2022 Volume 31 Issue 1 Pages 1-9
本研究は,精神科病棟看護師の65歳未満の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容を明らかにすることを目的とした.
A県内及びB県内にある精神科病院に協力を依頼した結果,3施設の協力が得られ,7名の看護師に半構造化面接を実施した.
語りの内容を分析した結果,意味内容の異なる42のコードと,それらを説明する20のサブカテゴリー,6のカテゴリーが導き出された.看護師は,【服薬行動の安定】【自他への問題行動の改善】【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】【患者の退院への納得】【家族の精神症状への折り合い】【退院を見据えた家族役割の引き受け】について査定し,患者の退院可能性を判断していた.
結果のうちサブカテゴリーの内容は,退院支援経験が少ない看護師の,退院可能性の判断のための査定を行う際の情報収集のポイントとして貢献できる.
The purpose of this study was to describe assessment particulars for judging the possibility of discharge for long-term hospitalized patients with schizophrenia under the age of 65 years by psychiatric ward nurses. The participants were from three psychiatric hospitals in A and B prefectures of Japan, and the data were from semi-structured interviews with seven psychiatric ward nurses.
A content analysis of the narratives obtained from the interviews generated 42 codes for different meanings, 20 subcategories that explain and organize the codes, and distinguish these into the following 6 categories: “stabilization of medication-taking behavior,” “improvement in problematic behaviors toward self and others,” “reclaiming life by lowering mental symptoms,” “patient assent to the discharge,” “family coming to terms with the psychiatric symptoms,” and “acceptance of the family role that is required when the patient is discharged.” Based on these the psychiatric ward nurses have judged the possibility of discharge for long-term hospitalized patients with schizophrenia under the age of 65 years.
Subcategories of the findings of this study contribute to issues that are useful in collecting information when nurses with little experience in discharge support assess possibility of a discharge.
2017年の「精神及び行動の障害」の入院患者のうち,最も多いのは「統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害」の15.4万人である.また,入院患者の約60%は入院期間が1年以上であり,平均在院日数は,「精神及び行動の障害」が277.1日に対し,「統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害」は531.8日であると報告されている(厚生労働省,2017).わが国の精神科医療は,「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針が掲げられているが,1年以上入院している統合失調症患者の退院促進は喫緊の課題である.
一方で,患者は入院が長期化すると,家事等の生活能力の低下を自覚し,地域で生活をする自信を喪失すること(藤野・脇﨑・岡村,2007)や,高齢者が転居した後の生活適応は,65歳以降の転居に比べ,65歳以前の転居のほうが,適応状況が高いことが報告されている(古田・輿水・流石,2018).そのため,入院期間,年齢ともに,より早期に退院できるよう支援することが必要である.
先行研究によれば,看護師の退院支援は,退院を目標にした視点でセルフケアレベル等を査定し,退院可能性を判断することで開始する(香川ら,2013)ものの,退院支援経験が少ない看護師に関する文献では,他科から異動した看護師は,今まで培った患者を捉える感覚が通用しないことや,新人看護師は,入院期間の長さゆえに退院支援を躊躇することが報告されている(前田・三木,2011;渡辺ら,2018).そこで,看護師が退院可能性を判断するために,セルフケアレベル等をどのように査定しているのかを明らかにする必要があると考えた.退院可能性の判断のための査定内容は,セルフケアレベル,精神症状,退院意思等の項目であると報告されており(星,2021;石川・葛谷,2013;香川ら,2013;高橋ら,2016),具体的な査定内容は明らかにされていなかった.各項目についてどのような視点で査定しているのか,査定内容がより具体的に明らかになれば,退院支援経験が少ない看護師の,主体的な退院可能性の判断のための査定に貢献できる.
そこで本研究は,精神科病棟看護師の65歳未満の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容を,退院支援経験を持つ看護師の語りから明らかにすることを目的とする.
本研究における「長期入院」は,長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会取りまとめ(厚生労働省,2014)に準拠し,「1年以上継続して入院している患者」とした.
「退院可能性の判断のための査定」は,「情報収集及び分析を行い,看護の視点から退院するための問題を判別し,退院できる見込みを導き出す根拠を示すもの」とした.定義にあたって,広辞苑及び第13・14期看護学学術用語検討委員会報告書を参考にした.
