2022 Volume 31 Issue 2 Pages 38-47
目的:メンタルヘルス領域のピアスタッフと働く専門職者が,ピアスタッフとの協働にむけてどのような経験をしているかを明らかにすることである.
方法:ピアスタッフと1年以上一緒に働いた経験をもつ精神保健福祉士,看護師等の専門職者15名に,インタビューガイドを用いて1対1での面接を行った.逐語録を質的記述的に分析した.
結果:ピアスタッフとの協働にむけて専門職は,〈対等な関係・対等な参加の機会をつくる〉,〈ピアスタッフから学ぶ〉を中心に,〈ピアスタッフの強みを理解する〉,〈ピアスタッフの悩みを理解する〉,〈ピアスタッフの体調をみる〉,〈実践を通して仕事に慣れる機会をつくる〉,〈社会経験に応じたサポートをする〉関わりと,〈ピアスタッフが孤立しないような職場環境をつくる〉,〈ピアスタッフとの協働への抵抗を認識する〉,〈雇用方法を検討する〉ことを行っていた.
考察:ピアスタッフとの協働にむけて,対等性・相互性というピアサポートの特徴的な関係性を組織の中に内包し,ピアスタッフが仕事を続けられるような職場環境を構築することが求められる.
Objective: This study determines the experiences of mental health professionals working in cooperation with peer support workers.
Methods: A total of 15 professionals, including psychiatric social workers, nurses and others, who had worked with peer support workers for more than a year, were interviewed one-to-one using an interview guide. The transcripts were analyzed qualitatively and descriptively.
Results: To work in cooperation with peer support workers, professionals tried to “create opportunities for equal relationships and equal participation,” “learn from peer support workers,” as well as “understand the strengths of peer support workers,” “understand the concern of peer support workers,” “monitor the physical conditions of peer support workers,” “create opportunities for peer support workers to get used to work through practice,” “provide support according to the social experience of peer support workers,” “create a work environment where peer support workers are not isolated,” “recognize resistance to work with peer support workers,” and “examine employment methods.”
Discussion: To work in cooperation with peer support workers, it is necessary to build a work environment in which such workers can continue to work by embracing the characteristic relationships of peer support, such as equality and reciprocity, in the organization.
リカバリーを促進する重要な契機の一つとして,ピアサポートが注目されており,「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」においてもその役割が示されている(厚生労働省,2020).ピアサポートの形態は,自然発生的なものからメンタルヘルスケアサービスとしての組織的な活動までさまざまなものがあるが,米国では,ピアサポートを専門に行うピアスペシャリストに対する保険の支払いが行われるようになっている(Salzer, 2010).日本では1990年代より精神保健福祉のサービス事業所において雇用されてピアサポートをサービスとして行う形態が発展してきた経緯がある(濱田,2014).2011年には米国のピアスペシャリストを参考にしたガイドラインが作成され,精神障がいピアサポート専門員の研修も開催されるようになった(岩崎,2019).令和3年度障害福祉サービス等報酬改定では「ピアサポート体制加算」,「ピアサポート実施加算」が創設され,福祉サービス提供者としてピアスタッフが活動する機会が広がることが予測される.
ピアサポートを職業として行う者(ピアスタッフ)は,サービス受給者であり,サービス提供者でもあるというこれまでにはない新たなポジションで活動することとなる(相川,2013).ピアスタッフの雇用は試行錯誤の段階であり,従来のケアシステムに精神障害をもつ当事者の視点を取り入れ,リカバリー志向のサービスへ転換を図るものとしての期待がある一方で,専門職者の役割やこれまでのシステムも変化を求められ,その過程では混乱が生じることがある(Chinman et al., 2008).
