Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Article
Fundamental performance evaluation of a novel blood C-peptide assay using the HISCL-5000 automated immunoassay system
Yohei KATOHidekazu ISHIDAMasaya TACHIKAWAKohei OSHIMATomo NISHIMURAAkari USHIMARUNoriko OOZAWARyosuke KIKUCHI
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2025 Volume 74 Issue 3 Pages 530-536

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Abstract

Cペプチドは膵β細胞からのインスリン分泌能を反映し,糖尿病患者における内因性インスリン分泌能の評価,特に経時的なインスリン分泌能の変化やインスリン依存状態の目安として用いられる。今回,化学発光酵素免疫測定法を原理とした全自動免疫測定装置HISCL-5000(シスメックス株式会社)を用いて,Cペプチド測定試薬「HISCL C-ペプチド試薬」(シスメックス社)の性能評価を行った。評価内容として,再現性,分析範囲,特異性,血清検体とフッ化ナトリウム加血漿検体との比較,対照法との比較について検討を行った。再現性,分析範囲,対照法との比較において良好な結果を得ることができたが,特異性において高濃度のビオチン存在下で測定値に負の影響が認められた。血清検体とフッ化ナトリウム加血漿検体との比較において相関性は良好な結果が得られたが高値域では若干のバラツキが見られた。また,対照法との相関性については良好であったが,負の傾きが確認された。本検討により日常測定において血清のCペプチド測定試薬として十分に使用可能な性能を有していることが示唆されたが,特に高値領域では試薬間誤差が認められるため,変更を行う際には時系列の管理に注意を要することが示唆された。

Translated Abstract

C-peptide reflects insulin secretion capacity from pancreatic β-cells and is used to evaluate endogenous insulin secretion in diabetic patients, particularly for tracking temporal changes in secretion capacity or assessing insulin dependency. In this study, we evaluated the performance of the “HISCL C-Peptide Reagent” (Sysmex Corporation) for C-peptide measurement using the fully automated immunoassay analyzer HISCL-5000 (Sysmex Corporation), based on chemiluminescent enzyme immunoassay principles. The evaluation focused on reproducibility, analytical range, specificity, comparison between serum and sodium fluoride-added plasma samples, and correlation with a reference method. The results demonstrated satisfactory reproducibility, analytical range, and correlation with the reference method. However, specificity was negatively impacted in the presence of high concentrations of biotin. Comparison between serum and sodium fluoride-added plasma samples showed good correlation, although slight variability was observed in higher concentration ranges. Similarly, while the correlation with the reference method was strong, a negative slope was noted. These findings suggest that the HISCL C-Peptide Reagent possesses sufficient performance for routine measurement of serum C-peptide levels. Nonetheless, discrepancies among reagents in higher concentration ranges necessitate careful temporal management when transitioning between different reagents.

I  序

糖尿病は21世紀で最も急速に拡大した健康上の課題の1つであり,心血管疾患,腎臓病,失明などの重篤な合併症を引き起こすリスクを高める。そのため,糖尿病は患者の生命予後や生活の質を著しく損なう可能性が高い疾患である。国際糖尿病連合(International Diabetes Federation; IDF)の報告では,全世界で糖尿病患者数が増加しており,2021年時点で20歳~79歳における糖尿病患者数は5億3,700万人に達しているとされている。また,日本国内において2021年の糖尿病患者数は約1,100万人と,世界で9番目に多いことが推定されており,2045年には約1,340万人に増加すると予測されている1)

Cペプチドは31個のアミノ酸からなるポリペプチドで,インスリンの前駆体であるプロインスリンがインスリンとCペプチドに切断される際に生じる。インスリン形成のためのフォールディングとジスルフィド結合の形成に重要な役割を果たし,Cペプチドが細胞内のゴルジ体でプロインスリンから除去されると,α鎖とβ鎖の両方がジスルフィド結合された成熟インスリン分子が形成される。インスリンとCペプチドはともに分泌小胞体に貯蔵され,グルコースやその他の分泌促進物質によって膵臓のβ細胞が刺激されると等モル濃度で放出される2)。そのため,糖尿病患者における内因性インスリン分泌能の評価,特に経時的なインスリン分泌能の変化やインスリン依存状態/非依存状態の目安として用いられる3)

