Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Case Report
A case of otomycosis caused by Candida allociferrii identified with a molecular identification
Tatsuya KOIZUMIRyo HAYASHINaomi NAKAJIMAShinji KOBAYASHIMasaaki YAMAZAKITakashi YAGUCHI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 74 Issue 3 Pages 628-633

Details
Abstract

Candida allociferriiStephanoascus ciferrii complexの一種として提唱された稀な酵母様真菌であり,国内における分離例は眼窩内膿瘍からの1例のみが報告されている。今回,C. allociferriiによる外耳道真菌症の1例を経験したので報告する。症例は50歳代男性。右耳の掻痒感及び耳漏を主訴に受診し,耳漏検体が提出された。培養1日目では培地上に微小なコロニーを認め,コロニーのグラム染色及び延長培養を行った。グラム染色では菌糸の片側に胞子が並列する酵母様真菌が観察され,培養5日目の培地には皺があり,めり込んだように発育するコロニーを認めた。これらのグラム染色像やコロニーの形態は主要なCandida属との鑑別点になる可能性が示唆された。生化学的性状及び質量分析法による同定では正確な菌名を得られなかったが,ITS及びD1/D2領域の塩基配列解析により,C. allociferriiと同定した。本菌の正確な菌種同定には塩基配列解析が有用と考えられた。薬剤感受性に関して,本菌はアゾール系抗真菌薬に耐性傾向を示すとの報告があり,本症例においてもfluconazoleのMICが高値となった。侵襲性カンジダ症ではfluconazoleが第一選択薬として使用されることもあり,形態的特徴や培養所見から菌種を推定し,迅速に報告することが治療の一助になると考えられる。

Translated Abstract

Candida allociferrii is a rare yeast-like fungus that has been proposed to be one of the species within the Stephanoascus ciferrii complex. In Japan, only one case of isolation from an orbital abscess has been previously reported. We herein report a case of otomycosis caused by C. allociferrii. The patient was a male in his 50s who presented with pruritus and otorrhea in the right ear. A sample of ear discharge was submitted for examination. On the first day of culture, small colonies were observed on the medium, thus prompting Gram staining and extended incubation. In the Gram staining of the colonies, yeast-like fungi with spores arranged in parallel on one side of the hyphae were observed. By the fifth day of culture, the colonies exhibited wrinkles and appeared to be embedded in the medium. Such Gram staining and colony morphology suggested the possibility that this fungus represented a major Candida species. However, biochemical characterization and mass spectrometry failed to provide an accurate species identification. Sequencing of the ITS and D1/D2 regions finally identified the isolate as C. allociferrii. These findings indicate that genetic sequencing is useful for the precise identification of this species, and previous reports have suggested that C. allociferrii exhibits resistance to azole antifungals. In the present case, the MIC of fluconazole was elevated. Given that fluconazole is often the first-line treatment for invasive candidiasis, early morphological and culture-based presumptive identification followed by rapid reporting may help to allow medical personnel to perform timely and appropriate treatment.

I  序文

Candida allociferriiは2002年にUeda-Nishimuraら1)が,18S rRNAの系統解析により,Stephanoascus ciferrii(無性世代:Candida ciferrii),C. allociferriiC. muciferaの3菌種からなるStephanoascus ciferrii complexの一種として提唱した菌種である。S. ciferrii complexは子嚢菌門に属し,土壌,海水,植物などの自然界に広く存在している2)。現在,C. allociferriiBlastobotrys属に移しB. allociferriiとすることが提案された3)S. ciferriiとしてのヒトへの感染例は外耳道炎や中耳炎などの耳鼻科領域における感染症報告が最も多く2),その他に爪真菌症,血流感染症,全身性真菌症などの原因菌として分離例4)~6)がある。一方でC. allociferriiが臨床材料から分離された症例は,2015年にSokiら7)の眼窩内膿瘍から分離した症例が国内では唯一の報告となっている。