欧米諸国でのピアワーカーのメンタルヘルスサービスでの役割遂行上の壁に関する文献レビューでは(Vandewalle et al., 2016),ピアワーカーはピアワーカーの役割に対する信頼性の欠如,専門家の否定的な態度,サービスユーザーとの緊張,アイデンティティ構築との闘い,文化的障害,不十分な組織的取り決め,不十分な包括的な社会的および精神的健康等を認識していることが明らかとなっている.日本における山川・船越(2020)の調査でも,精神保健福祉分野のピアスタッフが経験する困難として,相互的な関係性構築に対する困難,仲間の体験理解における困難,病いの体験に基づくサポートの困難,評価方法の欠如といった困難を体験していることが明らかにされ,専門職の理解がないことがこれらの困難を強める要因となる可能性があることを指摘している.しかしながら日本においてピアスタッフを同じサービス提供者として位置づけてどのように協働するかを明らかにした研究は,取り組まれていない.
これまでの専門職中心であった支援チームにピアスタッフが雇用され,利用者のリカバリー支援を効果的に行うためには,ピアスタッフを新たに受け入れる専門職がどのように協働しようとしているのかを明らかにする必要があると考えた.
メンタルヘルス領域のピアスタッフと働く精神保健福祉士,看護師,医師等の専門職者が,ピアスタッフとの協働にむけてどのような経験をしているのかを明らかにすることである.
2. 用語の定義ピアサポート/peer supportは「平等な立場にある仲間による支援,仲間同士の支援」であり,メンタルヘルス領域のピアスタッフとは,精神障害の経験を生かしてピアサポートを行う者である.本研究におけるピアスタッフとは,ピアサポートを行うことで経済的な報酬を受けている者とした.
3. 研究デザイン質的帰納的研究デザインとした.
4. 研究参加者研究参加者は,メンタルヘルス領域のピアスタッフと過去3年間のあいだに1年以上一緒に働いた経験をもつ精神保健福祉士,看護師,医師等の専門職者とした.ピアスタッフを雇用して協働的な実践の活動報告を学会や雑誌等で行っている事業所に直接調査依頼を行った.
5. 調査方法メンタルヘルス領域のピアスタッフと働いた経験について自由に語ってもらう半構成的インタビューガイドを作成し,1対1での面接を行った.研究参加者の了解を得て,筆記記録・ICレコーダで記録し,面接終了後できるだけ早い段階で録音された内容を逐語録として起こしてデータとした.
データ分析は,逐語録を精読し,専門職がピアスタッフとの協働にむけて行った行為や認識を含む経験を1つのまとまりとしてコード化し,内容の類似性・相違性の比較を通じて,協働にむけた専門職の経験を説明する概念を命名した.概念の抽象化のレベルによって,サブカテゴリー,カテゴリーとして整理した.またカテゴリーの生成過程で概念間の関係性を検討し,カテゴリー間の関係を図に示した.
研究期間は,2015年1月~2016年3月であった.
6. 研究における倫理的配慮研究参加者に対し,同意説明文書を用いて,研究の意義,目的,対象,方法,実施期間,研究参加・撤回の自由等を説明し,自由意思による同意を文書で取得した.研究の実施に係る文書や記録,研究結果の公表において,研究参加者の匿名性の確保と個人情報の保護を行った.東京女子医科大学倫理委員会の承認を受けて行った(承認番号3308).
研究参加者は,女性9名,男性6名の計15名であった.研究参加者がピアスタッフと働いた場所は,精神科医療施設におけるデイケア7名,精神科医療施設におけるアウトリーチチーム2名,就労移行支援事業所2名,相談支援事業所1名,多機能事業所(生活訓練)1名,B型就労継続支援事業所1名,地域活動支援センター1名であった.平均年齢は,41.9歳(範囲29~65),ピアスタッフと働いた当時の主たる職種は,精神保健福祉士7名,看護師4名,臨床心理士2名,医師1名,作業療法士1名であった(表1).
