Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Exploring Psychological Factors that Affect Gay and Bisexual Men’s Life Satisfaction
Hanayo SawadaFujika KatsukiNoriyo KanekoSatoshi Shiono
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2023 Volume 32 Issue 1 Pages 10-18

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Abstract

ゲイ・バイセクシュアル男性は,自殺未遂のリスクが高いと指摘されている.メンタルヘルス改善に向けた支援方法の確立が急務であり,本研究では,「人生の満足度」に着目し,人生の満足度に影響を与える心理的要因を明らかにすることを目的とした.

20歳以上のゲイ・バイセクシュアル男性を対象に,インターネット調査を実施した.質問項目は,基本属性,対人関係,日本版気分・不安障害調査票(K6),改訂版UCLA孤独感尺度,人生満足度尺度,状態自尊感情尺度,日本語版SOCスケールで(SOC-13),Brief COPEとした.

質問紙へのアクセスは1,877名で,分析対象者は499名であった.人生の満足度を従属変数とし,重回帰分析を行った結果,自尊感情(β = 0.586),孤独感(β = –0.170),肯定的再解釈(β = 0.101),受容(β = 0.063)の4要因が抽出された.本結果をもとに,今後ゲイ・バイセクシュアル男性のメンタルヘルス改善に向けたプログラムの開発など検討していく必要がある.

Translated Abstract

Gay and bisexual men have been reported to have a higher risk of suicide attempts. Establishing support methods to improve the mental health of gay and bisexual men is urgent. This study aimed to clarify the psychological factors that influence life satisfaction. Thus, an internet survey of gay and bisexual men aged ≥ 20 years was conducted. Questionnaire items included basic attributes; interpersonal relations; mental health (the Japanese-language edition of the Kessler Psychological Distress Scale, or K6); loneliness (the revised UCLA Loneliness Scale); satisfaction with life (Satisfaction with Life Scale); self-esteem (State Self-Esteem Scale); sense of coherence (the 13 items on the Japanese SOC Scale, or SOC-13); and coping behaviors (the Japanese language edition of Brief Cope). The questionnaire was accessed by 1,877 people, of which 499 people in the analysis. Four factors were extracted by multiple regression analysis with life satisfaction as the dependent variable: self-esteem (β = 0.586), loneliness (β = –0.170), positive reinterpretation (β = 0.101), and acceptance (β = 0.063). Thus, considering the development of programs to improve the mental health of gay and bisexual men is necessary based on these results.

Ⅰ  緒言

日本では,人口の約7.0%がセクシュアルマイノリティと言われている(LGBT総合研究所,2019).セクシュアルマイノリティとは,性的少数者とも言われ,レズビアン(女性同性愛者)・ゲイ(男性同性愛者)・バイセクシュアル(両性愛者)・トランスジェンダー(性別に違和感を抱いている者)などが含まれる.海外の研究では,セクシュアルマイノリティは,へテロセクシュアル(異性愛者)よりも,自殺未遂のリスクは2.5倍,不安障害やうつ病のリスクは1.5~2.0倍,薬物依存のリスクは1.5倍高いことが分かっている.さらに,ゲイ・バイセクシュアル男性は,ヘテロセクシュアル男性よりも,自殺未遂の割合が4.3倍高いと言われている(King et al., 2008).日本で行われた若年者対象の研究では,ヘテロセクシュアル男性と比較して,ゲイ・バイセクシュアル男性は,自殺未遂の経験が6.0倍高いことが明らかとなっている(Hidaka et al., 2008).このような背景から,セクシュアルマイノリティは,国が定めた「自殺総合対策大網」や,「いじめ防止対策推進法」で支援の対象となっている(厚生労働省,2017文部科学省,2017).以上のことから,メンタルヘルス改善に向けたサポート体制の確立は急務であるが,具体的には有効なサポート体制が確立していない.

日本でサポート体制が確立していない理由に,以下のような要因があると思われる.1つ目に,セクシュアルマイノリティに対する理解の乏しさが挙げられる.LGBT総合研究所の調査によると,セクシュアルマイノリティである当事者の52.8%がセクシュアルマイノリティに対する偏見や誤解の多さを感じ,52.3%は国や自治体へ理解の推進を求めていた.非当事者の83.9%が周囲にセクシュアルマイノリティはいないとし,29.4%が接し方に戸惑いを感じていた(LGBT総合研究所,2019).2つ目に,セクシュアルマイノリティは家族にカミングアウトしサポートを得ることが難しい(石丸,2001).3つ目に,セクシュアルマイノリティの若年者は,医師や家族に知られる恐さや経済的理由から精神的不調があっても専門機関への援助要請を回避する場合がある(Williams, & Chapman, 2011).これらのことから,セクシュアルマイノリティに対する理解が不十分な社会や周囲,当事者にある隔たりを解消する必要があるが,それは容易なことではない.

