Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Validation of the 10-item Internalized Stigma of Mental Illness Scale: Validation of the Japanese Version
Yosuke Tanabe
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2021 Volume 30 Issue 1 Pages 21-28

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Abstract

目的:この研究は,精神障がい者の内面化したスティグマ尺度の短縮版・日本語版の信頼性と妥当性を検討することを目的とした.

方法:精神障がいをもち,定期的に精神科外来に通っており,社会福祉施設を利用している242名に対して,自記式質問紙を用いて調査を行い,230名(有効回答率:95.0%)を分析対象とした.再テストは,155名の参加者に行い147名を分析対象とした.

結果:全体の内的整合性のα係数は.81であり,再テスト信頼性係数はr = .78であった.基準関連妥当性に関して,日本語版ISMI-10尺度は抑うつと正の相関関係があり,自尊心,エンパワメントとは負の相関関係があった.構成概念妥当性については,2つの因子が得られた.因子名は第1因子を「内面化したスティグマ」,第2因子を「スティグマ抵抗」とした.

結論:日本語版ISMI-10尺度は,日本語版ISMI-29尺度と同じ程度の信頼性・妥当性が確認された.

Translated Abstract

Objectives: This study investigated the reliability and validity of the Japanese version of the 10-item Internalized Stigma of Mental Illness (ISMI-10) scale, which was designed to assess internalized stigma experienced by people with mental illness.

Methods: A survey was conducted using a self-written questionnaire for 242 people with mental disabilities who regularly attended psychiatric outpatient clinics and used social welfare facilities, and 230 people (valid response rate: 95.0%) were analyzed. The retest was performed on 155 participants, and 147 participants were analyzed.

Results: The alpha coefficient for the overall internal consistency was 0.81, and the test-retest reliability was r = .78. In terms of criterion-related validity, the Japanese version of the ISMI-10 scale presented a positive correlation between internalized stigma and depression and a negative correlation with self-esteem and empowerment. As for construct validity, we identified the two factors of “internalized stigma” and “stigma resistance.”

Conclusions: The Japanese version of the ISMI-10 scale demonstrated similar reliability and validity to the Japanese version of the ISMI-29 scale.

Ⅰ  はじめに

精神疾患に関するスティグマは,拒絶,差別,苦痛,および他の負担につながり,精神疾患をもつ人々のリハビリテーションと社会復帰への大きな障害である(Margetić et al., 2010).スティグマはまた,予想される実際の差別と内面化されたスティグマを介して,人生の満足度と自尊心の低下,アルコール使用の増加,うつ病につながる可能性がある(Link et al., 2001).Corrigan et al.はスティグマを公的なスティグマか自己スティグマに分類される枠組みを提案し,一般市民が精神に障がいのある人々に汚名をきせる方法を述べるのに,「公的なスティグマ」という語を使用した.そして,この公的なスティグマの内面化として「内面化したスティグマ」,あるいは,「自己スティグマ」を使用した(Corrigan, & Watson, 2002).自己スティグマの発達は,精神に障がいをもっている人々が自分自身にスティグマを負わせる過程に関連している(Margetić et al., 2010).拒絶されることに関して非常に心配している統合失調症患者は,自己スティグマを知覚し,より傷つきやすくなり(Rüsch et al., 2009),スティグマ体験の蓄積はスティグマの内面化を増加させる可能性がある(Margetić et al., 2010).さらに,精神障がい者の内面化したスティグマはリカバリーを妨げ,抑うつの増加,自尊心の減少,エンパワメントの縮小などと関連していると言われている(Ritsher, Otilingam, & Grajales, 2003Margetić et al., 2010).内面化したスティグマは治療の遵守を徐々に損なう(Alexová et al., 2019)ので,計量的に内面化したスティグマを把握することは臨床的にも意義あることである.

スティグマを測定するための尺度は,いくつか開発されているが(Brohan et al., 2010Livingston, & Boyd, 2010),内面化したスティグマの測定で,広く使われている尺度の1つは,Jennifer Boyd Ritsher(以下Boydとする)らが2003年に開発した「Internalized Stigma of Mental Illness (ISMI) scale(精神障がい者の内面化したスティグマ(ISMI)尺度:以下ISMI-29尺度とする)」(Ritsher, Otilingam, & Grajales, 2003)である.ISMI-29尺度は,スティグマの内面の主観的体験とその心理的影響に焦点を合わせていく尺度である.また,質問が仮定の状況ではなく現在に基づいており,精神に障がいのある回答者自身のアイデンティティと経験に焦点を合わせる評価尺度のため,その時点での内面化したスティグマの評価ができる.

