Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Case Report
Three cases of left ventricular stenosis due to characteristic morphology
Izumi TAKAMATSURio MATSUMOTOManami NINOMIYAYoko ASAISachi YOSHIMOTOKazuko YOSHIMOTO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 74 Issue 2 Pages 428-435

Details
Abstract

閉塞性肥大型心筋症や心室中部閉塞性肥大型心筋症以外で左室内狭窄を認めた症例を経験したので報告する。症例1は,たこつぼ心筋症と診断された患者であった。経胸壁心エコー図検査(TTE)では,S字状中隔と左室基部の過収縮により左室流出路狭窄が出現していた。僧帽弁前尖は長い形態であり,左室流出路狭窄も出現したことから僧帽弁前尖収縮期前方運動(SAM)とそれに伴う中等度の僧帽弁逆流(MR)が認められた。症例2は労作時息切れがあり,冠動脈造影検査(CAG)では有意狭窄は認められなかった。TTEでは,左室求心性肥大とS字状中隔の形態で,左室流出路狭窄は認めないが僧帽弁の前尖は長くSAM様であり軽度のMRを認めた。症状の精査として症状が出現するまでマスター二段階試験を施行し,負荷5分後に症状が出現した。その際のTTEでは左室中部での左室内狭窄が認められた。症例3は労作性狭心症の経過観察中であり,CAGでは有意狭窄は認めなかったが労作時息切れの訴えがあった。TTEでは,左室求心性肥大,内腔は狭小化しており収縮期に内腔は消失傾向であったが加速血流は認められなかった。Valsalva負荷施行時,左室中部にて左室内狭窄が認められた。特徴的な形態により左室内加速血流が出現し,1症例は左室流出路狭窄によるMRの成因,2症例は潜在性左室内狭窄の発見にTTEが有用であった。

Translated Abstract

We report three cases of left ventricular stenosis in patients with other than hypertrophic obstructive cardiomyopathy or hypertrophic cardiomyopathy with midventricular obstruction. Case 1 was a patient diagnosed with takotsubo cardiomyopathy, and transthoracic echocardiography (TTE) revealed left ventricular outflow tract stenosis due to sigmoid septum and hypercontraction of the left ventricular base. The mitral valve anterior apex was long in morphology and the left ventricular outflow tract stenosis also appeared, indicating systolic anterior motion (SAM) and associated moderate mitral regurgitation (MR). Case 2 had breathlessness on exertion, and coronary angiography (CAG) showed no significant stenosis. TTE revealed a form of concentric remodeling and sigmoid septum, with no left ventricular outflow tract stenosis, but a long mitral apex, SAM-like, and mild MR. A master two-step test was performed until the onset of symptoms, and symptoms appeared after 5 minutes of loading. TTE at that time showed left ventricular stenosis at mid level. Case 3 was under observation for exertional angina pectoris and complained of breathlessness, although CAG showed no significant stenosis. TTE showed concentric remodeling, narrowing of the lumen, and a tendency for the lumen to disappear during systole, but no accelerated blood flow, but when Valsalva loading was performed, left ventricular stenosis was observed at mid level. Characteristic morphology led to the appearance of left ventricular accelerated blood flow, and TTE was useful in one case to detect the cause of MR due to left ventricular outflow tract stenosis, and in two cases to detect subclinical left ventricular stenosis.

I  はじめに

左室内加速血流は,閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy; HOCM)や心室中部閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy with midventricular obstruction; HCM-MVO)の形態的特徴により出現することが知られている1)。しかしHOCMやHCM-MVOなどの形態的特徴がない状態でも左室内加速血流が出現し左室内狭窄を起こすことがある。今回は,上記心筋症以外にて左室内狭窄を認めた症例を経験したので報告する。

II  症例

1. 症例1

患者:50歳代,女性。

既往歴:肺癌手術後。

現病歴:原発性胆汁性胆管炎の治療中。

現症:気分が悪くなり熱中症疑いにて救急搬送されたが,2週間前より運動時に息苦しさを感じていた。

心電図ではII・III・aVFとV1–V6でのST上昇を認めた(Figure 1)。血液検査では,RBCの軽度低下,AST,LD,BUN,CRP,BNP,トロポニンIが軽度上昇であった(Table 1)。

