2025 Volume 74 Issue 2 Pages 354-361
透析患者の菌血症の特徴を知るため透析専門病院である当院の6年1か月間の血液培養結果を後方視的に検討した。分離菌はmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)を含むS. aureusが最多(41.9%)でStaphylococcus属が半数以上を占め,その半数以上でバスキュラーアクセス(VA),特に透析用カテーテルが感染巣と推測された。腸内細菌目細菌の分離率は25.1%と低く,感染巣は肝または腎嚢胞感染疑い例が多かった。当院の血液培養陽性患者の30日死亡率(10.3%)は既報に比べ低い傾向がみられたが,菌血症の全死亡数17例に対しMRSA死亡数7例は41.2%を占め有意に多かった。透析患者では腸内細菌目細菌の分離率が低く,その死亡例が少ない特徴がみられた。よって,MRSA死亡数が有意に多かったと考えられる。透析患者の菌血症において起炎菌としてMRSAが,感染巣として透析用カテーテルが重要であることが示唆された。透析患者の菌血症について明らかにするためには更に多くの施設のデータの蓄積が必要である。
To identify the features of bacteremia in patients on dialysis, we retrospectively examined the blood culture results taken over 6 years and 1 month at our specialized dialysis hospital. The most commonly isolated bacteria were Staphylococcus aureus including methicillin-resistant S. aureus (MRSA) (41.9%), with Staphylococcus spp. accounting for 50% or over. Importantly, vascular access, in particular, the dialysis catheter, was the focus of infection for more than 50% of patients. The isolation rate of Enterobacteriaceae bacteria was low (25.1%), and the suspected infection focus was the liver or kidney cyst. The 30-day mortality rate (10.3%) for patients with positive blood culture at our facility was lower than previous reports; however, the number of MRSA deaths (n = 7) accounted for 41.2% of the total deaths due to bacteremia (n = 17), which was significant. Patients on dialysis characteristically had a low isolation rate of Enterobacteriaceae bacteria and small number of deaths due to these bacteria. Therefore, the number of MRSA deaths was significantly high. Our results suggest that MRSA is a significant cause of bacteremia among patients on dialysis, and the dialysis catheter is a significant infection focus. In the future, studies that involved multiple facilities are needed to further clarify the etiology of bacteremia in patients on dialysis.
2021年の透析医学会統計調査では透析患者数は349,700人であり,人口百万人当たりの患者数は2,786人に達している。透析患者の主要死因の第2位は感染症であり,全体の22.0%を占め長年にわたり透析患者の死因の上位を占めている1)。
しかしながら,国内の透析患者における菌血症について検討した報告2)~4)は少ない。当院は千葉県東葛地域において7か所の関連施設を有し,関連施設を含めて常時約1,000名の患者の維持透析を行う透析医療の中核病院である。自院の関連施設の透析患者に加え,他院から紹介された透析患者および非透析患者の治療を行っている。当院のような透析専門病院の血液培養から分離される細菌の解析成績もわが国の透析医療の向上のために意義があると考え,当院透析患者における血液培養陽性症例の特徴を検討した。
