Japanese Journal of Medical Technology
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Case Report
A case of Streptobacillus notomytis isolated from blood culture and articular fluid
Naho HAYASHISatomi YAMAKITAMao ONOGAWATomomi KASHIMOTOTakashi HIROUCHIHirofumi YAMASAKIYoshie NISHIDAKiyofumi OHKUSU
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2025 Volume 74 Issue 2 Pages 411-415

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Abstract

Streptobacillus notomytisStreptobacillus moniliformisと同じく鼠咬症の原因菌であり,2015年に新種記載された。これら2菌種は,生化学的性状や質量分析装置での鑑別が困難であり,正確な同定には遺伝子解析が必要である。今回,鼠の排泄物に汚染された食物摂取が関節炎と菌血症の原因と推定された症例を経験したので報告する。症例は70代女性,両膝関節痛と発熱により救急搬送された。血液検査では炎症反応が高値であり,CTでは両膝関節内に液体貯留を認めた。関節液は混濁しており,第4病日の培養からフィラメント状のグラム陰性桿菌を認めた。形態よりStreptobacillus属菌を疑い,臨床側に鼠との接触歴を確認したところ,自宅に鼠が出没していた。血液培養は14日間に延長し,第9病日にグラム陰性桿菌を認めた。質量分析装置ではS. moniliformisが候補トップであったが,スコア値が低く,16S rRNA遺伝子解析にてS. notomytisと同定された。質量分析装置ではStreptobacillus属菌のデータベースはS. moniliformisの1菌種のみであるため,スコア値が低い場合にはS. notomytisを考慮する必要がある。また,形態より本菌を疑った際には,培養期間の延長や動物接触歴の確認が重要であり,本症例はこれらが奏功した貴重な症例であった。

Translated Abstract

Streptobacillus notomytis is a pathogen that causes rat-bite fever, similar to Streptobacillus moniliformis, and has been identified as a new species in 2015. These two bacteria are difficult to differentiate using biochemical properties and mass spectrometry; therefore, genetic analysis is required. We encountered a case in which ingestion of food contaminated with rat excrement was suspected to cause arthritis and bacteremia, which were identified as S. notomytis by genetic analyses. A woman in her 70s was admitted to our hospital with pain in the knee joints and fever. Blood tests showed elevated inflammatory markers and computed tomography revealed fluid retention in the knee joints. On hospitalization day 4, a cloudy articular fluid culture was detected with filamentous gram-negative rods, which we suspected to belong to the genus Streptobacillus. We asked the clinical side to confirm contact history with rats and received information that her home was infested with rats. Blood culture was extended to 14 days, and gram-negative rods were detected on hospitalization day 9. Mass spectrometry identified S. moniliformis, but the score was low. It was identified as S. notomytis by 16S rRNA gene analysis. For mass spectrometry, the database for the genus Streptobacillus contains only S. moniliformis. Therefore, if the identification score is low, S. notomytis infection should be considered. Additionally, on suspecting S. notomytis based on morphology, it is important to extend the incubation period and confirm the animal contact history. In this case, these measures led to a successful diagnosis and treatment.

I  序文

Streptobacillus notomytisStreptobacillus moniliformisと同じく鼠咬傷の原因菌となる通性嫌気性グラム陰性フィラメント状の桿菌であり,クマネズミ由来株として2015年に新種記載された。鼠の咬傷以外にも,鼠の排泄物に汚染された飲食物の摂取によって経口感染を起こすことが知られている1)S. notomytisS. moniliformisは生化学的性状での分類が困難であり2),近年普及している質量分析装置でも鑑別が困難なため,正確な同定には遺伝子解析が必要である。今回,16S rRNA遺伝子解析によって同定されたS. notomytisによる関節炎と菌血症の症例を経験したので報告する。

