2020 Volume 29 Issue 1 Pages 33-41
本研究の目的は,新人看護師に対して自己効力感向上集団CBT介入を行うことで,介入前後の自己効力感,レジリエンス,認知とストレス反応に変化があるかを検証することである.新人看護師9名を対象に,全4回で構成する介入プログラムを実施した.実施前,実施直後,実施1ヶ月後に,一般性セルフ・エフィカシー尺度,看護師レジリエンス尺度,推論の誤り尺度を用いて自記式質問紙で測定した.プログラム毎回の実施前後に唾液アミラーゼを測定した.統計解析は一元配置線形混合モデルを用い効果量を算出した.結果,新人看護師を対象にした自己効力感向上集団CBT介入は,「行動の積極性」「能力の社会的位置づけ」の自己効力感ならびにレジリエンスを向上させる可能性があると示唆された.また,集団で行うCBT介入は,聴き手に負担がかかる可能性があることから,リラックス効果を得るために,セッション終了後にアイスブレイクを設ける必要性が示唆された.
An intervention shown to be effective at reducing the intention to quit one’s job and preventing poor mental health in new nurses is needed. The objective of this research was to elucidate whether there were changes in self-efficacy, resilience, cognition and stress response after a group CBT intervention for improving self-efficacy in new nurses. An intervention program comprising a total of 4 sessions was implemented with 9 new nurses. Measurements were made via self-report questionnaires, namely the General Self-Efficacy Scale, the Resilience Scale for Nurses, and the Thinking Error Scale. These measures were administered before the intervention, immediately after the intervention, and one month after the intervention. Salivary amylase levels were measured before and after the implementation of each program session. To assess the magnitude of the intervention’s effect, the effect size was calculated using a one-way linear mixed model. The results suggested that a group CBT intervention for improving self-efficacy may improve the aspects of “proactive behavior” and “social positioning of ability” of self-efficacy as well as resilience in new nurses. Further, in the context of CBT interventions carried out in groups, we suggest the use of an ice breaker at the end of each session in order to relax participants, as listeners may feel stressed.
新人看護師の離職率は,7.8%(社団法人日本看護協会広報部,2016)と高く,新人看護師の半数が離職を考えたが思い止まった体験をしている(田島,2012).このことから,新人看護師の離職要因を探索し,離職防止目的の支援を講じることは重要である.
新人看護師の離職要因の一つは,リアリティショックである(内野・島田,2015).リアリティショックは,職場の人間関係,看護実践能力,精神的要因,身体的要因,業務の多忙さと待遇,業務への責任感などがその構成因子である.特に,精神的要因と看護実践能力のショックが大きい(平賀・布施,2007).また,新人看護師の看護実践能力の自己評価と離職意思は負の相関関係にある(高瀬ら,2014).これは,新人看護師が,自分の看護実践能力を過少評価し自己効力感を低下させ,結果として離職意思に繋がる一つの要因と予測される.さらに,自己効力感は自尊心と密接に関連する(山内,1991)ため,同時に自尊心の低下を招き,就業意欲を低下させる(藤田・菊池・助川,1997).これらより,新人看護師は看護実践能力を向上させる過程で,自己効力感が低下し自尊心が低下すると,離職を考える可能性がある.加えて,自己効力感とリアリティショックの間に負の相関関係がある(野木・坂本,2006)ことから,自己効力感が低いと離職要因であるリアリティショックが高まり,離職に結びつく可能性がある.
これら離職要因のいずれにも,新人看護師の認知(考え方)のありようが影響する.新人看護師がバランスのとれた認知を有し,看護実践能力を適切に自己評価することで自己効力感を低下させないこと,自分の入職後の成長や長所に気づくことが離職防止に向けた課題である.この課題を達成するために,自己効力感の向上につながる内容を盛り込んだ認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy:以下,CBT)介入が有効ではないかと仮定した.
