Japanese Journal of Medical Technology
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Original Article
Factors causing shifts in CD45 fluorescence intensity in flow cytometric leukocyte surface antigen analysis
Ritsuko NAKAGOSHIYuichiro IDEYuka TAKEZAWAYoko USAMINau ISHIMINETakeshi UEHARAYumiko HIGUCHI
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2025 Volume 74 Issue 2 Pages 277-284

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Abstract

フローサイトメーターを用いた末梢血白血球表面抗原解析におけるCD45/側方散乱光サイトグラム上では,顆粒球(Gr),単球,リンパ球(Ly)の各細胞集団が一定のバランスで描出される。本研究は,Gr領域,Ly領域のCD45蛍光強度が通常のバランスからシフトする患者検体について,その要因を探索した。対象は日常検査で白血球表面抗原解析が実施された169症例390検体(患者群)。まず各領域のCD45蛍光強度と炎症関連臨床検査項目(C反応性蛋白,乳酸脱水素酵素値,好中球数,リンパ球数,白血球数)との相関関係を検討した。次に患者群を疾患別または免疫抑制剤使用の有無で群分けし,各領域のCD45蛍光強度を健常人群と比較した。その結果,Gr領域では乳酸脱水素酵素値と白血球数に,Ly領域では乳酸脱水素酵素値にごく弱い相関を認めた。Gr領域のCD45蛍光強度は,自己免疫疾患群(p < 0.001)と先天性免疫不全症群(p < 0.05)で,Ly領域のCD45蛍光強度は自己免疫疾患群(p < 0.01)と不明熱群(p < 0.01)で健常人群より有意に低値であった。また,両領域のCD45蛍光強度は,免疫抑制剤使用群は,非使用群(p < 0.0001)や健常人群(p < 0.01)と比較して有意に低値であった。Gr,Ly両領域のCD45蛍光強度に影響を及ぼす因子のひとつとして,免疫抑制剤の使用を含む免疫抑制状態の関与が考えられた。

Translated Abstract

Flow cytometric immunophenotyping of fresh healthy human peripheral blood shows granulocyte (Gr), monocyte, and lymphocyte (Ly) populations in a constant pattern on the CD45/side scatter dot plots. The aim of this study was to evaluate the factors affecting CD45 fluorescence intensity (CD45FI) in Gr and Ly regions shifted from the normal pattern. The subjects were 390 samples from 169 patients for which leukocyte surface antigen analysis was performed during routine testing. First, we examined the correlation between CD45FI in the Gr or Ly region and laboratory data related to inflammation (C-reactive protein, lactate dehydrogenase (LD), neutrophil, lymphocyte, and white blood cell counts). The patients were then divided into groups by diagnosis, and CD45FI was compared between each group and a healthy group. CD45FI was also compared between immunosuppressants-treated, non-treated and healthy groups. The results showed that CD45FI in Gr region correlated with LD and white blood cell counts very weakly, and in Ly region correlated with LD very weakly. Compared to the healthy group, CD45FI in the Gr region was significantly lower in autoimmune disease group (p < 0.001) and congenital immunodeficiency group (p < 0.05), and that in Ly region was significantly lower in the autoimmune disease group (p < 0.01) and fever of unknown origin group (p < 0.01). CD45FI in both regions was significantly lower in the immunosuppressant-treated group than in the non-treated group (p < 0.0001) and the healthy group (p < 0.01). This study suggests that one of the factors affecting CD45FI in both regions is the involvement of immunosuppressive conditions, including with immunosuppressant therapy.

I  目的

CD45抗原は赤血球と血小板を除くすべての正常血液細胞に発現しているタンパク質脱リン酸化酵素であり,細胞の抗原受容体近傍のタンパク質リン酸化酵素を脱リン酸化することによりシグナル伝達を調整して細胞の活性化,抑制化に働いている1),2)。細胞表面に発現しているCD45抗原量は,健常人末梢血では顆粒球・単球・リンパ球の順で多くなる3)。そのためフローサイトメーター(FCM)を用いた白血球表面抗原解析では,蛍光標識抗体が特異的かつ化学量論的に抗原と結合している場合に蛍光強度が抗原量を表すという原理により4),CD45/側方散乱光(side scatter; SSC)サイトグラム上で顆粒球,単球,リンパ球の細胞集団に分けることが可能である(Figure 1a)。

