Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
Online ISSN : 2432-101X
Print ISSN : 0918-0621
ISSN-L : 0918-0621
Original Articles
Inpatient Nursing for Abused Adolescents with Problematic Behaviors
Saeri OhashiAkiko Funakoshi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 30 Issue 1 Pages 12-20

Details
Abstract

本研究は,問題行動を呈し児童・思春期精神科病棟に入院した思春期の被虐待児に対する看護介入を明らかにすることを目的とした.児童・思春期精神科病棟での臨床経験が通算5年以上,かつ,問題行動を呈する思春期の被虐待児への看護について経験したことがある看護師9名に対して,個人面接による半構造化インタビューを行った.分析には,テーマ分析を用いた.

その結果,問題行動を呈して入院した思春期の被虐待児に対して《子どもがスタッフから大切にされていると感じられるように関わる》《子どもが安心できる枠組みを提供する》《問題行動以外の表現方法の習得を助ける》《退院後の生活に向けて気持ちを固めていくことをサポートする》《子どもの拠り所をつくる》という5つのテーマと,テーマの下位に存在するより具体的な看護師の行為を示すサブテーマを明らかにした.

Translated Abstract

The aim of the present study was to clarify the nursing interventions used at child and adolescent psychiatric wards for abused adolescents with problematic behaviors. Semi-structured interviews were conducted with 9 nurses with at least 5 years’ clinical experience of working at child and adolescent psychiatric wards. The data were analyzed using thematic analysis.

We identified 5 key nursing themes designed to help patients: engaging with child so that he or she feel valued by staff; providing a framework where child can feel at ease; helping to acquire expressions other than problem behavior; doing support to solidify feelings for life after discharge; and creating a foundation for child. Each nursing theme consisted of sub-themes that showed more specific nurse behavior.

Ⅰ  はじめに

子どもの心身の発達に影響を及ぼす問題の一つに児童虐待が挙げられる.児童虐待は,極端な外傷的出来事に長期持続的に,あるいは反復して曝露することによる長期反復性トラウマであり,身体的虐待,心理的虐待,性的虐待,ネグレクト,DV目撃などがそれぞれ重なりあっている(飛鳥井,2007).虐待を受けた子どもには,感情調節障害,注意および集中の障害,否定的な自己像,衝動コントロールの問題,攻撃性や危険を顧みない行動の問題などが50%以上に見出され,身体化,問題行動や反抗挑戦性,年齢不相応な性的関心や性的行動,アタッチメントの問題,解離症状が3分の1に見出されたと報告されている(Spinazzola, & Kolk, 2005).さらに,児童虐待は生涯を通じて続く可能性のある多くの有害な結果とも関連する.児童虐待と成人期の身体的健康との関連を調査した研究では,関節炎や高血圧,片頭痛,慢性閉塞性肺疾患,癌,脳卒中,腸疾患,および成人期の慢性疲労症候群との関連が示されている(Afifi et al., 2016).

心理的危機やストレスへの反応として現れる行動は子どもによって多様であり,逆境的体験を経験した子どもは,様々な問題行動を引き起こす.逆境的体験とは心理的虐待,身体的虐待,性的虐待,家庭内暴力,家庭内での薬物乱用,家庭内の精神障害,親との離別や離婚,家族の収監であり,虐待はその主要なものである(Felitti, Anda, & Nordenberg, 1998).幼児期の逆境的体験への曝露が,小児期中期にみられる,攻撃的行動やルール違反といった外在化問題行動,不安や抑うつ,身体的愁訴といった内在化問題行動と強く関連していることが示されている(Hunt, Berger, & Slack, 2017).また,子ども時代に逆境的体験を4つ以上経験した場合,成人期の大量飲酒や喫煙リスク,HIV感染リスクの高い行動を取る可能性を高めることが報告されている(Campbell, Walker, & Egede, 2016).

虐待を受けた子どもやその家族の支援において,児童・思春期精神科の入院治療は,虐待ケースを含め精神的な病理が重症な場合への一時的な危機介入や,子どもの精神発達の問題や精神疾患が背景にあって生じる問題行動に対して,家庭や施設から離れて治療することが必要な場合の介入を担っている.多職種が連携しながら入院治療に関わっており,看護師は子どもの入院生活全般に最も近いところで関わる重要な役割を担っている.現在,児童・思春期精神科病棟に入院中の被虐待児への看護については,子どもとの関係の構築や成長発達を促す援助が報告されている.佐保(2016)は,児童精神科病棟において警戒心の強い学童期の被虐待児と対人相互関係を結ぶ際,子どもが安心していられること,そして子どもらしくいられることが重要であるとしている.また伊藤ら(1995)は,入院中の被虐待児の成長発達は,子どもを全面受容し,素直な甘えの表出を促進する時期を経て促されることを明らかにしている.しかし,これらの研究における子どもの年齢は乳幼児期から学童期であり,思春期の被虐待児への看護介入については明らかになっていな‍い.