2. 研究対象の選定条件 1) 対象施設日本精神科病院協会及び全国自治体病院の会員施設のうち,A県内及びB県内にある精神一般病棟(15対1入院基本料)あるいは精神療養病棟の病棟機能を持つ精神科病院とした.
2) 対象者(1)精神一般病棟あるいは精神療養病棟に勤務し,現在患者を受け持っている,(2)5年以上の精神科病棟勤務経験がある,(3)退院可能性がある65歳未満の長期入院統合失調症患者を受け持っている,もしくは過去受け持った経験があり,実践した看護を想起できる.以上の条件をすべて満たす看護師とした.
3. データ収集方法 1) 研究対象の選定選定条件を満たす施設を,日本精神科病院協会及び全国自治体病院のホームページにて検索した.検索結果から約50%の施設を無作為抽出し,抽出された施設の看護部長に郵送書類にて協力を依頼した.看護部長の研究協力の諾否は,返送期日までに承諾書及び候補者調査票の返送があれば諾とし,期日までの返答がなければ否とした.最終的な対象者は10名程度とし,10名に満たない場合は,同様の手順で施設を追加した.順次,候補者の所属部署に連絡し,口頭にて研究協力の諾否を確認した.同意が得られた候補者には,面接日程及び場所の調整を行った.
2) データ収集候補者に研究協力の同意を得た後,約60分の半構造化面接を実施した.データ収集期間は2020年4月から9月とした.プライバシーの守られる静かな個室を利用し,面接内容はICレコーダーに録音した.主な質問項目は,(1)対象者の所属病棟の平均在院日数,(2)対象者の年齢・性別・精神科病棟勤務経験月数,(3)患者の年齢(受け持ち時)・性別・入院期間,(4)受け持ち患者に退院可能性があると考えた理由とし,1事例を想起して語ってもらった.
4. データ分析方法分析には,内容分析法を用い,まず面接で得られた音声記録から逐語録を作成した.次に逐語録の中で,精神科病棟看護師の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容について,対象者の考えを読み解きながら,意味内容に応じて切片化し,抽出したデータは,コードとして名付けた.さらにそれぞれのコードの関係性を検討し,他の対象者から得られたデータと比較,分類しながら内容が類似するものを集め,意味内容が分かるように表現し,サブカテゴリーを生成した.さらにそれぞれのサブカテゴリーの意味内容と関連性を検討しながら,カテゴリーを生成した.また,データの意味内容の解釈の信用性と記述の妥当性を高めるために,研究者と討議を重ねた.同時に,テキストマイニングのフリーソフトウェアKH Coderを用い,データの全体像と,単語同士の頻出している組み合わせを確認し,生成したカテゴリーとの対応を検討することで解釈を深めた.
5. 倫理的配慮本研究は,対象施設及び関西福祉大学倫理審査委員会の承認(承認番号:第31-0205号)を得て実施した.候補者に対しては,新型コロナウイルス感染症対策を考慮した上で,研究目的,研究方法,匿名性の確保,プライバシーの保護,自由意思に基づく研究参加と途中辞退の保証,辞退しても不利益が生じないことについて口頭と書面で説明し同意を得て,面接を実施した.また,看護部長を通じた候補者選定であり,研究協力の諾否に強制力が働くリスクがあったため,候補者の諾否及び面接途中の辞退は,看護部長に知らせないようにし,その旨を看護部長・候補者双方の依頼文に明記した.
対象施設は,選定条件を満たす施設が45施設あり,まず約50%の22施設に依頼をしたが,協力が得られたのは1施設であったため,最終的に全施設に依頼をした.結果,3施設の協力を得た.3施設の平均病床数は253.3 ± 9.8床で,対象者の所属病棟全体の平均在院日数は365.1 ± 169.4日であった.
対象者は7名であり,男性1名,女性6名,平均年齢は48.4 ± 7.1歳であった.平均精神科病棟勤務経験月数は181.9 ± 74.2か月であった.面接回数は1人1回,面接時間は平均52.1 ± 9.0分であった.想起された患者事例は7事例であり,男性3名,女性4名,平均年齢は49.6 ± 14.5歳であった.平均入院期間は27.7 ± 20.5か月であった.対象者及び想起された患者事例の概要を表1に示す.
