2022 Volume 31 Issue 1 Pages 10-18
本研究の目的は,精神科看護師のワーク・エンゲイジメント(以下,WE)の実態を明らかにし,WEと自己効力感,レジリエンスおよび精神障害者に対するスティグマとの関連を検証することである.A県内の精神科単科病院5施設の病棟看護職員350名を対象とし,無記名自記式質問紙調査を行った.関連要因の分析には,WE総得点および3下位尺度の得点を従属変数とした重回帰分析を行った.有効回答は242名を得た(有効回答率79.6%).WE総得点平均は44.4(標準偏差15.4)点で,回答者の73.1%が低い群に区分された.レジリエンスの得点は,WE総得点および3下位尺度の得点と正の関連がみられた.自己効力感の得点および精神障害者に対するスティグマの得点は,いずれも有意な関連がみられなかった.精神科看護師のWEを高めるためには,レジリエンスを高めるように努める必要性が示唆された.また,夜勤回数とWEに負の関連がみられたことから,夜勤回数制限の必要性が示唆された.
Psychiatric nurses have high occupational stress and often suffer from burnout. Work engagement (WE) has recently been proposed as a contrasting concept of burnout and is attracting attention. This study aimed to clarify WE among psychiatric nurses and analyze the associations between WE and self-efficacy, resilience, and stigma for mentally ill persons.
An anonymous self-administered questionnaire survey was distributed among 350 ward nursing staff at five psychiatric hospitals in Wakayama Prefecture, Japan. The Japanese version of the Utrecht work engagement scale was used to evaluate WE. The association with WE was analyzed by multiple linear regression analysis, with the total WE score and the scores of the three subscales as the dependent variables.
Valid responses were obtained from 242 nursing staff (valid response rate 79.6%). The mean total WE score was 44.4 (standard deviation 15.4), and 73.1 percent were categorized in the low WE group (total WE score: 51 or less). The multiple linear regression analysis showed that the resilience score was positively associated with the total WE score and the scores of the three subscales. However, no significant association was found with self-efficacy scores or the stigma for mentally ill persons. The number of nighit duty showed negative association with the total WE and the scores of dedication.
Resilience was positively associated with WE. Therefore, efforts should be made to increase resilience among psychiatric nurses to enhance WE.
A negative association between the number of night duty and WE suggested the need to limit it’s number.
精神科看護師は,高い割合で精神的な問題を経験しており,メンタルヘルスが不調な状態であるといわれている(渡辺・阿保・佐久間,2015).精神科看護師は,他科領域の看護師と比較し,職業性ストレスが高いという報告(北岡(東口)ら,2004),また,精神科看護師は,内科看護師と比較し,バーンアウトが進行しているという報告がある(福崎・谷原,2014).
バーンアウトの対照的な概念として,新しく提唱された概念であるワーク・エンゲイジメント(以下,WE)が近年着目されている(Schaufeli et al., 2002).WEとは,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知であり(Schaufeli et al., 2002;Schaufeli, & Bakker, 2004),活力,熱意,没頭によって特徴づけられる.WEが高い人は心身の健康が良好で,生産性も高いことが報告されている(Luthans, Youssef, & Avolio, 2007;島津,2014).したがって,精神科看護師のメンタルヘルス対策には,WEを高めることも一つの方策であると考えられるが,精神科看護師において,WEを調べた報告は少なく,その状況は十分明らかになっていない.
WEに関連する要因は,JD-R(The Job Demand-Resource)モデルによれば(厚生労働省,2019a),仕事の資源,個人の資源(心理的資本),仕事の要求度が挙げられている.本研究では,WEによる精神科看護師のメンタルヘルス対策の端緒として,WEを高める要因である心理的資本に着目した(Bakker, & Leiter, 2010/2014).心理的資本は,自己効力感,楽観性,自尊心,レジリエンス(粘り強さ)などが該当する(島津,2014).一般労働者においては,自己効力感およびレジリエンスがWEと関連していることが報告されている(Bakker, & Leiter, 2010/2014).精神科看護師においても,自己効力感およびレジリエンスが向上すればWEの向上につながると考えられるが,両者との関連性は報告されていない.
