2020 Volume 29 Issue 1 Pages 51-59
本研究は,訪問看護師が捉えた精神障がいをもちながら子育てをする母親の成長を明らかにすることを目的とした.9名の訪問看護師を対象に半構造化面接を行い,内容分析を行った.
訪問看護師は,母親の成長を【病気のある生活と母親役割のバランスの保持】【他者への相談と援助の要請】【子どもへの関わり方の向上】【子どもの生活習慣の確立】【子どもの円滑な学校生活への支援】と捉えていることが明らかとなった.
訪問看護師は,母親が支援を受けながら病状の安定を意識し,子どもの立場に立つ子育てを行い,社会の一員としての役割を担う成長をしていると認識していると考えられた.そして訪問看護師は,母親の【病気のある生活と母親役割のバランスの保持】【他者への相談と援助の要請】の成長と影響しながら,【子どもへの関わり方の向上】【子どもの生活習慣の確立】【子どもの円滑な学校生活への支援】という育児力の成長を捉えていると考えられた.
The purpose of this study was to clarify the growth of mothers with mental disabilities who are raising children as observed by visiting nurses. A semi-structured interview was conducted with nine visiting nurses, and content analysis was performed.
The results revealed that visiting nurses perceived the growth of these mothers in “maintaining balance between herself with a mental disease and her role as a mother”, “consulting with others and requesting assistance”, “improving the way that she interacts with her children”, “establishing daily routines for her children” and “supporting her children so that they have a smooth school life”. It was concluded that visiting nurses captured that these mothers showed the process of growth: the mothers pay attention to the health condition of herself while being supported by others, raise her children by imagining herself in her children’s place, and then, play a role as members of the society. Furthermore, it was assumed that the growth of these mothers in “maintaining balance between herself with a mental disease and her role as a mother” and “consulting with others and requesting assistance”, interacted with the growth of their child-rearing abilities such as “improving the way that she interacts with her children”, “establishing daily routines for her children” and “supporting her children so that they have a smooth school life”.
精神障がい者の地域生活への移行が進められる中,精神障がいをもちながら子育てをする人やその子どもへの支援の必要性が高まっている.菱川ら(2015)は,総合周産期センターで2002年から2011年の10年間に管理した精神疾患合併妊婦は,前半5年間に比較し後半5年間は有意に増加したと報告した.そして精神科急性期病棟に2003年から2004年までの2年間に入院した女性患者191人のうち,出産経験のある女性は42.9%,母親として子どもの養育に関わっている女性は12.6%であり,精神障がいをもちながら子育てをする人への継続的な支援の必要性が提言されている(岩佐・馬場,2018).また精神医療の利用者を対象とした調査では,回答者948名中子どもがいると回答したのは141名(14.9%)で,親や兄弟・親戚等の支援と同時に病院関係者や保育園等の支援を受けており,フォーマル・インフォーマルな支援の重要性が明らかとなっている(山口,2007).また池淵(2015)は統合失調症の人が恋愛・結婚・子育てを行うことは,統合失調症のリカバリー体験になるが専門的な支援が要請されること,および子育て支援には家族や地域や子ども福祉の専門家同士の連携の必要性を報告している.
地域で生活する精神障がい者に対し,訪問看護師による支援が行われている.辻本ら(2008)は精神科訪問看護師が親である利用者への支援と同時に子どもへの支援を行う場合,1ケース当たりの訪問回数が多く複数人体制で訪問看護を行う場合が多いこと,カンファレンスの開催頻度が高く他機関との電話連絡を要することを報告している.
子育てをする親は,様々なサポートを得ながら危機を乗り越えることで親として成長している.山口(2010)は,子育て中の母親を対象とした調査で55.1%の者が子育てによって自分が成長したという認識をもっていることを報告している.上別府・上野・牛島(2006)は,精神障がいをもつ女性が「親になること」の経験について,セルフケアしながら子どもをケアする,ケアされながらケアをするといったケアの授受ができるようになるプロセスであると報告している.澤田(2012)は,精神障がいをもつ人が親になるために,「病気を受け入れること」「支援者とつながること」「自分をケアすること」「子どもをケアすること」に対する多層的な支援の必要性を述べている.
