2025 Volume 74 Issue 1 Pages 181-186
2012年以降感染防止対策加算が導入され,加算1施設を中心とした感染対策ネットワークが構築されてきた。今回,我々は感染症専門家が不在で微生物検査を外部委託している施設のコンサルテーションを実施し,その視点や改善の実際と評価について報告する。九州大学病院グローバル感染症センターの医師,看護師,臨床検査技師と検査部所属の医師で,桜十字福岡病院の微生物の外部委託検査に関するコンサルテーションを開始した。桜十字福岡病院は合計199床を有する一般病院であり,感染対策チーム(infection control team; ICT)は多職種で組織され,2022年以降は加算3を取得している。コンサルテーションの開始時期はCOVID-19流行下であり,メールやオンライン会議で情報収集や意見交換を行った。それにより,外部委託の微生物検査項目の運用見直しを提案し,その効果をレセプトで評価した。必要な患者に検査が実施されるための教育や周知の必要性,実施する検査は目的に対する最適なセットを提案し,改善に繋げることができた。改善後のレセプトの評価ではコスト削減に繋がり,また,今回の取組みを通じて,コンサルトを受ける側にも様々な意識変容のメリットがあったことが確認できた。加算1施設が感染症専門家の視点で行う微生物の外部委託検査のコンサルテーションは双方にメリットがあり,お互いの立場を理解し,時間をかけたコミュニケーションにより継続した関係が構築できると考えられた。
Since 2012, a healthcare reimbursement fee has been available for infection prevention and control in Japan, and infection control networks have been established in each area. This study reports on opinions, improvements, and evaluations emerging from a consultation with facilities that have introduced outsourced microbiological testing without an infectious disease specialist. Doctors, nurses, and clinical laboratory technicians from Kyushu University initiated a consultation on outsourced microbiological testing at Sakurajyuji Fukuoka Hospital, a general hospital with 199 beds. The consultation started during the COVID-19 pandemic, and information was collected and opinions exchanged via email and online meetings. A review of the operation of outsourced microbiological test items was then proposed and the effectiveness of this was evaluated. The review highlighted the need for education and familiarization to ensure that tests are carried out on the patients who need them, and that the set of tests selected is optimal. This led to improvements and cost savings, and awareness was also raised among those involved in the consultation through this initiative. When facilities receiving the reimbursement for infection prevention and control and infectious disease specialists were working together on the consultation, it was important to understand each other’s position and take time to communicate with each other.