対象者 | 想起された患者事例 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年齢 | 性別 | 精神科病棟勤務経験月数 | 年齢 | 性別 | 入院期間(月数) | |||
A | 47 | 女 | 240 | a | 64 | 女 | 14 | |
B | 38 | 女 | 180 | b | 59 | 男 | 60 | |
C | 63 | 女 | 102 | c | 63 | 女 | 14 | |
D | 45 | 女 | 180 | d | 25 | 男 | 18 | |
E | 52 | 女 | 326 | e | 59 | 女 | 15 | |
F | 48 | 男 | 101 | f | 44 | 男 | 60 | |
G | 46 | 女 | 144 | g | 33 | 女 | 13 | |
平均±SD | 48.4 ± 7.1 | 181.9 ± 74.2 | 49.6 ± 14.5 | 27.7 ± 20.5 |
内容分析の結果,意味内容の異なる42のコードと,それらを説明する20のサブカテゴリー,6のカテゴリーが導き出された.一覧を表2に示す.
カテゴリー | サブカテゴリー | コード |
---|---|---|
服薬行動の安定 | 自発的な服薬 | E:受動的ではなく自発的に,薬を飲みに来る.(2) |
F:言わなくても,薬を自分で飲みに来る. | ||
拒否のない服薬 | D:薬を飲み始めて,拒薬してない.(4) | |
E:声掛けをしたら,薬を飲みに来る.(2) | ||
継続した服薬 | B:怠薬なく経過する. | |
G:しっかり定着して薬を飲む.(2) | ||
自他への 問題行動の改善 |
精神症状による 自傷行為の消失 |
E:症状が改善して,希死念慮がなくなった.(2) |
F:自傷とか自死を選ぶのは,症状的に危ない.(2) | ||
精神症状による 迷惑行為の落ち着き |
A:卑猥な言葉を叫ぶ症状があったが,落ち着いた. | |
B:口ずさんで喋っていても激しい独語でなく,他の患者の迷惑にならない.(4) | ||
精神症状の落ち着きによる 生活の取り戻し |
提供された食事の摂取 | F:そこにあるご飯さえ食べられたら大丈夫.(2) |
G:食事に関する妄想がなく,摂取状況は良い. | ||
安定した夜間の睡眠 | A:昼夜逆転していたが,落ち着いた. | |
D:寝られるようになった. | ||
活動の拡がり | C:ホールから部屋まで自分で出入りするようになった. | |
C:食後すぐに休まず,座っていられるようになった. | ||
違和感のない会話 | D:話が拡がり,現実的な話題を楽しめるようになった.(2) | |
D:相手がどこまで分かるかを考えて,話すようになった.(3) | ||
身近な他者への単純な依頼 | A:自宅訪問への拒否があったが,「来てください.」と言うようになった.(3) | |
C:他の患者に,助けてほしいことを伝えるようになった.(2) | ||
その人らしさの出現 | A:健康なときの,その人の生活が垣間見えるようになった. | |
G:無表情だった人が,興味ありそうに話をするようになった.(2) | ||
患者の 退院への納得 |
生活場所のイメージの拡がり | B:「病院に生活するもの.」という認識を切り替えていった. |
G:本人がグループホームに興味を持った. | ||
環境変化への安心 | B:「慣れてるから病院がいい.」と言われ,病院と一緒なところを探した. | |
F:退院はしたいけど,地域で生活をしていく自信がなかった.(2) | ||
退院後の生活への希望 | A:「家に帰りたい.」という本人の希望があった.(3) | |
E:「市内に買い物に行きたい,映画を見に行きたい.」という希望があった. | ||
F:本人が「働きたい,退院したい.」と言っていた.(3) | ||
家族の 精神症状への折り合い |
精神症状による周囲への 迷惑行為の家族の不安 |
B:過去の警察沙汰により,家族が病院から出したくない気持ちが強かった.(3) |
F:大声出して近所迷惑になることに不安があった. | ||
患者のなくならない精神症状への 家族の前向きな諦め |
D:息子として,患者を心配する母の一方的な思いを訂正した. | |
D:薬の副作用を理解し,患者の状態に母が折り合った. | ||
F:症状が残っても,家族が納得すれば退院できる. | ||
退院を見据えた 家族役割の引き受け |
安定できる生活場所 | B:ずっと居られる特養を家族が希望する. |
G:母が「直接介入することがないグループホームであれば」と受け入れた. | ||
無理のない経済的な見通し | B:家族が,本人の年金でまかなえる所であることを確認した.(2) | |
G:本人はアパートを借りたかったが,金銭的な問題があった. | ||
退院後の家族役割の負担 | A:自宅に退院したら,家族が「薬飲んだかどうか見に行く.」と言っていた. | |
F:ずっと患者の面倒みることで自分が疲れてしまわないか,母に不安があった.(2) | ||
退院先での専門職の支援による 家族の安心 |
A:身体の世話をしてくれるところへの退院に,家族が賛成した. | |
G:何かあれば支援が受けられるグループホームでの1人暮らしのため,家族が許可した. |
*( )内は同じ意味内容のコード数を示す.