Figure 1  症例1 12誘導心電図

II・III・aVFとV1–V6でのST上昇を認めた。

Table 1 症例1 血液データ

WBC 4.8 × 103/μL ALP 64 U/L
RBC 3.81 × 106/μL BUN 23.7 mg/dL
Hg 12.4 g/dL Cre 0.75 mg/dL
PLT 171 × 103/μL CRP 0.18 mg/dL
AST 33 U/L CK 117 U/L
ALT 19 U/L CK-MB 2 U/L
LD 235 U/L BNP 47.6 pg/mL
γ-GTP 27 U/L TroI 22.7 pg/mL

経胸壁心エコー図検査(transthoracic echocardiography; TTE)では,心室中部(mid level)以下が全周性に低収縮の壁運動異常,左室基部は過収縮で,駆出率(ejection franction; EF)はdisk summation法にて53%程度,RWT = 0.61,LVMI = 71 g/m2の求心性肥大(concentric remodeling)とS字状中隔(sigmoid septum)を認め,内腔は左室拡張末期径(left ventricular end-diastolic diameter; LVDd)34 mmと狭小化であった。カラードプラでは左室流出路(left ventricular outflow tract; LVOT)にモザイク血流があり,同部位での血流は収縮期最高血流(peak systolic velocity; PSV)4.8 m/sec,圧較差(pressure gradient; PG)92 mmHgと上昇しており左室流出路狭窄を認めた。また僧帽弁前尖(anterior mitral leaflet; AML)は30.8 mmと長く,僧帽弁前尖収縮期前方運動(systolic anterior motion; SAM)による中等度から高度の僧帽弁逆流(mitral regurgitation; MR)が認められた(Figure 2)。急性冠症候群疑いのため心臓カテーテル検査が施行された。心臓カテーテル検査では,冠動脈に有意狭窄は認められずたこつぼ心筋症と診断された。大動脈バルーンパンピング(intra aortic ballon pumping; IABP)挿入と強心薬投与にて治療が開始された。2日後のTTEでは,mid level以下が全周性に高度収縮低下から無収縮で左室基部は過収縮,EF = 50%(disk summation法)程度と軽度収縮能は低下していた。LVOTの血流はPSV = 4.4 m/secと初回よりやや低下し,軽度のMRが認められた。5日後IABPは抜去された。8日後のTTEでは,前回とほぼ同様な所見であり,強心薬は終了し抗凝固療法が開始された。11日後のTTEでは,左室心尖部が軽度低収縮,LVOTの血流は2.5 m/secと低下しており,SAMは認められずMRは微量~軽度であり改善傾向であった。18日後のTTEでは,壁運動はほぼ正常となり,LVOTの血流は2.0 m/sec,SAMも確認されず,微量のMRが認められた。その数日後退院され,β遮断薬とNaチャンネル遮断であるシベンゾリンの投薬治療となった。1ヶ月後のTTEでは壁運動は正常,LVOTの血流は18日後と著変なく2.1 m/secであり,5分間の歩行で胸苦しい症状が持続していた。β遮断薬が追加投与されその2ヶ月後のTTEでは,LVOTの血流は安静時1.3 m/sec,Valsalva負荷時1.9 m/secと負荷後では血流は上昇したが以前よりは低下し,症状では労作時に時々胸部圧迫感は感じられていたが改善傾向であったため,経過観察となった。

Figure 2  症例1 TTE画像

A:心尖部三腔断面像(LVDd = 34 mm, RWT = 0.61, LVMI = 71 g/m2, concentric remodeling, sigmoid septum)

B:心尖部三腔断面Mモード像(SAMを認めた)

C:心尖部三腔断面像(長いAML)

D:心尖部三腔断面カラー像(LVOTにモザイク血流を認めた)

E:心尖部四腔断面パルスドプラ像(PSV = 4.8 m/sec)

F:心尖部四腔断面像とカラー像(SAMと中等度MRを認めた)