今回,我々は遺伝子検査にて同定したC. allociferriiによる外耳道真菌症の1例を経験したので報告する。

II  症例

患者:50歳代,男性。

主訴:右耳の掻痒感。

既往歴:慢性中耳炎,高血圧。

生活歴:特記すべき事項なし。

現病歴:20XX年に慢性中耳炎に対して手術を行い,当院で半年毎の外来経過観察中であったが,2023年11月より右耳に掻痒感,耳漏が出現し,受診した。

診察時の所見として,右耳に軽度発赤,湿潤を認めたため,同部位から耳漏の検体が採取され,細菌培養検査を行った。また外耳道の鼓室処置および耳浴を実施し,この時点では菌種が確定していないため,治療薬としてはofloxacin点耳液が処方された。1週間後の再診時には右耳の掻痒感や発赤などは軽快しており,抗真菌薬は使用されなかった。

III  微生物学的検査所見

1. 塗抹検査

提出された耳漏検体のグラム染色は,Bartholomew & Mittwer変法(B&M変法:武藤化学)を用いて行った。グラム染色所見は白血球が多数認められるものの,菌体は認められなかった。

2. 培養検査

培養検査はTSAヒツジ血液寒天培地/BTB寒天培地(極東製薬工業)を使用し,35℃にて一夜培養を実施した。翌日,純培養状に発育したコロニーは小さく,観察が困難であり,コロニーのグラム染色と延長培養を行った。コロニーのグラム染色では菌糸の片側に楕円形の胞子が並列した酵母様真菌(Figure 1)を認めたため,Candida属菌を疑い,CHROMagar Candida plus培地(関東化学)を追加した。培養3日目のCHROMagar Candida plus培地には白色~青緑色を呈するコロニーの発育を認めた。しかし,コロニーの大きさや硬さが主要なCandida属菌とは異なる性状であったため,更なる延長培養を行った。培養5日目のCHROMagar Candida plus培地には皺があり,培地へめり込んだように発育するコロニーが認められた(Figure 2)。なお,TSAヒツジ血液寒天培地/BTB寒天培地におけるコロニー形態は,培地へのめり込みのみが認められ,皺は観察されなかった(Figure 3)。

Figure 1  TSAヒツジ血液寒天培地に発育したコロニーのグラム染色(×1,000)

菌糸の片側に胞子が並列している。

Figure 2  培養5日目のCHROMagar Candida plus培地上のコロニー

コロニーのめり込みおよび皺が認められる。

Figure 3  培養5日目のTSAヒツジ血液寒天培地/BTB寒天培地上のコロニー

3. 同定検査

当院ではCandida属の同定を酵素基質培地での簡易同定のみとしているが,コロニー形態などの特徴が同定可能菌種に該当しなかったため,同定には至らなかった。そこで質量分析装置MALDIバイオタイパー(Bruker)による同定検査を衛生検査所に委託したが,同定不可となったため,遺伝子塩基配列解析を千葉大学真菌医学研究センター(真菌センター)で実施した。ITS領域およびD1/D2領域の遺伝子塩基配列解析が実施され,C. allociferrii CBS 5166の基準株と100%の相同性を示す結果が得られ,C. allociferriiと同定された。なお,本菌株はIFM 69018として真菌センターに保存している(ナショナルバイオリソースプロジェクトの支援)。後日,検討のために実施した酵母様真菌同定キットAPI ID32C(BIOMERIEUX)を用いた生化学的性状検査では,C. ciferrii(プロファイルコード:7773737247,%id:99.9,T:0.64)と同定された。

4. 薬剤感受性検査

薬剤感受性検査についても真菌センターでClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M27-A3に準拠した酵母様真菌DP栄研(栄研化学)を用いて実施された。MIC値はfluconazole(FLCZ)のみ高値で,その他の薬剤は低値を示した(Table 1)。なお,CLSIにおいて,S. ciferriiまたはC. allociferriiのブレイクポイントが設定されていないため,薬剤感受性結果はMIC値のみを報告した。

Table 1 薬剤感受性検査結果

Antibiotics MIC (μg/mL)
Amphotericin B 0.5
Flucytosine 0.5
Fluconazole 64
Itraconazole 0.25
Miconazole 1
Micafungin 0.06
Voriconazole 0.5
Caspofungin 0.25

