Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Difficulty and Learning Needs of Nurses Caring for Adolescent Cancer Patients
Masahiro KobayashiHideko Kojima
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2021 Volume 41 Pages 11-19

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Abstract

思春期青年期世代がん患者に対する看護師の困難感と学習ニーズを明らかにすることを目的とし,看護経験5年未満7名,それ以上の看護師8名を対象に,グループインタビューの手法で調査を行った.看護経験5年未満のグループは【捉えどころのない患者との距離感への戸惑い】【将来ある患者への見当もつかないケア】の困難感を抱き,【経験不足を補う他者の実践や体験からの学び】の学習ニーズがあった.看護経験5年以上のグループは【自律過程にある患者との関わりへの憂慮】【希望を見いだせない患者に寄り添う難しさ】の困難感を抱き【患者が利用できる社会的サポート資源の知識】の学習ニーズがあった.看護経験5年未満のグループは,ケア経験を蓄積する難しさから生じる知識不足や看護実践の自信のなさがあり,看護経験5年以上のグループは,過去のケア経験から生じる不安が関わりの憂慮になっていると考えられた.

Translated Abstract

This study aimed to understand the difficulty and learning needs of nurses caring for adolescent cancer patients. The participants consisted of two groups of nurses: 1. seven nurses with less than five years of nursing experience, and 2. eight nurses with more than five years of nursing experience. The research was conducted using group interview method. Results showed that, in Group 1, nurses had the following difficulties: “confusion regarding a sense of distance from elusive patients” and “having uncertainty on how to care for particular patients in the future”. Their learning needs were as follows: “knowledge of caring for adolescent cancer patients,” and “making up for one’s lack of experience by learning from others’ experiences and practices.” In Group 2, nurses had the following difficulties: “concern regarding forming relationships with patients developing autonomy” and “difficulty in staying close to patients who are losing hope”. Their learning needs were as follows: “knowledge of caring for adolescent cancer patients,” and knowledge of social support resources available to patients.” It was thought that in Group 1, nurses have lack of knowledge and lack of confidence in nursing practice due to the difficulty of accumulating care experience, and in Group 2, nurses have concerned about anxiety caused by past care experience.

Ⅰ. 緒言

近年,ライフステージに応じたがん対策の重要性が指摘され,思春期若年成人世代を示すAYA(Adolescents and Young Adults)世代のがん対策が注目され始めた.AYA世代とは,一般的な定義で15歳から39歳までを指す(堀部,2018).第3期がん対策推進基本計画では,AYA世代の多様なニーズに応じた診療体制の整備や治療に伴う生殖機能等への影響など情報提供し,適切な施設に紹介する体制の構築の必要性が指摘された(厚生労働省,2017).このような中で,AYA世代がん患者の体験に焦点を当てたニーズ調査は多く,患者のニーズは発達段階に応じた情報提供(Belpame et al., 2016)やコミュニケーション(Olsson et al., 2015),治療環境の整備(Musiello et al., 2014)やピアサポート(Breuer et al., 2017)など多岐に渡る.一方,AYA世代がんは患者数が少なく診療科が多岐に分散しており,看護経験が蓄積されにくい現状がある(厚生労働省,2017).AYA世代がん患者に対する看護の実態調査では,AYA世代がん患者に対する患者の意思決定支援や妊孕性温存の関わりの難しさがあり(Vadaparampil et al., 2016),AYA世代がんや発達段階についての知識不足や看護実践への自信の欠如から教育的介入の必要性が指摘されている(Lester et al., 2014).以上より,AYA世代がん患者をケアする看護師はこの世代のがん患者との関わりに困難感を抱いていると推察され,看護師の困難感を軽減するための教育が必要であると考えられる.

