Japanese Journal of Medical Technology
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Review Article
Roles and challenges of Japanese Promotion Council for Laboratory Testing in medical relief activities during disasters
Takumi ITABASHIToshiyuki YAMADAHideo SAKAMOTOKatsuhiko MOCHIZUKIKazuhiko NAKAMURAKeiji FUKASAWAMasami MURAKAMI
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2025 Volume 74 Issue 1 Pages 14-25

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Abstract

2024年1月1日に発生した能登半島地震において日本臨床検査振興協議会では,臨床検査に関わる複数の団体や組織が一丸となり,災害支援活動を迅速かつ効果的に行った。本研究の目的は,この活動内容が果たした災害支援の役割を明確にし課題を検証することにある。支援活動として,石川県庁に設置された石川県保健医療福祉調整本部に派遣したリエゾンと連携し,避難所等での基本的な健康管理や感染症の見守りのための簡易検査機器等の貸与・供与を行った。また,物的支援活動における法的制限の解釈確認が得られ,スキームを構築した。約2ヵ月にわたる支援活動の結果,被災地における臨床検査のリスクを低減し,信頼性の高い検査データの提供に寄与することができた。また,物品の提供スキームが機能し,医療施設や救護班のニーズに迅速に対応することができた。一方,活動経験から得られた課題として,①組織間の連携体制の強化,②物品調達・配分スキームの最適化,③災害対応マニュアルの整備,④地域との連携強化,⑤法的制限に対する事前の備え等が挙げられた。経験と教訓を活かし,平時からの備えと関係組織間の連携活動を強化し,臨床検査分野における将来の災害対応能力の向上を目指したい。

Translated Abstract

Japanese Promotion Council for Laboratory Testing, in collaboration with multiple organizations involved in clinical laboratory testing, promptly and effectively conducted disaster support activities following the Noto Peninsula Earthquake as announced by the Japan Meteorological Agency on January 1, 2024. The purpose of this study is to clarify the role of these activities in disaster support and to examine the challenges faced. The support activities included liaison with the Ishikawa Prefectural Health, Medical, and Welfare Coordination Headquarters, which was established at the Ishikawa Prefectural Government Office, and providing simple testing equipment for basic health management and infection monitoring at evacuation centers. After confirming the interpretation of legal restrictions, they established a scheme that allowed for a swift response to requests for testing equipment and reagents from medical facilities. As a result of approximately two months of support activities, the risk of clinical testing in the disaster area was reduced, contributing to the provision of highly reliable test data. Additionally, the material supply scheme functioned effectively, allowing for a quick response to the needs of medical facilities and relief teams. On the other hand, challenges identified from the experience of these activities include: (1) Strengthening the cooperation system between organizations, (2) Optimizing the procurement and distribution scheme of supplies, (3) Developing disaster response manuals, (4) Enhancing cooperation with the local community, and (5) Preparing for legal restrictions in advance. By leveraging the experience and lessons learned, the aim is to enhance disaster response capabilities in the clinical testing field through improved preparedness and strengthened cooperation among stakeholders during normal times.

I  はじめに

1. 背景・目的

臨床検査に関わる5団体【日本臨床検査医学会(以下,検査医学会),日本臨床検査専門医会,日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技),日本衛生検査所協会および日本臨床検査薬協会(以下,臨薬協)】を会員組織として構成する一般社団法人 日本臨床検査振興協議会(以下,振興協議会)では,2024年(令和6年)1月1日の能登半島地震の発生に伴い,会員組織に集まる情報を踏まえ,1月4日,協議の上,振興協議会が作成する大規模災害対策規程(以下,規程)1)に基づき,災害支援を開始した。

被災地である石川県庁に立ち上げられた石川県保健医療福祉調整本部(以下,県調整本部)(Figure 1)へリエゾンを派遣した日臨技および日本臨床検査薬卸連合会(以下,臨薬卸連)等の卸関係者と密な連携を行い,被災地における検査を受ける際のリスクを最小限に抑え,患者にとって信頼できる臨床検査データの供与をするため2月29日までの約2ヵ月にわたり対応した。

