Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
Online ISSN : 2432-101X
Print ISSN : 0918-0621
ISSN-L : 0918-0621
Reports
Relationship between Recovery Attitudes and Ethical Behaviors of Psychiatric Nurses
Miki Fukushima
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 30 Issue 1 Pages 50-58

Details
Abstract

本研究の目的は,精神科看護師のリカバリー志向性と倫理的行動の関連を明らかにすることである.精神科看護師に1)基本属性,2)精神科看護師の倫理的行動測定尺度,3)リカバリー志向性(RAQ-7)からなる無記名自記式質問紙調査を実施し,187名の回答を得た.

RAQ-7合計得点を平均値で2分し,低群および高群を設定したところ低群は76名(40.6%),高群は111名(59.4%)であった.2群間で倫理的行動測定尺度の各項目を検討した結果,「ニーズへの対処」,「敬意・謝意の表出」および合計得点で有意差が認められた.RAQ-7合計得点を従属変数とするロジスティック回帰分析の結果,関連していたのは「ニーズへの対処」(OR = 1.593)であった.対象者その人そのものを理解しようと努め,ニーズを敏感に察知しそれに応える姿勢がリカバリー志向性を高める.

Translated Abstract

The purpose of this study was to clarify the relationship between ethical behaviors and recovery attitudes of psychiatric nurses. Psychiatric nurses were given a self-administered questionnaire consisting of 1) questions on basic attributes, 2) a scale measuring ethical behavior of psychiatric nurses and 3) the Recovery Attitudes Questionnaire (RAQ-7). A total of 187 responses were obtained.

Based on the average total scores of the participants on RAQ-7, they were divided into two groups: the low-scoring group consisted of 76 nurses (40.6%) and the high-scoring group consisted of 111 nurses (59.4%). When the two groups were compared on each type of behavior on the ethical behavior measurement scale, significant differences were found in the “addressing needs” and “expressing respect and appreciation” behaviors as well as in the total score. After performing a logistic regression analysis using the total RAQ-7 score as the dependent variable, the “addressing needs” behavior was found to be related to recovery attitudes (OR = 1.593). This indicates that an attitude of trying to understand the patients themselves, being sensitive to their needs, and responding to them enhances recovery attitudes.

Ⅰ  はじめに

厚生労働省が発表した「精神保健福祉のデータと政策」(2018)によると精神科病院において,1年以上在院期間のある者が約17万人,うち5年以上の者が約9万人であることが示されている.長期入院の弊害は大きく,当事者は地域生活を営むことに不安を強め,将来への希望や,希望実現に向けて挑戦する勇気を失いがちである(渡邉・池田,2010).さらに看過できないのは精神医療におけるパターナリズムによって多くのことを喪失しているという事実である.その中には憲法で保障されている権利も含まれる.とりわけ,法の下の平等,生存権,自己決定権を含む幸福追求権はその行使の機会を逸し,人生の主役が自分ではない人生を生きることを余儀なくされてきた状況が少なからず在る.

精神保健福祉におけるリカバリーとは,精神障害を有する人が生き方を主体的に追求するプロセスであり(野中,2010),リカバリーは地域で暮らしてこそ発展する.日本は欧米に比べて脱施設化が進まず入院医療中心の文化であり,「精神科病院自体のリカバリー志向性の低さ」(伊藤,2006)が指摘されている.入院している当事者の病期に関係なく,リカバリーは促される必要がある.このことから,精神科病院においてリカバリー志向性が重要となる集団は急性期や慢性期といった種別によらず,あらゆる病棟に所属する看護師全体であり,退院支援を行っているか否かは関係がないと考えられた.

Borkin et al.(2000)は,リカバリー志向性を精神疾患からリカバリーすることができるという姿勢と定義している.このことから,リカバリー志向性が高い状態とは当事者の主体性を尊重し対等に関わる構えがあることを指すと考える.一方,倫理的行動とは人間的な配慮と尊厳を重視した対応を指す(西田・坂東・高間,2014)とされる.すなわち,意識と行動(実践)の双方を含むことがわかる.