思春期は,親に支えられながら親離れを果たすという矛盾に満ちた発達課題に取り組む時期である(齊藤,2015).加えて,病理の影響が強くなる時期でもある(鍋田,2007).そのため,思春期の被虐待児への支援においては,子どもが社会と調和した関係性を持ち,将来的に自らの力で生きていくことができるよう支援していくことが学童期以上に求められる.しかし,問題行動が前面に出ているケースでは,目の前の問題行動や課題への対応に終始してしまいがちである(小野,2012).そこで本研究では,問題行動を呈し児童・思春期精神科病棟に入院した思春期の被虐待児に対する看護介入を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ  研究方法

1. 用語の定義

本研究では,看護介入を「被虐待児が,問題行動を改善し,心理的に成長して,地域社会を基盤に生活していけるよう,看護師が意図を持ってする行為.被虐待児個人への行為だけでなく,家族や地域の社会資源等の環境に対する行為も含む」と定義した.問題行動については「本人の行動が,①本人が生活する場や文化といった社会的規範からみて適切ではない,②年齢相応にみたとき,頻度や強度が過剰であったり過少であったりする,と周囲が認識し,周囲がそのままでは問題だと考える行動」と定義した.

2. 研究協力者

本研究では,児童・思春期精神科病棟での臨床経験が通算5年以上,かつ,問題行動を呈する思春期(10歳前後から15歳まで)の被虐待児への看護について経験したことがある看護師を研究協力者とした.なお,研究協力者は,全国児童青年精神科医療施設協議会の正会員となっており,児童・思春期精神科病棟が開棟されて5年以上経っている病院で児童・思春期精神科看護の臨床経験がある看護師を対象とした.研究協力者は,児童・思春期精神科看護の専門家または,病院の看護部長から紹介を受けた.

3. データ収集方法

研究協力者への個人面接による半構造化インタビューを行った.インタビューを行った期間は,2018年9~11月であった.インタビューでは,問題行動を呈して児童・思春期精神科病棟に入院した被虐待児の事例の概要を聞いた.また,その子どもに対して良いケアができた看護場面について想起してもらい,そのときの状況,どのようなケアをしたか,そのケアをした意図,子どもの様子や変化,良いケアにつながったと思う理由について話してもらった.インタビューの内容は,研究協力者の許可を得て,ICレコーダーに録音した.

4. データの分析方法

分析には,Braun, & Clarke(2006)のテーマ分析の手法を用いた.まず,インタビューデータを逐語録にし,看護介入と看護介入に影響を与える要因について述べている部分を,1つの意味単位毎に抽出しコード化した.全ての研究協力者のデータをコード化した後,コードを関連コードごとに並べ替えた.その後,「問題行動を呈して児童・思春期精神科病棟に入院した思春期の被虐待児に対して,看護師はどのような意図を持ち,どのような行為をしているか」に焦点を合わせて共通のパターンを有するコードをまとめ,テーマとなり得る候補を生成した.テーマとなり得る候補を生成する際には,テーママップを作成した.そして,テーママップ内のテーマ候補のデータを確認して,テーマを支持する十分なデータがあるか,テーマ内のデータに有意義なまとまりがあるかを確認した.その後,テーマの定義と命名をした.抽出されたテーマは,サブテーマとより抽象度の高いテーマに整理した.最後に,テーマを用いてストーリーラインを作成した.

なお,心理的危機やストレスへの反応として現れる行動は子どもによって多様であることから,本研究では問題行動の内容によって事例を絞ることはしていない.また,子どもは自分の状態を自覚したり,うまく説明したりできないため,問題行動として現われやすく,問題行動がストレスのサインか,反抗期などの発達課題と関連したものなのか,病気の症状によるものかの判断が難しい(笠原,2010)ことから,疾患によって事例を絞ることもしていない.

5. 倫理的配慮

研究協力候補者の紹介を受けるに当たっては,研究協力は自由意思によるものであり,参加の圧力をかけないよう配慮を求めた.また,研究への同意の有無について研究者から紹介者には伝えず,可能な限り強制力が働かないようにした.研究協力候補者に対しては,研究の主旨,匿名性の確保,研究結果の公表,調査への参加は自由意思であること,研究参加への有無によって不利益を被らないことを口頭と文書で説明し,研究協力の同意を文書で得た上で調査を実施した.なお,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理委員会の承認(2018年7月承認番号:修士3)を得て実施した.