Figure 1  県調整本部(石川県庁内)の体制構成

結果として,県調整本部における医薬品の供給体制と連携した臨床検査機器の貸与および試薬供与による物品支援活動が効果を上げ,現地から断続的に発生する数多くの要請に応えることができ,社会的責務を全うする意義ある活動となったといえる。

一方で,今後も同規模の対応や展開を行うためには,多くの整理すべき論点や課題があることが分かった。

そこで,今回の経験から学びを得て今後の臨床検査に係る物品支援活動に繋がるよう,振興協議会が組織として果たした役割と今後の課題について検証する。

2. 震災直後の災害活動に影響を与えた状況

能登半島地震は,2024年(令和6年)1月1日16時10分,石川県能登地方(北緯37.5度,東経137.3度)を震源とし,規模は気象庁発表マグニチュード7.6(暫定値),震源の深さは16 km(暫定値)であった。最大震度は石川県志賀町で観測された震度7であり,新潟県で震度6弱,富山県,福井県で震度5強を記録した2)

北陸地方における地震直後からの気象は,北陸地方で1月4日にかけて低気圧や上空の寒気の影響で雷を伴った雨や雪の降る所が多く,5日は曇り時々晴れであり,6~8日にかけて冬型の気圧配置となり,雪や雨の降る所があった。

朝の最低気温は4~6日が4℃前後,7~8日は1℃前後となり,平年よりは高い所が多く,また雨となる所があり,積雪の多い所では融雪やなだれの注意が必要となった。

加えて,今回の地震で揺れの大きかったところでは,地盤が緩んでいる可能性があり,その上4日にかけて雨となる所が多く,土砂災害が起こる恐れも懸念される状況となった。

これらの影響により今回の地震は,①広域にわたる地割れや隆起,土砂崩れによる道路・線路等の交通網の寸断が起きたこと,②上下水道の不通による水不足や不衛生な環境となったこと,③被災前から医療資源の少ない地域であったこと等から,全国から支援が必要な状況となった。その一方で,①被災地域の地理的な特性,②積雪による冷え込みや交通網への影響,③漂流物や天候による陸路以外の航路の利用困難等の悪条件が重なり,救援活動を行う各組織は初動対応から大きな困難が伴うものとなった。

II  組織団体として果たした役割とその経緯

1. 体制の構築

1) 振興協議会における体制と活動経緯

振興協議会では大規模災害が発生した場合,行政,関連団体および関連機関等の要請に応じ,社会的責務としてその必要な対策を実施するため,臨薬卸連をオブザーバーとして加えた,大規模災害対策委員会(以下,本委員会)を2020年(令和2年)10月に設置している(Figure 2)。

Figure 2  大規模災害対策委員会の体制構築

本委員会は,大規模災害(暴風,竜巻,豪雨,豪雪,洪水,崖崩れ,土石流,高潮,地震,津波,噴火,地滑りその他の異常な自然現象や大規模事故により生ずる被害が発生した場合)へ対応するため,規程1)を整備し,会員組織間の連携をもって物品支援活動ができるよう平時から体制を整えている。

具体的な災害支援活動は,医療の機能復旧,維持のため,医療機器公正競争規約に準じ激甚災害に指定された場合,会員組織の協力により集まる情報に基づき,①体外診断用医薬品,②臨床検査用医療機器,③臨床検査用医療機器を運用するために必要とする消耗品等を支援,供与することを基本方針としている。

2024年1月4日,規定に基づき,振興協議会の村上正巳理事長の指示の下,本委員会の山田俊幸委員長が緊急招集され能登半島地震は振興協議会として物品支援活動を実施することを決定した。なお,対応する物品支援は行政または日臨技のリエゾンを介した要請に限定した。