なお,リカバリーの構成要素に敬意が含まれる(野中,2010)ことや日本精神科看護協会の倫理綱領(2004)において,個人の尊厳と権利の擁護が謳われていることから,リカバリー志向性と精神科看護師の倫理的行動は密接に関連すると推測される.この関連が明らかになるならば教育によって,人間的な配慮(意識)と尊厳を重視した対応(行動)をより高めることが可能である.

リカバリー志向性および精神科看護師の倫理的行動に関する先行研究の検索の結果を以下に記す.リカバリー志向性に影響する要因は,心理・社会的要因として,精神障害者に対して肯定的態度であることが挙げられている.また,リカバリーの知識と関心および教育に関する要因として,リカバリーに関する情報の必要性を感じていること,リカバリーの知識や関心が高いことおよび研修会参加に積極的である(藤野・藤本,2016)ことが挙げられている.直接的なリカバリー支援の実践経験数がリカバリー志向性RAQ-7の下位因子「困難」と正の相関があり,実践経験を重ねるほどリカバリーへの困難を感じやすく,リカバリーの仕方は人によるという思考,態度を高める(樋口ら,2014).また,RAQ-7と楽観性には弱い正の相関がある(藤野・樋口・藤本ら,2019).専門職者がリカバリー支援で大切だと思っている事柄は,個々の専門職者―対象者間の関係性や専門職者の考え方やスキル,チームや組織としての取り組みなどに関する内容である(千葉・梅田・宮本ら,2018).一方,精神科看護師の倫理的行動に影響する要因は自己効力感であり(坂東・西田・高間,2015),倫理的行動尺度の得点は女性が男性に比べ有意に高く,精神科経験年数では5~10年未満群は3年未満群に比べ有意に高い(西田・坂東・高間,2014).また,大出が開発した看護師の倫理的行動尺度を用いて精神科看護師を対象に行った調査では,倫理的行動尺度の得点は一般職より管理職の看護師の方が高く,並びに精神科勤務年数11年以上群の方が10年以下群に比べ有意に高い(道上・大出,2018)ことが示されている.

しかし,精神科看護師のリカバリー志向性と倫理的行動の関連に焦点を当てた研究は見当たらない.医療者主導ではない当事者の希望に基づいた真のリカバリー支援を実践する上で,倫理的行動に力点を置き,リカバリー志向性との関連を見ることが重要であると考えられた.本研究の意義は,リカバリー志向性と倫理的行動の関連を明らかにすることで,リカバリー志向性を高めるために働きかけるべき倫理的行動についての示唆を得ることが出来ると期待される.

Ⅱ  研究目的

精神科看護師のリカバリー志向性の実態およびリカバリー志向性と倫理的行動の関連を明らかにする.これにより,現在の精神科看護がよりリカバリー志向へと変容するための基礎資料への示唆を得る.

Ⅲ  研究方法

1. 調査対象者

リカバリー志向性が特に重要となる集団は,急性期および慢性期病棟・療養型病棟に勤務する看護師集団である.この集団に調査協力の依頼をするために,施設の選定基準を次の通りとした.今後の精神保健医療の推進には,長期入院の定義を1年以上から6ヵ月以上に短縮することの議論が望まれる(竹島,2017)ことから,医療施設(動態)調査・病院報告の概況(2015)において,精神病床の人口10万対1日平均在院患者数が少ない上位5位以内であり,第2回精神障害者の地域移行担当者会議「事前課題」シート(厚生労働省,2016)において入院後6ヵ月時点での退院率が80%を超えている県域を選出した.なお,この2条件を満たしたのは中部地方と近畿地方の3つの県であった.調査対象者は,この3つの県に立地している精神科病院および精神病床を有する総合病院の急性期病棟及び慢性期病棟・療養型病棟に勤務する看護師及び准看護師とした.この中からランダムに抽出した20施設に研究協力依頼を行った結果,7施設から同意が得られた.