集団CBT介入を看護師に実践した文献を検討した結果,新人看護師の状態不安が低下した研究(東ら,2012),女性看護師(一般病棟勤務)の無気力が低下した研究(畑山ら,2011),精神科看護師の「緊張―不安」「抑うつ―落ち込み」「怒り―敵意」に改善効果があった研究(香月ら,2013)が確認できた.看護師を対象にCBT介入を行い,自己効力感の変化を評価した研究や自己効力感向上を目的にCBT介入を行った国内での研究はみられない.看護師を対象に実践した集団CBT介入の評価に生理学的指標を用いた研究もみられなかった.看護実践能力の自己効力感と離職は関連があると推察できることから,離職防止を見据えて自己効力感に焦点をあてた集団CBT介入を行うことは意義深い.実際,集団CBT介入の利点として,苦痛体験は自分だけでないことに気づくことで認知を修正し,改善の動機付けを高めることが指摘されている(集団認知行動療法研究会,2011).
新人看護師が,自己効力感の向上をめざした集団CBT介入(以下,自己効力感向上集団CBT介入)を経験することは,看護実践能力に対するバランスのとれた考え方ができ,メンタルヘルス不調の予防や離職意思の緩和に効果を発揮することが期待できる.
目的は,新人看護師に対して自己効力感向上集団CBT介入を行うことで,介入前後の自己効力感,レジリエンス,認知とストレス反応に変化があるかを検証することである.
1群事前-事後テストデザインである.
2. 研究期間2017年1月~2017年6月であった.
3. 対象者の選定対象者の募集は,A総合病院に協力依頼し,新人看護師45名に対し看護部長を通じて研究協力者募集チラシを配布した.A総合病院は,531床,17看護単位を有し,7対1入院基本料の施設基準を満たす.また,パートナー・ナーシング・システムを採用している.
対象者の選定基準は,看護系学校を卒業後1年以内であること,2016年4月1日以降にA総合病院看護師として勤務している者,パートナーシップ指導者から支援を受けている者,自らの意思で研究参加を希望した者,の全てを満たした者を対象者とした.
除外基準は,看護系学校卒業後1年以上経過している者,A総合病院以外で看護師の勤務経験を有する者とした.
4. 介入内容と方法回 | 中心テーマ | 介入内容 |
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1回目 | 1)お互いのことを知ろう | ①参加者間で自己紹介を行い,自由に語り合う時間を設け,互いの信頼関係を築くことやこの場は参加者誰もが自由に発言できる機会である雰囲気を作る ②プログラムにおける参加者間の約束事を作成する |
2)自分の体験を眺め,考え方を広げよう | ①ものの考え方や行動が気分や身体反応と関係していることについて,配布資料を用いて心理教育を行う ②仕事上の実体験を認知行動療法モデルにあてはめ,グループで行う認知再構成法のデモンストレーションを行う ③セッションを通して学んだことや感想を話し合い,フィードバックを行い,次回までのホームワークを設定する |
|
2回目 3回目 |
3)みんなで自分の考え方を広げよう | ①参加者の近況を確認し,プログラムにおける参加者間の約束事を確認する ②グループメンバーで協力して認知再構成法を実施し,実際の仕事上の体験について話し合い,語り手自身のものの見方や考え方の傾向への気づきを促す ③セッションを通して学んだことや感想を話し合い,フィードバックを行い,次回までのホームワークを設定する |
4回目 | 4)自分や相手の強みを探そう | ①参加者の近況を確認し,プログラムにおける参加者間の約束事を確認する ②ストレングスシートを用いて,参加者が自身の持つ長所や資源を可能な限り可視化し,他の参加者がさらに追加する |
5)看護師である自分の成長を認め,目標を立てよう | ①入職時期と比べて出来るようになったことやこれまで頑張ってきたこと,今後の看護師としての具体的な目標を話し合う ②プログラムを通して学んだことや感想を話し合い,フィードバックを行う |
※セッション1・2・3回目で自分の体験の認知再構成を実施.1回目の後半,2回目の前半と後半,3回目の前半と後半にそれぞれ1人ずつ発表者を割り当て,残りの参加者は聴き手となる.
