2025 Volume 74 Issue 4 Pages 695-700
今回我々は,当院が考案した血液培養陽性ボトル前処理方法を用いたQライン極東®PBP2’の感度向上について検討したので報告する。対象は,当院各診療科より提出された血液培養陽性ボトルのうち,VITEK MSによる直接同定でStaphylococcus spp.の菌名が得られた150検体とした。本キットは添付文書に従い実施し,血液培養陽性ボトルからサブカルチャー後にコロニーを用いる方法を基準法とし,血液培養陽性ボトルから直接実施する方法(Q直接法)と,当院が考案したスプタザイムによる前処理方法を用いた方法(当院法)を比較検討した。菌種の内訳は,Staphylococcus aureus 84株(MSSA 48, MRSA 36),coagulase-negative staphylococci(CNS)66株(MSCNS 30, MRCNS 36)である。結果としては,S. aureusではQ直接法の感度97.2%,特異度100%,一致率98.8%,kappa係数0.98,当院法100%,100%,100%,1であった。CNSではQ直接法52.8%,100%,74.2%,0.50,当院法94.4%,100%,97.0%,0.94であった。当院の血液培養前処理方法を用いることでS. aureusのみならずCNSも基準法と同等の一致率で迅速にPBP2’の検出が可能であることが示唆された。
This study evaluates the sensitivity enhancement of Q-line Kyokuto® PBP2’ using our proprietary pre-treatment method on blood culture-positive bottles. A total of 150 samples with positive blood cultures and direct identification of Staphylococcus spp. by VITEK MS were examined. Q-line Kyokuto® PBP2’ was performed according to the package insert using the standard method with colonies from subcultured blood culture-positive bottles as samples. We compared this method, referred to as “Q Direct Method,” with our developed method using samples pretreated with Sputazyme, known as “Our Method.” Of the 150 samples, 84 were Staphylococcus aureus strains (48 methicillin-sensitive [MSSA] and 36 methicillin-resistant [MRSA]), and 66 were coagulase-negative staphylococci (CNS) strains (30 methicillin sensitive [MSCNS] and 36 methicillin-resistant [MRCNS]). For S. aureus, the Q Direct Method exhibited 97.2% sensitivity, 100% specificity, 98.8% reproducibility, and a 0.98 kappa statistic. In contrast, Our Method showed 100%, 100%, 100%, and 1 for each parameter. Concerning CNS, the Q Direct Method displayed 52.8% sensitivity, 100% specificity, 74.2% reproducibility, and a 0.50 kappa statistic. Our Method yielded 94.4%, 100%, 97.0%, and 0.94 for the respective parameters. Our findings suggest that our method of pretreating blood culture samples enables the rapid detection of PBP2’ from both S. aureus and CNS with a level of reproducibility comparable to the standard method.