精神科病棟看護師は,【服薬行動の安定】【自他への問題行動の改善】【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】【患者の退院への納得】【家族の精神症状への折り合い】【退院を見据えた家族役割の引き受け】について査定し,長期入院統合失調症患者の退院可能性を判断していた.なお,導き出されたカテゴリーは,KH Coderを用い,データの全体像と対応があることを確認した.
以下,【 】をカテゴリー,〈 〉をサブカテゴリーとして表記する.また,「 」は対象者が語った言葉であり,内容の理解が難しいと思われる箇所は,語りの意味を損なわないよう( )中に言葉を補い,表記する.
1) 【服薬行動の安定】【服薬行動の安定】は〈自発的な服薬〉〈拒否のない服薬〉〈継続した服薬〉の3サブカテゴリーで構成され,毎日の定期的な服薬において,患者が自主的に服薬できることを示す.
(1) 〈自発的な服薬〉「この人は,眠前薬だけは自分で飲みに来て,受動的ではなく自発的に飲んでいるので,眠前薬は飲めると評価した.」(E),「病棟の生活でも,薬も言わなくても自分で飲みに来る.」(F)という語りがあり,毎日の定期的な服薬における〈自発的な服薬〉について査定していた.
(2) 〈拒否のない服薬〉「薬を飲み始めて,拒薬してないと思う.」(D),「服薬は,声掛けをしたらちゃんと飲みに来た.」(E)という語りがあり,〈拒否のない服薬〉について査定していた.
(3) 〈継続した服薬〉「薬はちゃんと怠薬なく経過できる.」(B),「しっかり定着して薬を飲む.」(G)という語りがあり,〈継続した服薬〉について査定していた.
2) 【自他への問題行動の改善】【自他への問題行動の改善】は〈精神症状による自傷行為の消失〉〈精神症状による迷惑行為の落ち着き〉の2サブカテゴリーで構成され,精神症状はあるものの,その程度によらず,自他にとって問題となる患者の行動が改善することを示す.
(1) 〈精神症状による自傷行為の消失〉「薬物療法で,ある程度症状が改善されて,希死念慮がなくなった.」(E),「自傷とかね,自死を選ぶのは危ないんでしょうけど.症状的に危険ですから.」(F)という語りがあり,〈精神症状による自傷行為の消失〉について査定していた.
(2) 〈精神症状による迷惑行為の落ち着き〉「子どもに卑猥な言葉を叫ぶ症状があったけど,それが落ち着いた.」(A),「独語といってもそんなに激しい独語にならなくて,何か口ずさんで喋るとか.それで他の患者の迷惑につながるわけじゃない.」(B)という語りがあり,他者の許容範囲まで〈精神症状による迷惑行為の落ち着き〉がみられることについて査定していた.
3) 【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】は〈提供された食事の摂取〉〈安定した夜間の睡眠〉〈活動の拡がり〉〈違和感のない会話〉〈身近な他者への単純な依頼〉〈その人らしさの出現〉の6サブカテゴリーで構成され,入院前の精神症状が安定している時の個人の生活様式を,患者が取り戻すことを示す.