7施設のうち,6施設は単科の精神科病院であったが,1施設は精神病床を有する総合病院であった.各施設の病床数の内訳は,100床未満が1施設,100床以上200床未満が3施設,300床以上が3施設であった.

調査依頼は各施設の看護部長に対して文書と口頭,あるいは文書で説明を行い,看護部を通して無記名自記式質問紙を配布した.質問紙の返送をもって同意が得られたとみなし,郵送法にて回収した.

2. 調査内容

調査内容は基本属性,精神科看護師の倫理的行動測定尺度,リカバリー志向性を用い,質問紙を構成した.

1) 基本属性に関する質問項目

年齢,性別,病棟の種別,看護師免許の種別,精神臨床経験年数,役職の有無,リカバリーの認知,身内に精神疾患を持つ者の存在の有無,勤務遂行上の過酷な感情体験の有無,倫理的問題を話し合う時間の有無の計10項目とした.なお,リカバリーの認知は「リカバリーを知っていますか」という文言で尋ねた.

2) 精神科看護師の倫理的行動測定尺度

坂東・西田・高間(2014)が開発した精神科看護師に限定した倫理的行動を測定するための尺度である.倫理的行動とは人間的な配慮と尊厳を重視した対応を指し,意識と行動の双方を含む.本尺度は「意思の尊重」,「ニーズへの対処」,「敬意・謝意の表出」,「危機回避」,「無責任行為の回避」の5因子20項目からなり,「非常に当てはまる」から「非常に当てはまらない」の5件法である.各下位尺度の得点範囲はいずれも4~20点であり,それぞれの項目の得点を合算して合計スコアを算出するが,「無責任行為の回避」の4項目はすべて逆転項目であり反転させた数値が得点となる.合計スコアの範囲は20~100点で得点が高いほど倫理的行動であることを示している.

「ニーズへの対処」には,ディストレスに対してとっている患者の対処行動の効力を観察しているといった項目が,「危機回避」には,患者の依頼事項に対しては必ず早めに対応,回答しているといった項目がある.信頼性,妥当性は検証されている.

3) リカバリー志向性(日本語版7項目版Recovery Attitudes Questionnaire;RAQ-7)

日本語版7項目版RAQ-7はBorkin et al.(2000)の作成したオリジナル版をChibaらが翻訳したものであり,リカバリーへの態度・姿勢を測定する尺度である.本研究ではリカバリー志向性を測定するためにこのRAQ-7を用いた.本尺度は「信念」「困難」の2因子7項目からなる.教示文を読後,質問に答えてもらう.「とてもそう思う」から「まったくそう思わない」の5件法であり 得点が高いほどリカバリーへの態度が前向きであることを示している.リカバリー志向性が高いあるいは低いといった得点の基準は特にない.下位尺度の得点範囲は「信念」が4項目あり4~20点,「困難」が3項目で,3~15点である.下位尺度の得点の合算で合計スコアを算出し,その範囲は7~35点であ‍る.

「信念」には,精神の病気の原因を何であると考えていたとしても,リカバリーは可能であるという項目があり,「困難」には,リカバリーの過程にある人は,時には後戻りすることもあるという項目がある.この尺度の信頼性,妥当性は検証されている.

3. 調査方法

研究承諾が得られた施設の対象病棟の看護師に無記名自記式アンケート調査を実施した.