当院において2015年5月から2021年5月までの6年1か月の間に細菌検査室に提出された血液培養検体1,206件(透析患者検体970件,非透析患者検体236件)を対象とした。
当院は標榜診療科14科,一日平均外来患者数143.0名,平均在院日数17.0日,年間のべ入院患者数16,302名(このうち透析患者13,508名),年間新規入院患者数1,049名(このうち透析患者742名)の民間病院である(各データは新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年度分)。集計対象期間の病床数は95床であるが,2018年1月より95床のうち35床が療養病棟に移行したため,2018年1月以降は療養病棟を除外して集計した。
2. 方法透析治療を受けている患者を透析患者とし,それ以外の患者を非透析患者とした。透析患者検体970件のうち443件,非透析患者検体236件のうち184件が外来患者から採取された検体であった。非透析患者の依頼診療科内訳は一般内科118件,泌尿器科52件,呼吸器内科29件,その他28件,不明9件であった。
血液培養機器はBACTEC FX40(日本ベクトン・ディッキンソン社)を使用し,培養期間は原則5日間とし,医師から依頼があった場合は10日間まで延長した。
分離菌株は30日以内に同一患者から同一菌種が分離された場合は初回のみを有効とし,菌が複数分離された場合は各々を1菌種として集計した。1,000 patient-daysあたりの採取セット数,陽性セット率,複数セット採取率,汚染率は,日本臨床微生物学会血液培養検査ガイド5)に準拠しTable 1の通りに算出した。また陽性セット数,血液培養検査数,採取セット数,solitary blood culture(SBC)セット数は千葉ら6)の報告を参考にTable 1の通りに定義した。
項目 | 定義 | 備考 |
---|---|---|
1,000 patient-days当たりの採取セット数 | (合計採取セット数)÷(在院患者のべ数)× 1,000 | 1 |
陽性率 | (陽性セット数)÷(合計採取セット数)× 100 | 1 |
複数セット採取率 | (合計採取セット数-合計SBCセット数)÷(合計採取セット数)× 100 | 1 |
汚染率 | (汚染菌検出採取セット数)÷(合計採取セット数)× 100 | 1 |
陽性セット数 | 血液培養検体1セットのうち1本以上陽性となったセット数の合計 | 2 |
血液培養検査数 | 同一日付内に1セット以上血液培養を提出した患者数(依頼数) | 2 |
採取セット数 | 1回の血管穿刺により得られた検体を1セットとした採取セット数 | 2 |
SBCセット数 | 同一患者から同日付内に1セットのみの血液培養が提出されたセット数 | 2 |
起炎菌か汚染菌かの判定は,当院には感染症医が在籍しないため過去の報告を参考に細菌検査室で以下のように定義した。なお,陽性セット率の算出には汚染菌による血液培養陽性例を含めたが,その他の検討には起炎菌が分離された症例のみを用いた。
起炎菌:同日に複数セットが採取され2セット以上から分離されたもの7),8),1セットのみから分離された場合には,繰り返し血液培養から同一菌種が分離されたもの,あるいは血液培養施行前後に他の材料から分離された菌種が血液培養分離菌と同一であったもの。以上の条件に当てはまらないが分離菌に対して抗菌薬治療が行われたもの。
汚染菌:分離菌に対して抗菌薬治療が行われなかったもの6)。また同日2セット以上のうち1セットのみから,coagulase-negative staphylococci(CNS),Corynebacterium属,Cutibacterium属,Micrococcus属,Bacillus属,α-streptococcus属が検出されたもの6),9)。
起炎菌が分離された血液培養陽性例については感染巣や予後を後方視的に電子診療録より調査した。推定される感染巣については,電子診療録の主治医の診断名および血液培養施行前後に他の材料から分離された菌種が血液培養分離菌と同一であった場合にその採取部位より推定した7),8)。ただし,透析用カテーテル先端などバスキュラーアクセス(VA)に関連した検査材料から血液培養と同一の菌種が分離された場合でもVA以外の感染巣が疑われる場合はVAから除外した10)。感染巣を特定できなかった場合は不明とした。
統計処理においてmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)菌血症の死亡数とMRSA以外の菌種による死亡数の比較にはχ2検定を実施し,p値は統計学的有意差を5%以下に設定した。検定にはMicrosoft Excel 2019のCHITEST関数を用いた。
