Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Reports
Development of “Mental Health Outreach Practice Self-Evaluation Scale”: Verication of Reliability and Valibity
Yuki KamadaNarumi FujinoTakaomi FurunoYuji Fujimoto
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2020 Volume 29 Issue 1 Pages 70-79

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Abstract

本研究の目的は,多職種チームにおける精神障がい者アウトリーチ実践自己評価尺度を開発し,その信頼性と妥当性を検討することである.医療・福祉の専門職を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施し,199データを対象として分析を行った.探索的因子分析の結果,【多職種チーム内における支援計画の遂行】【対象者の生活機能の把握】【対象者のリカバリーに向けた支援】の3因子20項目構造となった.本尺度は,検証的因子分析において許容できるモデル適合度であり,基準関連妥当性において有意な相関がみられた.Cronbachのα係数は許容範囲であり,内的整合性を確認した.よって,本尺度における信頼性・妥当性は,統計学的に許容できる尺度であると示唆された.

Translated Abstract

The objective of this study was to develop a mental health outreach practice self-evaluation scale and examine its reliability and validity. The items were created using a draft based on previous research conducted in Japan and overseas, and through interviews with mental health professionals. We conducted a questionnaire survey with mental health professionals using the 25-item original scale and received 199 valid responses. The results of the exploratory factor analysis indicated a 20 item, three factor structure: [Execution of support plan in the outreach team], [Grasp of functioning of clients], [Support of clients’ personal recovery]. The factor analysis indicated an acceptable model fit, and significant correlations between the factors indicated the scale’s criterion related validity. Cronbach’s alpha coefficient was acceptable indicating internal consistency. The reliability and validity of the mental health outreach practice self-evaluation scale suggest that it is a statistically acceptable scale.

Ⅰ  緒言

近年,精神障がい者の社会的入院の解消と地域生活への移行支援において,精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを新たな指針とした取り組みが進められている(厚生労働省,2017a).なかでも,精神障がい者が地域生活を継続する上での再発予防は重要とされており(中板,2017),未受診や受療中断など医療や福祉の支援に結びつかない精神障がい者を対象とした精神障がい者アウトリーチの必要性が高まっている(木戸・廣川・萱間,2014).精神障がい者アウトリーチとは,地域生活の継続が困難な精神障がい者に,生活の場における課題を多職種チームで共有し,ニーズに沿って医療を含む生活全般を包括的に支援するサービスである(藤野・重松,2018).精神障がい者のニーズは,精神症状による生活のしづらさと,服薬管理の困難さなどが相互に関連しており(吉田・伊藤,2011),医療と福祉の専門職が多職種チームとして協働することが有効である(厚生労働省,2017a).精神障がい者アウトリーチでは,危機介入や継続的な治療のみならず,その人の望む生活を実現することが重要となる(西尾,2018).

欧米では,1990年代から先駆的に精神障がい者アウトリーチが実践され,入院の必要性が減少するなどの成果を上げている(Carpenter, Luce, & Wooff, 2011).わが国においては,精神障がい者アウトリーチ推進事業(厚生労働省,2011)を経て診療報酬化され(厚生労働省,2014),ACT(Assertive Community Treatment:包括型地域生活支援プログラム)やAO(Assertive Outreach:積極的介入)が主流とされる(萱間,2015).さらに,2018年診療報酬改定では精神科在宅患者支援管理料が新設され,精神障がい者の再入院減少や地域定着に向けて,更なる推進が期待される(厚生労働省,2017b).