IV  考察

S. ciferrii complexはCandida属の中でも検出頻度が0.01%と低く,稀なCandida症原因菌とされている8)S. ciferrii complex感染症事例(n = 92,国外事例を含む)についてまとめたCosioら2)によると,中耳炎など耳鼻科領域からの分離例が41%,皮膚または爪などの皮膚付属器からの分離例が24%,血液からの分離例が18%であったと報告されている。国内における事例(学会抄録を含む)では,我々が調べる限り10例中9例が外耳道炎や中耳炎などの耳鼻科領域からの分離例9)~17),1例は眼窩内膿瘍からの分離例7)であった。また,S. ciferrii complexはヒト以外に猫の外耳道炎から分離例18)があり,人獣共通感染症と考えられている。国内でS. ciferriiを外耳道から分離している田口ら15)の症例においても感染経路が猫との接触によるものと推察されている。本症例では猫やその他動物などのペット飼育歴および接触歴は確認できなかったため,感染経路は不明であったが,動物飼育歴の有無や耳鼻科領域からの検出であることは本菌による感染症を推定する上で重要な臨床情報であると考えられた。

本邦においてS. ciferriiまたはC. allociferriが分離されている症例と本症例をTable 2に示す。グラム染色では,菌糸から楕円形の胞子が並列した形態を示す症例が2例報告されている。また,8例の症例で,コロニーに皺または培地へのめり込みが認められている。本症例においてもグラム染色やコロニー形態に共通する所見があり,これらの形態学的特徴は主要なCandida属菌とは異なる所見であることから,S. ciferrii complexを推定する上での鑑別ポイントと考えられた。

Table 2 本邦でStephanoascus ciferriiおよびCandida allociferriiが検出された報告例と本症例

報告
文献 年齢/性別 主訴 ペット飼育歴 接触歴 検査材料 グラム染色形態 集落形態 使用培地 同定菌名 同定法 使用薬剤 経過
2010 9) 78歳/男性 難聴 N/A 耳漏 菌糸に胞子が並列
めり込み
羊血液寒天培地
BTB乳糖加寒天培地
チョコレート寒天培地
サブロー寒天培地
S. ciferrii API ID32C
ITS,D1/D2
N/A N/A
2013 10) 70歳/男性 難聴 N/A 耳漏 楕円形の酵母 R型
めり込み
CHROMagar Candida培地 S. ciferrii API 20C AUX
ITS
N/A N/A
2014 11) 84歳/男性 難聴 N/A 外耳道
擦過物
N/A N/A N/A S. ciferrii N/A fluconazole terbinafine 軽快
2015 7) 79歳/男性 N/A N/A 眼窩膿瘍 N/A
めり込み
ポテトデキストロース寒天培地
サブロー寒天培地
 CHROMagar Candida培地
C. allociferrii API ID32C
ITS,D1/D2
amphotericin B 軽快
2016 12) 71歳/男性
81歳/男性
N/A N/A 耳漏 N/A
めり込み
CHROMagar Candida培地 S. ciferrii VITEK 2
ITS,D1/D2
N/A N/A
2017 13) 80歳代/女性 N/A N/A 外耳道
擦過物
N/A R型
めり込み
CHROMagar Candida培地 S. ciferrii VITEK2 N/A N/A
2018 14) 60歳代/女性 左耳痛
耳漏
N/A 耳漏 菌糸に胞子が並列 R型
めり込み
羊血液寒天培地
CA-5寒天培地
S. ciferrii VITEK 2
MALDI TOF-MS (VITEK MS)
ofloxacin terbinafine 軽快
2018 15) 70歳/女性 掻痒感 有り 外耳道擦過物 N/A R型
辺縁不整
カラーCandida寒天培地
サブロー寒天培地
S. ciferrii API ID32C terbinafine 軽快
2019 16) 10歳代/男性 N/A N/A 耳漏 卵円形の酵母
めり込み
羊血液寒天培地
チョコレート寒天培地
S. cifferrii MALDI TOF-MS (N/A)
ITS
itraconazole N/A
2023 17) 73歳/男性 難聴増悪 無し 耳漏 特徴無し カラーCandida寒天培地 S. ciferrii VITEK2
MALDI TOF-MS (MALDI biotyper)
ITS,D1/D2
terbinafine 軽快
2024 本症例 50歳代/男性 掻痒感 無し 耳漏 菌糸に胞子が並列
めり込み
羊血液寒天培地
BTB乳糖加寒天培地
CHROMagar Candida plus培地
C. allociferrii API ID32C
MALDI-TOF MS (MALDI biotyper)
ITS,D1/D2
ofloxacin 軽快