また,AYA世代の中でも思春期青年期世代は,小児医療から成人医療への移行時期と重なるため,年齢に応じた看護の提供が課題とされている(Saloustros et al., 2017).さらに,この時期はアイデンティティを形成し,両親から自律しながら就学や就職などのライフイベントを迎える時期であり(Erikson, 1959/1973),このような成長発達の特徴を踏まえた関わりが必要である.一方,看護師が思春期青年期世代がん患者にどのようなケアを行い,またどのような学習ニーズを持っているのかが明らかにされていない.そこで本研究では,思春期青年期世代がん患者のケアを行う看護師を対象に,ケアの観点からみる困難感と学習ニーズを明らかにする必要があると考えた.それにより,思春期青年期がん患者をケアする看護師の困難感を軽減するための教育内容について検討する一助となると考えた.

Ⅱ. 目的

看護師が実践している思春期青年期世代がん患者に対するケアの観点からみる困難感と学習ニーズを明らかにすること.

Ⅲ. 用語の操作的定義

1.思春期青年期世代がん患者:15歳以上22歳未満でがんと診断された患者

2.新人から中堅の看護師:臨床経験が5年未満の看護師(Benner, 2001/2005

3.看護経験が豊富な看護師:がん領域における臨床経験が5年以上の看護師(Benner, 2001/2005

4.ケアの観点からみる困難感:がん患者に対して看護師が診断時や治療期,在宅療養や地域の医療機関との連携などを含めたケアを行う上で,困ったり難しいと感じていること(小野寺ら,2013濱田,2006

5.学習ニーズ:看護師が困難を解決するために必要な知識・技術・態度であり,学習経験により充足または獲得可能なもの(濱田・宮島,2007Knowles, 1980/2002, pp. 33–67)

Ⅳ. 方法

1. 研究デザイン

研究デザインは,質的記述的研究デザインにおける探索的研究とした.

2. 研究対象者

本研究は「新人から中堅の看護師を対象とするグループ1」と「看護経験が豊富な看護師を対象とするグループ2」に分けた.

1) グループ1の選定基準と除外基準

選定基準は,思春期青年期世代がん患者が入院する病棟または外来で働いており,かつ思春期青年期世代の患者が入院する病棟や外来での勤務年数が5年未満であること.除外基準は,思春期青年期世代がん患者への看護経験がない看護師であること.

2) グループ2の選定基準と除外基準

選定基準は,思春期青年期世代がん患者が入院する病棟や外来で働いている,または働いていた経験があること.さらに,思春期青年期世代がん患者が入院する病棟または通院する外来での勤務年数が5年以上あること.除外基準は,病棟または外来の管理者であること.

3. 対象者の募集およびデータ収集方法

調査期間は,2018年11月から2019年6月とし,地域がん診療連携拠点病院1施設で実施した.対象者の募集は,看護部長及び師長に研究内容を説明し,看護師が利用する休憩室内に研究ポスターの掲示,及び研究の説明内容を記載した資料を置き,自由に取っていただくようにした.研究参加の意思がある方に対して,研究者から研究内容の説明を文書と口頭で行い同意を得た.また,対象者の確保が難しかったため機縁法を用いた.データ収集方法は,Vaughnらのグループインタビューの技法に基づいて実施した(Vaughn et al., 1996/1999).思春期青年期世代がん患者の看護経験が少ない対象者にとって,個別インタビューでは困難感や学習ニーズについての回答が難しい可能性があると考え,この手法を選択した.フォーカスグループのメンバーは,研究目的に対する看護師の経験と実践レベルによる話題の共通性,グループメンバー同士の話しやすさを考慮してリクルートの段階で意図的に2つに分けた.またグループインタビューでは,5名程度が話しやすいと言われており,各グループに応募いただいた対象者の中で日程調整を行い,各グループをさらに2つのグループに分け,計4グループに1回ずつ同じ内容のインタビューを実施した.インタビューでは,思春期青年期世代がん患者と成人がん患者との違いを感じたことや,思春期青年期世代がん患者と関わる時の配慮,思春期青年期がん患者をケアする中で感じた難しさや課題について質問した.

