wall. CT showed inflammation spreading to the hepatic be. We therefore suspected an exacerbation of XGC, but advanced gallbladder cancer was also suspected. The diagnosis of XGC was further confirmed by the finding of hypoechoic areas inside the wall and continuity of IHL, as well as an improvement in gallbladder wall thickening. Laparoscopic cholecystectomy was performed 98 days after onset, and the pathological diagnosis was XGC. The course of US findings suggested that the patient was in the transition stage from acute cholecystitis to XGC when he first visited our hospital, and that xanthogranuloma had formed on day 27 of onset. When observing the course of XGC with US, differentiate it from gallbladder cancer by focusing on changes in the gallbladder wall structure and continuity of IHL, and also it is necessary to carefully observe the entire gallbladder, keeping in mind the possibility that gallbladder cancer may exist in areas other than XGC.

I  序論

黄色肉芽腫性胆嚢炎(xanthogranulomatous cholecystitis; XGC)は,胆嚢壁内に,胆汁色素を含む組織球を主体とした肉芽腫を形成する比較的稀な胆嚢炎の1亜型である1)

XGCは炎症の程度によりさまざまな画像所見を呈し,経時的な変化が大きいため,進行性胆嚢癌との鑑別が困難な場合がある2)。われわれは,超音波検査(ultrasonography; US)で経時的な画像変化を観察できたXGCの1例を経験したので報告する。

II  症例

患者:60代,女性。

主訴:発熱,右季肋部痛。

既往歴:特記すべき事項なし。

現病歴:某年7月に発熱と倦怠感が続くため近医を受診したところ,血液検査で肝機能異常と炎症反応上昇を認めた。右季肋部痛も伴っており,発症7日目に当院へ紹介となった。

来院時現症:身長156 cm,体重46.5 kg,体温36.6℃,血圧105/63 mmHg,心拍数86 bpm,SpO2 98%であった。

III  検査所見

血液検査では,AST,ALT,LAP,ALP,γ-GTPなどの肝胆道系酵素の著明な上昇を認めた。また,CRPやPCTなどの炎症反応は軽度上昇していた(Table 1)。

Table 1 血液データ

血算 凝固 生化学
WBC 8.95 × 103/μL APTT 27.1秒 TP 6.6 g/dL ChE 246 U/L
RBC 3.63 × 106/μL PT 115% ALB 2.9 g/dL γ-GTP 588 U/L
Hb 11.8 g/dL PT-INR 0.94 T-BiL 1.0 mg/dL T-AMY 79 U/L
Ht 34.40% D-BiL 0.5 mg/dL CRP 2.76 mg/dL
MCV 94.8 fL I-BiL 0.5 mg/dL PCT 0.157 ng/mL
MCH 32.5 pg TG 328 mg/dL
MCHC 34.3 g/dL AST 221 U/L
PLT 427 × 103/μL ALT 196 U/L
LDH(IFCC) 370 U/L
LAP 281 IU/L
ALP(IFCC) 440 U/L

USでは,胆嚢は長径81 mm × 短径40 mmと腫大しており,壁は低~等エコーレベルで層構造を伴う全周性壁肥厚を呈していた。壁内に明らかなRokitansky-Ashoff sinus(RAS)は認められなかった。胆嚢壁最内層の高エコー帯(innermost hyperechoic layer; IHL)は明らかな断絶を認めなかった。胆嚢内腔には胆石と胆泥を認めた(Figure 1)。また,遠位胆管に存在する結石により総胆管は拡張していたが,肝内胆管の拡張は認めなかった。明らかなリンパ節腫大や右季肋部におけるプローブの圧迫による圧痛(sonographic Murphy’s sign)は認められなかった。胆嚢腫大と層構造を伴う全周性壁肥厚を認めたことより,USでは急性胆嚢炎を疑った。

Figure 1  腹部超音波検査(初診時:発症7日目)

A:胆嚢は腫大しており,壁は低~等エコーレベルで層構造を伴う全周性壁肥厚(白矢印)を呈していた。B:胆嚢内腔には胆石(黄矢印)と胆泥(白矢印)を認めた。

単純CTでは,胆嚢腫大とRASの拡張を伴う全周性壁肥厚を認めた。胆嚢内腔には胆石がみられた(Figure 2)。また,総胆管結石も認められた。CTではXGCが疑われたが,胆嚢癌も鑑別に挙がった。