Ⅲ  結果

1. 研究協力者の概要

研究協力者は9名であり,4病院での実践について語られた.研究協力者は全て女性であり,看護経験年数は9.5~34年であった.児童・思春期精神科病棟での通算勤務年数は,5年以上10年未満8名,10年以上20年未満1名であった.

2. インタビューで語られた事例の概要

研究協力者1人につき1回のインタビューを行った.インタビュー時間は平均92.3分であった.語られた事例は,男児4名,女児5名であった.年齢は9~16歳であり,小学生は4名,中学生は5名であった.問題行動としては,暴力,自殺企図,自傷行為などがあげられた.自閉スペクトラム症の診断がついている事例が4名と最も多く,2名には注意欠如・多動性障害,他には急性ストレス反応,外傷性ストレス障害の診断がついていた.事例には,虐待を受けていることが既に明らかで,児童相談所からの委託一時保護として入院した場合と,入院後に虐待状況が明らかになった場合があった.なお,入院期間は1年前後であった.

3. 分析結果

分析の結果,看護介入を示す5つのテーマと,より具体的な看護師の行為を示すサブテーマが抽出された.なお,《 》はテーマ,〈 〉はサブテーマを表す.

ストーリーライン

問題行動を呈して入院してきた思春期の被虐待児に対して,看護師はまず《子どもがスタッフから大切にされていると感じられるように関わる》ことをしていた.そして,子どもが問題行動を示し関係性が取りづらい中でも,《子どもが安心できる枠組みを提供する》ことをしていた.これらの看護介入によって,子どもの問題行動やその問題行動の背景にある課題への介入ができる段階に進むと,看護師は《問題行動以外の表現方法の習得を助ける》ことをしていた.入院治療の終結と今後の生活に向けては,子どもが《退院後の生活に向けて気持ちを固めていくことをサポートする》こと,《子どもの拠り所をつくる》ことをしていた.

テーマ1:《子どもがスタッフから大切にされていると感じられるように関わる》

看護師は〈日常の些細な声かけをする〉こと,〈一緒に時間を過ごす〉こと,〈放っているわけではないことを示す〉ことを通して,子どもが今いる場所の大人であるスタッフから大切にされていると感じることができるように関わっていた.

〈日常の些細な声かけをする〉

入院当初,強い警戒心を示す子どもも多かった.最初は子どもからの反応がなくても,看護師は日常の挨拶や衣食住に関わる声かけをしていた.

急に距離が近かったら怖いだろうと思って,初めは日常生活の「おはよう」「ご飯食べる時間になったよ」とか本当に差し障りのない関わりで.その中で本人が感じてくれるものがあったのか,「飯まだかー」って言いに来たり.(G氏)

〈一緒に時間を過ごす〉

看護師は生活援助場面を通して子どもと時間を共有したり,子どもが心細くなりやすい時間帯に子どもと過ごす時間を確保したりしていた.

掃除するってなってもしない.「(掃除)しなさい」というのは簡単だけれども,全然しないのはしないで仕方ないというか.それだったら掃除の場面を活かして,雑談でもなんでもしながら,ちょっと一緒に過ごす時間にしました.(A氏)

準夜帯の時間に,1日にあったことをお話ししたり.誰かと1対1での安定した関わりの時間っていうのは,入院生活の中でなかなか取りにくいし,準夜帯は不安定になりやすい時間っていうのもあって,そういう時間を取ることで少し安定を図ろうっていうのでやっていたと思います.(I氏)

〈放っているわけではないことを示す〉

看護師は直接本人と顔を合わせて関わっていないときでも,放っているわけではなく,見守っていることを子どもに対して示していた.

(本人との振り返りができるような状況まで待つとき)例えば,タイマーをセッティングして,「何分になったら来るよー」って.必ず放っているわけじゃないということを先に提示しておいて.(F氏)

テーマ2:《子どもが安心できる枠組みを提供する》

看護師は子どもに対して〈暴力は駄目と毅然と示す〉ことで,子どもに最低限守る必要のある枠組みを提示していた.また,〈暴力は駄目と毅然と示〉して押し戻すだけでなく,子どもの〈不器用な表現にも付き合う〉こと,〈軽い反発時は本人の意向を汲む〉ことで,その枠組みにゆとりを持たせていた.そして,〈本人とスタッフが争わずに関わる戦略を立てる〉ことで,看護師を含むスタッフが子どもと和やかな時間を共有できるように関わり,子どもの安心に繋げていた.

