2025 Volume 74 Issue 2 Pages 312-316
【目的】輸血用血液製剤は自記温度記録計と警報装置が付いた輸血用血液専用の保冷庫中で保管し,輸血部門で一括して管理することが求められる。また,輸血機能評価認定における認定必須項目であり,審査で最も高頻度に指摘されることが報告されている。本検討では,Bluetooth型温湿度センサーが,赤血球製剤の温度管理に有用であるか検討することを目的とした。【方法】Bluetooth型温湿度センサーはBLE温度センサーBST-01A(株式会社LIMNO)を使用した。ゲートウェイはobniz BLE/Wi-Fi Gateway(株式会社エンコアドジャパン)を使用した。BLE温度センサーとゲートウェイは手術室と病棟,輸血部門に設置し,遠隔管理が可能か検討した。また,搬送用バッグにBLE温度センサーを設置し,搬送中の温度管理が可能か検証した。【結果】ゲートウェイを院内Wi-Fiに接続することで,病棟の保冷庫の温度管理が可能であり,温度異常や検知状態の有無,電池残量をリアルタイムに観測可能であった。また,搬送用保冷バッグにBLE温度センサーを収納することで,バッグ内の温度変化も追跡可能であった。【考察】BLE温度センサーを用いた赤血球製剤の温度管理は有用であり,より厳重な温度管理が可能となることが期待できる。BLE温度センサーは安価かつコンパクトに搬送中の温度を記録できる方法として応用できる可能性がある。
Introduction: Blood products for transfusion need to be stored in dedicated refrigerators equipped with self-recording temperature gauges and alarms. Centralized management within the transfusion department is essential, as this is a mandatory requirement for transfusion service accreditation and a common area of scrutiny during audits. In this study, we aimed to assess the utility of Bluetooth-enabled temperature and humidity sensors for red blood cell product temperature management. Methods: We utilized the BLE temperature sensor BST-01A (manufactured by LIMNO) and the obniz BLE/Wi-Fi Gateway (provided by Encored Japan). These sensors were installed in operating rooms, patient wards, and the transfusion department to evaluate their suitability for remote monitoring. Additionally, we placed BLE temperature sensors in transport bags to verify their effectiveness in temperature management during blood product transportation. Results: By connecting the gateway to the hospital’s Wi-Fi network, we successfully monitored the temperature of refrigerators in patient wards. Real-time observations included abnormal temperature readings, detection status, and remaining battery levels. Furthermore, placing BLE temperature sensors inside transport bags allowed us to track temperature fluctuations during transportation. Discussion: The use of BLE temperature sensors for red blood cell product temperature management is valuable, enabling more robust control. Recent research has explored electronic cooling-based blood transport systems (such as blood rotation) for effective blood product utilization, especially in remote or island regions. BLE sensors offer cost-effectiveness and compactness, making them a promising option for recording temperatures during transportation.
