Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Technical Article
The evaluation of anti-A/B titraion using NEO IrisTM(IMMUCOR)
Juri WATANABEChiaki KATOKyouka SUSUKIMasahiro TAKEKOSHIReika EMURASatoru YOKOYAMATomomi WATANABETadashi MATUSHITA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 74 Issue 3 Pages 512-520

Details
Abstract

【はじめに】IMMUCOR NEO Iris(以下,Iris)は,直接凝集法及びIgG抗体を特異的に測定する固相法(以下,Capture法)を原理とする装置である。今回,Irisを用いて抗A/B抗体価測定の有用性評価を行った。【方法】希釈精度はOrange Gをサンプルとし,IgM抗体価測定時の希釈系列を吸光度測定して評価した。同時再現性は10重測定,日差再現性は5日間の測定で評価した。相関は検査依頼のあった残余検体64検体を用いて試験管法と比較した。試験管法はIgM抗体価では生理食塩液法を行い,IgG抗体価はIAT法(DTT処理後反応増強剤無添加37℃ 60分)を行った。【結果】Irisの希釈精度は128倍まで検討し,誤差は1管差未満であった。同時再現性及び日差再現性はいずれも2管差以内の変動であった。相関における1管差以内の一致率は,IgM抗体価では100%,IgG抗体価ではDTT未処理血漿で89%,DTT処理血漿で98%であった。ただし,IgG抗体価の相関において,特定患者で乖離を認めた。Capture法ではDTT未処理血漿とDTT処理血漿の差は1管差程度であった。【考察】Capture法はIgG抗体に対する特異性が高く,抗体価測定において必ずしも血漿のDTT処理を必要としなかった。Irisは自動希釈機能を有し,試験管法と一致率が高く,抗A/B抗体価測定において有用であった。

Translated Abstract

[Introduction] IMMUCOR NEO Iris (Iris) is a device based on the direct agglutination method and the solid phase method (Capture method) that specifically detects IgG antibodies. The equivalency and reproducibility of anti-A/B antibody titration were evaluated using Iris. [Method] The dilution accuracy was evaluated by using Orange G as a sample by measuring the absorbance of the dilution series performed during the IgM antibody titration assay. Repeatability and Between-day precision was evaluated by analyzing 10 and 5 times respectively. The correlation was compared with the test tube method using of the 64 patient samples. The test tube method was performed by saline method for IgM antibody titration, and the IAT method for IgG antibody titers. [Results] The dilution accuracy of Iris was evaluated up to 128 titer, and the margin of error was less than one titer. The margin of error was within two titers for both repeatability and Between-run reproducibility. The concordance rate within one titer was 100% for IgM antibody titration, for IgG titration, was 89% without DTT treatment and 98% with DTT treatment. However, in the correlation evaluation of IgG antibodies, discrepancies were observed in one specific patient. With the Capture method, The difference between DTT-untreated samples and DTT-treated samples with the Capture method was mostly within one titer. [Conclusion] Iris can adequately perform serial dilution automatically and is highly correlated with the test tube method, making it useful for measuring antibody titers. IgG antibody titration using Capture method has high specificity for IgG antibodies and does not necessarily require DTT treatment.

I  目的

ABO血液型抗原は,赤血球や様々な臓器に発現している。そのため,抗A/BのIgG抗体価はABO不適合臓器移植の抗体関連型拒絶に関連していることが知られており,抗体除去に対する術前処置や生着についての指標となる1)

一般的な抗A/B抗体価測定方法は試験管法を用いるため2),施設間差や技師間差によるばらつきが生じることが問題となる。そのため,自動希釈機能を有する各種全自動輸血検査装置において抗A/B抗体価測定が検討されている3)。一般的に試験管法やカラム凝集法(column agglutination technology; CAT)を用いたIgG抗体価測定ではIgM抗体を不活化するため,0.01 M Dithiothreitol(以下,DTT)処理を必要とする4),5)。IMMUCOR NEO Iris(以下,Iris)ではマイクロプレートを用いたCapture法を原理とし,抗IgG結合指示血球を用いるため,DTT処理を必要とせずにIgG抗体のみを高感度に捉えることができる。

本検討では,Irisを用いた抗A/B抗体価測定の有用性を評価した。

II  測定原理および試薬

1. 測定原理

IrisでのIgM抗体価測定は直接凝集法を原理とし,マイクロプレート上に血漿の希釈系列を作製し,赤血球を分注後に10分間室温インキュベートし,遠心後に振盪を行い,画像解析により判定する。画像解析は凝集像の容積を数値化して凝集グレードを判定する。