ISMI-29尺度はアメリカ合衆国退役軍人省のメンタルヘルスアシスタントのソフトウェアに含まれている.また,統合失調症,うつ病,ハンセン病,およびエイズの人などの内面化したスティグマ尺度として40か国語以上で翻訳(ドイツ語,フランス語,クロアチア語,トルコ語,韓国語,中国語,ロシア語,アラビア語,など)され,世界中で広く使われている(Boyd et al., 2014).日本語版ISMI-29尺度については,原著者であるBoyd et al.に連絡し,許諾を得た.何回かのトランスレーション-バックトランスレーションを経て,日本語版のISMI尺度を作成した.そして,尺度の信頼性・妥当性を計量的に検討(Tanabe, Hayashi, & Ideno, 2016)し,使用が認められた.

その後,29項目からなるISMI-29尺度の短縮版作成の要請を受けていたBoyd et al.は,2014年に,10項目からなるISMI-29尺度の短縮版であるBrief Version of the Internalized Stigma of Mental Illness(ISMI)scale(以下ISMI-10尺度とする)を発表した(Boyd, Otilingam, & DeForge, 2014).ISMI-10尺度は,ISMI-29尺度のデータを基に,Stanton et al.の分析方法(Stanton et al., 2002)に基づいて作成された.その際,ISMI-29の下位尺度構成がISMI-10でも保持されるように,5つの下位尺度から2項目ずつ含めることを選択した(Boyd, Otilingam, & DeForge, 2014).短縮版の最大のメリットとしては,調査項目が減り,回答者の負担を大幅に軽減することができる点である.ISMI-29尺度は29項目から構成されているので,負担は単純計算で約1/3になる.使用しやすくなれば,今まで使用をひかえていた人でも使う可能性が多くなると考える.ISMI-10尺度を使用することにより,内面化したスティグマを客観的に捉えるアセスメントツールとして活用することができ,精神障がい者を地域で支える一助になる.また,世界中で広く使われているので,海外のスティグマ研究との比較もできる.日本語版ISMI-10尺度の検討にあたっては,原著者であるBoyd et al.に連絡し,許諾を得た.

今回の研究目的は日本語版ISMI-10尺度を日本の精神障がい者のある人を対象に実際に調査し,その信頼性・妥当性を検討することである.

Ⅱ  研究方法

1. 研究対象者

1) 選択基準

この調査の対象者は,精神に障がいがあり,定期的に精神科外来を受診していて,社会福祉施設を利用している20歳以上の人である.そして,日本語を読解できる人である.

2) 除外基準

精神科診断名欄に知的障害または器質性脳疾患と回答した人,そして,調査票の質問を完了することができなかった人である.

2. データ収集期間

データ収集期間は2017年8月~2018年2月の間で,群馬県内9か所,新潟県内12か所および埼玉県内9か所の社会福祉施設で行った.

3. 調査内容

1) 基本属性

年齢,性別,住所,学歴,婚姻状態,同居の有無,精神科診断名,発病年齢,施設利用期間.但し,精神科診断名については対象者の自己申告である.

2) ISMI-10尺度

精神障がい者の内面化したスティグマを測定するためのISMI-10尺度は10項目からなり,ISMI-29尺度の5つの下位尺度である疎外感(6項目),固定観念の容認(7項目),差別体験(5項目),社会的引きこもり(6項目)およびスティグマ抵抗(5項目)から2項目ずつ抽出し,構成されている.各項目は4ポイントのリッカート尺度で評定され,「1:全くそう思わない」から「4:非常にそう思う」までの範囲に及んでいる.スティグマ抵抗項目は,スティグマに対して「抵抗するか,または影響を受けない経験」を測定する.それは逆コード化されているので,妥当性チェックとしても機能しており(Ritsher, Otilingam, & Grajales, 2003),5から評価点を引いたものが得点となる.ISMI合計点数の高い得点は,その個人において内面化しているスティグマ形成が,より高いことを示す.ISMI-10調査票および得点の算出方法・解釈については付録参照のこと.

3) 外的妥当性

先行研究(Ritsher, Otilingam, & Grajales, 2003)に基づき基準関連妥当性をテストするために,Boyd et al.が使用した5つ尺度の中から,内面化したスティグマに関連のある,次の3つの尺度を用いた.