4. 分析方法

分析は,インタビューから得られた生データを逐語録にし,研究の目的と関連する部分の情報を単位化した.さらに,類似する情報単位から困難感と学習ニーズについてサブカテゴリーとカテゴリーを生成し,意味内容の重複するカテゴリーがないか比較検討した.また,グループ間に内容の違いがみられたためグループごとに分析を進め,分析終了後ケアの観点からみる困難感と学習ニーズに関する各グループの特徴と類似性をまとめた.

5. 倫理的配慮

本研究は,北里大学看護学部研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2018-14-4).研究対象者には,研究の目的,研究参加による利益と不利益,研究参加同意後の撤回方法とそれによる不利益がないこと,試料と情報の保管方法,プライバシーと匿名性について個室で口頭と文書による説明を行い,書面で同意を得た.

Ⅴ. 結果

1. 新人から中堅の看護師(グループ1)の結果

研究対象者は,男性1名,女性6名の計7名であり,全員が20代であった.対象者の所属は血液内科病棟で看護経験年数は1から3年であった.看護経験がある思春期青年期世代がん患者数は1から5名で,全員が造血器腫瘍であった.研究対象者の属性は表1に示す.フォーカスグループインタビューは,3名と4名のグループで2回実施し,インタビューの平均時間は1時間29分であった.分析の結果,30のコード,15のサブカテゴリー,5のカテゴリーに収束した.カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,生データを「 」の記号で示す.生データの末語に( )で対象者の氏名を置き換えたアルファベットを記載した.コード,サブカテゴリー,カテゴリーは表2に示す.1)から3)が困難感のカテゴリーを,4)と5)は学習ニーズのカテゴリーを示す.