(1) 〈提供された食事の摂取〉「ご飯さえ食べられたらいいと思います.ご飯さえ.とりあえずそこにあるものが食べられたら,まず大丈夫だと思う.」(F),「食事に関しても,妄想などがあるわけでもなく,摂取状況は良好でした.」(G)という語りがあり,〈提供された食事の摂取〉について査定していた.
(2) 〈安定した夜間の睡眠〉「昼夜逆転していたのが落ち着いた.」(A),「真夜中に(母が差し入れを)持ってくる行動は止んだんです.本人が言わなくなった,寝られるようになったんですね.」(D)という語りがあり,〈安定した夜間の睡眠〉について査定していた.
(3) 〈活動の拡がり〉「だんだん行動範囲も拡がってきて,ホールからお部屋まで,自分で歩いて出てきたり,入ったりできるようになった.」(C),「食事を食べたら,前まではすぐ部屋に帰って休んでいたんですけど,それをせずに次の時間までずっと座っていることができるようになった.」(C)という語りがあり,身体的な〈活動の拡がり〉について査定していた.
(4) 〈違和感のない会話〉「話も拡がりは増えてきたし,現実的な話題はいろいろ楽しくできるようになった.」(D),「分かりやすいっていう表現はあれかもしれないけど,相手がどこまで分かるかを考えて内容を言うような感じ.」(D)という語りがあり,〈違和感のない会話〉について査定していた.
(5) 〈身近な他者への単純な依頼〉「最初は家にいくのも拒否だったから.来なくていいって.でも途中から来てくださいって言葉が出るようになった.」(A),「誰かに助けてほしいっていうのは,患者さんにでも,ちょっとそこまで(車いすを)出してって話し掛けたりできるようになった.」(C)という語りがあり,看護師や他患者といった〈身近な他者への単純な依頼〉について査定していた.
(6) 〈その人らしさの出現〉「元気なときの,健康なときのその人を知っているわけじゃないけど,あぁこういうおばちゃんだったんだろうなって戻ったとき.生活面かな.布団をたたむ人,たたまない人とか.」(A),「ほんとに無表情だった人が,興味ありそうに話をする.」(G)という語りがあり,患者個人の生活習慣や関心事といった〈その人らしさの出現〉について査定していた.
4) 【患者の退院への納得】【患者の退院への納得】は〈生活場所のイメージの拡がり〉〈環境変化への安心〉〈退院後の生活への希望〉の3サブカテゴリーで構成され,退院後の生活イメージを持ち,患者が退院を受け入れることを示す.
(1) 〈生活場所のイメージの拡がり〉「退院したらどうなるっていうのを常に言っていたんですけど,はぁって言うぐらいで,僕はここに生活するもの,居住地は病院っていう形だったんで,それはちょっと駄目だなって切り替えていった.」(B),「病院系列の新しくできるところに見学に行って,本人も興味を持ったので,退院先がグループホームになった.」(G)という語りがあり,病院や入院前の住居以外の〈生活場所のイメージの拡がり〉について査定していた.
(2) 〈環境変化への安心〉「なんで(退院)嫌?ってなったときに,ここ(病院)が慣れてるからいい.ここがいいってずっと言われて,じゃあ一緒なところを探してみようって言った.」(B),「退院はしたいんだけど,地域で生活をしていく自信がない.」(F)という語りがあり,退院に伴う〈環境変化への安心〉について査定していた.
(3) 〈退院後の生活への希望〉「本人の希望がずっとあって,頑張って建てた家,お父さんとの思い出の家に帰りたいって.」(A),「市内に買い物にいきたかったり,映画をまた見にいきたかったり,そういった希望があった.」(E)という語りがあり,退院先や退院してしたいことといった〈退院後の生活への希望〉について査定していた.
5) 【家族の精神症状への折り合い】【家族の精神症状への折り合い】は〈精神症状による周囲への迷惑行為の家族の不安〉〈患者のなくならない精神症状への家族の前向きな諦め〉の2サブカテゴリーで構成され,精神症状に対する家族の不安や葛藤を収めること示す.
(1) 〈精神症状による周囲への迷惑行為の家族の不安〉「家族とも折り合いというか,妄想,幻覚が強く警察沙汰になったんです.刃物を振り回すとか,そういう経緯があって.それで家族が病院から出したくないっていう気持ちが強かった.」(B),「大声出して近所迷惑なったらどうしようとか,現実的な不安を言っていた.」(F)という語りがあり,入院前から現在に至るまでの〈精神症状による周囲への迷惑行為の家族の不安〉について査定していた.