〈暴力は駄目と毅然と示す〉

虐待を受けた子どもは,暴力によって自分自身を守っている様子がみられた.看護師は子どもが暴力ふるう背景には理解を示していた.一方で,暴力そのものは許容せず,暴力は認められないことを毅然と示すことをしていた.

他の子を殴ってしまった時には,この後取り組んでいかなきゃいけないところは言うかな.(中略)その時の(子どもの)感情がどうだったかなっていうところを共有したりもする.「こうだったからこうしたんだよね」という形で.(A氏)

「暴力振るったときには,○○(保護室に戻ります,部屋に戻ります…)」っていう枠組みを作ってやっていって.(そうすることで)他者への暴力は落ち着いていったので,そういった枠組みを作って,何の時でも毅然として「暴力はダメ」って伝えていったのは,必要だったし効果的だったかなと思います.(F氏)

〈不器用な表現にも付き合う〉

虐待を受けた子どもの中には,再現行動や転換症状などを示す子どももいた.看護師は,そのような言動を自分の気持ちや感情を上手く表現できない中での本人なりの自己表現と捉えて関わっていた.

喋ってる時に(私の腕を)ギュッてひねったり,「お前の肉取ってやる」って言って(私を)つねったり.(そういう時は)叩いてきた手を握るとか.(本人は)「何握ってんだ.気色悪い」とか言うんで,「叩いたら痛いから」とかって言って.(G氏)

〈軽い反発時は本人の意向を汲む〉

虐待を受けた子どもに限らず,思春期に入ると,大人の言うことを素直に聞かない子どもも多かった.看護師は,本人がスタッフの言うことを素直に聞かなくても,他者の迷惑になったりしなければ,本人がどうしたいかという気持ちや考えを汲んで関わっていた.

(中学生の消灯が21時なので,小学生の消灯時間になっても部屋に戻れないことがあって)でも,「20時30分だから寝なくちゃいけないでしょ」じゃなくて,「そうか,(寝たいのは)21時なんだねー.それなら21時まで待っとくわー」みたいな形で,そんなガミガミ言わないというか.(E氏)

〈本人とスタッフが争わずに関わる戦略を立てる〉

虐待を受けた子どもの中には,被害的に捉えて他児に対して脅迫めいたことをしてしまったり,できない自分が惨めで怒ってしまったりするなど,他者に攻撃的になってしまいやすい子どももいた.看護師は,本人の攻撃に転じやすいパターンをつかみ,本人とスタッフが争わずに関わるための戦略を立てていた.

「今は(あなたと私達スタッフが楽しく遊ぶ)“戦わない時間”だから,家にいつ帰れるんだとかの話はしないんだよ」っていう風に投げかける.ストレートに指摘すると余計ムキになって,「何言ってんだー」みたいになっちゃうから,物言いとか,こういう誘導でいった方が本人が(スタッフの提案を)受け入れやすいかなーみたいなのは,わりと本人に合わせて提案していきました.(H氏)

テーマ3:《問題行動以外の表現方法の習得を助ける》

看護師は子どもに対して〈自分は何をすべきか考えさせる〉ことで,子どもに自分の課題と向き合う機会を与えていた.また,子ども自身の〈困ることをきっかけにして行動修正する〉ことで,子どもが行動を変えていくこともあった.そして,〈気持ちを落ち着けるスキルを定着させる〉こと,他者に攻撃を向ける前に〈スタッフに助けを求めるよう繰り返し伝える〉こと,〈本人が素直に出せない気持ちを代わりに表現する〉ことで,子どもが問題行動以外の表現を身につけることを援助していた.子どもの経験不足や今まで教えられていないことによる問題行動に対しては,〈日常生活上のスキルを教える〉こともしていた.

〈自分は何をすべきか考えさせる〉

病棟をかき乱したり,お小遣いを散財したりすることで,むしゃくしゃした気持ちを発散させようとする子どももいた.そのようなとき看護師は,子どもに自分は何をすべきか考えさせていた.

(入院中,事あるごとに反発を示していたとき)「君が,ここに入院しなければならなかった理由をもう1回考えて,そのために,ちょっと君も頑張らないといけないんじゃないかなー」と,言葉の理解がまずまずできる子にはそんな風に返すことがあります.(D氏)

〈困ることをきっかけにして行動修正する〉

虐待を受けた子どもが暴力や器物破損といった行動をしたとき,大人がいくら善悪を教えても,子どもの行動は変わらないばかりか余計悪化することもあった.看護師は本人が困ることをきっかけにして,行動修正を図っていた.意図的に本人が困るよう仕向けている場合もあれば,本人が困ったタイミングを見逃さず働きかけている場合もあった.