一方で,精神障がい者の地域生活への移行支援に伴い,専門職の人材育成のあり方に変化が求められている(西尾,2018).精神障がい者アウトリーチにおける支援では,施設内で行われる生活訓練とは異なり,精神障がい者が生活する環境で,状況に合わせた支援体制を柔軟に組み直していくことが重視される(下平,2018).そのため,長期にわたり施設内に従事していた専門職が地域で支援を行うには,精神障がい者の家庭の文化を尊重する姿勢を十分に習得することが必要となる(西尾,2018).このような背景から,精神障がい者のニーズに柔軟に対応できる多職種チームをめざし,専門職が精神障がい者アウトリーチにおける実践の質向上を図ることが必要である.先行研究では,Assessment of Interprofessional Team Collaboration Scale(Orchard et al., 2012),精神科における多職種チーム医療の質を測定する尺度(冨澤・繁田・平林,2017)が開発されている.しかし,それらは精神科における多職種連携の質を評価する尺度であり,精神障がい者の地域生活を支援する実践の評価内容は含まれない.

そこで,本研究では,多職種チームにおける精神障がい者アウトリーチの実践を測定する尺度の開発を目的として,多職種チームにおける精神障がい者アウトリーチ実践自己評価尺度(Mental Health Outreach Practice Self-Evaluation scale;以下,MHOP-SE尺度)を開発し,信頼性・妥当性を検討する.本尺度は,精神障がい者アウトリーチに携わる専門職が実践を自己評価することが可能となり,実践を可視化することで,ひいては実践の質向上につながると考える.

Ⅱ  用語の定義

1. 多職種チーム

多職種チームとは,医師,看護職,精神保健福祉士,作業療法士などの専門職により構成され,受療中断者などの精神障がい者を対象に,協働して訪問支援を行う,精神科病院や精神科診療所,訪問看護ステーション,相談支援事業所などに設置されるチームであると定義した(厚生労働省,2017a吉田・伊藤,2011).

2. 精神障がい者アウトリーチ実践

精神障がい者アウトリーチ実践とは,ケア計画に基づいて多職種チームが訪問し,精神障がい者に直接支援することであると定義した(伊藤,2015).

Ⅲ  研究方法

1. 尺度の項目作成

精神障がい者アウトリーチの概念について明らかにした質的研究(藤野・重松,2018)において抽出された概念は[在宅生活継続のための精神障がい者本人及び家族への訪問支援][多職種協働による支援][その人なりの人生に意味を見出す支援][危機介入][多機関によるサービス提供体制]であった.医療機関や公的機関など多機関との対外的なネットワーク構築を意味する[多機関によるサービス提供体制]は,精神障がい者への直接支援を示す内容として妥当でないと考えた.したがって[在宅生活継続のための精神障がい者本人及び家族への訪問支援][多職種協働による支援][その人なりの人生に意味を見出す支援][危機介入]の4概念を,尺度案の仮説構成概念とした.さらに,医学中央雑誌Webにおいて,「精神障がい者(障害者)」「アウトリーチ」をキーワードとして文献検索を行い,171件の研究論文から,「多職種アウトリーチチームによる支援のガイドライン(伊藤,2015)」を参考に,多職種チームによる精神障がい者アウトリーチの実践内容が読み取れるものを選定基準として,3文献(藤野・重松,2018萱間,2015宮部・谷野・渡辺,2015)を入手した.また,ハンドリサーチにより,精神障がい者アウトリーチの手引きやマニュアルなど実践に関する2文献(厚生労働省,2011岡山県精神保健福祉センター・ACTおかやま,2014)を入手した.さらに,精神障がい者アウトリーチを実践する看護師4人,精神保健福祉士3人を対象として「精神障がい者アウトリーチにはどのような実践が必要であるか」について個別にヒアリングを実施し,逐語録を作成した.これらの文献と逐語録から,多職種チームによる精神障がい者アウトリーチの実践に関する記述を抜粋して104のアイテムプールを作成し,4つの構成概念で説明が可能なものを項目の選定根拠として,25の質問項目を作成した.質問項目を作成する際は,測定概念の内容妥当性を確保するために,精神看護学に精通した教員,精神障がい者アウトリーチにおいて管理職を実践している専門職,精神看護学領域の研究者,尺度開発の経験がある研究者からスーパーバイズを受けた.尺度の回答形式は,リッカート法による「1.全くあてはまらない」「2.どちらかというと当てはまらない」「3.どちらともいえない」「4.どちらかというと当てはまる」「5.かなり当てはまる」の5件法として1~5点までの得点を付し合計得点を算出し,多職種チームにおける精神障がい者アウトリーチの実践を測定した.合計得点が高いほど,多職種チームにおける精神障がい者アウトリーチを実践していることを表す.作成した質問項目の表面妥当性を検討するために,プレテストを実施した.対象者は,精神障がい者アウトリーチの経験がある看護師14人,作業療法士1人,精神保健福祉士5人とした.調査終了後に,答えにくい項目や類似している項目の有無について,個別に聞き取りを行った結果,該当する項目はなく,表面妥当性は確認された.