4. 分析方法

リカバリー志向性の高さと基本属性との関連を調べるため,RAQ-7得点の平均値で参加者を2群に分け,RAQ-7の高得点群と低得点群で性別,年齢,看護師免許の種別,役職の有無,精神科臨床経験年数,リカバリーを知っているか,身内や知り合いに精神疾患を有する人の存在の有無,職務遂行上の過酷な感情体験の有無,病棟での倫理的問題を話し合う時間の有無に違いがあるか,連続変数についてはMann-WhitneyのU検定,カテゴリカル変数に関してはカイ二乗検定を用いて検定した.RAQ-7の高得点群と低得点群における倫理的行動測定尺度の平均値を算出し,2群間の差をMann-WhitneyのU検定で検定した.リカバリー志向性と倫理的行動測定尺度の相関は,Spearmanの順位相関を用いて算出した.基本属性における資格の種別は准看護師を0,看護師を1,役職は無しを0,有りを1として扱った.リカバリー志向性に関連する要因を検討するためにリカバリー志向性の合計スコアを従属変数,基本属性の10項目および倫理的行動測定尺度の5つの下位尺度を説明変数として強制投入法にてロジスティック回帰分析を行った.ロジスティック回帰分析を行うにあたって,多重共線性を排除するため各尺度間の相関を算出し,相関係数0.9を超える変数の有無の確認を行ったが存在しなかった.これらの統計すべて有意水準5%とし,統計解析にはIBM社のSPSS ver. 26を使用した.

5. 倫理的配慮

本研究の目的及び概要,個人情報保護の配慮,研究結果の公表について,研究対象者に文書で説明した後調査を実施した.同時に研究への途中辞退を認めるがアンケート返送後の研究協力への同意撤回はできないこと,研究協力の有無によって不利益を生じないことを説明した.なお,豊橋創造大学研究倫理委員会の承認(H2018003)を得たのちに実施した.

Ⅳ  結果

1. 対象者の背景

調査の説明を文書にて行い,同意が得られた者は252名であった.そのうち欠損のない187名を分析対象とした(有効回答率74.2%).対象者187名のうち男性は78名(41.7%),女性は109名(58.3%)であり,平均年齢(±SD)は42.6 ± 11.6歳,精神科臨床経験年数は12.5 ± 9.3年であった.所属病棟の内訳は,急性期病棟が57名(30.5%),慢性期病棟が71名(38.0%),療養型病棟が59名(31.6%)であり,慢性期病棟と療養型病棟を合わせると130名(69.6%)であった.RAQ-7得点の平均値で2分し,25点以下を低群,26点以上を高群としたところ,RAQ-7低群は76名(40.6%),高群は111名(59.4%)であった.

2. RAQ-7の得点およびRAQ-7低群・高群と基本属性との関係

RAQ-7合計得点の平均値(±SD)は25.9 ± 3.1点であった.項目ごとの集計においては「精神の病気からのリカバリーのしかたは,人によって異なる」が4.1 ± 0.6点で最も高く,「重い精神の障害を持つ人は誰でも,リカバリーするために励むことができる」が3.3 ± 0.9点と最も低かった.リカバリーを知っていたのは120名(64.2%)でその者の精神科臨床経験年数は14.0 ± 9.4年,リカバリーを知らないと答えた67名(35.8%)の精神科臨床経験年数は9.75 ± 8.4年であった.RAQ-7得点低群(25点以下)と高群(26点以上)で,基本属性の各項目を検討した結果は表1に示す.

表1 RAQ-7低群・高群と基本属性との関係 N = 187
n(%) RAQ-7低群 RAQ-7高群 χ2 p
25点以下
76(40.6%)
26点以上
111(59.4%)
性別 78(41.7%) 27(34.6%) 51(65.4%) 2.01 .16
109(58.3%) 49(45.0%) 60(55.0%)
平均年齢±SD 42.6 ± 11.6 42.5 ± 12.3 42.5 ± 11.1 4,178(U) .91
所属病棟 急性 57(30.5%) 16(28.0%) 41(72.0%) 5.37 .02*
慢性 71(38.0%) 30(42.2%) 41(57.8%)
療養 59(31.6%) 30(50.8%) 29(49.2%)
看護師免許の種別 看護師 146(78.1%) 50(34.2%) 96(65.8%) 11.29 .00**
准看護師 41(21.9%) 26(63.4%) 15(36.6%)
役職の有無 有り 34(18.2%) 8(23.5%) 26(76.5%) 5.04 .03*
無し 153(81.8%) 68(44.4%) 85(55.6%)
精神科臨床経験年数±SD 12.5 ± 9.3 11.8 ± 8.6 13.0 ± 9.6 3,950(U) .46
リカバリーの認知 有り 120(64.2%) 44(36.7%) 76(63.3%) 2.19 .14
無し 67(35.8%) 32(47.8%) 35(52.2%)
身内に精神疾患を持つ者の存在 有り 57(30.5%) 20(35.0%) 37(65.0%) 1.05 .31
無し 130(69.5%) 56(43.0%) 74(57.0%)
過酷な感情体験の有無 有り 118(63.1%) 45(38.2%) 73(61.8%) .83 .36
無し 69(36.9%) 31(44.9%) 38(55.1%)
倫理的な問題を話す時間の有無 有り 127(67.9%) 49(38.6%) 78(61.4%) .70 .41
無し 60(32.1%) 27(45.0%) 33(55.0%)