壁に穴あけたりとか卓球のラケット折ったりとか(があって).指導したところでフラッシュバック起こすのと同じような状況になるだけだから「弁償しないといけないよ」っていう形に途中から持っていって.ラケットもちゃんと1本小遣いで買ってもらって,「こうやってちゃんと弁償するんだよ」って言ってから,ピタッと物は壊さなくなりましたね.(E氏)

〈気持ちを落ち着けるスキルを定着させる〉

看護師は,本人が自分で自分をコントロールしていくことができるよう,自分の気持ちを落ち着けるためのスキルの獲得やその定着を支援していた.

ガーってテンションが上がったときに,自分でクールダウンする方法を,具体的にパターン化できるように教え込みました.深呼吸を5回して,数を5数えて,最後に自分の胸をパンパンって叩いて,「落ち着こう」って自分の声を出して言い聞かすっていうすごくシンプルな3つのクールダウンの方法を,繰り返し入院生活の中で身に着けさせました.(D氏)

〈スタッフに助けを求めるよう繰り返し伝える〉

子ども同士の間で困ったことや嫌なことがあったとき,直接相手に向かって行く子どもも多かった.看護師は,イライラしたときや困ったときには,スタッフに助けを求めるよう繰り返し伝えていた.

誰かに何か言われて嫌だったとき,直接その子にワーワー言うんじゃなくって,「○○先生,こんなこと言われる」とか,必ず大人に言うように,振り返りの場で,繰り返し言うようにしてて.(F氏)

〈本人が素直に出せない気持ちを代わりに表現する〉

虐待を受けた子どもの中には,思春期に入ったことも影響して,突っ張った態度でしか自分の気持ちを表現できず,周りの人から助けてもらいにくくなっている子どももいた.看護師は,本人が自分では素直に表現できない気持ちを代わりに表現していた.

外泊するって子がいたりすると,その外泊に対してケチをつけるんですよね.でも,本人はその外泊に対して,うらやましいって言いたいだけなんですけど,そう言えないところがあったりして.「うらやましいって言いたいんでしょー.そういうのちゃんと言ったらいいんだよー.恥ずかしいかもしれないけど,そうやって言ったら,ちゃんと伝わるんだよー,○○ちゃんの気持ちが」って.(E氏)

〈日常生活上のスキルを教える〉

虐待を受けた子どもの中には,基本的生活習慣が身に着いておらず,不適切な行動につながっている場合もあった.そのため看護師は,今までの育ちの中で身に着けられていない日常生活上のスキルを教えていた.

(部屋から)カピカピになった血まみれのパンツが出てきたりもして.主治医とも相談をして,性の発達に合ったテキストを使って,「こんな風にしていくんだよ」っていうことを教えました.(G氏

テーマ4:《退院後の生活に向けて気持ちを固めていくことをサポートする》

看護師は〈あくまで選択肢の一部として意見を出す〉ことで,子ども自身に自分がどうありたいかについて考えさせていた.そして〈子どもの気持ちに寄り添いつつ次のステップに進むことを後押しする〉ことで,退院後の生活に向けて子どもが気持ちを固めていくことをサポートしていた.

〈あくまで選択肢の一部として意見を出す〉

自分のあり方や生き方を模索し始め,看護師に意見を求めてくるような子どもに対して,看護師はあくまで選択肢の一部として自らの意見を述べていた.

彼女が「今これで悩んでる.どうすれば良いと思う?」って言ってきたとき,1つにしちゃうとそれしか彼女の中の選択肢も広がらないから,「私だったらこの中のAパターン,Bパターン,Cパターンの中で悩むな」とか.(B氏)

〈子どもの気持ちに寄り添いつつ次のステップに進むことを後押しする〉

虐待を受けた子どもは,児童養護施設や自宅への退院など,次のステップに進んでいくことへの寂しさや怖さを抱えていた.また,自宅に帰らず施設に行くことを承諾する上では,罪悪感や無力感も抱えていた.看護師は子どもの気持ちに寄り添いつつ,子どもが次のステップに進んでいくことを後押ししていた.後押しの仕方には,そっと寄り添うようなやり方もあれば,ストレートに言っていくようなやり方もあった.

