2025 Volume 74 Issue 3 Pages 544-552
成長ホルモン(growth hormone; GH)とインスリン様成長因子1(insulin-like growth factor 1; IGF-1)は,先端巨大症を含むGH分泌過剰疾患やGH分泌不全疾患等の診断および治療効果の判定に用いられている。今回,東ソー株式会社の全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA®-CL1200を用い,GHとIGF-1測定試薬の基礎的性能を治療薬の測定系への影響を含めて評価した。その結果,精度,選択性,定量限界,直線性は良好であった。対照法との相関性は,GHとIGF-1ともに良好であったが,IGF-1では1例で乖離が認められた。薬剤添加試験でGH受容体拮抗薬ペグビソマントの影響を評価した結果,本法ではGH値の変動は認められなかったが,対照法でGHの偽高値が認められた。IGF-1測定では,本法と対照法共に変化はなかった。ヒト成長ホルモンアナログ製剤では,添加薬剤濃度に応じて両法共にGH値は上昇したが,IGF-1に変化はなかった。ソマトスタチンアナログ製剤,ドパミン作動薬では,両法共にGHおよびIGF-1値の変化はなかった。本法の基礎的性能は良好であり,特にGH受容体拮抗薬投与患者のGH測定において交差反応を回避できる点で優れていた。また,GHとIGF-1を同一機器で測定できるため,診察前検査を可能とし,迅速かつ適切な治療への貢献が期待される。
Growth hormone (GH) and insulin-like growth factor 1 (IGF-1) are critical biomarkers for diagnosis and assessing therapeutic efficacy in conditions such as GH hypersecretion, including acromegaly, and GH deficiency. This study evaluated the basic performance of GH and IGF-1 reagents for the automated chemiluminescence immunoassay analyzer (AIA®-CL1200), developed by Tosoh Corporation, with a focus on their interactions with therapeutic agents for GH secretion disorders. The findings demonstrated high accuracy, specificity, quantification limits, and linearity. Both GH and IGF-1 measurements showed a strong correlation with the control method, except for a single case where a discrepancy was identified in IGF-1 results. Interference testing with therapeutic drugs for GH secretion disorders, including the GH receptor antagonist pegvisomant, revealed that the control method exhibited falsely elevated GH levels due to direct interaction by pegvisomant. In contrast, the AIA-CL system avoided this interaction. No drug-related interference was observed in either the AIA-CL or control method for other tested medications. In conclusion, the GH and IGF-1 reagents for the AIA-CL demonstrated good basic performance, and in particular, the GH reagent was excellent in that it showed no cross-reactivity with pegvisomant. Additionally, the simultaneous measurement of GH and IGF-1 using the AIA-CL system enables pre-examination testing, which is anticipated to lead to timely and appropriate treatment.
先端巨大症や下垂体性巨人症などの成長ホルモン(growth hormone; GH)分泌過剰疾患や,分泌不全疾患の診断および治療効果判定に用いられているGHおよびインスリン様成長因子1(insulin-like growth factor 1; IGF-1)について,化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を測定原理とする東ソー株式会社の全自動化学発光酵素免疫測定装置「AIA®-CL1200」を用いた試薬検討の機会を得たので,その基礎的性能について報告する1)。
2007年に先端巨大症の治療薬として承認された成長ホルモン受容体拮抗薬のペグビソマントは,構造的にGHと極めて類似しているため,従来用いられている電気化学発光免疫測定法のGH測定試薬では,ペグビソマントとの交差反応による血清GHの偽高値が報告されている2)。一方,CLEIAを測定原理とする「AIA®-CLシステム」の測定試薬は,その交差反応を回避するよう開発されており,本研究ではペグビソマントとGH測定試薬との交差反応の有無を含め,GH分泌異常疾患治療薬のGHおよびIGF-1測定値への影響について,AIA-CLシステムと従来法で評価した。
管理試料と東京慈恵会医科大学附属第三病院中央検査部にGHおよびIGF-1の検査依頼があった患者試料の残余血清102例を匿名化して使用した。