(2) 〈患者のなくならない精神症状への家族の前向きな諦め〉「お母さんもかなり心配しててね.過剰な気もしたけど,病気の一人息子だったらね.だから一緒に理解してもらった.お母さんが一方的に思っている彼を少し訂正ができたらって.」(D),「若くて体格も良いからもっとシャキッとしてほしい気持ちがあったと思うけど,薬の副作用のしんどさがあることにお母さんも折り合えた.」(D),「症状が残ったとしても,家族が,いやいいですよって納得できたら退院できるわけですからね.」(F)という語りがあり,病気を持つ我が子として患者を捉え直し,治療の限界を受け止めるといった〈患者のなくならない精神症状への家族の前向きな諦め〉について査定していた.
6) 【退院を見据えた家族役割の引き受け】【退院を見据えた家族役割の引き受け】は〈安定できる生活場所〉〈無理のない経済的な見通し〉〈退院後の家族役割の負担〉〈退院先での専門職の支援による家族の安心〉の4サブカテゴリ―で構成され,退院後の家族役割に納得することを示す.
(1) 〈安定できる生活場所〉「家族が,特養がいいですって提示が多いんです.特養なんかずっといられるし.」(B),「お母さんが拒絶していましたが,グループホームで直接の介入がないんであれば.って理解された.」(G)という語りがあり,退院先の居住可能な期間や関わりの度合いから〈安定できる生活場所〉について査定していた.
(2) 〈無理のない経済的な見通し〉「家族もこれぐらいだったらって,経済的にこの人の年金でまかなえる金額の所しか行けませんっていうことだったんで.」(B),「本人は,アパートを借りたいって言われたんですけど,おそらく金銭的な問題があった.」(G)という語りがあり,〈無理のない経済的な見通し〉について査定していた.
(3) 〈退院後の家族役割の負担〉「まだ訪問看護がなかったし,そんなに行ってなかった.でも家に戻る前提で,家族も薬ぐらい飲んだかどうか見に行くって.」(A),「自分が疲れてしまうんじゃないか,ずっと相手するのが.お母さんが面倒みなきゃいけないっていう不安もあったでしょうし,現実的な不安も語っていた.」(F)という語りがあり,〈退院後の家族役割の負担〉について査定していた.
(4) 〈退院先での専門職の支援による家族の安心〉「膝の悪さを考えたときに老健でいいかな.身体の世話をしてくれるところでいいんじゃないかって.家族の人も賛成ですって言ってくれた.」(A),「病院の系列のグループホームなので,何かあれば支援が受けれるっていうことで,見守れる環境で,家族にも1人での生活の許可をされた.」(G)という語りがあり,〈退院先での専門職の支援による家族の安心〉について査定していた.
本研究は,精神科病棟看護師の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容について明らかにすることを目的とした.以下,研究対象及び精神科病棟看護師の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容について考察する.
1. 研究対象対象者は,退院支援経験を持つ7名の看護師であり,男性1名,女性6名であった.全病院の就業している看護師の男女構成は,男性7.3%,女性92.7%である(厚生労働省,2018)が,精神科病棟では全病院よりも男性の割合が多いため,性別のバランスは良いと考える.対象者に想起された患者事例は,男性3名,女性4名であり,平均年齢は49.6 ± 14.5歳,平均入院期間は27.7 ± 20.5か月であった.65歳未満の長期入院統合失調症患者について語られていた.このことから,研究対象は目的に適しているといえる.
一方で,対象者に想起された患者事例の入院期間は1年6か月以内と,5年に二分していた.先行研究によれば,看護師は,さらなる入院の長期化を防止するため,入院期間を考慮し,退院までの見通しを再設定することが報告されている(葛谷・石川,2013).〈環境変化への安心〉は,入院期間5年の患者事例の語りのみから,導き出されたサブカテゴリーであった.長期入院患者でも入院期間の長さにより,退院可能性を判断するための査定内容は異なるのではないかと推察される.