 2)能登半島地震物品支援コアチームの設置とその経緯

物品支援の要請は,行政,被災地の医療施設の会員組織関係者,支援救護活動の実施者等の様々な立場から届く。この際,臨薬協の会員企業が要請先との窓口になると意に沿えない事案が発生した際に断りづらい状況となる恐れがある。会員組織である検査医学会は2016年(平成28年)4月14日に発生した熊本震災の際,アドホックの「熊本地震対策委員会」を内部組織として設置し,中継点の役割を果たすことで,機器の貸与と返却回収が確実に実施できる仕組みを実践していた。

この経験から要請窓口の一元化が活動の迅速性や機能性に対応するためには必須であることを考慮し,今回の地震における物品支援体制においても事前に役割分担することで,迅速かつ機能的な活動となるよう,同1月4日,本委員会内に日臨技および振興協議会の事務局である板橋匠美,臨薬協から望月克彦委員,検査医学会から坂本秀生委員の3名が中心となる,アドホックの「能登半島地震物品支援コアチーム(以下,コアチーム)」が設置された。

選定理由および役割として,①日臨技の立場から県調整本部のリエゾンと連携し,物品支援要請の調整・窓口対応と現地情報収集を担当,②臨薬協の立場から要請内容の物品を会員企業と調整・手配することを担当した。また,③検査医学会の立場から必要に応じた活動の周知・トラブル対応を担当した。物品支援要請の中で扱うべきか判断に苦慮する事案においては,本委員会の協議により決定をした。

3) 県調整本部のリエゾンとの連携

日臨技では被災地の状況の変化【医療提供施設(以下,医療施設)臨床検査室の機能状況,避難所・医療救護所等の変更など】を踏まえ,県調整本部の指揮のもとその要請に基づき,臨床検査技師の被災地域における継続的な派遣救援活動を都道府県臨床(衛生)検査技師会と連携して実施するため,1月5日に県調整本部にリエゾンを派遣した。

本委員会として即時的な対応を可能とするため,このリエゾンには日臨技としての役割に加え,本委員会との現地仲介役も兼務とし,物品支援を行政指揮下での対応となるようにした。

これを鑑みて,県調整本部の許可のもとで日臨技のリエゾンは,県調整本部内で災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team; DMAT)の業務調整員として「薬剤班」が位置する区画において,活動することが許可された。臨床検査機器・試薬等の物品支援要請は石川県薬事衛生課の他,避難所や医療施設へ向かった救護班より県調整本部に集まる情報に基づき,リエゾンへ口頭等で伝えられた。

リエゾンはこの要請内容をコアチームへ案件登録するとともに,その背景情報(用途,必要数,受け渡し方法等)を収集する。コアチームはこれらに加え,負託に応え要請受託として差し支えないものか判断するため,追加確認等の調整を現地と行い,被災地における臨床検査機器・試薬の安定した貸与・供与を行うに至った。

2. 組織的な貸与・供与を行うために構築したスキーム

1) 要請受託から物品確保まで

POC(point of care)試薬機器資材等の一覧を臨薬協が整備しホームページ上で公開している3)。被災地への臨床検査機器・試薬の供給にあたっては,この一覧にある物品から要請に基づき貸与・供与を行った。このため,災害支援の開始に合わせ,臨薬協では会員企業への調査が行われ,準備可能な数や納品方法等の情報が更新されるとともに,システム上で管理できるよう整えられた(Figure 3)。

Figure 3  能登半島地震物品支援コアチームのタスクフロー

臨床検査機器の貸与および試薬供与による物品支援活動は,一本化された窓口からコアチームで受託する要請に関し,物品を所持する臨薬協の会員企業に個別連絡・手配するタスクフローにより対応された。

2) 手配完了から納品まで

被災地域は積雪や路面寸断による災害の影響と国土交通省による道路啓開作業により,刻々と道路閉塞状況が変わる状況が発生していた。また,能登地域への通行は規制され,緊急車両や支援物品搬送等の災害復旧関係車両に限定しており,物品支援の実施にはこの状況への対応が必須であった。これに加え,支援要請の声を発する被災地へ納品するための手段を県調整本部では手配することが困難となっていた。