尚,本検討については東京慈恵会医科大学倫理委員会の承認を得て実施した[審査番号:32-283(10365)]。
2. 測定試薬と測定機器 1) GH ①AIA-パックCL® hGH(東ソー株式会社)(以下,AIA-CL)測定原理:化学発光酵素免疫測定(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)
測定機器:全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA®-CL1200
②エクルーシス試薬®hGH(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)(以下,エクルーシス):対照試薬測定原理:電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescence immunoassay; ECLIA)
測定機器:全自動電気化学発光免疫測定装置 cobas ®8000 e801
2) IGF-1 ①AIA-パックCL® IGF-1(東ソー株式会社)(以下,AIA-CL)測定原理:化学発光酵素免疫測定(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)
測定機器:全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA®-CL1200
②エクルーシス®試薬IGF-1(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)(以下,エクルーシス):対照試薬測定原理:電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescence immunoassay; ECLIA)
測定機器:全自動電気化学発光免疫測定装置 cobas ®8000 e801
3. 検討方法 1) 併行精度GHは3濃度の管理試料(Control 1~3),IGF-1は2濃度の管理試料(Control 1~2)を用いて10回連続測定を行った。
2) 室内再現精度GHは3濃度の管理試料(Control 1~3),IGF-1は2濃度の管理試料(Control 1~2)を用いて1日1回10日間測定を行った。
3) 直線性2濃度の患者試料(GH: 0.62 ng/mL·45.98 ng/mL, IGF-1: 98.1 ng/mL·410.0 ng/mL)を,専用希釈液を用いて10段階希釈後に測定し,分散分析法で評価した。
4) 共存物質の影響シスメックス株式会社製の干渉チェック・Aプラスおよび干渉チェック・RFプラスを用いて,非抱合型ビリルビン,抱合型ビリルビン,溶血,乳び,リウマトイド因子の影響を検討した。
5) 定量限界(limit of quantitation; LoQ)低濃度患者試料を専用希釈液で10段階の濃度(GH: 0.0011~0.1710 ng/mL, IGF-1: 0.35~10.11 ng/mL)に調整したプール血清を作製し,−80℃で凍結保存したものを使用して測定を行った。測定は1日2回,5日間にわたり実施した。誤差許容限界値を変動係数(CV)10%と設定し,LoQ(定量下限)は,X軸に平行な誤差許容限界線と測定データの回帰曲線が交差する点の濃度と定義した。
6) AIA-CLとエクルーシスとの相関性患者試料(GH:50例,IGF-1:52例)を対象に,AIA-CLとエクルーシスとの相関性を標準主軸回帰法で評価した。
7) 薬剤添加試験 ①GH受容体拮抗薬ペグビソマントペグビソマント(ソマバート®皮下注用10 mg,ファイザー株式会社)を添付文書3)の通りに調整し,さらに精製水で希釈系列を作製した。ペグビソマント非投与血清(GH濃度:0.91 ng/mL,IGF-1濃度:171.2 ng/mL)に,作製した系列薬剤を添加しAIA-CLとエクルーシスでGH,IGF-1を測定した。
②ドパミン作動薬カベルゴリンカベルゴリン(カバサール®錠0.25 mg,ファイザー株式会社)1錠を37℃の精製水で溶解すると共に希釈系列を作製した4)。カベルゴリン非投与血清(GH濃度:0.91 ng/mL,IGF-1濃度:171.2 ng/mL)に,作製した系列薬剤を添加しAIA-CLとエクルーシスでGH,IGF-1を測定した。
③ヒト成長ホルモンアナログ製剤ソマトロピンソマトロピン(ジェノトロピン®TC注用5.3 mg,ファイザー株式会社)を添付文書5)の通りに調整し,さらに精製水で希釈系列を作製した。ソマトロピン非投与血清(GH濃度:10.08 ng/mL,IGF-1濃度:158.6 ng/mL)に,作製した系列薬剤を添加しAIA-CLとエクルーシスでGH,IGF-1を測定した。
④ソマトスタチンアナログ製剤オクトレオチド酢酸塩オクトレオチド酢酸塩(サンドスタチン®皮下注用100 μg,ノバルティスファーマ株式会社)を添付文書6)の通りに調整し,さらに精製水で希釈系列を作製した。オクトレオチド酢酸塩非投与血清(GH濃度:10.08 ng/mL,IGF-1濃度:158.6 ng/mL)に,作製した系列薬剤を添加しAIA-CLとエクルーシスでGH,IGF-1を測定した。
8) 性能評価性能評価は,一般社団法人日本臨床化学クオリティマネジメント専門委員会による「定量測定法に関するバリデーション指針」に準じ,バリデーション算出用プログラム(Validation-Support-V61)7)を使用して実施した。
変動係数(CV)は,GHは1.2~2.3%,IGF-1は2.0~2.5%であった(Table 1)。
GH | IGF-1 | ||||
---|---|---|---|---|---|
Control 1 | Control 2 | Control 3 | Control 1 | Control 2 | |
Mean(ng/mL) | 1.94 | 6.07 | 18.58 | 99.4 | 1,027.8 |
SD(ng/mL) | 0.029 | 0.075 | 0.422 | 2.01 | 25.40 |
CV(%) | 1.5 | 1.2 | 2.3 | 2.0 | 2.5 |
The coefficient of variation (CV) ranged from 1.2 to 2.3% for GH and 2.0 to 2.5% for IGF-1.