ID | 性別 | 年齢 | 所有する資格 | ピアスタッフと働いたときの職場 | 働いたピアスタッフの役割 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | A | 男 | 30代 | 看護師 | 精神科病院でのアウトリーチチーム | 複数のピアスタッフが他の専門職とアウトリーチチームを担う |
2 | B | 女 | 30代 | 精神保健福祉士,社会福祉士,介護福祉士 | 相談支援事業所・管理職 | 複数のピアスタッフが他の専門職と一緒に事業所でのプログラム運営を担う |
3 | C | 男 | 30代 | 精神保健福祉士 | 多機能事業所(生活訓練) | 複数のピアスタッフが他の専門職と一緒に多機能事業所の立ち上げと運営 |
4 | D | 男 | 40代 | 精神保健福祉士 | B型就労継続支援事業所・管理職 | 複数のピアスタッフがB型就労継続支援事業所を運営 |
5 | E | 女 | 20代 | 精神保健福祉士,社会福祉士 | 就労移行支援事業所 | 1名のピアスタッフが就労移行支援,地域活動支援センターでプログラムを運営 |
6 | F | 男 | 40代 | 精神保健福祉士,社会福祉士 | 就労移行支援事業所 | 1名のピアスタッフが就労移行支援,地域活動支援センターでプログラムを運営 |
7 | G | 女 | 50代 | 精神保健福祉士 | 地域活動支援センター | 複数のピアスタッフが退院促進・移行支援事業の自立支援員となり専門職と支援を行う |
8 | H | 男 | 30代 | 看護師,保健師,精神保健福祉士 | 精神科病院でのアウトリーチチーム | 複数のピアスタッフが他の専門職と一緒にアウトリーチチームを担う |
9 | I | 女 | 50代 | 作業療法士 | 精神科デイケア | 1名のピアスタッフが他の専門職と一緒にデイケアプログラムを運営する |
10 | J | 女 | 20代 | 臨床心理士 | 精神科デイケア | 1名のピアスタッフが他の専門職と一緒にデイケアプログラムを運営する |
11 | K | 女 | 30代 | 精神保健福祉士 | 精神科デイケア | 1名のピアスタッフが他の専門職と一緒にデイケアプログラムを運営する |
12 | L | 男 | 40代 | 医師 | 精神科デイケア | 1名のピアスタッフが他の専門職と一緒にデイケアプログラムを運営する |
13 | M | 女 | 60代 | 看護師 | 精神科デイケア | 複数のピアスタッフが他の専門職と一緒にデイケアプログラムを運営する |
14 | N | 女 | 50代 | 臨床心理士,精神保健福祉士 | 精神科デイケア | 複数のピアスタッフが他の専門職と一緒にデイケアプログラムを運営する |
15 | O | 女 | 40代 | 看護師 | 精神科デイケア | 複数のピアスタッフが他の専門職と一緒にデイケアプログラムを運営する |
分析によって得られたカテゴリーについて,カテゴリーを構成するサブカテゴリーを用いながら,その内容を説明する.カテゴリーは〈 〉,サブカテゴリーは〔 〕,研究参加者の語りは「 」で示す.
ピアスタッフとの協働にむけた専門職の経験は,〈対等な関係・対等な参加の機会をつくる〉,〈ピアスタッフから学ぶ〉を中心に,〈ピアスタッフの強みを理解する〉,〈ピアスタッフの悩みを理解する〉,〈ピアスタッフの体調をみる〉,〈実践を通して仕事に慣れる機会をつくる〉,〈社会経験に応じたサポートをする〉というピアスタッフとの相互作用と,〈ピアスタッフが孤立しないような職場環境をつくる〉,〈ピアスタッフとの協働への抵抗を認識する〉,〈雇用方法を検討する〉という組織における働きかけの10つのカテゴリーによって説明された(表2).またこれらの協働の経験は,〈組織のリカバリー志向の理念〉,〈支援者としての信念〉,〈当事者から学ぶ経験〉によって影響を受けていた(図1).