今回,全自動免疫測定装置HISCL-5000の測定試薬「HISCL C-ペプチド試薬」(製造販売届出番号「28E1X80030000074」製造販売業者:シスメックス株式会社)が開発され,基礎的性能評価を目的として本研究を行った。

II  対象と方法

1. 対象

2024年4月1日から2024年4月30日まで当院検査部にて日常検査としてフッ化ナトリウム加EDTA血漿検体および血清検体が同時に提出された診療残余検体100件と分析範囲確認用として低濃度Cペプチド検体1件および高濃度Cペプチド検体2件を対象として検討を行った。

なお,本研究は岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:2022-086)。

2. 方法

1) 試薬・装置

被検試薬として化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を測定原理としたHISCL C-ペプチド試薬をメーカー指定のパラメーターを使用し,全自動免疫測定装置HISCL-5000(製造販売届出番号「28B1X10014000011」製造販売業者:シスメックス株式会社)にて検討を行った。また,比較対照試薬として電気化学発光免疫測定法(electrochemiluminescence immunoassay; ECLIA)を測定原理としたエクルーシス試薬Cペプチドを用いた。再現性評価の試料として,精度管理用試料であるHISCLイムノマルチアッセイコントロールlevel 1,level 2(シスメックス株式会社)を使用した。検出限界の確認には低濃度Cペプチドの診療残余検体を用い,希釈直線性,プロゾーン性能においては高濃度Cペプチドの診療残余検体を使用した。また,共存物質の影響を確認するため,干渉チェック・Aプラス(シスメックス株式会社),干渉チェック・RFプラス(シスメックス株式会社),ビオチン注1 mgフソー(扶桑薬品工業株式会社)を用いた。

2) 検討内容

被検試薬を用い,基本性能評価として併行精度,室内再現精度,希釈直線性,プロゾーン性能,検出限界,共存物質の影響を確認した。また,フッ化ナトリウム加EDTA血漿検体および血清検体での検体種別による相関性,臨床性能として被検試薬および比較対照試薬との相関性について確認した。

III  結果

1. 精密性

1) 併行精度・室内再現精度

2濃度の精度管理用試料を20回同時測定し併行精度を確認した。その結果,level 1で平均 ± 標準偏差(Mean ± SD)0.85 ± 0.011 ng/mL,変動係数(CV%)1.26であり,level 2でMean ± SD 1.86 ± 0.038 ng/mL,CV% 2.07であった(Table 1)。また,室内再現精度についてボトル開封後,装置架設時のみキャリブレーションを実施し,以降開封・架設状態を維持したままキャリブレーションならびに試薬交換は行わない条件下にて2濃度の精度管理用試料を1日2回,10日間まで測定を行った。その結果,level 1でMean ± SD 0.86 ± 0.027 ng/mL,CV% 3.15,level 2で1.83 ± 0.065 ng/mL,CV% 3.54であった(Table 1)。

Table 1 Repeatability and intermediate precision

QC level 1 QC level 2
Repeatability (N = 20)
 Mean (ng/mL) 0.85 1.86
 SD 0.011 0.038
 CV (%) 1.26 2.07
Intermediate Precision (N = 20)
 Mean (ng/mL) 0.86 1.83
 SD 0.027 0.065
 CV (%) 3.15 3.54

QC, Immuno multi-assay control

2. 分析範囲

1) 希釈直線性・プロゾーン性能

高濃度検体(27.3 ng/mL)を用いて,専用希釈液にて10段階希釈し,希釈した各試料を3回連続測定した。その結果27.3 ng/mLまで直線性が認められた。また,別の高濃度検体(74.6 ng/mL)を専用希釈液にて10段階希釈し各希釈試料を3回連続測定した。その結果プロゾーン現象は確認されず,測定値がメーカー設定の測定上限(30.0 ng/mL)を下回ることはなかった(Figure 1)。