以上をふまえ,作成した25の質問項目をMHOP-SE尺度案とした.

2. 調査対象者

単純無作為抽出法により,日本精神科病院協会に加入する精神科病院88箇所,日本精神神経科診療所協会に加入する精神科診療所64箇所,全国訪問看護事業協会に加入する訪問看護ステーション41箇所,ワムネット障害福祉サービス情報検索から相談支援事業所319箇所の合計512箇所を抽出した.精神科病院・精神科診療所・訪問看護ステーションは1施設につき5人,相談支援事業所は1施設につき2~3人として1,661人を対象とした.対象者数は,質問項目数の5~10倍の人数の回答が必要であることから(松尾・中村,2002),目標対象者を300人と設定し,回収率20%程度と予測した.対象者は,調査対象施設に勤務し精神障がい者アウトリーチの経験がある医師,看護師,准看護師,保健師,作業療法士,社会福祉士,精神保健福祉士,介護福祉士(以下,専門職)とした.

3. 調査期間

2018年6月から11月であった.

4. 調査方法

調査対象施設の管理者に,説明文書および質問紙調査票を郵送にて送付した.施設管理者の協力を得て,調査対象者に説明文書,質問紙調査票の配布を依頼した.回収は対象者が個別に投函する方法とした.

5. 調査内容

質問紙の内容は,調査対象者の属性,MHOP-SE尺度案,基準関連妥当性を検討するため,藤田・福井・池崎(2015)による在宅ケアにおける医療・介護職の多職種連携行動尺度(以下,多職種連携行動尺度)で構成した.多職種連携行動尺度は,5因子17項目で構成され,信頼性・妥当性は検証されている.各項目は「1.全く当てはまらない」から「5.とても当てはまる」の5段階評価であり,合計得点が高いほど多職種における自身の連携行動がとれていることを表す.

6. 分析方法

統計パッケージIBM SPSS Statistics version23とIBM SPSS Amos version24を用いて分析を行った.なお,有意水準は5%未満とした.

1) 探索的因子分析への投入除外候補の検討

項目分析として,平均得点,標準偏差の算出,天井効果・床効果の確認,項目間相関分析,Item-Total(I-T)分析,Good-Poor(G-P)分析を行った.探索的因子分析への投入除外候補の基準は,天井効果または床効果を確認した項目,項目間相関係数が .7以上,I-T相関の相関係数が .3未満,G-P分析で有意確率p < .05において高得点群と低得点群に有意差が認められなかった項目とした.また,尺度案25項目におけるCronbachのα係数を算出し,項目が除外された場合に全体のα係数が上がる項目を投入除外候補とした.

2) 妥当性の検討

構成概念妥当性の検討として,一般化された最小2乗法・プロマックス回転による探索的因子分析を行った.除外候補基準は,因子負荷量 .35未満とした.また,共分散構造分析によりモデル適合度を算出し,検証的因子分析を行った.GFI(適合度指標)が1に近く,GFI≧AGFI(自由度調整済み適合度指標)であり,RMSEA(平均二乗誤差平方根).1未満を基準に検討した.基準関連妥当性として,多職種連携行動尺度とのSpearmanの順位相関係数を算出し検討した.