(1) ベックの抑うつ評価尺度(BDI)

日本でも広く用いられているベックの抑うつ評価尺度(Beck Depression Inventory; BDI)は,21項目からなる抑うつ症状を測定する主観的自己評価尺度である(Beck et al., 1961).各項目を0(なし)から3(重度)点で評価し,合計点は0から63点になる.合計点数の大きさで抑うつ症状の重症度を評価することができる(林,1988林・瀧本,1991菅原,2001).

(2) ローゼンバーグの自尊心尺度(RSES)

自尊心は,ローゼンバーグの自尊心尺度(Rosenberg Self Esteem Scale; RSES)を用いて測定した(Mimura, & Griffiths, 2007).RSESは4ポイントのリッカート尺度で評定され,「1:強くそう思わない」から「4:強くそう思う」までの範囲に及んでいる.合計点は4から40点になり,より高い点数は,より高いレベルの自尊心につながる.日本語版の信頼性と妥当性の検証は,内田らによってなされた(内田・上埜,2010).使用にあたっては,作成者から許可を得ている.

(3) エンパワメント尺度(ES)

エンパワメントとは,自分自身の生活や自分がおかれた生活環境・社会に対する力をもつということである(Rogers et al., 1997).内面化したスティグマとは対極にある「意欲的な態度」である.Rogers et al.のエンパワメント尺度(Empowerment Scale; ES)は,精神障がい者のために作られた,エンパワメントの心理的側面を評価するための自記式尺度である(Rogers et al., 1997).28項目の質問に対し,「1:まったくそのとおりだ」から「4:まったく違う」までの4ポイントのリッカート尺度で評定される.合計点は28から112点になり,より高い点数は,より高いレベルのエンパワメントにつながる.エンパワメント尺度(ES)の項目は,「私は自分自身に対して肯定的な気持ちでいる.」や「私はいつも無力だと感じる」そして「人間は集まって協力し合えば,より大きな力を持つ」などが含まれる.日本語版の信頼性と妥当性の検証は,畑らによってなされた(畑ら,2003).使用にあたっては,作成者から許可を得ている.

4. 調査手順

事前に,各社会福祉施設の施設長に会い,研究目的,2回分の研究方法,個人情報の保護などについて文書と口頭で説明し,書面にて同意を得た.

調査は,各社会福祉施設に出向き2回行った.1回目の調査実施にあたり,事前に施設長より,対象者に対して,調査目的,調査日時,調査者,参加の自由について口頭で伝えてもらい,研究への参加に関心を示した対象者が一室に集まった.その部屋に集まった対象者に対して,研究者が研究説明書,調査票および封筒を配布し,研究目的,研究方法,参加の自由などについて文書と口頭で説明した.研究参加の意思のある対象者からは書面にて同意を得た.同意書を回収した後,研究者は直ちに部屋から退出した.記載された調査票は封筒に入れ,封をしっかりとしたうえで,各施設の事務室前に設置された回収箱に投函してもらった.回収箱の設置は調査した翌日の12時までとした.回収箱に投函された調査票は,施設長から研究者宛に郵送してもらった.

2回目の調査は1回目の調査から5週間後に,研究の目的や方法などが書かれた文書を配付して説明し,同意書で同意の得られた人に,1回目と同様の方法で行った.

5. 分析

以下の統計処理にはSPSS Statistics 25.0(IBM SPSS Statistics for Windows, Version 25.0)を用い,有意水準は両側0.05とした.

1) 基本属性

性別,住所,婚姻状態,学歴,精神科診断名,施設利用期間による合計ISMI-10得点の違いは,t検定と一元配置分散分析を用いて行った.

2) 信頼性の検証

日本語版ISMI-10尺度の信頼性は,クロンバックのα係数の算出による内的整合性の検討と,合計得点間の相関をPearsonの相関係数の算出による再テスト信頼性の検討によって信頼性の検証を行った.

3) 妥当性の検証

尺度の妥当性は基準関連妥当性と構成概念妥当性によって行った.基準関連妥当性は,日本語版ISMI-10尺度とベックの抑うつ評価尺度(BDI),ローゼンバーグの自尊心尺度(RSES),そしてエンパワメント尺度(ES)との相関によって検証した.構成概念妥当性については,最尤法によるプロマックス回転で因子分析を行った.固有値1.0以上を軸として因子を抽出した.