感染症診療において,微生物検査を実施し活用することはdiagnostic stewardship(DS)の観点からも重要であり1),正確かつ迅速な原因菌の検索,薬剤感受性検査は適正な抗菌薬選択のための情報となる。しかし,自施設に微生物検査室がある医療機関は少なく,多くの医療機関では外部委託での検査を併用している2)。また,感染症専門医や認定臨床微生物検査技師が常駐している医療機関は限定的であり,多くは専門家不在のなかで感染対策や感染症診療を行っている。2021年に行った外部委託施設における微生物検査の現状調査報告では,58%の施設は一度契約した内容をその後,定期的に見直していないことが判明し,71%の施設は近隣の教育施設からの監修・指導が実施されていない状況が明らかとなった3)。
2012年以降,感染防止対策加算が導入され,大学病院を中心とした地域における感染対策ネットワークが構築されてきた。実際,感染対策向上加算1の施設基準には専門性に基づく助言が求められている。さらに,2024年の改訂における感染対策向上加算の見直しでは,連携する介護保険施設等に対する感染対策の助言や院内研修の合同開催についても記載され4),地域において加算1施設に求められる指導者的役割は大きい。今回,我々は微生物検査を外部委託している施設のコンサルテーションを実施した。コンサルテーション時の視点や改善の実際と評価について報告する。
九州大学病院は福岡市東区にある合計1,267床を有する急性期病院である。グローバル感染症センターは院内の感染対策,抗菌薬適正使用支援活動だけではなく,加算1施設として地域の感染対策のリーダー的役割も担っている。本取組みは,グローバル感染症センターの医師,看護師,臨床検査技師と検査部所属の医師(元,桜十字福岡病院に勤務)で,桜十字福岡病院の病院長,感染対策チーム(infection control team; ICT),検査室の許可を得たのち,微生物の外部委託検査に関するコンサルテーションを開始した。
桜十字福岡病院は福岡市中央区にある合計199床を有する一般病院である。Table 1に示すようなフロアごとに異なる対象疾患患者をケアしている。桜十字福岡病院のICTは医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,事務で組織され,2021年までは感染対策向上加算2,2022年以降は加算3を取得し,福岡市内の加算1施設と連携している。主な活動内容は,1)ICTリンク委員会の再構成と活性化,2)院内感染者の管理・把握,3)抗菌剤管理,4)職員教育,5)物品の改善である。桜十字福岡病院内に検査室はあるが,微生物検査は外部委託で実施しており,インフルエンザウイルス抗原定性やクロストリジオイデス・ディフィシル抗原定性のイムノクロマトキットのみ自施設で実施している。
病棟 | 回復期リハビリテーション | 地域包括ケア | 障害者施設等一般 |
---|---|---|---|
病床数 | 100床 | 49床 | 50床 |
入院期間 | 60~180日 (疾患により期限あり) | 最長60日 | 90日~ (対象疾患による) |
対象疾患 | 脳血管障害,運動疾患,心大血管疾患,その他回復期対象の疾患 | 制限なし | 肺炎,心不全,パーキンソン等の神経難病,下肢・脊椎の骨折,ガン末期,リハビリ対象疾患 |
コンサルテーションの開始時期はCOVID-19流行下であったため,メールやWeb会議サービス「Zoom」を用いたオンライン会議を用いて情報収集や意見交換を行った(Table 2)。複数回の意見交換の中で,外部委託の微生物検査項目の運用見直しを提案し,実施できる運用への改善の提案を行い,その効果は2023年3月(改善前)と2024年4月(改善後)の外部委託の件数,包括検査の件数,塗抹検査実施件数,薬剤感受性検査実施件数で評価した。
日付 | コンサルテーション内容 |
---|---|
2021年6月 | 病院長,ICT,検査室の許可を得て,介入開始 |
2022年2月 | Web会議サービス「Zoom」を用いたオンライン会議 |
3月 | メール等,改善に関する提案-1 |
4月 | 改善実施-1 |
2023年2月 | 訪問,改善に関する提案-2 |
3月 | 改善実施-2 |
6月 | レセプトの評価 |
現状把握のため,桜十字福岡病院ICTの活動状況,問題となる耐性菌やその対策について情報収集を行った。ICTは看護師を中心に活動されていたが,感染症専門資格を有するスタッフは不在であった。それぞれの病棟で対象患者の特徴が異なっており,問題となる耐性菌や在院日数,ケアも異なる中でも感染対策の工夫がなされていた。
微生物検査目的の外部委託の利用状況を調査するため,病院独自のセットオーダーの有無,使用している検査依頼書,報告書を参照した。外部委託先と契約している病院独自のセットオーダーや薬剤感受性セット内容は,初回契約以降,見直しは行われておらず,加算1施設による監修も行われていなかった。
2. 対面ミーティング事前にお互いに質問や回答を準備して対面ミーティングを行った。直近1ヶ月の外部委託の微生物検査の依頼書,報告書,レセプト状況が把握できる資料を準備してもらい,それらを参照しながら意見交換を行った。九州大学病院側は,事前に提示されていた外部委託の検査依頼書について意見交換を行い,桜十字福岡病院に適すると思われる材料ごとのセットオーダー案を作成し,提案した。