Figure 1  CD45/側方散乱光サイトグラム上の顆粒球・単球・リンパ球領域

a;健常人パターン,b;不明熱の一例,c;HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染の一例

Gr;顆粒球,Mo;単球,Ly;リンパ球

日常検査における白血球表面抗原解析では,多くの患者検体で各細胞領域のCD45蛍光強度が一定のバランスを保ってサイトグラム上に描出されるが(Figure 1a),一つの細胞領域,あるいは複数でCD45蛍光強度が大きく変動する患者検体に遭遇することがある(Figure 1b, c)。CD45抗原は血液細胞の様々な免疫制御システムに機能していることから1),2),我々はサイトグラム上のCD45蛍光強度のシフトが何らかの病態を反映していると推測した。

そこで,本研究ではCD45/SSCサイトグラム上でCD45蛍光強度がシフトする要因を明らかにすることを目的として,リンパ球,顆粒球細胞領域のCD45蛍光強度と臨床情報および検査データとの関連を検討した。

II  対象および方法

1. 倫理声明

本研究は信州大学生命科学・医学系研究倫理委員会の審査・承認を得て実施した(承認番号5117)。

2. 対象

2020年9月~2021年8月に日常検査でFACSCanto II(Canto II, Becton Dickinson and Company; BD)のBD FACSDivaTMソフトウェアを用いて白血球表面抗原解析が実施され,CD45/SSCサイトグラムが得られた169症例のヘパリン加末梢血390検体を対象とした(患者群)。腫瘍解析症例は除外した。

比較対照として,信州大学医学部附属病院職員健康診断で提出され,検査の終了したEDTA加末梢血(19人)を使用した(健常人群)。

3. 健常人群のサンプル調整と測定

健常人群の末梢血は,患者群と同様の方法で調整した。即ち,CD45抗原の検出には,リン酸緩衝生理食塩水で10倍希釈したPerCP標識抗CD45抗体(PR701, Dako)を使用した。患者検体ではFITC,PE標識抗体を用いて複数の抗原を同時に検出しているため,健常人群でも同様に各標識アイソタイプコントロール(IgG1; BD)を添加した。各抗体10 μLに末梢血50 μLを加え15分反応させた後,FACS Lysing Solution(BD)を添加し,さらに15分反応させた。反応はすべて室温で行った。その後1,400 × gで3分間遠心し,上清を除去した後にFACS Sheath Solution(BD)を加えて細胞を再浮遊させた。調整したサンプルは,Canto IIを用いてCD45/SSCサイトグラムにおいてリンパ球領域の細胞が5,000個に達するまで測定した。なお,本研究で使用したPerCP標識抗CD45抗体は2D1をクローンとするモノクローナル抗体で,すべてのCD45アイソフォームと反応するが,そのエピトープは同定されていない5)

4. 解析

患者群,健常人群ともCD45/SSCサイトグラム上の,顆粒球(Gr)領域とリンパ球(Ly)領域のCD45 PerCP蛍光強度の中央値(CD45 Median)を本検討の解析に用いた。

5. 患者情報の取得

患者の疾患名および病態,免疫抑制剤6)~10)(ステロイド剤,タクロリムス,シクロスポリン,ミコフェノール酸モフェチル,ミゾリビン,エベロリムス,アザチオプリン,リツキシマブ,インフリキシマブ,ガンマーグロブリン大量静注)使用の有無は電子カルテシステムから取得した。ステロイド剤,タクロリムス,シクロスポリン,ミコフェノール酸モフェチル,ミゾリビン,エベロリムス,アザチオプリンについては,採血当日を含む継続投与が確認できた場合を免疫抑制剤使用群に分類した。リツキシマブは当日の検査でCD20がリンパ球ゲートの1%未満の場合,またインフリキシマブ,ガンマーグロブリン大量静注は検査日前3日以内の使用が確認できた場合を免疫抑制剤使用群に分類した。上記以外は,過去の使用歴がある場合も免疫抑制剤非使用群に分類した。疾患名および病態は検討対象となった時点での治療の主となっているものとし,類似する病態ごとに疾患群としてグループ分けした。

臨床検査データとして,C反応性タンパク(C-reactive protein; CRP),乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase; LD),好中球数,リンパ球数,白血球数を検査システムから取得した。

6. 統計解析

全ての統計解析はEasy R version 1.55(EZR,自治医科大学)を用いて行った。

患者群におけるCD45 MedianとCRP,LD,好中球数,リンパ球数,白血球数の相関解析としてSpearmanの順位相関係数を求めた。健常人群と各疾患群のCD45 Median比較,健常人群と免疫抑制剤使用群,非使用群のCD45 Median比較にKruskal-Wallis検定を用いた。いずれの統計解析においても有意水準を0.05に設定した。