II  症例

患者:70代,女性。

主訴:両膝関節痛,発熱。

既往歴:両膝偽痛風,両側人工股関節置換術。

現病歴:1週間前より両膝関節痛を認め,体動困難となった。3日前から発熱も認めたため当院へ救急搬送となった。

来院時身体所見:意識清明,血圧126/75 mmHg,SpO2 94%,体温37.6℃,脈拍数80/min。

来院時検査所見および臨床経過:血液検査にてWBC 11.7 × 103/μL,CRP 35.47 mg/dLと炎症反応の上昇を認めた(Table 1)。両膝に熱感は認めなかったが腫脹しており,画像検査にて両膝関節内に液体貯留を認めた。関節液の外観は黄色で混濁しており,偽痛風または化膿性関節炎が疑われ,血液培養2セットおよび関節液培養,尿培養を実施し,Tazobactam/Piperacillin(TAZ/PIPC)4.5 g q8h/dayにて治療が開始された。また,関節液検査ではピロリン酸カルシウム結晶が確認された。翌日にはAmpicillin/Sulbactam(ABPC/SBT)にde-escalationし,第4病日には関節液培養よりStreptobacillus属を疑うグラム陰性桿菌を検出したことおよび尿培養の結果より,Ceftriaxone(CTRX)へ変更となった。経過は良好であり,炎症反応および両膝関節痛も改善し,第34病日にリハビリ目的で転院となった(Figure 1)。

Table 1 Laboratory findings on admission

Biochemical test Peripheral blood test
AST 49 U/L WBC 11.7 × 103/μL
ALT 30 U/L  Neut 92.0%
LDH 299 U/L  Lymph 4.5%
ALP 122 U/L  Mono 3.5%
T-Bil 2.1 mg/dL  Eosiono 0.0%
TP 6.9 g/dL  Baso 0.0%
ALB 2.6 g/dL RBC 4.56 × 106/μL
CPK 1,140 U/L Hb 13.8 g/dL
BUN 46.2 mg/dL Ht 38.7%
CRE 0.68 mg/dL MCV 84.9 fL
Na 132 mEq/L MCH 30.3 pg
Cl 97 mEq/L MCHC 35.7%
K 3.3 mEq/L PLT 125 × 103/μL
Glu 186 mg/dL
CRP 35.47 mg/dL
PCT 2.23 ng/mL
Figure 1  Clinical course

WBC: White Blood Cells, CRP: C-Reactive Protein

TAZ/PIPC: Tazobactam/Piperacillin, ABPC/SBT: Ampicillin/Sulbactam, CTRX: Ceftriaxone, CCL: Cefaclor

III  微生物学的検査

1. 塗抹・培養検査

両膝関節液のグラム染色(neo-B&Mワコー:富士フイルム和光純薬)では,多数の多核白血球とピロリン酸カルシウム結晶の貪食像を認めたが,細菌は認めなかった。培養検査はアキュレートTM羊血液寒天培地(島津ダイアグノティクス),バイタルメディア チョコレート寒天培地(極東製薬工業)にて35℃ 5%炭酸ガス条件下で実施した。培養48時間後に血液寒天培地・チョコレート寒天培地に滑らかで微小なコロニーの発育を認め(Figure 2),グラム染色では中央部が膨張した独特の形態や,フィラメント状・ネックレス状など多形成なグラム陰性桿菌を認めた(Figure 3)。血液培養検査は,BDバクテックTM 23F好気用レズンボトルP(日本ベクトン・ディッキンソン(以下,日本BD))およびBDバクテックTM 22F嫌気用レズンボトルP(日本BD)が2セット採取され,BDバクテックTM FXシステム(日本BD)にて5日間の培養を開始したが,第4病日に関節液培養よりStreptobacillus属を疑うグラム陰性桿菌の発育を認めたため,14日間に延長した。第9病日に嫌気ボトル1本が陽転化し,菌量は少数であったがグラム陰性桿菌を認めた(Figure 4)。分離培養は関節液培養と同様に行い,結果も同様であった。

Figure 2  Streptobacillus notomytis colonies

A: Sheep blood agar

B: Enlarged image

Figure 3  Gram stain image of colonies from sheep blood agar (×1,000)
Figure 4  Gram stain image of blood culture (×1,000)

2. 同定検査

質量分析装置MALDIバイオタイパー(library version 8:ブルカージャパン)にて同定検査を実施し,S. moniliformisが同定候補トップであったが,関節液のコロニーはScore Value 1.59であり,血液培養のコロニーもScore Value 1.62と低く同定には至らなかったため,東京医科大学微生物学分野へ16S rRNA遺伝子解析を依頼し,S. notomytisの基準株(AHL 370-1)と相同性が100%(1,439/1,439)一致していたことから,S. notomytisと同定された。