輸血用血液製剤は自記温度記録計と警報装置が付いた輸血用血液専用の保冷庫中で保管し,輸血部門で一括して管理することが求められる。輸血機能評価認定(I&A)における認定必須項目であり,審査で最も高頻度に指摘されることが報告されている1)。しかしながら,小規模医療施設や在宅医療を行うクリニックでは,血液製剤の一時保管として家庭用保冷庫を使用している施設もあり,その際は過冷却の防止や温度が安定した位置で保管することが必要と指摘されている2)。そのため,常時温度管理が可能なデバイスを設置し,さらに温度逸脱時には警報される仕組みを構築することが必要である。24時間計測できる温度監視システムの導入は,遠隔で温度監視が可能となることから,製剤の返品運用が容易となり,廃棄製剤の減少に貢献できるとの報告もある3)。近年では,電子冷却式血液搬送装置(active transfusion refrigerator; ATR)による温度管理に関する取り組みも多く報告されており,離島地域における血液製剤の有効利用も重要な課題として認識されている4)~6)。以上のことから,血液製剤の厳重な温度管理のためのコンパクトな温度管理システムの検討は重要である。本検討では,Bluetooth型温湿度センサーが,赤血球製剤の温度管理に有用であるか試験的に検討することを目的とした。
Bluetooth型温湿度センサーはBLE温度センサーBST-01A(株式会社LIMNO)を使用した。センサーのサイズは直径61 mmで重量が37 gであり,測定可能な温度域は−30℃から70℃である。温度情報は1分間に1回送信する設定とした。ゲートウェイはobniz BLE/Wi-Fi Gateway(株式会社エンコアドジャパン)を使用した。BLE温度センサーとゲートウェイは手術室(外来棟4階)と血液内科病棟(病棟6階),小児科病棟(病棟3階),輸血部門(外来棟3階)に設置し,遠隔管理が可能か検討した(Figure 1)。輸血部門PCにおいて,BLEセンサー情報モニタリングシステムTRACE MOTION(株式会社AC&M)を用いて,温度の監視および温度記録の抽出を行った。輸血部門の保冷庫では,BLE温度センサーとすでに導入している温度管理システム(株式会社チノー)を比較するため,Bland-Altman分析を用いて一致性の評価を行った。また,搬送用バッグに模擬血液製剤とBLE温度センサーを設置し,搬送中の温度管理が可能か検証した。模擬血液製剤として,融解済みの期限切れ血漿製剤を使用した。搬送経路は外来棟3階の輸血部を出発し,病棟3階を経由して病棟6階に到着後,同じ経路で輸血部に戻るまでの温度監視を行った(Figure 2)。全ての温度情報はTRACE MOTIONから抽出し,解析を行った。
(A)BLE温度センサーとゲートウェイを病棟および診療科に設置し,輸血部のサーバーPCでBLEセンサー情報モニタリングシステムTRACE MOTION(株式会社AC&M)を使用して監視した。全てのゲートウェイとサーバーPCは同じ院内Wi-Fiに接続した。(B)BLE温度センサーとゲートウェイを外来棟3階の輸血部と外来棟4階の手術部,3階病棟と6階病棟の血液製剤保冷庫に設置した。
(A)外来棟3階の輸血部を出発し,病棟3階を経由して病棟6階に到着後,同じ経路で輸血部に戻るまでの温度監視を行った(赤矢印)。(B)模擬血液製剤とBLE温度センサーを搬送バッグに設置し搬送した。
ゲートウェイを院内Wi-Fiに接続することで,TRACE MOTIONによって病棟の保冷庫の温度管理が可能であり,温度異常や検知状態の有無,電池残量をリアルタイムに観測可能であった(Figure 3)。温度異常や検知異常が発生した際は,事前に登録したメールアドレスへ通知されることを確認した。Bland-Altman分析を用いた測定温度の精度は,4℃設定の保冷庫で1.96 SDの許容範囲内であった(Figure 4)。
(A)メイン画面にてBLE温度センサーの設置場所と温湿度,警報の有無が確認できる。(B)センサー個別の温度の推移は温湿度管理画面で確認でき,電池残量も確認可能であった。
温度監視システムMD222K006(株式会社チノー)を対照機器として,Bland-Altman分析を実施した。