IgG抗体価測定はCapture法を原理とした間接抗グロブリン試験(indirect anti-globulin test; IAT)に基づき,抗A抗体の測定にはA1赤血球を,抗B抗体の測定にはB赤血球をマイクロプレートに固相化した後に血漿の希釈系列を作製し,低イオン強度溶液(low-ionic strength solution; LISS)を添加して37℃ 15分インキュベート後に洗浄し,抗IgG結合指示血球を反応させ,遠心後に画像解析により判定する。画像解析は凝集像の容積を数値化して凝集グレードを判定する(Figure 1)。また,LISSには色素であるブロムクレゾール・パープル(以下,BCP)が入っており,血漿中のアルブミンと反応して青色に変化することを利用して血漿の分注エラーを検出する機能がある。

Figure 1  IMMUCOR NEO IrisのCapture法の測定原理と判定グレード

引用:Medical Supply Company https://www.medical-supply.ie/2022/10/neo-iris-immucor/

2. 機器と試薬

機器:IMMUCOR NEO IrisTM

Iris用試薬:自動分析機用レファレンセルA1 & B,自動分析機用LISS液,クラスIII免疫検査用シリーズキャプチャーRTM自動分析機用指示血球,ガンマクローンTM抗IgG,自動分析機用QCセル,マイクロプレート,キャプチャーRセレクト(以上,株式会社イムコア)。

試験管法用試薬:自動分析機用レファレンセルA1 & B,ガンマPEG,クームス試験キットガンマクローンTM抗IgGマウス由来モノクローナル抗体,チェックセル(以上,株式会社イムコア)。

生理食塩液:塩化ナトリウム(シグマアルドリッチジャパン合同会社)85 gとインスタント燐酸緩衝液4 pH 7.2(20倍濃縮液)(株式会社LSIメディエンス)50 mLを精製水で10 Lに調製した。

30 mg/dL Orange G:Orange G(CHROMA-GESELLSCHAFT)300 mgを精製水10 mLで溶解し,0.22 μmのミリポアフィルターで濾過後に使用した。

0.01 M Dithiothreitol:0.01 Mの自家調整DTT試薬を使用した。調整方法はDTT 46.2 mgをインスタント燐酸緩衝液4 pH 7.2 1.5 mLと精製水28.5 mLで溶解した6)。作製した0.01 M DTTは分注後,−30℃で凍結保存し,測定ごとに解凍して使用した。

III  方法

Irisの希釈精度を確認するために30 mg/dL Orange Gをサンプルとした。Orange Gは478 nmにおいて濃度と吸光度が比例するため,サンプル原液の吸光度から計算される期待値と実測した吸光度から,希釈精度が評価可能である7)。Irisではサンプル原液を検体としてIgM抗体価測定の希釈系列1倍から128倍までを自動希釈後,各希釈液40 μLを試験管に分注して25倍希釈し,478 nmの吸光度測定を行った。再現性はO型健常人の血漿をサンプルとし,同時再現性は10重測定を,日差再現性は血漿を分注後に−30℃で保存し,測定ごとに解凍して4,000 rpm 5分の遠心後,5日間の測定を実施した。

試験管法との相関は腎臓移植,肝臓移植及び造血幹細胞移植患者の採取日の異なる同一患者検体を含むEDTA2K血漿64検体で比較した。試験管法では,IgM抗体価は生理食塩液法,IgG抗体価は血漿と等量の0.01 M DTTと混和して37℃ 30分加温後,無添加37℃ 60分IATを実施した。抗体価は1+を示す最終希釈倍数とした。Irisでは,IgM抗体価は直接凝集法,IgG抗体価はCapture法で測定し,DTT未処理血漿とDTT処理血漿のそれぞれを試料とした。また,肝臓移植前後での抗体価経時変化を試験管法と比較した。

本検討は名古屋大学医学部倫理委員会の承認(承認番号2010-1038-8)を得て実施した。

IV  結果

1. 希釈精度

Irisと用手法の吸光度の実測値と,サンプル原液の吸光度から求めた期待値の関係をTable 1に示す。Irisでは希釈倍数の増加に伴い期待値から乖離していったが,128倍における吸光度の実測値は,期待値との一致率が56%で,1管差の範囲内であった。比較対照とした用手法では,128倍の実測値は,期待値との一致率が91%であった。