これを鑑み,県調整本部以外の被災地納品先には,臨薬卸連の統制下において資材確保スキームと現地卸問屋を連携させ,迅速性や機能性の補強が行われた。

3. 納品後の活用までの流れ

1) 医療施設における臨床検査機能を維持するための貸与・供与

今回の地震では,広域にわたる道路・線路等の交通網が不通,上下水道の寸断による水不足となったことで,被災地の医療施設では水を用いて実施する検体検査は大きく影響を受け,既存設備では検査の実施は困難となった。そのため,診療を継続して実施する必要のある主要施設からは,臨床検査機能を維持するためにpoint of care testing(以下,POCT)対応機器・試薬の支援要請が挙がっていた。

他方,施設自体の診療体制復旧を目的とした検査機器・試薬の支援においては,これまで公正取引規約による制限により,診療行為として診療報酬の扱いは,無償提供された機器や試薬を用いた場合,診療報酬の請求はできないとされている。このため,貸与・供与が可能であっても物品支援はできない状況となっていた。

この状況を踏まえ,いくつかの側面から行政の関係各所と調整を行った。その後,厚生局診療報酬担当および医療機器業公正取引協議会へ直接確認したところ今回の地震において令和4年9月に発出された「災害時の医療機器の無償貸出し及び無償提供について」(令和4年9月28日付け公取協発第3335号医療機器業公正取引協議会常任運営委員会委員長通知,以下,通知)4)に基づき,医療機関への無償提供等の支援をして差し支えないものとの解釈通知を2024年1月8日に受け,この問題を解消するに至った。

法的制限の解釈について,臨薬協より即時会員企業に伝達され,医療施設からの検査機器・試薬の要請は県調整本部を通してリエゾンに伝えられ,構築された提供スキームの中で対応を行うこととなった。

2) 避難所等の救護活動への検査機器・試薬の貸与・供与

DMAT薬剤班では,日本薬剤師会との連携により薬剤の供給が行われていた。具体的には避難所等における救護活動中の調達要望は,Figure 4に示す複数箇所に設置された薬剤集積拠所に集められ,スプレッドシートを用いてクラウド上で発注する体制が整えられていた。これがDMAT薬剤班を経由して卸業者に伝達され発注先に納品後,災害処方箋を用いて各救護部隊により避難所等に供与されていた。

Figure 4  薬剤集積拠点の位置

本委員会による物品支援も納品後の活用先は薬剤供給と同様であることから,可能な限り連携をとり,納品後に被災者へ活用されるまでの流れを既存の動線に乗せた統一指揮下による効果的な協力体制をとった(Figure 5)。

Figure 5  臨床検査機器・試薬が被災者に活用されるまでの流れ

これにより,避難所等での救援活動を用途とする支援物品は薬剤集積所が納品先となり,災害処方箋上の空き項目枠を用いて付番することで,近隣地域で活動を実施する救護班は在庫管理の中で活用することが可能となった。

III  役割のなかで実施した具体的内容

1. 要請に伴い貸与・供与した支援物品

能登半島地震発生後,県調整本部からの要請に基づき,臨床検査機器・試薬の貸与・供与(Table 1)はリエゾンが配置された翌1月6日から開始され,Figure 6に示した企業より物品が供給された。