以上のことから,精神障がいをもちながら子育てをする女性は,ケアを受けながら自らも子どもの養育を通して親となっていくことが明らかとなっている.しかし,定期的に家庭を訪問し親子の生活を支える訪問看護師が捉えた母親の成長について明らかにした報告は少ない.そこで本研究は,訪問看護師が捉えた精神障がいをもちながら子育てをする母親の成長を明らかにすることを目的とする.これにより,訪問看護師が母親の成長を意図したケアを行う上で意義があると考える.なお,本研究において「成長」とは,訪問看護を利用している子育て中の精神障がい者である母親が,発達していく子どもとの相互作用や支援者との相互作用の中で,情緒的・知的・社会的に変化したことと定義する.また「捉えた」とは,利用者の成長という抽象的な事柄を,訪問看護師が理解・認識したことと定義する.
半構造化面接による質的記述研究デザインとした.
2. 調査期間2016年6月~2019年3月とした.
3. 対象者A県の訪問看護ステーションの管理者に調査の趣旨を説明し,精神障がいをもちながら子育てをする母親へ訪問看護を行っている看護師の推薦を依頼した.推薦された訪問看護師に面接調査の説明を行い,同意の得られた者を対象とした.
4. データ収集方法訪問看護師と利用者についての属性を尋ねる質問紙と半構造化面接を行った.面接では利用者への訪問を開始してから現在に至るまで,利用者が訪問看護師,その他の支援者や子どもとの相互作用の中で情緒的・知的・社会的に変化していると訪問看護師が捉えた内容を尋ねた.面接内容は許可を得て録音した.
5. 分析方法本研究は,Krippendorff(1980/1989)の内容分析の手法を用いて以下の手順で分析した.1例ごとの逐語録を丁寧に読み,子育て中の精神障がいをもつ母親が,他者との相互作用の中で成長していると訪問看護師が捉えた内容を抽出しコードとした.すべてのコードについて,意味内容が類似したものを集め,共通する意味を表すようにサブカテゴリとした.さらに意味内容が類似したサブカテゴリを集め,本質的な意味を表すように表現し,カテゴリとした.分析の過程では,常に1例ごとの逐語録を確認しながら行うとともに,質的研究の経験のある共同研究者とデータとカテゴリの確認・修正を行い,分析の信用性を確保した.さらに1名の対象者に,分析結果の確認を行った.
6. 倫理的配慮対象者に,研究目的,内容,方法,自由意思による研究への参加,途中辞退しても不利益を被ることはないこと,個人が特定されることはないこと,研究結果を関連する学会で報告することを文書と口頭で説明し,署名による同意を得た.訪問看護利用者は個人が特定されることがないよう匿名化した表現を依頼し,記号化して記録した.本研究は,長崎県立大学一般研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号394).
訪問看護師9名を対象とした.対象者の性別は男性1名,女性8名,年代は30歳代1名,40歳代3名,50歳代3名,60歳代2名であった.精神科訪問看護経験年数は1年1名,8名は5年以上20年以下であった.
対象者 | 訪問看護利用者 | ||||||||
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年代 | 性別 | 臨床 経験年数 |
精神科 訪問看護 経験年数 |
年代 | 疾患名 | 配偶者 | 子の人数 | ||
A | 50代 | 女性 | 30年 | 5年 | 20代 | 統合失調症 | 離婚 | 1人 | |
B | 40代 | 女性 | 25年 | 1年 | 40代 | 双極性感情障がい | 有 | 2人 | |
C | 40代 | 女性 | 20年 | 12年 | 20代 | 軽度知的障がい | 離婚 | 3人 | |
D | 60代 | 女性 | 40年 | 10年 | 40代 | 統合失調症 | 有 | 1人 | |
E | 50代 | 女性 | 22年 | 20年 | 30代 | 統合失調症 | 離婚 | 2人 | |
F | 30代 | 男性 | 21年 | 13年 | 40代 | 統合失調症 | 有 | 1人 | |
40代 | 統合失調 感情障がい |
有 | 3人 | ||||||
G | 60代 | 女性 | 25年 | 13年 | 40代 | 統合失調症 | 有 | 1人 | |
30代 | 統合失調症 | 離婚 | 1人 | ||||||
H | 40代 | 女性 | 20年 | 12年 | 40代 | 統合失調症 | 有 | 2人 | |
I | 50代 | 女性 | 21年 | 5年 | 50代 | 統合失調症 | 離婚 | 4人 |
訪問看護利用者である母親は11名であった.利用者の年齢は20歳代2名,30歳代2名,40歳代6名,50歳代1名であった.利用者の疾患は統合失調症関連9名,双極性感情障がい1名,軽度知的障がい1名であった.利用者の6名は配偶者有りであった.面接は1人1回実施した.面接時間は平均78分(28分~110分)であった.
