2025 Volume 74 Issue 2 Pages 397-402
パニック値は医療機関ごとに,施設の特色に合わせて設定されている。パニック値報告はJCI認証やISO 15189認定取得においても,重要なパートに位置付けられている。我々は検査技師によるパニック値報告から1時間以内の医師によるカルテ記載率を向上させるために検体検査パニック値を見直す機会を得たので,見直し前後の集計とともに知見を報告する。2020年7月の臨床検査適正化委員会にて承認され,同月より新しい検体検査パニック値の運用を開始した。2019年4月-2020年3月(以下,2019年度)と2021年4月-2022年3月(以下,2021年度)の集計を比較検討した。2019年度は報告総数3,131件(約261件/月),2021年度は報告総数1,631件(約136件/月)であった。パニック値報告の増加は検査担当者の負担を増すだけではなく,報告を受ける医師にとっても業務の妨げとなり,またパニック値報告に対する緊張感を低下させかねない。検体検査パニック値の見直し以外にも各診療科部長に対し,定期的な結果の報告および記載率の低い診療科への協力要請など継続的な努力を行っているが,JCIの目標は未達である。今後は検査項目ごとに評価を行い,効果的な施策を実施し,更なるカルテ記載率の向上を目指したい。
Critical values are set by each healthcare organization according to the specific characteristics of its facilities. Reporting critical values is a key component of JCI certification and ISO 15189 accreditation. To enhance the rate of medical record entries within one hour of critical value reporting by medical technologist, so we show findings with tabulations before and after the review. The new critical values were approved by the Clinical Laboratory Appropriateness Committee in July 2020 and started to operate in the same month. We compared reports from April 2019 to March 2020 (“FY 2019”) and April 2021 to March 2022 (“FY 2021”). In FY 2019, the total number of reports was 3,131 (about 261 reports/month) and in FY 2021, the total number of reports was 1,631 (about 136 reports/month). An increase in critical value reporting can strain on laboratory personnel, and interferes with the work of the physicians receiving the reports and may reduce the tension over critical value reporting. In addition to reviewing critical values, we regularly report the results to each department head and keep trying to request cooperation from departments with low reporting rates, but the JCI goal has not been achieved. In the future, we would like to evaluate each item and implement effective measures to further improve the rate of medical record entries.
パニック値は1972年にLundbergによって定義され,日本ではガイドラインとして言葉の定義とともに改めてパニック値が定義づけられた1)。この時のパニック値一覧が日本国内において広く普及するなか,医療機関ごとに,施設の特色に合わせてパニック値は設定されている2),3)。2021年12月に日本臨床検査医学会より,『臨床検査「パニック値」運用に関する提言書』4)として,現状と課題およびその解決策としての提言およびcritical value(いわゆるパニック値)の例の提示がされ,「パニック値」の設定や報告体制の構築は医療機関の実情に合わせ,関連部門と協働して行うことが望ましい,とされた。