2. 精神科病棟看護師の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容看護師は,患者及び家族について査定し,退院可能性を判断していることが明らかになった.以下,患者に対する査定と家族に対する査定に大別し,考察する.
1) 患者に対する査定患者に対しては,【服薬行動の安定】【自他への問題行動の改善】【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】【患者の退院への納得】について査定していた.【服薬行動の安定】と【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】については,地域生活する精神障がい者のセルフケア行動(山下,2017)に包含される内容であり,退院後に必要なセルフケア行動を査定していると考える.また,【自他への問題行動の改善】については,「口ずさんで喋っていても激しい独語でなく,他の患者の迷惑にならない」のように,精神症状が残っていても問題行動が改善すれば,退院可能性があると判断していた.これらのカテゴリーは,社会に適応可能かという視点で査定し,退院可能性について判断しているという先行研究(香川ら,2013)と同様の傾向であると考える.
2) 家族に対する査定家族に対しては,【家族の精神症状への折り合い】【退院を見据えた家族役割の引き受け】を査定していた.【家族の精神症状への折り合い】については,精神症状が悪化した場合,家族は,患者がいつ問題を起こすか分からない恐怖心を抱くという報告がある(全国精神保健福祉会連合会,2018).看護師は,家族がどのように統合失調症を受け止めているのか把握し,安心を与える支援を行う必要があると考える.一方で,【退院を見据えた家族役割の引き受け】については,〈安定できる生活場所〉〈無理のない経済的な見通し〉〈退院後の家族役割の負担〉〈退院先での専門職の支援による家族の安心〉を査定していた.先行研究によれば,地域のサポートとして退院先や支援が整っているか確認し,退院可能性を判断するという報告がある(星,2021).しかしながら本研究では,〈安定できる生活場所〉のように,家族に対する査定の1つとして退院先についての査定内容が示された.熟練看護師の退院支援プロセスには,退院意思を育む時期,患者と家族の退院先の意思決定を後押しする時期,退院に向けて始動する時期という3つの時期がある(香川ら,2013).看護師は,結果のように査定をし,どのような支援が必要な時期か見極めているのではないかと考える.
以上のことを踏まえ,表2に示した結果全体を考察すると,【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】【患者の退院への納得】等,カテゴリーの内容は,セルフケアレベルや退院意思を査定し,退院可能性を判断しているという報告(香川ら,2013)と同様の傾向で,抽象度が近いといえる.一方,〈自発的な服薬〉〈精神症状による自傷行為の消失〉〈提供された食事の摂取〉〈生活場所のイメージの拡がり〉〈精神症状による周囲への迷惑行為の家族の不安〉〈安定できる生活場所〉等,すべてのサブカテゴリーの内容は,本研究でより具体的に明らかになった内容であり,各項目における査定の視点が新たに示されたと考える.自律した看護師は,ポイントを掴んで情報収集し,ケアにつなげているという報告がある(杉山・朝倉,2017).サブカテゴリーの内容は,退院支援経験の少ない看護師にとって,退院可能性の判断のための査定を行う際,情報収集のポイントとして貢献できる.
本研究は,退院支援経験を持つ看護師に対して面接を実施し,語りから65歳未満の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容を明らかにした.長期入院患者でも入院期間の長さにより,退院可能性を判断するための査定内容は異なることが考えられた.今後検討する必要がある.
精神科病棟看護師の65歳未満の長期入院統合失調症患者の退院可能性の判断のための査定内容のうち,サブカテゴリーの内容については,本研究でより具体的に明らかになった内容であり,退院支援経験が少ない看護師の,退院可能性の判断のための査定を行う際の情報収集のポイントとして貢献できる.
精神科病棟看護師は,【服薬行動の安定】【自他への問題行動の改善】【精神症状の落ち着きによる生活の取り戻し】【患者の退院への納得】【家族の精神症状への折り合い】【退院を見据えた家族役割の引き受け】について査定し,65歳未満の長期入院統合失調症患者の退院可能性を判断していた.
コロナ禍にもかかわらず,本研究にご協力頂きました各施設の看護部長様及び病棟看護師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,関西福祉大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.
YN,MNは,研究の構想,データ分析,論文の作成までの研究プロセス全体に関わった.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.
本研究における利益相反はない.