*p < 0.05,**p < 0.01

RAQ-7 = Recovery Attitudes Questionnaire(リカバリー志向性尺度)

急性期病棟のRAQ-7得点高群は57名中41名(72.0%),慢性期病棟(療養型病棟は慢性期に含めた)は130名中70名(53.8%)であった.看護師免許の種別では,看護師のRAQ-7得点高群は146名中96名(65.8%),准看護師は41名中15名(36.6%)であった.役職の有無では,役職ありのRAQ-7得点高群は34名中26名(76.5%),役職なしは153名中85名(55.6%)であった.リカバリー志向性高群で,低群に比べて,慢性期病棟(療養型病棟は慢性期に含めた)に勤務する者より急性期病棟に勤務する者の方(p < 0.05)が,准看護師より看護師の方(p < 0.01)が,役職のない者よりある者の方(p < 0.05)がそれぞれ有意に多かった.なお,リカバリーの認知では有意差が認められなかったものの,リカバリーを知っていると回答した者の精神科臨床経験年数は14.1 ± 9.4年,知らないと回答した者は9.8 ± 8.4年であり有意差が認められた(p < 0.01).

3. RAQ-7低群・高群と倫理的行動得点との比較

RAQ-7低群・高群の群ごとの倫理的行動測定尺度の合計得点と下位尺度,「意思の尊重」,「ニーズへの対処」,「敬意・謝意の表出」,「危機回避」,「無責任行為の回避」の得点の平均値±SDを表2に示す.

表2 RAQ-7低群・高群と倫理的行動得点との比較
RAQ-7低群(n = 76)
平均値±SD
RAQ-7高群(n = 111)
平均値±SD
U p
意思の尊重 16.8 ± 2.2 16.8 ± 1.9 4181.5 .92
ニーズへの対処 14.6 ± 1.7 15.6 ± 1.6 2920.5 .00***
敬意・謝意の表出 15.8 ± 2.1 16.3 ± 1.9 3461 .03*
危機回避 14.7 ± 1.9 15.2 ± 1.8 3522.5 .05
無責任行為の回避 13.2 ± 6.3 13.0 ± 2.4 3914.5 .40
合計スコア 74.5 ± 6.5 76.9 ± 5.8 3319 .01*

*p < 0.05,***p < 0.001

Mann-Whitney U検定

RAQ-7 = Recovery Attitudes Questionnaire(リカバリー志向性尺度)

リカバリー志向性高群で,低群に比べて,「ニーズへの対処」得点が有意に高かった(p < 0.01).また,倫理的行動測定尺度合計得点および「敬意・謝意の表出」得点でも有意に高かった(p < 0.05).

4. RAQと基本属性および倫理的行動測定尺度の相関

リカバリー志向性(RAQ-7)の合計得点および下位尺度と基本属性,倫理的行動の合計得点および5つの下位尺度との相関について,Spearmanの順位相関で検討した結果を表3に示す.