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(以下,当院)は,病床数806床,救命救急センターに指定されており,救急車受入台数は2018年度12,726台,2019年度11,532台,2020年度8,805台で,名古屋市東部の高度医療・救急医療など急性期医療の中心を担っており,名古屋市東部医療圏の地域医療を支えている。当院は2018年3月にJoint Commission International(以下,JCI)の認証を取得しており,また当院臨床検査科(以下,当科)は2020年12月にISO 15189の認定を取得している。これまでに検査結果の未報告や臨床医への未伝達のインシデント等が報告されており5),パニック値とその運用は医療安全の視点から注目されている。JCIやISO 15189等の第三者機関の評価においても重要項目の1つに挙げられている6),7)。これらの要件を満たすために,当科では臨床への電話連絡および電子カルテ(富士通HOPE/EGMAIN-GX,以下カルテ)のテンプレートを使用してパニック値報告を実施しており,また定期的な集計と解析を行っている。統計的解析を用いたパニック値の検討8)等の報告はあるが,パニック値を変更した前後での運用実績の報告はほとんどない。
今回,検査技師によるパニック値報告から1時間以内の医師によるカルテ記載率を向上させるために,検体検査パニック値を見直す機会を得たので,見直し前後の運用実績とともに知見を報告する。
当科では,検体検査システム(laboratory information system; LIS)においてパニック値が容易に判別でき,パニック値を発見した場合,すぐに入院・外来問わず臨床側(オーダ医師,不在時は同診療科当番医や看護師など)への電話連絡およびカルテのテンプレートを使用して,パニック値報告をカルテ記載している。テンプレートには報告者や被報告者,項目や特記事項(溶血など)を記載する(Figure 1)。
検査技師によるパニック値の電話連絡から1時間以内に,医師は処置の必要性の有無をそのテンプレートに追加記載し(Figure 2),必要に応じて検査結果の貼付および投薬や処置,再検査オーダとその指示を記載する運用となっており,医師のテンプレート記載率をJCIの指標として設けている。当科では,その運用状況を毎月集計し,カルテ記載率を各診療科部長に報告している。
検査技師によるパニック値報告から1時間以内の医師によるカルテ記載率を向上させるために,事前に関係診療科と協議の上で検体検査パニック値の見直しを行い,2020年7月の臨床検査適正化委員会にて承認され,同月より新しい検体検査パニック値(Table 1)の運用を開始した。2019年4月から2022年3月までの検体検査パニック値の単月比較および2019年4月-2020年3月(以下,2019年度)と2021年4月-2022年3月(以下,2021年度)の集計を比較検討した。
項目(item) | 単位(units) | 試料(species) | 下限値(lower) | 上限値(upper) |
---|---|---|---|---|
Hb | g/dL | 全血 | 5.0 | ― |
WBC | 103/μL | 全血 | 1.5 | 30.0 |
末梢血好中球数 | 103/μL | 全血 | 0.5 | ― |
PLT | 104/μL | 全血 | 3.0 | 100 |
末梢血液像 | 全血 | 芽球・破砕赤血球・マラリア虫体 | ||
PT(INR) | 血漿 | ― | 5.0 | |
pH | 動脈血 | 7.2 | 7.6 | |
PaO2 | Torr | 動脈血 | 40 | ― |
PaCO2 | Torr | 動脈血 | 20 | 70 |
HCO3− | mmol/L | 動脈血 | 15 | 40 |
Glu | mg/dL | 血清・血漿 | 40 | 500 |
Na | mmol/L | 血清・血漿 | 120 | 165 |
K | mmol/L | 血清・血漿 | 2.5 | 7.0 |
Cl | mmol/L | 血清・血漿 | ― | 135 |
Ca | mg/dL | 血清・血漿 | 6.0 | 12.0 |
化学療法中のHBV RT-PCR | LogIU/mL | 血清 | 陽性 | |
HBs抗原(CLEIA)の陽転化 | IU/mL | 血清 | 陽性(前回,陰性) |
当院の検体検査パニック値は,当時のガイドラインで示された名古屋掖済会病院のパニック値1)を基本として,当院の特色を踏まえて若干の変更を加えたものを使用し,JCIの認証取得時,パニック値の報告および集計を開始した。当院の特色を踏まえたパニック値一覧ではあったが,緊急性に乏しく,処置の必要のないものが目立ち,カルテ記載率が低い要因の1つと考えた。カルテ記載率が低い検査項目を中心として,関係診療科と協議の上で検体検査パニック値の見直しを行った(Table 2)。