介入内容として,4回のセッションで構成する自己効力感向上集団CBTプログラム(以下,プログラム)を作成した.プログラムの基盤となる理論は,認知行動理論である.CBTは,認知行動理論に基づき様々な状況でその時々に自動的に沸き起こってくる思考やイメージに焦点を当て,認知の偏りを修復し問題解決を手助けする精神療法である.プログラムは,「うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル(厚生労働省,2010)」と自尊心回復グループ認知行動療法である「自分を好きになるためのワークブック(國方,2013)」を参考に作成した.プログラムは,(1)CBTの概要説明(1回目)(2)自分の体験を認知再構成(1~3回目)(3)自分のもつ能力や資源,役割を探す.入職時と現在の比較ならびに今後の目標をリストアップ(4回目)の4回セッションで構成し,実施マニュアルを作成した.自分の体験とは,対象者が看護業務中に印象に残った体験とした.認知再構成を実施する際,1回目の後半,2~3回目の前半と後半にそれぞれ1人ずつ発表者を割り当て,残りの対象者は聴き手となった.また,対象者毎にノートを作成し,ソクラテス式質問や他の対象者からの意見を反証に用いながら,対象者のノートを各自が完成させた.その際,ホワイトボードを使用し,グループ全員で具体的に考え,よりバランスのとれた思考に置き換えられるように介入した.4回目では,参加者の長所を意識化することを目的に,参加者それぞれが持つ能力,役割,社会関係,資源をノートに書き出してもらった.さらに,それを参加者間で共有し,他の参加者が見つけた他の長所を発表してもらい,互いに付け足しあった.つまり,その人が元来持っている強さに注目し,それを引き出して今後の活用につなげた.
毎回のセッションの構造は以下の通りとした.第一に,「セッション中に話したことは他言しない」,「他者の話を否定しない」等のルールの確認とホームワークの確認ならびに対象者個人の近況報告をした.第二に,セッション内容の展開をした.第三に,セッションでの学びを共有した.第四に,セッションの要約とフィードバックならびにホームワークの提示を行い終了とした.
毎回のセッションは60分間とした.1セッションは同じ部署に配属していない者同士5名とし,セッション実施間隔は2週間毎とした.介入実施場所は,A総合病院内で対象者のプライバシーが確保できる個室とした.介入者は,いずれも院外に所属する筆頭研究者とCBT介入の実績を有する研究者1名計2名とし,全セッションに2名が出席した.
なお,筆頭研究者は,約10年間のCBT介入実績を有する上記研究者1名から講義と演習でのスーパーバイズを受けた後に介入した.
5. アウトカム指標の内容と測定手順アウトカム指標には,心理学的指標と生理学的指標を用いた.心理学的指標は,プライマリーアウトカムとして自己効力感,セカンダリーアウトカムとしてレジリエンス(困難を乗り越える力),認知の偏りを測定した.新人看護師が日々の仕事上の体験で生じる困難を乗り越える力を持っていれば離職のリスクは低くなると考え,レジリエンスをアウトカム指標とした.一般性セルフ・エフィカシーがストレス反応全般に,一様ではないが異なった種類や強さで影響を及ぼしている(牧野・山田,2001).そこで,ストレス指標として唾液アミラーゼ活性値を測定した.
自己効力感の測定は,16項目からなる一般性セルフ・エフィカシー尺度(坂野・東條,1986:以下,GSES)を用いた.GSESは,「行動の積極性」「失敗に対する不安」「能力の社会的位置づけ」の3下位尺度をもつ.評価は,2件法で行い(範囲16~32点),「行動の積極性」と「能力の社会的位置づけ」は高得点ほど,「失敗に対する不安」は低得点ほど自己効力感が高いことを示す.本尺度の信頼性と妥当性は確認されている(坂野,1989).
