Japanese Journal of Medical Technology
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Antimicrobial susceptibility of Group B streptococci and isolation rate of Group B streptococci with reduced penicillin susceptibility (PRGBS) isolated at our hospital
Kaoru OKIBAYASHIMakoto KAWACHIMasaki IIMURANanako NOBUHIROShogo MIYAZAWARika MIZUTANIKana OIKAWAMasahiko SODA
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Keywords: GBS, PRGBS
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2025 Volume 74 Issue 2 Pages 369-376

Details
Abstract

B群連鎖球菌(Group B Streptococcus, Streptococcus agalactiae; GBS)は高齢者や糖尿病患者など易感染性宿主の感染症の原因菌として知られ,新生児髄膜炎や敗血症など,重篤な侵襲性感染症をも引き起こす。これまでGBSは,β-ラクタム系抗菌薬に感性であったため,GBS感染症の第一選択薬はペニシリン系抗菌薬が用いられてきた。しかし近年,ペニシリン低感受性GBS(GBS with reduced penicillin susceptibility; PRGBS)の存在が報告されている。今回,2012年から2022年に当院で分離されたGBS 2,987株の薬剤感受性推移,PRGBSの検出状況を調査した。GBSのpenicillin G非感性率は2019年以降低下し,2%前後で推移していた。PRGBSの分離率は,呼吸器系検体が22.1%と最も割合が大きかった。検体種別に関わらず70歳台以上の高齢者からの分離が大半を占めており,妊産婦や新生児からは認めなかった。またPRGBSは,ペニシリン系抗菌薬に非感性であると同時に,セファロスポリン系抗菌薬やマクロライド系抗菌薬,フルオロキノロン系抗菌薬にも非感性を示すことが多く,多剤耐性傾向であることが示された。GBS感染症に対する抗菌薬の適切な選択のために,今後もGBSの薬剤感受性の動向をモニタリングする必要があると考える。

Translated Abstract

Streptococcus agalactiae (Group B Streptococci; GBS) is known as a causative agent of infections in susceptible hosts such as the elderly and diabetic patients, and also causes severe invasive infections such as neonatal meningitis and sepsis. Because GBS has been sensitive to β-lactams, β-lactams, especially penicillins, have been used as first-line antimicrobial for GBS infection. Recently, however, the existence of GBS with reduced penicillin susceptibility (PRGBS) has been reported. Therefore, we investigated the antimicrobial susceptibility of 2,987 GBS strains isolated in our hospital from 2012 to 2022 and isolation rate of PRGBS. The PCG non-sensitivity rate for GBS declined after 2019 and remained around 2%. Respiratory specimens had the highest isolation rate of PRGBS at 22.1%. By age, the majority of isolates of PRGBS were from older persons in the 70s and above, regardless of specimen type. PRGBS was not isolated from genital specimens in the 10–40 age range or from newborns. PRGBS was isolated more frequently from hospitalized patients than from outpatients, especially from older hospitalized patients aged 70 years or older, who accounted for about 20% of isolates. In addition, PRGBS were nonsusceptible to penicillins, as well as to cephalosporins, macrolides, and fluoroquinolones, indicating that they tended to be multidrug-resistant. We consider it necessary to continue to monitor trends in GBS antimicrobial susceptibility for appropriate selection of antimicrobial agents for GBS infections.

I  はじめに

B群連鎖球菌(Group B Streptococcus, Streptococcus agalactiae; GBS)は,通性嫌気性グラム陽性の溶血性レンサ球菌であり,Lancefield分類でB群に分類される1)。ヒトの腸管や膣の常在菌であるが,高齢者や基礎疾患を有する患者における敗血症や髄膜炎,皮膚・軟部組織感染症などの原因菌として知られている。また,妊婦の10–30%程度はGBSを膣等に無症候性に保菌しており,新生児における髄膜炎や敗血症などの侵襲的な感染症の一部はGBS保菌妊婦からの垂直感染であると考えられている2),3)。そのため,Centers for Diseases Control and Prevention(CDC)が推奨するガイドラインでは,妊娠35~37週の全ての妊婦に対する膣・直腸からのGBSスクリーニング検査が推奨されており,GBSを膣に保菌している妊婦に対しては分娩時にペニシリン系抗菌薬などの予防投与が行われる4)~6)