メンタルヘルスの分野では,病気や症状だけでなく,良好な状態(well-being)に注目し,人の強さや肯定的な要素に関する研究が増えている.筆者らの予備的研究では,ゲイ・バイセクシュアル男性のなかには,精神的健康度は低いが,自分の特性や能力,趣味や生きがい,家族や同じセクシュアリティの友人などストレス対処に役立つ資源を活用し,健康的な行動をとることができる人達もいることが示唆された(澤田・古谷野・塩野,2019).この結果から,セクシュアルマイノリティの人たちが,自分を尊重し,自分の人生に満足しながら生活することが重要と考えた.人生の満足度は,主観的well-beingの構成概念の1つで,人生に対する認知的評価と捉えられている(Diener et al., 1985堀毛,2013).これまで,日本のセクシュアルマイノリティに関する研究は,セクシュアルマイノリティであることに起因したストレスや生きづらさ(宮腰,2012高藤・岡本,2019),それらに関連した精神的不調,自尊感情の低さや孤独感の高さが指摘されている(King et al., 2008日高,2000宮腰,2013).さらに,他者の受容が自尊感情を高め(石丸,2004),カミングアウトをしない状況は孤独感を高めること(桐原・坂西,2003)も明らかになっている.しかし,心理的な強みを高める要素に着目した研究は行われていない.

本研究ではゲイ・バイセクシュアル男性を対象に調査を行い,人生の満足度に影響を与える心理的要因を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ  研究対象および研究方法

1. 研究の概念枠組み

本研究の概念枠組みを,図1に示す.本研究では,Lazarusらのモデルを参考に検討した(Folkman, & Lazarus, 1988).個人要因を年齢,自尊感情,SOC,社会的要因を孤独感,日常生活での困りごとの有無,相談相手,相談相手へのカミングアウトの有無,ストレス反応を精神的健康度とした.認知的評価を人生の満足度,緩衝要因をコミュニティセンターの利用の有無,コーピング行動とした.

図1

研究の概念枠組み

2. 言葉の操作的定義

セクシュアリティ:性の在り方を意味する言葉である.本研究では性的指向と定義し,セクシュアルマイノリティは性的指向の少数者とする.

人生の満足度:人生に対する受け止め方の評価であり,ストレスや生きづらさを含めたゲイ・バイセクシュアル男性の人生を認知的に評価する概念とする.

3. 研究対象者

対象者は20歳以上の男性で,セクシュアリティが,ゲイまたはバイセクシュアルと回答した者とした.セクシュアリティを隠していることが多い対象者へのアクセスは容易ではないため,ゲイ・バイセクシュアル男性向けのコミュニティセンターを運営する機関に対象者のリクルートを依頼した.

4. 調査方法

無記名自記式のインターネット調査を2020年7月に実施した.研究協力機関が管理するSNSに,研究参加案内と質問紙にアクセスできるURLをのせ,リクルートを行った.SNSを閲覧しURLにアクセスした者を研究対象者とした.URL経由でインターネット調査会社にアクセスし,研究参加の依頼文と研究内容を掲載したページに遷移し,研究参加へ同意した場合質問紙に進み,同意しない場合その時点で中止となる.研究参加同意後は,質問項目に回答し回答結果の送信をもって調査終了とした.回答を含む個人情報については,SSLにより暗号化され,インターネット調査会社より電子データとして提供された.

5. 調査内容

調査内容は,基本属性と6つの尺度で構成されてい‍る.

1) 基本属性

性別,セクシュアリティ,年齢,居住地,学歴,職歴

2) 対人関係

日常生活での困りごとの有無,相談相手,相談相手へのカミングアウト(回答は単一回答),コミュニティセンター利用の有無,コミュニティセンター利用頻度

3) 精神的健康の測定

日本語版気分・不安障害調査票(K6)(川上ら,2004)は,Kesslerらによって開発された尺度であり,6項目5件法で構成されている.カットオフ値は5点以上となっており,5~8点:軽度,9~12点:中程度,13~24点:重症と区分される.日本語版は古川によって作成され,川上らによって妥当性が確認されている.

