Japanese Journal of Medical Technology
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Efforts and outcomes of task shifting/sharing implemented by clinical laboratory technicians in emergency departments
Eiji ITOYuta ISOBEKohei MIYAMOTOYuki NISHIOMasahiro SUZUKIChiho MORIMOTOArisa KOJIMATakeshi OHSHIMA
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2025 Volume 74 Issue 1 Pages 219-225

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Abstract

全国で救急患者数が増加し,医師や看護師の負担が増える中,医療の持続可能性を確保するために各職種へのタスク・シフト/シェアが推進されている。2021年に臨床検査技師の業務範囲が拡大され,救急現場での役割が期待される。当院検査部門はこれを実現するため,2018年から業務削減と標準化に取り組み,労働力の効率化を図った。新グループの設立,ゼネラリストの育成を経て,2023年に常駐体制で本格運用を開始した。法改正により拡大された業務や,採血,心電図,検体採取等の従来業務を担当した結果,年間約1,005時間の負担軽減効果があった。一方で,法律上の制約により,静脈路確保や輸血療法などにおいて効率的な負担軽減に限界があることが課題として挙げられる。臨床検査技師が救急外来に常駐することで,医療現場の労働力が向上し,他職種との連携も深まることで,救急医療の質の向上に貢献すると考える。

Translated Abstract

As the number of emergency patients increases nationwide, and the burden on doctors and nurses grows, task shifting/sharing to various professions is being promoted to ensure the sustainability of healthcare. In 2021, the scope of clinical laboratory technicians’ work was expanded, and their role in emergency settings became more expected. To achieve this, our hospital’s lab department has been working on streamlining and standardizing tasks since 2018 to improve workforce efficiency. After establishing a new group and training generalists, we began full-scale implementation with a permanent system in 2023. By handling newly expanded tasks due to legal reforms, as well as traditional tasks such as blood draws, ECGs, and specimen collection, we reduced the burden by approximately 1,005 hours annually. However, legal restrictions limit effective burden reduction in areas such as IV access and transfusion therapy. We believe that having clinical laboratory technicians permanently stationed in emergency departments improves workforce efficiency and deepens collaboration with other professions, contributing to the enhancement of emergency medical care quality.

I  取り組みの背景

全国における救急自動車の出動件数は2023年に763万件を超え,過去最高となった1)Figure 1)。今後も高齢者数が増加する社会的背景を踏まえると,救急医療はさらなる需要の増加が見込まれ,携わる医師を中心に現場の負担増が懸念される。一方,医師の時間外労働規制が2024年4月に開始され,医師の負担を抑えながら持続可能な体制をどのように構築するか,について各医療施設で様々な施策が検討されている。近年,特定行為が可能な専門性の高い看護師の配置により,医師から看護師への業務分担が可能となった。しかしながら,幅広い業務を担う看護師に過度な負担がかかり,看護師の人員確保も課題である。医師,看護師以外の“多職種”を含めた体制作りが望まれる。

Figure 1  救急自動車による出動件数

総務省:令和5年中の救急出動件数等(速報値)より改編

他方,“多職種”の一角である臨床検査技師に目を向けてみると,大規模急性期病院に所属する臨床検査技師の多くは,終日検査室で検査業務に従事している。ヒト・モノ資源が一箇所に集中することで,大量検体を効率的に処理することが可能になったが,それ故に臨床検査技師の働くフィールドは自ずと検査室が中心となった。転機が訪れたのは2021年である。臨床検査技師等に関する法律が改正され,新たな業務が追加された2)Table 1)。これまで行っていた採血,心電図,エコー等のスキルに加え,静脈路確保等の業務を担う臨床検査技師が,救急現場に参画することで,前述の労働力不足を解決する一助となる可能性がある。本稿では,当院救急外来における医師・看護師の働き方改革支援を目的として,実践したタスク・シフト/シェアの取り組み内容と効果を,臨床検査技師の視点で詳説する。

