Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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2022 Volume 31 Issue 2 Pages 78-79

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第32回学術集会は,「精神保健における精神看護の責務―ウィズコロナ中でのチャレンジ―」をテーマとして,開催させていただきました.多くの皆様にご参加いただきありがとうございました.

当学会は,精神保健看護学会として設立されました.つまり,精神保健看護である,mental health nursingと精神科看護であるpsychiatric nursingの二つの分野を包含しております.

日本においては,少子高齢化社会が進んでおり,2060年には総人口が9,000万人を割り込み,高齢化率は40%になると推計されています.近年,医療や介護が必要な高齢者が増え,医療費の切迫が言われています.そこで,平成26年に地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律が成立し,効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに,地域包括ケアシステムを構築することとなりました.病院の機能は急性期医療が中心となり,療養や介護は住み慣れた地域で行うという支援システムです.国は,医療計画においても地域の実情に応じた医療提供体制を確保するように,各自治体に求めています.

一方で,平成12年に成立した健康増進法に基づき,国民の健康の増進を図る基本的な方針を示し,生活習慣病などの予防や重症化予防,食生活や運動,飲酒や喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣に関する情報発信や,社会環境を改善することで,健康で過ごせる期間を延伸しようとしています.

健康施策に関しては,国際的な取り組みの方が先に行われています.1986年には,WHOはヘルスプロモーションの考えをすでに打ち出しており,人々が健康を達成させるためには,健康な公共政策作り健康を支援する環境づくりや地域活動の強化などを打ち出しています.

疾患になる前に,疾患を予防し,健康を増進していくことは,人々の幸福を目指していくには必要なことだといえます.

一方,精神障害者も含めた障害者施策においても,日本は取り組みが国際的にはやや遅れて実施しています.1981年に国連が「国際障害者年」とし,障害者に関する世界行動計画を打ち出しました.日本では,障害者に関する国内法が整備されておらず,障害者施策推進本部を作り,国内法の整備に取り掛かります.その結果,1993年に障害者基本法が成立します.障害者基本法では,ノーマライゼーションとリハビリテーションを基本理念とし,障害の有無にかかわらず,国民誰もが相互に人格と個性を尊重し合う共生社会の実現を目指しています.そして,2008年には障害者自立支援法が制定され,障害者の自立を支援する観点から,福祉制度などが整えられました.障害者自立支援法は2012年に障害者総合支援法に改正されました.しかし未だに,障害者への自立支援の動きは遅々として進んでいません.精神障害者や心身重度障害児などは施設への収容施策がいまだ続いております.

健康施策についての歴史的変遷を述べてきました.精神科医療に関しては,2004年に改革のグランドデザインが打ち立てられました.それまでは入院治療が中心でしたが,それから地域生活へと方向が転換されました.精神疾患を患うと長期入院となることに違和感を覚えていた看護師も多かったと思います.そこでグランドデザインが発表されてから,看護者は精神疾患患者の退院促進を進めていきました.しかし,まだ障害者自立支援法が成立する前でしたので,障害者の福祉制度は整っていませんでした.精神疾患患者を地域へ退院させても,地域での居場所がなく戻ってくる患者もいました.そこで,看護師たちが立ち上がり,精神障害者の地域での居場所を創りはじめ,作業所を多く立ち上げました.その後,障害者自立支援法が成立し,障害者福祉の制度が整うようになると,看護職者は地域支援から姿を消していくこととなりました.

看護とは人々の健康に幅広くかかわる専門職種です.障害者の地域支援も含め,人々が健康な生活をしていくことを支える知識や技術を持っています.今後,看護専門職者が,人々の健康を維持,増進し,さらに疾患を予防していき,地域の人々の幸福を支援する方法を模索したいと考え,第32回の学術集会のテーマといたしました.

実際に地域で活躍されている看護専門職者の方々がおります.一番の問題は,地域でそのような活動をしようとしてもお金の保証がないことです.診療報酬としての申請ではないし,また障害者福祉の予算も削減される傾向にあります.しかし看護専門職者が人々の健康に係ることで,健康寿命が延び,人々の健康を増進することができることを証明してきたいと思います.健康寿命の延伸は,日本の少子高齢化社会の解決に向けての一つの試金石です.この学術集会を機会としてそのような活動が広がることを願っております.

 
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