3) 信頼性の検討

探索的因子分析にて得られたMHOP-SE尺度の内的整合性を検討するために,尺度全体及び下位尺度におけるCronbachのα係数を算出した.

7. 倫理的配慮

本研究は,所属する大学の倫理審査委員会において承認を得て実施した(番号:29-86).調査対象者には,研究の概要・目的,研究協力の任意性,研究方法,質問紙は無記名にするなどの匿名性,データ管理方法など個人情報の保護に関する事項,データを研究以外に使用しない事項について書面で説明し,調査票に回答し返送した者を研究への協力に同意をしたとみなした.

Ⅳ  結果

1. 対象者の概要

全国の精神科病院・精神科診療所・訪問看護ステーション,相談支援事業所に所属する専門職に質問紙調査票1,661部を配布し,235人から回答が得られた(回収率14.1%).そのうち,無回答があるものなど計36部を除外し,199部を分析対象とした(有効回答率84.6%).対象者の内訳や概要は表1に示した.

表1 調査対象者の属性 n = 199
項目 内訳 人数 % 中央値
(範囲)
性別 女性 112 56.3
男性 87 43.7
年齢 20~29歳 15 7.5
30~39歳 61 30.7
40~49歳 69 34.7
50~59歳 41 20.6
60~69歳 11 5.5
70歳以上 2 1.0
職種 医師 7 3.5
看護師 81 40.7
准看護師 5 2.5
保健師 4 2.0
作業療法士 29 14.6
社会福祉士 14 7.0
精神保健福祉士 51 25.6
社会福祉士かつ精神保健福祉士 7 3.5
介護福祉士 1 0.5
職位 スタッフ 126 63.3
主任 27 13.6
管理職 39 19.6
その他 6 3.0
無回答 1 0.5
アウトリーチ
平均経験年数
4.0年
(0.5~40)
所属する事業所 精神科病院 42 21.1
一般病院精神科 10 5.0
診療所 26 13.1
訪問看護ステーション 79 39.7
相談支援事業所 37 18.6
その他 5 2.5

2. 探索的因子分析への投入除外

各項目の平均値+標準偏差の最大は4.73点で,天井効果はみられなかった.また,平均値-標準偏差の最小は1.96点で,床効果はみられなかった.項目間によるSpearmanの順位相関係数ではr = .7以上の組み合せが1組(No. 11, 12)みられた.強い正の相関関係の組み合せは,それらだけで因子となり得ることから(中山,2018),項目分析で他の項目との関連性が低いNo. 11を除外した.I-T分析の結果,順位相関係数はr = .426~.636の範囲で,各項目と全体得点は有意な相関であることが認められた.G-P分析では,合計得点を高得点群と低得点群に分けて平均値を算出し,Mann-WhitneyのU検定を行った結果,全ての項目に有意差があることが示された.Cronbachのα係数は,25項目全体 .895,各項目を除外した場合のα係数 .888~.896であり,.896の1項目(No. 24)を除外した.

以上の結果から,尺度案25項目から2項目が除外され,23項目が探索的因子分析の変数として適切であることが示された(表2).