4) 孤独感の測定

改訂版UCLA孤独感尺度(工藤・西川,1983)は,Russellによって開発された尺度であり,20項目4件法で構成され,得点が高いほど孤独感が高くなる.本研究では,工藤らによって作成された日本語版を使用する(Cronbach α係数:0.87).

5) 人生の満足度の測定

本研究では,Diener et al.(1985)によって作られた尺度の日本語版(大石,2009)を使用する.尺度は,5項目7件法で構成され,得点が30点以上:非常に満足度が高い,25~29点:だいたいにおいて人生が順調,20~24点:平均的な人生の満足度,15~19点:人生の満足度はやや低め,10~14点:さまざまな面で不満がある,5~9点:自分の人生に対して不満が非常に強いという6段階に区分される(Cronbach α係数:0.61~0.76).

6) 自尊感情の測定

状態自尊感情尺度(阿部・今野,2007)は,山本らの日本語版自尊感情尺度を参考に,阿部らによって日常生活の出来事で変動する自尊感情を測定するために作られた.尺度は9項目5件法で構成され,得点が高いほど現時点の自分に対する自尊感情が高いと評価される(Cronbach α係数:0.83).

7) ストレス対処能力の測定

SOCスケール(SOC: sense of coherece)(Antonovsky, 1987/2001)は,首尾一貫感覚と訳され,生活世界に対するその人の見方を表す感覚を測定する尺度である.得点が高いほど,ストレス対処能力が高いと評価される.本研究では,山崎・戸ケ里・坂野(2008)が翻訳した13項目7件法の日本語版SOCスケール(SOC-13)を使用する(Cronbach α係数:0.84).

8) コーピング行動の測定

COPEはLazarus & Folkmanの心理学的ストレスモデルとCarver & Scheierの行動自己制御モデルを基に作成されたコーピングの尺度で,得点の高い項目が頻回に使用するコーピング行動と評価される.尺度は15下位尺度60項目4件法であるが,本研究では,短縮版14下位尺度28項目4件法のBrief COPE(大塚,2008)を使用する.14下位尺度は,「気晴らし」,「積極的コーピング」,「否認」,「アルコール・薬物使用」,「情緒的サポートの利用」,「道具的サポートの利用」,「行動的諦め」,「感情表出」,「肯定的再解釈」,「計画」,「ユーモア」,「受容」,「宗教・信仰」,「自己非難」で構成され,日本語版を作成した大塚により,信頼・妥当性は確認されている(Cronbach α係数:0.46~0.91).

6. 分析方法

得られたデータの分析は,SPSS Statistics Version 22を使用した.

1)対象者の基本属性は度数分布・記述統計を行い,各尺度の得点は記述統計を行った.基本属性による度数分布・記述統計は,対象者の代表性や属性の傾向を確認するために行った.

2)基本属性,対人関係,日本語版気分・不安障害調査票(K6),改訂版UCLA孤独感尺度,状態自尊感情尺度,SOCスケール,Brief COPEの各下位因子を独立変数,人生の満足度尺度を従属変数としたStepwise法による重回帰分析を行い,人生の満足度に影響を与える要因を検討した.StepwiseのためのF値確率は,投入確立p < 0.05,除去確立p < 0.1とし,VIF値により多重共線性の確認を行った.

なお,有意水準は5%未満とした.

7. 倫理的配慮

研究参加者には,研究目的,研究参加の任意性,回答の途中辞退の保証,データの取り扱い,個人情報について,Web上で説明し,質問紙への回答をもって同意を得たとみなした.名古屋市立大学大学院看護学研究科研究倫理審査委員会の承認を得て,研究は実施した(承認ID番号:19039-5).

Ⅲ  結果

URLへのアクセス数は,1,877名であり,回答者は502名であった.

なお,セクシュアリティを尋ねた項目にヘテロセクシュアルと回答した3名を除く499名を分析対象とし,対象者は先行研究(生島,2017)と類似した基本属性の分布であることを確認した(有効回答率100%).

1. 各尺度の記述統計

対象者の平均年齢は,37.7 ± 9.9(平均±標準偏差)歳であった.その他の基本属性は,表1のとおりである.