表1  研究対象者の属性(グループ1,グループ2)
コード番号(グループ1) A B C D E F G
性別 男性 女性 女性 女性 女性 女性 女性
年齢(年代) 20代 20代 20代 20代 20代 20代 20代
所有資格(専門看護師) なし なし なし なし なし なし なし
所有資格(認定看護師) なし なし なし なし なし なし なし
臨床経験年数(年) 3 1 1 1 2 3 3
思春期青年期世代がん患者への看護経験年数(年) 3 1 1 1 2 3 3
思春期青年期世代がん患者への看護経験人数(人) 4 3 1 3 2 5 4
勤務経験がある病棟 血液内科病棟 血液内科病棟 血液内科病棟 血液内科病棟 血液内科病棟 血液内科病棟 血液内科病棟
看護経験のある思春期青年期世代患者の主ながんの種類 造血器 造血器 造血器 造血器 造血器 造血器 造血器
コード番号(グループ2) H I J K L M N O
性別 女性 女性 女性 女性 女性 女性 女性 女性
年齢(年代) 50代 30代 20代 20代 40代 40代 40代 20代
所有資格(専門看護師) がん看護 なし なし なし なし 家族支援 なし なし
所有資格(認定看護師) 皮膚・排泄ケア なし なし なし なし なし なし なし
臨床経験年数(年) 32 8 6 5 22 25 21 6
思春期青年期世代がん患者への看護経験年数(年) 無回答 8 6 5 14 24 17 6
思春期青年期世代がん患者への看護経験人数(人) 無回答 5 10 10 10 10 7 15
勤務経験がある病棟 心臓血管/循環器病棟
消化器外科病棟
院内で横断的に活動
血液内科病棟 血液内科病棟 血液内科病棟 精神科病棟
消化器外科病棟
小児科病棟
救急病棟
呼吸器病棟
混合病棟
クリニック
相談支援室
血液内科病棟
内科外来
医療安全室
血液内科病棟
看護経験のある思春期青年期世代患者の主ながんの種類 造血器,消化器 造血器 造血器 造血器 造血器,消化器
骨軟部
造血器,呼吸器
脳/中枢神経
造血器,消化器 造血器
表2  各グループの「ケアの観点からみる困難感」と「学習ニーズ」のサブカテゴリーとカテゴリー
カテゴリー サブカテゴリー
グループ1 ケアの観点からみる困難感 捉えどころのない患者との距離感への戸惑い 思春期青年期世代の様相に対する疑問
疎まれる懸念と責務の葛藤による声かけのためらい
話す機会が少ない同世代患者との距離感を探る難しさ
会話の糸口が見つからないことへの困惑
将来ある患者への見当もつかないケア 将来を失望する患者への見当もつかないケア
同世代患者と妊孕性温存を話題にする気まずさ
妊孕性温存への不確かな役割認識
ボディイメージの変化を悲観する患者ケアへの困惑
心情を計り知れない患者家族との関わり 経験不足による患者家族の心情を理解する難しさ
両親の厳しい態度によりすり減る神経
学習ニーズ 思春期青年期世代がん患者のケアに必要な知識 思春期青年期世代がん患者の特徴と関わり方
妊孕性温存の適応となる患者ケアの知識
アピアランスケアの知識
経験不足を補う他者の実践や体験からの学び 認定看護師と専門看護師のケアの意図と実践内容
患者家族の本音に触れる体験談
グループ2 ケアの観点からみる困難感 自律過程にある患者との関わりへの憂慮 意思決定の主体性が尊重されないもどかしさ
感情が急に切り替わる患者と関わる緊張感や戸惑い
成人病棟で見慣れない患者に対する身構え
患者との会話のキャッチボールの難しさ
希望を見いだせない患者に寄り添う難しさ 妊孕性温存についての話しにくさ
ボディイメージの変化と向き合う患者への言葉選択の悩み
将来を悲観する患者が大事にすることを探る難しさ
長期的なサバイバー支援の難しさ 思春期青年期世代がん患者への就労支援の難しさ
長期フォローアップ体制の不十分さ
患者を取り巻く家族との関わりへの戸惑い なりふり構わず感情を表出する両親との関わり
年下のきょうだいを傷つけないことへの配慮
情報共有不足による患者家族との関わりへのためらい
学習ニーズ 思春期青年期世代がん患者のケアに必要な知識 思春期青年期世代がん患者の特徴と関わり方
学校教育で行われるがん教育の内容
晩期合併症の影響
妊孕性温存の知識
患者が利用できる社会的サポート資源の知識 患者が正しいがんの情報にアクセスする手段
数少ない利用可能な社会保障制度の情報
患者がピアサポートを受けられる環境

1) 【捉えどころのない患者との距離感への戸惑い】

新人から中堅の看護師は〈思春期青年期世代の様相に対する疑問〉を抱いており,〈会話の糸口が見つからないことに[への]困惑〉していた.また,〈疎まれる懸念と責務の葛藤による声かけのためらい〉を感じながら,〈話す機会が少ない同世代患者との距離感を探る難しさ〉を感じていた.

対象者の語り「I.Cがされてるのに全然薬飲まなかったりとか,本人から(病気のことを)聞いてこなかったりするのを,何でだろうというか,すごい不安じゃないのかなって.(D)」,「友達にならないようにとは思うんですけど.でも,ずっと敬語で体調のことしか聞かないのも違うかなって思うので.(E)」

2) 【将来ある患者への見当もつかないケア】

新人から中堅の看護師は,〈妊孕性温存への不確かな役割認識〉があるだけでなく〈同世代患者と妊孕性温存を話題にする気まずさ〉を感じていた.また,〈ボディイメージの変化を悲観する患者ケアへの困惑〉があり,〈将来を失望する患者への[見当もつかない]ケア〉として何をすればよいかわからないと感じていた.

対象者の語り:「本人(患者)に(採精を)してもらうんですけど,大丈夫?できそうですか?って言って.(中略)でも,(妊孕性温存の関わりについて)何が正解かも分からない.(F)」,「就職駄目になりましたとか休学になりましたとか,この年代に独特のこと,ぶち当たる壁に何すればいいのか分からなくて.(A)」

3) 【心情を計り知れない患者家族との関わり】

新人から中堅の看護師は,病状説明に同席したことがなく〈経験不足による患者家族の心情を理解する難しさ〉を感じていた.また,両親の信頼を得られず関わりに戸惑い〈両親の厳しい態度により[すり減る神経]〉神経をすり減らしていた.