III  結果

1. 疾患群の内訳と免疫抑制剤使用の有無

患者群390検体の疾患群の内訳,および免疫抑制剤使用の有無についてTable 1に示した。ヒト免疫不全ウイルス感染(抗ウイルス薬投与中を含む)192検体,造血幹細胞移植67検体(移植前3検体,移植後64検体),腎疾患(ネフローゼ症候群,膜性増殖性糸球体腎炎,等)34検体,自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE),抗好中球細胞質抗体関連血管炎,等)23検体,肝移植(移植後)13検体,不明熱8検体,先天性免疫不全症(ウイスコット・アルドリッチ症候群,IKZF1変異,monoMAC症候群)5検体,その他48検体であった。また,免疫抑制剤使用の有無では使用群117検体,非使用群273検体であった。

Table 1 疾患群の内訳と免疫抑制剤使用の有無

疾患群 略称 症例数(検体数) 免疫抑制剤の使用
HIV感染 HIV 50(192) 1 191
造血幹細胞移植 SCT 32(67) 42 25
腎疾患 KID 13(34) 32 2
自己免疫疾患 AID 14(23) 17 6
肝移植 LT 7(13) 12 1
不明熱 FUO 6(8) 0 8
先天性免疫不全症 PID 4(5) 0 5
その他 Others 43(48) 13 35
169(390) 117 273

HIV;ヒト免疫不全ウイルス

2. CD45 Medianと臨床検査データの比較

Gr領域とLy領域のCD45 MedianとCRP(n = 251),LD(n = 342),好中球数(n = 382),リンパ球数(n = 382),白血球数(n = 385)との相関関係を検討した。その結果,Gr領域ではLDに弱い負の相関,白血球数に極めて弱い正の相関を認め,Ly領域ではLDに極めて弱い負の相関を認めた(Table 2)。

Table 2 CD45 Medianと臨床検査データの相関

Spear.r p n
Gr領域 CRP 0.094 0.137 251
LD −0.256 < 0.001 342
好中球数 0.098 0.056 382
白血球数 0.160 < 0.001 385
Ly領域 CRP 0.072 0.253 251
LD −0.165 < 0.01 342
リンパ球数 −0.036 0.482 382
白血球数 −0.076 0.137 385

CD45 Median;CD45 PerCP蛍光強度の中央値,Gr;顆粒球,Ly;リンパ球,CRP;C反応性蛋白,LD;乳酸脱水素酵素,Spear.r;Spearmanの順位相関係数

3. CD45 Medianの健常人群と疾患群別の比較

Gr領域,Ly領域のCD45 Medianを,各疾患群と健常人群で比較した。Gr領域のCD45 Medianは自己免疫疾患群(p < 0.001),先天性免疫不全症群(p < 0.05)で健常人群より有意に低値であった。Ly領域CD45 Medianは自己免疫疾患群(p < 0.01)と不明熱群(p < 0.01)で健常人群より有意に低値であった(Figure 2)。その他の疾患群では,有意差は認められなかった。

Figure 2  CD45 Medianの疾患群別比較

Gr,Ly領域のCD45 Medianを各疾患群と健常人群で多群比較した。AID群のGr領域でCD45 Median高値の症例(上)は抗好中球細胞質抗体陽性の潰瘍性大腸炎,(下)はRAS関連自己免疫性リンパ増殖症候群。

CD45 Median;CD45PerCP蛍光強度の中央値,Gr;顆粒球,Ly;リンパ球,HCs;健常人,HIV;ヒト免疫不全ウイルス感染,SCT;造血幹細胞移植,KID;腎疾患,AID;自己免疫疾患,LT;肝移植,FUO;不明熱,PID;先天性免疫不全症,others;その他

4. 健常人群,免疫抑制剤使用群,非使用群のCD45 Medianの比較

Gr領域について,健常人群,免疫抑制剤使用群,非使用群の3群でCD45 Medianを比較した結果,免疫抑制剤使用群のCD45 Medianは健常人群と比較して有意に低値であり(p < 0.001),免疫抑制剤非使用群と比較しても有意に低値であった(p < 0.0001)。健常人群と免疫抑制剤非使用群との間に有意な差は認められなかった(Figure 3a)。Ly領域でも同様に,免疫抑制剤使用群のCD45 Medianは健常人群と比較して有意に低値であり(p < 0.01),免疫抑制剤非使用群と比較しても有意に低値であった(p < 0.00001)。健常人群と免疫抑制剤非使用群との間に有意な差は認められなかった(Figure 3b)。