Table 1 法改正により追加された臨床検査技師の業務

採血を行う際に静脈路を確保し,当該静脈路に接続されたチューブにヘパリン加生理食塩水を充填する行為
採血を行う際に静脈路を確保し,当該静脈路に点滴装置を接続する行為(電解質輸液の点滴を実施するためのものに限る。)
採血を行う際に静脈路を確保し,当該静脈路に血液成分採血装置を接続する行為,当該血液成分採血装置を操作する行為並びに当該血液成分採血装置の操作が終了した後に抜針及び止血を行う行為
超音波検査のために静脈路に造影剤注入装置を接続する行為,造影剤を投与するために当該造影剤注入装置を操作する行為並びに当該造影剤の投与が終了した後に抜針及び止血を行う行為(静脈路に造影剤注入装置を接続するために静脈路を確保する行為についても,「静脈路に造影剤注入装置を接続する行為」に含まれる。)
医療用吸引器を用いて鼻腔,口腔又は気管カニューレから喀痰を採取する行為
内視鏡用生検鉗子を用いて消化管の病変部位の組織の一部を採取する行為
運動誘発電位検査
体性感覚誘発電位検査
持続皮下グルコース検査
直腸肛門機能検査

一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会:法改正により追加される業務について より改編

II  刈谷豊田総合病院の概況

当院の概況をTable 2に示す。

Table 2 医療法人 豊田会 刈谷豊田総合病院の概況(2024年4月時点)

病床数 704床(一般病床698床,感染症病床6床)
医師・看護職員数 医師222名(医師186名,臨床研修医36名)看護職員969名
臨床検査技師数 68名(分院含む)
診療科目数 30
診療圏 愛知県刈谷市・高浜市・知立市・東浦町・大府市および,安城市・豊田市の一部(当院を中心とした半径約10 km,人口約70万人)
施設認定(一部) 地域医療支援病院
救命救急センター指定病院
災害拠点病院(地域中核災害医療センター)
DMAT指定医療機関
地域周産期母子医療センター
第二種感染症指定医療機関
愛知県がん診療拠点病院
臨床研修指定病院
歯科医師臨床研修指定病院
日本医療機能評価機構認定
平均在院日数 10.6日
救急車受入数 9,851名

III  救急外来業務に従事する臨床検査技師の勤務形態および技能

2024年8月現在,2名の臨床検査技師が平日日勤帯(週5日8:30~17:00)に常駐しており,これを7名のスタッフが交替で担当している。スタッフが取得した資格は,認定救急検査技師(2名),認定血液検査技師,二級臨床検査士(血液),ITパスポート,医療情報技師,超音波検査士(消化器領域),JHRS認定心電図専門士,緊急臨床検査士,第一種衛生管理者(2名),日本災害医療派遣チーム(DMAT)隊員(2名),Immediate Cardiac Life Support(ICLS)インストラクター,Mass Casualty Life Support(MCLS)インストラクター等である。受講した研修は,ICLSやMCLS,Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care(JPTEC)がある。夜勤帯の常駐については,現時点で対応するに至っていない。

IV  救急外来における臨床検査技師の業務内容

業務内容をTable 3に示す。1日のスケジュールは,始業直後に救急外来で行われるミーティングに参加し,情報共有を行うことからはじまる。その後,各種物品等の補充を行い,上記業務を開始する。終業時には夜勤帯への申送りミーティングが行われるため,伝達事項があれば報告し,業務終了となる。月に1回,救急外来師長,主任看護師,エリアリーダー看護師と臨床検査技師の間で運用に関するミーティングを行う。

Table 3 当院救急外来における臨床検査技師の業務内容

検査前準備 検査ラベル出力
静脈採血
検体採取物品準備
採血患者認証等
検体採取 血液培養を含む採血・分注
喀痰吸引や鼻咽頭拭い液等による各種検体採取
ドクターカー 出動前準備
緊急走行時アナウンス
挿管等各処置および検査の補助
記録
POCT 血液ガス測定
血糖測定
生理学的検査 心電図
超音波検査
静脈路確保 注射箋・認証ラベル出力
電解質液のルート作成
各種患者認証
静脈路確保等
輸血関連業務 採血
製剤搬送・認証
緊急輸血対応
検体検査結果報告 救急外来に設置した検査システム端末で結果送信
医師・看護師との検査結果共有
検査部門との仲介業務 追加検査の可否等各種問い合わせ対応
その他 患者移乗・移送
ベッドサイドモニター装着
処置・検査介助
画像情報取り込み
CPA患者への胸骨圧迫
入院案内説明
物品補充・環境整備等