Table 1 臨床検査機器や試薬の貸与および提供の状況

要請内容 対応企業 品名 数量 貸与・供与 利用地区
インフルエンザ・
コロナ抗原検査
富士レビオ エスプラインSARS-CoV-2&FluA+B(一般用) 13,000
テスト
供与 珠洲(700),輪島(4,100),能登(800),穴水(800),金沢(50),志賀(600)
デンカ クイックナビ-Flu+COVID19 Ag 1,500テスト 供与
ノロウイルス検査 デンカ クイックナビ-ノロ3 5,000テスト 供与 輪島(1,000),珠洲(600),能登(600),穴水(800)
極東製薬工業 Qライン極東ノロ 50テスト 供与 小松
溶連菌抗原検査 富士レビオ エルナススティック ストレップA 20テスト 供与 輪島
マイコプラズマ
抗原検査
デンカ クイックナビ-マイコプラズマ 20テスト 供与 輪島
生化学関連 富士フイルム和光純薬 富士ドライケムNX700 2台/
付属試薬
貸与 輪島,能登
富士フイルム和光純薬 富士ドライケムNX600 1台/
付属試薬
貸与 能登
アークレイ スポットケムEZ SP-4430 2台/
付属試薬
貸与 能登
ラジオメーター 汎用血液ガス分析装置 ABL90 FLEX PLUSシステム 1台/
付属試薬
貸与 珠洲
ロシュダイアグノスティックス コバスh 232プラス 12台/
付属試薬
貸与 金沢,能登
積水メディカル ラピッドピアII 2台/
付属試薬
貸与 金沢
血液学関連 富士フイルム和光純薬 血液凝固分析装置COAG2N 1台/
付属試薬
貸与 輪島
超音波診断装置 キヤノンメディカル
システムズ
超音波診断装置Viamo sv7 5台/
付属品一式
貸与 珠洲,輪島,能登,穴水,
七尾,金沢
Figure 6  臨床検査機器・試薬の提供企業一覧

医療施設からは,地震直後より臨床検査機能を維持するために,迅速な対応が求められた。具体的には,血液ガス分析装置や生化学分析装置などの臨床検査機器の貸与をはじめ,感染症の診断に使用される迅速診断試薬キットの要請があった。通知に基づき貸与・供与における法的制限が解消されたことから,迅速性を第一優先とした(Figure 7)。

Figure 7  医療施設と避難所等の要請内容と問題点

避難所等では,基本的な健康チェックや感染症の見守りが主な目的であり,POCTが重宝され,医療施設とはニーズが異なっていた。また,積雪や道路寸断などにより避難所等の状況は刻々と変わり,支援物品の配送は長時間を要する場合もあり,これも踏まえた迅速な対応が求められた(Figure 7)。

双方ともに,県調整本部やリエゾンとの連携が重要であり,迅速かつ正確な情報共有と調整が支援活動の鍵となった。

2. 支援にあたり調整が必要となった内容と要点

1) 貸与・供与時の情報一元化と機器・試薬の選定

臨床検査機器・試薬の貸与・供与の要請は,県行政や県調整本部を通したものの他,救援活動をこれから実施しようとする個別組織や個人などの多方面からリエゾンに伝えられた。これに加え,県行政に対して,①使用期限が近く在庫を多く抱えた検査試薬,②薬事承認はされていないものの有用と考える新商品などの要望連絡が臨薬協の会員企業以外からあった。この対応は情報が一元化されておりリエゾンが対応した。

そのため,リエゾンは日臨技での派遣救援活動の調整に加え,物品支援のための現地状況を把握し,必要な物品を適時に提供する役割として重要性が増した。支援活動を円滑に進めるため,コミュニケーションは電話・メール・SNS等それぞれの長短を生かした適時様々な連絡手段を駆使して,リエゾンとコアチームの連携を綿密に行い調整対応が進められた。

また,感染症の見守りに用いられるPOCTは単項目のみ,他に2~3項目を同時検査可能なものがあり,かつ様々な企業の製品が供与可能であった。これに加え,要請に基づき提供された臨床検査機器・試薬は,救援班の様々なヒトが利用することから,初めて使用する者も少なくないことが想定された。

そのため,要請に対応する機器・試薬は,コアチームと臨薬協の会員企業間での調整により,現地で利用するヒトの負担を考慮した製品を納品する運用がされた。

2) 貸与・供与後,利用した際に起きた事象対処

1月上旬における輪島の平均気温は3.8℃と低く,日最高気温の平均は6.9℃,日最低気温の平均は0.8℃であり,避難所では寒さ対策の1つとして灯油ストーブが設置されていた。物品支援した新型コロナウイルス抗原とインフルエンザ抗原を同時検出可能な一般用検査薬(エスプラインSARS-CoV-2&FluA+B)キットにおいて,寒さの影響から避難所での環境温度が範囲外となり軒並み反応結果が出なくなる現象が起きた。