項目(item) | 単位(units) | 試料(species) | 下限値(lower) | 上限値(upper) |
---|---|---|---|---|
AST | IU/L | 血清・血漿 | ― | ―(1,000) |
ALT | IU/L | 血清・血漿 | ― | ―(1,000) |
LD | IU/L | 血清・血漿 | ― | ―(1,000) |
WBC | 103/μL | 全血 | 1.5 | 30.0(20.0) |
Na | mmol/L | 血清・血漿 | 120 | 165(160) |
Cl | mmol/L | 血清・血漿 | ― | 135(120) |
WBCは血液内科や救急科,AST,ALT,LD の酵素系3項目は消化器内科や救急科と協議し,変更および報告対象外とした。電解質は糖尿病・内分泌内科と協議し,電解質の治療介入における当院のルールを踏まえ,Kの上下限値およびNaの下限値の設定は変更しないこととし,Naの上限値を変更した。電解質の治療介入においては,Clは不要で対象外とする一方で,薬物中毒の早期発見には重要な項目であり,Clの上限値を変更した。関係診療科と協議した案を臨床検査適正化委員会に提示して承認となり,変更に至った(なお,NICUおよび生理検査のパニック値については割愛する)。
2019年4月から2022年3月までの検体検査パニック値の単月比較を示す(Table 3)。2019年度は報告総数3,131件(約261件/月),2021年度は報告総数1,631件(約136件/月)であった。2020年7月の臨床検査適正化委員会にて承認され,同月より新しい検体検査パニック値に変更したことで,年間の報告件数が約半分に減少した。
WBC | 血液ガス | Glu | Na | K | Cl | LD | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2019年 | 4月 | 92 | 39 | 22 | 9 | 23 | 8 | 36 |
5月 | 89 | 34 | 21 | 15 | 27 | 7 | 25 | |
6月 | 81 | 38 | 20 | 20 | 34 | 9 | 30 | |
7月 | 72 | 29 | 25 | 28 | 26 | 5 | 35 | |
8月 | 85 | 25 | 24 | 15 | 27 | 8 | 26 | |
9月 | 50 | 17 | 20 | 17 | 25 | 3 | 28 | |
10月 | 57 | 39 | 18 | 5 | 32 | 7 | 22 | |
11月 | 81 | 25 | 17 | 12 | 29 | 11 | 26 | |
12月 | 99 | 40 | 18 | 13 | 33 | 18 | 33 | |
2020年 | 1月 | 83 | 30 | 30 | 17 | 25 | 22 | 38 |
2月 | 65 | 22 | 16 | 12 | 36 | 10 | 19 | |
3月 | 44 | 15 | 12 | 11 | 22 | 10 | 23 | |
4月 | 46 | 17 | 18 | 13 | 18 | 7 | 22 | |
5月 | 51 | 26 | 21 | 12 | 31 | 12 | 28 | |
6月 | 58 | 11 | 10 | 8 | 24 | 2 | 14 | |
7月 | 24 | 18 | 12 | 11 | 17 | 2 | 11 | |
8月 | 13 | 13 | 10 | 15 | 17 | 0 | 0 | |
9月 | 17 | 29 | 17 | 10 | 21 | 1 | 1 | |
10月 | 11 | 18 | 13 | 13 | 29 | 0 | 1 | |
11月 | 17 | 23 | 11 | 14 | 24 | 1 | 0 | |
12月 | 16 | 22 | 19 | 4 | 16 | 0 | 0 | |
2021年 | 1月 | 25 | 20 | 17 | 7 | 28 | 0 | 0 |
2月 | 17 | 17 | 9 | 14 | 19 | 3 | 0 | |
3月 | 18 | 31 | 17 | 9 | 28 | 2 | 0 | |
4月 | 17 | 23 | 24 | 14 | 22 | 3 | 0 | |
5月 | 11 | 26 | 10 | 13 | 15 | 0 | 0 | |
6月 | 6 | 20 | 14 | 7 | 15 | 1 | 0 | |
7月 | 17 | 31 | 14 | 18 | 22 | 0 | 0 | |
8月 | 21 | 30 | 15 | 18 | 23 | 0 | 0 | |
9月 | 21 | 28 | 12 | 13 | 23 | 1 | 0 | |
10月 | 17 | 33 | 13 | 20 | 27 | 1 | 0 | |
11月 | 18 | 31 | 15 | 7 | 18 | 0 | 1 | |
12月 | 17 | 27 | 12 | 18 | 30 | 1 | 0 | |