Table 1 Irisと用手法の希釈精度

希釈倍数 0 2 4 8 16 32 64 128
用手法 期待値 2.456 1.228 0.614 0.307 0.154 0.077 0.038 0.019
用手法 実測値 2.456 1.225 0.608 0.298 0.148 0.073 0.037 0.018
用手法 一致率(%) 100 100 99 97 96 95 95 91
Iris 期待値 2.413 1.207 0.603 0.302 0.151 0.075 0.038 0.019
Iris 実測値 2.413 1.107 0.516 0.239 0.111 0.051 0.024 0.011
Iris 一致率(%) 100 92 85 79 73 67 62 56

*数値は478 nmの吸光度を示す

2. 同時再現性

同時再現性の結果をTable 2に示した。抗BのIgG抗体価でDTT処理血漿では最大で2管差が生じたが,その他は1管差以内であった。

Table 2 同時再現性

測定回数 抗A-IgM(倍) 抗B-IgM(倍) 抗A-IgG(倍) 抗B-IgG(倍)
DTT処理 DTT未処理 DTT処理 DTT未処理
1 16 16 16 32 64 256
2 16 16 16 32 32 256
3 16 8 16 16 64 128
4 16 16 8 32 32 128
5 16 16 16 32 64 256
6 16 16 16 32 32 256
7 16 16 16 16 64 256
8 16 8 8 16 32 128
9 16 16 16 16 128 128
10 16 8 8 16 64 128

3. 日差再現性

日差再現性の結果をTable 3に示した。抗AのIgG抗体価で2管差が見られ,その他の項目は1管差に収束した。

Table 3 日差再現性

測定日 抗A-IgM(倍) 抗B-IgM(倍) 抗A-IgG(倍)(DTT未処理) 抗B-IgG(倍)(DTT未処理)
1日目 16 8 32 128
2日目 16 8 16 128
3日目 16 16 32 128
4日目 16 16 8 256
5日目 16 16 16 256

4. 試験管法との相関

患者検体64件を用いたIrisと試験管法におけるIgM抗体価の相関図をFigure 2に示した。IgM抗体価ではIrisと試験管法で1管差以内の一致率は100%であった。IgG抗体価測定結果のIrisと試験管法における相関図をFigure 3Figure 4に示した。Figure 2Figure 3Figure 4ともに患者検体数が異なっているが,Irisが判定不能とした「INV」と「Check for inconsistient grading」のコメント付きの結果は除外したためである。

Figure 2  IgM抗体価の相関

*図内の数字は件数を示し,赤色はAまたはB型血漿の抗体価,青色はO型血漿の抗体価を示す。

Figure 3  IgG抗体価相関図(Iris DTT未処理血漿)

*図内の数字は件数を示し,赤色はAまたはB型血漿の抗体価,青色はO型血漿の抗体価を示す。

Figure 4  IgG抗体価相関図(Iris DTT処理血漿)

*図内の数字は件数を示し,赤色はAまたはB型血漿の抗体価,青色はO型血漿の抗体価を示す。

Irisの試料は,Figure 3はDTT未処理血漿,Figure 4はDTT処理血漿を用いた。IgG抗体価の相関において1管差以内の一致率はDTT未処理血漿で89%,DTT処理血漿で98%であった。

ただし,一部結果が乖離した検体があり,DTT未処理血漿では,Iris 64倍に対し試験管法2倍未満とIris 64倍に対し試験管法16倍,DTT処理血漿ではIris 64倍に対し試験管法2倍未満となり,いずれもIrisの測定結果が試験管法に比べ高値を示した。他にDTT未処理血漿で3件,DTT処理血漿で4件が,「Check for inconsistient grading」のコメント付き結果であった。このコメントは,通常漸減していく凝集グレードが増減していることを示し,再検査や試験管法の実施等の確認を要する。このため,Figure 3Figure 4からは除外した。

上記の乖離及び要確認の検体はいずれも本人O型に対し,ドナーB型の生体肝臓移植を行った同一患者で採取日の異なる検体5件の一部であった。他の生体肝臓移植の患者は12例あったが,本現象はこの1例のみであった。採取日は移植日をDay 0として示し,5件の各希釈倍数の凝集グレードをTable 4に示した。