N/A:データなし

Guoら19)は生化学的性状検査でS. ciferriiと同定された32株について,遺伝子塩基配列解析および質量分析装置VITEK MS(BIOMERIEUX)による同定を行った。遺伝子塩基配列解析ではS. ciferrii 16株,C. allociferrii 10株,C. mucifera 6株の32株全てが同定された。一方で質量分析法による同定ではS. ciferrii 16株のみが同定され,C. allociferriiおよびC. muciferaは質量分析装置VITEK MSのライブラリに未登録であったことから同定結果が得られなかったと報告されている。本症例においても質量分析法で同定し得なかったが,検査で使用したMALDIバイオタイパーver. 6.0(Bruker)のライブラリにはC. allociferrii 1株が登録されていた。今回,ライブラリ登録菌種であったにもかかわらず,同定不可となった要因として,同一菌種においてもマススペクトルには若干の差があることから,本症例で分離された菌とライブラリ登録株間におけるマススペクトルの差異により同定できなかったと考えられる。また,眼科内膿瘍からC. allociferriiを分離したSokiら7)は当初,同定を生化学的性状検査で行い,S. ciferriiが同定されたと報告しており,本症例においても同様の結果であった。これらのことから生化学的性状による同定でS. ciferriiと同定され,質量分析法で同定不可となる場合は,C. allociferriiおよびC. muciferaである可能性も考慮し,検査を進める必要がある。本菌は生化学的性状検査や質量分析法による同定が困難となることもあり,菌種の正確な同定にはITS領域およびD1/D2領域の遺伝子塩基配列解析を実施することが望ましいと考えられた。

抗菌薬治療に関して,S. ciferrii complexに属する3菌種は,エキノキャンディン系抗真菌薬であるmicafungin(MCFG)やcaspofungin(CPFG)のMIC値が低く,本菌の感染症治療に適しているとされている19)。一方,アゾール系抗真菌薬のFLCZやitraconazole(ITCZ)には耐性傾向が認められており,FLCZに関しては分離株の49%が耐性であったと報告されている2)S. ciferrii complexは国外において侵襲性カンジダ症としての報告例6)があり,侵襲性カンジダ症の治療ガイドライン20)によると,カンジダ血症は初期治療の遅れにより致死率が高くなるとされていることから,迅速な抗真菌薬投与が求められている。また,血液培養から検出された菌がカンジダの種まで確定していない場合で高齢者,担癌患者,アゾール系薬の使用歴がある患者を除く軽症例にはFLCZが第一選択薬として推奨されている。そのため,本菌のように稀であり,発育に時間を要する菌は第一報としてCandida属であることのみが報告され,抗真菌薬投与による治療効果を得られない可能性がある。本症例は外耳道からの検出であり,鼓室処置および耳浴で軽快したため,抗真菌薬の使用は無かった。しかし,既報と同様にFLCZのMIC値が高値であったことから,グラム染色像やコロニーの形態より菌種を推定し,菌種同定前に臨床へ情報をフィードバックすることが本菌による感染症治療の一助になると考えられた。

V  結語

今回,本邦2例目となる臨床材料からC. allociferriiが検出された症例を経験した。本菌のように報告例が極めて少ない菌種は生化学的性状検査や質量分析法において同定困難となる場合があり,正確な同定には遺伝子塩基配列解析が有用となる。しかし,遺伝子塩基配列解析は一般的な検査室での実施が難しく,時間を要するため,形態学的特徴から菌種を推定し,臨床へ報告することが重要となる。

近年,non-albicans Candida(NAC)の薬剤耐性が問題となっているが,国内での本菌による感染症報告例は少ない。今後,形態学的特徴や同定・薬剤感受性の傾向など,さらなるデータの蓄積が重要であると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2025 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top