Figure 2  単純CT

A:胆嚢腫大とRAS(白矢印)の拡張を伴う全周性壁肥厚(青矢頭)を認めた。B:胆嚢内腔には胆石(黄矢印)を認めた。

IV  経過

当院初診日(発症7日目)に入院となり,内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography; ERCP)による総胆管結石の排石が行われた。胆嚢管および胆嚢は造影されなかった。その際に施行した胆汁細胞診はclass IIであり,悪性を疑う所見は認めなかった。また,膿性胆汁の排出を認め,胆汁培養検査ではサルモネラ菌が検出された。CTの所見および胆汁細胞診が良性であったことより,胆嚢の病変はXGCと診断された。急性胆管炎として抗生剤治療を行い軽快し,約1ヶ月後に胆嚢摘出予定とし退院した(発症17日目)。

しかし,退院から10日後(発症27日目),再度右季肋部痛が出現し,当院を受診した。その時のUSでは,初診時の画像と比較して,胆嚢壁肥厚が進行し,層構造の消失した不整な所見を呈した。壁と内腔との境界は比較的明瞭でIHLも薄く存在し,明らかな断絶はみられなかった。また,壁は等~高エコーレベルで,内部には低エコー域を認めた(Figure 3B)。肝内胆管の拡張やリンパ節腫大は認められなかった。単純CTでも胆嚢壁肥厚の進行を認め,肝床部への炎症の波及もみられたため,XGCの増悪が疑われたが,胆嚢癌の肝浸潤の可能性も否定できなかった。血液検査ではCRP 10.51 mg/dLと上昇しており,再入院した。なお,腫瘍マーカーはCEA 1.4 ng/mL,CA19-9 29.6 U/mLで正常であった。画像上,胆嚢癌の可能性は完全に否定できないが,高度の炎症反応を伴っていることよりXGCの炎症再燃と診断され,保存的治療を行うこととなった。抗生剤に加え,ステロイド剤でも治療を行い,軽快退院した(発症43日目)。

Figure 3  腹部超音波画像の経時的変化

A:初診時。B:発症27日目。胆嚢壁肥厚が進行し,層構造の消失した不整な壁肥厚(白矢印)となったが,IHL(青矢頭)の明らかな断絶は認められなかった。高エコーレベルの壁内部には低エコー域(黄矢印)を認めた。C:発症63日目。壁肥厚(白矢印)の改善を認め,内腔の狭小化がみられた。IHL(青矢頭)の明らかな断絶は認められなかった。D:発症92日目。さらに壁肥厚(白矢印)は改善したが,底部には高エコーレベルの壁肥厚(黄矢印)が残存しており,内部に低エコー域(青矢印)を認めた。IHL(青矢頭)の明らかな断絶は認められなかった。

その後,手術まで経過観察中であったが,発症62日目に右側腹部痛および下腹部痛を認め入院し,翌日(発症63日目)にUSを施行した。USでは,胆嚢頸部から底部において全周性に壁肥厚の改善を認め,内腔の狭小化がみられた。壁は高エコーレベルで内部に低エコー域を伴っており,IHLの明らかな断絶はみられなかった(Figure 3C)。また,軟便であったため便培養を施行したところ,サルモネラ菌が検出された。この時の腹痛は胆嚢炎発作時と部位・症状が異なっており,XGCの炎症再燃よりは腸炎による腹痛が疑われた。症状軽快後,さらに約1ヶ月後の胆嚢摘出予定とし退院した(発症64日目)。

発症92日目のUSでは,胆嚢体部においてさらに壁肥厚は改善した。底部には高エコーレベルの壁肥厚が残存しており,内部に低エコー域を認めた。IHLの明らかな断絶はみられなかった(Figure 3D)。

発症98日目に腹腔鏡下胆嚢摘出術が施行された。

V  手術所見および病理組織所見

腹腔鏡下で手術が開始されたが,胆嚢周囲には慢性炎症の影響および肉芽増生が目立ち,大網,十二指腸,横行結腸と癒着していたため,開腹手術へ変更し胆嚢の剥離を行った。摘出標本の病理組織所見では胆嚢壁は肥厚しており,壁内には,胆汁に由来する脂質や色素を取り込んだ組織球である泡沫細胞の集簇や異物型巨細胞を認めた。肉芽組織の形成もみられ,XGCの組織像に一致した(Figure 4)。

Figure 4  病理所見(B~D:HE染色)

A:切除標本。B:胆嚢壁内には胆汁に由来する脂質や色素を取り込んだ組織球である泡沫細胞の集簇を認めた(×200)。C:異物型巨細胞(▲)も混在していた(×200)。D:肉芽組織の形成を認めた(×100)。

