2025 Volume 74 Issue 2 Pages 325-330
Mycoplasma pneumoniaeは,非定型肺炎の主要病原菌の一つで時に重篤な肺炎を引き起こす。使用できる抗菌薬は限定されており,早期に適切な抗菌薬治療を開始するため,細菌性肺炎との迅速な鑑別診断が推奨されている。従来の迅速抗原検査は検出感度において不十分であり,より高感度な迅速キットが望まれている。今回,銀増幅を用いた高感度イムノクロマト法によるマイコプラズマ検出キットについて性能評価を行った。本キットは,ATCC株の菌液を用いた希釈系列の検出感度比較において,従来の迅速抗原キットと比較し最大64倍高い検出感度であった。また,Mycoplasma pneumoniae DNAコピー数および培養コロニー数の比較においても101.9倍,160.6倍の差が認められ高い検出感度が認められた。さらに,専用機器で自動判定されるため客観的な結果判定が得られ,かつ手入力による結果誤報告の回避にもつながるため有用であると考えられた。
Mycoplasma pneumoniae is one of the major causative pathogens of atypical pneumonia and can cause severe pneumonia in certain instances. The number of antibiotics that can be used is limited, and early differential diagnosis to rule out typical bacterial pneumonia is recommended for initiating appropriate antibiotic treatment as soon as possible; however, conventional rapid antigen tests are not very sensitive, and a more sensitive rapid kit is therefore required. In this study, we evaluated the performance of a mycoplasma detection kit that uses a silver amplification-based high-sensitivity immunochromatography method and found it to be up to 64 times more sensitive than a conventional rapid antigen kit using the ATCC bacterial strain solution dilution series. With regard to M. pneumoniae DNA copy number and the number of colony-forming units a difference of 101.9 and 160.6 times, respectively, was observed, further indicating extremely high detection sensitivity. Additionally, this method is more useful because the use of a dedicated automated device provides more objective results and also helps avoid inaccurate reporting of results due to manual input.
Mycoplasma pneumoniaeは,非定型肺炎の主要病原菌の一つで時に重篤な肺炎を引き起こす。市中肺炎の起炎菌としてStreptococcus pneumoniaeやHemophilus influenzaeに次ぎ頻度が高い1)。一般的にマクロライド系薬が著効するが,使用できる抗菌薬は限定されている。そのため,適切な抗菌薬治療を開始するには,細菌性肺炎との迅速な鑑別診断が推奨されている2)。しかし,M. pneumoniaeの分離は難しく培養同定法にて検出できるケースは少ない。また血清抗体価はペア血清による4倍以上の上昇を確認する必要があり,迅速性の点から診断法として十分ではない。確定診断として用いられる遺伝子検査もコストや簡便性の面から導入が困難な場合がある。その一方で,従来の迅速抗原検査は検出感度において不十分であり,より高感度な迅速キットが望まれている。
国立感染症研究所の感染症発生動向調査3)によると,マイコプラズマ肺炎は3~7年程度の間隔で流行を起こし,COVID-19流行時には報告数が減少していた。当院においても検査数および患者数は少なかった。しかし2024年に入りマイコプラズマ肺炎は急増し,2016年以来の大流行を迎えている。検出感度を検討した報告は基礎,臨床ともに少ない4),5)ことから,今回の流行期を鑑み,当院で採用している『銀増幅を用いた高感度検出検査キット』の精度評価を目的としてその性能評価を行った。
評価キットの「富士ドライケムIMMUNO AG」は,銀増幅によるイムノクロマト法を用いている。これは,写真技術が応用されており,現像核を触媒として現像液による反応で大きな銀粒子を生み出し可視化する「増幅技術」である。イムノクロマト法においては,標識に用いられる金コロイドを触媒として増幅することで,抗原量が少ない場合においても高感度に検出することが可能となる6)。