表3 RAQ-7と各尺度の相関
資格の種別 役職の有無 倫理的行動測定尺度
意思の尊重 ニーズへの
対処
敬意・謝意の
表出
危機回避 無責任行為の
回避
合計
RAQ-7合計 0.30** 0.23** 0.03 0.32** 0.29** 0.20** 0.08 0.28**

*p < 0.05,**p < 0.01

Spearmanの順位相関

資格の種別:准看護師=0 看護師=1,役職の有無:なし=0 あり=1,RAQ-7 = Recovery Attitudes Questionnaire(リカバリー志向性尺度)

RAQ-7合計点と「資格の種別」(r = 0.30, p < 0.01),「役職の有無」(r = 0.23, p < 0.01),「ニーズへの対処」(r = 0.32, p < 0.01),「敬意・謝意の表出」(r = 0.29, p < 0.01),「危機回避」(r = 0.20, p < 0.01)倫理的行動測定尺度の合計得点(r = 0.28, p < 0.01)において有意な正の相関がみられた.

5. RAQ-7得点を従属変数とするロジスティック回帰分析

年齢,性別,病棟の種別,資格の種別,役職の有無,精神科臨床経験年数,身内に精神疾患を有する者の存在の有無,リカバリーの認知,過酷な感情体験の有無,倫理的問題を話し合う時間の有無,倫理的行動測定尺度の下位尺度「意思の尊重」,「ニーズへの対処」,「敬意・謝意の表出」,「危機回避」,「無責任行為の回避」の各得点を説明変数とし,RAQ-7得点を従属変数とするロジスティック回帰分析を強制投入法にて行った結果を表4に示す.

表4 RAQ-7合計得点を従属変数とするロジスティック回帰分析
OR 95%Cl p
下限 上限
性別
 男性 0.63 1.26 0.32 0.2
 女性 Ref.
年齢 0.99 1.02 0.95 0.5
病棟の種別
 急性期 2.08 5.06 0.85 0.1
 慢性期 1.35 2.98 0.61 0.46
 療養型 Ref.
資格の種別
 准看護師 1.99 4.5 0.88 0.1
 看護師 Ref.
役職の有無
 なし 2.28 6.36 0.82 0.12
 あり Ref.
臨床経験年数 0.41 1.00 1.00 0.41
リカバリーの認知
 知らない 1.18 2.42 0.57 0.67
 知っている Ref.
身内に精神疾患を持つ者の存在の有無
 いない 1.33 2.78 0.64 0.45
 いる Ref.
過酷な感情体験の有無
 なし 1.09 2.19 0.54 0.8
 あり Ref.
倫理的問題を話し合う時間の有無
 なし 0.84 0.4 1.75 0.64
 あり Ref.
意思の尊重 0.94 1.12 0.79 0.5
ニーズへの対処 1.59 2.11 1.2 0.001
敬意・感謝の表出 0.91 1.14 0.73 0.44
危機回避 0.95 1.22 0.74 0.7
無責任行為の回避 0.97 1.07 0.89 0.58

OR:odds ratio,95%Cl:95%confidence interval

RAQ-7 = Recovery Attitudes Questionnaire(リカバリー志向性尺度)

有意差が認められたのは,「ニーズへの対処」(OR = 1.59)であった.「ニーズへの対処」の倫理的行動得点が高いほどリカバリー志向性の得点も高かった.

Ⅴ  考察

リカバリー志向性RAQ-7を用いて調査を行ったところ,本研究では倫理的行動のリカバリー志向性への関連が認められた.以下にその考察を述べる.

1. 精神科看護師のリカバリー志向性の得点と基本属性との比較

本調査のRAQ-7合計点の平均値(±SD)は25.9 ± 3.1点であり,RAQ-7で最高および最低の得点を示した項目は,藤野ら(2019)の先行研究とほぼ同様の結果であった.RAQ-7 7項目中の最高点の項目は「精神の病気からのリカバリーのしかたは人によって異なる」であった.この理由はリカバリーの構成要素の一つである個別的・個人中心(野中,2010)であることの意味を認識し単に等しく同じではなく唯一つという個の尊さをリカバリー支援にも適用しようとしているためであると言えよう.最低点の項目は「重い精神の障害を持つ人は誰でもリカバリーするために励むことができる」であった.この理由は未来への希望があることを本気で信じられる(門屋,2005)という感覚を持つまでに至っていないことを意味すると考えられた.