VI  考察

XGCは1948年にWeismannら3)により胆嚢壁内に脂肪沈着を伴う胆嚢炎として初めて報告された。急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン20184)では,XGCは特殊な急性胆嚢炎として分類され,全胆嚢摘出術の3~5%の頻度で認められる比較的稀な疾患である5)。XGCの成因としては,結石の嵌頓などにより胆嚢管が閉塞することで胆嚢内圧が上昇し,RASから胆嚢壁内に胆汁が侵入し,これを組織球が貪食して泡沫細胞からなる肉芽腫が形成されるとされており,急性胆嚢炎において胆嚢壁に生じた急性炎症が慢性炎症へ移行する過程で発生する6)。病理組織学的にXGCの進行度は,①RAS周囲への組織球の浸潤や集合,②泡沫細胞を主体とした肉芽腫の形成,③異物細胞を伴う炎症,④著明な線維化の4段階に分類される7)。炎症が高度である場合には,肝床部や十二指腸,横行結腸などの周囲臓器への炎症性浸潤をきたし,胆嚢癌との鑑別が問題となる。

XGCの画像所見として,USでは胆嚢壁内の肉芽腫を反映して肝実質より高エコーの壁肥厚となり,壁内の貯留液による低エコー域を認めることが多い8)。CTでは壁の粘膜層の連続性が保たれ,肥厚した壁内には結節性やびまん性の低吸収域が認められる8)。本症例は,発症27日目のUSで肝床部に高エコーの著明な壁肥厚がみられ,壁内には小嚢胞様の低エコー域を伴っており,肉芽腫の形成を反映したUS像であったと考える。肝臓への炎症波及を示唆する所見はUS上指摘できなかった。CTでは肝床部への炎症波及も認め,同日の血液検査ではCRP 10.51 mg/dLと高値であることから,初診時から継続して認められる画像の変化は高度炎症によるものと考えられたが,不整な壁肥厚像を呈していたため胆嚢癌の合併も完全には否定できなかった。しかし,発症63日目のUSでは壁肥厚の改善と内腔の狭小化を認め,発症92日目にはさらに頸部から体部の壁肥厚は改善し,慢性胆嚢炎様のUS像へと変化した。このように壁肥厚所見の経過を追うことで,術前のXGCの診断をより確実にすることができた。XGCの経時的な画像の変化をCTで捉えた報告は認められるが2),9)~11),反復施行が可能なUSで捉えられた報告は少ない。本症例は,XGCにおける経時的な胆嚢壁肥厚の変化をUSで捉えることができた貴重な1例であった。

XGCと胆嚢癌との鑑別に際しては,CT所見において①びまん性胆嚢壁肥厚のパターン,②粘膜面の連続性,③肥厚した壁内の低濃度結節の描出,④肝内胆管拡張を認めない,⑤リンパ節腫大がない,の5つを組み合わせることにより診断能が向上したとの報告がある12)。これらの所見はいずれもUSでも観察可能で,①については,XGCでは約90%が対称性もしくは非対称性のびまん性壁肥厚を示すのに対し,胆嚢癌ではその傾向は35%に留まるとされている12)。本症例のUSでは,初診時は対称性のびまん性壁肥厚,発症27日目は肝床部が特に厚い非対称性のびまん性壁肥厚を呈していた。②については,USではIHLの連続性が確認できれば壁構造の温存を示唆し,XGCの可能性が高くなる13)。本症例のUSでは,初診時はIHLの明らかな断絶は認めておらず,発症27日目の胆嚢壁肥厚が進行した際も,壁と内腔との境界は比較的明瞭で,菲薄ではあるがIHLの明らかな断絶はみられなかった。③はRASから胆嚢壁内に浸透した胆汁とそれに対する炎症反応を示していると考えられており,USでは壁内の低エコー域として観察される14)。本症例の初診時のCTでは,壁内に拡張したRASを示唆する低濃度結節が認められたが,同日のUSでは壁内に低エコー域は指摘できなかった。初診時のUSでは,壁はエコーレベルが高低高の層構造を呈していると判断したが,この低エコー層の部分が拡張したRAS自体であったか,あるいは低エコー層内に同様のエコーレベルのRASが存在しており気付かなかった可能性が考えられる。発症27日目以降のUSでは肥厚した壁内に低エコー域を認め,RAS内の液体貯留と思われる。④および⑤については,胆嚢癌であれば胆管に浸潤することによる肝内胆管の拡張や周囲のリンパ節転移を認めることがあるが,本症例ではいずれの所見も認められなかった。以上より,これまでCT検査で重要とされてきた5つの所見は,USでも十分評価することができ,上記所見に着目して観察を行うことで,XGCと胆嚢癌との鑑別はある程度可能と思われる。しかし,XGCの6.8~15%には胆嚢癌の合併が認められる1)。長谷川ら15)はXGC併存胆嚢癌12例のうち,8例はXGCと胆嚢癌が別の部位に存在していたと報告している。このことはXGCと胆嚢癌が合併した症例では,XGCと胆嚢癌は別の部位に存在する可能性が高いことを示唆している。USでXGCを疑う部位について胆嚢癌との鑑別を行うことは重要であるが,それ以外の部位に胆嚢癌が存在する可能性も念頭に置き,胆嚢全体を注意深く観察する必要がある。