レジリエンスは,22項目からなる看護師レジリエンス尺度(井原ら,2009)で測定した.本尺度は,「肯定的な看護への取り組み」「対人スキル」「プライベートでの支持の存在」「新奇性対応力」の4下位尺度からなる.5件法で回答を求め(範囲22~110点),全ての下位尺度は,低得点であるほどレジリエンスが高い(困難を乗り越える力を獲得している)ことを示す.本尺度の信頼性と妥当性の確認は終了している(井原ら,2009).
認知の偏りは,丹野ら(1998)の推論の誤り尺度(以下,TES)を用いた.TESは,19項目からなる認知の誤りを測定する尺度である.「恣意的推論」「選択的注目」「過度の一般化」「拡大解釈と過小評価」「個人化」「完全主義的・二分主義的思考」の6下位尺度から構成される.回答は4件法で求め(範囲19~76点),低得点ほど認知の誤り程度が小さいことを示す.本尺度の信頼性と妥当性は作者らにより確認されている.
以上の心理学的指標のデータ収集は,自記式質問紙を用い,ベースライン期としてプログラム実施1週間前(T0),介入期としてプログラム終了直後(T1),フォローアップ期としてプログラム終了1ヵ月後(T2)に測定した.
生理学的指標として測定した唾液アミラーゼは,交感神経-副腎髄質系,すなわちノルエピネフリンの制御を受けていることが判っており(Groza, Zamfir, & Lungu, 1971),分泌によって直接神経作用による制御系統も存在する.つまり,唾液アミラーゼはストレスを受けることによって,交感神経系に作用するホルモンの一つとして分泌される(Yamaguchi et al., 2006).そこで今回,プログラム参加により唾液アミラーゼ活性値がどのように変化するかを調べた.
唾液は,毎回のセッションの開始直前と終了直後の2回,計8回採取した.唾液採取法は採取の綿とチューブがセットになったサリペット(Salivette, Sarstedt Inc., Nümbrecht, Germany)を用いた.口腔内に綿をいれ,1分~2分間咀嚼し唾液を含みこませた後,綿をチューブに戻し冷蔵保存した.採取した唾液は15分間遠心分離した後,生化学自動分析装置(TBA120FR・NEO:キャノンメディカルシステムズ(株))を使用し,200倍に自動希釈後,日本臨床化学会勧告方法(エチリデンG7-pNP法:シノテスト(株))にて正確にアミラーゼ活性を測定した.
その他,基本属性として性別と年齢を聞いた.各セッションにおいて,セッション内容を展開後に,参加者から語られた感想や学びを収集しメモとして残した.
6. 分析方法心理学的指標は,線型混合モデル分析(一元配置)を用い,T0とT1,T0とT2の間におけるアウトカム指標の平均値の差の検定を行った.その際,主効果の比較はBonferroniの修正による多重比較を用いた.有意確率は5%未満とした.加えて,標準化された効果量(ES,Cohen’s d)を算出した.効果量の目安は,小(.20~.49),中(.50~.79),大(≧.80)とした.
唾液アミラーゼ活性値は,毎セッション開始直前とセッション終了直後の平均値を対応のあるt検定を用いて分析し効果量も算出した.また,自分の体験を認知再構成する(1~3回目)セッションで,体験を発表する者(以下,発表者)とその体験を聴く者(以下,聴き手)による唾液アミラーゼ活性値の差を検討した.さらに,自分の体験を認知再構成する(1~3回目)セッションで,セッションの前半は聴き手となり後半で発表する者(以下,後半発表者)と前半で発表し後半で聴き手となる(以下,前半発表者)の唾液アミラーゼ活性値の差を検討した.
統計ソフトは,IBM SPSS Statistics Ver. 23を用いた.
なお,心理学的指標のデータ分析には,全ての質問項目に回答があった対象者(n = 8)を,生理学的指標の分析には,全てのセッションに参加した対象者(n = 9)のデータを用いた.
各セッションで語られた参加者の感想や学びの発言を,研究者が筆記し,研究者2名で類似の内容に分類した.
研究のフローチャートを図1に示す.
フローチャート
本研究は,B大学倫理審査委員会(承認番号166)とA総合病院倫理審査委員会の承認を得て実施した.