また,精神科看護師は,精神障害者に対するスティグマが高ければ職務満足感が低いことが報告されている(糠信ら,2008).職務満足感とWEは概念的にも経験的にも,仕事への態度・認知が肯定的であるという点で重複するところがあり(島津,2014),よく似た役割を担う可能性が高い心理状態である(Bakker, & Leiter, 2010/2014).そのため本研究では,精神障害者に対するスティグマとWEとの関連についても検証することとした.
本研究の目的は,精神科看護師のWEの実態を明らかにし,一般労働者では報告されている自己効力感およびレジリエンスとWEとの関連性が認められるのか,そして,精神科看護師の職務満足感に関連するスティグマがWEにも関連しているのかを検証し,精神科看護師のメンタルヘルス向上にむけた支援を検討する資料を得ることである.
自記式質問紙法による横断研究を用いた関連検証研究である.
2. 調査対象対象者は,精神科単科病院5施設に勤務している病棟看護職員350名で,看護師以外に,准看護師・管理職・認定看護師・専門看護師も対象者(以下,精神科看護師)とした.
3. 調査期間2019年5月から7月であった.
4. 調査方法調査協力施設には,A県内の精神科単科病院全5施設(そのうち精神科救急入院料病棟があるのは1施設)を選定した.
各施設の研究担当責任者へ研究内容および研究方法の説明を直接行い,調査協力の承認を得た.研究担当責任者へ必要部数の質問紙を手渡し,各病棟責任者による看護師への配布を依頼した.看護師は質問紙に回答を記載した後に,のり付き封筒に入れ,各病棟責任者へ手渡した.各病棟責任者が封筒を各病院に設置している鍵付きの回収用ボックスへ投函した.後日,研究者がそれを回収した.
5. 調査項目無記名自記式質問紙調査とし,属性,ワーク・エンゲイジメント,仕事の資源,個人の資源(心理的資本),仕事の要求度から成る質問紙を作成した.
1) 属性属性では,性別,年齢,保有資格,婚姻状況を尋ねた.年齢は21~25歳,26~30歳,31~35歳,36~40歳,41~45歳,46~50歳,51~55歳,56歳以上の8つのカテゴリーで,保有資格は看護師,准看護師の,婚姻状況は独身,既婚の2つのカテゴリーで尋ねた.
2) ワーク・エンゲイジメントユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度日本語版(以下,UWES-J)は,WEを測定するために開発されたものであり,活力(6項目)・熱意(5項目)・没頭(6項目)の3つの下位尺度,全17項目からなる(Shimazu et al., 2008).「全くない」「ほとんど感じない」「めったに感じない」「時々感じる」「よく感じる」「とてもよく感じる」「いつも感じる」の7件法で回答を求め,それぞれの回答に0点から6点を配点し,WE総得点,活力得点,熱意得点,没頭得点を求めた.総得点が51点以下ならWEが低く,68点以上ならWEが高いとされる(Schaufeli, & Dijkstra, 2012/島津・佐藤,2012).信頼性と妥当性は,日本語版開発者によって検討されている(α = .92)(島津ら,2007).
3) 仕事の資源仕事の資源では,雇用形態,職位,看護師経験年数,精神科病院での看護師経験年数,現在の病院での看護師経験年数,現在の病棟での看護師経験年数を尋ねた.雇用形態は常勤,非常勤の2つのカテゴリーで尋ねた.職位は自由記載で尋ねた.看護師経験年数,精神科病院での看護師経験年数,現在の病院での看護師経験年数,現在の病棟での看護師経験年数は,それぞれ1年未満,1~5年未満,5~10年未満,10~15年未満,15~20年未満,20年以上の6つのカテゴリーで尋ねた.