項目 | |||
---|---|---|---|
適切さの指標 | 1,000 patient-daysあたりの採取セット数 | 透析 | 12.6 |
非透析 | 17.1 | ||
計 | 13.4 | ||
陽性セット率(%) | 透析 | 20.7 | |
非透析 | 23.1 | ||
複数セット採取率(%) | 透析 | 29.1 | |
非透析 | 67.6 | ||
汚染率(%) | 透析 | 1.4 | |
非透析 | 5.1 | ||
血液培養統計値 | 血液培養検査数 | 透析 | 970 |
非透析 | 236 | ||
計 | 1,206 | ||
血液培養合計採取セット数 | 透析 | 1,130 | |
非透析 | 355 | ||
計 | 1,485 |
1,000 patient-daysあたりの採取セット数は透析患者が12.6,非透析患者が17.1であった。透析患者および非透析患者の陽性セット率はそれぞれ20.7%,23.1%,複数セット採取率はそれぞれ29.1%,67.6%,汚染率はそれぞれ1.4%,5.1%であった。
2. 血液培養陽性症例の患者背景(Table 3)項目 | 透析患者 n = 165 |
非透析患者 n = 41 |
---|---|---|
男性(名) % |
88 53.3 |
17 41.5 |
年齢中央値(歳) 範囲(歳) |
73 37~96 |
81 62~100 |
透析歴中央値(年) 範囲 |
6 1か月未満~42年 |
なし |
透析患者31名の透析歴が不明であり,集計より除外した。
起炎菌が分離された患者の性別,年齢,透析歴をTable 3に示した。透析患者に比べ非透析患者の年齢が高かった。透析患者31名の透析歴が不明であり,集計から除外した。
3. 分離菌数割合(Table 4)起炎菌の分離菌数割合をTable 4に示した。透析患者では,MRSAを含むS. aureusが70株(41.9%)を占め,次いでCNSが27株(16.2%),Escherichia coli[extend spectrum β-lactamase(ESBL)産生株を含む]が21株(12.6%)と続いた。非透析患者では透析患者と比べ嫌気性菌を除くグラム陰性桿菌が36株(78.3%)と多く,中でもE. coliが23株(50.0%)と最多であった。透析患者から分離された薬剤耐性菌はMRSA 32株,ESBL産生E. coli 6株,Klebsiella pneumoniae 2株であった。
4. 分離菌上位5菌種の推定される感染巣(Table 5)感染巣 | MSSA 透析 n = 38(%) |
MRSA 透析 n = 32(%) |
CNS 透析 n = 27(%) |
---|---|---|---|
バスキュラーアクセス(VA) | 26(68.4) | 21(65.6) | 16(59.3) |
VA内訳 | |||
カテーテル | 22(57.6) | 12(37.5) | 15(55.6) |
グラフト | 2(5.3) | 8(25.0) | 1(3.7) |
その他VA | 2(5.3) | 1(3.1) | 0 |
その他 | 4(10.5) | 2(6.3) | 4(14.8) |
不明 | 8(21.1) | 9(28.1) | 7(25.9) |
MSSA: methicillin-susceptible Staphylococcus aureus
MRSA: methicillin-resistant Staphylococcus aureus
CNS: coagulase-negative staphylococci
感染巣 | Escherihia coli | Klebsiella pneumoniae | ||
---|---|---|---|---|
透析 n = 21(%) |
非透析 n = 23(%) |
透析 n = 14(%) |
非透析 n = 4(%) |
|
肝臓または腎臓の嚢胞感染疑い | 8(38.1) | 0 | 5(35.7) | 0 |
尿路(嚢胞感染疑いを除く) | 1(4.8) | 13(56.5) | 1(7.1) | 1(25.0) |
肺炎 | 0 | 3(13.0) | 1(7.1) | 0 |
その他 | 2(9.5) | 0 | 0 | 1(25.0) |
不明 | 10(47.6) | 7(30.4) | 7(50.0) | 2(50.0) |
E. coli,K. pneumoniaeはextend spectrum β-lactamase産生株を含む。