GBSはペニシリン(penicillin G; PCG)を始めとするβ-ラクタム系抗菌薬に感性を示すとされてきたため,GBS感染症の予防及び治療の第一選択薬としてペニシリン系抗菌薬が使用され,ペニシリンアレルギーの患者にはマクロライド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬が適応とされてきた4),7),8)。しかし,2008年にペニシリン低感受性B群連鎖球菌(GBS with reduced penicillin susceptibility; PRGBS)の存在が報告された9)。さらに近年,PRGBSはペニシリンに低感受性を示すだけでなく,同時にマクロライド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬に耐性を示すことが多く,多剤耐性傾向を持っていることが明らかになってきた10)。したがって,今後のGBS感染症の予防および治療の際に重要になるのが,β-ラクタム系抗菌薬に対する感受性率の把握や多剤耐性株の蔓延防止である。そこで今回,当院で分離されたGBSについて,薬剤感受性推移およびPRGBS分離率について報告する。

II  対象と方法

1. 対象

2012年4月から2022年12月に当院に提出された各種臨床検体から分離・同定されたGBS 2,987株(2012年:165株,2013年:245株,2014年:305株,2015年:282株,2016年:267株,2017年:265株,2018年:312株,2019年:331株,2020年:292株,2021年:272株,2022年:251株)を対象とした。対象期間中に同一患者から複数回分離された場合は,初回分離された株を対象とし,1患者1株/年とした。対象抗菌薬はPCG,アンピシリン(ampicillin; ABPC),セフトリアキソン(ceftriaxone; CTRX),セフェピム(cefepime; CFPM),クラリスロマイシン(clarithromycin; CAM),クリンダマイシン(clindamycin; CLDM),レボフロキサシン(levofloxacin; LVFX),バンコマイシン(vancomycin; VCM),エリスロマイシン(erythromycin; EM)とした。

2. 同定

2012年から2017年に分離された菌株は,プロレックス「イワキ」レンサ球菌(イワキ株式会社)のラテックス凝集反応を利用し,Lancefieldの分類でgroup Bに群別された菌株をGBSと同定した。2017年以降に分離された菌株は,微生物分類同定分析装置MALDIバイオタイパー(ブルカージャパン株式会社)を用い,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析によって,S. agalactiae(スコア2.0以上)と同定された株をGBSとした。

3. 薬剤感受性検査

ドライプレート‘栄研’(栄研化学株式会社)を用い,抗菌薬のMIC値を添付文書に準拠し微量液体希釈法によって測定した。MIC値の判定はM100-Ed31(米国臨床検査標準協会)に準拠した。なお,ドライプレート‘栄研’の測定薬剤の変更により,EMについては2019年以降の菌株を対象とした。

4. 方法

GBSの年毎の薬剤感受性を算出した。PCGの最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)により,0.12 μg/mL以下のGBSをペニシリン感受性GBS(GBS with penicillin susceptibility; PSGBS),0.25 μg/mL以上のGBSをPRGBSとした。PSGBS,PRGBSが検出された検体について,年齢別,外来・入院別,臨床検体種別の分離率について調査した。

III  結果

1. 各種抗菌薬に対する薬剤感受性

2012年から2022年に当院で分離・同定されたGBSの各種抗菌薬の薬剤感性率年次推移をFigure 1に示す。ABPCの感性率は100%を維持し,CTRX,CFPMの感性率は97%以上を維持し年次変化は認めなかった。CLDM,CAMの2012年の感性率はそれぞれ87.3%,73.9%であったが,2022年には72.9%,54.6%と低下した。LVFXの感性率は,2012年は64.8%,2022年は63.3%であり年次変化は認めなかった。EMの感性率は,2019年60.7%が2022年には54.2%となり低下した。

Figure 1  各種抗菌薬の薬剤感性率年次推移

PCGのMIC分布と非感性率の年次推移をFigure 2に示す。PCGの非感性率は,2012年から2015年にかけて年々上昇し,4.2%から10.6%となったが,その後は年々低下し,2022年には2.0%となった。なお,PCGはMIC 0.12 μg/mL以下が感性とされているが,PCG非感性率が高値を示した2013~2015年はMIC 0.25 μg/mLの分布が大きく,全体を通してMIC 0.5 μg/mLの分布は小さかった。

Figure 2  PCGのMIC分布と非感性率の年次推移

2. 年齢別ならびに外来・入院別のGBS分離件数とPRGBS分離率

年齢別ならびに外来・入院別のGBS分離件数とPRGBS分離率をFigure 3に示す。GBSの分離は20–30歳台,次いで70–80歳台で多く認められた。当院では新生児の保菌スクリーニングとして鼻汁,胃液,臍の一般細菌培養を全児に対して実施しており,0歳児からも分離された。PSGBS,PRGBSが分離された年齢中央値は,それぞれ46歳,82歳であった。PRGBS分離率は,40歳台までは1.0%未満であったが,高齢になるほど上昇し,90歳以上で17.6%と最も高値を示した。

