Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Article
Evaluation of autotaxin (ATX) measurement reagent for general-purpose automatic analyzer
Tetsuya MISUKazuhiro OKADAMomoka NAKANOMisaki IKEDAKenji KUBOYAMAKenji INOUEHiroyuki KAWANOYoshiki NAITO
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2025 Volume 74 Issue 3 Pages 504-511

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Abstract

オートタキシン(autotaxin; ATX)は,肝線維化時には血中濃度が上昇し,従来の肝線維化マーカーよりも早期線維化の鑑別が可能な項目として期待されている。今回,我々は富士フイルム和光純薬株式会社より発売された汎用機器での運用が可能な「ATXオートワコー」の基礎的性能評価及び臨床的性能評価を実施した。測定機器はLABOSPECT 008 α(日立ハイテク)とし,基礎的検討として,精密性・直線性・定量限界・共存物質の影響,相関性(血漿および対照機器・試薬:FEIA法),検体の保存安定性を実施した。また,臨床的性能評価は肝機能が正常かつ,関節リウマチおよび担がん患者を除く240名(男性120名,女性120名)を対象とし,性別・年代別にATX活性値に差があるか検討した。基礎的性能評価は良好であり,臨床的性能評価は既存試薬同様,女性が高値と性差を認め,年代差は認められなかった。検討試薬は,汎用機器での運用が可能なことから導入に対するコスト面も良く,既存試薬と同様の評価ができる試薬と考える。

Translated Abstract

Autotaxin (ATX) levels increase in the blood during liver fibrosis and can identify fibrosis earlier than conventional liver fibrosis markers. In this study, we conducted a basic performance and clinical performance evaluation of “ATX Autowako,” released by Fujifilm Wako Pure Chemical Corporation. The measurement instrument used was the LABOSPECT 008 α (Hitachi High-Tech). Basic investigations included reproducibility, linearity, quantitation limit, influence of coexisting substances, correlation (plasma and control instruments/reagents: FEIA method), and sample storage stability. Additionally, as part of the clinical performance evaluation, we examined differences in ATX activity values according to sex and age groups. A total of 240 subjects (120 males and 120 females) with normal liver function were included, excluding patients with rheumatoid arthritis and cancer. The results of basic performance evaluation were satisfactory. In the clinical performance evaluation, consistent with previous reports, ATX levels were higher in females than in males, with no age-related differences. The evaluated reagent is suitable for use with a general automatic biochemistry analyzer, making it cost-effective for introduction and we believe it is useful as a reagent that can be assessed similarly to existing ones.

I  はじめに

現在,血液検査による肝線維化評価は,非侵襲的なマーカーとして血小板やヒアルロン酸,IV型コラーゲンなどの項目が用いられている。しかし,これらの項目は早期の線維化の判別や疾患の特異性に欠けるため,新しい肝線維化マーカーとしてオートタキシン(autotaxin; ATX)が注目されている。ATXは,脂質分解酵素であるリゾホスホリパーゼDの1種であり1),肝線維化時には類洞内皮細胞への取り込みが減少し,血中濃度が上昇すると考えられている2)。ATXは,肝線維化の比較的早い段階である新犬山分類F2から血中濃度が上昇する特徴を有しており,従来の肝線維化マーカーよりも早期線維化の鑑別が可能であると期待されている3)。さらにNakagawaら4)は,C型肝炎ウイルスによる慢性肝疾患での肝線維化診断能において,ATXは従来の肝線維化マーカーのヒアルロン酸やAPRI(AST-to-platelet ratio index)より感度・特異度に優れていたと報告している。現状のATX測定法は,試薬に抗体を使用した免疫測定法で,専用機器を必要とする。今回我々は,酵素法を原理としたATX測定試薬「ATXオートワコー」を汎用生化学自動分析装置に搭載し,試薬の基礎的性能試験及び臨床的性能評価を行ったので報告する。