カテゴリー | サブカテゴリー |
---|---|
対等な関係・対等な参加の機会をつくる | チームで大事にしたいことを話し合う |
一緒に働く仲間として互いの思いを話す | |
それぞれの意見を尊重する | |
それぞれのリカバリーストーリーを大切にする(スタッフも自分のリカバリーストーリーを語る) | |
一緒に勉強する機会をもつ | |
一緒に楽しむ機会をもつ(食事など) | |
これまでに築いてきたピアサポートの関係性をいかす | |
ピアスタッフから学ぶ | ピアスタッフの存在から支援を振り返る |
利用者の経験や関わり方についてアドバイスをもらう | |
支援/被支援の関係を意識する | |
ピアスタッフに専門職の支援を求めない | |
ピアスタッフ独自の機能の発展を期待する | |
ピアスタッフのリカバリーが自分の力になる | |
ピアスタッフの強みを理解する | |
ピアスタッフの悩みを理解する | スタッフとメンバーの間の立ち位置での悩みを理解する |
他のスタッフに引け目を感じることがあることを理解する | |
ピアスタッフ間の関係での悩みを理解する | |
ピアスタッフの体調をみる | 体調への対処ができているか確認する |
体調悪化を想定して勤務調整をする | |
医療的フォローは医療に任せる | |
実践を通して仕事に慣れる機会をつくる | ピアスタッフの役割を明確にする(WRAPの運営,個別ケース支援で体験を話してもらう,ピアカウンセリング,心理教育担当,レクリエーションの企画,講師,リカバリーストーリーの発表,など) |
何度も練習して学べる機会をつくる | |
実践を通じて自信をもって成長できるようサポートする | |
社会経験に応じたサポートをする | 個人の能力は違うことを認識する |
社会経験は違うことを認識する | |
職員として働く力をつけられるよう準備をする | |
ピアスタッフが孤立しないような職場環境をつくる | 居心地のよい雰囲気をつくる |
複数で動いて人とのつながりをつくる | |
お互いのサポートができるような環境を整える | |
持っている力を発揮できる機会をつくる | |
違いよりも共通点を見つける | |
ピアスタッフを区別する言葉を使わない(健常者等) | |
定期的なカンファレンスをもつ | |
外部のピアスタッフによるスーパーバイズを活用する | |
ピアスタッフの自発性を尊重する | |
ピアサポートの研修の機会をつくる | |
ピアサポートプログラムを試行錯誤して一緒につくる | |
外の機関とのつながりをつくる | |
ピアスタッフとの協働への抵抗を認識する | |
雇用方法を検討する |
ピアスタッフとの協働にむけた専門職の経験
はピアスタッフとの協働にむけた専門職の経験のカテゴリーを示す
はピアスタッフとの協働にむけた専門職の経験に影響を与える要因を示す
研究参加者は,〔チームで大事にしたいことを話し合う〕,〔一緒に働く仲間として互いの思いを話す〕,〔それぞれの意見を尊重する〕,〔それぞれのリカバリーストーリーを大切にする(スタッフもリカバリーストーリーを語る)〕,〔一緒に勉強する機会をもつ〕,〔一緒に楽しむ機会をもつ(食事など)〕,〔これまでに築いてきたピアサポートの関係性をいかす〕ことを通して,ピアスタッフとの間に対等な関係や対等な参加の機会をつくることを心がけていた.
D氏はピアスタッフと協働するための準備として,事業所の誰もが参加できる勉強会や食事会を開催したことを語った.
「そういう準備をしながらやった方がいいと思って,勉強会だとか.ただ権利ばっかりじゃなくて,ちゃんと下準備もして,対等な知識や話し方や.(中略)当たり前に人とうまくやる,そういうすべて.(D氏)」
2) 〈ピアスタッフから学ぶ〉〔ピアスタッフの存在から支援を振り返る〕,〔利用者の経験や関わり方についてアドバイスをもらう〕,〔支援/被支援の関係を意識する〕,〔ピアスタッフに専門職の支援を求めない〕,〔ピアスタッフ独自の機能の発展を期待する〕,〔ピアスタッフのリカバリーが自分の力になる〕ことによって,研究参加者はピアスタッフから学ぶという経験をしていた.