当院救急外来のエリアは,救急搬送患者を対応する処置室(6床)と,ウォークインの救急患者を対応する診察室(3室),容態が安定した患者や入院待ち患者が待機するためのリカバリー室(6床)で構成されている。それぞれの部屋が物理的に離れており,看護師は院内トリアージやペインクリニック,血管造影検査,ドクターカーなど多岐に渡る業務を10名程度で対応しており,負担が大きい。このような背景の下,臨床検査技師は担当の看護師と連携・分業しながら迅速に検査や処置を行う。状況に応じて優先順位を考え,心電図検査や看護師の補助に徹するケースもあれば,ベットサイドモニター装着から検体採取,静脈路確保,心電図検査等,一連の業務を臨床検査技師のみで行う場合もある。その間,医師・看護師らは情報収集や記録,その他の業務に徹することも可能となる。加えて,これまで複数の医師や看護師で行っていた業務も臨床検査技師が介助することによって,その労力を他の診療に割くことができる。

V  備品

救急外来において臨床検査技師が現在までに揃えた備品をTable 4に示す。

Table 4 臨床検査技師が救急外来に設置した備品

検体検査システムクライアント端末1台
バーコードリーダー
ナーシングカート(PC設置用)
連絡用PHS
体温計
採血ブース(認証ラベル用ラベルプリンター・注射箋用汎用プリンター含む)

VI  タスク・シフト/シェアの実績・効果

救急外来における臨床検査技師の日常管理指標として,以下を設定している。

①患者シェア率(救急搬送患者に対して臨床検査技師が関わった割合)

②心電図検査件数

③採血・静脈確保(介助も含む)件数

④検体採取件数

⑤心エコー補助件数(研修医に対する超音波検査のOJT支援)

⑥ドクターカー出動件数

2023年度の実績は,①97%(3,176/3,276人),②2,986件,③2,148件,④453件,⑤30件,⑥88件であった。1件につき,凡その平均所要時間を①5分,②5分,③12分,④2分,⑤5分,⑥30分と仮定した場合,医師・看護師の負担軽減効果は換算すると年間約1,005時間分の負担軽減に寄与した計算になる。

日常業務の管理指標の他に臨床検査技師が常駐するメリットとして,検体検査の迅速報告が可能になる点が挙げられる。検査室で検査した救急外来患者の検体検査結果を,その場で(救急外来に設置した検査システムで)臨床検査技師が結果報告を行うことにより,Turn Around Timeを5分程度短縮することができた。さらに,生化学検査における採血管の変更(血清から血漿)を提案し,検査結果報告までの時間を10~15分短縮した。検査の時間短縮は,例えば感染症疑い患者の隔離措置解除を早め,診療の回転率を上げ,救急外来の不応需数の削減などの効果をもたらす。

VII  タスク・シフト/シェアの課題

法律の改正は,我々臨床検査技師が救急医療現場等で活躍するきっかけとなった。しかし,実際に実務を行うといくつか課題が挙げられる。例えば,採血を行うための静脈路確保において,電解質輸液以外の点滴を実施する場合は法律で認められておらず,医師・看護師がどんなに多忙であっても断らなければならない実情がある。接続のみ看護師に依頼することは,運用上極めて非効率である。輸血療法に関していえば,輸血に関する説明と同意書の受領から検体採取,輸血前検査,輸血後副反応の観察を行うとしても,肝心な輸血用血液製剤への接続が出来ないため,一連の業務として行うことができず,他職種からのニーズを満たすことができない。また,検査のための吸引による喀痰採取が可能となったが,導尿による尿検体の採取や動脈血採血(血液ガス分析)はできないため,検体検査の一環である検査前工程においても看護師や医師に頼らざるを得ない。導尿に関しては準備や実施,介助に1患者につき5~10分程度要するため,他の看護業務ができなくなる。動脈血採血は,特定看護師が実施する機会が増加したものの,医師への依存度は未だ高く,迅速性が求められる救急外来においては,歯がゆさを感じる。今後,「点」ではなく「線・面」で貢献可能な法改正を期待したい。