II  測定機器・試薬

検討法として,測定機器は自動分析装置LABOSPECT 008 α(株式会社日立ハイテク),検討試薬は酵素法を原理とするATXオートワコー(富士フイルム和光純薬株式会社)。対照法として対照機器は自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-360(東ソー株式会社),対照試薬は蛍光酵素免疫測定法(FEIA法)を原理とするEテスト「TOSOH」IIオートタキシン(東ソー株式会社)とした。

III  検討試薬の測定原理

検討試薬の測定原理は,試薬中のリゾホスファチジルコリンが,試料中のATXのリゾホスホリパーゼD活性により加水分解されてコリンを生成する。コリンは,コリンオキシダーゼ(COD)によって過酸化水素を生成し,過酸化水素は,ペルオキシダーゼ(POD)存在下で,4-アミノアンチピリンとN-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOPS)を定量的に酸化縮合させ青紫色の色素を生成する。この青紫色色素の生成速度からATX活性値(U/L)を求める(Figure 1)。

Figure 1  検討試薬の測定原理

測定パラメーターは,反応液が100 μL,基質剤が50 μL,検体量が6 μL,主波長が546 nmで副波長が700 nmであり,分析法はレートA法である。

IV  対象

対象検体は,2023年4月から2024年3月までに当院外来受診した患者残検体より無作為に抽出した脂肪肝やC型肝炎患者を含む265検体とした。精度管理試料として2濃度のATXコントロールセット(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた。患者血清を保存する際は−80℃にて保存した。

本研究は久留米大学倫理委員会の承認を得て施行した(研究番号:22222)。なお,富士フイルム和光純薬株式会社との共同研究により行った。

V  検討方法

1. 基礎的性能評価

本検討では日本臨床化学会バリデーション算出用プログラムを使用した。

1) 精密性

併行精度は2濃度のATXコントロールセット(試料1および試料2)とプール血清(試料3)の3種の試料を用いて,それぞれ20重測定し,変動係数(CV)を算出した。また,室内再現精度は試料1と試料2の2試料を用いて15日間2重測定し,CVを算出した。校正については,2点校正を初日のみ実施した。なお,ATXコントロールセットは凍結乾燥品であり,溶解誤差や溶解後の安定性の影響を回避する為,予めコントロールを溶解し,測定回数分(15日×2回=30本)小分け分注し,凍結(−30℃)保存したものを使用した。

2) 希釈直線性

高濃度試料(約60.0 U/L)を生理食塩水および精製水にて10段階希釈し,それぞれ3重測定した。

3) 定量限界

低濃度試料(約3.0 U/L)を生理食塩水にて7濃度に段階希釈した試料をそれぞれ凍結(−30℃)保存し,5日間2重測定を行い,CV 10%点を定量限界とした。

4) 共存物質の影響

共存物質の影響評価は,溶血ヘモグロビン5,000 mg/dL,乳び(イントラリポス)20%,アスコルビン酸100 mg/dL,ビリルビンC 400 mg/dL,ビリルビンF 500 mg/dL(富士フイルム和光純薬株式会社)の干渉物質および精製水とベース血清を1対9の比率で混合したものを高濃度干渉物質血清とし,これら各高濃度干渉物質血清をベース血清で5段階希釈したもの(Table 1)を測定して,変化率5%以内を影響なしとした。

Table 1 共存物質の添加濃度

共存物質 無添加 1 2 3 4 5
溶血ヘモグロビン 0 mg/dL 100 mg/dL 200 mg/dL 300 mg/dL 400 mg/dL 500 mg/dL
乳び(イントラリポス) 0% 0.4% 0.8% 1.2% 1.6% 2.0%
アスコルビン酸 0 mg/dL 2 mg/dL 4 mg/dL 6 mg/dL 8 mg/dL 10 mg/dL
ビリルビンC 0 mg/dL 8 mg/dL 16 mg/dL 24 mg/dL 32 mg/dL 40 mg/dL
ビリルビンF 0 mg/dL 10 mg/dL 20 mg/dL 30 mg/dL 40 mg/dL 50 mg/dL