メチシリン耐性菌の検査法として,日常検査ではClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)法による薬剤感受性検査が一般的に用いられているが,迅速な診断が求められる場面ではmecA遺伝子やPBP2’の検出法が有用である1)。今回検討に用いたQライン極東®PBP2’(極東製薬工業株式会社)は,Staphylococcus aureusのメチシリン耐性を迅速に判定するための検査キットであり,培養した菌株に加え血液培養陽性ボトルからの直接検査も可能であるとされている。
本研究では,PBP2’産生菌の検出感度向上に,当院が考案した血液培養陽性ボトルの前処理方法が活用できないか検討した。当院の処理方法は,分離剤入り採血管を用いた集菌操作に加え,セミアルカリプロテアーゼ酵素剤(スプタザイム)による洗浄を行うことで不純物を除去することが可能となり,菌体成分を多く含む沈渣を得ることができる。この方法によりS. aureusに加え,CNSにおけるPBP2’の検出の可能性があると考えられたため,これらの結果を報告する。
2018年11月から2021年9月に当院各診療科から提出された血液培養陽性ボトルのうち,単一菌が検出され,質量分析同定法VITEK MS(bioMérieux Japan Ltd; BMJ)による菌種同定でStaphylococcus spp.の菌名が得られた150検体を対象とした。これらの症例から得られた菌種,菌株数の内訳をTable 1に示す。S. aureus 84株(メチシリン感受性株(MS)48,メチシリン耐性株(MR)36),Staphylococcus epidermidis 25株(MS 6, MR 19),Staphylococcus hominis 17株(MS 11, MR 6),Staphylococcus capitis 7株,Staphylococcus caprae 4株,Staphylococcus haemolyticus 3株,Staphylococcus simulans 3株,Staphylococcus saccharolyticus 1株,Staphylococcus warneri 2株,Staphylococcus lugdunensis 4株である。血液培養陽性ボトルは,バクテアラート3D(BMJ)専用ボトルFA Plus,FN Plus,PF Plusを使用した。これらの菌株の薬剤感受性測定には専用プレートEP02(微生物感受性分析装置DPS192ix®)(栄研化学株式会社)を用いた。
| 菌種 | 総株数 | MS株数 | MR株数 |
|---|---|---|---|
| S. aureus | 84 | 48 | 36 |
| S. epidermidis | 25 | 6 | 19 |
| S. hominis | 17 | 11 | 6 |
| S. capitis | 7 | 3 | 4 |
| S. caprae | 4 | 2 | 2 |
| S. haemolyticus | 3 | 1 | 2 |
| S. simulans | 3 | 2 | 1 |
| S. saccharolyticus | 1 | 1 | 0 |
| S. warneri | 2 | 2 | 0 |
| S. lugdunensis | 4 | 2 | 2 |
| 合計(株) | 150 | 78 | 72 |
Qライン極東®PBP2’キットの測定は,添付文書に記載してある血液培養液の直接検査法(Q直接法),添付文書に記載してある固形培地上の集落からの検査法(基準法),セミアルカリプロテアーゼ酵素剤のスプタザイムを用いる方法(当院法)の3法を比較検討した。
①血液培養液の検査法(Q直接法)血液培養ボトルを転倒混和後,250 μLを2 mLチューブに採取し,前処理試薬を125 μL加え混和した。20,000 × gで2分間遠心後,上清を除去した。沈渣に付属の抽出液Aを5滴加え懸濁し,室温で5分間静置後,付属の抽出液Bを5滴加え混和し試料とした。試料60 μLを滴下し,15分後にラインの有無を目視で判定した。
②固形培地上の集落からの検査法(基準法)2 mLチューブに付属の抽出液Aを5滴加え,固形培地上で分離培養した集落から1白金耳量を採取し懸濁した。室温で5分間静置後,付属の抽出液Bを5滴加え混和し,試料とした。試料60 μLを滴下し,15分後にラインの有無を目視で判定した。
③セミアルカリプロテアーゼ酵素剤のスプタザイムを用いる方法3)(当院法)1)血液培養ボトルを転倒混和後,5 mLを分離剤入り採血管に採取し,1,500 × gで5分間遠心後,デカンテーション操作により分離剤上層の上清のみを除去した。
2)滅菌精製水を約1 mLを加え撹拌し,分離剤に付着した沈渣をピペッティングで十分に再浮遊させた後,1.5 mLチューブに回収し,15,000 × gで1分間遠心し,上清を除去した。
