2025 Volume 74 Issue 1 Pages 94-102
ラテックス比濁法を測定原理とし,測定上限を700 IU/mLに拡大したLTオートワコーRF(II)(富士フイルム和光純薬(株))の基礎的性能評価を行った。正確性,同時再現性,希釈直線性は良好な結果が得られた。検出限界は0.6 IU/mLと現行試薬と同等の性能を有しており,干渉物質の影響は認められなかった。現行試薬および他社試薬との相関は,r = 0.958~0.968と良好な相関性を示した。一方,測定上限以上の検体を希釈後に測定した値を含む場合では,相関性が低下する例を認めた。基準値(15 IU/mL)に対する各試薬の一致率は各試薬間で95%以上と良好であった。LTオートワコーRF(II)は,日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有しており,さらに測定上限が拡大されたことからも,より正確な検査結果を速やかに臨床に報告できると考えられた。
We evaluated a basic performance of the LT Auto wako RF (II) reagent (FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation Ltd.), which uses latex turbidimetry as the measurement principle and expands the measurement upper limit to 700 IU/mL. We obtained favorable results on accuracy, simultaneous reproducibility, and dilution linearity. The limit of detection was 0.6 IU/mL, which is equivalent to current reagents, and no influence of interfering substances was observed. The correlation with current reagents and reagents from other companies showed good correlation, r = 0.970 to 0.999. On the other hand, we observed cases in which the correlation decreased in cases where the values measured after dilution of samples exceeding the measurement upper limit were included. The concordance rate of each reagent with the reference value (15 IU/mL) was good at over 95%. The LT Auto wako RF improved reagent has sufficient performance for routine examinations, and because the upper limit of measurement has been expanded, it was thought that more expected to contribute to clinical diagnostics.
関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)は種々の自己抗体の出現を特徴とする代表的な全身性自己免疫疾患である。RA患者から検出される自己抗体の中で,リウマトイド因子(rheumatoid factor; RF)は,主に変性IgGのFc部分に結合するIgM型抗体1),2)であり,抗環状シトルリン化蛋白抗体(cyclic citrullinated peptide抗体;抗CCP抗体)とともに,アメリカリウマチ学会と欧州リウマチ学会によって策定された2010年RA新分類基準3)における血清学的マーカーとして利用されている。その診断基準において,RFまたは抗CCP抗体陽性比率は,全体の最大50%(6点満点のうち3点が配点されている)を占めていること,および基準値上限の3倍を超えるか否かでスコアが異なることから,RAの診断には両者の定量測定は極めて重要である。日本リウマチ学会もRA早期診断には,RFを効率よく診断できるスクリーニング検査として提唱しており4),明らかに他疾患による関節症状であることが明確な場合を除き,原因不明の滑膜炎に対してはRFおよび抗CCP抗体の測定が必須である。
一方,RF/抗CCP抗体陽性でかつ,特に高値の場合は,RAの疾患活動性が非常に高く,早期からの関節破壊が進んでいることが報告されている5)。また,RFおよびRF/抗CCP抗体がともに陽性の場合は,いずれかが陰性,あるいは両方陰性の場合に比べ,RAの生命予後が悪化する可能性が大規模コホート研究で示唆されている6)ことから,RFは抗CCP抗体と共に予後を左右する重要なファクターと考えられている。