まず,金コロイド標識つき抗体と結合した抗原を,検出ラインに塗布した補足抗体がとらえる。その後還元剤と銀イオンを供給することで,直径50 nmの金粒子を触媒として直径10 μm以上の銀粒子を生成する。また,バックグラウンドを低減させるための洗浄工程,検出ラインの標識化抗体の非特異吸着箇所の除去など,非特異反応による偽陽性の抑制も図られている。また,検出ラインは専用装置で読みとられ自動判定される。これらすべての工程が専用装置内で行われるため,検査者は試料検体をカートリッジに滴下し,専用装置に挿入するだけで結果の判定まで行われる。
評価キットは「富士ドライケムIMMUNO AGカートリッジMyco」(以下,イムノAG)(富士フイルム株式会社)と専用機器「富士ドライケムIMMUNO AG2」(富士フイルム株式会社)を用いた。対照キットとして,「イムノエース®マイコプラズマ」(以下,イムノエース)(株式会社タウンズ),「クイックナビTMマイコプラズマ」(以下,クイックナビ)(デンカ株式会社),「プロラスト®Myco」(以下,プロラスト)(LSIメディエンス株式会社),「リボテスト®マイコプラズマ」(以下,リボテスト)(極東製薬工業株式会社)を用いた。
2. 希釈感度測定菌株使用菌株としてM. pneumoniae ATCC15531(FH株)を用いた。
ATCC FH株は,MYCOPLASMA BROTH BASE(Oxoid社)にMYCOPLASMA SUPPLYMENT G(Oxoid社)を添加したマイコプラズマ用液体培地2 mLを用い,37℃,CO2 5%の条件で14日間培養した。この培養液を母液とし,生理食塩液で2倍段階希釈して希釈系列液を作製した。各希釈液10 μLをそれぞれの測定キットの検体抽出液に添加し,添付文書7)~11)に従い測定した。判定は,評価キットについては専用機器での自動判定,対照キットでは複数人による目視判定を行った。3回の測定ですべて陽性を示したところを検出感度とし,検出限界を比較した。
2. 希釈液のM. pneumoniae DNAコピー数および培養コロニー数の測定各測定キットで検出限界を示した希釈液について,M. pneumoniae DNAコピー数および培養コロニー数を測定した。DNAコピー数の算出については,DNA抽出に「QIAamp® DNA mini kit」(QIAGEN)を用いプロトコール12)に従い抽出した。リアルタイムPCRの測定試薬は「TaKaRa SYBR® Premix Ex TaqII」(タカラバイオ株式会社),測定機器は「LightCycler480 System」(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた。PCR条件は中村らのプロトコール13)に従った。コロニー数測定は,ATCC FH株の希釈液10 μLをマイコプラズマPPLO寒天培地(日研生物株式会社)に接種し,37℃,CO2 5%の条件で14日間培養後コロニー数をカウントした。
3. 操作性の比較測定方法,反応時間,判定時間と方法およびそれぞれの特徴より,各キットの操作性を比較した。
希釈感度検定の結果をTable 1に示した。評価キットであるイムノAGにおいてはATCC株の2,048倍希釈液までの感度が認められた。一方,対照キットのうちイムノエース,クイックナビ,プロラストでは64倍希釈液まで,リボテストでは32倍希釈液までの感度が確認できた。従って,イムノAGと対照キットの感度差はイムノエース,クイックナビ,プロラストとは32倍,リボテストとは64倍であった。イムノAGは,いずれの対照キットより高感度に検出することが可能であった。
希釈倍数 | イムノAG | イムノエース | クイックナビ | プロラスト | リボテスト |
---|---|---|---|---|---|
原液 | + | + | + | + | + |
×16 | + | + | + | + | + |
×32 | + | + | + | + | + |
×64 | + | + | + | + | − |
×128 | + | − | − | − | − |
×256 | + | − | − | − | − |
×512 | + | − | − | − | − |
×1,024 | + | − | − | − | − |
×2,048 | + | − | − | − | − |
×4,096 | − | − | − | − | − |
各測定キットの検出限界におけるM. pneumoniae DNAコピー数およびコロニー数の結果をTable 2に示した。イムノAGの検出限界におけるM. pneumoniae DNAコピー数は,8.33 × 106 copies/mLであった。対照キットのイムノエース,クイックナビ,プロラストは4.40 × 108 copies/mL,リボテストは8.49 × 108 copies/mLであり,イムノAGとはそれぞれ52.8倍,101.9倍のコピー数の差が認められた。検出限界における培養コロニー数は,イムノAGでは4.34 × 104 CFU/mL,対照キットのイムノエース,クイックナビ,プロラストは2.88 × 106 CFU/mL,リボテストは6.97 × 106 CFU/mLであった。イムノAGとイムノエース,クイックナビ,プロラストとは66.4倍,リボテストとは160.6倍の差を認めた。
イムノAG | イムノエース | クイックナビ | プロラスト | リボテスト | |
---|---|---|---|---|---|
希釈倍数 | ×2,048 | ×64 | ×64 | ×64 | ×32 |
M. pneumoniae DNAコピー数(copies/mL) | 8.33 × 106 | 4.40 × 108 | 4.40 × 108 | 4.40 × 108 | 8.49 × 108 |
M. pneumoniae培養コロニー数(CFU/mL) | 4.34 × 104 | 2.88 × 106 | 2.88 × 106 | 2.88 × 106 | 6.97 × 106 |
