Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Material
Image verification of mulberry bodies using the urinary particle analyzer AUTION EYE AI-4510
Kotaro HISHIKIYuichi IKEDASae OCHI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 74 Issue 2 Pages 383-389

Details
Abstract

近年,尿沈渣検査の効率化を目的として尿中有形成分分析装置を導入し,目視率の軽減を図る施設が増加している。尿中有形成分分析装置の主な測定原理としては,フローサイトメトリー法と画像解析法があり,それぞれの機器の特長を活かした解析がなされている。マルベリー小体の検出はファブリー病のスクリーニング検査として重要であるが,マルベリー小体の検出は目視法でも困難であり,これまでに尿中有形成分分析装置においてもマルベリー小体を検出したという報告は見当たらない。当院では,2020年4月にアークレイ社の画像解析法を用いた尿中有形成分分析装置AUTION EYE AI-4510(以下,AI-4510)を導入した。今回我々は,様々な形態を示すマルベリー小体についてAI-4510にて画像検証を行ったので報告する。

Translated Abstract

In recent years, an increasing number of facilities have introduced urinary particle analyzers to improve the efficiency of urinary sediment testing and reduce the visual detection rate. The main measurement principles of urinary particle analyzers are flow cytometry and image analysis, and analysis methods that utilize the characteristics of each device are used. Detection of mulberry bodies is important as a screening test for Fabry disease, but detection of mulberry bodies is difficult even by visual inspection, and there have been no reports of detection of mulberry bodies using urinary particle analyzers. In April 2020, our hospital introduced AUTION EYE AI-4510 (ARKRAY, 2019), a urinary particle analyzer that uses image analysis. In this article, we report on image verification of mulberry bodies, which show various morphologies, using the AI-4510.

I  はじめに

尿沈渣検査において,尿中有形成分分析装置による自動化が進んでおり,目視法の一部を機械法で報告するようになってきている。機械法の導入により省力化が可能となる一方,見落としにも注意が必要である。尿中有形成分分析装置にはフローサイトメトリー法1),2)と画像解析法3),4)とがある。フローサイトメトリー法の機器では研究項目ではあるが異型細胞等を検出する「Atyp.C」という測定項目や,グラム陽性菌/陰性菌を判定する細菌弁別判定機能などがある5)。画像解析法では,成分を目視で確認することが可能であり,画像データとして保存も可能であるため振り返って成分を確認することが可能であるが画像解析法の有効活用を示した報告例は少なく,これまでにマルベリー小体を確認したという報告はない。今回我々はアークレイ社の無染色かつカラー画像による尿中有形成分分析装置AUTION EYE-4510(以下,AI-4510)を用いて,ファブリー病患者の尿中に見られるマルベリー小体を画像により確認したので報告する。

II  使用検体

ファブリー病の診断がつき,鏡検法にてマルベリー小体を検出した3検体を用いてAI-4510で測定し画像を確認した。使用検体は下記に示す。

1. 検体1

マルベリー小体の数は全視野(whole field; WF)で20–29個/WF,マルベリー細胞は0個/WFであった。鏡検法にて観察されたマルベリー小体は赤血球大で典型的な形態である渦巻状構造が確認できた(Figure 1A)。

Figure 1  鏡検法にて観察されたマルベリー小体

A:赤血球大で渦巻状構造が明瞭なマルベリー小体 無染色(×400)

B:小型で渦巻状構造が不明瞭なマルベリー小体 無染色(×400)

C:有尾状またはチューブ状を呈するマルベリー小体 無染色(×400)

2. 検体2

マルベリー小体の数は20–29個/WF,マルベリー細胞は0個/WFであった。鏡検法にて観察されたマルベリー小体は赤血球よりも小型であり,典型的な渦巻状構造を確認することは困難であった(Figure 1B)。

3. 検体3

マルベリー小体の数は10–19個/WF,マルベリー細胞は0個/WFであった。鏡検法にて観察されたマルベリー小体は有尾状またはチューブ状を呈していた(Figure 1C)。

III  結果

 尿中有形成分分析装置AI-4510により尿中に検出されたマルベリー小体

検体1では,赤血球のカテゴリーに色調が薄く,細胞辺縁が不明瞭でやや歪んだ形状を呈する赤血球が見られる中,細胞辺縁が明瞭で黒い縁取りがあり,球状を呈する成分が検出された(Figure 2A)。AI-4510の画像を拡大すると同心円状の渦巻状構造を呈するマルベリー小体が検出された(Figure 2B)。検体2でも,赤血球のカテゴリーには検体1と同様に色調が薄く,細胞辺縁が不明瞭でやや歪んだ形状を呈する赤血球が見られる中,赤血球よりも小型で,細胞辺縁が明瞭で黒い縁取りがあり,球状を呈するマルベリー小体が検出された(Figure 3A)。成分が小さいことから一部のマルベリー小体は結晶や未分類のカテゴリーにも分類されていた。AI-4510の画像を拡大しても,マルベリー小体の特徴である渦巻状構造は確認できなかったが,細胞辺縁の明瞭な黒い縁取りという特徴を有していた(Figure 3B)。検体3では,白血球のカテゴリーに有尾状またはチューブ状のマルベリー小体が検出された(Figure 4A)。AI-4510の画像を拡大すると細胞辺縁が明瞭で突起物を有していた(Figure 4B)。なお,検体1から3において,同一検体を再測定すると同様の成分が観察され,再現性が確認された(Figure 2C, 3C, 4C)。