RF測定には免疫比濁法(turbidimetric immunoassay; TIA)やラテックス凝集比濁法(latex turbidimetric immunoassay; LTIA)などを測定原理とした測定試薬がある。現在は,汎用の自動分析装置に適応可能で感度の高いLTIA法が多くの国内の医療施設で使用されている7),8)が,測定試薬により基準値・測定値が異なることから,米国リウマチ学会では,健常人での陽性率が5%以下となることを求めている。それに則り,わが国でも15 IU/mLをカットオフ値に揃える標準化ガイドラインが日本臨床検査標準化協議会・RF標準化検討委員会から共同で提唱されている。
今回我々は,富士フイルム和光純薬(株)より開発された,LTIAを測定原理とし,現行試薬と比較し測定上限を700 IU/mLに拡大したLTオートワコーRF(II)の基礎的性能評価,および他社のRF測定試薬との相関検討を行ったので報告する。
メーカー | 富士フイルム和光純薬 | 栄研化学 | ニットーボー | LSIメディエンス | |
試薬 | LTオートワコーRF | LTオートワコーRF(II) | LZテスト栄研RF | N-アッセイLA RF-K | イアトロRF II |
略称 | 現行試薬 | 改良試薬 | 栄研 | Nittobo | LSI |
測定範囲(IU/mL) | 1.4~200 | 2.0~700 | 5.0~500.0 | 3~600 | 5~600 |
測定原理 | ラテックス比濁法 |
1)LTオートワコーRF(II)(以下,改良試薬と略す),LTオートワコーRF(以下,現行試薬と略す)(富士フイルム和光純薬(株))
2)LZテスト‘栄研’RF(栄研化学(株))
3)N-アッセイLA RF-Kニットーボー(ニットーボーメディカル(株))
4)イアトロRF II((株)LSIメディエンス)
2. キャリブレーター1)生理食塩水(0 IU/mL)及びLTオートワコーRF(II)RF LTキャリブレーターセット(4点:26,101,309,727 IU/mL),LTオートワコーRF RF LTキャリブレーターセット(4点:25,50,100,200 IU/mL)(富士フイルム和光純薬(株))
2)LZ-RF標準‘栄研’(6点:0,5,25,50,150,500 IU/mL)(栄研化学(株))
3)RF標準液(T)(6点:0,15,75,150,300,600 IU/mL)(ニットーボーメディカル(株))
4)RF標準品セット(6点:0,10,20,148,350,597 IU/mL)((株)LSIメディエンス)
3. 測定機器生化学自動分析装置TBA-120FR(キヤノンメディカルシステムズ(株))を用いて,各社試薬の添付文書記載パラメーターに従って分析を行った。
4. 測定原理本試薬の測定原理は,LTIA法である。試料に緩衝液及びラテックス試液を作用させると,試料中のリウマチ因子と,ラテックス試液中のヒトγ-グロブリン感作ラテックスが反応して濁りを生じる。濁りの度合いは試料中のリウマチ因子濃度に比例するので,濃度の変化を測定することにより試料中のリウマチ因子濃度を求める。
5. 検討項目 1) 正確さおよび併行精度(同時再現性)低濃度試料(22 IU/mL)・中濃度試料(97 IU/mL),および高濃度試料(661 IU/mL)(いずれも富士フイルム和光純薬(株)より入手したヒト由来試料)をそれぞれn = 5 × 4回測定し,平均(IU/mL),表示値に対する割合(%),標準偏差(SD)および変動係数(CV%)を算出した。
2) 希釈直線性直線性検討用試料1(100 IU/mL),直線性検討用試料2(700 IU/mL)(いずれも富士フイルム和光純薬(株)より入手したヒト由来試料)について,生理食塩水にて10段階希釈して試料を調製し,測定した。キャリブレーターポイントを考慮して直線性検討用試料1は10/10倍希釈点(約100 IU/mL),直線性検討用試料2は5/10倍希釈点(約300 IU/mL)を基準とした際の理論値に対する測定値の割合を算出した。
3) 検出限界低濃度試料(22 IU/mL)(富士フイルム和光純薬(株)より入手したヒト由来試料)を生理食塩水にて1 IU/mL,2 IU/mL,3 IU/mLに希釈し,試料を調製した。調製した試料を各20回測定し,測定値の平均値と標準偏差(SD)を算出した。生理食塩水の測定値の平均値+2SDより試料の測定値の平均値-2SDが大きくなる最小濃度を検出限界とした。
4) 共存物質の影響高濃度試料(661 IU/mL)(富士フイルム和光純薬(株)より入手したヒト由来試料)をヒト血清で希釈後,各干渉物質を含む溶液(アスコルビン酸500 mg/dL,溶血ヘモグロビン5,000 mg/dL,乳び(イントラリポス)20%,遊離型ビリルビン500 mg/dL,抱合型ビリルビン400 mg/dL)(富士フイルム和光純薬(株)より入手),または精製水をそれぞれ9:1(試料:干渉物質または精製水)の比率で混合し,干渉物質濃度が5段階となるように混合して用いた。各添加濃度での測定値が添加0濃度の平均値 ± 10%以内であるとき,測定値に影響がないと判断した。