表2 項目分析の結果 n = 199
No. 項目 平均
標準偏差 項目間相関 I-T相関 G-P分析 項目が除外された場合のα
1 私は,対象者のニーズを把握している 3.73 .67 .159~.666* .612* <.01 .889
2 私は,対象者の解決すべき生活上の課題を把握している 3.79 .66 .105~.666* .510* <.01 .891
3 私は,対象者の精神症状を把握している 3.89 .58 .091~.541* .561* <.01 .891
4 私は,対象者の身体状況を把握している 3.66 .76 .032~.455* .452* <.01 .893
5 私は,対象者と家族の関係性を把握している 3.72 .72 .106~.555* .585* <.01** .889
6 私は,対象者の家族のニーズを把握している 3.39 .84 .117~.555* .557* <.01 .891
7 私は,対象者が利用可能な社会資源を把握している 3.60 .80 .045~.396* .498* <.01 .892
8 私は,対象者のストレングスを活かした支援をしている 3.62 .76 .079~.440* .490* <.01 .891
9 私は,対象者が自立した生活を送れるよう必要な情報を提供している 3.83 .74 .152~.482* .588* <.01 .890
10 私は,対象者が社会生活技能を身に付けられるよう支援している 3.61 .74 .001~.435* .426* <.01 .892
11 私は,対象者が抱く不安や恐怖心に共感し支援している 4.14 .62 .159~.709* .486* <.01 .892
12 私は,対象者が努力していることを理解し支援している 4.18 .55 .127~.709* .494* <.01 .892
13 私は,対象者が服薬などの治療を継続できるよう支援している 4.02 .76 .007~.448* .454* <.01 .893
14 私は,対象者と家族との関係性が,維持または回復するよう支援している 3.68 .77 .088~.428* .475* <.01 .892
15 私は,対象者の幸福を目標とした支援をしている 4.05 .72 .011~.402* .483* <.01 .892
16 私は,対象者と一緒に支援計画を作成している 3.47 .98 .116~.433* .579* <.01 .891
17 私は,多職種チーム内で協議した上で支援計画を作成している 3.47 .99 .115~.607* .626* <.01 .889
18 私は,多職種チーム内で専門性を発揮している 3.55 .90 .155~.582* .636* <.01 .888
19 私は,多職種チーム内で支援内容や対象者に関する情報を共有している 4.01 .76 .001~.507* .525* <.01 .891
20 私は,多職種チーム内で支援の目標が到達したかを評価している 3.40 .91 .127~.695* .614* <.01 .888
21 私は,多職種チーム内で支援計画の妥当性を定期的に検討している 3.39 .97 .129~.695* .625* <.01 .889
22 私は,支援するにあたりインフォームド・コンセントを実施している 3.76 .82 .099~.381* .507* <.01 .891
23 私は,多職種チーム内で個人情報保護対策を共有し実施している 3.95 .87 .045~.364* .474* <.01 .894
24 私は,他事業所(医療機関含む)とのケースカンファレンスに定期的に参加している 3.57 1.07 .011~.605* .444* <.01 .896
25 私は,行政(市町村・保健所)とのケースカンファレンスに定期的に参加している 3.16 1.20 .007~.605* .497* <.01 .894

* p < .05,Spearmanの順位相関係数  p < .05,Mann-WhitneyのU検定 全体のCronbachのα係数=.895

3. 探索的因子分析

Kaiser-Meyer-Olkin(KMO)の標本妥当性において,KMO測度 .866と良好であることが示された.回転後の因子負荷量が .35未満である3項目(No. 6, 14, 25)を除外し,3因子構造20項目であることが示された(表3).因子名として,第1因子は,多職種チーム内で目標到達に向け支援計画を立案し遂行する内容であることから【多職種チーム内における支援計画の遂行】,第2因子は,対象者の生活や心身の機能などのニーズを把握する内容であることから【対象者の生活機能の把握】,第3因子は,対象者のストレングスを活かし自立した生活をめざす内容が含まれることから【対象者のリカバリーに向けた支援】とした.