本人はノートに何回も,「大人の都合であっちこっち行かされるのは嫌だー」って,「ここ(病院)にいたい」って書いてることもありました.(中略)(施設移行にあたっては)衣類整えたりとか,必要な物がないか(確認したり)とか,買ったりとか,予備渡したりとか.あとは,ちょっと食べに出かけたりとか.本人がなんかね,「行きたくない」っていうのを言ったりもしていたので,なんか積極的にするのもなと思って.(G氏)

最後の方の施設(に行くとき)のことで言えば,「自分の一番の優先はどれか考えなさい」とか「(家に帰っての)自由な時間っていうのもわかるけど,あなたがほんとは行きたかった高校とかあるよね.やりたかったことのどっちを取るの?」とか,そういうことはいっぱい話したかな.(本人は自分の優先したいことを)入院してきたときから持っていたけれども,それを優先することで,唯一の家族の母親がいなくなっちゃうんじゃないかとか,勉強もおろそかになっちゃった分,現実的にはちょっと厳しいんじゃないかっていう怖さもあったりだとか.(B氏)

テーマ5:《子どもの拠り所をつくる》

看護師は入院中から〈本人の力を本人や周囲に伝える〉こと,〈退院後に本人が繋がれる存在のイメージをつける〉ことで,これから置かれる環境や自分自身の中に支えとなるものを見つけることができるよう関わり,地域社会に送り出していた.

〈本人の力を本人や周囲に伝える〉

虐待を受けた子どもは,入院生活を通じて,クールダウンや服薬自己管理の方法,暴力ではなく言葉で表現していく方法,フラッシュバック時の対応を身に付けたり,元々持っている力を伸ばしたりしていた.看護師は,本人に対して本人の持っているストレングスを伝えていた.

私から「あなたは,こういう傾向があって,だけど,あなたにはこういう良いところがあるから,良いところをたくさん伸ばしていってほしい」って.(I氏)

また看護師は,退院後に本人と関わる大人に対しても,本人の持っているストレングスを伝え,本人のストレングスが活かされやすい環境を整えていた.

(入院前)学校の先生がこの子に対しての接し方が分からなかったところもあるんじゃないかなっていうのもあって.だから,この子への対応の仕方,例えば,ワーってなっても,しばらく見守っていたら落ち着いてくるっていうのを学校の先生にも分かってもらいました.(F氏)

〈退院後に本人が繋がれる存在のイメージをつける〉

虐待を受けた子どもの中には,退院後,自分自身が再び孤独になってしまうことを心配する子どももいた.看護師は,本人が退院後もどうにかやっていけそうだと思えるよう,退院後に本人が繋がれる存在のイメージをつけていた.

家に帰ったら,お母さん,(一緒にいる)時間が増えてくとともに冷たいし,話す人もいないしっていう,具体的な心配事とか(が出てきた).(中略)学校の先生に病院でまず会ってもらって,「こういう形で家に来てくれるからね」って.「家に来てもらったときにどこで一緒に喋ろうか?」とか「こんなことしてみても良いんじゃない?」みたいな話とかも一緒にしたりして.(H氏)

Ⅳ  考察

1. 問題行動を呈して入院した思春期の被虐待児への看護介入

問題行動を呈して入院した思春期の被虐待児への看護介入として,《子どもが安心できる枠組みを提供する》ことの重要性が明らかとなった.まず,思春期の被虐待児への看護介入として特徴的であったのは,〈不器用な表現にも付き合う〉〈軽い反発時は本人の意向を汲む〉という,子どもの不器用な表現や軽い反発といった行動を受容していく看護介入であった.伊藤ら(1995)は,児童精神科における幼児期及び学童期の被虐待児への看護として,子どものスキンシップや甘えを認め,促進する関わりをあげている.両価的な心性がみられる思春期においては,子どもの素直な甘えとは裏腹な行動を受け止めるところから,子どもは大人に信頼を寄せていくと考えられる.

次に,問題行動を呈して入院した思春期の被虐待児への看護介入として,〈本人とスタッフが争わずに関わる戦略を立てる〉という,子どもとの間に穏やかな時間を持つために看護師が戦略的に行う看護介入が見いだされた.児童・思春期精神科看護において看護師が子どもと治療的な信頼関係を構築していくときには,まず特定の子どものアタッチメント対象になることが必要であり,そのために看護師がすることとして,味方になることがあげられている(船越,2019).被虐待児はアタッチメントの歪みや心的外傷に加えて,対象関係の問題を抱え(田中,2008),他者と敵対関係になってしまいやすい.そのため,被虐待児と〈争わずに関わる〉ことは,味方になる一歩として重要であると考えられる.また,山下(2012)が愛着障害に併存する行動障害への対応として,子どもと力による支配闘争に陥らない工夫が必要であると示していることと共通する.