また,本症例は前医受診時にはCRP 11.01 mg/dLと高度上昇を認めたが,1週間後の当院受診時は2.76 mg/dLと軽度上昇に留まっており,USでは胆嚢腫大や全周性壁肥厚がみられたもののsonographic Murphy’s signは認めなかった。USでは急性胆嚢炎を疑ったが,CTではXGCと診断されており,初診時に認めていた右季肋部痛は,胆嚢炎発作よりは総胆管結石によるものであった可能性が高いと考える。医学中央雑誌で会議録を除き「黄色肉芽腫性胆嚢炎 総胆管結石」で検索した限りでは5例しか報告がなかったが,岡田ら6)は,XGC13例のうち5例で総胆管結石による急性胆管炎の既往があったと報告している。XGCの胆石合併率は85~98%1)と高頻度であることより,胆石が総胆管へ落下し総胆管結石として認められる例も少なくないと考える。XGCが急性胆嚢炎において胆嚢壁に生じた急性炎症が慢性炎症へ移行する過程で発生する6)ことを鑑みると,XGCと総胆管結石が合併している症例は,胆石により胆嚢管が閉塞することで急性胆嚢炎を発症し,その後XGCが発生する過程で胆嚢管に嵌頓していた結石が総胆管へ落下した可能性が考えられる。本症例は,当院初診時のCTでXGCが疑われたことを考慮すると,1週間前の前医受診時に急性胆嚢炎を発症しており,当院受診時はXGCへの移行段階であったと推測される。発症27日目のUSでは肉芽腫の形成を反映した壁肥厚像がみられたことより,初診時のUSでみられた壁肥厚像は,XGCへの移行段階を反映したものであった可能性が示唆される。USで急性胆嚢炎を疑う所見が認められるが,症状や血液検査での炎症反応に乏しく,本症例のように著明な壁肥厚を呈している場合,急性胆嚢炎からXGCへの移行段階である可能性も念頭に置き,壁内部の性状を十分に観察する必要があると考える。

本症例は,初診時のERCPで採取された胆汁からサルモネラ菌が検出された。この菌は,血清型別試験においてチフス菌およびパラチフスA菌は否定的であり,非チフス性サルモネラ菌と推定される。Shukulaら16)は,胆嚢癌患者とXGC患者は,健康対照群と比較して,チフス菌およびパラチフス菌の保菌率が高いと報告している。このことより,チフス菌およびパラチフス菌は,胆嚢癌だけでなくXGC発症にも関与していることが推測される。しかし,非チフス性サルモネラ菌がXGC患者から検出された報告はなく,その関連性は明らかではない。チフス菌およびパラチフス菌は胆石に付着してバイオフィルムを形成し,胆嚢内で保菌されることが知られているが,非チフス性サルモネラ菌はバイオフィルムの形成や保菌部位がまだ明らかになっていない17)。本症例は,経過観察中に施行した便培養からも胆汁と同じサルモネラ菌が検出されており,腸管内に保菌していた可能性がある。前述のように当院受診前に急性胆嚢炎を発症していたとすると,胆石によって胆汁うっ滞が起こり,そこへ腸管内に保菌されていたサルモネラ菌が逆流してきて感染したことにより急性胆嚢炎を引き起こしたのではないかと考える。

本症例はXGCと診断されてから手術まで,約3ヶ月間経過観察を行った。2013年から2023年までの期間で,医学中央雑誌で会議録を除き「黄色肉芽腫性胆嚢炎」をキーワードに症例報告として検索された38例のうち,胆嚢炎の発症から経過観察期間を経て手術が行われたのは10例で,そのほとんどが急性胆嚢炎に対して保存的治療を施行した後の待機的手術であり,発症から手術までの期間は30日から90日であった。一方,術前にXGCが疑われた症例は胆嚢癌との鑑別が困難な例が多く,ほとんどが早期に手術が施行されていたが,なかには,術前に胆嚢癌よりもXGCが強く疑われた症例で,1ヶ月間臨床経過を観察し画像所見の改善が認められたため,XGCの診断がより確実になり縮小手術に臨めたという報告を認めた。本症例はXGCと診断されてから炎症再燃などにより手術までの経過観察期間が約3ヶ月であったが,胆嚢癌の合併も少なからず疑われていたことを考慮すると,長い経過観察期間であったと考える。USでXGCの経過観察を行う際は,炎症によって引き起こされる胆嚢壁構造の変化,粘膜面との境界であるIHLの連続性に着目することで胆嚢癌との鑑別を行い,さらにはXGC以外の部位に胆嚢癌が存在する可能性も念頭に置き,胆嚢全体を注意深く観察する必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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