6. 倫理的配慮

本研究の実施にあたり,各施設の施設長および対象者に対して,研究目的,研究方法,参加の自由,不参加により不利益が生じないこと,同意をした後でも辞退できること,調査票は無記名式のため,提出後は取り消せないこと,個人情報の保護などについて文書と口頭で説明し,書面にて同意を得た.調査票は封筒に入れ,封をしっかりとしたうえで,各施設の事務室前に設置された回収箱に投函してもらった.なお,本研究は高崎健康福祉大学倫理審査委員会の承認(承認番号2910)を受けて実施した.

Ⅲ  研究結果

この調査の説明を聞いてくれた人は274名で,そのうち,242名が参加に同意した.精神科診断名欄に知的障害または器質性脳疾患と回答した人,調査票の質問を完了することができなかった人を除き,230名(有効回答率:95.0%)を分析の対象とした.

再テストは調査から5週間後に,同意書で同意の得られた155名に対して行い,147名を分析対象とした.

1. 対象者の特性

対象者の平均年齢は48.2(SD 12.3)歳,平均発病年齢は25.5(SD 9.7)歳であり,男性148名(64.3%)と女性82人(35.7%)であった(表1).

表1 対象者の属性(N = 230)
項目 平均(S.D.)
or %(n)
年齢(歳) 48.2(12.3)
発病年齢(歳) 25.5(9.7)
性別 男性 64.3%(148)
女性 35.7%(82)
住所 群馬県 35.2%(81)
新潟県 38.7%(89)
埼玉県 26.1%(60)
教育 中学校 22.6%(52)
高等学校 45.7%(105)
短大または専門学校 17.4%(40)
大学または大学院 14.3%(33)
婚姻 独身 76.1%(175)
既婚 8.7%(20)
離婚または死別 15.2%(35)
同居 している 47.4%(109)
していない 52.6%(121)
精神科診断名 統合失調症 72.6%(167)
双極性障害 6.5%(15)
うつ病 11.3%(26)
人格障害 1.3%(3)
適応障害 2.6%(6)
その他 5.7%(13)
施設の利用期間 6か月未満 12.6%(29)
6か月以上1年未満 5.7%(13)
1年以上 81.7%(188)

2. 日本語版ISMI-10尺度項目の平均得点

日本語版ISMI-10尺度の合計平均得点は2.38(SD 0.82)であり,2.5の中間よりも上の割合は40.9%であった(表2).尚,2と9の項目はスティグマ抵抗項目であり,反転項目となっている.

表2 ISMI-10尺度項目と平均得点(N = 230)
項目 平均 S.D.
1 精神疾患の人は暴力的になりがちである. 2.1 .75
2 精神疾患をもった人は,社会に重要な貢献をする. 2.6 .74
3 私が精神疾患であるため,「気味悪く」見えるか,または振る舞うかもしれないので,以前ほど社交的ではない. 2.3 .88
4 精神疾患があることで,私の人生はダメにさせられた. 2.4 .91
5 家族や友達をとまどいから守るために,私は交流の場から遠のいている. 2.3 .85
6 精神疾患ではない人は,どうしても私を理解できない. 2.5 .87
7 私が精神疾患なので,人は私を無視するか,私をそれほど真剣には受け止めない. 2.3 .81
8 私は精神疾患なので,社会に何らかの貢献をすることはできない. 2.2 .76
9 精神疾患にもかかわらず,私はすぐれた満ち足りた人生を送ることができる. 2.5 .86
10 私が精神疾患なので,他の人は私が人生で何かを達成することはできないと思っている. 2.4 .83
合計尺度の平均 2.38 .82
 2.5の中間より上の割合 40.9%

3. 日本語版ISMI-10尺度平均合計得点

男性23.3点,女性24.7点と,女性の方が高い得点であり,日本語版ISMI-10尺度の平均合計得点と性別との間で有意な差があった(t = –2.08, P = .04).しかし,住所,教育,婚姻,同居,精神科診断名,施設の利用期間との間で有意な差はなかった(表3).