5) 相関性試験当院検査部に提出された患者試料の残余検体244例について,現行試薬および改良試薬と同様の測定原理である3社の他社試薬との相関性を検討した。測定上限を超える検体は生理食塩水を用いて希釈測定を行った(各試薬の測定上限~1,000 IU/mLの検体は10倍希釈,1,000~4,000 IU/mLの検体は40倍希釈,4,000~6,000 IU/mLの検体は60倍希釈)。また,各試薬を用いて,患者10検体における原液測定と希釈測定(10倍希釈)の相関性を検討した。相関性の検定はJMP Pro17を用い,Spearmanの順位相関係数を算出した。
6) 基準値(15 IU/mL)に対する各試薬の一致率当院検査部に提出された患者試料の残余検体244例について,現行試薬および改良試薬と同様の測定原理である3社の他社試薬とのリウマトイド因子標準化のガイドライン基準値(15 IU/mL)に対する一致率を以下の計算式に従って算出した。
{(両試薬共に15 IU/mL以上の検体数)+(両試薬共に15 IU/mL以下の検体数)}/244(全検体数)
現行試薬の測定値は表示値に対し,低濃度試料(22 IU/mL)では98.6~100.0%,中濃度試料(97 IU/mL)では102.0~102.4%となった。改良試薬では,低濃度試料は101.4~103.2%,中濃度試料は103.7~104.0%,高濃度試料(661 IU/mL)は99.7~100.7%となり,いずれもメーカ添付文書記載の正確性(100 ± 15%)を満たした(Table 2)。
測定試料 (試料表示値) | 低濃度試料(22 IU/mL) | 中濃度試料 (97 IU/mL) | 高濃度試料 (661 IU/mL) | ||
---|---|---|---|---|---|
測定試薬 | 現行試薬 | 改良試薬 | 現行試薬 | 改良試薬 | 改良試薬 |
mean(IU/mL) | 21.7–22.0 | 22.3–22.7 | 98.9–99.3 | 100.6–100.9 | 659.0–665.8 |
vs表示値(%) | 98.6–100.0 | 101.4–103.2 | 102.0–102.4 | 103.7–104.0 | 99.7–100.7 |
SD(IU/mL) | 0.29–0.41 | 0.09–0.33 | 0.33–0.79 | 0.43–0.56 | 2.46–6.70 |
CV(%) | 1.4–1.9 | 0.8–1.5 | 0.3–0.8 | 0.4–0.6 | 0.4–1.0 |
また,低濃度試料および中濃度試料における現行試薬のCVは,0.3~1.9%となった。低濃度試料,中濃度試料,および高濃度試料における改良試薬のCVは,0.4~1.5%となり,いずれもメーカ添付文書記載の併行精度(CV 10%以下)を満たした(Table 2)。
2. 希釈直線性直線性検討用試料1(100 IU/mL)を生理食塩水で10段階希釈した試料の理論値に対する希釈直線性は,現行試薬で89.7~109.2%,改良試薬で87.1~109.7%となった。直線性検討用試料2(700 IU/mL)を生理食塩水で10段階希釈した試料の理論値に対する希釈直線性は,改良試薬で93.9~103.0%となった(Figure 1)。いずれも理論値と比較して,±15%の範囲(正確性の範囲内)となり,良好な結果が得られた。
現行試薬の検出限界は1.2 IU/mL,改良試薬は0.6 IU/mLとなり,ともにメーカ添付文書(現行試薬:1.4 IU/mL,改良試薬:2 IU/mL)を満たした(Figure 2)。
添加前との差は,現行試薬では96.3~102.1%,改良試薬では95.9~100.4%となった。アスコルビン酸は50 mg/dL,溶血ヘモグロビンは500 mg/dL,乳びは2.0%,遊離型ビリルビンは50 mg/dL,抱合型ビリルビンは40 mg/dLまで影響は認められなかった(Figure 3)。
患者試料を用いた現行試薬と改良試薬との相関は,回帰式y = 1.006x − 0.904,相関係数r = 0.967(n = 157),他社試薬と改良試薬では,y = 0.970x − 0.448,r = 0.963(栄研)(n = 203),y = 1.061x − 0.162,r = 0.958(Nittobo)(n = 217),y = 1.138x + 9.379,r = 0.968(LSI)(n = 218)と良好な結果が得られたが,同社製の試薬に比べ,他社との相関では,値に一定の差や,ばらつきを認めた(Figure 4)。