3. 薬剤感受性検査

薬剤感受性検査は連鎖球菌用プレートであるライサスRSMP2プレート(島津ダイアグノティクス)にて35℃ 5%炭酸ガス条件下で実施した。サプリメントRSを添加したライサスチューブMHBおよびライサスチューブ滅菌水でマックファーランド0.5に調整した菌液を,ライサスS4にてプレートに接種した。48時間後にコントロールウェルに発育を認めたため,ライサスS4にて最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)の判定を行い,参考値で報告した(Table 2)。

Table 2 Antimicrobial susceptibility results of Streptobacillus notomytis

Antimicrobial agent MIC (μg/mL)
Penicillin ≤ 0.063
Ampicillin 0.25
Cefotiam ≤ 0.125
Cefaclor ≤ 0.125
Cefotaxime ≤ 0.125
Cefcapene pivoxil ≤ 0.125
Imipenem 0.25
Meropenem ≤ 0.125
Erythromycin > 4
Clindamycin ≤ 0.25
Minocycline ≤ 0.25
Levofloxacin 0.5

IV  考察

鼠咬症の原因菌としてS. moniliformisSpirillum minusなどが知られているが,2015年にS. notomytisがクマネズミ由来株として新種記載された2)。鼠咬症は発熱,悪寒,関節炎,皮疹を特徴とする全身性疾患であり1),重症例では心内膜炎,髄膜炎,椎間板炎などが報告されている3),4)。鼠の咬傷以外にも,鼠の排泄物に汚染された飲食物の摂取にて経口感染を起こすため,鼠咬症を疑った場合には咬傷がなくとも接触歴を詳細に聴取する必要がある。本症例も,咬まれた記憶はないが就寝中に鼠が布団の中に入ってくるなどの接触情報が得られ,感染源を推測することができた。

質量分析装置でのScore Valueは低値であったが,コロニーからのグラム染色所見にてネックレス状やフィラメント状の特徴的な形態を示していたため,Streptobacillus属菌を迅速に推定することができ,速やかに臨床報告することができた。質量分析装置を導入していても,基本となる形態学の重要性を改めて認識した。また,S. moniliformisの培養時間は炭酸ガス条件下で約2–3日であるが,最長で7日必要な場合もあり1),血液培養を5日間培養から14日間培養へと延長した。結果,第9病日で血液培養が陽転化し菌血症を証明することに繋がった。5日間培養では検出できなかったと考えられるため,疑った菌の特徴を理解し,症例によって血液培養期間を延長することが重要である。

当院では,血液培養陽性全症例に対し臨床検査技師がモニタリングを行い,必要であれば抗菌薬適正使用支援チーム(antimicrobial stewardship team; AST)として介入を行っているが,本症例は希少な症例であったため,関節液よりStreptobacillus属を疑う菌が発育した時点でAST医師に報告を行い,鼠との接触歴を確認するための追加問診や抗菌薬の選択,感染性心内膜炎の有無を確認するための心エコー検査等を行った。

Streptobacillus属菌による鼠咬症では,ペニシリン系,セフェム系,テトラサイクリン系の抗菌薬が推奨されるが1),本症例では来院時の尿培養よりSBT/ABPCに耐性のEscherichia coliを105 CFU/mL以上検出していたことよりCTRXへ変更となった。治療は奏功し,第24病日にcefaclor(CCL)に変更し,第34病日にリハビリ目的で転院となった。

また,薬剤感受性検査は自施設で測定可能なライサス連鎖球菌用プレートで測定し得たが,既報では発育不良症例も報告されており5),ドライプレート‘栄研’(栄研化学)にウシ胎児血清(FBS)およびストレプト・ヘモサプリメント‘栄研’(栄研化学)を添加したミュラーヒントンブロスにて調整した菌液を分注し,35℃ 8%炭酸ガス条件下にて48時間培養で結果が得られるとの報告もある6)

V  結語

近年,質量分析装置の普及が進んでいるが,本症例のように同定困難な菌種も多く存在する。Streptobacillus属の菌種同定において,MALDIバイオタイパーのデータベースはS. moniliformisの1菌種のみであり(2024年4月時点),同定スコア値が低い場合にはS. notomytisを考慮する必要があるが,S. moniliformisS. notomytisは生化学的性状も非常に類似しているため鑑別は困難であり,正確な同定には遺伝子解析が必要となる。また,形態より本菌を疑った際には,培養期間の延長,動物接触歴等の患者背景の確認が重要であり,本症例はこれらが奏功した貴重な症例であった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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