変動係数(CV)は,GHは1.6~2.5%,IGF-1は2.7~2.8%であった(Table 2)。
GH | IGF-1 | ||||
---|---|---|---|---|---|
Control 1 | Control 2 | Control 3 | Control 1 | Control 2 | |
Mean(ng/mL) | 1.96 | 6.43 | 18.84 | 76.8 | 827.3 |
SD(ng/mL) | 0.049 | 0.100 | 0.423 | 2.04 | 22.99 |
CV(%) | 2.5 | 1.6 | 2.2 | 2.7 | 2.8 |
The coefficient of variation (CV) ranged from 1.6 to 2.5% for GH and 2.7 to 2.8% for IGF-1.
GHは,低濃度試料では0.62 ng/mL,高濃度試料では45.98 ng/mLまで原点を通る直線性を確認した。IGF-1においても,低濃度試料では98.1 ng/mL,高濃度試料では410.0 ng/mLまで原点を通る直線性を確認した(Figure 1)。
Linearity was confirmed up to 45.98 ng/mL for GH and 410.0 ng/mL for IGF-1.
GH,IGF-1共に,非抱合型ビリルビン20 mg/dL,抱合型ビリルビン20 mg/dL,溶血ヘモグロビン500 mg/dL,乳び2,100 FTU,リウマトイド因子500 IU/mLまで影響が認められなかった(Figure 2)。
Both GH and IGF-1 were not affected up to 20 mg/dL free bilirubin, 20 mg/dL conjugated bilirubin, 500 mg/dL hemolytic hemoglobin, 2,100 FTU lactobacillus, 500 IU/mL rheumatoid factor.
GHは0.0024 ng/mL,IGF-1は0.4351 ng/mLであった(Figure 3)。
LoQ was 0.0024 ng/mL for GH and 0.4351 ng/mL for IGF-1.
GHは,相関係数r = 0.980,回帰式y = 0.89x − 0.221,IGF-1は,相関係数r = 0.980,回帰式y = 1.05x + 11.85であった(Figure 4)。IGF-1では乖離した検体を1例認めたため,その1症例の属性と各方法での測定結果を示す(Table 3)。
GH had a correlation coefficient r = 0.980, regression equation y = 0.89x − 0.221.
IGF-1 had a correlation coefficient r = 0.980, regression equation y = 1.05x + 11.85.
IGF-1 value (ng/mL) | Elecsys | 412.0 |
AIA-CL | 295.6 | |
Diagnosis | Turner syndrome | |
Findings | Short stature | |
Medical treatment | GH treatment starts in April 2020 Administration of human growth hormone somatropin |
Characteristics of the case showing outliers in IGF-1 values, and the results measured by each method.
GH測定において,AIA-CLでは薬剤濃度増加に伴う変動はなかったが,エクルーシスでは薬剤濃度増加に伴い上昇し,有効血中濃度域(9.01 ± 1.43 μg/mL)を超えると漸減したが本来の値まで下がることはなかった。一方,IGF-1測定では,AIA-CLとエクルーシス共に変化はなかった。
②ドパミン作動薬カベルゴリンGH,IGF-1測定において,AIA-CLとエクルーシス共に薬剤濃度増加に伴う変化はなかった。
③ヒト成長ホルモンアナログ製剤ソマトロピンGH測定では,AIA-CLとエクルーシス共にヒト成長ホルモンアナログ製剤の濃度増加に伴い,測定値が上昇した。一方,IGF-1測定は,両測定機器共に特に変化はなかった。
④ソマトスタチンアナログ製剤オクトレオチド酢酸塩GH,IGF-1測定において,AIA-CLとエクルーシス共に変化はなかった(Figure 5)。
When GH was measured in serum to which the GH receptor antagonist pegvisomant was added, the measured values increased with increasing drug concentration in Elecsys, but no effect was seen with the addition of the drug in AIA-CL.