2. 分析結果(表2)分析の結果,訪問看護師が捉えた精神障がいをもちながら子育てをする母親の成長は,5カテゴリ,20サブカテゴリが形成された.以下カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉,対象者の発言を『 』,発言の補足を( )で示す.
カテゴリ | サブカテゴリ |
---|---|
病気のある生活と 母親役割のバランスの保持 |
母親が病気をもつ自分を客観的にみる |
母親が子育てのため自分の体調を管理する | |
家族の生活を守るため人との付き合い方が上手になる | |
子どもの成長に伴う生活の変化や心配事を乗り越える | |
母親が自分を認めることができるようになり自信がつく | |
他者への相談と援助の要請 | 心配事を抱え込まず他者に相談して乗り越える |
子どものために社会資源や周囲の援助を受ける | |
子育てを支えてくれる人に対する感謝の気持ちを表現する | |
子どもへの関わり方の向上 | 子どもの気持ちをおしはかった関わりをする |
子どもの特性や状況に合わせた関わりをする | |
子どもとの思い出づくりの活動をする | |
子どもの関わりに余裕が出てくる | |
子どもの生活習慣の確立 | 子どものために食材を買い自炊をする |
子どもの養育のために金銭管理をする | |
子どもの生活リズムを整え健康に養育する | |
子どもを危険から守る行動をとる | |
子どもの円滑な 学校生活への支援 |
子どもの登校に向けた工夫をする |
子どもの学習支援をする | |
子どもの部活動参加へのサポートをする | |
症状と折り合い学校行事に参加する |
このカテゴリは〈母親が病気をもつ自分を客観的にみる〉〈母親が子育てのため自分の体調を管理する〉〈家族の生活を守るため人との付き合い方が上手になる〉〈子どもの成長に伴う生活の変化や心配事を乗り越える〉〈母親が自分を認めることができるようになり自信がつく〉のサブカテゴリから形成された.すなわち,訪問看護師は,母親が母親としての役割を遂行するために体調管理を行い,子どもの成長に伴う心配事や人付き合いに対処しながら,病気のある生活と母親役割とのバランスをとれるようになったと捉えたことを示した.
訪問看護師は,母親が子どもの生活上の心配事で不安になる中,訪問看護師との相互作用の中で,〈母親が病気をもつ自分を客観的にみる〉ようになり,〈母親が子育てのため自分の体調を管理する〉ことができるようになったと捉えていた.そして訪問看護師は,母親が体調を崩すきっかけとなりやすい人付き合いにおいても,助言を取り入れながら〈家族の生活を守るため人との付き合い方が上手になる〉ことにつながったと認識していた.また訪問看護師は,子どもの進学や進級を前に不安の強い母親が,訪問看護師に相談し助言を受けて〈子どもの成長に伴う生活の変化や心配事を乗り越える〉ことができたと理解していた.そして訪問看護師は,母親が困難を乗り越えることができた後に,訪問看護師よりフィードバックされて,乗り越えることができたという事実の積み重ねにより〈母親が自分を認めることができるようになり自信がつく〉ことにつながったと捉えていた.以下に,〈母親が病気をもつ自分を客観的にみる〉ようになったと訪問看護師が捉えた語りを示す.
『子どもの生活と病気を持っている自分の生活をちょっとでも,ちょっとだけ客観的にみれるようになったっていうかな,(中略)親としての自分を客観的にみれる,まだまだですけどね.子どもたちのことでもう一生懸命で,いっぱいいっぱいになることが少なくなってきたんですね.そこら辺は良かったのかなって.良いバランスでお母さんとしての自分を継続できるようになってきたのかなって思いますけどね.(H)』
2) 【他者への相談と援助の要請】このカテゴリは〈心配事を抱え込まず他者に相談して乗り越える〉〈子どものために社会資源や周囲の援助を受ける〉〈子育てを支えてくれる人に対する感謝の気持ちを表現する〉のサブカテゴリから形成された.すなわち,訪問看護師は,母親が子どもや自分自身の心配事を一人で抱え込まずに,他者に相談して援助を求め,支援者に感謝の気持ちを表現できるようになったと捉えたことを示した.