「実際仕事して,利用者さんと関わっている中で,自分に言い訳したくなることってあるじゃないですか.うまくいかないときとかは.そういう中で,やっぱりKさん(ピアスタッフ)っていう存在がいることによって,『ああ,こういう視点で見ちゃいけないのかな』っていうのは,感じることはありますね.(F氏)」
3) 〈ピアスタッフの強みを理解する〉研究参加者は,ピアスタッフならではの特徴やよさを理解して,支援に生かしていた.研究参加者が認識するピアスタッフの強みは,〔ピアスタッフは意欲や熱意をもっている〕,〔ピアスタッフは利用者や自分の負担を理解し無理しない〕,〔ピアスタッフが障害をもった当事者だから言えることがある〕,〔ピアスタッフは自分の目線で生活の仕方を発信できる〕,〔利用者は安心して病気のことや生活の話ができる〕,〔利用者がピアスタッフと出会うことで変化する〕,〔ピアスタッフは病気になっても大丈夫というロールモデルになれる〕,〔ピアスタッフはリカバリーの捉え方にセンスがある〕,〔ピアスタッフは利用者の希望やニーズを大切にする〕,〔利用者とピアスタッフがそれぞれに成長する〕,〔ピアスタッフは支援の発想が豊かでユニークである〕,〔ピアスタッフは伴走的サポート・一緒にやる支援が得意である〕,〔ピアスタッフは自分が受けたよい支援をしてあげたい気持ちがある〕,〔ピアスタッフは利用者と自分双方のリカバリーストーリーを大切にする〕,という内容であった(表3).
ピアスタッフは意欲や熱意をもっている |
ピアスタッフは利用者や自分の負担を理解し無理しない |
ピアスタッフが障害をもった当事者だから言えることがある |
ピアスタッフは自分の目線で生活の仕方を発信できる |
利用者は安心して病気のことや生活の話ができる |
利用者がピアスタッフに出会うことで変化する |
ピアスタッフは病気になっても大丈夫というロールモデルになれる |
ピアスタッフはリカバリーの捉え方にセンスがある |
ピアスタッフは利用者の希望やニーズを大切にする |
利用者とピアスタッフがそれぞれに成長する |
ピアスタッフは支援の発想が豊かでユニークである |
ピアスタッフは伴走的サポート・一緒にやる支援が得意である |
ピアスタッフは自分が受けたよい支援をしてあげたい気持ちがある |
ピアスタッフは利用者と自分双方のリカバリーストーリーを大切にする |
研究参加者は〔スタッフとメンバーの間の立ち位置での悩みを理解する〕,〔他のスタッフに引け目を感じることがあることを理解する〕,〔ピアスタッフ間の関係での悩みを理解する〕という,ピアスタッフの悩みを理解することを行っていた.
「これは別に障害関係ないのかもしれないですけども,どこかで引け目を感じてる方は多いと思うんですよね.障害があるっていう中で,そこで孤立しちゃうっていうのが,一番辞めたくなる要因の一つだと思うので,そこはちゃんとフォローしていかなくちゃいけないかなというところと,やっぱり福祉の仕事って,なかなか成果が見えないじゃないですか.(F氏)」
5) 〈ピアスタッフの体調をみる〉ピアスタッフと働くうえで,雇用の際やその後の仕事の中で,〔体調への対処ができているか確認する〕,〔体調悪化を想定して勤務調整をする〕,〔医療的フォローは医療に任せる〕といったように,ピアスタッフの体調をみることが行われていた.