透析患者からの分離菌上位5菌種の推定される感染巣は,Staphylococcus属では,methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)68.4%(26/38),MRSA 65.6%(21/32),CNS 59.3%(16/27)とVAが最多であった。腸内細菌目細菌では,E. coli,K. pneumoniaeの分離患者でそれぞれ38.1%(8/21),35.7%(5/14)と肝臓または腎臓の嚢胞感染疑いが多くみられた。非透析患者で分離割合が高かったE. coliの推測される感染巣は56.5%(13/23)で(嚢胞感染疑いを除く)尿路であった。
5. 分離菌別死亡数(Table 6)菌種 | 30日死亡数 | 分離のべ患者数 | 30日死亡率(%) | 死亡数 |
---|---|---|---|---|
methicillin-resistant Staphylococcus aureus | 7 | 32 | 21.9 | 7 |
methicillin-susceptible Staphylococcus aureus | 3 | 38 | 7.9 | |
CNS | 3 | 27 | 11.1 | |
Klebsiella pneumoniae | 1 | 12*1 | 8.3 | 10 |
Streptcoccus pneumoniae | 1 | 1 | 100.0 | |
Streptococcus constellatus ssp. constellatus | 1 | 1 | 100.0 | |
Bacteroides fragillis group | 1 | 1 | 100.0 | |
上記以外の菌種 | 0 | 55 | 0 | |
合計 | 17 | 165*2 | 10.3 | p = 0.016 |
CNS: coagulase-negative staphylococci
*1:extend spectrum β-lactamase産生株を含まず。
*2:複数菌重複処理後のべ患者数
菌種 | 30日死亡数 | 分離のべ患者数 | 30日死亡率(%) |
---|---|---|---|
Escherichia coli | 1 | 23 | 4.4 |
Morganella morganii | 1 | 2 | 50.0 |
(上記以外の腸内細菌目細菌*3 | 1 | 4 | 25.0) |
CNS | 1 | 1 | 100.0 |
上記以外の菌種 | 0 | 16 | 0 |
合計 | 4 | 45*2 | 8.9 |
*3:患者死亡のため検査中止となり菌名不明
透析患者の血液培養採取30日以内の死亡例は複数菌重複処理後のべ患者数を165名として,17例[10.3%(17/165)]であった。非透析患者の死亡例は複数菌重複処理後のべ患者数を45名として,4例[8.9%(4/45)]であった。
透析患者の分離菌種ごとの死亡率をStreptococcus pneumoniae等の1症例のみの死亡率を除外して比較するとMRSAの死亡率は21.9%(7/32)と最も高かった。また,MRSAが分離された場合の死亡数7/32はMRSA以外の菌種が分離された場合の死亡数10/133に比べ有意に高かった(p = 0.016)。
本検討では透析専門病院である当院の血液培養検査結果を集計し後方視的に感染巣と予後を調査した。
Table 2に示す通り当院の血液培養は大曲ら9)が実施した血液培養の実態・パイロットスタディの集計値(1,000 patient-daysあたりの採取セット数中央値25.2範囲10.4~64.2,陽性率中央値13.9%範囲11.0~20.0%)や大城11)の報告(1,000 patient-daysあたりの採取セット数76.5,陽性率9.7%)と比較し,1,000 patient-daysあたりの採取セット数が少なく陽性率が高かった。採取セット数の不足と高い陽性率より血液培養を施行すべき患者の取りこぼしが示唆された。加えて複数セット採取による検査感度の上昇が報告されており11),12),当院の複数セット採取率の低さからは血液培養の検査感度の低下も疑われた。しかしながら,今回の検討で透析患者における菌血症の特徴が示唆されたので報告する。
透析患者における分離菌割合はTable 4に示す通りでMRSAを含むS. aureusが最多であった。一方,非透析患者ではE. coliが半数を占め,透析患者と非透析患者の血液培養からの分離菌数割合は明らかに異なっていた。これはSuzukiら13)の報告と同様であった。Suzukiら13)は透析患者の菌血症の起炎菌は1/2~3/4がグラム陽性球菌であり,その中でもStaphylococcus属特にS. aureusが多く,一般患者と比較してE. coliの分離率が低いと述べている。血液培養起炎菌について千葉ら6)や面ら14)はE. coli,K. pneumoniae,S. aureusの順で分離頻度が高かったと報告している。また,厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infection Surveillance; JANIS)2021年度年報15)(全集計対象医療機関n = 1,135,111)の血液検体からの分離菌数割合では最多はE. coli(17.1%)でS. epidermidis(11.5%),S. aureus(11.3%)が続いている。当院透析患者からの分離菌はJANIS年報と比較するとE. coliの割合が低く逆にS. aureusが4倍程度高く,Staphylococcus属が半数以上を占めた。