3. 外部委託検査の運用見直し感染症診断,感染対策のための適切な微生物検査オーダーについて具体的な運用見直しのアドバイスを行った。以下,改善案とその後の対応について記載する。
1) Clostridioides difficile(CD)トキシン検査過去の実績より,CDトキシンの検体数が少なく,陽性率が高い傾向を認めた。また,CDトキシン検査はイムノクロマト検査のみ院内で実施され,グルタメートデヒドロゲナーゼ(glutamate dehydrogenase; GDH)(+)/Toxin(−)の場合に外部委託にCD目的の便培養検査がオーダーされていた。外部委託先から返却される結果は,「陽性」または「陰性」であり,CDが発育したという意味の「陽性」をCDトキシン「陽性」とミスリードする可能性があった。そこで,糞便中のC. difficileを分離培養後,分離された菌株の毒素産生性を調べる方法(toxigenic culture; TC)目的ではない培養検査はClostridioides difficile感染症(CDI)の判断ができないことを説明した。
今後の対応として,CDIはCDトキシン検査を実施しなければ見つけられない感染症のため,医局全体に検査が必要な症例にCDの検査依頼を促すこととなった。また,契約している外部委託先に問い合わせたところ,TCは実施できないことが判明した。今後,GDH(+)/Toxin(−)となった場合は,それ以上の検査は依頼せず,医師に迅速検査の結果と臨床症状を加味してCDIを判定するように運用変更することとなった。
2) 血液培養検査感染対策連携プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology; J-SIPHE)5)の統計を参照した結果,血液培養の検体数が少なく,陽性率が高い月も認めた。必要な患者に血液培養が採取できるように,血液培養ボトルの設置や検体採取の案内などを行うようにコメントした。
今後の対応として,菌血症を疑う時は血液培養の複数セット提出を考慮するため,医局やICT委員会で血液培養採取を促し,自施設でJ-SIPHEを用いて提出数の変化を追えるようにJ-SIPHEの見方を指導した。
3) 外部委託のセットオーダー桜十字福岡病院と外部委託先で取り決めされていた微生物検査のセットオーダーの内容を見直した(Table 3)。入院時の鼻腔検体のセットオーダーでは,塗抹と薬剤感受性検査を中止し,培養だけの検査を提案した。気管切開を行っている患者では鼻腔ではなく喀痰で検査を行うことと,入院時にフォーリーカテーテルを使用している患者の場合は尿の培養検査も依頼(extended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌検出目的のため)することを提案した。また,便培養(一般)セットオーダーの薬剤感受性検査を止め,便培養(嫌気)セットはセット自体を止めることを提案した。
セット項目 | 塗抹 | 好気培養 | 嫌気培養 | 感受性 |
---|---|---|---|---|
鼻腔,喀痰(入院時・初回) | ● | ● | ● | |
鼻腔,喀痰(フォロー) | ● | |||
尿(初回・フォロー) | ● | ● | ● | |
血液培養 | ● | ● | ● | |
結核菌 | 塗抹(チールネルゼン),分離培養(MGIT) | |||
便培養(一般) | ● | ● | ||
便培養(嫌気) | ● | ● | ● |
セット項目 | 塗抹 | 好気培養 | 嫌気培養 | 感受性 |
---|---|---|---|---|
鼻腔,喀痰,尿(入院時) | ● | ● | ||
鼻腔,喀痰,尿(フォロー) | ● | |||
鼻腔,喀痰,尿(初回) | ● | ● | ● | |
血液培養 | ● | ● | ● | |
結核菌 | 塗抹(チールネルゼン),分離培養(MGIT) | |||
便培養(一般) | ● |
●:依頼項目
MGIT:Mycobacteria Growth Indicator Tube法
上記の提案に対し,桜十字福岡病院のICTで検討され,外部委託先へ問い合わせが行われた。入院時の鼻腔検体は,塗抹は止めるが,薬剤感受性検査は結果を把握したいため継続することとなった。薬剤感受性検査の実施について,起炎菌の場合のみ薬剤感受性検査を行えないかという要望に対して外部委託先では不可能との回答であった。入院後のフォローでは薬剤感受性検査は不要で,培養のみ行うこととなった。気管切開患者の喀痰採取や,尿培養の必要性に関しては,検査セットを作成し,医局で周知を行い,入院後3日以降の患者の下痢症状の際には便培養ではなく,CDトキシン検査の実施を促すこととなった。