5) 血清・血漿(ヘパリン血漿)の相関

患者検体で同じタイミングで採取した血清とヘパリン血漿を測定して,両検体種間の相関性を確認した(n = 30)。

6) 対照機器・試薬との相関

患者血清98検体を検討法と対照法で測定し,両方法間の相関性を確認した。

7) 検体の保存安定性

患者血清2濃度(10.2 U/Lおよび22.4 U/L)をそれぞれ「室温(21~25℃)で8時間,1日,2日」「冷蔵(2~8℃)で1日,2日,7日,14日」「凍結(−30℃)で7日,14日,28日」の各条件で保存後にそれぞれ2重測定し,採血直後の測定値を基準とした際の変化率を算出した。なお,試薬劣化の影響を受けないよう定期的に試薬交換,2点校正を行った(Table 2)。

Table 2 試薬交換 および 2点校正 実施タイミング

測定ポイント 直後 8時間 1日 2日 7日 14日 28日
試薬交換
2点校正

8) 凍結融解の影響

患者血清2濃度(8.5 U/Lおよび23.8 U/L)を「−30℃での凍結」と「室温(21~25℃)放置での自然融解混和」の凍結融解を30分ずつ5回まで繰り返し,各融解混和後に3重測定を実施し,採血直後の測定値を基準とした際の変化率を算出した。

2. 臨床的性能評価

1) 対象

AST:1–28 U/L,ALT:7–36 U/L,アルブミン/グロブリン比(ALB/(TP-ALB):1.3–2.0,PLT:10万/μL以上,CRP:0.1 mg/dL未満のすべての条件を満たし,かつ関節リウマチおよび担がん患者を除いた240名(男性120名,女性120名。20~30代,40代,50代,60~70代の各年代30名)の血清を用いた。

2) 統計解析

男女別,年代別にクラスカル・ウォリス検定を行い,各群でATX活性値の有意差の確認を行った他,ノンパラメトリック法で95%タイル値を基準範囲として求めた。

VI  結果

1. 基礎的性能評価

1) 精密性

併行精度は試料1が平均値8.31 U/L,CV 0.66%,試料2が平均値21.58 U/L,CV 0.36%,試料3が平均値15.60 U/L,CV 0.42%であった(Table 3)。

Table 3 併行精度

n = 20 平均(U/L) SD(U/L) CV(%)
試料1 8.31 0.06 0.66
試料2 21.58 0.08 0.36
試料3 15.60 0.06 0.42

室内再現精度は試料1が平均値8.96 U/L,CV 7.25%,試料2が平均値20.09 U/L,CV 5.61%(Table 4),いずれも負のトレンド傾向を認め,15日目には精度管理試料の管理幅外の値となった。なお,2点校正を行うことで管理幅内の値となった(Figure 2)。

Table 4 室内再現精度

n = 15 平均(U/L) SD(U/L) CV(%)
試料1 8.96 0.65 7.25
試料2 20.09 1.13 5.61
Figure 2  室内再現精度

2) 希釈直線性

生理食塩水および精製水の両希釈において54.0 U/Lまで希釈直線性を示した(Figure 3)。

Figure 3  希釈直線性

3) 定量限界

CV 10%点は0.54 U/Lであった(Figure 4)。

Figure 4  定量限界

4) 共存物質の影響

共存物質の影響は,溶血ヘモグロビンは500 mg/dL,乳びはイントラリポス2%,アスコルビン酸は6 mg/dL,ビリルビンCは16 mg/dL,ビリルビンFは10 mg/dLまで,許容範囲内であった(Figure 5)。