そして,〈暴力は駄目と毅然と示す〉という,暴力に至った背景には理解を示しながらも暴力そのものは許容せず,暴力は認められないことを毅然と示す看護介入が見いだされた.緒方(2014)が,児童養護施設に入所する青年期の被虐待児へのケアとして,暴力に対して「ダメなものはダメ」という一貫した態度にて子どもに対応することをあげているのと類似する.暴力は許されない行動であることが明確に示され,大人が一貫してその基準や態度を崩さず子どもたちに関わり続けていくことで,子どもは大人を信頼し,安心感を得ていくと考えられる.

これらの《子どもが安心できる枠組みを提供する》という介入は,自閉スペクトラム症児の介入に加えて,発達障害をもつ子どもが適応行動を学ぶ際に用いられる方法と類似する.自閉スペクトラム症をもつ子どもは,時間の概念を理解することや先を見通すことの困難さを抱え,状況理解や予測が困難な場面では,不安やパニックを生じることがあるため,生活場面の時間的・空間的構造化によって環境を整理することで,心理的に安定しやすいといわれている(神尾,2012).加えて,発達障害をもつ子どもの行動修正をしていく際,よいことはよい,悪いことは悪いとはっきりさせ,家族内で方針を統一して,よい行動をほめ,強化し,好ましくない行動には無視,タイムアウトなどで抑制し,行動の修正をしていく方法が用いられる(橋本,2002).児童青年精神科疾患の診断としては,自閉スペクトラム症や注意欠如・多動性障害などの発達障害圏が過半数を占める(市川,2012).《子どもが安心できる枠組みを提供する》ことは,研究協力者より語られた子どもに自閉スペクトラム症の特性を持つ子どもが多かったことを反映している可能性もあるが,自閉スペクトラム症以外の診断がついた被虐待児の行動を修正していく際にも有効な介入のあり方であることが示されたと考えられる.

2. 思春期の被虐待児が地域社会で生活していくことを見据えた看護介入

思春期の被虐待児が地域社会での生活に戻っていくことを見据えて,看護師は子どもが《退院後の生活に向けて気持ちを固めていくことをサポート》していることが明らかとなった.具体的には,〈あくまで選択肢の一部として意見を出す〉こと,〈子どもの気持ちに寄り添いつつ次のステップに進むことを後押しする〉ことがされていた.思春期とはいえ未成年の被虐待児の退院後の処遇については,子どもの意思のみでは決められないことも多い.そのような中でも,子どもが自分自身のことに少しでも関与していけるよう介入されていた.また,被虐待児は無力感や空虚感,自分の行動をめぐる激しい罪悪感にさいなまれやすく,それらの感情を他者への攻撃性や自己破壊的傾向として現しやすいため,特有の心性を理解して支援する治療者や医療者の存在を必要とする(齊藤,2018).本研究においても看護師は,被虐待児に生じやすい特有の心性を理解しつつ,子どもが自分自身のこととして退院後の生活を考えていくことを支えていた.思春期の子どもは,自分とは何かを問い,両親からの取り入れによる価値基準やこれまで自分を支えてきたものに抗い,自分とは何かを模索していくという発達課題を抱える(Erikson, 1959/1982).被虐待児特有の心性を理解する支援者の基で,子どもが退院後の生活を自分自身のこととして考えていくことは,思春期の発達課題であるアイデンティティの形成に繋がる看護介入でもあると考える.

Ⅴ  研究の意義と今後の課題

本研究は,児童・思春期精神科看護領域での経験が豊富な看護師の実践の意味を言語化しており,当該領域での臨床経験が浅い看護師が,児童・思春期精神科看護を学んでいくときに有用であると考えられる.しかし,本研究で明らかになった看護介入は,看護師の主観に基づいて効果的であったと考えられるものである.今後は看護介入とアウトカムの関係について明らかにしていく必要がある.また,虐待を受けた子どもを含む家族に対する効果的な支援のあり方や,学校関係者等の各支援機関との連携についても検討していく必要がある.

Ⅵ  結論

本研究は,問題行動を呈して入院した思春期の被虐待児に対して《子どもがスタッフから大切にされていると感じられるように関わる》《子どもが安心できる枠組みを提供する》《問題行動以外の表現方法の習得を助ける》《退院後の生活に向けて気持ちを固めていくことをサポートする》《子どもの拠り所をつくる》という5つのテーマと,テーマの下位に存在するサブテーマを明らかにした.