この理由として透析患者から分離されたStaphylococcus属の推測される感染巣がVA,中でも透析用カテーテルによる感染例が多かったことが挙げられる。岩淵ら2)は発熱を呈した透析患者に対して血液培養を施行し,検出菌はStaphylococcus属が最多であり,その感染巣は透析用カテーテルの頻度が最も高かったと報告し,山下ら10)はVA感染症例の血液培養陽性例でS. aureusが最も多く検出され,半数がMRSAであったと報告している。当院の結果も概ね同様の傾向が認められた。透析患者は,透析を行うたびにVAへ穿刺や接続が必須であり,皮膚常在菌であるStaphylococcus属の感染頻度が増加したと考えられる。加えて,腸内細菌目細菌の感染巣はTable 5に示す通り,非透析患者から分離されたE. coli では尿路感染が最多であったが,透析患者から分離されたE. coli,K. pneumoniaeでは肝臓または腎臓の嚢胞感染疑いが多かった。これも透析患者の菌血症の特徴の1つと考えられた。
次に死亡率であるが,当院の透析患者の起炎菌が分離された血液培養陽性患者の死亡率はTable 6に示す通り10.3%であった。本邦での透析患者の血液培養陽性患者の死亡率は,岩淵ら2)が52%,小口ら3)が約6割と報告している。いずれも血液培養陽性患者のうち敗血症と診断された患者の死亡率であり,血液培養陽性患者に対する死亡率を示した本検討とは比較できないが,2報の血液培養施行回数,陽性率,死亡患者数から菌血症の死亡率を推測すると,岩淵ら2):約34.5%,小口ら3):約41.6%となり,当院の死亡率は1/3~1/4程度と低い傾向がみられた。この一因として当院透析患者の菌血症の起炎菌にStaphylococcus属が多く,その感染巣がカテーテルであった頻度が高かったことが挙げられる。和田ら16)はMRSAによるカテーテル菌血症とカテーテル以外の菌血症の予後を比較し,カテーテル菌血症はfocusの除去が容易であるため予後が良好であると述べている。当院のS. aureus菌血症も同様にVA,透析用カテーテルが感染巣であった症例が多く,感染巣の除去が容易で死亡率が低かったと推測される。
一方,分離菌別に死亡数を比較すると当院においてMRSAが分離された場合の死亡数(7例)はMRSA以外の菌種が分離された場合の死亡数(10例)に比べ有意に高く(p = 0.016),透析患者にとってMRSAが予後に関係する重要な病原菌であることが示された。面ら14)は,救急外来における血液培養陽性症例の死亡例12例のうち7例で腸内細菌目細菌が分離されたと報告している。当院においてもTable 6に示す通り,非透析患者の死亡例4例のうち3例で腸内細菌目細菌が分離された。このことから,透析患者の血液培養では腸内細菌目細菌の分離率が低いため腸内細菌目細菌の死亡数が少なくなり,MRSAの死亡数が有意に高くなった可能性が考えられるが,理由については今後の検討が必要である。
最後に今回の検討には4つの制限があると考えられる。第1に,当院の血液培養依頼検体数が少なく複数セット採取率も低く,血液培養検査を施行すべき患者の取りこぼしと検査の感度の低下が疑われる。第2に,抗菌薬投与について評価を行っていない。第3に,高齢の患者が多く予後を考慮した結果,保存的治療となった症例が含まれている。第4に,単施設の後方的検討であり,透析患者の菌血症の全体像を示すことはできない。透析患者の菌血症について明らかにするためには多くの透析施設の血液培養結果を蓄積する必要がある。
今回,透析専門病院の血液培養陽性症例の検討を行った。透析患者からの分離菌種はMRSA,MSSAを中心とするStaphylococcus属の割合が高く,感染巣はVAが多く,中でも透析用カテーテルが大半を占めた。透析患者から分離された腸内細菌目細菌の分離率は25.1%と非透析患者に比べ低く,E. coli,K. pneumoniaeの推測される感染巣は肝または腎嚢胞が多かった。当院透析患者における血液培養陽性時の30日死亡率(10.3%)は,既報に比べ低い傾向がみられたが,死亡数を分離菌種別に比較するとMRSAによる死亡数が最多(7/17)でMRSA以外の菌種に比べ死亡数が有意に多かった(p = 0.016)。
透析患者の菌血症について明らかにするためには,今後多くの施設の血液培養検査結果とその詳細な解析の蓄積が必要である。
本検討は院内倫理委員会の承認を得ている(承認番号2023-1)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。