Figure 2  AI-4510で撮像されたマルベリー小体(検体1)

A:AI-4510で赤血球に分類された尿中有形成分

  赤枠の成分は黒い縁取りが見られマルベリー小体と考えられる。

B:AI-4510で赤血球に分類された尿中有形成分(Aの点線枠部分拡大)

  赤枠の成分は黒い縁取りと渦巻状構造が見られマルベリー小体と考えられる。

C:AI-4510で観察されたマルベリー小体(検体1)

  同一検体を再測定し,再現性が確認された。

Figure 3  AI-4510で撮像されたマルベリー小体(検体2)

A:AI-4510で赤血球に分類された尿中有形成分

  赤枠の成分は黒い縁取りが見られマルベリー小体と考えられる。

B:AI-4510で赤血球に分類された尿中有形成分(Aの点線枠部分拡大)

  赤枠の成分は渦巻状構造が見られないが黒い縁取りが見られマルベリー小体と考えられる。

C:AI-4510で観察されたマルベリー小体(検体2)

  同一検体を再測定し,再現性が確認された。

Figure 4  AI-4510で撮像されたマルベリー小体(検体3)

A:AI-4510で白血球に分類された尿中有形成分

  赤枠の成分は有尾状またはチューブ状のマルベリー小体と考えられる。

B:AI-4510で白血球に分類された尿中有形成分(Aの点線枠部分拡大)

  赤枠の成分は有尾状またはチューブ状のマルベリー小体と考えられる。

C:AI-4510で観察されたマルベリー小体(検体3)

  同一検体を再測定し,再現性が確認された。

IV  考察

検体1では鏡検法で赤血球大のマルベリー小体を認め,典型的な渦巻状構造も観察された。AI-4510でも鏡検法と同様に渦巻状構造を有するマルベリー小体が観察された。大きさは赤血球大でありAI-4510の画像で円形を呈していたためAI-4510では赤血球のカテゴリーに分類されたと考えられる。通常,赤血球は色調が薄く,細胞辺縁が不明瞭でやや歪んだ形状を呈する赤血球としてAI-4510においても観察される。しかし,赤血球として分類されたマルベリー小体は通常の赤血球形態とは異なり,黒い縁取りを有する明瞭な細胞辺縁が認められた。この形態学的特徴の相違は,同じ赤血球カテゴリー内での赤血球とマルベリー小体の鑑別に有用と考えられた。

検体2では鏡検法で赤血球よりも小さく,一部のマルベリー小体では,小さいながらも渦巻状構造を確認できたが,大部分が渦巻状構造は不明瞭であった。AI-4510での画像でも渦巻状構造は確認できなかった。マルベリー小体の大きさは赤血球よりも小型であったが,検体1と同様,主に赤血球のカテゴリーに分類され,通常の赤血球とは異なり黒い縁取りを有する明瞭な細胞辺縁が認められた。この特徴をもとにAI-4510の画像を確認することで検体1のように明瞭な渦巻状構造が確認できなくても,他の赤血球画像と比較しマルベリー小体の存在を疑うことができるのではないかと考えられた。

検体3では鏡検法で渦巻状構造を認めない有尾状またはチューブ状を呈するマルベリー小体が観察された。赤血球よりも大型であったため,AI-4510では白血球のカテゴリーに分類されたと考えられる。球状ではないが,検体1や検体2で観察された細胞辺縁の黒い縁取りが一部で認められ細胞辺縁は明瞭であった。運動能のある白血球は細胞表面に突起が見られ有尾状を示す(Figure 5)。有尾状またはチューブ状を呈するマルベリー小体は大きさや形状から白血球のカテゴリーに分類されることを念頭に置き,形状変化を伴っていないかを確認することも重要であると考えられた。

Figure 5  AI-4510で白血球カテゴリーに分類された尿中有形成分

円形や小突起を示す白血球は白血球として分類される。

辺縁に黒い縁取りはなく,小突起はマルベリー小体よりも尖っており辺縁は不明瞭である。

上記の3検体から,鏡検法で観察されたマルベリー小体と同じ形態が,尿中有形成分分析装置AI-4510においても撮像されることが明らかとなった。また,AI-4510画像では類似成分,例えば赤血球とマルベリー小体のように現状としては同一カテゴリーに分類されるため,同一画面上で比較できる点も有効活用できる。しかし,マルベリー小体の自動分類カテゴリーや検出フラグは現状としては存在しないため,赤血球,白血球,結晶,未分類のカテゴリーに分類されることが多いことを認識しておく必要がある。また,渦巻状構造が明瞭であればAI-4510の画像としても確認できるが,時に不明瞭な画像が提示されることもある。AI-4510では撮影した画像に対して3段階のフォーカス調整機能も搭載されているため,フォーカス調整により渦巻状構造を確認することも可能と考えられる。