対象者に,書面と口頭で研究内容を説明し,同意書を得た.その際,研究目的と方法,研究参加は自由意思であること,不参加でも不利益は発生しないこと,個人情報とデータの保護方法,プログラム参加に伴う時間的負担及び自分の体験を想起する心理的負担が生じる可能性があることを説明した.
対象者が記入した質問紙とノートは無記名とし,データは特定できないように連結可能な匿名化を行いプライバシーの保護をした.
A総合病院新人看護師45名のうち10名から研究への参加同意書が得られた.そのうち1名はプログラム実施期間中に同意撤回し脱落したため,全プログラムに参加した9名の生理学的指標データと,質問紙の全てに回答が得られた8名の心理学的指標データを分析対象とした.
対象者のうち男性は1名であり,生理学的及び心理学的指標データが含まれた.年齢は21歳から31歳で,平均年齢は23.6歳(SD = 3.0)であった.
2. アウトカム指標の分析 1) プライマリーアウトカムの変化GSESの得点変化において,全ての下位尺度の平均値は,T0とT1,T0とT2の間に有意差がなかった.しかし,「行動の積極性」のT1の平均値はT0と比較して高得点となり,小の効果量があった(ES = .23).T2はT1よりもさらに高得点となり,効果量も大きくなった(ES = .49).「能力の社会的位置づけ」におけるT1の平均値はT0より高得点となり,中程度の効果量があり(ES = .78),T2ではさらに効果量が大きくなった(ES = .86).つまり,「行動の積極性」と「能力の社会的位置づけ」の得点はプログラム終了後も時間経過とともに上昇し,正の効果量も大きくなった.
測定 尺度 |
下位尺度 | プログラム実施前:T0 | プログラム終了直後:T1 | プログラム終了1ヶ月後:T2 | ||||||||
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Mean ± SE | Mean ± SE | p値 | ES | Mean ± SE | p値 | ES | ||||||
GSES | 行動の積極性 | 0.38 ± .32 | 0.5 ± .32 | 1 | 0.23 | † | 0.88 ± .32 | 0.49 | 0.49 | † | ||
失敗への不安 | 4.25 ± .27 | 4.25 ± .27 | 1 | 0 | 4.25 ± .27 | 1 | 0 | |||||
能力の社会的位置づけ | 0.25 ± .40 | 1 ± .40 | 0.19 | 0.78 | †† | 1.25 ± .40 | 0.06 | 0.86 | ††† | |||
看護師 レジリ エンス 尺度 |
肯定的な看護への取り組み | 21 ± 1.27 | 19 ± 1.27 | 0.65 | 0.45 | † | 21.25 ± 1.27 | 1 | –0.06 | |||
対人スキル | 16.25 ± 1.12 | 15.5 ± 1.12 | 1 | 0.19 | 15.25 ± 1.12 | 0.9 | 0.3 | † | ||||
プライベートでの支持の存在 | 10.38 ± 1.01 | 8.13 ± 1.01 | 0.08 | 0.74 | †† | 8.88 ± 1.01 | 0.51 | 0.45 | † | |||
新奇性対応力 | 16.25 ± .65 | 16.25 ± .65 | 1 | –0.12 | 15.13 ± .65 | 0.37 | 0.54 | †† | ||||
TES | 恣意的推論 | 11.75 ± .65 | 12 ± .65 | 1 | 0 | 11.25 ± .65 | 1 | 0.3 | † | |||
選択的注目 | 8.75 ± .72 | 9 ± .72 | 1 | –0.11 | 8.38 ± .72 | 1 | 0.19 | |||||
過度の一般化 | 13.63 ± .86 | 15.13 ± 86 | 0.37 | –0.6 | †† | 15 ± .35 | 0.44 | –0.54 | †† | |||
拡大解釈と過小評価 | 5.38 ± .35 | 6.13 ± .35 | 0.22 | –0.78 | †† | 5.5 ± .35 | 1 | –0.11 | ||||
個人化 | 6 ± .30 | 6.13 ± .30 | 1 | –0.14 | 6 ± .30 | 1 | 0 | |||||
完全主義的・二分思考 | 5 ± .55 | 5.63 ± .55 | 0.27 | –0.41 | † | 4.88 ± .55 | 1 | 0.07 |
n = 8,分析は線形混合モデル(一元配置),有意水準5%,ES(効果量,Cohen’s d)はT0と比較,†††効果量大,††効果量中,†効果量小
GSES(一般性セルフエフィカシー尺度)の「行動の積極性」と「能力の社会的位置づけ」は高得点であるほど,「失敗への不安」は低得点であるほど,自己効力感が高いことを示す.