3)スプタザイムを500 μL~1,000 μL加え混和後,15,000 × gで1分間遠心し,上清を除去した。
4)滅菌精製水を約1 mL加え混和後,15,000 × gで1分間遠心し,上清を除去した。
沈渣が目視にて白色を呈しているか確認する。このとき沈渣が赤色を呈していれば,手順3)のスプタザイム処理からやり直した。
5)2 mLチューブにキット付属の抽出液Aを5滴加え,沈渣から1白金耳量を採取し懸濁した。
6)室温で5分間静置後,付属の抽出液Bを5滴加え混和し,試料とした。
7)試料60 μLを滴下し,15分後にラインの有無を目視判定した。
2) 薬剤感受性検査薬剤感受性検査は微生物感受性分析装置DPS192ix®(栄研化学株式会社)専用プレートEP02を使用した。サブカルチャーで発育した単独コロニーを滅菌生理食塩水に懸濁し,濁度計でMcFarland No. 1に調製した。菌液25 μLをミューラーヒントンブイヨン(栄研化学株式会社)に混合し接種菌液とした。接種菌液をよく混和後,専用プレートEP02にFunDropper(栄研化学株式会社)を用いて分注し,DPS192ixで測定した。24時間後に機器によって読み取られた最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)を評価に用いた。判定基準はS. aureusとS. lugdunensisはoxacillin(MPIPC)のMICが4 μg/mL以上もしくはcefoxitin(CFX)のMICが8 μg/mL以上,CNSはS. lugdunensisを除きMPIPCのMICが0.5 μg/mL以上4)とした。
3) 最低検出感度の検証最低検出感度試験には,MRSA ATCC 43,300株を供試した。菌株を血液寒天培地に塗布し,5%CO2環境下で35℃,24時間培養し,発育したコロニーを滅菌生理食塩水に浮遊させ,濁度計でMcFarland No. 0.5に調製し,これを原液とした。原液を滅菌生理食塩水で10倍段階希釈し,105倍希釈菌液100 μLを普通寒天培地に塗布し5%CO2環境下で35℃,48時間培養後,発育したコロニー数から105倍希釈の菌液濃度(CFU/mL)を算出した。105倍希釈液の菌液濃度から原液の菌液濃度を算出した。
また,原液を32倍まで2段階希釈を行い,計5濃度の希釈菌液100 μLをキットの抽出液に分注し,添付文書に従い各濃度で3重測定を実施した。いずれの濃度においても,目視にてラインが確認できたものを陽性と判定した。3重測定の結果がすべて陽性で,最も希釈倍数が高い菌濃度から最低検出感度を算出した。
4) 統計的方法キットの性能に関しては感度,特異度,一致率,kappa係数を用い評価した。
kappa係数を用いた理由としては,当院法の前処理方法を用いたQライン極東PBP2’の性能を他法と比較するにあたり,偶然の一致を補正したうえでの検査法間の真の一致度を評価できる指標であり,客観的な解析を行う上で適していると考えたためである。
本研究は彦根市立病院研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:彦研倫2024-04)。
基準法と薬剤感受性検査を比較したところS. aureus,CNS共に感受性の判定結果はすべて一致した。
2021年度からCLSIにおけるS. lugdunensisを除くCNSの判定基準は,MPIPCがMIC 0.5 μg/mL以上から1 μg/mL以上に変更されているが,当院で検出したMRCNSはすべて1 μg/mL以上であるため最新の判定基準においてもMRCNSと判定された1)。
2. 薬剤感受性結果とQ直接法,当院法の比較S. aureusはMSSA 48株,MRSA 36株の成績である。これらの結果をTable 2の上段に示す。MSSA 48株はQ直接法,当院法とも陰性(MSSA)と判定された。MRSA 36株ではQ直接法で1株が偽陰性となったが,当院法ではすべて陽性(MRSA)と判定された。当院法では感度は100%,特異度は100%,一致率は100%,kappa係数は1であった。一方,Q直接法では感度は97.2%,特異度は100%,一致率は98.8%,kappa係数は0.98であった。Q直接法で偽陰性を示した1株については再検査を実施したが結果は同様であった。この株の感受性結果は,セフェム系抗菌薬のMIC値が低値であった。しかし,他の菌株にも同様の表現型を示した株が存在したため,このことが偽陰性の原因とするには十分ではなかった。
| 菌株数 | 基準法 | Q直接法 | 当院法 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| Staphylococcus aureus | MSSA | 48 | 48 | 48 | 48 |