Table 4 異常反応を示した検体の凝集グレード

採取日 DTT処理 Iris判定 希釈倍数 試験管法(倍)
1 2 4 8 16 32 64 128 256 512
Day −6 要確認 4+ 4+ 4+ 4+ 2+ 4+ 4+ 3+ 1+ 0 < 2
要確認 nt 3+ 0 0 0 0 0 0 nt nt
Day −2 64倍 4+ 4+ 4+ 4+ 4+ 4+ 2+ 0 nt nt < 2
64倍 nt 3+ 3+ 4+ 3+ 3+ 3+ 0 nt nt
Day 2 要確認 2+ 3+ 1+ 1+ 0 0 2+ 0 nt nt 2
要確認 nt 0 0 0 0 2+ 0 0 nt nt
Day 4 要確認 4+ 4+ 4+ 3+ 1+ 3+ 3+ 1+ nt nt 8
要確認 nt 2+ 0 2+ 0 0 2+ 0 nt nt
Day 26 64倍 4+ 4+ 4+ 4+ 4+ 4+ 2+ 0 nt nt 16
要確認 nt 3+ 3+ 0 2+ 1+ 0 0 nt nt

*要確認:「Check for inconsistient grading」のコメントが付いたもの

Day −2は血漿のDTT処理の有無に関わらず凝集グレードの変化に一貫性はあるが,試験管法との乖離があり,「Check for inconsistient grading」とは異なった結果を示した。

Irisが判定不能とした「INV」は4件あり,「Check for inconsistient grading」とは異なり,検査の途中で何らかのエラーが生じた場合に付くコメントである。今回の「INV」の詳細は,「Well Filled verification」で血漿の分注エラーに該当する。これらは凝集像の画像解析は行われるが,凝集グレードには変換されず,目視による凝集像の確認では異常はなかった。上記はビリルビン高値の肝移植前の患者であり,BCPから生成された青色がビリルビン高値による褐色と混ざり,青色の検出ができず血漿の分注エラーと判断された。

5. 肝臓移植前後の経時変化

原発性硬化性胆管炎治療のための肝臓移植前後での血漿交換等の処置前後を含めた経時変化を試験管法と比較した結果をFigure 5に示した。IgM抗体価,IgG抗体価のいずれも試験管法と1管差以内の経時変化を示した。

Figure 5  肝臓移植前後での血漿交換等の処置前後を含めた経時変化

V  考察

Orange Gの濃度は478 nmの吸光度に比例するため,ピペット検定に使用されてきた。これを応用し,Irisの希釈精度を評価した。Irisの希釈精度において128倍での実測値は,期待値と一致率56%で過剰希釈の傾向が見られたため,Irisの抗体価は試験管法より若干の低値傾向を示すと予想したがIgM抗体価,IgG抗体価ともに1管差以内と良好であり,結果への影響はなく,許容可能な希釈誤差と考えた。

この測定結果はIrisの感度の高さにより過剰な希釈傾向が相殺されたためと考えた。IgM抗体価測定では,反応原理が試験管法と同じ直接凝集法であっても,反応容器や遠心条件,判定方法などが異なる。また,IgG抗体価測定では固相法による赤血球膜表面積の大きさと抗IgG結合指示血球をマイクロプレート内で遠心する物理的効果によって,試験管法に比較して感度が良くなり,結果的に相関が良くなったと考えた。

Irisでの同時再現性及び日差再現性は,2管差以内に収束し,良好な再現性が確認できた。用手法での希釈・分注・目視判定は,施設間差是正のポイントであり,自動輸血機器による安定した希釈から判定に至る自動化は再現性の要で,施設間差是正においても重要であると考える8),9)

Irisと試験管法の相関関係は,IgM抗体価で非常に良好であった。過去の論文においては,CATによる全自動輸血検査装置を用いたIgM抗体価の測定では相関関係が良好ではなかった10)。この原因として,試験管法では抗体と反応した赤血球の凝集塊をほぐしながら判定する方法に対して,CATでは抗体と反応した赤血球を遠心によりカラムを通過させ凝集の大きさに応じてふるい分けるという測定原理の違いによるものがあげられる。また,IgM抗体の測定時にIgG抗体も反応しているが,IgM抗体は試験管法よりCATで反応が弱くなり,IgG抗体は試験管法よりCATで反応が強くなる傾向がある11)。IgM抗体とIgG抗体の比率は患者毎に異なるため,試験管法とCATでは相関が悪くなると考える。これに比べ,IrisではIgM抗体は直接凝集法,IgG抗体はCaputure法と,CATとは異なる測定原理で測定するため,IgM抗体とIgG抗体それぞれの反応の強さが試験管法と類似し,IgM抗体とIgG抗体の比率に関わらず良好な相関が得られたと考えた。