情報を整理したところ,供与された感染症検査試薬キットは検査実施から判定までの温度条件は20~37℃となっておりこの影響を受けた可能性が想定された。

本委員会では鼻腔からの採取検体を用いて新型コロナウイルス抗原,インフルエンザ抗原単項目専用検査試薬キットも準備可能であった。これら試薬キットは保管温度が1~30℃であり,避難所での気温に耐えうるものであった。しかし,単項目キットを用いて2項目を同時に検査する場合は検体処理が異なるため検体採取も別々に実施する必要があり,被験者への負担となることが明らかであった。これを考慮し協議により同時検出可能な一般用検査薬を第一優先として供与した。

この状況を踏まえた対策を即座に行う必要があったことから,災害時感染制御支援チーム(Disaster Infection Control Team; DICT)と相談の上,2回に分けて検査を実施する方法への切り替えはせず,Figure 8の避難所対応をされている人員に対する緊急周知として文書発出により対処を行った。

Figure 8  避難所で対応する救護班向けに石川県庁内保健医療福祉調整本部検査部門より発出された文書

IV  今後の課題

1. 調整と連携に係る課題

能登半島地震における物的支援活動の経験を通じ,調整と連携が今後の災害支援において不可欠であることが明確となった。このため,以下の点に取り組むことで,災害時における支援活動の質の向上が期待される。

1) 組織間の連携体制の強化

災害発生時における関係組織間の連携体制を密にすることが重要である。特に,行政機関,医療施設,物流企業,そして支援団体間の連携を円滑にするための定期的なシミュレーションや訓練を実施する必要がある。これにより,災害時に迅速かつ効果的に対応できる体制を構築することができる。

具体的には,リエゾンを配置する日臨技および都道府県の臨床検査技師会,支援物品の管理を行う臨薬協およびその会員企業,物品搬送を統制する臨薬卸連および会員卸問屋との組織活動情報を密に共有できる体制を継続して維持することが活動の要として挙げられる。

これに加え,各組織の役割分担を明確にし,災害時に誰が何を担当するかを事前に決定しておくことが求められる。例えば,今回の活動のように,リエゾンが対応の窓口となり,臨薬協が必要な医薬品や機器のリストアップおよび物品選定と手配を行い,リエゾンと連携した臨薬卸連が現地に運ぶという流れを確立する。このように明確な役割分担により,各組織がスムーズに連携し,支援活動を迅速に進めることができる。

2) 情報共有の徹底

情報共有の徹底が不可欠である。災害時には状況が刻々と変化するため,最新の情報を全ての関係組織において共有することが重要となる。これには,専用の情報共有プラットフォームを活用することが有効である。

今回の地震災害においてDMAT薬剤班では,スプレッドシートを用いてクラウド上で発注をかけられる体制を整え,リエゾンを経由し卸業者への伝達と発注先への納品を行うとともに,災害処方箋を用いて各救護部隊と連携した避難所等への提供および在庫管理を行っていた。これらを参考に,臨薬協が管理するPOCT等の一覧と連携したプラットフォーム上で,被災地の状況や必要な支援物品のリスト,物流の状況などの情報をリアルタイムで共有し,各組織が必要な対応を迅速に行えるようにすることが望まれる。

また,情報の正確性を確保するため,情報の収集・整理・発信のプロセスを整備する必要がある。例えば,被災地からの情報を受け取った際には,まずその情報の窓口を担う者が整理し,必要なアクションを明確にした上で,卸業者と調整する関係者に伝達する。このプロセスを通じて,情報の混乱を防ぎ,支援活動を効果的に行うことができる。