4) 個人の資源(心理的資本) (1) 自己効力感自己効力感とは,困難な課題を達成するために,必要な努力ができる自信をもっていることである(Luthans, Youssef, & Avolio, 2007).
一般性セルフ・エフィカシー尺度は,一般労働者から学生までの幅広い層を対象に自己効力感を測定するものであり,行動の積極性(7項目)・失敗に対する不安(5項目)・能力の社会的位置づけ(4項目)の3つの下位尺度,全16項目からなる(坂野・東條,1986).「いいえ」を0点,「はい」を1点とする2件法で回答を求め,男・女・年齢による差をなくすために標準化得点を算出した(自己効力感得点).35点以下なら非常に低く,36~45点で低い傾向にあり,46~54点で普通,55~64点で高い傾向にあり,65点以上で非常に高いと判断される.信頼性と妥当性は,開発者によって検討されている(r = .84)(坂野・東條,1986).
(2) レジリエンスレジリエンスとは,問題や逆境に悩まされた時でも,成功するために,屈さず,立ち直り,乗り越えることである(Luthans, Youssef, & Avolio, 2007).
単科精神病院における看護師レジリエンス尺度は,精神科看護師のレジリエンスを測定するためのものであり,肯定的な看護への取り組み(10項目)・対人スキル(10項目)・プライベートでの支持の存在(4項目)の3つの下位尺度,全24項目からなる(井原ら,2012),「いいえ」「どちらかというといいえ」「どちらでもない」「どちらかというとはい」「はい」の5件法で回答を求め,それぞれの回答に1点から5点を配点し総得点を求めた(レジリエンス得点).レジリエンス得点は84点が平均的な目安で,得点が高いほどレジリエンスが高いことを意味する(井原ら,2012).信頼性と妥当性は,開発者によって検討されている(α = .84)(井原ら,2012).
(3) 精神障害者に対するスティグマ精神障害者に対するスティグマとは,精神障害者に対する知識(無視),態度(偏見),そして差別(行動)を含む包括的な言葉である(山口ら,2011).
Linkスティグマ尺度日本語版は,精神障害者に対するスティグマを測定するものであり,全12項目からなる(蓮井ら,1999).「全くそう思わない」「あまりそう思わない」「少しそう思う」「非常にそう思う」の4件法で回答を求め,それぞれの回答に1点から4点を配点し得点を求めた(スティグマ得点).スティグマ得点は30点前後が平均的な目安とされており(下津・坂本,2015),得点が高いほどスティグマが高いことを意味する.信頼性と妥当性は,開発者によって検討されている(α = .85)(下津ら,2006).
5) 仕事の要求度仕事の精神的・肉体的負担として,1ヵ月間の夜勤回数を尋ねた.
6. 分析方法今回はWEの実態を明らかにするために,WEの総得点,下位尺度の記述統計を用いるとともに,基準値との比較で分布を確認した.自己効力感,レジリエンス,スティグマについても同様に行った.
性別,保有資格,婚姻状況,雇用形態,職位の2群におけるWE総得点の平均値の比較には対応のないt検定を行った.職位は,自由記載の回答から役職あり(看護部長,副看護部長,病棟師長,病棟副師長,主任あるいはそれらに相当する職位についている者)と役職なしに分けた.
WEとの関連の検定には,重回帰分析を用いた.年齢,現在の病院での看護師経験年数,現在の病棟での看護師経験年数,1ヵ月間の夜勤回数,自己効力感得点,レジリエンス得点,スティグマ得点に加えて,属性で2群分けした際に有意差がみられた職位を独立変数として,WE総得点および活力得点,熱意得点,没頭得点を従属変数とした.自己効力感得点,レジリエンス得点,スティグマ得点には強制投入法を,属性の項目にはstepwise変数選択法を用いた.看護師経験年数,精神科病院での看護師経験年数は,年齢と強相関(相関係数が0.7以上)がみられたため独立変数から除外した.年齢,現在の病院での看護師経験年数,現在の病棟での看護師経験年数は,順序尺度の回答に,年齢は1点から8点を,その他の項目は1点から6点を配点した.1ヵ月間の夜勤回数は,2交代勤務の夜勤回数1回分を3交代勤務の夜勤回数2回分として計算した.職位は,役職ありとなしをダミー変数(1,0)に置き換えた.
