Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Materials
Nurses’ Perceptions of Decision-Making Situations Related to Physical Treatment and End-of-Life Care in Psychiatric Hospitals
Gen Imaizumi
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2022 Volume 31 Issue 2 Pages 71-77

Details

Ⅰ  はじめに

近年,様々な施策により精神疾患患者の地域移行が進められている.厚生労働省による平成29年患者調査(厚生労働省,2017)では,精神科を受診する人が増えているにも関わらず入院患者が減っていること,退院患者の平均在院日数が年々短縮されていることなどから精神疾患患者の地域移行が進んでいることが伺える.一方で,精神科病院では入院患者の高齢化に伴い身体合併症を併発する患者が増加し,身体的治療の必要性が高まっている(厚生労働省,2009).また,精神科病院で終末期を迎える患者の増加も予測され,精神科入院患者が身体的治療や終末期医療についての意思決定をしなければいけない場面の増加も予測される.しかし,精神科入院患者は認知機能障害や精神症状により意思決定が困難である可能性が考えられ,身体的治療や終末期医療に対する意思決定支援を必要とする場合がある(武居ら,2021).

精神科における意思決定場面では,患者自身の意思をうまく引き出すことが困難な場合や,家族が疎遠であることなどから医療者が代理で意思を決定しなければならない場面も多い.しかし,医療者が行う代理意思決定に関しては様々な葛藤が存在することが示されており,多くの倫理的問題が潜んでいる(高取ら,2014).また,精神科入院患者の精神症状は身体症状に付随し変動することも多く,身体症状が悪化した際に治療の意思を確認することが困難な場合がある.そのため,精神科においてACP(Advanced care planning:事前指示)等の意思を事前に確認しておくことは一般科と同等かそれ以上に重要となる.近接した分野の先行研究では,認知症患者に対しACP作成をサポートしたことにより患者や家族の満足度が高くなり,遺族の健康度も高かったとされている研究がある(Dening et al., 2011).

精神科入院患者の身体的治療や終末期医療に対する意思決定支援に対して看護師の担う役割は多岐にわたることが予想される.しかし,精神科病院に勤務する看護師は身体合併症看護に対して,経験・知識・技術の不足等から様々な不安を持っていることが明らかになっており,精神科病院における身体的治療の中で看護師に生じる感情には様々な葛藤が存在することが明らかになっている.また,精神科入院患者の身体的治療に対する意思決定の場面では「妄想による合理的な思考の困難さ」や「病期による同意能力の変化」等の様々な問題が報告されている(武石ら,2017清野・中村,2012清野,2012田中ら,2010).

精神科における意思決定に関連した研究では「意思決定能力があるのか否か」という視点から,意思決定能力を測る尺度の開発等が行われている.また,入院治療に対する意思決定支援,入院中のQOL向上のための意思決定支援,退院に向けた意思決定支援などの観点からも研究がなされている.しかし,精神科病院において看護師が体験する身体的治療や終末期医療に関連する意思決定場面の実態を調査し必要な能力や支援を明確にするような研究は行われていない.

以上より,本研究では精神科病院において看護師が体験する身体的治療や終末期医療に関連する意思決定支援の内容や意思決定支援に対する思い明らかにすることを目的とする.また,本研究の意義として精神科における意思決定支援場面における看護師の役割や有効な支援方法構築のための示唆を得ることにより精神科病院に入院する患者の人権の尊重,QOLの向上に対する貢献が期待できることが考えられる.

Ⅱ  方法

1. 研究デザイン

無記名自記式質問紙を用いた横断研究.

2. 対象者

機縁法にて選定した関東地方の精神科単科病院1施設に勤務する,すべての病棟の看護師・准看護師108名を対象とした.研究対象者の適格基準として「看護師経験が1年以上あり,その内1年以上の精神科病棟での経験がある者」を設定した.

3. 調査方法

調査施設の看護部長へ研究の概要を説明し,承諾を得たのち,各病棟の病棟長へ研究の概要を説明し質問紙の配布を依頼した.調査実施期間は2019年12月27日から2020年1月17日であった.