表1 対象者の概要と尺度の記述統計 n = 499
項目 平均値±SD/人数(%) Cronbachα係数
基本属性 性別 男性 485(97.2%)
トランスジェンダー 6(1.2%)
その他 8(1.6%)
セクシュアリティ ゲイ 430(86.2%)
バイセクシュアル 34(6.8%)
わからない 26(5.2%)
その他 9(1.8%)
年齢 37.7 ± 9.9
居住地 北海道 11(2.2%)
東北 17(3.4%)
関東 224(44.9%)
中部 45(9.0%)
近畿 115(23.0%)
中国 18(3.6%)
四国 15(3.0%)
九州・沖縄 41(8.2%)
その他 13(2.6%)
学歴 中学卒業 12(2.4%)
高校卒業 129(25.9%)
短大・専門学校卒業 88(17.6%)
大学卒業 211(42.3%)
大学院卒業 55(11.0%)
その他 4(0.8%)
職業 学生 26(5.2%)
パート 13(2.6%)
アルバイト 38(7.6%)
正社員/正職員 271(54.3%)
役員 6(1.2%)
自営業 66(13.2%)
派遣・嘱託 38(7.6%)
その他 41(8.2%)
対人関係 日常生活での困りごとの有無 あり 339(67.9%)
なし 160(32.1%)
相談相手
(困りごとありと回答した339人,
単一回答)
友人(ゲイ) 130(38.3%)
友人(バイセクシュアル) 4(1.2%)
友人(ヘテロセクシュアル) 37(10.9%)
友人(トランスジェンダー) 1(0.3%)
彼氏/パートナー 124(36.6%)
家族 28(8.3%)
SNS 6(1.8%)
コミュニティセンター 0
その他 9(2.7%)
相談相手への
カミングアウトの有無
(困りごとありと回答した339人)
あり 330(97.3%)
なし 9(2.7%)
コミュニティセンター
利用の有無
あり 110(22.0%)
なし 389(78.0%)
コミュニティセンター
利用頻度
0.3 ± 2.0回/月
尺度 K6 8.3 ± 5.8 0.895
改訂版UCLA孤独感尺度 48.6 ± 13.2 0.935
人生満足度尺度 17.5 ± 7.2 0.861
状態自尊感情尺度 26.6 ± 10.1 0.941
SOC-13 50.0 ± 14.7 0.829
Brief COPE 気晴らし 5.5 ± 1.2 0.220
積極的コーピング 5.4 ± 1.3 0.667
否認 3.0 ± 1.2 0.636
アルコール・薬物使用 3.4 ± 1.8 0.914
情緒的サポートの利用 4.5 ± 1.5 0.717
道具的サポートの利用 4.7 ± 1.5 0.793
行動的諦め 4.5 ± 1.5 0.775
感情表出 4.6 ± 1.6 0.682
肯定的再解釈 5.2 ± 1.4 0.647
計画 5.6 ± 1.4 0.720
ユーモア 4.3 ± 1.5 0.703
受容 5.8 ± 1.2 0.529
宗教・信仰 3.3 ± 1.5 0.599
自己避難 5.2 ± 1.7 0.829

・日本語版気分・不安障害調査票(K6),日本語版SOCスケール(SOC-13)

各尺度のα係数は,0.220~0.941であった(表1).なかでも,Brief COPEの「気晴らし」「受容」「宗教・信仰」は,低い値であった(それぞれのCronbach αは,0.220,0.529,0.599).

各尺度の得点は,以下のとおりであった(表1).K6は8.3 ± 5.8点,改訂版UCLA孤独感尺度は48.6 ± 13.2点,人生満足度尺度は17.5 ± 7.2点,状態自尊感情尺度は26.6 ± 10.1点,SOC-13は50.0 ± 14.7点であった.Brief COPEの「気晴らし」5.5 ± 1.2点,「積極的コーピング」5.4 ± 1.3点,「否認」3.0 ± 1.2点,「アルコール・薬物使用」3.4 ± 1.8点,「情緒的サポートの利用」4.5 ± 1.5点,「道具的サポートの利用」4.7 ± 1.5点,「行動的諦め」4.5 ± 1.5点,「感情表出」4.6 ± 1.6点,「肯定的再解釈」5.2 ± 1.4点,「計画」5.6 ± 1.4点,「ユーモア」4.3 ± 1.5点,「受容」5.8 ± 1.2点,「宗教・信仰」3.3 ± 1.5点,「自己避難」5.2 ± 1.7点であった.

2. 対象者の対人関係

対象者の日常生活での困りごとの有無,相談相手等の対人関係,カミングアウトの有無,コミュニティセンターの利用状況は,表1に示す.