統計学的分析にはIBM SPSS Statistics 24を使用し,有意水準は5%とした.
7. 倫理的配慮対象者には,研究目的および内容,質問紙の配付および回収方法,匿名性とプライバシー保護の厳守,自由意思による参加および不参加による不利益のないこと,得られたデータは本研究以外で使用しないこと,質問紙および分析記録の10年間保管について文書で説明を行い,質問紙の提出をもって研究参加への同意を得たものとみなした.なお,本研究は和歌山県立医科大学倫理審査委員会の承認を得て開始した(2019年5月13日,承認番号2573).
質問紙は304部回収した(回収率86.9%).尺度の項目に欠損のある者および無効回答の多い者を除外した結果,有効回答数は242名となった(有効回答率79.6%).
1. 研究対象者の概要対象者の概要を表1に示す.回答項目別にみると,性別は男性51.2%であった.年齢は56歳以上が19.0%と最も多かった.保有資格は看護師が80.2%,婚姻状況は既婚が71.5%であった.職位は役職ありが12.4%で,雇用形態は常勤が95.0%であった.看護師経験年数は20年以上が52.1%と最も多く,5年未満も8.7%みられた.精神科病院での看護師経験年数は20年以上が35.5%と最も多かった.現在の病院での看護師経験年数は20年以上が32.2%と最も多かった.現在の病棟での看護師経験年数は1年以上5年未満が60.7%と最も多かった.1ヵ月間の夜勤回数は8回が55.4%と最も多かったが,10回以上も26.0%みられた.
n | % | ||
---|---|---|---|
性別 | 男性 | 124 | 51.2 |
女性 | 118 | 48.8 | |
年齢(歳) | 20~25 | 13 | 5.4 |
26~30 | 19 | 7.9 | |
31~35 | 22 | 9.1 | |
36~40 | 35 | 14.5 | |
41~45 | 40 | 16.5 | |
46~50 | 34 | 14.0 | |
51~55 | 33 | 13.6 | |
56≦ | 46 | 19.0 | |
保有資格 | 看護師 | 194 | 80.2 |
准看護師 | 48 | 19.8 | |
婚姻状況 | 未婚 | 69 | 28.5 |
既婚 | 173 | 71.5 | |
職位 | 役職なし | 212 | 87.6 |
役職あり | 30 | 12.4 | |
雇用形態 | 常勤 | 230 | 95.0 |
非常勤 | 12 | 5.0 | |
看護師経験年数 (年) |
<1 | 1 | 0.4 |
1≦,<5 | 20 | 8.3 | |
5≦,<10 | 38 | 15.7 | |
10≦,<15 | 31 | 12.8 | |
15≦,<20 | 26 | 10.7 | |
20≦ | 126 | 52.1 | |
精神科病院での 看護師経験年数 (年) |
<1 | 12 | 5.0 |
1≦,<5 | 38 | 15.7 | |
5≦,<10 | 44 | 18.2 | |
10≦,<15 | 37 | 15.3 | |
15≦,<20 | 25 | 10.3 | |
20≦ | 86 | 35.5 | |
現在の病院での 看護師経験年数 (年) |
<1 | 14 | 5.8 |
1≦,<5 | 48 | 19.8 | |
5≦,<10 | 50 | 20.7 | |
10≦,<15 | 25 | 10.3 | |
15≦,<20 | 27 | 11.2 | |
20≦ | 78 | 32.2 | |
現在の病棟での 看護師経験年数 (年) |
<1 | 40 | 16.5 |
1≦,<5 | 147 | 60.7 | |
5≦,<10 | 38 | 15.7 | |
10≦,<15 | 11 | 4.5 | |
15≦,<20 | 2 | 0.8 | |
20≦ | 4 | 1.7 | |
1ヵ月間の夜勤回数 (回) |
0 | 31 | 12.8 |
2~7 | 14 | 5.8 | |
8 | 134 | 55.4 | |
10~14 | 63 | 26.0 |
(n = 242)
WE総得点は,51点以下の低い群が177名(73.1%),52点から67点の標準の群が53名(21.9%),68点以上の高い群が12名(5.0%)であった.WE総得点の平均は44.2(標準偏差15.0)点,活力得点の平均は15.2(5.7)点,熱意得点の平均は13.9(4.8)点,没頭得点の平均は15.1(5.4)点であった.