「お休みがでるタイミングが読めない場合があります.だからそこはある程度予想する範囲でやるとか(中略),私の役目は頭を下げて,今日は(担当)チェンジです,みたいに(H氏)」
6) 〈実践を通して仕事に慣れる機会をつくる〉研究参加者によって語られたピアスタッフの仕事の内容についてはさまざまであったが,〔ピアスタッフの役割を明確にする〕ことが,ピアスタッフとの仕事がうまくいくうえで重要であることが語られた.仕事の内容は,WRAPクラスの運営,個別ケースの支援で体験を話してもらう,ピアカウンセリング,心理教育の担当,デイケアプログラムの担当,レクリエーションの企画,講師,リカバリーストーリーの発表などであった.いずれも実践の中で,〔何度も練習して学べる機会をつくる〕,〔実践を通じて自信をもって成長できるようサポートする〕ことを行っていた.
7) 〈社会経験に応じたサポートをする〉〔個人の能力は違うことを認識する〕,〔社会経験は違うことを認識する〕,〔職員として働く力をつけられるよう準備をする〕という,ピアスタッフの社会経験に応じてサポートすることが行われていた.
8) 〈ピアスタッフが孤立しないような職場環境をつくる〉対象者の勤務する事業所では1か所を除き,他では複数人数のピアスタッフの雇用が行われていた.ピアスタッフの数がそれ以外の専門職のスタッフ数と同程度に多かった事業所が2か所あったが,その他の事業所では,ピアスタッフは複数いても少人数であった.大多数の専門職とともに働く,新たな試みとしての雇用であった.そのようなピアスタッフが職場で孤立しないような工夫をしていた.具体的には,職場の中で〔居心地のよい雰囲気をつくる〕,〔複数で動いて人とのつながりをつくる〕,〔お互いのサポートができるような環境を整える〕,〔持っている力を発揮できる機会をつくる〕,〔違いよりも共通点を見つける〕,〔ピアスタッフを区別する言葉を使わない(健常者等)〕,〔定期的なカンファレンスをもつ〕,〔外部のピアスタッフによるスーパーバイズを活用する〕,〔ピアスタッフの自発性を尊重する〕,〔ピアサポートの研修の機会をつくる〕,〔ピアサポートプログラムを試行錯誤して一緒につくる〕,〔外の機関とのつながりをつくる〕ということが行われていた.
9) 〈ピアスタッフとの協働への抵抗を認識する〉研究参加者はピアスタッフとの協働に価値を置いていたが,同時に,職場や周囲にピアスタッフとの協働に対する抵抗があることや,時に自分自身にも生じるピアスタッフと働く中で生じる協働に対する消極的な考えや迷いについても語った.協働への抵抗となる専門職の認識として,〔当事者の力はあると思うがすぐには仕事という形にならない〕,〔ピアの効果,ピアスタッフの成果を表すことが難しい〕,〔ピアスタッフのできることがわからない〕,〔ピアスタッフへの関わり方がわからない〕,〔ピアスタッフではない当事者の活動との区別がしづらい〕といった内容があげられた(表4).
当事者としての力はあると思うがすぐには仕事の形にならない |
ピアの効果,ピアスタッフの成果を表すことが難しい |
ピアスタッフのできることがわからない |
ピアスタッフへの関わり方がわからない |
ピアスタッフではない当事者の活動との区別がしづらい |
「時としてすごいがっかりしたり,『どうしよう』と思ったり,でも,違う場面になると『ああ,やっぱりすごいな』と思ったり,ほんとに揺れるんですよ.(G氏)」
10) 〈雇用方法を検討する〉研究参加者が勤務する施設においてピアスタッフの雇用を導入するのにあたり,雇用の財源,雇用形態,勤務時間といった雇用方法について,その当時の事業所のなかでピアスタッフの導入がうまくいくよう試行錯誤されていた.