調査時点の対人関係を知るため,日常生活での困りごとの有無,相談相手,コミュニティセンターの利用度を尋ねた.困りごとは67.9%があると答え,あると回答した者のうち,相談相手は同じセクシュアリティのゲイが38.3%,彼氏やパートナーが36.6%であった.また,相談相手には,97.3%がカミングアウトしていた.コミュニティセンターの利用は22.0%で,頻度は0.3 ± 2.0回であった.

3. 人生の満足度に対する重回帰分析

人生の満足度に影響を与える心理的要因を明らかにするため重回帰分析(Stepwise法)を行った(表2).人生の満足度尺度を従属変数に,年齢,日常生活での困りごとの有無,K6,改訂版UCLA孤独感尺度,状態自尊感情尺度,SOC-13,Brief COPE(積極的コーピング,否認,アルコール・薬物使用,情緒的サポートの利用,道具的サポートの利用,行動的諦め,肯定的再解釈,計画,ユーモア,受容,自己避難)の17項目を独立変数として投入した.なお,相関関係から各独立変数に多重共線性による影響がないことを確認している.

表2 重回帰分析
独立変数 非標準化係数 標準化係数(β) p
自尊感情 0.417 0.586 <0.001
孤独感 –0.093 –0.170 <0.001
肯定的再解釈 0.516 0.101 0.002
受容 0.369 0.063 0.043

F値=193.407,R2乗=0.610,調整済みR2乗=0.607

Durbin-Watson比=1.082

・Stepwise法

分析から抽出された項目は,自尊感情(β = 0.586, p‍ ‍<‍ ‍.001),孤独感(β = –0.170, p < .001),肯定的再解釈(β = 0.101, p = .002),受容(β = 0.063, p = .043)であった(R2 = 0.610,調整済みR2 = 0.607).

Ⅳ  考察

1. 対象者の概要

精神的健康をみると,対象者のK6得点は,8.3 ± 5.8点であった(表1).一般男性を対象とした先行研究(K6:3.0 ± 3.8点)(川上ら,2004)と比較すると,対象者のK6得点のほうが高く,ばらつきが大きかった.このことから,対象者は,精神的健康度が低い傾向にあると考えられる.

さらに,対象者のK6と改訂版UCLA孤独感尺度(K6:8.3 ± 5.8点;改訂版UCLA孤独感尺度:48.6 ± 13.2点)の得点を,同じゲイ・バイセクシュアル男性を対象とした先行研究(K6:8.14 ± 5.4点;改訂版UCLA孤独感尺度:43.9 ± 11.7点)(澤田・古谷野・塩野,2019日高,2000)と比較すると,両対象者ともK6で評価した精神的健康度は,5~8点の軽度気分・不安障害圏であった.しかし,改訂版UCLA孤独感尺度得点は,同じゲイ・バイセクシュアル男性を対象とした先行研究と比較して,本研究の対象者のほうが高かった.相談相手の存在やカミングアウトしていれば,孤独感は高くならないと予測していたが,今回予想と異なる結果であった.分析対象者の67.9%しか相談相手については回答していないことや,本研究の調査実施時期が新型コロナウイルス感染症対策で外出や人との接触が制限された時期と重なり,対象者の孤独感を高めた可能性もあると考える.

2. 対象者の人生の満足度

人生の満足度尺度の得点は,17.5 ± 7.2点であった(表1).人生の満足度尺度は,得点が高いほど自分の人生への満足度が高いと評価する.15~19点内にある対象者の得点は,「人生の満足度がやや低め」と評価される(大石,2009).

人生の満足度は,40歳代に低下しやすいと言われ,その理由に他の年代よりもストレスの影響を感じやすいことが指摘されている(児玉・辻,2020).また,うつ気分や不安と負の相関関係があることも明らかになっている(児玉・辻,2020).対象者は,精神的健康度が低い傾向にあり,ストレスを感じやすい年代の人が多かったことから,人生の満足度の得点の低さにつながっていると考えられる.

なお,セクシュアリティ(性的指向)の違いと人生の満足度の得点には,有意差がないと言われている(Hu et al., 2016).しかし,先行研究が乏しいため,セクシュアリティによる差異はないと一概には言えない.セクシュアリティと人生の満足度との関連については,さらに研究が必要と考える.

3. 人生の満足度に影響を与える心理的要因

表2に示した重回帰分析の結果から,人生の満足度に影響を与える心理的要因として,「自尊感情」(β = 0.586, p < .001),「孤独感」(β = –0.170, p < .001),コーピング行動の「肯定的再解釈」(β = 0.101, p = .002),「受容」(β = 0.063, p = .043)の4項目が抽出され,自尊感情を高め,孤独感を低減し,肯定的再解釈や受容をコーピングとして用いることで,人生の満足度が高まることが明らかとなった.また,寄与率60.7%であり,適合度の高いモデルであることを示唆している.