| MRSA | 36 | 36 | 35 | 36 | |
| 感度(%) | 100 | 97.2 | 100 | ||
| 特異度(%) | 100 | 100 | 100 | ||
| 一致率(%) | 100 | 98.8 | 100 | ||
| kappa係数 | 1 | 0.98 | 1 | ||
| Coagulase-negative staphylococci | MSCNS | 30 | 30 | 30 | 30 |
| MRCNS | 36 | 36 | 19 | 34 | |
| 感度(%) | 100 | 52.8 | 94.4 | ||
| 特異度(%) | 100 | 100 | 100 | ||
| 一致率(%) | 100 | 74.2 | 97.0 | ||
| kappa係数 | 1 | 0.50 | 0.94 | ||
MSSA: methicillin-sensitive Staphylococcus aureus
MRSA: methicillin-resistant Staphylococcus aureus
MSCNS: methicillin-sensitive coagulase-negative staphylococci
MRCNS: methicillin-resistant coagulase-negative staphylococci
CNSについては7菌種の結果をまとめてTable 2の下段に示した。これらはMSCNS 30株,MRCNS 36株の結果である。Q直接法ではMSCNS 30株はすべて陰性(MSCNS)と判定された。しかし,MRCNS 36株ではこれらのうちの19株が陽性(MRCNS)と判定されたが,残りの17株は偽陰性(MSCNS)と判定された。これらの感度は52.8%,特異度は100%,一致率は74.2%,kappa係数は0.50であった。
一方,当院法ではMSCNS 30株はすべて陰性(MSCNS)と判定され,MRCNS 36株は34株が陽性(MRCNS)と判定された。当院法の感度は94.4%,特異度は100%,一致率は97.0%,kappa係数は0.94であった。このように当院法ではQ直接法に比べCNSの多くの菌種でメチシリン耐性株が正しく判定された。
次にCNSをMSCNSとMRCNSに分け,菌種別にみた成績をTable 3,4に示した。Table 3はMSCNS 9菌種について基準法,Q直接法,当院法についてみたものである。なお,薬剤感受性の結果と基準法は結果が完全に一致している。MSCNS 9菌種ではQ直接法,当院法とも陰性(MSCNS)と判定され,すべて正しく判定された。
| MSCNS菌種 | 菌株数 | 基準法 | Q直接法 | 当院法 |
|---|---|---|---|---|
| S. epidermidis | 6 | 6 | 6 | 6 |
| S. hominis | 11 | 11 | 11 | 11 |
| S. capitis | 3 | 3 | 3 | 3 |
| S. caprae | 2 | 2 | 2 | 2 |
| S. haemolyticus | 1 | 1 | 1 | 1 |
| S. simulans | 2 | 2 | 2 | 2 |
| S. saccharolyticus | 1 | 1 | 1 | 1 |
| S. warneri | 2 | 2 | 2 | 2 |
| S. lugdunensis | 2 | 2 | 2 | 2 |
| 合計(株) | 30 | 30 | 30 | 30 |
| MRCNS菌種 | 菌株数 | 基準法 | Q直接法 | 当院法 |
|---|---|---|---|---|
| S. epidermidis | 19 | 19 | 12 | 19 |
| S. hominis | 6 | 6 | 2 | 5 |
| S. capitis | 4 | 4 | 2 | 4 |
| S. caprae | 2 | 2 | 1 | 2 |
| S. haemolyticus | 2 | 2 | 1 | 2 |
| S. simulans | 1 | 1 | 0 | 0 |
| S. lugdunensis | 2 | 2 | 1 | 2 |
| 合計(株) | 36 | 36 | 19 | 34 |
一方,MRCNSについては7菌種についての結果をTable 4に示した。Q直接法では7菌種とも偽陰性(MSCNS)と判定された菌株が認められた。これに対し,当院法では7菌種中の5菌種はいずれもすべての株が陽性(MRCNS)と判定された。偽陰性株(MSCNS)と判定されたのはS. hominis 1株,S. simulans 1株であった。S. simulansは1株の成績であるが,Q直接法,当院法とも偽陰性に判定された。
3. 最低検出感度希釈菌液濃度は105倍希釈菌液が1,130 CFU/mLであったため,原液の菌数は1.13 × 108 CFU/mLとなった。
