Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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The Impact of Head Nurse Leadership on Stress Responses Mediated by Nursing Staff Work Engagement: An Analysis of Workplace Stressors as a Moderating Factor
Shin TakayaHiroaki AmboDaisuke SatoHiroyuki Shingu
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2023 Volume 32 Issue 1 Pages 28-37

Details
Abstract

本研究は,看護師長のリーダーシップと看護職員の心身のストレス反応の関連において,仕事のストレス要因の高低による看護職員のワーク・エンゲイジメントの媒介効果の影響を明らかにすることを目的とする.16病院の看護職員1,213人を対象に無記名自記式質問紙調査を行い,マルチレベル相関分析および調整媒介分析を行った.有効回答は403部であった.

マルチレベル相関分析では,個人レベルでワーク・エンゲイジメントと看護師長のリーダーシップに正の相関が,職業性ストレスとは負の相関が認められた.また,集団レベルでは看護師長の人間関係志向のリーダーシップと職業性ストレスに負の相関が認められた.

調整媒介分析では,高ストレス状況下での変数間の関連について推定を行い,結果として課題志向,人間関係志向両方のリーダーシップの発揮が看護職員のワーク・エンゲイジメントを媒介し,心身のストレス反応に影響を与えていたことが明らかとなった.

Translated Abstract

The purpose of this study was to determine the relationship between the nursing staff’s reactions to mental and physical stress, and the leadership of the head nurse, for ascertaining the impacts of high and low workplace stressors on the nursing staff’s work engagement mediating effects.

At 16 hospitals, 1,213 nursing staff members participated in a self-administered anonymous questionnaire survey. Multilevel correlation analysis and moderated mediation analysis were performed. There were 403 accurate answers.

In the multilevel correlation analysis, work engagement was positively correlated to head nurse leadership, and negatively correlated with individual level occupational stress. It also portrayed a negative correlation between leadership influenced by head nurse relationships and group-level occupational stress.

The relationship between variables under highly stressful conditions was estimated using a moderated mediation analysis, where the results revealed that task- and relationship-oriented leaderships mediated the work engagement of nursing staff, and influenced their responses to mental and physical‍ ‍stress.

Ⅰ  緒言

本邦の2020年度の正規雇用看護職員離職率は10.6%であり(日本看護協会,2022),近年はほぼ横ばいで推移している.また長期病気休暇を取得した常勤看護職員総数に占めるメンタルヘルス不調者の割合は36.8%という報告がある(日本看護協会,2016).看護職員の職務は一般企業の労働者と比較し仕事の質的,量的な負担が大きく(影山ら,2001),看護職員の離休職予防のためのメンタルヘルス対策の充実が課題の一つである.

近年,産業精神保健の分野において着目される概念としてワーク・エンゲイジメント(Work engagement)がある.ワーク・エンゲイジメントは,仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭によって特徴づけられる.そして,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知であると定義され,バーンアウトの対概念として位置づけられている(Schaufeli et al., 2002).

ワーク・エンゲイジメントの規定要因としては,「個人の資源」と「仕事の資源」がある.個人の資源としては自己効力感や楽観性が,仕事の資源としては上司のリーダーシップや支援,コーチング,承認等があり(Halbesleben, 2010/2014Hakanen, Bakker, & Schaufeli, 2006Koyuncu, Burke, & Fiksenbaum, 2006),これら個人の資源と仕事の資源は「仕事の要求度-資源モデル(Job Demands-Resources Model: JD-R Model)」の「動機づけプロセス」において,相互に影響を及ぼし合い,ワーク・エンゲイジメントを高めることが明らかにされている(Xanthopoulou et al., 2009).また,組織においてはワーク・エンゲイジメントが従業員間で伝播するという特徴が明らかにされている(Bakker, Demerouti, & Schaufeli, 2005Bakker et al., 2011).

国内外の看護職員のワーク・エンゲイジメントに関する調査からは,ワーク・エンゲイジメントが高い看護職員は心理的苦痛,身体愁訴が少ないこと(Shimazu et al., 2012)や,離転職の意思が少なく,職務遂行能力が高いこと(川内・大橋,2011Kubota et al., 2012中村・吉岡,2016),患者満足度と正の相関があること(Bacon, & Mark, 2009)に加え,仕事の資源としての新たな業務に挑戦する機会,知識や技術を習得,発揮する機会,心理的報酬や裁量権の付与が有意に看護職員のワーク・エンゲイジメントを高めることが明らかになっている(新宮・安保,2019).これらからワーク・エンゲイジメントは,労働者としての看護職員個人の精神保健の維持や離休職予防,専門性や看護の質向上の観点のみならず,組織を対象とした労働の質の向上のための方略を考える上で有意義な指標であるといえ‍る.