看護師レジリエンス尺度の全ての下位尺度は,低得点であるほど,それぞれの尺度に関してレジリエンスが高い(困難を乗り越える力を獲得している)ことを示す.
TES(推論の誤り尺度)の全下位尺度は低得点であるほど,それぞれの認知の誤り程度が小さいことを示す.
看護師レジリエンス尺度の得点変化において.全ての下位尺度の平均値は,T0とT1,T0とT2の間に有意差がなかった.しかし,「プライベートでの支持の存在」について,T1はT0と比較して低得点であり,中程度の効果量があった(ES = .74).T2は,小さいが効果量が維持された(ES = .45).「肯定的な看護への取り組み」に関し,T1はT0より低得点で小さいながらも効果量があったが(ES = .45),T2では維持されなかった.「対人スキル」について,T2はT0より低得点であり,小の効果量がみられた(ES = .30).「新寄性対応力」に関し,T2はT0と比較して低得点となり,中程度の効果量があった(ES = .54).つまり,「プライベートでの支持の存在」は介入終了直後に効果があり,時間が経過しても維持された.「肯定的な看護への取り組み」は介入終了直後に効果があったが,時間が経過すると維持されなかった.一方で,「新奇性対応力」と「対人スキル」は介入終了直後に変化はなく,時間経過で効果が確認された.
TESの得点変化において,全下位尺度の平均値は,T0とT1,T0とT2の間に有意差がなかった.しかし,「恣意的推論」のT2はT0より低得点で,小さかったが正の効果量があった(ES = .30).「過度の一般化」について,T1はT0より高得点で,中の負の効果量があり(ES = –.60),T2でも負の効果量が維持された(ES = –.54).「拡大解釈と過小評価」のT1は,T0より高得点で中の負の効果量があった(ES = –.78).「完全主義的・二分思考」について,T1はT0と比較して高得点で中程度の負の効果量があった(ES = –.41).つまり,「恣意的推論」はプログラム終了1ヵ月後に得点が低下し,正の効果があった.一方で,「過度の一般化」,「拡大解釈と過小評価」と「完全主義的・二分思考」はプログラム終了直後に得点が上昇し,負の効果があった.
唾液アミラーゼ活性値の変化は,表3に示す.自分の体験を認知再構成する2回目セッションにおいて,セッション終了直後は開始直前と比較して有意差はなかったが平均値が高く,小の負の効果量がみられた(ES = –.36).
評価方法 | 回または役割 (対象者数) |
セッション開始直前 | セッション終了直後 | ||||
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Mean ± SD | Mean ± SD | p値 | ES | ||||
セッション毎に比較 | 1回目(n = 9) | 198 ± 114 | 218 ± 133 | 0.63 | –0.15 | ||
2回目(n = 9) | 224 ± 183 | 300 ± 215 | 0.28 | –0.36 | † | ||
3回目(n = 9) | 215 ± 117 | 240 ± 146 | 0.47 | –0.19 | |||
4回目(n = 9) | 240 ± 129 | 231 ± 114 | 0.78 | 0.07 | |||
発表者と聴き手の比較 | 発表者(n = 9) | 203 ± 185 | 192 ± 141 | 0.75 | 0.4 | † | |
聴き手(n = 18) | 220 ± 114 | 260 ± 144 | 0.17 | –0.3 | † | ||
発表順(前半発表と後半発表)の比較 | 前半発表者(n = 4) | 144 ± 420 | 188 ± 877 | 0.23 | –0.55 | †† | |
後半発表者(n = 5) | 250 ± 246 | 196 ± 185 | 0.3 | 0.22 | † |
分析は対応のあるt検定,有意水準5%,ES(効果量,Cohen’s d)はプログラム実施直前と比較,††効果量中,†効果量小.