対象者の語り:「患者と家族がどういう印象を受けてたか全く分からなかったが,ICに入るようになって,文字で起こしにくい感情とか表情で見ると,関わり方とか意識も変わりました.(A)」,「(母親に自分のケアを)全部見られてるんじゃないかって.後ろめたくて,なかなか足が運べなかった.(G)」

4) 【思春期青年期世代がん患者のケアに必要な知識】

新人から中堅の看護師は,患者のケアに必要な〈思春期青年期世代がん患者の特徴と関わり方〉,〈妊孕性温存の適応となる患者ケアの知識〉,〈アピアランスケアの知識〉の学習ニーズがあった.

対象者の語り:「思春期ってどう(いうこと)って.(G)」,「(妊孕性温存に関して)婦人科に依頼した後,どういうフォローアップが必要なのか知識がないので勉強会は参加したい.(A)」,「アピアランスケアの情報(ウィッグや抗がん剤治療中に使える化粧品)をもっと伝えたりとか必要.(中略)課題かな.(G)」

5) 【経験不足を補う他者の実践や体験からの学び】

新人から中堅の看護師は,経験不足を補うために〈患者家族の本音に触れる体験談〉や〈認定看護師と専門看護師のケアの意図と実践内容〉を知りたいという学習ニーズがあった.

対象者の語り:「思春期青年期世代のがん患者ともっと関わってる看護師(認定看護師や専門看護師)が,どういうことに気を付けてケアをしてるのか知りたい.(G)」,「(患者の)思いを,いろんな場面とか話が聞けたら.入院で入ってこられた時,診断を受けた時,病気に対しての気持ちとか.(A)」

2. 経験豊富な看護師(グループ2)の結果

研究対象者は8名で全員が女性であり,年齢は20代と40代が各3名,30代と50代が各1名であった.対象者の臨床経験年数は5から32年であり,思春期青年期世代がん患者に対する看護経験年数は5から24年で,その間の患者数は5から15名であった.研究対象者の属性は表1に示す.フォーカスグループインタビューは,1グループ4名で2回実施し,インタビューの平均時間は1時間22分であった.分析の結果,34のコード,19のサブカテゴリー,6のカテゴリーに収束した.コード,サブカテゴリー,カテゴリーは表2に示す.1)から4)のカテゴリーが困難感のカテゴリーを,5)と6)のカテゴリーが学習ニーズのカテゴリーを示す.

1) 【自律過程にある患者との関わりへの憂慮】

経験が豊富な看護師は,自己表出が苦手な患者の〈意思決定の主体性が尊重されないもどかしさ〉を抱きながら,〈患者との会話のキャッチボールの難しさ〉や〈感情が急に切り替わる患者と関わる緊張感や戸惑い〉を感じていた.またこのような経験から,思春期青年期世代に対する先入観を抱き〈成人病棟で見慣れない患者に対して[する]身構え〉ていた.

対象者の語り:「(治療や病状を医師が)まず親に言ってから,どうやって伝えるかを2人で考えていく,そんな流れが臨床にはある.(H)」,「成人の患者さんだったら1つ聞くと深まり,多くを語ってくれる.だけど10代20代は,これどう?って聞いたら“普通.大丈夫”とか.(N)」,「思春期青年期がん患者さんは,折り合いを付けるとかじゃなくて,(感情を隠さないで)そのままだから.いつが本人のタイミングなのか見極めができなかった.(L)」

2) 【希望を見いだせない患者に寄り添う難しさ】

経験豊富な看護師は,〈ボディイメージの変化と向き合う患者への言葉選択の悩み〉や〈妊孕性温存についての話しにくさ〉を感じていた.また,将来を悲観する患者の思いを探ることで,治療で失った将来への夢や希望に気づかせてしまう〈将来を悲観する患者が大事にすることを探る難しさ〉を抱いていた.