表3 ISMI-10尺度合計得点と人口統計変数の関係(N = 230)
平均合計得点 結果
性別 男性 23.3 t = –2.08
女性 24.7 p = .04)
住所 群馬県 23.2 F = 1.80
新潟県 24.6 p = .17)
埼玉県 23.4
教育 中学校 22.9 F = .97
高等学校 24.0 p = .41)
短大または専門学校 23.6
大学または大学院 24.7
婚姻 独身 23.5 F = 1.91
既婚 23.3 p = .15)
離婚または死別 25.3
同居 している 23.4 t = 1.00
していない 24.1 p = .32)
精神科診断名 統合失調症 23.8 F = .16
双極性障害 24.2 p = .93)
うつ病 24.3
その他 23.3
施設の利用期間 6か月未満 24.1 F = .17
6か月以上1年未満 24.4 p = .84)
1年以上 23.7

4. 信頼性

1) 内的整合性

日本語版ISMI-10尺度の内的整合性のα係数は.81(N = 230)であった.

2) 再テスト信頼性

日本語版ISMI-10尺度合計得点の相関はr = .78(P‍ ‍< .01, N = 147)であった.

5. 妥当性

1) 基準関連妥当性

日本語版ISMI-10尺度は抑うつ(r = .58, P < .01)と正の相関関係があり,自尊心(r = –.62, P < .01),エンパワメント(r = –.52, P < .01)とは負の相関関係があった.いずれもかなりの相関を示した.分析人数は230名である.

2) 構成概念妥当性

最尤法によるプロマックス回転で因子分析を行った.固有値1.0以上を軸として因子を抽出した.表4は,日本語版ISMI-10尺度の因子分析を示す.2つの因子が得られた.最初の因子は,反転項目であるスティグマ抵抗以外の全ての項目を含んでいた.2番目の因子は,反転項目であるスティグマ抵抗の項目を含んでいた.そのため,因子名は第1因子を「内面化したスティグマ」,第2因子を「スティグマ抵抗」とした.因子間相関は.503であった.適合度の評価(KMO)は.850であり,バーレットの球面性検定はP < .01であった.

表4 ISMI-10尺度の因子分析結果(N = 230)
項目 内面化した
スティグマ
スティグマ
抵抗
5 家族や友達をとまどいから守るために,私は交流の場から遠のいている. .71 –.01
7 私が精神疾患なので,人は私を無視するか,私をそれほど真剣には受け止めない. .68 –.10
10 私が精神疾患なので,他の人は私が人生で何かを達成することはできないと思っている. .63 .09
3 私が精神疾患であるため,「気味悪く」見えるか,または振る舞うかもしれないので,
以前ほど社交的ではない.
.62 .01
6 精神疾患ではない人は,どうしても私を理解できない. .61 .02
1 精神疾患の人は暴力的になりがちである. .50 –.18
8 私は精神疾患なので,社会に何らかの貢献をすることはできない. .46 .29
4 精神疾患があることで,私の人生はダメにさせられた. .45 .35
9 精神疾患にもかかわらず,私はすぐれた満ち足りた人生を送ることができる. –.25 .86
2 精神疾患をもった人は,社会に重要な貢献をする. .12 .35
固有値 3.828 1.299

太字は,因子負荷量>.40を示す.

Ⅳ  考察

日本語版ISMI-10尺度が良い信頼性と妥当性をもつことを,この研究の結果は証明した.尺度の信頼性は内的整合性とテスト・再テストによって評価され,尺度の妥当性は,基準関連妥当性と構成概念妥当性を通して評価された.日本語版ISMI-10尺度の内的整合性,再テスト信頼性および基準関連妥当性に関して,日本語版ISMI-29尺度と同程度の結果を得た.日本語版ISMI-10尺度の構成概念妥当性に関して,第1因子にスティグマを構成する,スティグマ抵抗(反転項目)以外の項目が全て含まれていた.以下,尺度の信頼性と妥当性について述べていく.

日本語版ISMI-10尺度の内的整合性のα係数は.81(N = 230)であった.この尺度の基になっている,日本語版ISMI-29尺度の内的整合性のα係数は.91(N = 173)であり,それに比べると,短縮版である日本語版ISMI-10尺度の値は若干低い.しかし,通常,α係数が.8以上であれば内的整合性があり,信頼性の高い尺度と言われているので,今回の.81という値は,尺度の信頼性を支持している.また,ギリシャ版ISMIの短縮版(Alexia et al., 2017)においても内的整合性のα係数は.83(N = 272)であった.このギリシャの短縮版の値と日本語版ISMI-10尺度は同程度であり,ここでも尺度の信頼性を支持している.