唾液アミラーゼ活性値は高値であるほど,交感神経優位(高ストレス状態)であることを示す.
前半発表者とは,セッションの前半は発表者となりセッションの後半は聴き手となった対象者を示す.
後半発表者とは,セッションの前半は聴き手となりセッションの後半は発表者となった対象者を示す.
一方,自分の体験を認知再構成するセッションに発表者として参加した時,唾液アミラーゼ活性値平均値について,終了直後は開始直前より有意差はなかったが低値であり,小程度の正の効果量があった(ES = .40).しかし,聴き手として参加した時,終了直後の値は開始直前より有意差はなかったが高値であり,小程度の負の効果量があった(ES = –.30).さらに,後半発表者のセッション終了直後は開始直前と比較して有意差はなかったが低値であり,小程度の正の効果量があった(ES = .22)のに対し,前半発表者のセッション終了直後は有意差がなかったが高値で,中程度の負の効果量があった(ES = –.55).つまり,自分の体験を発表した直後は唾液アミラーゼ活性値が低下するのに対し,聴き手に立つと唾液アミラーゼ活性値は上昇した.
毎セッションでの学びとして,「自分のマイナス面だけ見てプラス面を見ていなかった」「白黒思考で考える特徴が自分にある」「自分の体験を語るのはしんどかった」「ミスは自分だけじゃないなと思った」「色々な考え方があると分かり,考え方の幅が広がった」「自分の考えが偏っていないかを根拠に基づき考えるのは難しい」「良いことに目を向けることが大事だ」等の発言があった.
研究目的は,新人看護師に対し自己効力感向上集団CBT介入を行うことで,介入前後の自己効力感,レジリエンス,認知とストレス反応に変化があるかを検証することであった.今回は,対象者数が9名と少ないため,本研究をパイロット研究と位置づけ,結果の解釈を慎重に行っていくことを前提に,以下の考察を加える.
1. プログラムの実施について本研究で用いた自己効力感向上集団CBT介入にあたり,介入期間の介入者は同一の人物であり,同一の条件下で実施した.また,介入者はCBT介入のトレーニングを受けたことから,一定の介入の質は担保されたと考える.
2. プログラム介入によるアウトカムの変化プライマリーアウトカムであるGSESの得点に関し,「行動の積極性」は,プログラム終了直後に高得点となり,1ヵ月後にはさらに高得点となり,効果量も上昇した.対象者はプログラム全体を通して,日々の失敗や自分の短所に注目していたことに気づき,自分の能力に着目することで前向きな思考が生まれ,積極的な行動を引き出せたと考える.さらに,「能力の社会的位置づけ」は,終了直後に中程度の効果量を示し,実施1ヶ月後も維持した.これは,第4回目のセッションで自分の役割を書き出し可視化したことで,新人看護師の立場で任されている事実を認識でき,結果として「能力の社会的位置づけ」得点が向上したのであろう.GSESの3下位尺度は,認知された自己効力感の高さのレベルを評価するものであり,本プログラムは自己効力感の向上に一定の効果があったと考える.
以下,セカンダリーアウトカムについて考察を加える.
看護師のレジリエンス尺度の得点において,「プライベートでの支持の存在」は,T1とT2まで正の効果量が維持した.これは,第4回目のセッションで自分の持つ人的資源を可視化したことで,自身を支えてくれる人の存在を改めて認識したことが反映されたと考える.「肯定的な看護への取り組み」は,終了直後に中程度の正の効果を示した.これは第4回目のセッションで,入職時と現在を比較することで能力の向上を認識できるとともに,今後の具体的目標を可視化することで,「肯定的な看護への取り組み」の認識が向上したと考察する.また,レジリエンス全体及び各下位尺度は自尊心と正の有意な相関を示した(井原ら,2010)と報告されていることから,今回参考にした「自分を好きになるためのワークブック」に示される自尊心の回復または向上を目的とした関わりが,レジリエンスの向上をもたらしたと考える.