自己効力感得点は,36点から45点の低い群が97名(40.1%)と最も多く,次いで35点以下の非常に低い群が58名(24.0%)であり,この両者を合わせると64.0%であった.自己効力感得点の平均は42.9(10.2)点であった.
レジリエンス得点の分布をみると,基準値の84点を下回ったものは148名(61.2%)であった.レジリエンス得点の平均は80.3(12.1)点であった.
スティグマ得点の平均は32.2(5.0)点であった.
3. 属性および自己効力感,レジリエンス,スティグマとWEとの関係性別,保有資格,婚姻状況,雇用形態そして職位のそれぞれ2群でWE総得点の平均値を比較した結果,職位において,役職あり(N = 30, 52.9 (14.7))が役職なし(N = 212, 43.0 (14.6))に比べWE総得点が高く,有意な差を認めた.他の項目では有意な差を認めなかった.
WE総得点および活力得点,熱意得点,没頭得点を従属変数に,重回帰分析を行った結果を表2に示す.従属変数がWE総得点の場合,レジリエンス得点と年齢が有意な正の独立変数として,1ヵ月間の夜勤回数が有意な負の独立変数として採択された.従属変数が活力得点の場合,レジリエンス得点と年齢が有意な正の独立変数として採択された.従属変数が熱意得点の場合,レジリエンス得点と現在の病棟での看護師経験年数が有意な正の独立変数として,1ヵ月間の夜勤回数が有意な負の独立変数として採択された.従属変数が没頭の場合,レジリエンス得点,年齢そして職位が有意な正の独立変数として採択された.
変数 | WE総得点 | 活力得点 | 熱意得点 | 没頭得点 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
B | β | B | β | B | β | B | β | ||||
〈個人の資源(心理的資本)〉 | |||||||||||
自己効力感得点 | 0.052 | 0.036*** | 0.049 | 0.089*** | 0.034 | 0.071*** | –0.017 | –0.032** | |||
レジリエンス得点 | 0.597 | 0.482*** | 0.219 | 0.463*** | 0.191 | 0.478*** | 0.163 | 0.362*** | |||
スティグマ得点 | 0.187 | 0.062*** | 0.098 | 0.086*** | 0.041 | 0.042*** | 0.020 | 0.019*** | |||
〈属性〉 | |||||||||||
年齢 | 1.369 | 0.193*** | 0.498 | 0.184*** | 0.578 | 0.224*** | |||||
〈仕事の資源〉 | |||||||||||
現在の病棟での看護師経験年数 | 0.138 | 0.135** | |||||||||
職位 | 2.381 | 0.145*** | |||||||||
〈仕事の要求度〉 | |||||||||||
1ヵ月間の夜勤回数 | –0.539 | –0.118** | –0.206 | –0.140** | |||||||
R | 0.533*** | 0.527*** | 0.543*** | 0.445*** | |||||||
R2 | 0.284*** | 0.278*** | 0.295*** | 0.198*** | |||||||
調整済みR2 | 0.269*** | 0.266*** | 0.280*** | 0.181*** |
(n = 242)
B=偏回帰係数,β=標準化偏回帰係数,R=重相関係数,R2=決定係数
*p < .05;**p < .01;***p < .001.