再テストのための2回目の調査は,1回目の調査から5週間後に行った.この研究の再テスト信頼性係数はr = .78(P < .01, N = 147)であり,かなり強い相関があることがわかった.この値は日本語版ISMI-29尺度と同等の値であった.これらのことから,日本語版ISMI-10尺度が精神障がい者の内面化したスティグマを評価するための十分な信頼性をもっていることがわかる.これは,日本語版ISMI-10尺度が精神障がい者の内面化したスティグマを評価するための有用で信頼性が高く有効な自記式質問票であることを示している.

基準関連妥当性において,今回の結果は,ISMI-29尺度の日本語版で得られたものと一致していた.ネガティブな概念で構成されている日本語版ISMI-10尺度はBDIと正の相関関係があり,RSES,ESとは負の相関関係を示した.そして,すべてにおいて統計的に有意な相関がみられた.これは,日本語版ISMI-29尺度やトルコ版ISMI-29尺度(Ersoy, & Varan, 2007)と同様の結果である.一般的に,スティグマ傾向も抑うつ症状も,どちらかと言えばマイナス的な構成概念であり,自尊感情やエンパワメントはプラス的な構成概念である.RSESと日本語版ISMI-10尺度との間に明らかになった有意な相関関係は,内面化したスティグマの高い人との間で低い自尊心が一貫して発生することがわかった先行研究と同様である(Livingston, & Boyd, 2010).本研究で得られた相関関係は,日本語版ISMI-10尺度に関する基準関連妥当性の重要な根拠となる.

構成概念妥当性においては,因子分析から2つの因子が得られた.最初の因子は「内面化したスティグマ」と名付けられ,第2の因子は「スティグマ抵抗」と名付けられた.1番目の因子に内面化したスティグマを構成する4つの下位尺度(疎外感,固定観念の是認,差別体験,社会的引きこもり)が全て含まれるということは,8項目だけでも短縮版として十分に使用できるのかもしれない.しかし,2番目の因子に内面化したスティグマを構成する下位尺度(スティグマ抵抗)のスティグマ抵抗項目が2項目とも入っていた.スティグマ抵抗項目は,逆コード化されていて,妥当性のチェックとしても機能しているので,この10項目をそのまま使うことが望ましいと考える.

多くの研究において,ISMI尺度と年齢や性別などに有意な相関関係を示していない.しかし,トルコ版のISMI-29尺度の合計点数では,性別と収入において有意な差があった(Ersoy, & Varan, 2007).男性は女性より点数が高く,低いか中程度のレベルの収入がある対象者の方が,より高い収入がある対象より高い点数であった.日本語版ISMI-29尺度においては,ISMI-29尺度の平均合計得点と性別や住所など属性との間で有意な差はなかった.しかし,今回の研究では,日本語版ISMI-10尺度の平均合計得点と性別との間で有意な差があり,女性の方が点数が高く,トルコ版ISMI-29尺度と逆の研究結果であった.うつ病は女性に多く見られることが報告されている(Kawakami et al., 2005).日本語版ISMI-10尺度は抑うつと正の相関関係あることから,今回の結果につながったことが考えられるが,日本語版ISMI-10尺度にだけ見られるものである可能性も考えられるため,結果に与える要因については今後の課題である.

研究の限界として,研究の対象者は社会福祉施設を利用している人であり,72.6%は統合失調症であった.したがって,研究集団は,精神疾患にかかっている日本の集団の代表でない場合があるので,継続的な研究が必要である.

Ⅴ  結論

調査結果より,日本語版ISMI-29尺度と同程度の信頼性・妥当性が確認されたので,日本語版ISMI-10尺度は日本における精神障がい者の内面化したスティグマ尺度として有効なツールとして使用できるであろう.今後は,この尺度が日本の臨床医や研究者などによって使われ,精神障がい者の理解が深まるとともに精神障がい者のリカバリーが推進されることを期待する.

謝辞

本研究の趣旨を理解し,ご協力をいただきました群馬県内,新潟県内および埼玉県内の社会福祉施設を利用している皆様,社会福祉施設の職員の皆様に深く感謝いたします.本論文の内容の一部は,日本精神保健看護学会第28回学術集会において発表した.また,本研究は日本学術振興会(JSPS)科研費JP17K12482の助成を受けたものです.

著者資格

YTは,研究の着想,デザイン,データ収集・分析,論文作成のプロセス全般を遂行した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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