また,AI-4510の画像ではマルベリー小体は渦巻状構造が明らかに観察できなくても黒い縁取りの明瞭な細胞辺縁を有することが特徴的であった。マルベリー小体は撮影画像としては赤血球と同様に円形に見えるが,本来の構造は立体的であり,マルベリー小体の辺縁は落差が大きく,それがAI-4510のカラー画像6)では影として映し出されていると推測される。一方,同じく円形として撮影された赤血球はマルベリー小体よりも扁平構造であり辺縁は落差が小さく,影がないため黒い縁取りが見られにくい。このことから,AI-4510の画像において黒い縁取りはマルベリー小体を疑うための1つの鑑別点になり得ると考えられた。ただし,黒い縁取りの明瞭な細胞辺縁は,脂肪球やシュウ酸カルシウム結晶でも観察されるため注意が必要である。脂肪球は球体であり辺縁の落差が大きいため影が生じ,マルベリー小体と同様に黒い縁取りが観察されると考えられた(Figure 6)。シュウ酸カルシウム結晶はマルベリー小体と同様に黒い縁取りが観察されるが,渦巻状構造を認めず,形状は楕円形を呈していた(Figure 7)。脂肪球やシュウ酸カルシウム結晶とマルベリー小体との鑑別方法としては,AI-4510の画像で渦巻状構造の有無を確認するとともに,最終的には鏡検法で渦巻状構造を確認することが必要と考える。

Figure 6  AI-4510で赤血球カテゴリーに分類された尿中有形成分(脂肪球含む)

赤血球大の脂肪球は赤血球に分類され,辺縁に黒い縁取りが見られる。

なお,本検体はファブリー病患者ではなく,マルベリー小体は検出されていない。

Figure 7  AI-4510で赤血球カテゴリーに分類された尿中有形成分(シュウ酸カルシウム結晶含む)

赤血球大のビスケット状シュウ酸カルシウム結晶は赤血球に分類され,辺縁に黒い縁取りが見られる。

しかし,マルベリー小体のような渦巻状構造は認められず,形状も楕円形である。

また,今回の検体では有尾状またはチューブ状のマルベリー小体も鏡検法と同様にAI-4510の画像としても確認することができた。有尾状またはチューブ状のマルベリー小体は観察する角度の違いや酵素補充療法などの治療後に形態変化を伴って観察されると考えられる。鏡検時のマルベリー小体の検出率向上のためには,形態変化を伴ったマルベリー小体を認識しておく必要はあるが,慎重に鑑別することが望ましい。特にファブリー病と診断されておらず,臨床症状を伴わない患者の尿中に典型的でない形態を呈するマルベリー小体が認められた場合は,複数回,複数人で尿沈渣を確認し典型的なマルベリー小体の有無を確認することが重要である。典型的なマルベリー小体がないが疑わしい場合は臨床側にその旨を報告し,後日に再検査することも必要と考えられる。その際に,前回と今回のAI-4510の画像を比較することも有用と考える。

今後の課題として,AI-4510で検出されるためのマルベリー小体の出現頻度の確認がある。今回の検体1と2では20–29/WF,検体3では10–19/WFであった。鏡検法においても20–29/WF程度の出現頻度で,小型のマルベリー小体であれば日常検査の中で見逃してしまうことも想定される。そのような場合にAI-4510も併用することでマルベリー小体の検出率が向上すると考えられた。すべての検体においてAI-4510の画像を確認することは困難であるが,マルベリー小体が観察されるカテゴリーとしては,円形状であれば赤血球,結晶,未分類のカテゴリーであり,チューブ状であれば白血球のカテゴリーの観察が重要と考える。また,観察するタイミングとしてはマルベリー小体の数が多い場合,赤血球に分類されることが多いことから,AI-4510でカウントされた赤血球数と潜血反応との乖離も観察するタイミングとして有用であると考える。今後はAI-4510でマルベリー小体の存在が考えられ,鏡検法で確認しファブリー病の診断に結び付けられるようAI-4510におけるマルベリー小体の検出能を向上させることも課題である。また,マルベリー小体を検出できた次の段階として,これをマルベリー小体として分類するアルゴリズムを作成し,分類されたらフラグを立てアラートを出すことで鏡検法での確認を促すシステムを構築することも課題である。日常検査においてAI-4510の画像を確認し続けるために労力と時間をかけることは困難である。他の成分とは異なる鑑別点を有効活用し,マルベリー小体の検出率を向上させ,潜在的に存在すると考えられているファブリー病患者7)の早期発見,早期治療に繋げていくことが重要であると考えられた。

V  結語

様々な形態を示すマルベリー小体であるが,AI-4510でも鏡検法と同様に撮像されることを確認した。尿中有形成分分析装置AI-4510でマルベリー小体の撮像は可能であり,黒い縁取りの細胞辺縁に注目することでマルベリー小体の検出率向上に寄与すると考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2025 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top