3. ピアスタッフとの協働にむけた専門職者の経験に影響を与える要因ピアスタッフとの協働に向けた専門職の経験に影響を与える要因として,語りから,〈組織のリカバリー志向の理念〉,教育や経験を通じて得た〈支援者としての信念〉,〈当事者から学ぶ経験〉の3つのカテゴリーが抽出された.
〈組織のリカバリー志向の理念〉とは,組織の設立理念や事業の目的,チームの目標,個人といった様々なレベルでリカバリーを支援の目標することを明示していることである.研究参加者のピアスタッフとの協働は,所属する組織がリカバリーにむけてピアスタッフとの協働に価値を置き,活動に取り入れる決定をすることで実現していた.〈支援者としての信念〉は,基礎教育やこれまでの経験を通じて,障害を持つ人も市民として対等な参加の機会が保証されるべきであるという考えや,当事者中心の考えに,支援者として価値を置く信念のことである.〈当事者から学ぶ経験〉とは,学生時代あるいは支援者としての経験中で,患者さんや障害をもつ当事者である人々から学ばせてもらった経験であり,そのことが現在のピアスタッフとの協働に影響を与えていることである.
「本当に人生の先輩みたいなもので,(中略)病気のことやいろんなことを話してくれたり,すごい疲れていたら『ちょっとやばいんじゃないの?』って逆に声かけてくれたりとか,あれがあるからずっとやってこれたかもしれないっていうのはありますね(G氏)」
今回の研究参加者は,既存の医療保健福祉施設において,新たな職種としてのピアスタッフを迎え入れ,リカバリー志向の実践に向けて活動していた.これまでの専門職者のみでは補完しえないピアスタッフ独自の強みを理解し,それを支援に組み入れることで支援対象者のリカバリーが可能になることを信じている人々であった.
精神疾患を罹患し,精神障害を経験することは,支援を受けるという一方的で受動的な社会的相互作用が多くなり(Rapp, & Goscha, 2011),精神疾患によって自分自身を失ってしまうことがある経験であることが指摘されている(Estroff, 1989).ピアサポートに出会い,同じ疾患や障害をもっても個々人が違うという固有性を取り戻し,自らの経験をもって困難を抱える他者に応答する主体性をもつことによって,リカバリーが生じるのである(濱田,2015).
ピアサポートは支援の「対等性」および「相互性」にその特徴があり(Mead, 2003),専門職が提供する「支援者と被支援者」という関係性とは異なる関係性であるがゆえに,リカバリーにおいてその可能性が期待されている.ピアサポートを支援に生かすことは,そのようなピアサポートの関係性に価値を置くことを意味する.今回の調査において,協働に向けた経験の中心が〈対等な関係・対等な参加の機会をつくる〉,〈ピアスタッフから学ぶ〉ことであったことは,ピアスタッフと協働することは,その対等性や相互性といった特徴を内包する組織,組織文化をつくる試みであったと解釈された.
このような対等性,相互性というピアサポートの特徴を,数や専門性において圧倒的なパワーをもつ既存の組織に取り入れるためには,ピアスタッフが排除されないようなさまざまな配慮や工夫が必要となる.障害をもちながら働くスタッフが仕事を続けられるよう〈ピアスタッフの悩みを理解する〉,〈ピアスタッフの体調をみる〉,〈実践を通して仕事に慣れてもらう〉,〈社会経験に応じたサポートをする〉というような具体的な関わりを通じて,職場でピアスタッフの導入という新たな試みがうまく働くよう柔軟にサポートする組織的な取り組みが必要であると考えられた.