上司の行動やリーダーシップの在り様は部下の仕事への前向きさやストレスに影響する.上司の行動と部下の職業性ストレスとの関連については,Skakonらが49論文についてシステマティックレビューを行っており,高圧的な行動は部下の仕事のストレスを増加させ,心身の健康度が低下すること,部下に対して配慮,支援するリーダーシップ行動はストレスを低下させる傾向があると述べている(Skakon, Nielsen, & Borg, 2010).また,リーダーシップについては多くの研究が行われているが,リーダーとしてとるべき行動に焦点を当てた行動理論はいずれも課題志向の行動と人間関係志向の行動という2つの行動特性からリーダーシップ行動が成り立つとする点で主張は一致しており,双方の行動特性を持つリーダーシップスタイルが最も効果的であるとしている(Stephen, 2005/2009).

上司のリーダーシップはワーク・エンゲイジメントの仕事の資源における規定要因の一つであること,ワーク・エンゲイジメントが心身の健康度と関連することやSkakonらのレビューから,上司のリーダーシップが部下のワーク・エンゲイジメントを媒介してストレス反応に影響を及ぼしていることが予測される.一方で,職場のストレス要因の高低に関連して,看護師長のリーダーシップ行動と看護職員のワーク・エンゲイジメントおよびストレス反応の関連の強さが変わる可能性について検証した研究は我が国ではみられない.そのため本研究では,仕事のストレス要因の高低を調整変数,看護職員のワーク・エンゲイジメントを媒介変数として用い,課題志向,人間関係志向のリーダーシップと看護職員の心身のストレス反応との関連を明らかにすることを目的とした.この関連について明らかにすることは,看護職員の不調を未然に予防する職場環境の整備やそのための管理監督者研修のあり方を検討するうえで重要な示唆となりうるものであると考えられる.

Ⅱ  研究目的と本研究の仮説

本研究は,看護師長のリーダーシップと看護職員の心身のストレス反応との関連について,仕事のストレス要因の高低による看護職員のワーク・エンゲイジメントの媒介効果への影響を明らかにすることを目的とする.

本研究の仮説は,看護師長のリーダーシップが看護職員ワーク・エンゲイジメントに与える効果は仕事のストレス要因の高低により変化が生じる,また仕事のストレスが高い状況では,課題志向,人間関係志向双方のリーダーシップの発揮により看護職員のワーク・エンゲイジメントが高まり,心身のストレス反応を軽減する,である.

Ⅲ  研究方法

1. 研究対象者と調査方法,調査期間

研究者の所属機関は,教育,研究,人事交流に関する連携協定を21病院と締結している.調査対象機関は,この21病院のうち協力の同意が得られた16病院である.調査対象者は,この16病院に所属する看護職員とした.ただし,医療機関の規模(部署数)による重みが生じることを避けるため,医療機関ごとの調査対象部署数は最大4部署とした.質問紙は対象病院に郵送,対象者への配布を依頼した.研究対象者自身が回答後,研究者へ直接郵送するよう書面にて依頼をし,回収した.質問紙は乱数表によるIDを所属部署に対して割り付け,部署と看護職員の回答を紐づけ,分析を行うものとした.IDは部署ごとに割り当てているため個人は特定しない.なお,本研究の調査期間は,2019年8月~9月である.

2. 調査項目

1) 個人属性

看護職員に対して,性別,年齢,主に従事している職種,卒業した看護基礎教育機関,看護師従事経験年数,職位(副看護師長,主任看護師,副主任看護師,スタッフナース),所属部署(病棟勤務,病棟以外勤務(外来や手術室など))とその在籍年数,看護体制の計9項目について質問した.

2) ワーク・エンゲイジメント

ワーク・エンゲイジメントを測定する尺度として,日本語版Utrecht Work Engagement尺度短縮版(以下,UWES-J)を使用した.この尺度は3つの下位概念,熱意,没頭,活力の全9項目で構成される.それぞれの質問に対し「いつも感じる(6点)」から「全くない(0点)」までの7段階評定で回答を求め,9項目の回答の平均値を算出し,ワーク・エンゲイジメントのスコアとしている.得点が高いほど,仕事に積極的に向かい活力を得ている心理状態であることを意味する.この尺度は原版および日本語版で,信頼性と妥当性が確認されている(Schaufeli et al., 2002Shimazu et al., 2008).UWES-Jは,研究目的の場合には自由に使用が可能であった.

3) 仕事のストレス要因および心身のストレス反応

職業性ストレス簡易調査票のうち,仕事のストレス要因17項目と心身のストレス反応29項目を用いた.仕事のストレス要因は各質問に対し「そうだ(1点)」から「ちがう(4点)」まで,心身のストレス反応は「ほとんどなかった(1点)」から「ほとんどいつもあった(4点)」までの各々4件法で回答を求めた.質問項目は逆転項目を含み換算後の得点が高いほど高ストレスの状態であることを示すものである.