4. 質問紙の内容

看護師の基本属性,及び身体的治療・終末期医療に関わる意思決定プロセスに従い,それぞれのプロセスにおいて看護師がどのような場面を経験しているか,どのような看護を実施しているか,どのような倫理的問題を感じているかを質問紙にて調査した.意思決定プロセスは終末期医療に関するガイドライン(全日本病院協会,2016)や人生の最終段階における医療・ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(日本看護協会,2018)などを参考に「診断」,「意思決定能力の確認」,「意思決定(代理意思決定)」の3段階に区分した.また,看護師の体験は“経験があるか否か”,“医療者として主体的な介入を行ったことがあるか否か”,“体験から倫理的な問題を感じたことがあるか否か”を聴取することを目的に「立ち会ったことがある」,「介入を行ったことがある」,「倫理的な問題を感じたことがある」の3種類に分け調査を行った.質問は15項目であり,経験の有無を3件法で問い,「介入を行ったことがある」,「倫理的な問題を感じたことがある」に「ある」と回答した場合,その具体的な内容を自由記述欄にて求める構成とした.

5. データの分析方法

データの集計,統計分析にはIBM SPSS Statistics Version 25を使用した.自由記述によって得られたローデータは,類似性・相違性に配慮しながら内容を検討し,類似するテーマごとに分類した.

6. 倫理的配慮

本研究は順天堂大学保健看護学部研究等倫理委員会の承認を得たのちに実施した(承認番号:順保倫第1-10号).質問紙調査にあたって調査施設の看護部長及び各病棟の病棟長に研究の概要を説明し,承諾を得た.個々の研究対象者への口頭での説明は実施せず,研究の目的,意義,倫理的配慮については研究依頼書,質問紙の表紙に明記した.また,本研究で得られたデータを論文・学会等で公表する際には研究協力施設及び研究協力者が特定されないよう配慮すること,自由記述として得た情報は記載された表現のまま使用することを質問紙の表紙に明記した.

7. 用語の定義

本稿では「看護師が認識する倫理的問題」を「看護職の倫理綱領(日本看護協会,2021)に準じた行動が阻害され,対象の尊厳及び権利が脅かされている状態」と定義する.

Ⅲ  結果

研究対象施設の全3病棟の看護師・准看護師108名に質問紙を配布し,回収数は51部(回収率:47.2%)であった.その内,未記入の回答などを除いた45部を有効回答とした(有効回答率:88.2%).

1. 対象者の基本属性

所属病棟は急性期病棟15名,慢性期病棟10名,認知症病棟20名であった.年代は20代17名,30代4名,40代14名,50代4名,60歳以上6名であり,性別は女性38名,男性7名であった.精神科経験年数の平均は9.36年であり,一般科経験のある対象者は17名おり,その平均年数は9.24年であった.

2. 精神科看護師が体験する身体的治療・終末期医療に関連する意思決定プロセス(表1

質問紙にて調査した精神科看護師が体験する身体的治療・終末期医療に関連する意思決定場面の実態を表2に示す.「ある」の回答が最多であった項目は「患者の身体的治療に関する告知場面に立ち会ったことがある(35.6%)」であり,次いで「患者の終末期医療に関する告知場面に立ち会ったことがある(33.3%)」,「意思決定場面において事前意思決定(ACP・DNR・DNARなど)を活用したことがある(26.7%)」であった.“ない”の回答が最多であった項目は「患者の身体的治療に関する意思決定能力の検討をする場面に立ち会ったことがある(80.0%)」であり,次いで「患者の終末期医療に関する意思決定能力の検討をする場面に立ち会ったことがある(75.6%)」,「患者の身体的治療・終末期医療に関する意思決定能力を引き出すような関りを行ったことがある(73.3%)」,「患者の終末期医療に関する本人の意思決定場面に立ち会ったことがある(73.3%)」であった.