IgG抗体価測定では,試験管法に対する1管差以内の一致率はDTT未処理血漿で89%,DTT処理血漿で98%であり,相関は良好であった。DTT未処理血漿は試験管法よりやや高値傾向であったが,DTT処理血漿は試験管法よりやや低値傾向であった。しかし,両者の差はほとんどなく,IrisでのIgG抗体価測定はDTT処理なしでの測定が可能であった。ただし,1名の患者検体で試験管法との結果に2種類の乖離が認められた。1つ目は,Irisにおいて「Check for inconsistient grading」のコメントが付いたものであった。この原因はDTT処理血漿での結果で抗体価が低下していることから,DTT処理によって破壊または反応が減弱されるものであると考えた。2つ目は,反応強度の一貫性に問題はないものの,試験管法の結果とは乖離したものである。またこの検体においてIgM抗体価は1未満に対し,IgG抗体価がDTT未処理血漿,DTT処理血漿ともに64倍であり,7管差が認められた。このことからも何らかの異常の存在が疑われたが,血漿のDTT処理の有無による変化はないため,原因となる物質はDTTによって処理されない要因であると考えた。さらに本検体は血漿交換後の検体であり,原因物質は血漿交換により除去されなかった患者由来の物質または,血漿交換により患者体内に付加または生成された可能性も考えられる。

この事象はIrisのみで測定した場合に,コメントに対する注意だけでは異常に気付けないため,IgG抗体価を評価する場合には,IgM抗体価や血漿交換等の治療歴を考慮した経時変化等を参考に判断すべきであり,何らかの疑問がある場合には,試験管法での再検査を実施する必要があると思われる。

この異常高値を示した患者の背景は,原発性硬化性胆管炎を基礎疾患とし,胆管炎の発症により,抗生物質であるメロペネムを含む複数の投薬治療を受けていた。メロペネムが直接クームス試験に影響を与える可能性があることは添付文書12)にも記載されており,血中濃度あるいは代謝産物によって,直接クームス試験以外にも何らかの影響を及ぼす可能性が考えられた。薬剤添加実験及び別患者のメロペネム使用前後の測定を試みたが,同現象は確認できず原因は特定できなかった。また,この現象は今回検討に用いた他の肝臓移植患者や腎臓移植患者,造血幹細胞移植患者では確認されなかった。今回,原因の特定に至ることはできなかったが,引き続き肝移植対象患者で入院中の患者の場合は初回の検査は試験管法を併用して異常反応が無いことを確認し,異常がなければ,血漿交換等の治療歴との整合性を確認しつつ検査を行っていく。また,疑問が生じた場合は試験管法での確認を行い,同様な事象の発生について注意深く観察し,原因の究明を行いたい。

Irisが判定不能とした「INV」は肝移植前の患者血漿を測定した結果で見られ,血漿はビリルビン高値検体であった。このためビリルビンにより,血漿の色調が褐色を示すことで背景に色がついてしまい,LISSに添加されているBCPがアルブミンと反応した青色を干渉し,血漿の分注エラーを検出する工程で判定不能とされた。この場合は,色調による判定不能のため,検査は正しく実施されていると考えられ,マイクロプレートを直接目視で確認することで凝集強度を判定が可能であり,検体の色調確認により再検査を要しないと思われる。色調に問題がなく「Well Filled verification」以外の機器エラーが考えられる場合は再検査または試験管法を併用することが望ましい。

肝臓移植前後における血漿交換等を含めた経時変化を試験管法と比較した結果では,IgM抗体価,IgG抗体価のいずれも試験管法と1管差以内の変化を示し,Irisを用いた抗体価の経時変化観察は可能であると考えた。

VI  結語

全自動輸血検査装置Irisは自動希釈機能を有し,特にIgM抗体価測定では試験管法との相関が良好であった。また,IgG抗体価測定では血漿のDTT処理の有無に関わらず試験管法との相関は概ね良いことから,血漿をDTT処理なしで測定する場合,DTT処理に要する時間が短縮でき,原液測定が可能となる。

ただし,抗生物質の投与直後や,IgM抗体価及び前回値との比較において疑問を感じた場合は,試験管法での再検査を実施する必要があると考えた。

全自動輸血検査装置に限らず全ての自動分析機から出される結果にはピットフォールが存在することを常に意識し,疑問があれば試験管法での確認を考慮して自動分析装置の導入による標準化および効率化を図っていきたい。

以上より,Irisを用いた抗体価測定は有用であった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2025 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top