訪問看護師は,母親が以前は心配事を一人で抱え込んで体調不良となり,子育てに影響していたが,訪問看護師との関係性の中で,心配事を他者に相談し解決に向けた行動ができるようになったと捉えていた.例えば訪問看護師は,母親が子どもの学校生活上の心配事を学校の先生に相談するといった〈子どものために社会資源や周囲の援助を受ける〉ことで〈心配事を抱え込まず他者に相談して乗り越える〉ことができるようになったと認識していた.そして訪問看護師は,母親が〈子育てを支えてくれる人に対する感謝の気持ちを表現する〉ことを通して,相談や援助の要請をしやすい対人関係を築くようになったと理解していた.以下に,母親が〈心配事を抱え込まず他者に相談して乗り越える〉ようになったと訪問看護師が捉えた語りの例を示す.
『相談の内容は,長男さんが宿題を持って帰ってきても2時間以上かけても終わらない,どうしたらいいでしょうかとか,朝から学校に行きたくないと言って泣いてぐずるとかですね.学校での様子というのは私もはっきりは分からないので,とにかく先生ときちんと話をしたりとか,家での様子もちゃんと伝えたほうがいいですよっていうことで,一応声かけして.そしたら,学校の先生とも連絡を,電話とか取られるようになって,担任の先生に相談をしてみたりとか.(中略)それで相談をしたら,担任の先生から,「できる限りでいいから」って,「無理しないでいいから」って言われたって,それでほっとされて.だから相談することで,少しずつ解決していくんですよってことで.とにかくもう,1人で抱え込まないようにってことで言ったんですよね.1人で抱え込むともう,また動悸がしたりとか.(E)』
3) 【子どもへの関わり方の向上】このカテゴリは〈子どもの気持ちをおしはかった関わりをする〉〈子どもの特性や状況に合わせた関わりをする〉〈子どもとの思い出づくりの活動をする〉〈子どもの関わりに余裕が出てくる〉のサブカテゴリから形成された.すなわち,訪問看護師は,母親が支援者の助言を取り入れながら,子どもに合わせた関わりができるようになることで,子どもとの相互作用が円滑になり,母親自身に余裕が出てきたと捉えたことを示した.
訪問看護師は,子どもの言動や行動に合わせてうまく関わることができない母親が,訪問看護師の助言を受けることで〈子どもの特性や状況に合わせた関わりをする〉ことができるようになったと捉えていた.また,訪問看護師は,母親が子どもの誕生日に一緒にケーキを買いに行くといった〈子どもとの思い出づくりの活動をする〉ことができるようになったと捉えていた.さらに訪問看護師は,母親が子どもとうまく関わることができていることを,訪問看護師に認められることで〈子どもの気持ちをおしはかった関わりをする〉ことができるようになったと認識していた.そして,その積み重ねによって,母親と子どもとの相互作用が円滑になり,母親の〈子どもの関わりに余裕が出てくる〉ことにつながったと訪問看護師は理解していた.以下に,母親が〈子どもの気持ちをおしはかった関わりをする〉ようになったと訪問看護師が捉えた語りの例を示す.
『子どもがしゅーんとして帰ってきて.やっぱり学校で何かあったのかなって気になって.でも子どもが何もしゃべらずにいるときに,「今日どうやった」とか,学校での様子,子どもの声かけをよくされてるんですよね.すると子どもがこうこうだったって.何々ちゃんとのどうしてって,言うらしいんですよ.なので,お母さんが声かけしないとそういうことは言わないんだけれども,うまくそういうのを聞き出せるようにされてですね.(中略)そういう声かけって大事ですよって.話をゆっくり聞いてあげるっていうことも大事だからって(訪問看護師が)言って.それでコミュニケーションの取り方もうまくなってこられて.(E)』
4) 【子どもの生活習慣の確立】このカテゴリは〈子どものために食材を買い自炊をする〉〈子どもの養育のために金銭管理をする〉〈子どもの生活リズムを整え健康に養育する〉〈子どもを危険から守る行動をとる〉のサブカテゴリから形成された.すなわち,訪問看護師は,母親が子どもの健康と成長のために,食事や生活リズムを整え,金銭管理を行い,子どもを危険から守る行動をできるようになったと捉えたことを示した.