表1 精神科看護師が体験する身体的治療・終末期医療に関連する意思決定プロセス N = 45
ある ない どちらとも
いえない
プロセス区分
1, 患者の身体的治療に関する告知場面に立ち会ったことがある 16(35.6%) 28(62.2%) 1(2.2%) 診断
2, 患者の終末期医療に関する告知場面に立ち会ったことがある 15(33.3%) 26(57.8%) 4(8.9%) 診断
3, 患者が身体的治療・終末期医療に関する告知を受容できるような関りを行ったことがある 6(13.3%) 28(62.2%) 11(24.4%) 診断
4, 患者の身体的治療・終末期医療に関する告知の場面で倫理的な問題を感じたことがある 3(6.7%) 20(44.4%) 22(48.9%) 診断
5, 患者が身体的治療・終末期医療に関する診断を受けるプロセスで倫理的な問題を感じたことがある 1(2.2%) 21(46.7%) 23(51.1%) 診断
6, 患者の身体的治療に関する意思決定能力の検討をする場面に立ち会ったことがある 5(11.1%) 36(80.0%) 4(8.9%) 意思決定能力の確認
7, 患者の終末期医療に関する意思決定能力の検討をする場面に立ち会ったことがある 6(13.3%) 34(75.6%) 5(11.1%) 意思決定能力の確認
8, 患者の身体的治療・終末期医療に関する意思決定能力を引き出すような関りを行ったことがある 3(6.7%) 33(73.3%) 9(20.0%) 意思決定能力の確認
9, 患者の意志決定能力の判断に関して倫理的な問題を感じたことがある 2(4.4%) 24(53.3%) 19(42.2%) 意思決定能力の確認
10, 患者の身体的治療に関する本人の意思決定場面に立ち会ったことがある 7(15.6%) 32(71.1%) 6(13.3%) 意思決定
11, 患者の終末期医療に関する本人の意思決定場面に立ち会ったことがある 7(15.6%) 33(73.3%) 5(11.1%) 意思決定
12, 患者の家族・代弁者による意思決定場面に立ち会ったことがある 10(22.2%) 28(62.2%) 7(15.6%) 意思決定
13, 意思決定場面において事前意思決定(ACP・DNR・DNARなど)を活用したことがある 12(26.7%) 27(60.0%) 6(13.3%) 意思決定
14, 患者の身体的治療・終末期医療に関する意思決定支援を行ったことがある 2(4.4%) 32(71.1%) 11(24.4%) 意思決定
15, 患者の身体的治療・終末期医療に関する意思決定場面で倫理的な問題を感じたことがある 5(11.1%) 19(42.2%) 21(46.7%) 意思決定

3. 身体的治療・終末期医療に関連する意思決定支援に対する看護師の思いと介入(表2

12名の研究対象者から自由記述による回答を得た.「身体的治療・終末期医療に関連する意思決定支援に対する看護師の思い」に関する回答は10名から得られ,ローデータは14件であり,6つのテーマが見出された.また,「看護師の体験する身体的治療・終末期医療に関連する意思決定支援に対する介入」に関する回答は8名から得られ,ローデータは10件であり,4つのテーマが見出された.