「新奇性対応力」は時間の経過に伴い困難を乗り越える力が上昇し,プログラム終了1ヶ月後では中程度の効果があった.これは,GSESの「行動の積極性」と「能力の社会的位置づけ」が時間の経過とともに上昇したことと関係している可能性がある.つまり,行動(看護実践)の積極性が高まることで新しい知識や技術に対応する力(新奇性対応力)を獲得したと解釈する.
TESの「恣意的推論」は,プログラム終了直後1ヶ月後に小さいが正の効果量が得られた.セッションでの学びに「自分の考えが偏っていないかを根拠に基づいて考えるのは難しい」と発言があり,プログラム終了直後の短期間で恣意的推論を改善することは困難であったが,徐々に出来るようになったと考察する.「過度の一般化」「拡大解釈と過少評価」「完全主義的・二分思考」の認知の偏りは,自己効力感向上集団CBT介入により効果を得ることはできなかった.これは,自分と類似した他者の体験を聴くことで,「自分も同様な体験をしたとき同様に考える」といったイメージが沸き,結果として認知の偏りが大きくなった可能性がある.すなわち,集団CBT介入は,似た背景の集団のため,他の対象者の体験を過去の自分の体験と結び付けて考え,認知の偏りが一層増すことが懸念される.これは,以下の唾液アミラーゼ活性値の変化からも読み取れる.つまり,自分の体験を認知再構成するセッションで,その体験を聴く聴き手の値が上昇したことから,体験の語りを聴くことでストレス負荷がかかることが示唆される.要するに,聴き手が他者の体験に同調し,自分の体験を追体験し認知の偏りが一層増したと考える.換言すると,他の対象者の体験を自分の体験と結び付けることで,「過度の一般化」等の認知の偏りが増し,これが対象者のストレスにつながったと考える.
このようなことから,集団で認知再構成法を実施する場合は,リラックス効果を得るために,セッション終了後に笑い等を盛り込んだアイスブレイクを設ける必要がある.一方で,自分の体験を発表し適応的思考に辿り着いた発表者は,セッション終了直後の唾液アミラーゼ活性値が低下したことから,仕事上の体験を振り返りバランスのとれた考え方を発見することで,心理的負担の軽減効果があったといえる.
集団で行うCBT介入は,聴き手に負担がかかる可能性があることを,生理学的指標(唾液アミラーゼ活性値)を用いて明らかにしたことは,本研究で得た新たな知見といえよう.
対照群を設定していない研究デザインであることならびに対象者が少ないことから,自己効力感向上集団CBT介入の効果を断定することはできない.対象者の配属部署や夜勤等の勤務状態,生活上の出来事等の交絡要因がアウトカムに影響した可能性があることも本研究の限界である.
今後,個人属性等を一定にし,無作為化比較試験を行うこと,対象者数を増加させること,プログラム内容の精度を向上させること(プログラム回数や時間の検討など)が課題である.また,自己効力感向上集団CBT介入後の長期追跡を実施する必要がある.
新人看護師を対象にした自己効力感向上集団CBT介入は,「行動の積極性」「能力の社会的位置づけ」の自己効力感ならびにレジリエンスを向上させる可能性があると示唆された.また,集団で行うCBT介入は,聴き手に負担がかかる可能性があることから,リラックス効果を得るために,セッション終了後にアイスブレイクを設ける必要性が示唆された.
本研究に協力いただいたA総合病院の皆様に,心から感謝します.
MT,KHは研究の着想,デザイン,データ収集と分析,論文作成を,TT,WSはデータ分析を行った.全ての著者が最終原稿を読み,承諾した.
本研究における利益相反は存在しない.