3) コミュニケーション手段の多様化

コミュニケーション手段の多様化が重要である。災害時には通信インフラが途絶することが多く,複数のコミュニケーション手段を確保しておくことが必要となる。これには,インターネットや電話だけでなく,無線通信や衛星電話なども含まれる。また,災害発生時には迅速な意思決定が求められるため,現場でのコミュニケーションも重要である。例えば,現地に派遣されたリエゾンが被災地の状況を直接確認し,即座に対応策を決定する。このような現場での迅速な意思決定が,支援活動の効果を大きく左右する。

今回の地震災害においては,ミスコミュニケーションが起こらぬよう電話・メール・SNS等それぞれの長短を生かした適時様々な連絡手段により,リエゾンとの連携が行われながら調整対応が進められた。これらの手段の活用に関し,本委員会として整備が可能な範囲において,常に情報のやり取りが可能な状態を維持することが求められる。

4) 定期的な訓練の実施

災害発生時にスムーズに対応するためには,平時からの訓練が欠かせない。これには,実際の災害を想定したシミュレーション訓練や,各組織間の連携を確認するための共同訓練などが含まれる。これらの訓練を通じて,関係組織が災害時の対応手順を熟知し,迅速かつ効果的に行動できるようにしておくことが必要である。

具体的には,災害発生から支援活動の終了まで一連の流れをシミュレーションし,各組織がどのように連携するかを確認する。また,訓練の後には必ずフィードバックを行い,課題を洗い出し,次回の訓練や実際の災害対応に反映させる。気象庁が緊急地震速報(警報)を発表するタイミングで連携シミュレーションを実施する等も含め,全関係組織が参加する大規模な訓練を定例的に実施できる体制を整えることが望まれる。

2. 物品支援のスキームに係る課題

物品支援のスキームの改善は,災害時における迅速かつ効果的な支援活動を実現するために極めて重要である。能登半島地震における物品支援活動の経験から得られた教訓をもとに,以下の点が挙げられる。

1) 物品ニーズの迅速把握と共有

被災地の物品ニーズを迅速に把握し,関係組織全体で共有する仕組みを構築する必要がある。災害発生直後は,現地のニーズが刻々と変化するため,リアルタイムでの情報収集が求められる。これには,臨床検査の必要性が災害発生から数日後となることを考慮したなかで,現地におけるリエゾンの配置や,先に記述した臨薬協が管理するPOC試薬機器資材等の一覧と連携したプラットフォームを活用した情報共有が有効である。

今回の地震災害では,コアチームを軸として迅速性が求められる情報について日臨技のリエゾンや関係組織間で調整と対応を行った。リエゾンは派遣救援活動の調整と並行し,物品支援のために被災地の状況を直接確認の上,必要な物品や優先度を迅速に本部に報告する役割を担うこととなる。このことから,本委員会の立場としてのリエゾンを設置することや,プラットフォーム上で関係組織全体に物品ニーズとともに,納品後の活用状況を共有し,適切な支援物品の手配を行うことができるよう体制を整備することが望まれる。

2) 物品調達・配分の最適化

次に,物品の調達および配分の最適化が必要である。災害時においては,土日祝日を含めた継続的な日程で救護活動が行われ,支援要請は刻々と変わる状況に合わせて行われる。さらに,物品の配分においては,被災地のニーズに応じた優先順位を設定し,緊急性や適切性を考慮した物品を選定して配分することが重要となる。

今回の地震災害においても同様に,企業は営業日外では困難な要請への迅速な調整と対応が求められた。また,提供後の活用時に至急対処が必要な事象が発生した。これら経験を通して被災地への迅速な物品配送を実現するため,更なる物品調達・配分の最適化が望まれる。

また,現地提供する臨床検査機器や試薬の選定にあたり,どのようなヒトが利用するのか分からない状況では「簡易検査装置」といえども,支援物品の性質上,誰にでも簡単に操作できるというものではない点を念頭におくことが重要となる。

今回起きた保管温度による事象への突発的対応は最善の対策であったのか検証が必要である。測定時の環境温度は反応系の基本であり,測定上の注意事項として保管,検査実施時の環境温度を別途申し送りする等,送付物品の取り扱いに当たっての添付文書を踏まえた臨床検査機器や試薬の選定について,今後の対応の仕方を整備することが重要である。