2022年 | 1月 | 11 | 34 | 11 | 8 | 26 | 1 | 0 |
2月 | 15 | 31 | 10 | 9 | 28 | 3 | 0 | |
3月 | 23 | 32 | 22 | 11 | 30 | 0 | 0 |
検査項目別では,2019年度の上位割合はWBC(28.7%,898件),血液ガス(11.3%,353件),LD(10.9%,341件),K(10.8%,339件)であったのが,2021年度の上位割合は血液ガス(20.7%,346件),K(16.7%,279件),WBC(11.6%,194件),Glu(10.3%,172件)となり,上位割合の検査項目が変化した。2019年度の月別パニック値報告後1時間以内の医師によるカルテ記載率は10~25%,2021年度の月別パニック値報告後1時間以内の医師によるカルテ記載率は42~66%であった。
削除項目および変更項目の2019年度および2021年度の比較を示す(Table 4)。
AST | ALT | LD | WBC | Na | Cl | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
2019年 | 4月 | 10 | 2 | 36 | 92 | 9 | 8 |
5月 | 6 | 4 | 25 | 89 | 15 | 7 | |
6月 | 8 | 2 | 30 | 81 | 20 | 9 | |
7月 | 4 | 3 | 35 | 72 | 28 | 5 | |
8月 | 5 | 3 | 26 | 85 | 15 | 8 | |
9月 | 10 | 9 | 28 | 50 | 17 | 3 | |
10月 | 5 | 4 | 22 | 57 | 5 | 7 | |
11月 | 7 | 2 | 26 | 81 | 12 | 11 | |
12月 | 8 | 3 | 33 | 99 | 13 | 18 | |
2020年 | 1月 | 13 | 8 | 38 | 83 | 17 | 22 |
2月 | 4 | 2 | 19 | 65 | 12 | 10 | |
3月 | 3 | 2 | 23 | 44 | 11 | 10 | |
2019年度合計 | 83 | 44 | 341 | 898 | 174 | 118 | |
2021年 | 4月 | 0 | 0 | 0 | 17 | 14 | 3 |
5月 | 0 | 0 | 0 | 11 | 13 | 0 | |
6月 | 0 | 0 | 0 | 6 | 7 | 1 | |
7月 | 0 | 0 | 0 | 17 | 18 | 0 | |
8月 | 0 | 0 | 0 | 21 | 18 | 0 | |
9月 | 0 | 0 | 0 | 21 | 13 | 1 | |
10月 | 0 | 0 | 0 | 17 | 20 | 1 | |
11月 | 0 | 0 | 1 | 18 | 7 | 0 | |
12月 | 0 | 0 | 0 | 17 | 18 | 1 | |
2022年 | 1月 | 0 | 0 | 0 | 11 | 8 | 1 |
2月 | 0 | 0 | 0 | 15 | 9 | 3 | |
3月 | 0 | 0 | 0 | 23 | 11 | 0 | |
2021年度合計 | 0 | 0 | 1 | 194 | 156 | 11 |
AST,ALT,LDは,パニック値報告の対象外としたことで,それぞれ月平均で約7件,約4件,約30件(重複患者含む)の電話連絡およびカルテのテンプレートを作成する業務を減らすことができた。
2. 変更項目WBCは,2万/μL以上,3万/μL未満の報告をしないことで,月平均約70件を約16件に減少させ,毎月50件以上の報告業務を減らすことができた。
Naは,160 mmol/L以上,165 mmol/L未満の報告をしないことで,月平均2件の業務を減らすことができた。
Clは,120 mmol/L以上,135 mmol/L未満の報告をしないことで,月平均8件の業務を減らすことができた。
パニック値報告の対象外としたAST,ALT,LD の酵素系3項目については,パニック値変更後,臨床側からの問い合わせや要望等はなく,業務負担の軽減となった。当院は高度医療・救急医療など急性期医療の中心を担っており,交通外傷などで酵素系項目がパニック値になることは必然であり,報告する意義がない。また,酵素系項目は単項目のみ異常値を示すことは稀である。LD単項目の上限値異常は悪性腫瘍を考慮するが,がんやリンパ腫であれば精査が必要で緊急の報告は不要であり,白血病であれば芽球の出現や場合によっては重度の貧血となり,LDはそれらを裏付ける結果であって,パニック値報告が必要な緊急性の高い患者容体の場合はLDではない項目で報告可能である。