また,模擬血液製剤とBLE温度センサーを搬送バッグに収納し,外来棟3階の輸血部門から病棟6階まで搬送し,搬送中の温度監視が可能か検討した(Figure 5)。病棟6階到着時に温度情報を受信し,搬送から戻る途中に病棟3階に設置しているゲートウェイで搬送バッグ内の温度情報を受信できた。搬送開始から経時的に温度が上昇し,病棟6階に到着後保冷バッグの開閉によりさらに温度の上昇を認めた。ゲートウェイが検出できない範囲を移動中にBLE温度センサーの温度情報送信のタイミングが合わない場合は,温度情報を受信することはできなかった。
搬送バッグ内に模擬血液製剤とBLE温度センサーを設置し,外来棟3階の輸血部を出発し,病棟3階を経由して病棟6階に到着後,同じ経路で輸血部に戻るまでの温度監視を行った。温度と検出したゲートウェイの場所を示す。GW,ゲートウェイ。
BLE温度センサーを用いた赤血球製剤の温度管理は有用であり,輸血部門における一元管理が可能であると考えられた。今回は試験的な検討のため,温度センサーとゲートウェイの設置場所を限定して実施したが,院内Wi-Fiが利用できる病棟や診療部門でも利用可能であると考えられる。BLEセンサー情報モニタリングシステムによって,リアルタイムに温度異常や検知異常,電池残量を監視でき,自記記録温度計や警報器を有さない保冷庫の厳重な温度管理が可能となることが期待できる。しかしながら,異常発生時,事前に登録したメールアドレスへ通知される体制は構築できたが,その通知があったことを知らせる機能がないため,異常を見落としする可能性がある。そのため,メール受信時に警告音を鳴らすなど対策の必要性が示唆された。冷蔵庫の温度域における測定精度は良好であったが,メーカーが推奨している測定可能な下限温度は−30℃であるため,それより低い温度域での測定精度の検証が必要と考えられた。また,病棟看護師による1日2回の温度チェックの手間や,紙ベースでの記録の保管など,業務の省力化も期待できる。本システムを運用できれば,自記記録計を有さない保冷庫でも厳重な温度管理が可能であり,I&Aで認定必須項目とされている血液専用保冷庫の日常定期点検や輸血部外の血液保冷庫の保管方法,血液専用保冷庫の条件も満たすことができ,小規模医療施設やクリニックで役立つ可能性がある1)。その際には,庫内温度変化の少ない位置で,かつ過冷却を予防する目的で発泡スチロールの箱などの遮蔽物の中で血液製剤を一時的に適切な条件下で保管することを考慮する必要がある2)。また,模擬血液製剤を使用し,院内における搬送中の温度監視が可能であることが示されたが,BLE温度センサーが温度情報を発信するタイミングにゲートウェイ付近を通過する必要があり,設置するゲートウェイの数やゲートウェイごとの間隔に依存すると考えられた。Wi-Fi環境がない施設外においても,モバイルルーターやLTE対応ゲートウェイを携帯すれば,搬送バッグ内の温度をATRのように常時温度監視が可能であると考えられ,今後の検討課題である。本検討では,保冷機能に乏しい搬送バッグを使用していたことにより,経時的あるいはバッグの開閉によって温度の上昇を認めた。保冷機能の高い搬送バッグと併せて検討することで,より長時間の搬送にも対応できるATRのような使用方法も可能であると考えられる。近年,在宅輸血や僻地や離島地域における血液製剤の有効利用のためにATRを用いたブラッドローテーションに関する研究が多く報告されている。医療法により,血液製剤を他施設に保管して自施設で輸血をすることはできず,在宅輸血の際には施設内及び患者宅への運搬用の保冷庫,保冷容器が必要となる7)。また,僻地や離島地域におけるブラッドローテーションは搬送時間が長時間となるため5),6),保冷機能の高いバッグとBLE温度センサーを組み合わせることができれば,ATRより安価かつコンパクトに搬送中の温度を記録できる方法として応用できる可能性がある。本邦における昨今の医療情勢を鑑み,医療機関における総合的な輸血用血液製剤の保管管理体制確立の一助とするためのガイドラインの整備が必要と考えられる。
BLE温度センサーを使用することで,院内に設置されている赤血球製剤保冷庫の温度を輸血部門で一括管理でき,赤血球製剤を適切な温度条件で保管することが可能と考えられた。さらに,搬送中の温度管理にも応用でき,在宅輸血やブラッドローテーションにも役立つ可能性がある。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。