Figure 3  年齢別ならびに外来・入院別のGBS分離件数とPRGBS分離率

GBSは外来患者から2,213件,入院患者から771件分離され,外来患者が入院患者の約3倍となった。PRGBS分離率は外来で3.4%(76/2,213件),入院で9.1%(70/771件)と入院患者の割合が高値を示した。外来患者のGBSの分離は20–30歳台が最も多く,次いで70–80歳台で多く認められた。外来患者のPRGBS分離率は,70歳台5.9%,80歳台9.5%,90歳以降15.5%と高齢者で高値を示した。入院患者のGBSの分離は0歳児が最も多く,次いで70–80歳台で多く認められた。入院患者のPRGBS分離率は,0歳児は0%であったが,70歳台18.5%,80歳台23.1%,90歳以降23.7%と外来患者の同年代より高値を認めた。

3. 臨床検体種別のPRGBS分離率

臨床検体は生殖器系,泌尿器系,呼吸器系,血液・髄液,消化器系,その他検体に分類した。臨床検体種別のGBS分離件数とPRGBS分離率をTable 1に,年齢別ならびに臨床検体種別のGBS分離件数とPRGBS分離率をFigure 4に示す。GBSは生殖器系からの分離が最も多く,次いで泌尿器系が多かった。PRGBS分離率は呼吸器系が22.1%と最も高く,次いで血液・髄液からも2.9%の分離を認めた。生殖器系からは0.2%分離されたが,消化器系検体からは認めなかった。

Table 1 臨床検体種別のGBS分離件数とPRGBS分離率

生殖器 泌尿器 呼吸器 血液・髄液 消化器 その他
GBS件数 980 862 562 104 83 396
PRGBS件数 2 15 124 3 0 2
PRGBS分離率 0.2% 1.7% 22.1% 2.9% 0% 0.5%
Figure 4  年齢別ならびに臨床検体種別のGBS分離件数とPRGBS分離率

Figure 4より,泌尿器系,呼吸器系検体は高齢になるほどGBS分離件数・PRGBS分離率がともに上昇する傾向であった。生殖器系検体は妊婦のGBSスクリーニング検体を含むため,GBSは30歳台をピークに20–40歳台から多く分離されたが,PRGBSは50歳以降でのみ認められた。その他検体に関して,新生児保菌スクリーニングの臍培養を行っているため0歳児からのGBS分離件数は多いが,PRGBSは認めなかった。

4. PSGBSとPRGBSの薬剤非感性率

PSGBSとPRGBSにおける他の薬剤非感性率をFigure 5に示す。MEPMとVCMはPSGBS,PRGBSともに非感性率0%であったが,その他薬剤はすべてPRGBSがPSGBSより非感性率が高値であり多剤耐性傾向を示した。PRGBSについて,CTRXやCFPMなどのセファロスポリン系抗菌薬は非感性率20%前後であったが,CAM,EMなどのマクロライド系抗菌薬やリンコマイシン系抗菌薬のCLDMは非感性率が70%を超え,ニューキノロン系抗菌薬のLVFXは非感性率100%であった。

Figure 5  PSGBSとPRGBSにおける他の薬剤非感性率

5. 院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)データとの比較

院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)では,GBSに関してPCG,ABPC,セフォタキシム(cefotaxime; CTX),EM,CLDMの薬剤感受性を調査している。2017年以降の全国の入院検体,外来検体における各種抗菌薬の感受性結果から非感性率を算出し,当院データと比較した。結果をFigure 6に示す。第3世代セファロスポリン系抗菌薬について,JANISはCTXを集計しているが,当院はCTRXを測定しているため,参考としてCTXとCTRXを比較した。PCG,CTXとCTRX,EM,CLDMのいずれも,当院とJANISデータで大きな乖離は認めなかった。全国的にもPCGの非感性率は低下傾向にあるが,EM,CLDMの非感性率は高値を維持している。