表2 身体的治療・終末期医療に関連する意思決定支援に対する看護師の思いと介入 N = 12
身体的治療・終末期医療に関連する意思決定支援に対する看護師の思い N = 10
テーマ 自由記述の内容
本人の意思と代理意思決定に対する思い(5) 意識はあるも全身まひ,全身にがん転移.治療の説明を聞いても涙を流すしかなかった.家族の希望で麻薬を使用したが本人の意思は最後まで分からなかった.
全身状態の悪化により意思疎通が困難になった患者.事前に本人よりDNRの意思を確認していたが,家族より積極的な治療の希望があり,対応に困った.
認知症の患者は転院や治療方針を家族が決めることが多いため,家に帰りたい,息子に会いたいという本人の希望が叶わない時はつらい.
本人が意思決定できない場合,家族が治療方針を決めているため,本当に本人の気持ちを尊重できているのかと疑問に思う.
本人と家族の意見が対立し,身体的治療の意思が定まらないうちに症状が悪化し亡くなってしまった.
身体症状への対応に対する思い(3) 精神科での痛みのコントロールに限界があり,対応できなかった.
患者は死を受容できず,身体的治療が遅れてしまった.
身体症状の悪化に伴い精神症状も悪化していったため,対応が難しかった.
変化する本人の意思への思い(2) 末期癌の患者を看護した際,治療の受け入れ状況が日によって異なり対応に困った.
医師と面談し身体的な治療方針を決めた後,日によって本人の意思がコロコロ変わる状況にどこまで対応したらよいのか分からなかった.
家族の対応への思い(2) 経口摂取による誤嚥のリスクが高いため絶飲食とし,患者は必死に食べるのを我慢していたが,家族が面会時に好きなものを好きなだけ食べさせたいと思い,看護師に黙って食べ物を持ち込んだ.患者は我慢できず食べてしまい急変してしまった.
「死んでから連絡をもらいたい」と家族から言われた際に本当にそれでいいのかといつも悩む.
精神状態への対応に対する思い(1) 身体疾患に関する告知を受けたとき,患者は看護師や家族・医師・治療に対し拒否的で易怒的だった.関わりが難しく訪室しても出て行ってほしいと言われた.
医師からの説明に対する思い(1) 医師が患者に対して医療用語で話したり,早口でインフォームドコンセントを行うとき,患者が本当に理解できているのか不安に思う.
身体的治療・終末期医療に関連する意思決定支援に対する看護師の介入 N = 8
テーマ 自由記述の内容
今後の治療に対する意思決定支援(6) 身体症状の悪化に伴い精神症状も悪化していったため患者に対して「私は患者の怒っている理由,今までの患者と全く様子が違う理由を全部知っていて,できる限りの看護をしたい」と伝えた.
身体的治療に対して拒否的な患者に対して,継続的にリスクとメリットの説明を続け,意思確認を行った.
身体的な治療に関して雑談などを交えながら病気を理解していただき,本人から今後どうしたいか,という話を伺った.
医師が家族に症状の説明を行った後,家族の意向を伺い治療方針の選択を行った. 事前に医師と家族に提供できる治療方法を話し合った.
終末期医療に関して,不安の軽減ができるよう時間をとって思いの表出をしてもらったり,どのように治療を勧めていくことが自分としては納得できるのかをゆっくりと本当に時間をかけてかかわりを持った.
家族に終末期医療に関して時間をかけて説明し意思を確認した.意思確認後,「希望を言えて安心した,ありがとう」と言っていただいた.
意思決定場面への同席(2) 終末期医療に関するインフォームドコンセントの場面に同席し,本人や家族の理解度や意思の確認を行った.
緩和ケアへの移行に対する意思決定場面に立ち会った.
家族に対する疾患受容に向けての介入(1) 経口摂取が困難な終末期の患者に「もっと頑張って食べないとダメだよ」と話す家族に対し,現状と今後の見通しに関して説明し受容的な関りを促した.
事前意思決定への対応(1) 本人のDNRの希望があったが,家族にもう一度DNRの確認と思い聞いた.

( )内は各テーマに対する自由記述内容の件数

Ⅳ  考察

1. 精神科看護師が体験する身体的治療・終末期医療に関連する意思決定プロセス

本研究において調査対象となった看護師が実際にどの程度の身体的治療や終末期医療に関する意思決定支援が必要な場面を体験していたかを知ることはできないが,本研究の結果からは,身体的治療や終末期医療に関する意思決定支援場面に関わったという認識を持っている看護師は比較的少数であることが示された.また,告知場面に立ち会ったことがあると回答した看護師が3割程度であるのに対し,実際に何かしらの介入を行ったことがあると回答している看護師は1割程度かそれ以下であり,告知場面以外で意思決定支援を行うことが一般化していない現状が考えられた.

原田・木村(2021)は,進行がん患者の意思決定支援を行う上で終末期の話し合い(End-of-Life discussion: EOLD)の有効性が確認されているのも関わらず看護師によるEOLDが普及していない要因に「話し合いへの同席の必要性の認識不足」「話し合いにおける役割認識やコミュニケーションスキルの不足」「同席するためのシステムの不足」等を挙げ,看護師の役割を明確にすること,知識・コミュニケーションスキルの教育を行うことの必要性を述べている.本研究においても意思決定支援場面に関わったという認識を持っている看護師は比較的少数であり,統合失調症等の精神疾患を持つ患者に対する身体的治療・終末期医療に関する看護師の役割の不明確さ,意思決定支援を行うことのエビデンスの希薄さが意思決定支援場面に関わったという認識の低さに関連している可能性が考えられた.