独立変数:自己効力感得点,レジリエンス得点,スティグマ得点は強制投入法,属性,仕事の資源,仕事の要求度はstepwise変数選択法
本研究の対象者は,56歳以上が19.0%で,精神科病院での看護師経験年数は20年以上が35.5%であり,精神科看護での経験を豊富に積んでいると考えられる.
性別では,男性が51.2%と,男女ほぼ同じ割合であった.精神科看護師を対象とした対象者数の多い(350名以上)4つの先行研究をみると(松浦・鈴木,2017;澤田・香月,2018;児屋野・香月,2018;片岡・谷岡,2019),男性が26.6%から33.4%でいずれもが男性の割合が少ない.したがって,本研究成果を考察する場合には,男性の対象者数が多いことに配慮しなければならない.
2. 対象者のWE本研究におけるWE総得点は,平均値が44.2点であった.この平均値は,男性30歳から40歳代,女性20歳代を中心とした一般労働者の51点弱を下回っていた(Shimazu et al., 2010).また,精神科看護師を対象にUWES-J 短縮版9項目を使用してWE総得点を求めた朝比奈らの研究成果と比較するために(朝比奈・奥田・深田,2019),本研究の17項目のうち9項目を用いて総得点を求めたところ,中央値は23点であり,朝比奈らの中央値(20~30歳代23点,40歳代26点,50~60歳代25.5点)とほぼ同様の結果であった.WE総得点が低かった理由として,精神科病院の特徴である在院日数が長い患者が多く(厚生労働省,2019b),業務に変化が少ないことや,新人職員の入職が少いため職場環境に変化が少ないこと,ストレスが大きいこと(Yada et al., 2014)が影響していると考えられた.
3. 個人の資源(心理的資本)とWEとの関係レジリエンスがいずれの従属変数とも関連がみられたことは,レジリエンスがWEの3つの構成要素である活力,熱意,没頭のすべてと直接的に関連しているというBakker, & Leiter(2010/2014)の見解と一致した.
自己効力感は,いずれの従属変数とも関連のある独立変数として採択されなかった.これは,自己効力感がWEに関連しているという報告(Bakker, & Leiter, 2010/2014)と異なる結果であった.この要因として,自己効力感が非常に低い者と低い者を合わせると64%を占めていたことが挙げられる.また,今回用いた自己効力感尺度が,一般労働者から学生まで幅広い層を対象としたものであり,精神科看護師の自己効力感を測定するには適切でなかった可能性がある.今後,精神科看護師に適した尺度を用いる必要があると考えられた.
スティグマは,いずれの従属変数においても関連のある独立変数として採択されなかった.職務満足感はWEと同様に,仕事への態度・認知が肯定的なことを意味するが,職務満足感は仕事に対する感情であり,より認知的な基盤に基づいていることから(Bakker, & Leiter, 2010/2014;Shimazu et al., 2012),このような違いが関連性の差となったと考えられた.
4. 属性,仕事の要求度,仕事の資源とWEとの関係属性では.年齢がWE総得点,活力,没頭で有意な正の独立変数として採択された.これは,島津らが日本人労働者6043名を対象に行った,WEの得点は年代が高くなるほど高くなるという結果と一致した(島津ら,2008).
仕事の要求度である,1ヵ月間の夜勤回数がWE総得点と熱意で有意な負の独立変数として採択された.夜勤回数の多さは,人員不足などを表している可能性があり,このためにWEを下げる要因になったと考えられた(厚生労働省,2015).また,看護師において入眠障害の日数はWEと有意な負の相関がみられたと報告されている(井奈波・日置,2016).入眠障害は不満,悩み,ストレスなどのほか,交代制勤務にも関連することから(大井田ら,2001),交代制勤務の数が多いと入眠障害の状態を介してWEが低下している可能性が考えられた.