対象者の語り:「髪の毛が抜け始めてから,どういう言葉掛けがいいのか悩みがあった.(J)」,「こう生きたいとか子どもの成長を見届けたいとか(学校や将来の夢も)絶対に思っているだろうなっていう中で病状が悪くなって,どう過ごしたいですかっていうのはちょっと難しい.(J)」

3) 【長期的なサバイバー支援の難しさ】

経験豊富な看護師は,治療終了後の〈思春期青年期世代がん患者への就労支援の難しさ〉や,晩期合併症に対応するための〈長期フォローアップ体制の不十分さ〉から,将来を見据えたケアが難しいと感じていた.

対象者の語り:「治療後に晩期合併症が結構出てくる.(中略)この世代だからこそ治療による二次性のがんが起こってくる.長い期間サバイバーを支援していく体制が必要,課題だと思います.(H)」,「思春期の患者だと就職がもうなくって.(中略)ハローワークで雇用をお願いはするけど結構厳しい.(M)」

4) 【患者を取り巻く家族との関わりへの戸惑い】

経験豊富な看護師は〈年下のきょうだいを傷つけないことへの配慮〉をする一方で,医療者間の〈情報共有不足による患者家族との関わりへのためらい〉があり,子どもが気がかりで〈なりふり構わず感情を表出する両親との関わり〉に難しさを感じていた.

対象者の語り「きょうだいに影響を与えてしまうのはすごく考えます.(M)」,「そこ(両親と患者の情報量の乖離)が見えてないと,看護師もどこまで突っ込んでいいか.(中略)踏みとどまる時もあって.(L)」

5) 【思春期青年期世代がん患者のケアに必要な知識】

経験豊富な看護師は,〈思春期青年期世代がん患者の特徴と関わり方〉や,患者との関わりに活かす〈学校教育で行われるがん教育の内容〉,ケアに必要な〈妊孕性温存の知識〉や〈晩期合併症の影響〉の知識を求めていた.

対象者の語り:「思春期青年期世代はこういう特徴があって,関わり方はこういうのがベストですよ,みたいなものがあると臨床の場でも活かせる.(J)」,「(小中高校生へのがん教育について)現状,どうなっているのか,臨床にいる私たちには,(どこまで教育されているのか)なかなか分かりにくい.(H)」

6) 【患者が利用できる社会的サポート資源の知識】

経験豊富な看護師は,〈患者が正しいがんの情報にアクセスする手段〉や,思春期青年期世代の〈数少ない利用可能な社会保障制度の情報〉,〈患者がピアサポートを受けられる環境〉といった患者が利用可能な支援の知識を求めていた.

対象者の語り:「(社会保障制度について)若い方たち(患者)に使えるような,こういうのがありますよみたいなのが分かればありがたい.(I)」,「思ってることや経験を話し合ったり共感し合える場所があると,いい影響があると思った.(中略)(同世代の患者同士で)語り合える場所を紹介できるといい.(O)」

3. ケアの観点からみる困難感と学習ニーズに関する各グループの特徴と類似性

グループ1とグループ2に類似するカテゴリーとサブカテゴリーの意味内容の比較から,ケアの観点からみる困難感と学習ニーズの特徴と類似性が明らかになった(図1).意味内容が類似するサブカテゴリーは点線で囲んで示した.

図1 

ケアの観点からみる困難感と学習ニーズに関する各グループの特徴と類似性

1) ケアの観点からみる困難感の特徴と類似性

新人から中堅の看護師の【捉えどころのない患者との距離感への戸惑い】と経験豊富な看護師の【自律過程にある患者との関わりへの憂慮】は,思春期青年期世代がん患者との関わりへの不安の点で類似していた.しかし,新人から中堅の看護師はケア経験が少なく患者との関わり方に戸惑い漠然とした不安を抱いていることに対して,経験豊富な看護師は過去のケア経験から生じる不安が関わりへの憂慮になっている点で違いがみられた.