訪問看護師は,母親が病状不安定な時期には,食事作りや金銭管理,生活リズムの調整ができなかったが,治療や訪問看護師の関わりにより病状が安定し,〈子どものために食材を買い自炊をする〉ようになったと捉えていた.また,訪問看護師は,母親が先の見通しを立てて〈子どもの養育のために金銭管理をする〉ようになったと認識していた.さらに訪問看護師は,母親が子どもの登校に向けて早寝ができるように〈子どもの生活リズムを整え健康に養育する〉ことや,訪問看護師より助言を受けて〈子どもを危険から守る行動をとる〉ようになったと理解していた.以下に,母親が〈子どもの養育のために金銭管理をする〉ようになったと訪問看護師が捉えた語りの例を示す.
『最近ちゃんとご飯作って食べさせるようになったし,夕方になるとスーパーの近くなので,安い食材を買いに行ったりとかできるように少し,お金(の管理)も上手になってきて.(中略)前は生活保護費を3人分もらってたんですけど,最初にだーって使って,あとはジュースのペットボトルに水をいっぱい入れて,それをジュースのつもりで飲んでたみたいな生活なんですよ.(中略)そこで私が1週間にいくら位使うと最後まで食べれるよみたいな提案とか,少しずつ組み立てていくのを一緒にしたんですよね.「お金のことは一番ナイーブで,私もほんとは言いたくないと,自分も言いたくないでしょ」と「こんなところに私が言うのは筋違いかもしれないけど,(子ども)2人のために最後まで,何か食べるものは残そう」って言って.(I)』
5) 【子どもの円滑な学校生活への支援】このカテゴリは〈子どもの登校に向けた工夫をする〉〈子どもの学習支援をする〉〈子どもの部活動参加へのサポートをする〉〈症状と折り合い学校行事に参加する〉のサブカテゴリから形成された.すなわち,訪問看護師は,母親が症状と折り合い,子どもがスムーズに登校できるための工夫,学習支援や部活動参加へのサポート,学校行事への参加を行い,子どもの円滑な学校生活に向けた支援をできるようになったと捉えたことを示した.
訪問看護師は,睡眠障がいや睡眠薬の影響により朝の体調が悪い中で,朝食準備や子どもの登校準備をしていた母親が,助言により夜のうちに朝食の準備をする等〈子どもの登校に向けた工夫をする〉ようになったと捉えていた.また訪問看護師は,母親から子どもが宿題をすませることができないという困り事を相談されて助言を行い,母親が学校の先生に相談して〈子どもの学習支援をする〉ことができたと認識していた.そして子どもが中学生になり部活動を行うようになると,ユニフォーム代や遠征費用,お弁当代が必要となった.訪問看護師は,母親が助言をもとに家計の工夫を行い〈子どもの部活動参加へのサポートをする〉ことができたと認識していた.さらに訪問看護師は,母親が子どもの授業参観や運動会など人が大勢いる場所への参加を躊躇しているが,子どもは母親の参加を求めており,母親が葛藤していると感じていた.その場合にも訪問看護師は,母親の気持ちに共感し,母親ができる方法を伝えることで,母親が〈症状と折り合い学校行事に参加する〉ことができたと理解していた.以下は,母親が〈症状と折り合い学校行事に参加する〉と訪問看護師が捉えた語りの例を示す.
『運動会とか学校の発表会なども,「できたら行きたくないです」って言う方なのです.今回も春先に運動会があったのですけども,とりあえず参加は出来たのですけども,人けの少ないところで座っていて.やっぱり人の声とか幻聴が気になるので「ほとんど応援はしてません.音楽を聴いたりしてました.」ということなんです.運動会のときのお弁当を一緒に食べるとかは,どうにかできたみたいなんです.(A)』
訪問看護師が捉えた精神障がいをもちながら子育てをする母親の成長は,5カテゴリ,20サブカテゴリが形成された.本研究において「成長」とは,訪問看護を利用している子育て中の精神障がい者である母親が,発達していく子どもとの相互作用や支援者との相互作用の中で,情緒的・知的・社会的に変化したことと定義し分析を行った.本研究結果で明らかとなった訪問看護師が捉えた母親の成長の内容は,情緒面,知的な面,社会的な面の変化が重なり合ってみられた.訪問看護師は,母親が困り事を訪問看護師に相談し,気持ちを受け止めてもらい,母親ができていることを認められることで情緒面が変化したと捉えていた.そして訪問看護師は母親が困り事への解決方法に向けた助言を得ることで,子育てや体調管理の知識を得て,問題解決し乗り越えるといった知的な面が変化したと捉えていた.そして訪問看護師は,母親が訪問看護師をはじめ支援者のケアを受け入れ,子どもを通して社会とつながっていくという社会的な面の変化を捉えていたと考えられた.