基本属性との関係では,慢性期・療養型病棟より急性期病棟に勤務する看護師の方が有意に(p = 0.02)高かった.急性期の患者において前景に立つ症状は速やかに改善に向かうケースが多い.さらに,タイムリーな看護介入によって回復が望め,地域に帰っていく姿を見届ける機会がある.一方,慢性期病棟の患者は症状や障害が残り,生活に大きな影響を及ぼしている者が少なくない.退院を困難にする多様な因子には,罹患期間の長さや継続在院期間の長さおよび高齢化が含まれる(古谷,2014).まさにこれらの因子を持つ患者層は慢性期病棟に見受けられる.退院に至らず入院期間が遷延する中で,看護師は患者の些細な変化を見出すことが難しくリカバリーの意識が薄れることが考えられた.

看護師免許の種別では准看護師より看護師の方が有意に高かった.この理由は看護教育の基本的方針の差異にあると考えられる.看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン(厚生労働省,2016)では,看護師教育の中に最新知識・技術を自ら学び続ける基礎的能力を養うとある.しかし,准看護師にはこのことは含まれていない.リカバリーは比較的新しい概念であり,2001年以降日本においても徐々に浸透してきた.看護師の方が日々自らの知識をアップデートする意識が高い可能性があり,その差が表れたと考えられた.

役職がない者よりある者の方が有意に得点が高かった.役職者は豊富な臨床経験および専門知識やアセスメント力を備え,患者を包括的に把握し病棟全体を俯瞰する存在である.患者中心の医療実現の一要素は権利擁護を師長の業務として明確すること(中神・星野・栗田,2013)である.これらのことから有意に得点が高かった理由として,役職者は権利擁護の観点から病棟という環境が患者に与える影響を吟味する意識が高い可能性が考えられた.

2. 倫理的行動測定尺度の得点とリカバリー志向性との相関からみるリカバリー志向性の高い看護師の特性

倫理的行動測定尺度合計得点の平均値(±SD)はRAQ-7高群が76.9 ± 5.8点,低群は74.5 ± 6.5点であった.同様の尺度を用いて調査した先行研究(西田・坂東・高間,2014)で示されている精神科勤務年数10年以上の者の平均値73.3点を上回っていた.本研究における倫理的行動測定尺度の合計得点が高かった理由に調査実施施設の特徴の影響があるか否かは不明である.しかし,2014年に障害者権利条約が批准されたことや,関連する法律が整備されたことにより,精神障害者の権利擁護が意識されやすくなったことが考えられ‍た.

倫理的行動測定尺度の下位尺度「ニーズへの対処」の得点は1%水準で,「敬意・謝意の表出」と得点は5%水準でRAQ-7高群が有意に高かった.また,「危機回避」についても高群が有意に高い傾向が認められた.「ニーズへの対処」には「忙しくても患者がストレスを訴える時には,よく話を聞く」といった設問が,「敬意・謝意の表出」には「患者が大人として稚拙であっても軽視せず対応する」といった設問が含まれる.この結果から,リカバリー志向性が高い看護師は,対等な関係性を構築し,誠実に患者に関わる姿勢がうかがえる.

リカバリー志向性合計得点と倫理的行動測定尺度の合計得点,さらに3つの下位尺度「敬意・謝意の表出」,「ニーズへの対処」および「危機回避」において相関が認められた.このことは,リカバリー志向性が倫理的行動に基づいた質の高い看護実践の中から派生することを表している.リカバリーの知識や関心の高さはもちろんだが,バランスの取れた倫理的行動がとれるよう円熟していくには10年という経験年数が一区切りとなる(道上・大出,2018)ように経験の蓄積が必要である.本研究においてもリカバリーの認知なしと答えた67名の精神科臨床経験年数の平均値(±SD)は9.8 ± 8.4年,認知有りと答えた120名は14.1 ± 9.4年であり有意差が認められた.この結果から倫理的行動の円熟と同様,リカバリー志向性(意識)の成熟も10年という精神科臨床経験年数が境界線となる可能性が示唆された.