全244検体の測定値について現行試薬と改良試薬は,回帰式y = 1.037x − 47.683,相関係数r = 0.987,他社試薬と改良試薬では,y = 1.084x − 24.995,r = 0.978(栄研),y = 0.933x + 34.381,r = 0.967(Nittobo),y = 1.143x + 12.246,r = 0.979(LSI)と良好な結果が得られたが,特に高値では,原液測定に比べ差が拡大する傾向を認めた(Figure 5)。
改良試薬では,回帰式y = 1.342x + 10.65,相関係数r = 0.855,他社試薬では,y = 1.149x + 15.99,r = 0.855(栄研),y = 1.169x + 40.35,r = 0.903(Nittobo),y = 1.022x + 39.56,r = 0.770(LSI)となった。何れの試薬においても検体希釈後の測定値は,検体原液より高値傾向となったが,その乖離の大きさは試薬毎に異なっていた(Figure 6)。
全体一致率は各試薬間で95%以上であり,良好であった(Table 3)。
現行試薬 | 改良試薬 | 栄研 | Nittobo | LSI | |
---|---|---|---|---|---|
現行試薬 | ― | 98.8% | 97.5% | 98.0% | 98.0% |
改良試薬 | 98.8% | ― | 97.1% | 97.5% | 98.4% |
栄研 | 97.5% | 97.1% | ― | 98.8% | 96.3% |
Nittobo | 98.0% | 97.5% | 98.8% | ― | 96.7% |
LSI | 98.0% | 98.4% | 96.3% | 96.7% | ― |
N = 244
改良試薬「LTオートワコーRF(II)」の基礎的検討を行ったところ,正確さは,表示値に対して98.6~102.4%,併行精度はCV 2.0%以内,検出限界は0.6 IU/mL,共存物質の影響はなく,希釈直線性も良好な結果であった。また,他社試薬との相関および日本リウマチ学会の提唱するカットオフ値(15 IU/mL)における判定一致率は良好であったことから,日常検査に十分適応可能な試薬であると考えられた。
一方で,本検討では,各社試薬の測定値と一定の偏りやばらつき,および高値域での差の拡大を認めた。また,本検討に用いた各社試薬全てにおいて原液測定値に比べ希釈測定値は,高めに乖離する傾向があった。RFは構造的に異常のあるIgGを認識していることが知られており9),各社試薬では,このRFを検出するために抗原として変性IgGが用いられている。IgGの変性には,加熱による方法10)が知られているが,変性IgGの作製方法に明確な基準法が無いため,各キット間で変性処理方法が異なる可能性が考えられる11)。また,キットによって変性ヒトIgGまたは変性ヒトγ-グロブリンを使用しており,抗原の由来も異なっている(各キットの添付文書記載)ことなどから,これらの相違が各社試薬間の測定値のばらつきの原因である可能性が考えられる。既報においても,キット間の比例系統差や,高値領域で顕著となる差の拡大といった現象が観察されている12)。また,日常検査において,希釈測定値が予想される値と整合性が得られず,希釈直線性のないケースに遭遇する場合があるとの報告もある。本現象は,反応溶液のpH,イオン強度,塩類濃度の違いによって生じると推察されている13)。また検体の希釈倍率によっても,RF測定値が異なる場合があり,これはRFの親和性や,RFとヒトIgGのモル比が変化するためではないかと推察されている13)。
患者血清中に存在するRFは,IgMクラスだけではなく,IgG,IgA,IgD,IgEクラスといった複数のアイソタイプが見いだされることも珍しくはない10)。これら複数のイムノグロブリンの活性からなるRFの活性は,種特異的,種間交叉的,サブクラス特異的,アロタイプ特異的,免疫複合特異的および変性IgG特異的であるものが知られており,その結合力(親和力)も様々である。RF検査では,多種多様なRFとIgG分子上のエピトープとの反応を,凝集力や結合力といった二次的な反応として捉えているため,様々な条件(検体,試薬)により,測定値が乖離すると報告されている11)。一方で,RFの定量測定値がRAの診断および予後予測に活用されていることからも,RF測定キット間のこのようなばらつきは見過ごすことはできない。本検討においても,試薬の違いや,希釈倍率の違いにより測定値の乖離が認められたことから,高濃度域まで測定可能な試薬を使用するなど,自施設の測定試薬の特性を理解しつつ,出来る限り,原液測定による報告が望ましいと考えられた。
本試薬「LTオートワコーRF(II)」は,今回の基礎的検討において良好な成績が得られたこと,700 IU/mLまで測定上限が拡大されたことからも,正確な検査結果を速やかに臨床に報告できると考えられた。
本検討は,富士フイルム和光純薬(株)との共同研究契約に基づき,東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認を得て実施した(審査番号:2019300NI-7-(2))。