2. 症例2

患者:60歳代,男性。

既往歴:喘息。

現病歴:高血圧。

現症:1年前より労作時の呼吸困難が強くなり,10 m​程度の小走りなどでめまい,ふらつきといった前失神発作のような症状を自覚されていた。

心電図検査は,正常範囲(Figure 3)。血液データは,RBC,Hb,CKは軽度低値,BUN,Cre,K,BNPが軽度上昇であった(Table 2)。

Figure 3  症例2 12誘導心電図

正常範囲。

Table 2 症例2 血液データ

WBC 6.2 × 103/μL γ-GTP 32 U/L
RBC 4.29 × 106/μL BUN 26 mg/dL
Hg 13.2 g/dL Cre 1.49 mg/dL
PLT 218 × 103/μL Na 138 mmol/L
AST 19 U/L K 5.2 mmol/L
ALT 12 U/L Cl 104 mmol/L
LD 198 U/L CK 50 U/L
ALP 49 U/L BNP 40.4 pg/mL

TTEでは,EF = 67%(disk summation法),RWT = 0.56,LVMI = 95 g/m2のconcentric remodelingとsigmoid septumがあり,AMLは31.9 mmと長くSAM様変化による軽度MRが観察された(Figure 4)。Valsalva負荷を施行したがMRの増強は認められなかった。ダブルマスター二段階試験では心電図異常は認められなかった。呼吸機能検査では,換気障害分類や肺拡散能力は正常,喘息のマーカーであるFeNOも正常上限値であった。心臓カテーテル検査の結果は,冠動脈に有意な狭窄なく,壁運動異常も認められなかった。左室造影にて心室性期外収縮が起こった時ではあったがsellers III~IVのMRが認められ,労作時息切れの原因がMRによる可能性が考えられた。その後,下肢挙上,ニトログリセリン舌下後にTTE施行したが変化はなかった。マスター二段階試験を症状が出現するまで施行し,開始後5分にて症状の出現があったためTTEを実施した。TTEでは,壁運動は過収縮でありmid level~LVOT付近にて乱流があり,心室中部閉塞(midventricular obstruction; MVO)を呈していた。同部位の血流はPSV = 4.3 m/sec,PG = 74 mmHgと加速血流が認められた(Figure 5)。MRは,中等度以上は確認されず,息切れの原因は左室内加速血流によるものと考えられた。24時間心電図検査では,総心拍100,581 beats中,上室性期外収縮の単発が25回,9連発が1回,心室性期外収縮は単発が5回のみであった。その後,β遮断薬とNaチャンネル遮断であるシベンゾリンの投薬治療となった。退院3ヶ月後の診察では,20 mの走行で息苦しさの訴えがあり,運動負荷後のTTEでは前回同様MVOとPSV = 4.1 m/sec,PG = 67 mmHgの加速血流も確認された。血圧も高めでの推移であり,アンジオテンシンII受容体拮抗薬が追加投与された。その半年後,運動負荷後のTTEではPSV = 2.5 m/sec,PG = 25 mmHgと以前より加速は減少,運動時の胸部症状もなく血圧も低下し改善傾向であったため,経過観察となった。

Figure 4  症例2 安静時TTE画像

A:傍胸骨左室長軸断面像(LVDd = 41 mm, RWT = 0.56, LVMI = 95 g/m2, concentric remodeling, sigmoid septum)

B:心尖部三腔断面像(長いAML)

C:傍胸骨左室長軸断面Mモード像(SAM様変化)

D:心尖部四腔断面カラー像(軽度MRを認めた)

Figure 5  症例2 マスター二段階試験5分後のTTE画像

A:心尖部三腔断面カラー像(mid level~LVOT付近に乱流を認めた)

B:心尖部三腔断面パルスドプラ像(PSV = 4.3 m/sec)

3. 症例3

患者:70歳代,女性。

既往歴:労作性狭心症。

現病歴:高血圧。

現症:3年前に労作性狭心症と診断され経皮的冠動脈インターベンション施行後,経過観察中であった。経過観察による冠動脈造影検査では有意狭窄はなかったが,労作時息切れの訴えがあった。