また,精神科病院の人員は一般科病院よりも少なく設定されており,その点が患者に対する倫理的な行動に影響を及ぼしているという指摘もあり(藤野,2003),精神科病院におけるターミナルケアの現状を調査した研究では,看護師は「スタッフ・チームのターミナルケアへの準備不足」,「マンパワー不足」,「 環境面での不備」などから倫理的問題を感じていることが示されている(荒木ら,2019).そうしたマンパワー不足を含めた精神科病院のシステム面が看護師の意思決定支援への参加に影響を及ぼしている可能性も考えられた.

「倫理的な問題を感じたことがある」という問いに対しては「ある」の回答が1割かそれ以下であり,「どちらともいえない」の回答が多くなる傾向が示された.これは「倫理的な問題」という用語が広義であるため,何を問われているのかが不明瞭であったためである可能性が考えられる.そのため,精神科病院における身体的治療や終末期医療に関する意思決定支援に関する看護師が体験している倫理的な問題を明らかにするためには質問紙に具体的な教示をすること,より具体的な質問項目を用いること,質的研究法を用いてインタビュー等で対象者が感じている倫理的な問題を引き出すこと,などの追加の検証が必要である.また,倫理的な問題を感じるか否かは看護師自身の感受性にも関連している可能性がある.大西・北岡・中原(2016)の研究では,精神科看護師の倫理的感受性と看護実践における倫理的な悩みとの間には有意な相関がみられ,倫理的感受性の高い看護師ほど倫理的な悩みを強く持っていることが示されている.そのため,倫理的感受性との関連も含めた調査を行うことで,より詳細な分析が可能になるのではないかと考える.

2. 身体的治療・終末期医療に関連する意思決定支援に対する看護師の思いと介入

今回の調査における自由記述では,身体的治療・終末期医療に関連する意思決定場面に対する様々な思いが表現された.精神科病院におけるターミナルケアに関する意思決定支援場面では,看護師は「家族の意向が本人の意向よりも優先される」「本人の意思表出が困難」「本人に対しての説明が不十分」などの困難を感じていることが示されている(荒木ら,2019).今回の調査では先行研究と概ね近い傾向が示され,本人の意思と家族や医療者の意思が一致しないことによる葛藤を表現した記述が多く,患者の代弁者的な役割を担う意識が強いことが伺え,それらの体験は,“対応に困窮した”,“正解が分からなかった”,“不安があった”という未消化な思いとして表現されていた.また,看護師の体験する身体的治療・終末期医療に関連する意思決定支援に対する介入では,今後の治療に対する意思決定支援・意思決定場面への同席・家族に対する疾患受容に向けての介入・事前意思決定への対応,が挙げられた.これらの介入はインフォームドコンセントなどの特定の場面だけではなく日常的な看護の場面における役割も含まれており,様々な場面で看護師の身体的治療・終末期医療に関連する役割が求められていることが示唆された.精神科に勤務する看護師は臨床で様々な倫理的問題を経験しており,その中には「患者の意志決定と患者の症状に対する専門職としての判断が対立することがある」や「患者に意思決定能力が無く,医療者が患者の意志決定を代行していることがある」等,意思決定支援に関する内容も含まれている(田中ら,2014).本研究において表現された看護師の思いもそうした倫理的問題に該当する部分が多く,意思決定支援の場面において様々な倫理的問題を体験していることが明らかになった.

Ⅴ  研究の限界

本研究で行った調査は特定の精神科病院の看護師に限定されており,特に自由記述の内容はさらに限定された対象者からの情報であるため,結果の一般化は困難である.また,質問紙を用いた調査であったため,対象者の役割や葛藤に対する意識を具体的に表現させられるような働きかけはできておらず,「倫理」という用語が広義であることが回答に影響している可能性が考えられる.

謝辞

本研究は令和元年度順天堂大学保健看護学部共同研究助成を受け実施しました.本研究の遂行にあたりご協力いただきました施設の対象者,職員の皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反

本研究における利益相反はない.

著者資格

GIは研究の着想から原稿作成までの全プロセスを遂行した.

文献
 
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