新人から中堅の看護師の【将来ある患者への見当もつかないケア】と経験豊富な看護師の【希望を見いだせない患者に寄り添う難しさ】は,思春期青年期世代がん患者に対する将来を見据えたケアの不確かさという点で類似していた.しかし,新人から中堅の看護師が,将来ある患者に対して漠然としたケアの難しさを感じていることに対して,経験豊富な看護師は何が患者の将来への希望となるか探ろうと意識的に関わる中で,そのケアが上手くいかないことに困難感を抱いていた.一方,【長期的なサバイバー支援の難しさ】は,病棟だけでなく外来で患者と関わる機会が多い経験豊富な看護師に特徴的な困難感であった.

新人から中堅の看護師の【心情を計り知れない患者家族との関わり】と経験豊富な看護師の【患者を取り巻く家族との関わりへの戸惑い】は,患者家族との関わりへの戸惑いという点で類似していた.しかし,新人から中堅の看護師は,経験不足により家族の心情理解が難しく,両親との関わりに困難さを抱いていることに対して,経験豊富な看護師は,患者だけでなく両親やきょうだいへの配慮の必要性を感じ,関わりに躊躇するという違いがあった.

2) 学習ニーズの特徴と類似性

新人から中堅の看護師と経験豊富な看護師の学習ニーズについて,両グループに共通する【思春期青年期世代がん患者のケアに必要な知識】のカテゴリーが生成された.一方,新人から中堅の看護師の【経験不足を補う他者の実践や体験からの学び】と経験豊富な看護師の【患者が利用できる社会的サポート資源の知識】は,各グループに特徴的な学習ニーズであった.

Ⅵ. 考察

1. 思春期青年期世代がん患者に特有なケアの難しさ

新人から中堅の看護師と経験豊富な看護師は,思春期青年期世代がん患者と関わる不安感や将来を見据えたケアの不確かさという点で類似した困難感を抱きながらも,各々に異なる特徴がみられた.新人から中堅の看護師は,がんと診断された不安を表出せず,治療に取り組むことが難しい思春期青年期世代の様相に対する疑問を抱いていた.思春期青年期は,自己承認の欲求が強く,それが承認されないと自己の中に閉じこもり守ろうとする特徴がある(丸,1968/2015).新人から中堅の看護師が抱く疑問には,このような社会性の発達過程にあり,言葉による自己表出を苦手とする思春期青年期世代の特徴の理解不足によるものと考えられた.

一方で,経験豊富な看護師は,思春期青年期世代の患者の特徴を理解しながらも,感情が急に切り替わる患者との関わりに緊張感や戸惑いを抱いており,過去のケア経験から生じる不安が関わりへの憂慮になっていた.感情が急に切り替わる思春期青年期世代がん患者の様子は,思春期青年期に特有な自律への不安や親への依存と拒否感情の混在,アンビバレントな感情に加えて,がんと診断されたことによる将来への不安や失望,怒りから生じるものであると考えられる.先行研究では,看護師の臨床経験不足がAYA世代がん特有の問題や発達段階の知識不足,看護実践の自信不足を引き起こす要因になるとされる(Thompson et al., 2013).しかし,臨床経験の少ない新人から中堅の看護師だけでなく,経験豊富な看護師も過去の経験から生じる不安により看護実践の自信を失っており,思春期青年期世代との関わりへの憂慮があると考えられた.

また,経験豊富な看護師は,患者の将来の希望を探ろうと意識的に関わる中で,そのケアが上手くいかないことに困難感を抱いていた.思春期青年期世代がん患者は自分の将来に悩んでおり,悩み事の焦点は年代や社会的背景に応じて変化することが明らかにされている(清水・小澤,2017).そのため,病気により夢や希望を失った思春期青年期世代がん患者との関わりは非常に難しいと推察される.看護経験が豊富な看護師が抱く困難感は,患者の将来の夢や希望を支えようとする視点を持っているからこそ生じたものであると考えられた.