パニック値を変更したWBC,Na,Cl の3項目についても,パニック値変更後,臨床側からの問い合わせや要望等はなかった。WBCは変更によって,報告件数が大幅に減少した。特に2万/μL以上3万/μL未満は外科や産科など,虫垂炎や帝王切開など症例の多い手術の術後の検査で報告対象となってしまうことが少なくなく,パニック値報告の意図から外れるため,有効な変更であった。他施設ではWBCの上限値設定がない,あるいは5万/μL以上の設定が散見される9),10)。交通外傷など身体損傷の激しい場合は,WBCが3万/μL以上となるがパニック値報告は有効でない。しかし,診療科別にパニック値の設定および報告を変更することは困難であるため,発生頻度および緊急性を踏まえ,WBCが3万/μL以上での報告が適性なのか,そもそも上限値設定が必要なのかを含めて,主たる診療科と今後検討したい。
Naの上限値を変更し,160 mmol/L以上,165 mmol/L未満の報告をしないことにしたが,件数に大きな変化はみられなかった。初診時の高Na血症では,165 mmol/L以上となる場合が多いことを示唆する。Clのパニック値設定を削除せず変更したのは,Na高値を伴わないCl高値はブロム製剤の大量服用を意味するからである。ブロム中毒を見落とさないために135 mmol/L以上での報告は診断補助に大きく寄与するため,意義の高い変更であったと考える。
2019年度は約261件/月に対して,カルテ記載率は10~25%であり,当院は医師の入れ替わりが多く,電話連絡時に医師がテンプレートを修正するという周知が十分でないことを差し引いても記載率の低さが目立った。記載率の低さは様々な要因があるが,処置や再検査の指示に至らない不必要なパニック値を報告しないことが重要であり,パニック値の見直しを実施した。見直しにおいては,全診療科共通報告および医療安全の面でリスクを高めないセーフティーな範囲でパニック値を再設定することを前提として,関係診療科と協議した。その結果,インシデント等の発生や問い合わせはなく,年間の報告件数を半減させることができた。救急科の報告をしない運用にすればさらに報告件数を減らすことは可能だが,電解質異常などの見逃しによる処置の遅れを招く可能性があるため,今回の変更においては全診療科共通報告の前提条件を継続した形でパニック値を見直した。パニック値の見直し後,カルテ記載率は42~66%まで上昇したが,目標値の80%には届いていない。カルテ記載率を上げるためには,入れ替わりの多い医師に対して教育を徹底することを前提として,不必要なパニック値報告をしないことが重要である。
パニック値報告の増加は検査担当者の負担を増すだけではなく,報告を受ける医師にとっても業務の妨げとなり,またパニック値報告に対する緊張感を低下させかねない。そのため,当院では救急外来の患者に対してもパニック値報告を行っているが,CPA患者は検体到着時に識別し,不要なパニック値報告を減らす工夫も行っている。一方で,夜勤やローテーションなどで慣れない業務を行う際にパニック値報告を行うことは少なくない。LISの設計限界もあり,診療科別にパニック値を設定することは,報告体制作りにおいて煩雑な運用となる。最近では,医療安全情報を受け,パニック値の報告は努力義務ではなく,臨床検査部門が果たすべき基本的な責任の一部として捉えられつつあり,安全面を考慮すると,煩雑な運用となる診療科別のパニック値報告を採用することは難しい。
パニック値の集計および分析を実施することを踏まえ,カルテの検体検査パニック値テンプレートを作成する際には各検査項目の下限および上限報告を区別することを考慮したが,電話報告時に口頭での値の報告はしない,煩雑な運用になりかねない,などの理由で見送った。そのため,本集計では,下限および上限報告を行っている検査項目については,カルテ記載率が低い原因の究明ができていない。
パニック値とその運用で最も重要視すべき点は,検査結果の未報告や臨床医への未伝達によって患者の生命が危ぶまれる事態が発生する,ということがないようにする医療安全の観点である。医療機関によって求められる医療が異なるのと同時に,提供可能な医療も異なる。そのため,パニック値の設定や報告体制の構築は医療機関の実情に合わせ,関連部門と協働して行うことが望ましい。
JCI認定基準には,「IPSG.2.1病院は,診断検査の重大な所見を報告するプロセスを作成し,実行する。」とあり,パニック値報告後の医師によるカルテ記載率は100%が望ましい。しかし,電話報告後,医師による結果確認と処置または指示を実施しているが,カルテ記載は行っていないというケースもあるため,当院の現状としては,Quality Indicator として「検査技師によるパニック値報告から1時間以内の医師によるカルテ記載率80%以上」を設定している。今回の検体検査パニック値の見直し以外にも各診療科部長に対し,定期的な結果の報告および記載率の低い診療科への協力要請など継続的な努力を行っているが,目標は未達である。パニック値の変更により,報告総件数の大幅な減少を達成できたので,今後は検査項目の下限および上限のそれぞれに対して精査および評価を行い,効果的な施策(パニック値の見直しを再実施するなど)を実施し,更なるカルテ記載率の向上を目指したい。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。