はじめに,自尊感情と孤独感について考察する.ゲイ・バイセクシュアル男性と一般男性を比較した先行研究によると,ゲイ・バイセクシュアル男性のほうが,一般男性よりも自尊感情は低く,孤独感が高いことが明らかになっている(日高,2000).また,他者からの受容感と自尊感情との関連性をみた研究では,セクシュアルマイノリティの方が,ヘテロセクシュアルよりも他者からの受容感を受け自尊感情が高まりやすく,その影響度は約2倍の差があると言われている(石丸,2004).これらのことから,セクシュアリティの違いが自尊感情に関連している可能性があると推測される.さらに,ゲイ・バイセクシュアル男性は,周囲に適応しようと異性愛者の役割を演じ,本来の自分を隠すことで,自尊感情は低下し,孤独感が高まると言われている(日高,2000).これまでの人生で,孤独に感じる期間が長く,自己否定を繰り返してきたことが,人生の評価に影響を与える要因として抽出されたと考える.

次に,コーピング行動の肯定的再解釈と受容について考察する.肯定的再解釈は〈起こっていることの良いところを探す〉,受容は〈今起こっているという現実を受け入れる〉という意味である(大塚,2008).先行研究によると,人生の満足度と関連するコーピング行動には,性別による差があることが示唆されている.男性・女性ともに共通して抽出されたコーピング行動は,肯定的再解釈に類似した認知的再解釈であった.そして,女性のみ抽出されたコーピング行動は問題解決であった(井古田ら,2018).このことから,今回抽出された肯定的再解釈と受容も,ゲイ・バイセクシュアル男性という特性を示している可能性があると思われる.セクシュアルマイノリティは,時間をかけセクシュアリティと向き合い,同じセクシュアリティの人たちとの関係構築により,自分やセクシュアリティを肯定的に意味づけしていくことがあると言われている(宮腰,2013高藤・岡本,2019).また,セクシュアルマイノリティは,ヘテロセクシュアルよりも他者から受容を感じることで自尊感情が高められやすい(石丸,2004).自分のセクシュアリティや現実を受容する,周囲から受容される体験は,セクシュアルマイノリティ特有のものであり,人生の満足度の影響要因となったのではないかと推測される.ただし,「受容」のCronbach α値は低く,結果の解釈は限定的であるため,今後も検討を重ねていく必要がある.

先行研究より,自尊感情を高め,孤独感を低減するには,認知行動療法が効果的と言われている(Kunikata et al., 2016Masi et al., 2011).認知行動療法の要素を取り入れたプログラムなどを検討することで,自殺未遂や精神的不調(King et al., 2008)との関連が指摘されるゲイ・バイセクシュアル男性の人生の満足度は高められ,精神的健康度の改善にも寄与するのではないかと思われる.

Ⅴ  研究の限界

本研究では,ゲイ・バイセクシュアル男性の人生の満足度に影響を与える心理的要因は明らかになったが,ゲイ・バイセクシュアル男性のみを対象としたため特性を十分捉えきれていない.他のセクシュアリティをもつ集団と比較するなど,ゲイ・バイセクシュアル男性の特性を明らかにしていく必要があると考える.また,新型コロナウイルス感染症の流行による制限や生活様式の変容が,心理的要因に反映していた可能性もあるため,新型コロナウイルス感染症の影響を除外し調査を行う必要があると思われる.その他,尺度の一部はCronbach α係数の値が低く,信頼性や妥当性に課題が残った.尺度を再検討し,研究を重ねていく必要があると考える.

Ⅵ  結論

・ゲイ・バイセクシュアル男性のなかには,軽度の気分・不安障害で,孤独感が高く,自尊感情や人生の満足度が低い人がいることが示された.

・人生の満足度に影響を与える心理的要因は,自尊感情,孤独感,コーピング行動の肯定的再解釈,受容の4項目であり,4項目を高めることで人生の満足度を高められる可能性があるという示唆を得ることができた.

謝辞

本研究にご理解くださり,調査に参加してくださった皆様,ご協力くださいましたMASH大阪の皆様には,厚く御礼申し上げます.

著者資格

HSは,研究の着想から論文作成まで全プロセスを行った.FKは,研究プロセス全体への助言を行った.NKとSSは,研究デザインやデータ収集への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反

本研究における利益相反はない.

文献
 
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