柏木・若松(1994)は「親となる」ことによる成長・発達に関する6因子を明らかにしている.本研究結果と照らし合わせると,〈母親が子育てのため自分の体調を管理する〉〈心配事を抱え込まずに他者に相談して乗り越える〉〈子どもの養育のために金銭管理をする〉は柏木の研究の「自己の強さ:自分の健康に気を付けるようになった」「柔軟さ:精神的にタフになった」「自己抑制:自分のほしいものなどががまんできるようになった」と類似しており,訪問看護師は精神障がいをもつ母親が支援を受けながら親として成長していると捉えていると考えられた.一方,本研究結果の〈母親が病気をもつ自分を客観的にみる〉〈症状と折り合い学校行事に参加する〉は,健康な母親を対象とした柏木・若松(1994)や大島(2013)の母親の成長には含まれておらず,訪問看護師が捉えた精神障がいをもつ母親の特徴的な成長と考えられた.
また,上別府・上野・牛島(2006)は,精神疾患を有する母親が独自の工夫を行い病いのセルフケアと子どものケアの両立をはかり,なんとかできるという自信を育んでいることを報告している.本研究においても同様に,訪問看護師は母親が支援を受けながら〈母親が子育てのため自分の体調を管理する〉〈母親が自分を認めることができるようになり自信がつく〉といった【病気のある生活と母親役割のバランスの保持】ができるようになったと捉えていた.
さらに,訪問看護師は,母親が〈子どもの気持ちをおしはかった関わりをする〉〈子どもの特性や状況に合わせた関わりをする〉といった【子どもへの関わり方の向上】が見られたと捉えていた.このことは,訪問看護師は母親が精神障がいをもつ自分との付き合いが難しい状態から,病気をもつ自分とうまく付き合えるようになり,さらに子どもという相手の立場に立った関わりができるようになったと認識していると考えられた.そして訪問看護師は,母親が〈症状と折り合い学校行事に参加する〉といった【子どもの円滑な学校生活への支援】ができるようになったことは,精神障がいをもつ母親が子育てを通して社会とつながり,社会の一員としての役割を担うことであると捉えていると考えられた.つまり,母親として社会の一員としての役割を担うということは,生活の中の有意義な役割をもつ(Ragins, 2002/2005)というリカバリーのプロセスに通じていると考えられる.
澤田(2012)は,子育て中の当事者への面接調査から,育児力の獲得は当事者にとって困難であり,自己の存在価値の否定につながることもあるため,当事者の育児力向上への支援は今後の課題であることを報告している.訪問看護師は,母親が【病気のある生活と母親役割のバランスの保持】【他者への相談と援助の要請】の成長により情緒面が安定し,子どもに対する気持ちを行動として表すための余裕ができると認識していたと考えられる.そして訪問看護師は,母親の【病気のある生活と母親役割のバランスの保持】【他者への相談と援助の要請】の成長と影響しあいながら【子どもへの関わり方の向上】【子どもの生活習慣の確立】【子どもの円滑な学校生活への支援】という育児力の成長につながると捉えていると考えられた.