Figure 3  免疫抑制剤使用の有無におけるCD45 Medianの比較

Gr,Ly領域のCD45 Medianを免疫抑制剤使用群,非使用群,健常人群で3群比較した。

CD45 Median;CD45PerCP蛍光強度の中央値,Gr;顆粒球,Ly;リンパ球,HCs;健常人,IS(−);免疫抑制剤非使用群,IS(+);免疫抑制剤使用群

5. 造血幹細胞移植群における免疫抑制剤使用群と非使用群の比較

健常人群,免疫抑制剤使用群,非使用群の3群間で統計的に解析が可能であった造血幹細胞移植関連群におけるCD45 Medianの比較結果をFigure 4に示した。Gr領域では,免疫抑制剤使用群のCD45 Medianは健常人群と比較して有意に低値であり(p < 0.001),免疫抑制剤非使用群と比較しても有意に低値であった(p < 0.01)。健常人群と免疫抑制剤非使用群との間に有意な差は認められなかった(Figure 4a)。Ly領域では,免疫抑制剤使用群,非使用群のCD45 Medianは健常人群と比較して有意に低値であったが(各p < 0.01,p < 0.05),免疫抑制剤使用群と非使用群との間に有意差はなかった(Figure 4b)。

Figure 4  造血幹細胞移植群における免疫抑制剤使用の有無によるCD45 Medianの比較

造血幹細胞移植群を免疫抑制剤使用群と非使用群に分け,Gr,Ly領域のCD45 Medianについて健常人群と3群比較した。

CD45 Median;CD45PerCP蛍光強度の中央値,Gr;顆粒球,Ly;リンパ球,HCs;健常人,IS(−);免疫抑制剤非使用群,IS(+);免疫抑制剤使用群

6. 自己免疫疾患群における免疫抑制剤使用群と非使用群の比較

健常人群,免疫抑制剤使用群,非使用群の3群間で統計的に解析が可能であった自己免疫疾患群におけるCD45 Medianの比較結果をFigure 5に示した。Gr領域では,免疫抑制剤使用群,非使用群のCD45 Medianは健常人群と比較して有意に低値であったが(各p < 0.001),免疫抑制剤使用群,非使用群との間に有意な差はなかった(Figure 5a)。Ly領域もGr領域と同様に,免疫抑制剤使用群,非使用群のCD45 Medianは健常人群と比較して有意に低値であったが(各p < 0.01),免疫抑制剤使用群,非使用群との間に有意な差はなかった(Figure 5b)。

Figure 5  自己免疫疾患群における免疫抑制剤使用の有無によるCD45 Medianの比較

自己免疫疾患群を免疫抑制剤使用群と非使用群に分け,Gr,Ly領域のCD45 Medianについて健常人群と3群比較した。CD45 Median;CD45PerCP蛍光強度の中央値,Gr;顆粒球,Ly;リンパ球,HCs;健常人,IS(−);免疫抑制剤非使用群,IS(+);免疫抑制剤使用群

IV  考察

CD45抗原はチロシン脱リン酸化酵素(protein tyrosine phosphatase; PTP)活性をもつ分子で,免疫の活性化,抑制化の引き金としての機能を有する1),2)。そこで我々は,CD45蛍光強度のシフトが炎症やそれに伴う細胞破壊の指標11)と相関するのではないかと考えた。しかし,CRPはGr領域,Ly領域ともCD45蛍光強度との相関を認めなかった。CRP上昇が炎症発生後48~72時間後がピークであり,CD45蛍光強度の変化とCRP上昇とはタイミングが異なる可能性も考えられた。また,LDはGr領域では弱い負の相関,Ly領域では極めて弱い負の相関を認め,白血球数はGr領域で極めて弱い正の相関を認めた。しかし,LDは非特異的な細胞破壊を示すマーカーであり,多様な病態の患者を含んでいる本研究において,この相関の理由を推察することはできなかった。また,Gr領域の白血球数についても極めて弱い相関であること,好中球数との相関は認められないことから,明らかな炎症との関連を言及できなかった(Table 2)。

次に,健常人群と各疾患群のCD45蛍光強度を比較した。その結果,Gr領域のCD45 Medianは自己免疫疾患群,先天性免疫不全症群で健常人群より有意に低値であり,Ly領域のCD45 Medianは自己免疫疾患群と不明熱群で健常人群より有意に低値であることから,CD45蛍光強度のシフトが顆粒球とリンパ球で必ずしも一致するわけではないことが明らかとなった(Figure 2)。CD45抗原は顆粒球ではFc Receptor γ IIシグナリングを12),Tリンパ球ではT cell receptorシグナリング2)を調整しているとの報告があり,細胞分画ごとにCD45抗原の作用が異なることが一因であると推測された。