心電図はI度房室ブロック(Figure 6)。血液データは,LD,BUN,Cl,CK,BNPの軽度上昇を認めた(Table 3)。

Figure 6  症例3 12誘導心電図

I度房室ブロックを認めた。

Table 3 症例3 血液データ

WBC 6.1 × 103/μL γ-GTP 13 U/L
RBC 3.91 × 106/μL BUN 27 mg/dL
Hg 11.7 g/dL Cre 0.72 mg/dL
PLT 203 × 103/μL Na 143 mmol/L
AST 18 U/L K 4.4 mmol/L
ALT 16 U/L Cl 109 mmol/L
LD 233 U/L CK 222 U/L
ALP 76 U/L BNP 28.5 pg/mL

TTEでは,LVDd = 36 mm,RWT = 0.61,LVMI = 75 g/m2のconcentric remodelingとsigmoid septumがあり,EF = 70%(disk summation法)で軽度過収縮であった。mid levelは内腔が狭く,収縮期には消失傾向でモザイク血流を認め,収縮末期に最高血流を呈するPSV = 1.5 m/secの波形を認めた(Figure 7)。Valsalva負荷を実施したところカラードプラにてmid level~LVOT付近に乱流が見られ,MVOを呈しており,同部位の血流はPSV = 3.8 m/sec,PG = 58 mmHgと加速血流が確認された(Figure 8)。MRは安静時と変化なく少量であった。その後,β遮断薬の増量による経過観察となった。

Figure 7  症例3 安静時TTE画像

A:傍胸骨左室長軸断面像(LVDd = 36 mm, RWT = 0.61, LVMI = 75 g/m2, concentric remodeling, sigmoid septum)

B:心尖部四腔断面像,左画像は拡張末期,右画像は収縮末期(%EF = 70%で軽度過収縮,収縮期に内腔は消失傾向)

C:心尖部四腔断面像とカラー像(mid levelにモザイク血流を認めた)

D:心尖部四腔断面パルスドプラ像(収縮末期に最高血流を呈するPSV = 1.5 m/secの波形を認めた)

Figure 8  症例3 Valsalva負荷後のTTE画像

A:心尖部四腔断面像とカラー像(mid level~LVOT付近に乱流を認めた)

B:心尖部四腔断面パルスドプラ像(PSV = 3.8 m/sec)

III  考察

症例1では,たこつぼ心筋症による左室基部過収縮のため左室流出路狭窄と中等度以上のMRが出現した。たこつぼ心筋症における左室流出路狭窄の頻度は12.8~25%と報告されており2),左室流出路狭窄によるSAMの結果,MRを発症する。また,左室流出路狭窄や急性のMRにより急性心不全や心原性ショックなどの合併が増加し,左室流出路狭窄による低血圧の症例では強心薬の使用で左室流出路狭窄が増悪し,血行動態の更なる悪化を招くことになる。今回の症例も,強心薬使用時はSAMによる中等度のMRを認めていたが,強心薬終了後よりSAMの出現はなくMRも減量となった。たこつぼ心筋症にMRが見られた場合,心エコー図によるMRの機序を評価し,適切な治療に結びつけることが必要である。今回,症例1ではconcentric remodelingとsigmoid septumの形態に,たこつぼ心筋症による左室基部の過収縮が加わることで左室流出路狭窄が発生し,LVOTの加速血流にAMLが引き寄せられるventuri効果によってSAMが起こり,中等度以上のMRが出現したものと考えられた。

症例2では,concentric remodeling,sigmoid septum,そしてAMLは長い形態であった。安静時のTTEではSAM様による軽度MRは認められたが,症状に一致する所見ではなかった。症状が出現するまで施行した運動負荷でmid level~LVOT付近での加速血流が確認され,MVOに伴う低心拍出量が症状の原因と考えられた。加速血流発生の機序としては,concentric remodelingにsigmoid septumが合併しており,運動による過収縮のため収縮期に内腔が狭窄したものと推測する。運動負荷後のMRに関しては,左室流出路狭窄が発生するとventuri効果にてMRが増量することも考えられるが,mid levelでの狭窄であったため,venturi効果は起こらずMRの増量はなかったものと考えられる。心臓カテーテル検査にてsellers III~IVのMRが認められたことについて,左室造影時息ごらえにて撮像し,また心室性期外収縮も出現したため増量したMRが確認されたものと推測する。