2. 思春期青年期世代がん患者をケアする看護師の学習ニーズ

新人から中堅の看護師は,ケア経験が少ない患者との距離感やコミュニケーションの戸惑い,妊孕性温存への不確かな役割認識があり,経験豊富な看護師は,成人病棟で見慣れない患者に対する身構えや妊孕性の問題について話しにくさを感じていた.この困難感に対して,新人から中堅の看護師と経験豊富な看護師は,思春期青年期世代がん患者の特徴と関わり方,妊孕性温存の知識についての共通した学習ニーズを持っていることが明らかになった.先行研究では,医療従事者の思春期青年期世代がん患者の発達段階に応じたコミュニケーション能力不足や(Olsson et al., 2015),妊孕性温存に関する看護師の知識不足が指摘されている(King et al., 2008).本研究で明らかになったこれらの学習ニーズは,先行研究で指摘されている看護師の知識や能力不足と合致する.そのため,思春期青年期世代がん患者をケアする看護師の学習ニーズを満たすことで,この世代のがん患者のケアへのニーズに応えることができると考えられた.

一方で,新人から中堅の看護師はアピアランスケアの知識を,経験豊富な看護師は晩期合併症の影響や学校教育で行われるがん教育の内容,社会的なサポート資源についての知識を求めており,両者には異なる学習ニーズがあった.特に,新人から中堅の看護師の学習ニーズには,このような知識に関するものだけでなく,専門看護師のケアの意図と実践内容や,患者家族の本音に触れる体験談があることが明らかになった.これらは,経験不足による患者と関わることへの漠然とした不安や家族の心情理解の難しさと関連していると推察される.本研究では,看護師の経験に応じた学習ニーズの違いが明らかになり,新人から中堅の看護師の学習ニーズは,臨床現場で実践を積みにくい思春期青年期世代がん患者をケアする看護師に特有なものであると考えられた.

Ⅶ. 研究の限界と今後の課題

本研究では,思春期青年期世代がん患者の希少さから看護経験を有する看護師が少なく,研究対象者リクルートが非常に困難であり新たなカテゴリーが生成されないことの確認まで至らなかった.また,新人から中堅の看護師を対象としたグループの看護経験がある疾患の種類に偏りがあり,対象とした集団全体を反映しているとはいえない.今後の課題は,思春期青年期世代がん患者の看護に携わる多施設の看護師を対象にインタビュー調査を継続し,困難感や学習ニーズを広く検討することである.

Ⅷ. 結論

思春期青年期世代がん患者をケアする新人から中堅の看護師は,【捉えどころのない患者との距離感への戸惑い】,【将来ある患者への見当もつかないケア】,【心情を計り知れない患者家族との関わり】について困難感を抱いていた.これに対して,【思春期青年期世代がん患者のケアに必要な知識】と【経験不足を補う他者の実践や体験からの学び】についての学習ニーズがあった.また,思春期青年期世代がん患者の看護経験が豊富な看護師は,【自律過程にある患者との関わりへの憂慮】,【希望を見いだせない患者に寄り添う難しさ】,【長期的なサバイバー支援の難しさ】,【患者を取り巻く家族との関わりへの戸惑い】について困難感を抱いていた.これに対して,【思春期青年期世代がん患者のケアに必要な知識】と【患者が利用できる社会的サポート資源の知識】の学習ニーズがあった.

付記:本研究は北里大学大学院看護学研究科博士後期課程で提出した博士論文の一部に加筆・修正したものであり,第40回日本看護科学学会学術集会にて発表した.

謝辞:本研究の遂行にあたり,ご協力いただいた研究対象者の皆様に心よりお礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MKは,研究のデザインからデータの収集と分析,および論文の執筆を行った.HKは,研究全体の指導を行った.すべての著者は,最終的に原稿を読み,了承した.

文献
 
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