キットの3重測定の結果は,原液の16倍希釈までは陽性を示し,32倍希釈では陰性であった。したがって,最も希釈倍数が高い16倍希釈を本キットの最低検出感度と設定した。原液の菌数は1.13 × 108 CFU/mLであり,16倍希釈時の菌液濃度は7.06 × 106 CFU/mLとなることから,この菌数が本キットの最低検出感度であると考えられた。しかし16倍希釈の判定ラインは弱陽性であったため,不慣れな者が判定した場合,陰性と報告する可能性があるが,当院では16倍希釈のラインを陽性と判断した。
スプタザイムを用いた当院の前処理方法を実施することにより,S. aureusに関して血液培養陽性ボトルからの直接検出結果は,感度・特異度ともに100%でkappa係数1であり,添付文書記載の結果と同等の結果が得られた。Q直接法も1株を除き正しく判定されており,高い一致率を示した。
Qライン極東®PBP2’はS. aureusを対象としていることから,CNSに関しての感度は添付文書には記載されていない。メーカーからの情報によると,CNSでは正しく判定される株が少ないため,対象にできないとのことであった。しかしながら,当院の前処理法で得られた沈渣で検査することにより,若干ラインが薄いものも散見されたが94.4%が陽性判定可能であり,kappa係数も0.94と基準法とほぼ完全な一致を示した。これらのキットの判定に注意を要した例をFigure 1に示す。当院の前処理法を行い,本キットを用いて検査することにより,CNSに関しても簡便にPBP2’の有無を判定できる可能性が示唆された。これにより,早期から抗菌薬の適正使用が可能となるため,CNSにおいてもPBP2’の直接検査結果報告の有用性は高いと思われる。ただし,当院の前処理方法を行った検査結果には参考値であることを記載しておく必要がある。

緑文字Cはコントロール,Tはテストラインを示す
上段:Q直接法(陰性)
中段:当院法(陽性)
下段:基準法(陽性)
当院法の結果がQ直接法と比べ感度・特異度が高い理由として,松井ら5)によると本キットの最低検出感度は1.9 × 107 CFU/mLであり,PBP2’産生量が少ないと陰性に傾くが,1コロニー中には109 CFU程度の細胞が含まれるため6),PBP2’産生量が少ない株でも影響はないと報告している。当院法3)はQ直接法と比較して使用する血液培養液量が多く,さらに集菌操作により菌量が濃縮されることに加え,スプタザイムを用いた前処理を実施することによりヒト由来蛋白質が分解され,不純物が除去された沈渣が得られた可能性がある。そのため,菌体成分を多く含む沈渣が得られた結果,検出率の向上につながったものと考えられる。スプタザイム7)は一般細菌や抗酸菌検査に用いる喀痰の融解剤として用いられる市販試薬であり,成分はセミアルカリプロテアーゼである。細菌に与える影響はほとんどなく,凍結により長期保存が可能である。
一方で当院法にはいくつかの課題がある。分離剤入り採血管,スプタザイムの準備によりコストが増加し,遠心・再懸濁・洗浄・スプタザイム処理が必要なため,Q直接法と比較してステップが多く,操作がやや煩雑である。しかし,これらの欠点を上回る結果が得られ,臨床現場での有用性は高いと考えられる。
医療経営的視点から見ると,従来からの検査の流れでは,サブカルチャー後,得られたコロニーから薬剤感受性検査を行うため検査結果報告には2~3日要し,その間は抗MRSA薬による経験的治療を行うことになる。一方で,ボトル陽性時点で速やかにMRSAとMSSAの鑑別が可能となれば,より早期に適切な抗菌薬への切り替えが可能となり,高額な抗MRSA薬の使用を回避することで,薬剤のコストの削減が期待できる。MSCNS,MRCNSについてもほぼこれらと同様に考えることができる。
イムノクロマト法を原理とした,血液培養陽性ボトルから直接検出可能なキットである「Qライン極東®PBP2’」キットを用い,当院の血液培養前処理法を実施することで,S. aureusのQ直接法の感度97.2%(MRSAの1株が偽陰性)に対し,当院法では感度が100%となった。CNSではQ直接法の感度が52.8%に対し当院法では,94.4%となり大幅な改善がみられ,本キットの感度向上につながることが確認できた。また,血液培養陽性ボトルから直接菌種同定を行うと共に,薬剤耐性情報を積極的に早期報告することは適正な抗菌薬治療につながり,死亡率改善に加え,トータル医療費の削減にも資するため,患者・医療従事者双方の利益に寄与できるものと考える。
なお本論文の要旨は第45回滋賀県医学検査学会(2023年2月,草津)にて発表した。
検討に用いたキットに関しては極東製薬工業株式会社から提供して頂いたものである。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。