SAMの機序に関して,近年の研究では乳頭筋の肥大や前方偏位などの異常,僧帽弁弁葉のelongationや副組織などの異常が起こり,左室収縮期に僧帽弁複合体の位置が前方へ偏位することにより腱索・僧帽弁前尖の余剰が起こるため生じるとされている。この2症例も,AMLの長さが症例1では30.8 mm,症例2では31.9 mmと,当院にてランダムにAMLの長さを計測した100症例(平均年齢57.3 ± 9.2歳)の平均22.5 ± 2.0 mmよりも長く伸びていたこともSAM発生に関与したものと推察する。

症例3では,sigmoid septumとconcentric remodelingによる狭い左室に,Valsalva負荷による前負荷軽減がさらなる左室の狭小化となったことが,mid level~LVOT付近で出現した加速血流の成因と考える。

3症例ともsigmoid septumとconcentric remodelingの形態であった。sigmoid septumの場合,左室内腔に突出した中隔によりLVOTは狭小化するため,LVOTに加速血流を認めることはあるが2 m/secを超えることはほとんどない。しかし,運動時,脱水状態,強心薬使用時には左室内腔が小さくなり左室流出路狭窄をきたすとの報告がある3)~5)。症例1は脱水状態に,たこつぼ心筋症による過収縮が加わり強心薬使用時と同様な状態となったため左室流出路狭窄が出現したものと考えられた。症例2,症例3ではmid level~LVOT付近での加速血流出現であったが,症例2では運動時,症例3ではValsalva負荷による静脈還流低下に伴う前負荷軽減が脱水と類似した状態となり,LVOT付近に加速血流が出現したものと考える。その上concentric remodelingによる左室内腔の狭小化も左室内加速血流を起こす要因となり,症例2と3ではHCM-MVOと同様な血行状態であったと推察する。HCM-MVOの場合,左室心尖部瘤を形成し心室頻拍の起源となることもあるが6),本症例では左室心尖部瘤は見られず,1症例しか確認はできていないが心室頻拍の出現も認めなかった。今後,左室心室瘤の形成時では24時間心電図検査によるモニタリングも必要であると考える。また,左室流出路狭窄は狭心症状および心不全徴候の原因となり突然死のリスクとなる7)。心不全症状のある患者において,運動負荷やValsalva負荷で30 mmHg以上の圧較差が誘発された潜在性左室流出路狭窄を有する患者は,圧較差が誘発されない患者よりも予後不良であるという報告8)や,sigmoid septumではHOCMに類似した左室流出路狭窄をきたして,それによる労作性呼吸困難や失神,胸痛を伴う症例も報告されている3)~5)。本症例は胸部症状の訴えがあったが,3症例ともβ遮断薬などの陰性変力作用のある薬剤が使用され,経過が確認された2症例では左室内圧較差低下に伴い症状も軽減されており,薬剤選択などの治療方針や経過観察にTTEが有用であったと考える。

心筋症ガイドラインでは,肥大型心筋症が疑われる症例に対して,運動負荷やValsalva負荷を施行し,左室流出路圧較差を評価することが推奨されている1),7),9)。肥大型心筋症の形態的特徴ではないが,内腔が狭小化する状態では加速血流が発生することも念頭に置き,安静時の検査だけでなく運動負荷やValsalva負荷などの生理的誘発も施行し,症状の原因検索に努めるべきであり,その際リアルタイムでの記録が可能なTTEの活躍が期待される。

IV  結語

心筋症の形態を呈さないが,sigmoid septumとconcentric remodelingの特徴的な形態により左室内狭窄を認める3症例を経験した。3症例中,1症例は左室流出路狭窄によるMRの成因,2症例は潜在性左室内狭窄の発見に,TTEが有用であり治療方針に貢献できた症例であった。本症例を経験し,sigmoid septum,concentric remodelingの特徴的な形態と原因不明な症状がある場合は,潜在性左室内狭窄を念頭におき,生理的誘発の実施も考慮する必要があると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2025 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top