仕事の資源である,現在の病棟での看護師経験年数が,熱意で有意な正の独立変数として採択された.看護師経験年数とWEとの関係を検討した研究はあるが(井奈波・日置,2016;朝比奈・奥田・深田,2019),現在の病棟での経験年数を調査したものはなかった.病棟経験年数が短い者は,病棟異動直後の者か新入職者であるため,新しい病棟の環境に不慣れな状態にあり,仕事に誇りややりがいを感じることは困難である.熱意は仕事に誇りややりがいを感じていることを表すため(Schaufeli et al., 2002;Schaufeli, & Bakker, 2004),このような結果となったと考えられた.また,現在の病棟での看護師経験年数が1年以上5年未満が61%を占めているという対象の片寄りも,本結果の要因として考えられる.
職位は,役職ありが役職なしに比べWEが有意に高かった.これは,一般病棟に勤務する看護師において管理職者がそれ以外のものよりWEが高かったという報告と(安保・髙谷,2019),同様の結果であった.また,総合病院で勤務する看護師経験年数5年以上の看護職員を対象にした研究をみると,職位は3つの下位尺度のいずれとも関連がみられたが(須藤・石井,2017),本研究では没頭のみであった.これは,本研究での対象者には看護師経験年数が5年未満の者が8.7%含まれていたこと,また,職位のある者が12.4%と少なかったことから,このような差が生じたと考えられる.
このように,夜勤回数,病棟での看護師経験年数,職位が関連していることは,WEに個人の資源(心理的資本)に加え,仕事の要求度と仕事の資源が関与しているというJD-Rモデルと符合した.
5. WEの向上にむけて本研究では,精神科看護師のレジリエンスと年齢が正の要因として,夜勤の多さが負の要因としてWEに関連していた.精神科看護師のレジリエンスは,精神科看護師としての職業的地位の向上や(岡田ら,2018),先輩の対応をモデルとして学ぼうとする意思(大島・村瀬,2018)が関係している.しかし,精神科看護師のレジリエンスに関する先行研究は未だ少なく,レジリエンスを向上させる要因については明確な知見がなく,今後検証していく必要がある.
一方,1ヵ月間の夜勤回数が10回以上の者が26%みられた.1回の夜勤時間を8時間とすると,月の夜勤時間が80時間以上となり,推奨されている72時間を超えている(厚生労働省,2015).WEを高めるには,夜勤の回数制限にも努める必要性があると考えられた.
本研究ではWEとの関連性は明確でなかったが,自己効力感,レジリエンスはWEに関連する要因として注目されている(厚生労働省,2019a).本研究ではこれらの得点の低い者が多かったため,自己効力感,レジリエンスを高めることも肝要である.
6. 本研究の限界と課題本研究は横断研究であり,因果関係を説明することが出来ず,今後縦断研究を行う必要がある.また,A県内の精神科看護師のみを対象としており,一般化には限界があるため,今後他府県を含め,より多くの精神科看護師を対象とした調査を行う必要がある.さらに,対人業務における情緒的負担などの仕事の要求度,社会的支援など仕事の資源に関する情報を含め,精神科看護師のWEが関連する要因について検討する必要がある.
精神科単科病院で働く看護師242名を対象にWEと自己効力感,レジリエンスおよび精神障害者に対するスティグマとの関連性について検証した.レジリエンスはWEと正の相関が示された.自己効力感および精神障害者に対するスティグマは,WEと有意な関連がみられなかった.精神科看護師のWEは,レジリエンスを高めるように努めることで高まる可能性が示唆された.
本研究にご協力いただきました精神科看護師の皆様には,心から感謝を申し上げます.また,研究調査を快くお引き受けくださった各施設の責任者および研究担当責任者,ならびに質問紙の配布・回収にご協力いただきました各病棟責任者の皆様に,心より深く感謝を申し上げます.なお本論文は,和歌山県立医科大学大学院保健看護学研究科修士課程提出の修士論文に加筆・修正を加えたものです.
AKは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文作成を行った.AYは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み承認した.
本研究における利益相反は存在しない.