3. リカバリー志向性と有意な関連のあった要因からみる,リカバリー志向性を高める方法への示唆

本研究ではリカバリー志向性の高い人に関連していたのは倫理的行動測定尺度の下位因子「ニーズへの対処」であった.「ニーズへの対処」の倫理的行動得点が高いほどリカバリー志向性の得点も高かった.

入院が長期化し,慢性状態にある患者はニーズを表出することが難しくなる.しかし,ニーズを表出しにくい状態にあるだけでニーズそのものは有している者も存在することを看護師は認識しなければならない.ニーズの把握は患者の意思をくみ取る,患者の希望を聞くことでなされる(沼・本間・近藤ら,2013).つまり,隠されたニーズの中に当事者も気づいていない夢や希望の片鱗が覗く.希望がリカバリーに果たす役割は非常に大きく陰性症状のある患者であっても支援者は長く関わりを持つ中で患者は変わっていける(池淵,2014).

ニーズへの対処行動を取っている看護師はリカバリーに対しての意識が高まるという関連があるとするならば,リカバリー志向性を高めるためには,ニーズへの対処行動を増やす,ニーズに気付くためのトレーニングをするなどが考えられた.また,リカバリー志向性が高い人は,ニーズを敏感に察知する姿勢がより高く,ニーズへの対処行動を取りやすくなるという関係も考えられる.その基盤にはその人そのものをありのまま,理解しようと努める姿勢があると考えられた.

Ⅵ  本研究の限界と今後の課題

本研究は,限られた地域7施設の252人を研究対象者としており,一般化するには十分といえない.また,横断研究のため因果関係が不明である.人口10万対1日平均在院患者数が少なく上位5位以内であり,入院後6か月時点での退院率が80%を超えている県を対象施設の地域選定の条件とし,この2条件を満たす中部地方と近畿地方の3県のその地域に存在する単科の精神科病院6施設と精神病床を有する総合病院1施設で実施しているが,退院率が80%未満の府県にある施設との比較は行っていない.また,地域の特徴が及ぼす回答への影響が不明である.今後は対象施設を広げ,より多くのサンプル数で,看護倫理やリカバリー教育の実態も明らかにしつつ考察することが求められる.

Ⅶ  結論

精神科病院に勤務する看護師のリカバリー志向性と倫理的行動の関連を明らかにするために,無記名自記式質問紙を用いて調査した.RAQ-7合計点の平均値±SDは25.9 ± 3.1点であった.項目別では「精神の病気からのリカバリーのしかたは人によって異なる」が最も高く,「重い精神の病気を持つ人は誰でもリカバリーするために励むことができる」が最も低かった.RAQ-7の合計得点を平均値で2分したところ高群は111名,低群は76名であった.倫理的行動測定尺度の合計得点と下位尺度の2群間の比較においては,「ニーズへの対処」,「敬意・謝意の表出」および合計得点で有意差が認められた.精神科看護師のリカバリー志向性に関連する要因はロジスティック回帰分析の結果,「ニーズへの対処」であった.ニーズを敏感に察知しそれに応え,その人そのものをありのまま理解しようと努める姿勢がリカバリー志向性を高める.

謝辞

本研究にご協力いただきました各施設の関係者の皆様,アンケートに回答し,提出していただきました看護師の皆様に心から感謝申し上げます.なお,本研究の一部は日本精神保健看護学会第30回学術集会において発表した.

著者資格

MFは,研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文の作成を行った.そして,最終原稿を読み承認した.

利益相反

本研究において利益相反は存在しない.

文献
 
© 2021 Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
feedback
Top