3) 災害対応マニュアルの整備

物品支援のスキームを効果的に機能させるためには,詳細な災害対応マニュアルを整備することが必要である。本委員会では現在,規定のみが整備された状況にある。

今回の経験を通し,災害発生時の初動対応,物品の調達・配分プロセス,各関係組織の役割分担,情報共有の手順などが具体的に記載されたマニュアルの整備が必要である。特に,初動対応においては,迅速な支援活動を開始するための具体的な手順を明示し,関係者が迷わず行動できるようにする。また,定期的にマニュアルを見直し,実際の災害対応経験を反映させてアップデートすることが重要である。

4) 地域との連携強化

県調整本部における医薬品の供給体制と連携した臨床検査機器・試薬の貸与・供与による効果を上げるためには,被災地となる可能性のある地域との連携強化は不可欠である。

これまで様々な団体がそれぞれの立場で支援を行うため,災害時応援協定(以下,協定)を地域の自治体と締結させている。臨床検査機器・試薬の貸与や供与においても,実際の災害時に地域の実情に即した支援を行うため,県行政の薬事衛生を担当する課と協定を全国的に整備しておくことは重要である。また,今回の地震災害においては,DMAT薬剤班と連携することで納品後の提供までの流れを構築することができた。この経験を踏まえ,厚生労働省DMAT事務局および日本薬剤師会との連携は必須であり,今回の振興協議会としての救援活動の実績を報告するとともに今後のスムーズな活動のためには協議の場が必要であると実感した。

3. 法的制限に関わる課題

災害時における物品支援活動を円滑に行うためには,法的制限の対策を事前に講じておくことが極めて重要である。能登半島地震の経験から得られた教訓を基に,以下の点に取り組むことで,災害時における物品支援活動において,迅速かつ効果的な支援活動の実現が期待される。

1) 現行法の理解と整理

災害時の物品支援に関する現行法を十分に理解し,整理することが必要である。これには,災害対策基本法5)や都道府県ごとの防災計画6),先に記述の通知4)など,災害時に適用される各種法令の条文を確認し,それぞれの法的制限がどのような形で物品支援活動に影響を与えるかを把握することが重要となる。

例えば,医薬品の無償供与に関する規定や,物流業者による物品輸送の許可条件などを詳細に確認する。このプロセスを通じて,法的な障壁を明確にし,対応策を検討する基盤を構築する。

2) 法的制限に対する事前の備え

法的制限に対応するための準備を行うことが必要である。例えば,災害時に必要となる許可や認可を事前に取得しておくことで,緊急時の対応を迅速に行うことができる。特に,医薬品や医療機器の提供に関しては,事前に普通地方自治体(地方自治体)との協議を行い,地域ごとの防災計画との擦り合わせの上,必要な手続きを確認しておくことが重要である。

V  結語

振興協議会が組織として今回の災害時における臨床検査に関わる物品支援活動で果たした役割と今後の課題について検証した。

明確化した課題への取り組みを通じて,災害時における対応の質を向上させるとともに,地域社会の回復力を高めることが可能である。災害はいつ発生するかわからないが,平時からの備えと関係組織間の連携を密にすることで,変化する状況にも迅速に対応できる体制を築くことは可能であり,災害時における臨床検査に関わる安定した物品支援活動分野で貢献できると実感している。

以上,本稿で述べた内容を踏まえ,今後の災害対応における物的支援活動のさらなる発展を期待する。関係組織が一丸となって取り組むことで,より効果的な支援が可能となり,被災地の復旧・復興が迅速に進むことを願っている。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

支援物品を提供いただいた企業および自社も被災され大変困難な状況のなか,被災地へ搬送いただいた現地卸問屋各位のお力添えにより,迅速かつ効果的な支援活動が行えたと感じている。ご支援ご協力に深く感謝申し上げる。

文献
 
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