Figure 5  共存物質の影響

5) 血清・血漿(ヘパリン血漿)の相関

血清測定値(x)とヘパリン血漿測定値(y)の両検体種間の相関は,回帰式y = 0.98x − 0.06,相関係数r = 1.000であった(Figure 6)。

Figure 6  血清ATXと血漿ATXの相関性

6) 対照機器・試薬との相関

対照試薬(x)と検討試薬(y)の両検体種間の相関は,回帰式y = 10.69x + 0.5。相関係数はr = 0.994であった(Figure 7)。

Figure 7  対照法(FEIA法)と検討法との相関性

7) 検体の保存安定性

検体の保存安定性は室温保存,冷蔵保存,凍結保存のいずれの条件においても変化率5%以内であった(Figure 8)。

Figure 8  検体の保存安定性

8) 凍結融解の影響

凍結融解の影響は5回まで変化率5%以内であった(Figure 9)。

Figure 9  凍結融解の影響

2. 臨床的性能評価

条件を満たした患者検体の測定値を用いて評価した結果,男女別評価においては,男性:7.3(6.3–8.3)U/L,女性:9.8(8.7–11.0)U/Lとなり有意に女性のほうが高値傾向であった(p < 0.0001)。また年代別評価においては男女ともに有意差はなかった(Figure 1011)。

Figure 10  臨床的性能評価 男女別ATX値
Figure 11  臨床的性能評価 年代別ATX値

ノンパラメトリック法による95%タイル値は,男性が4.6–10.7 U/L,女性が7.0–13.5 U/Lとなった。

VII  考察

基礎的性能評価は,併行精度や定量限界,希釈直線性,相関に関して,良好な結果であった。希釈直線性においてメーカー推奨は生理食塩水だが今回の検討で精製水による希釈でも可能と思われた。対照試薬との相関では,相関係数が良好なことから対照試薬と同様のATXを捉えていると思われる。検体の安定性および凍結融解の影響においては,両変化率が5%以内であったことから,血清冷蔵保存後あるいは凍結融解後の測定においては問題ないと考える。一方,室内再現精度で負のトレンドが認められた。原因として,ATX(リゾホスホリパーゼD)の至適pHが9付近であることが知られており,空気中の二酸化炭素により試薬pHが低下し,ATX活性が低下したことに起因すると考える。なお,新品の試薬pHは8.7であった。よって,専用のコントロールによる測定値の確認を定期的に行い,測定値に変化を認めた際に再度2点校正を行うことで安定した測定値が得られると考える。また,干渉物質を用いた評価においてビリルビンおよびアスコルビン酸に負誤差が認められた。検討試薬では,測定原理に酸化反応が用いられており,ビリルビン,アスコルビン酸の還元作用により過酸化水素が消費され負誤差を生じたものと推測されるが,アスコルビン酸オキシダーゼが添加されていることから,酸化還元以外の影響を受けている可能性もあり,メーカーの解析が待たれる。アスコルビン酸の影響による異常低値を疑った場合は希釈再検が必要となる。

臨床的性能評価は,男女別評価,年代別評価および基準範囲の評価は既報5)の濃度値の結果とほぼ同様の結果であった。対照試薬との相関と併せて,酵素法を原理とする本試薬のATX活性値は,濃度測定と同様の評価ができると考える。なお,女性が高値となる原因はいまだ明らかになっていない5)

本試薬は汎用自動分析装置で測定が可能なため,専用機器の導入が不要であり,ASTやALT等の肝臓関連項目と同時に測定できるといった利点を持つ反面,試薬やキャリブレーター,精度管理試料においても凍結乾燥品のため使用前に調整する必要があり若干手間はかかるため,今後液状凍結品等に改善されることを期待する。

VIII  結語

酵素法を原理とする「ATXオートワコー」の基礎的性能評価をみたところ,概ね良好な結果であったことから,本試薬は汎用自動分析装置で使用可能と思われる。ただし,アスコルビン酸やビリルビンで負誤差があり,特に肝硬変患者ではビリルビンが高値を示す場合が多いため,これら共存物質の影響の小さい試薬への改善余地はあるが,自施設が備える汎用自動分析装置で測定できる簡便さを考えると,早期の肝線維化マーカーとして貢献できる試薬と考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究を実施するにあたり,共同研究機関として御協力を頂きました,富士フイルム和光純薬株式会社に謝辞を申し上げます。

文献
 
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