4) 看護師長のリーダーシップ

看護師長のリーダーシップについて,代表的なリーダーシップ行動理論であるPM理論(三隅,1978)に基づき作成されたPMサーベイ(吉田ら,1995)を使用した.PM理論は,リーダーシップを仕事や課題志向的な目標達成機能(Performance Function)(以下,P機能)と人間関係志向的な集団維持機能(Maintenance Function)(以下,M機能)の2つの機能に大別している.使用した項目はP機能行動,M機能行動各10項目のリーダーシップ行動からなるものであり,PM理論を用いたリーダーシップの測定は高い信頼性と妥当性がある(松原,1995),また塚本らの調査により抽出された看護師長のあり方としての因子「看護への取り組み姿勢」「スタッフへの配慮」はPM理論の2つのリーダーシップ行動と一致しており(塚本ら,2009),看護師長の行動を測定する際にも妥当性がある.各項目は,「とても当てはまる(6点)」から「全く当てはまらない(0点)」までの7段階評定で回答し,PM機能行動全項目とP機能,M機能各々の機能の平均値を算出し得点とした.得点が高いほど,看護師長がリーダーシップ機能を発揮していると看護職員が認識していることを示す.PM理論では各々の機能の回答者(評価者)全体の平均値を基準とし,両機能が共に平均より高い状態が組織の目標達成,集団の維持に優れた最も望ましいリーダーであるとしている.

3. 分析方法

分析対象は,UWES-Jに欠損のない回答とし,また,リーダーシップに関する設問の欠損値については,一項目あたりの重みが小さく分析結果への影響が少ないと予測されたことから各々の機能の平均値を用いて補完し,記述統計を算出した.また,UWES-J,リーダーシップに関する設問については,尺度全項目,下位尺度ごとのCronbachのα係数を算出し,内的整合性の確認を行った.また使用した尺度について正規性の検定(Kolmogorov-Smirnov検定)を行い,正規分布しているか否かの確認を行った.

職位(副師長級,主任級,スタッフナース)と性別,卒業した看護基礎教育機関についてはχ2検定を行い分析した.また,年齢,看護師従事経験年数の比較については一元配置分散分析を行い,検定の多重性を考慮しBonferroni法で有意水準を補正した.同様に職位を用いた各尺度の比較にはKruskal-Wallis検定(Bonferroni法による多重比較)を行った.

本調査のデータは,個人,集団レベルの階層的データであり,看護師長のリーダーシップや職業性ストレスに関する回答には集団内類似性が生じる可能性がある.そのため級内相関係数(ICC)およびDesign Effectを算出し集団内類似性の評価を行った.個人,集団の階層的データを扱う際には集団における回答数が5名以上必要である(村澤,2005)ため,分析の際は部署において5名以上の回答があった調査データを対象にマルチレベル相関分析を用いて,個人・集団各レベルでの変数間の関連を確認した.なお,看護職員のUWES-Jは所属組織の規模(病床数)と部署の所属人数と負の相関があることが明らかとなっている(安保・髙谷,2019).そのため,この2変数を制御変数として分析を行った.

調整媒介分析では,看護師長のリーダーシップを独立変数,看護職員のUWES-Jを媒介変数,看護職員の心身のストレス反応を従属変数,仕事のストレス要因を調整変数として,仕事のストレス要因の高低により各変数間の関連の強さが変わる可能性について分析を行った.間接効果の有意性の確認には,正規性の検定結果に基づき,正規性を仮定しない方法(Nonparametric Bootstrap法)を用い,リサンプリング回数は10,000回とした.調整媒介分析の前段階として,調整変数を投入せずに媒介分析を実施した.独立変数は,リーダーシップPM機能行動(モデル1),リーダーシップP機能行動(モデル2),リーダーシップM機能行動(モデル3)とした.データの分析には,IBM SPSS Ver24.0 for WindowsおよびHAD17を使用した.なお,統計学的検討の有意水準は5%である.

4. 倫理的配慮

質問紙には特定個人情報の記載欄を設けず,本研究への協力は任意であること,質問紙への回答をもって研究への同意とすること,研究への参加の有無に関わらず不利益が生じないこと,研究結果は学術的に公表する予定であることなどを質問紙表紙に明記した.また,回答の有無や内容による対象者の業務等への不利益が生じないように郵送法を用いて個別に返送してもらい,研究への参加状況が判明しないようにした.所属部署ごとの集計は無作為に割り付けたIDによって管理した.また,本研究は山形県立保健医療大学倫理委員会の承認を受けて実施した.(承認番号1809-20)

Ⅳ  結果

16医療機関の看護職員1,213人に対して質問紙を配布し,回答数は484部であった(返送率39.9%).UWES-Jの回答に欠損がある質問紙,部署における回答数が5名未満の回答を除外し,看護職員403部を分析対象とした(有効回答率33.2%).