Figure 6  JANIS公開情報から算出したGBSの薬剤非感性率

IV  考察

GBSは高齢者や基礎疾患を有する患者における敗血症や髄膜炎,皮膚・軟部組織感染症などの原因菌となるほか,母体からの垂直感染により新生児髄膜炎や敗血症など重篤な感染症を引き起こすため,治療には適切な抗菌薬を選択する必要がある。GBS感染症の予防及び治療の第一選択薬としてペニシリン系抗菌薬が使用されるが,2008年にPRGBSの存在が報告された。それ以降,米国やアジア諸国,ヨーロッパからもPBPにアミノ酸置換が確認されたPRGBSの出現が報告されている11)。本邦において,新生児の侵襲性感染症に関連したPRGBSは現時点では認められていないが12),全国的にPRGBSは高齢者の呼吸器検体から分離されることが多く13),当院においても同様の結果となった。呼吸器感染症においてGBSが原因菌となることは稀であるが,反復性誤嚥性肺炎とペニシリン系抗菌薬の投与がPRGBSの出現に有意に関連しているとの報告もある14)。外来患者より入院患者からのPRGBS分離率が高値であり,入院中の抗菌薬の使用がPRGBSの発現に影響している可能性も考えられる。また,2007年には我が国でのPRGBSによる院内感染事例も報告されている15)。さらには,8か月の期間を空けて同一医療施設内の異なる患者から類似したPRGBSが検出された事例も報告されており,環境中で長期間生存可能であることが確認されているため16),医療施設内での伝播にも注意が必要と考える。

当院で2012年から2022年に分離されたGBSの薬剤感性率は,PCGは上昇傾向であったが,CAMやEM,CLDM,LVFXは低下傾向であった。また,PRGBSはPSGBSより多剤耐性傾向を示していた。PRGBSの耐性メカニズムは,主に細胞壁合成酵素のペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein; PBP)2Xのアミノ酸置換によるものであると報告されている17)。また,PRGBSでセファロスポリン系抗菌薬に高いMIC値を示す株は,PBP2X遺伝子の変異に加えPBP1A遺伝子にも変異を獲得していると報告されている18)。PRGBSは同時にほかの耐性機構によって多剤耐性傾向を示すとされているが,近年,ペニシリンに感性を示しながらPBPにアミノ酸置換を獲得し,他のβ-ラクタム系抗菌薬のMIC値が上昇した株が分離・報告されており,セフチブテン耐性ペニシリン感性B群レンサ球菌(CTBrPSGBS),セフォチアム低感受性株がそれに含まれるとされている。それらもまた同時にマクロライド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬に耐性を示していることが多く,多剤耐性傾向があることが明らかになっている19)。マクロライド系抗菌薬耐性はメチル化酵素をコードするerm遺伝子獲得によるとされ,ermB),ermT),ermTR)などが報告されている。フルオロキノロン系抗菌薬は,DNA gyraseとtopoisomerase IVにアミノ酸置換を獲得し耐性化する17)。参考までに,当院で測定したGBSの感受性において,セフォチアムのMIC値が0.5 μg/mL より大きい菌株の約半数はPCGに感性を示していた。当院で分離した菌株に先の報告の株が存在するかの証明には遺伝子解析が必要だが,解析には至っていない。PRGBSのみならず,PCG感性GBSにおいてもペニシリン系抗菌薬以外のβ-ラクタム系抗菌薬への耐性化が懸念される。

将来,PRGBSはPBP2Xに限らず他のPBPにもアミノ酸置換を獲得することを繰り返し,β-ラクタム系抗菌薬のMIC値を上昇させていくことが予想されており20),その際の抗菌薬の選択肢が限られることが危惧される。

GBSは健常人であっても女性生殖器や腸管に無症候性に保菌していることから,明らかな原因菌と疑わない限り保菌とみなされ,薬剤感受性検査を実施しない場合も考えられる。しかし,多剤耐性傾向がみられ,ときに侵襲性感染症の原因菌となりうることから,日頃から薬剤感受性の推移を把握し,自施設のアンチバイオグラムの作成や院内感染対策サーベイランスへの情報提供を行うことで,抗菌薬適正使用促進に寄与すべきと考える。

V  結語

GBSに対するPCGの感性率の経年的低下は認められなかったが,PRGBSに対するセファロスポリン系抗菌薬,マクロライド系抗菌薬,フルオロキノロン系抗菌薬の感性率の低下,つまりPRGBSの多剤耐性傾向が認められた。今後も,抗菌薬適正使用のためにGBS薬剤感受性の動向をモニタリングすることが重要であると考える。

本研究は当院の治験・臨床研究審査委員会の承認を得て行った(臨床研究2024-014(0588))。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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