4) コンサルテーション後の評価2023年6月に,運用見直し前後(2023年3月と4月)でレセプトデータを比較し,改善効果を評価した(Table 4)。セットオーダーの見直しにより,不要な塗抹検査と薬剤感受性検査オーダーを約半数に減らすことができた。検査費用の支払いは包括算定がほとんどだが,検査項目の見直しにより外部委託先への費用支払いも含め,コスト削減につながった。
2023年3月 (改善前) | 2023年4月 (改善後) | |
---|---|---|
外部委託件数 | 129件 | 129件 |
包括件数 | 109件 | 110件 |
塗抹検査実施件数 | 87件 | 43件 |
薬剤感受性検査実施件数/経過観察中患者数 | 10件/27人 | 4件/23人 |
2021年に行った外部委託施設における微生物検査の現状調査報告をふまえ,大学病院の感染制御チームとして外部委託で微生物検査を実施している施設へのコンサルテーションを試みた。元桜十字福岡病院の医師が橋渡しとなり,定期的な意見交換を行いながら改善点を挙げ,実践することができた。実際にコンサルテーションを行い,現状把握の重要性と実施する微生物検査は大学病院と同じではなく,その施設に最適な運用を再考する重要性を感じた。また,これまで検査が実施されていない患者へ適切な検査が実施できるための職員教育の重要性も再認識できた。現状把握のための複数回のヒアリングを通じ,医師・看護師・臨床検査技師がそれぞれ感染症専門家の視点で,桜十字福岡病院に最適な検査セットオーダーを見直すことで不要な検査を見直し,適切な検査が実施できるセットオーダーの見直しと職員への教育を提案できたことは,コンサルトを行った側としても貴重な経験となった。
桜十字福岡病院ICTメンバーからは以下の感想が得られた。
・現状維持で思考が止まっていたので,コンサルテーションにより改善を図る機会を得られた。
・専門知識のある職員が所属しておらず,現行の依頼内容を適切に精査するのは難しい環境であったため,専門家にアドバイスを頂くことで的確に課題を抽出し改善することができた。
・診療報酬の事や,目的に応じて必要となる検査内容は何かについて,知識を得ることができた。
・微生物検査に詳しくない医師も多いため,依頼内容を臨床検査技師に委ねる場合も多く,コスト削減目的以外にも医師に適切な案内をする責任を果たす目的として,この取組みに意義があった。
・日頃は院内検査の運用に注視しがちになっていたが,外部委託検査であっても微生物検査は依頼内容の組み合わせが様々であるため,いざ目を向けてみると改善の余地があり,適切な改善を図ることで検査科として病院運営に貢献できると実感した。
実際に対面で意見交換を行う際に,外部委託検査の依頼書や報告書の控え,レセプトデータを参照した。これらの資料があることで,外部委託の検査状況が把握できるため,具体的な改善案も提示することができた。面識がない施設間でコンサルテーションを行う場合,両者をつなぐスタッフがキーとなり,時間をかけて情報交換を行うことが重要であると感じた。また,専門家不在のため,一度契約された検査項目を見直す機会がないこと,また,オーダーされている検査項目が適切か不適切かの判断が難しいこと,新しい検査法や検査フローに関する情報が不足している点も考えられた。現在,全国で感染対策向上加算の連携が組まれているが,加算2,3のクリニックや診療所の外部委託検査の利用状況について,加算1施設がコンサルテーションすることで,より適正な診断支援(DS)の実践が可能になると考えられた。
九州大学病院グローバルセンターは加算1施設から加算2,3施設に紹介できるツールとして,当院で使用している不適切検体に関するリジェクションルールに使用している資材提供や教育スライド動画の提供,J-SIPHEを用いたアンチバイオグラム作成の紹介やサーベイランスデータの見方のレクチャーなどを準備し,該当施設に最適な実践的なツールを提供できることを目標としている。本取組みを通じて,コンサルテーションする側,される側の課題やメリットを改めて考える機会となった。コンサルテーション側の実施上の問題点としては,多職種で関与するための日程調整であった。感染対策向上加算の仕組みと,地域におけるリーダ的役割と専門家の視点を活かし,今後もコンサルテーションの活動を拡大していきたい。
九州大学病院グローバル感染症センターのICTで外部委託の微生物検査に関するコンサルテーションを実践した。桜十字福岡病院に最適な検査を見直すことができ,今回の取組みを通じて,コンサルトを受ける側にも様々な意識変容のメリットがあったことが確認できた。
本調査は厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究「診療所及び高齢者施設を対象とする効率的・効果的な薬剤耐性菌制御手法の確立のための研究」に関連する事業として実施した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本取組みを行うにあたり,許可していただいた桜十字福岡病院 病院長 山本雄祐先生に感謝申し上げます。また,協力していただいた九州大学病院検査部 木部泰志技師,指導していただいた堀田多恵子技師長に感謝申し上げます。