Figure 1  Analytical range

a) Dilution linearity

b) Prozone check

2) 検出限界

低濃度検体を専用希釈液にて6段階に希釈し,各検体を10回連続測定した。得られた各濃度のCount値の平均値 − 2SDと専用希釈液(Blank検体)のCount値の平均値 + 2SDが重複しない検体濃度を検出限界とした。その結果,理論値で0.0003 ng/mLとなった(Figure 2)。

Figure 2  Limit of detection

3. 特異性

1) 共存物質の影響

プール血清,干渉物質試料(干渉チェック)を用いて溶血ヘモグロビン,抱合型ビリルビン,遊離型ビリルビン,乳び,リウマトイド因子の影響を観察した。プール血清に干渉物質試料およびブランク液を添加後,5段階希釈し各希釈試料を3回連続測定した平均値を算出した。その結果,ブランク検体に対する変化率はいずれも±5%以内であった。また,ビオチン製剤を終濃度20,40,60,80,100 ng/mLになるようにプール血清へ添加し測定値への影響を確認した結果,60 ng/mL以下ではブランク検体に対する変化率が±5%以内であったが80 ng/mL以上の検体ではブランク検体に対して−5%以下となる負の変化が認められた(Figure 3)。

Figure 3  Effects of interfering substances

a) Hemoglobin

b) Conjugated bilirubin

c) Free bilirubin

d) Chyle

e) Rheumatoid factor

f) Biotin

4. 相関性

1) 検体種別による相関性

検討試薬を用いて血清検体およびフッ化ナトリウム加EDTA血漿検体100件の同時測定を行い相関性およびBland-Altman分析による血清検体の測定値を基準とした差のプロットの確認を行った。いずれの検体も測定まで凍結保存し,測定当日に融解して測定を行った。血清検体(x)とフッ化ナトリウム加EDTA血漿検体(y)の相関性は相関係数r = 0.981,回帰式y = 0.90x + 0.08となった。Bland-Altman分析を行った結果,高濃度になるにつれて,血清検体(x)とフッ化ナトリウム加EDTA血漿検体(y)の測定値の差が大きくなることが確認された(Figure 4)。

Figure 4  Bland-Altman and correlation analysis on HISCL C-peptide between serum samples (X) and sodium fluoride and EDTA treated plasma samples (Y)

a) Correlation on serum samples with sodium fluoride and EDTA-treated plasma samples

b) Bland-Altman plot on serum samples with sodium fluoride and EDTA-treated plasma samples

2) 対照法との相関性

血清検体100件を対象に被検試薬と比較対照試薬の同時測定を行い,相関性およびBland-Altman分析による比較対照試薬濃度を基準とした差のプロットの確認を行った。なお,今回用いた被検試薬および比較対照試薬ともに血中ビオチンによる干渉を防ぐための対策を行っていない。そのため,得られた測定結果には非特異的な反応が含まれている可能性がある条件で解析を行った。測定の実施は,検体種別による相関性と同様に,検体は測定まで凍結保存し,測定当日に融解し両試薬での測定を行った。その結果,被検試薬と比較対照試薬の相関性は,相関係数r = 0.993,回帰式y = 0.84x + 0.02であった。また,Bland-Altman分析を行った結果,高値域になるにつれて濃度依存的に被検試薬が比較対照試薬に比較し低値となることが確認された(Figure 5)。

Figure 5  Bland-Altman and correlation analysis between HISCL C-peptide (Y) and Elecsys C-peptide (X)

a) Correlation of HISCL C-peptide and Elecsys C-peptide

b) Bland-Altman plot of HISCL C-peptide and Elecsys C-peptide

IV  考察

今回,「HISCL C-ペプチド試薬」についての基礎的性能検討を行った。その結果,精密性,分析範囲,ビオチン以外の特異性,対照試薬との相関性について良好な結果を得られた。本試薬は日常のCペプチド測定において十分な基本性能を有していることが示唆された。