各キットの操作性および機能性の比較をTable 3に示した。操作の簡便性については,いずれのキットにおいても咽頭ぬぐい液を採取したスワブを抽出液に懸濁しデバイスに滴下する方法であり,大きな差は認められなかった。ただしイムノAGについては,専用機器で測定するため抽出液を滴下後直ちにデバイスを機器にセットする操作が必要であった。またリボテストについては,スワブを抽出液に懸濁後2~15分静置する操作が必要であった。判定については,イムノAGでは専用機器により自動判定されるのに対し,イムノエース,クイックナビ,プロラスト,リボテストでは検査者による目視判定であり判定に苦慮したケースもあった。反応時間は全てのキットにおいて15分と同等であったが,イムノAGでは15分後判定に対し,対照の4キットでは抗原量の多い場合に反応時間の途中で陽性判定が可能であった。またイムノAGの特徴として,検査システムとオンラインすることにより電子カルテに結果を自動送信する機能があるが,専用機器では同時に複数検体を処理することができないといった欠点があった。
イムノAG | イムノエース | クイックナビ | プロラスト | リボテスト | |
---|---|---|---|---|---|
操作の簡便性 | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
デバイスを機器に 設置する操作が必要 |
スワブを抽出液に 懸濁後,2~15分 静置が必要 |
||||
専用機器 | 必要 | ― | 読み取り専用 リーダーあり |
― | ― |
判定方法 | 自動判定 | 目視 | 目視または 専用リーダー |
目視 | 目視 |
反応時間 | 15分 | 15分 | 15分 | 15分 | 15分 |
途中判定 | × | ○ | ○ | ○ | ○ |
結果自動送信 | 可能 電子カルテとの オンライン環境が必要 |
― | ― | ― | ― |
希釈感度検定では評価キットのイムノAGが,対照キットと比較して最大64倍高感度であった。また,検出感度におけるイムノAGと対照キットのM. pneumoniae DNAコピー数および培養コロニー数の比較については,それぞれ最大101.9倍,160.6倍の差が認められ,イムノAGでは対照キットより大幅に感度が向上していた。肺炎マイコプラズマは下気道の繊毛上皮細胞で増殖するため,上気道である咽頭ぬぐい液では菌量が少ないといわれている14)。また,採取した部位でのM. pneumoniae DNAコピー数の比較において咽頭後壁で104~108 copies/mL,口蓋扁桃で103~107 copies/mL程度であるとの報告があり15),検体の採取部位や手技が結果に大きく影響する。本検討のM. pneumoniae DNAコピー数および培養コロニー数の比較において,イムノAGが対照キットより最大100倍以上高感度であったため,従来の抗原キットでは検体の採取方法などによって偽陰性と判定されていたものが検出可能となることが示唆された。また小林ら5)は,ATCC株の培養日数について4日目と14日目の培養液を用いて検出感度を検討している。リボテストおよびプロラストでは14日培養と比較し4日培養の方が高い検出感度を示しており,14日培養の生菌数の確認においてほぼ菌が死滅していたと報告している。この2キットは,菌体内部にあり生命活動に必要なタンパクをターゲットとしていたことから,各社キットのターゲットタンパクの違いにより生菌死菌の菌量が検出感度に影響していると推測している。我々の検討では14日目の培養液を用いているが,生菌数の確認において十分な菌量を確認しているため死菌の影響はほとんどなかったと考えられる。
操作性の比較について,イムノAGでは専用機器が必須であるため初期費用が必要となる。さらに,設置台数が1台の場合には,測定が終了するまで次の検体を測定することができず測定待ちが発生することが予想される。測定も反応時間15分経過後に判定されるため,流行期など検体数が増えた場合には結果報告が遅延することが懸念される。一方対照キットは,初期費用が掛からず複数検体を同時に処理することが可能である。抗原量が多い場合には,反応時間内に陽性ラインが出現するためより迅速に陽性の報告をすることも可能である。またクイックナビについては,我々の検討後にクイックナビリーダー2が販売され,マイコプラズマについても対応可能となっている。判定方法については,対照キットのうちイムノエース,プロラスト,リボテストは検査者による目視にて判定されるのに対し,イムノAGは専用機器が自動判定を行う。クイックナビはどちらも可能である。目視判定においては,特に弱陽性の場合に検査者の主観や環境などの要因により陰性と判定されるケースがあり16),しばしば問題となっている。イムノAGやクイックナビでは専用機器により客観的に結果判定が行われるため,検査者による判定結果の相違を回避することが可能となる。また自動判定のメリットとして,夜勤業務など少人数で業務が多忙な場合に判定時間をオーバーすることを回避できる点も挙げられる。POCT検査においては,結果の誤入力も問題点のひとつである。患者数の多い施設では,検査数や検査の種類も多くミスが発生しやすい。特に検査結果の誤報告は日勤帯よりも日当直帯での発生頻度が高い17)。日当直時は普段従事していない不慣れな技師が限られた人数で業務を行う状況下にあり,POCT検査のような結果を手入力する作業は誤入力が発生しやすい。イムノAGは,検査システムとの連携により電子カルテへ検査結果の自動送信も可能であり,迅速かつ正確な結果報告にも貢献できる。
イムノAGは従来の迅速抗原検査キットと比較して,高感度に検出可能でありマイコプラズマ肺炎の迅速診断に有用である。また専用機器による自動判定および自動報告が可能であり,結果の誤報告回避に大いに貢献できると考える。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。