2. 精神障がいをもつ母親の成長を意図した支援への示唆健康で心理社会的に問題のない女性であっても,親になるということは迷いや戸惑いがあることが報告されている(岡田,2016).さらに精神障がいをもつ母親は,家族間葛藤を含む対人関係や経済的な問題など,重層化した多様なニーズを抱えている場合も多い(榎原・栄,2013).そのため精神障がいをもつ母親は一人で悩みを抱え込み精神状態に影響しやすい.そのような中,訪問看護師が定期的に家庭に訪問し,親子の状況を理解した上で適切な助言をすることで,母親が【他者への相談と援助の要請】をすることができたと訪問看護師は捉えていた.これは村方(2017)が,精神障がいをもつ女性が他者から受けたエンパワメントとして,「子どもや支援者のおかげで母親として成長し,自分が子どもを育てていきたいと思う」と報告しているように,母親自身が訪問看護師からエンパワメントされることで,成長につながったと訪問看護師は捉えていると考えられた.また大島(2013)は,子育て体験による中年期母親の成長の構造の中で,身近な人からの子育ての協力は,子を優先する食事作りや,子と一緒に楽しむといった子本位の関わりに影響を与えていることを報告している.本研究の訪問看護師が捉えた母親の成長の中でも,〈子どもとの思い出づくりの活動をする〉という【子どもへの関わり方の向上】や〈子どものために食材を買い自炊をする〉という【子どもの生活習慣の確立】がみられていた.この成長は定期的に家庭を訪問し母親の相談を受ける訪問看護師が,身近な人として母親の心の支えとなることで成長につながったと訪問看護師が捉えていると考えられた.
さらに大島(2013)は,母親の成長を促進する上で子の気持ちに注目するといった,子から学ぶ体験が重要な役割を果たしていることを報告している.そのため精神障がいをもつ母親の成長を意図した支援を行うために,子どもの力や気持ちを支援者が母親にフィードバックすることや,母親と子どもの相互作用が円滑になるような支援が求められる.玉城(2016)は,精神障がいのある母親への保健・医療・福祉の連携が充実するために,母親の成長を見守る継続した支援や,切れ目のない継続した連携を提言している.また蔭山(2018)はメンタルヘルス不調のある親への育児支援として,「親を子どもの環境として捉えるのではなく,親自身に焦点を当て,親になることを積極的に支援することが重要である」と述べている.以上のことから,支援者は母親の身近な人として心の支えとなりながら母親をエンパワメントし,母親に生じる問題を通して,母親が親としてどのように成長していくことができるかに目を向けた,保健・医療・福祉の連携した支援の必要性が示唆された.
訪問看護師が捉えた精神障がいをもちながら子育てをする母親の成長を明らかにするために,9名の訪問看護師を対象に面接調査を行った.その結果,訪問看護師が捉えた精神障がいをもちながら子育てをする母親の成長は,【病気のある生活と母親役割のバランスの保持】【他者への相談と援助の要請】【子どもへの関わり方の向上】【子どもの生活習慣の確立】【子どもの円滑な学校生活への支援】の5カテゴリが形成された.訪問看護師は母親が支援を受けながら親として成長していると捉えていると考えられた.
そして〈母親が病気をもつ自分を客観的にみる〉〈症状と折り合い学校行事に参加する〉は健康な母親を対象とした先行調査には見られず,訪問看護師が捉えた精神障がいをもつ母親の特徴的な成長と考えられた.さらに訪問看護師は,母親の【病気のある生活と母親役割のバランスの保持】【他者への相談と援助の要請】の成長と影響しあいながら【子どもへの関わり方の向上】【子どもの生活習慣の確立】【子どもの円滑な学校生活への支援】という育児力の成長につながると捉えていると考えられた.
本研究の結果より,支援者が母親の心の支えとなりエンパワメントすることで母親の成長につながると考えられた.今後母親の成長を意図した保健・医療・福祉の連携した支援の必要性が示唆された.
本研究は,訪問看護師が捉えた精神障がいをもちながら子育てをする母親の成長を明らかにしたものであり,母親自身が捉える成長について明らかにできていない.今後は母親への面接調査を行い,当事者の視点からの研究が必要である.また,訪問看護師が捉える母親の成長と,母親自身が捉える成長の合致や差異の視点から支援を検討することが課題である.さらに母親の疾患,家族状況やサポート状況による成長の違いの検討は不十分であり,今後の課題である.
しかし,定期的に家庭を訪問する訪問看護師は,精神障がいをもつ母親が子育てを通し成長すると捉えていることを明らかにできた点で,今後母親の成長を意図した支援を行う上で意義ある研究である.
本研究にご協力くださいました訪問看護師の皆様,並びに調査協力を快諾してくださいました訪問看護ステーションの皆様に心より御礼申し上げます.
YDは研究計画,データ収集・分析,論文執筆を行った.STはデータ分析,研究全体の助言を行い,すべての著者が最終原稿を読み,承諾した.
本研究における利益相反は存在しない