表3 MHOP-SE尺度の探索的因子分析結果とCronbachのα係数 n = 199
因子名(下位尺度のCronbachのα係数)および項目 第1因子 第2因子 第3因子 共通性
第1因子【多職種チーム内における支援計画の遂行】(α = .842)
20 私は,多職種チーム内で支援の目標が到達したかを評価している .888 .106 –.138 .812
21 私は,多職種チーム内で支援計画の妥当性を定期的に検討している .857 –.075 .017 .767
17 私は,多職種チーム内で協議した上で支援計画を作成している .686 –.186 .245 .646
19 私は,多職種チーム内で支援内容や対象者に関する情報を共有している .660 –.080 –.107 .555
18 私は,多職種チーム内で専門性を発揮している .593 .205 .012 .597
23 私は,多職種チーム内で個人情報保護対策を共有し実施している .397 .122 –.072 .415
22 私は,支援するにあたりインフォームド・コンセントを実施している .391 .104 .148 .465
第2因子【対象者の生活機能の把握】(α = .806)
1 私は,対象者のニーズを把握している –.038 .801 .088 .775
2 私は,対象者の解決すべき生活上の課題を把握している –.109 .690 .178 .690
3 私は,対象者の精神症状を把握している .157 .620 –.028 .508
4 私は,対象者の身体状況を把握している .105 .608 –.152 .474
5 私は,対象者と家族の関係性を把握している .056 .570 –.038 .706
13 私は,対象者が服薬などの治療を継続できるよう支援している .138 .445 .176 .670
第3因子【対象者のリカバリーに向けた支援】(α = .770)
8 私は,対象者のストレングスを活かした支援をしている .046 –.056 .709 .589
9 私は,対象者が自立した生活を送れるよう必要な情報を提供している –.036 .078 .706 .650
10 私は,対象者が社会生活技能を身に付けられるよう支援している –.148 .099 .652 .537
16 私は,対象者と一緒に支援計画を作成している .317 –.213 .545 .555
15 私は,対象者の幸福を目標とした支援をしている .063 .051 .457 .399
12 私は,対象者が努力していることを理解し支援している –.061 .306 .369 .541
7 私は,対象者が利用可能な社会資源を把握している –.035 .260 .369 .489
回転後の負荷量平方和 4.415 4.454 4.415
因子相関行列
第1因子 1.000
第2因子 .361 1.000
第3因子 .434 .569 1.000

一般化された最小2乗法,プロマックス回転,全体のCronbachのα係数=.885

4. 検証的因子分析

検証的因子分析の結果,モデル適合度の指標はGFI = .859,AGFI = .822,CFI. = 878,RMSEA = .073であった(図1).

図1

MHOP-SE尺度の検証的因子分析結果

5. MHOP-SE尺度における記述統計量

多職種チームにおいて精神障がい者アウトリーチを実践する専門職199人が獲得したMHOP-SE尺度の得点は,合計得点100点中41~94点の範囲であり,平均値72.0点,標準偏差8.5点であった.

6. 基準関連妥当性

MHOP-SE尺度と多職種連携行動尺度とのSpearmanの順位相関係数を算出した結果,有意な相関があることが認められた(表4).

表4 MHOP-SE尺度と多職種連携行動尺度との関連 n = 199
多職種連携行動尺度
MHOP-SE尺度
全体
.515*
第1因子 .624*
第2因子 .432*
第3因子 .487*

* p < .05,Spearmanの順位相関係数

7. 尺度の信頼性

MHOP-SE尺度における全体のα係数は .885であった.また,各下位尺度のα係数は,第1因子が .842,第2因子が .806,第3因子が .770であった.

Ⅴ  考察

1. 尺度の妥当性の検討

1) 構成概念妥当性の検討

検証的因子分析によるモデル適合度は許容範囲であったことから,探索的因子分析で示された3因子構造はデータに適合しており,妥当性は確認された.