本検討の結果,AIA-CLによるGH測定試薬とIGF-1測定試薬の精度は併行精度・室内再現精度ともに良好であり,共存物質の影響も指定濃度まで干渉が認められなかった。直線性の確認では,GHは添付文書の性能を担保していたが,IGF-1においては,高値試料の入手困難により410.0 ng/mLまでの確認となった8)。一方,定量限界は,GHは0.0024 ng/mL,IGF-1は0.4351 ng/mLと高感度が確認できた。AIA-CLとエクルーシスとの相関性は良好であったが,IGF-1測定において乖離した検体を1例認め,AIA-CLでのIGF-1 295.6 ng/mLに対してエクルーシスでは412.0 ng/mLと高値を示していた。本検体はヒト成長ホルモン製剤ソマトロピンを投与されているターナー症候群患者血清で,検体量不足のため精査は不可能であったが,乖離の原因としては異好抗体や自己抗体の存在,投与薬剤や基礎疾患に関連した影響などの可能性が考えられた。近年,IGF-1測定における免疫測定法の課題点に,各社の抗体やキットのロット差,キャリブレーターの違いにより測定値に大きなばらつきがある。さらには,IGF-1遺伝子変異では過小評価や過大評価のリスクがあり,測定法依存のバイアスが発生している9)。本研究でも高い相関性が認められたにもかかわらず乖離が生じたことは,こうした免疫測定法に内在する課題を反映している可能性がある。このような背景から,抗体依存性のない新たな測定法として,近年ではLC-MS/MSやLC-HRMSといった質量分析法が注目されている10),11)。しかしこれらの手法は,前処理に専門的な技術を要することに加え,検査機器の導入コストや操作の複雑さ,検体処理の負担といった課題を抱えている。そのため,一部の施設では導入が進んでいるものの,多くの一般的な臨床検査室では導入が限定的であるのが現状である。したがって,臨床現場では依然として免疫測定法が主流であり,その限界を理解したうえで結果の解釈を行う必要がある。
薬物添加試験の結果は,GH受容体拮抗薬ペグビソマントを添加した血清でGHを測定したところ,エクルーシスでは薬剤濃度増加に伴い測定値が上昇したが,一定濃度を超えるとGH値が低下した。この現象は,抗原量が試薬抗体に対して過剰となったことによるフック効果が生じたためと考えられる12)。一方,AIA-CLでは薬剤添加に伴う影響はみられなかった。GH受容体拮抗薬であるペグビソマントは,先端巨大症や下垂体性巨人症の治療において,外科的処置やソマトスタチンアナログ,ドパミン作動薬の効果が不十分の場合に投与される重要な薬剤であり,先端巨大症患者の血糖コントロールとしての有用性も報告されている13)。ただし,ペグビソマントはGHと分子構造が類似しているため,従来の測定試薬では抗体がペグビソマントをGHとして誤認し,交差反応が生じる可能性が指摘されていた2)。この問題を踏まえ,ペグビソマントの添付文書3)では,治療効果判定にはGH値ではなくIGF-1値を用いることが推奨されている。一方,本研究で検討したAIA-CLシステムにおいては,ペグビソマントとの交差反応性が小さい抗体を第一反応側に配置し,第二反応前に中間洗浄を実施することにより,交差反応を回避することができた。この特性により,ペグビソマントを投与中の患者に対しても,正確かつ信頼性の高いGH値の測定が可能になると考えられる。
本研究ではペグビソマントによる影響のほかに,同疾患の治療薬として用いられているソマトスタチンアナログ製剤オクトレオチド酢酸塩,GH分泌抑制に効果的とされるドパミン作動薬カベルゴリンによる影響も評価したが,AIA-CLとエクルーシス共に,GH及びIGF-1の測定値に対してこれらの薬剤が妨害物質となるような影響は確認されなかった。さらに,成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療薬であるヒト成長ホルモンアナログ製剤ソマトロピンを用いて添加試験を行った。GHアナログ製剤であるソマトロピンでは,薬剤の添加濃度が増加するにつれて,GH値もその添加量に応じて増加する結果が得られた。
最近まで,AIA-CLではGHとIGF-1の同時測定が不可能であった。しかし,GHおよびIGF-1は,先端巨大症,下垂体性巨人症,成長ホルモン分泌不全性低身長症といった疾患の診断基準に用いられる極めて有用な検査項目であり1),これらを同時に測定できるシステムの開発が強く求められていた。本検討により,今回開発されたAIA-CLによる新規IGF-1測定試薬の良好な基礎的性能が確認された。エクルーシスでも同時測定は可能であったが,本システムでもGHとIGF-1を同一機器で同時測定が可能であることも確認された。GHとIGF-1を同一機器で同時に測定可能となることで,GHとIGF-1を組み合わせた迅速な診断,診察前検査による薬物治療効果判定の迅速化も実現され,より効率的で適切な診療につながることが期待される。
AIA-CL用GHおよび新たに開発されたIGF-1測定試薬は,良好な基本性能を有していることが確認された。また,AIA-CL装置でGHとIGF-1が同時に測定できることで,診察前検査としての有用性が高まるものと思われ,今後の診断や治療への取り組みに貢献することが期待される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。