さらに,患者検体の多くで免疫抑制剤の使用を認めたため,我々はCD45蛍光強度のシフトが免疫抑制剤の影響を受けている可能性を考え,CD45蛍光強度と免疫抑制剤との関連を検討した。その結果,Gr領域,Ly領域ともに免疫抑制剤使用群のCD45 Medianは健常人群及び免疫抑制剤非使用群と比較して有意に低く,免疫抑制剤の使用がCD45蛍光強度低値の原因の一つと推測された(Figure 3)。検索した限りでCD45抗原と免疫抑制剤使用との関連を記載した文献はなく,顆粒球,リンパ球ともに免疫抑制状態がCD45蛍光強度すなわちCD45抗原量に影響している可能性があることは興味深い。今回は作用機序の異なる免疫抑制剤6)~10)を一律に使用の有無のみで群分けして比較しているため,薬剤の種類,量,服用期間,複数薬剤の併用などの詳細との関連は考察できなかった。免疫抑制剤の作用機序の違いがCD45抗原に及ぼす影響については,今後の課題である。

症例数が比較的多く個別の統計解析が可能であった造血幹細胞移植群をみると,Gr領域における免疫抑制剤使用群のCD45 Medianは健常人群及び免疫抑制剤非使用群と比較して有意に低値であった(Figure 4a)。一方,Ly領域CD45 Medianは健常人群と比較して有意に低値であったものの,免疫抑制剤非使用群との間に有意な差はなかった(Figure 4b)。また,自己免疫疾患群の,Gr領域,Ly領域における免疫抑制剤使用群のCD45 Medianは,健常人群と比較して低値であったが免疫抑制剤非使用群と比較して有意な差は認められなかった(Figure 5)。これらのことから,CD45蛍光強度が低くなるのは,免疫抑制剤の使用のみが原因ではないと考えられた。しかし,免疫抑制剤を使用していない先天性免疫不全症群において,Gr領域のCD45 Medianが健常人群と比較して低値であることから,免疫抑制状態が顆粒球のCD45抗原に影響していることも示唆された(Figure 2a)。

Andreasら1)は尋常性乾癬やクローン病でリンパ球のCD45抗原が過剰発現していると記述している。我々が今回検討した自己免疫疾患群のなかに尋常性乾癬症例はなかった。クローン病(免疫抑制剤非使用群)は1検体あったが,Ly領域のCD45 Median値は16,189でありCD45抗原の過剰発現は認めなかった。本症例は治療歴もあることから文献との比較はできないと考える。また,竹内13)はSLEでリンパ球細胞表面上のCD45抗原のPTP活性が低下しているとしている。PTP活性の低下が細胞表面上のCD45抗原の減少によるものであれば,我々の検討でSLEを含む自己免疫疾患においてCD45蛍光強度が低下した結果と一致する。

なお,今回の検討は過去に当臨床検査部で日常検査を行った検体を対象とした後ろ向き研究であり,検査依頼のある診療科が限られていることから患者背景に大きな偏りがある。また,健常人群は19例と解析した患者検体数と比較して少ない。さらにGr領域,Ly領域ともにCD45 Median高値検体が存在するものの,今回は患者病態からその原因について推察することはできなかった。これらを踏まえ,今後は健常人の検討数を大規模に増やして基準値を設定し,多様な病態を背景とした症例のCD45蛍光強度を解析する必要がある。

しかしながら本研究により,リンパ球,顆粒球のCD45蛍光強度すなわちCD45抗原量に影響をおよぼす因子のひとつとして,免疫抑制剤の使用を含む免疫抑制状態の関与が考えられた。CD45抗原量の意義をさらに明らかにすることで,CD45蛍光強度の測定が患者病態を把握するうえで有用な手段となりうると考えられる。そのためには,我々臨床検査技師が各細胞領域の蛍光強度に注目してFCMのサイトグラムをよく観察し,わずかな変化を見逃さない観察眼が重要であると考える。

V  結語

CD45抗原量に影響をおよぼす因子として,免疫抑制剤の使用を含む免疫抑制状態の関与が考えられた。CD45抗原量の意義をさらに明らかにできれば,CD45蛍光強度の測定は患者病態を把握するうえで有用な手段となりうると考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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