VIII  臨床検査技師が救急外来に常駐するまでのプロセス

日本臨床衛生検査技師会が令和5年度にまとめた実態調査によれば,臨床検査技師が救急外来で従事している人数は非常に少なく,全国でわずか23人(業務を兼務している場合,業務割合で通算で1名につき,1.0名)と報告されている3)。我々も当時は救急外来で展開する余力を持ち合わせていなかった。手始めとして2018年より業務削減や標準化に着手した。取り組みの一覧はTable 5を参照されたい。当院検査部門は総勢60名(2022年度時点)で,5つのグループで編成されており,まずは救急医療に携わる担当グループを新設すべく,6グループへの再編を目指すとともに,部門の民意と検査部門長の支持を得ながら人材を選定・育成することが急務であった。そこで2021年4月に科内プロジェクトを発足し,実行計画を検討した。グループ設立までのプロセスをFigure 2に示す。2022年1月には救急外来で展開するメンバーとして,コミュニケーションスキルが高い主任格の36歳中堅技師(輸血検査担当)と,気鋭の29歳若手技師(血液検査担当)2名を選定した。両名とも検査領域上の経験は,検体検査および輸血検査のみであった。ここから,救急医療に必要な基礎知識等を吸収するため,教育計画を立案し,履修を始めた。2022年8月に救急医療部門責任医師,看護師長,主任看護師と筆者で業務内容の調整を行った。この頃,現場のイメージを掴むべく,既に救急部門で臨床検査技師が活躍されている他院を見学させていただいた。2022年10月より午前のみ1名の常駐を開始し,本運用に向けシステム等の環境を整備した。2023年4月に新人含む2名を加え,4名から成るグループを新設し,終日1名が常駐することで本格的に運用を開始した。現場から要望をいただき,2024年4月には2名体制に移行し,7名のスタッフが交替して対応することで現在に至る。新設グループの命題は,救急外来における臨床検査技師の体制を整備することであるが,重要な要素はゼネラリストを育成することにあった。当院臨床検査部門では,各グループ間で人事異動の機会を設けているが,通常は数年~数十年に渡り専門分野に特化し,知識・技術を研鑽する。しかし救急外来では,様々な状況に対応する能力が求められる。よって,複数の検査領域について理解する必要性があった。そこで,新設グループには高い自由度を与え,グループ横断的に複数の検査領域を履修することができる体制を敷いた。これにより,検査部門内においても副次的な効果があった。すなわち,各グループにおいて予定外の休暇が発生した場合や,夜勤等により人員が不足した場合に,各グループを即時フォローすることが可能な体制が敷かれたのである(Figure 3)。

Table 5 削減・標準化した業務の一覧

血液像 作成基準見直し
骨髄像有核細胞数 院内測定中止
血糖電極法 機器使用中止
FDP/DD 機器の集約化
蛋白分画 外注化
プロゲステロン 外注化
ヘパプラテスト 院内測定中止
トロンボテスト 外注化
プラスミノーゲン 外注化
NSE 外注化
SF 院内測定中止
マイコプラズマ抗体定性 他法へ切り替え
ZTT 外注化
抗核抗体 自動化
サイロイドテスト 外注化
マイクロゾームテスト 外注化
HA-IgM 外注化
ASK 外注化
機器メンテナンス頻度 最適化
パニック値報告基準 改訂
畜尿量測定 容器変更で効率化
治験管理 データベース構築して標準化
用紙記入作業 電子化
試薬管理台帳手書き 電子化で廃止
機器の配置換え 作業効率化
画像取り込み作業 ネットワーク化で廃止
輸血検査機器酵素法 中止
輸血業務削減・省力化・再検討 20作業対応
輸血業務標準化 21文書マニュアル整備
Figure 2  グループ設立までのプロセス
Figure 3  新グループの役割イメージ図

IX  考察

医師・看護師の働き方改革支援を目的として,救急外来にてタスク・シフト/シェアを実践したが,当初,心理的障壁は非常に高かった。「できないことが多いのではないか」と不安があった。しかし,いざ始動すると,臨床検査技師が実施可能な業務,果たす役割は無数にあった。静脈路確保はもちろんのこと,例えば採血後の分注作業一つ挙げても明らかである。検査に精通した臨床検査技師であるが故に,採血困難者の限られた血液をロスなく適切に分注し,再採血を回避させることもできよう。緊急時や大量出血時の輸血はどうか。臨床現場と検査室の双方を把握する臨床検査技師がプラットフォームの役割を果たし,最適かつ迅速な輸血療法を提供することも考えられる。

他職種からの視点でみれば,臨床検査技師の常駐に対して懐疑的な意見があったことも事実である。これは迎える側としては当然の心理であり,むしろ我々が臨床検査業務に止まらず,チーム医療の一員として実施可能な業務は積極的にチャレンジする,というスタンスで臨む必要があるだろう。共に協働することで信頼関係を築くことができるのである。

最後に,改めて医師・看護師は非常に多くの業務を担っており,臨床検査技師が常駐することによる意義は大きいと考える。医師・看護師が退職や配置転換によって古参のメンバーが減少しても,臨床検査技師が常駐することで安定稼働に寄与することも期待できる。今後も他職種と連携して救急医療の質の向上に貢献していきたい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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