探索的因子分析によって抽出された概念として,多職種チームにおける精神障がい者アウトリーチの実践は,第1因子【多職種チーム内における支援計画の遂行】,第2因子【対象者の生活機能の把握】,第3因子【対象者のリカバリーに向けた支援】であることが明らかになった.第1因子【多職種チーム内における支援計画の遂行】は,仮説構成概念[多職種協働による支援][危機介入]により構成されていた.精神障がい者アウトリーチは,多職種チームにおける目標到達に向けた支援計画に沿って,専門職が専門性を活かして実践されるものである(厚生労働省,2011).このような実践は,精神障がい者の生活の場において個別的な環境で行われることから,多職種チームでカンファレンスの場を設けて情報共有し,支援の方向性を協議することが,円滑な協働をする上で重要となる(相川・山口・水野,2018).また,精神障がい者アウトリーチは,家族や地域の要請によるものが多数を占めることから,精神障がい者へのインフォームド・コンセントや情報開示に関する対応を含めた,危機的状態の介入を支援計画に盛り込むことが求められる(厚生労働省,2011相川・山口・水野,2018).第2因子【対象者の生活機能の把握】は,仮説構成概念[在宅生活継続のための精神障がい者本人及び家族への訪問支援][その人なりの人生に意味を見出す支援]により構成されていた.生活機能の把握とは,ICF(国際生活機能分類)において,対象者の心身の働き,生活行為,家庭・社会への関与・役割という人間全体を個別性において把握することである(厚生労働省,2006).精神障がい者アウトリーチの実践において,精神障がい者の健康,住居,食事,仕事,生きがいなど多様なニーズを把握した上で課題を明確にすることが,その人らしい地域生活の継続につながる(野中・野中ケアマネジメント研究会,2014).第3因子【対象者のリカバリーに向けた支援】は,仮説構成概念[その人なりの人生に意味を見出す支援]により構成されていた.リカバリーとは,精神障がい者の豊かな人生を目指し,自身の人生に対する主体性を回復することである.精神障がい者アウトリーチの目標は,リカバリーのプロセスを支え,それに寄り添うことである(伊藤,2015).

以上のことから,MHOP-SE尺度の構成概念である3因子は,先行研究により裏付けられ,構成概念妥当性は確認された.

2) 基準関連妥当性の検討

MHOP-SE尺度の合計得点および下位尺度と,多職種連携行動尺度の合計得点の間には中等度の相関が示されたことから,基準関連妥当性は確認された.

2. 本尺度の信頼性の検討

MHOP-SE尺度の尺度全体及び各下位尺度におけるCronbachのα係数は.7以上であったことから,内的整合性は確認された.

Ⅵ  尺度の活用と今後の課題

1. 尺度の活用

MHOP-SE尺度の開発によって,多職種チームにおける専門職が,精神障がい者アウトリーチの実践を自己評価することが可能となり,さらに,実践を可視化することによって,自身の実践を改善する動機づけの指標となり得ることは,国内外の既存尺度にはみられないものであり,意義があると考える.MHOP-SE尺度を活用することにより,精神障がい者アウトリーチに携わる専門職の人材育成に寄与し,実践の質向上につながることが期待される.

2. 研究の限界と課題

本研究では単純無作為抽出法を用いており,また,調査票の回収率が低いことから,母集団に対する代表性が乏しいことは否定できない.また,尺度の項目作成では看護師,作業療法士,精神保健福祉士のみを対象としていることから,医師,保健師,社会福祉士,介護福祉士を対象としたMHOP-SE尺度の汎用可能性について確証が得られていない.

これらをふまえ,サンプリングには各専門職を母集団として層化無作為抽出法を用いる必要があった.また,MHOP-SE尺度の精度を高めるには,看護師,作業療法士,精神保健福祉士を対象として再検証することが必要である.

Ⅶ  結語

多職種チームにおける精神障がい者アウトリーチの実践について自己評価の指標となるMHOP-SE尺度を開発した.MHOP-SE尺度は20項目からなり【多職種チーム内における支援計画の遂行】【対象者の生活機能の把握】【対象者のリカバリーに向けた支援】の3因子構造であった.Cronbachのα係数は許容範囲であり,外的基準として用いた尺度と有意な相関であることが示され,また,構成概念は先行研究に裏付けられていると確認したことから,MHOP-SE尺度の信頼性・妥当性は検証された.

謝辞

本研究にご協力いただきました専門職の皆様に深謝いたします.また,本論文は,佐賀大学大学院医学系研究科修士課程における修士論文の一部を加筆修正したものであり,日本看護研究学会第45回学術集会で一部を発表した.

著者資格

YKは研究のデザイン,データ収集,分析および論文作成を行った.NFは研究の着想と研究過程について助言を行った.TF,YFは分析と論文作成を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反の開示

本研究における利益相反は存在しない.

文献
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© 2020 Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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