先行研究から,ピアスタッフが活動を行ううえでの困難の1つは,自らもサービスの受け手でありサービス提供者でもある両方の役割をもつことから生じる,利用者との関係性に関することであることが明らかとなっている(Vandewalle et al., 2016;山川・船越,2020).こうした利用者との二重関係やバウンダリーの問題は,ピアスタッフが支援を行ううえでの課題として認識されており(Solomon, 2004),我が国でもピアスタッフのスーパーバイズに関する取り組みが始められている(西村ら,2019).今回の調査の中で,ピアスタッフの支援の独自性や固有性を理解することは,〔ピアスタッフに専門職の支援を求めない〕,〔外部のピアスタッフによるスーパーバイズを活用する〕というサブカテゴリーとして示された.サービス提供施設において専門職がピアスタッフとともに働くためには,ピアスタッフ固有の問題や問題への対処,能力開発について組織的に支援することが必要となるだろう.
研究参加者は,ピアスタッフがともに支援に入ることのよさを認識し,効果的な協働にむけて実践を行っていたが,職場あるいは周囲にピアスタッフとの協働への抵抗があることを語り,抵抗を示す人々や抵抗する意識と調整を図ることが必要であると認識していた.協働への抵抗とは,他の職員の不安や雇用への反対や,ときに研究参加者自身の中に生じる疑念であった.米国の調査でも同様の結果が得られており(Chinman et al., 2008),今後こうした抵抗への具体的な解決方法を明らかにすることが求められる.
2. ピアスタッフとの協働に影響を与える要因ピアスタッフとの協働を実践する人々は,先駆的な取り組みを行うことについて〈組織のリカバリー志向の理念〉,〈支援者としての信念〉,〈当事者から学ぶ経験〉によって支えられていることが明らかになった.本研究は,ピアスタッフと協働した先駆的実践を行う施設で働いた経験をもつ専門職を研究参加者としており,施設がリカバリー志向の理念によってピアスタッフの雇用を決定をしていた.ピアスタッフとの協働が,単にピアスタッフに対するものというものではなく,組織の中にピアサポートの対等性や相互性を取り入れるものであったことを考えると,組織全体のリカバリー志向の理念が協働を支える基盤となる必要があるといえる.
研究参加者の多くが,インタビューの中でこれまでに出会った当事者の魅力や強みを語り,ピアスタッフと協働して支援を行う信念をもつに至った体験を語っている.サービス利用者がピアスタッフとの出会いによって変化するように,専門職の人々も教育課程や実践の中で,リカバリーする人々に出会い,彼らから学ぶ機会があることで,リカバリーやピアスタッフとの協働がもたらすものを信じることができるようになると思われる.
Salzer(2002)は,精神障害を経験した当事者がサービスを提供するconsumer-delivered services(CDS)をメンタルヘルスケア提供のベストプラクティスとして,その実践ガイドラインを示している.CDSを一連のケアに含むことは,何がリカバリーしている人にとって有益で重要なサービスであり,誰がサービスを提供できるのかという信念への挑戦であると述べている.そのために専門職が,CDSに関連したトレーニングを受け,可能な限りCDSプログラムに参加する機会を得ることの重要性を指摘している.本研究の結果からも,ピアスタッフあるいは精神障害を経験してリカバリーしている人々のよさ,強みといった特徴を理解できるような教育,機会を広げていくの必要性が示唆された.
本研究で示された専門職のピアスタッフとの協働にむけた経験は,リカバリーにとって重要なサービスを試みようとする挑戦であると考えられる.リカバリー志向の支援を実現するために,ピアスタッフと専門職の効果的な協働のあり方について,引き続き検討していく必要がある.
本研究は,全国各地で試行錯誤されているピアスタッフとの協働の一部の調査であり,一般化には限界がある.今後ピアスタッフと専門職双方の視点から,効果的な協働を実現する普遍的な要素についてさらに明らかにする必要がある.
本研究の調査にご協力頂きました研究参加者の皆さま,所属組織の皆さまに心より感謝申し上げます.本研究は,2014~2015年度科学研究費助成事業研究スタート支援(No. 26893282「精神障がい領域のピアサポーターと働く専門職者の経験(研究代表者濱田由紀)」の助成を受けた.日本精神保健看護学第31回会学術集会にて一部を発表した.本研究において開示すべきCOIはない.