一方,高濃度域のビオチンにおいて測定値に負の影響を与えることが示唆される結果となった。高容量のビオチンを摂取した測定対象者の検体を使用した場合,ビオチン-ストレプトアビジンを用いた測定系では正しく測定ができない事象が報告されている。そのため,本邦の厚生労働省より,試薬メーカーに対して,ビオチンの影響について添付文書の記載を適切に行うこと,および測定試薬を使用する医療機関へビオチンの影響についての情報提供を行うように通知がなされている4)。通常,ビオチンを含むサプリメントを摂取していない場合の血中ビオチン濃度は0.4~1.2 ng/mLであるが,5 mg,10 mg,20 mgのビオチンを摂取した各グループ18名の健常者における1時間後の血清中ビオチン濃度の中央値(範囲)は41(10–73)ng/mL,91(53–141)ng/mL,184(80–355)ng/mLとなり,摂取したビオチンの容量に伴い血中濃度が増加することが報告がされている5)。また,サプリメント以外にも多発性硬化症や先天性ビオチン代謝異常症の治療のため20~300 mgの高容量のビオチンを用いる場合もある6),7)。本試薬においても一次抗体に標識したビオチンとストレプトアビジン結合磁性粒子との結合を利用した反応を用いているため,高濃度のビオチンが一次抗体結合ビオチンと競合し,反応を阻害したことで測定値に負の影響を与えたことが考えられる。このことから,高容量のビオチンを含むサプリメントの摂取や治療などにより,血中ビオチンが高濃度となる検体を測定する場合,測定値に影響があることを十分に考慮する必要がある。

フッ化ナトリウム加EDTA血漿は,血中グルコース測定用の検体として広く用いられている。Cペプチドは,血中グルコース値と同時に評価することで臨床的有用性が向上する。本試薬は血清中のCペプチドを測定対象とした試薬であるが,フッ化ナトリウム加EDTA血漿検体を用いることで,1本の採血管から血中グルコースとCペプチドの両方を測定可能となり,採血負荷の軽減にもつながる。このことから,検体種別の相関性を検証した結果,フッ化ナトリウム加EDTA血漿検体と血清検体との間には比較的良好な相関性が認められた。しかしながら,高濃度域において測定値の差が大きくなることが確認された。この要因として,血清と血漿のマトリックスの相違などが示唆されたが,検体のマトリックスごとの測定値に関する詳細な検討を実施できなかったため,具体的な要因を特定するには至らなかった。今後,更なる検証が必要であると考えられる。

対照法との比較において相関性は良好であったが,被験試薬は低値傾向となることが認められた。測定値のバイアスについてBland-Altman分析を行った結果,高濃度になるにつれ濃度依存的に比較対照試薬に比べ低値となる結果となった。試薬メーカーごとの抗体認識部位の違いや試薬組成,標準液設定濃度の違いなどにより測定誤差が生じたことが推測される。臨床においてCペプチドの実測値は膵インスリンの分泌能を評価するC-peptide index(CPI)やSecretory Unit of Insulin in Transplantation(SUIT)に利用されている8)。CPIはCペプチド値を空腹時血中グルコース値で補正した指数であり,2型糖尿病患者におけるインスリン治療の介入が必要かの判断に有用とされている9)。また,SUITも同様にCペプチド値と空腹時血中グルコース値を用いて算出される指数であり,インスリン治療要否の判定に加え,移植膵生着の有効性判定にも用いられている10)。これらの評価方法はいずれもCペプチド測定値を元に計算される指数であるが,測定試薬間誤差を考慮されていない。抗原抗体反応を利用した免疫学的測定原理による測定項目では用いる抗体の認識部位などの違いにより標準化が難しいとされている。米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases; NIDDK)が主導するC-ペプチド標準化委員会を中心に,Cペプチド測定における標準化のための取り組みが実施され,試薬間誤差の軽減効果を上げているが,十分な標準化には至っていない11)。測定結果の信頼性を確保するためにも,今後さらなるCペプチド測定の標準化が望まれる。

V  結語

本検討結果から「HISCL C-ペプチド試薬」は高濃度ビオチンによる負誤差や比較対照試薬との試薬間誤差を認めたものの,日常測定において十分な基本性能を有していることが考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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