謝辞

本研究にご協力いただきました看護師の皆様,病院関係者の皆様に心より感謝申し上げます.なお,本研究は,兵庫県立大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.また,本論文の内容の一部は,第29回日本精神保健看護学会学術集会において発表した.

著者資格

SOは研究の着想から原稿作成のプロセス全般を遂行した.AFは研究の着想から原稿作成に至るまで研究プロセス全体への助言と分析を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
  •  Afifi,  T.,  MacMillan,  H.,  Boyle,  M., et al. (2016). Child abuse and physical health in adulthood. Health Reports, 27(3), 10–18.
  •  飛鳥井 望(2007).各論心的外傷後ストレス障害(PTSD)(子どもを蝕む大人の病気).小児科,48(5), 758–762.
  •  Braun,  V., &  Clarke,  V. (2006). Using thematic analysis in psychology. Qualitative Research in Psychology, 3(2), 77–101.
  •  Campbell,  J.,  Walker,  R.,  Egede,  L. (2016). Associations between adverse childhood experiences, high-risk behaviors, and morbidity in adulthood. Author Manuscript J Prev Med, 50(3), 344–352.
  • Erikson, E. (1959)/小比木啓吾訳(1982).「自我同一性」アイデンティティとライフサイクル(新装版).51–127,東京,誠信書房.
  •  Felitti,  V.,  Anda,  R.,  Nordenberg,  D. (1998). Relationship of childhood abuse and household dysfunction to many of the leading causes of death in adults. The Adverse Childhood Experiences (ACE) Study. American Journal of Preventive Medicine, 14(4), 245–258.
  •  船越 明子(2019).子どものこころを育むケア 児童・思春期精神科看護の技 第8回 治療的な信頼関係を構築する①.精神科看護,46(1), 59–63.
  •  Hunt,  T.,  Berger,  L., &  Slack,  K. (2017). Adverse childhood experiences and behavioral problems in middle childhood. Child Abuse Negl, 67, 391–402.
  • 橋本俊顕(2002).ADHD,小枝達也(編):ADHD,LD,HFPDD,軽度MR児保健指導マニュアル―ちょっと気になる子どもたちへの贈りもの.8–15,東京,診断と治療者.
  • 市川宏伸(2012).児童・青年期にみられる精神疾患の概説,樋口輝彦,市川宏伸,神庭重信,他(編):今日の精神科治療指針.288–292,東京,医学書院.
  •  伊藤 千恵美, 佐藤 みどり, 末田 収一,他(1995).児童精神科における被虐待児の看護―愛される喜びを育んで―.神奈川県立こども医療センター看護研究集録,20, 9–13.
  • 神尾陽子(2012).広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害),樋口輝彦,市川宏伸,神庭重信,他(編):今日の精神科治療指針.295–298,東京,医学書院.
  • 笠原麻里(2010).子どもの心をストレスから守る本.66–77,東京,講談社.
  • 鍋田恭考(2007).思春期臨床の考え方・すすめ方―新たなる視点・新たなるアプローチ.13–14,東京,金剛出版.
  •  緒方 玲子(2014).被虐待児童・青年期の心のケア―日常生活を基盤とする包括的ケアについて―.聖徳大学幼児教育専門学校研究紀要,6, 11–16.
  • 小野善郎(2012).地域における治療・ケア,奥山眞紀子,西澤哲,森田展彰(編):虐待を受けた子どものケア・治療.208–217,東京,診断と治療社.
  •  佐保 今日子(2016).児童精神科病棟に入院している警戒心の強い被虐待児と対人相互関係を結ぶ過程に行われている看護師の関わり.医療法人財団青渓会駒木野病院看護研究集録,2, 31–39.
  • 齊藤万比古(2015).子どもの精神科臨床.25–34,東京,星和書店.
  •  齊藤 万比古(2018).幼児期の心理的発達と思春期.子の心とからだ,26(4), 350–353.
  •  Spinazzola,  J., &  Kolk,  B. (2005). Survey evaluates: complex trauma exposure, outcome, and intervention among children and adolescents. Psychiatric Annals, 35(5), 433–439.
  • 田中 究(2008).虐待によるトラウマの治療,本間博彰,小野善郎(編):子ども虐待と関連する精神障害.199–218,東京,中山書店.
  • 山下 洋(2012).愛着障害,樋口輝彦,市川宏伸,神庭重信,他(編):今日の精神科治療指針.319–322,東京,医学書院.
 
© 2021 Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
feedback
Top