1. 研究対象者の概要と使用した尺度の信頼性等

対象者の概要と各尺度の得点を表1に示す.UWES-J,職業性ストレス,看護師長のリーダーシップの設問に正規性は認められなかった.各尺度のCronbachのα係数は,UWES-Jが.938,職業性ストレス全体では.934,仕事のストレス要因が.767,心身のストレス反応が.935,また,看護師長のリーダーシップに関する設問ではPM機能行動の項目全体で.957,P機能行動項目で.895,M機能行動項目で.972であった.

表1 対象者の属性と各尺度の得点※1(n = 403)
副師長級(a) 主任級(b) スタッフナース(c)※2 p-value
n = 33 n = 89 n = 279
n(%)/mean(SD) n(%)/mean(SD) n(%)/mean(SD)
性別 女性 29 (87.9%) 82 (92.1%) 250 (89.6%)
男性 4 (12.1%) 7 (7.9%) 29 (10.4%)
年齢 49.3 (6.6) 45.7 (6.2) 36.3 (12.2) ***:a > c,b > c
卒業した看護基礎教育機関 高等学校衛生看護科 3 (9.1%) 10 (11.2%) 13 ※3(4.7%)
准看護師学校 0 (0.0%) 0 (0.0%) 23 ※3(8.2%)
高等学校専攻科 3 (9.1%) 7 (7.9%) 12 (4.3%)
高等学校・専攻科(5年一貫) 0 (0.0%) 3 (3.4%) 18 (6.5%)
専門学校 26 (78.8%) 59 (66.3%) 176 (63.1%)
短期大学 0 (0.0%) 6 (6.7%) 7 (2.5%)
大学 1 (3.0%) 4 (4.5%) 29 ※3(10.4%)
無回答 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1 (0.4%)
看護師従事経験年数 27.2 (6.7) 23.2 (6.4) 13.4 (11.2) ***:a > c,b > c
取得免許 看護師 33 (100.0%) 89 (100.0%) 250 (89.6%)
准看護師 0 (0.0%) 0 (0.0%) 29 (10.4%)
現在勤務部署( )は看護体制 病棟(7:1) 20 (60.6%) 57 (64.0%) 129 (46.2%)
病棟(10:1) 8 (24.2%) 10 (11.2%) 50 (17.9%)
病棟(13:1) 2 (6.1%) 10 (11.2%) 23 (8.2%)
病棟(15:1) 2 (6.1%) 4 (4.5%) 27 (9.7%)
病棟(18:1) 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1 (0.4%)
病棟(20:1) 0 (0.0%) 2 (3.7%) 13 (4.7%)
病棟以外 0 (0.0%) 6 (6.7%) 36 (12.9%)
無回答 1 (6.1%) 0 (0.0%) 0 (0.0%)
UWES-J (9項目) 2.3 (1.0) 2.3 (1.3) 2.4 (1.2) n.s.
看護師長のリーダーシップPM機能行動 (20項目) 3.3 (1.6) 3.5 (1.3) 3.6 (1.6) n.s.
 リーダーシップP機能(目標達成)行動 (10項目) 2.9 (1.6) 3.1 (1.3) 3.4 (1.4) n.s.
 リーダーシップM機能(集団維持)行動 (10項目) 3.7 (2.2) 3.8 (1.8) 3.9 (1.9) n.s.
職業性ストレス (46項目) 110 (32) 109 (24) 107 (23) n.s.
 仕事のストレス要因 (17項目) 47 (7) 48 (7) 45 (7) **:b > c
 心身のストレス反応 (29項目) 64 (23) 62 (23) 62 (18) n.s.

一元配置分散分析(Bonferroni法による多重比較),Kruskal-Wallis検定(Bonferroni法による多重比較)***:p < .001,**:p < .01,n.s.:not significant

※1 UWES-J,看護師長のリーダーシップPM機能行動,職業性ストレス各尺度の得点についてはmedian(四分位範囲)を示した

※2 分析対象者のうち2名は職位について無回答であった

※3 職位と卒業した看護基礎教育機関については,スタッフナースの高等学校衛生看護科卒が有意に少なく,准看護師学校卒,大学卒が有意に多かった

(χ2検定,調整済み残差を算出して分析)

職位と性別には有意な差は認められず,卒業した基礎看護教育機関については,スタッフナースの高等学校衛生看護科卒が有意に少なく,准看護師学校卒,大学卒が有意に多かった.またスタッフナースと副師長級,主任級の看護師の年齢,看護師従事経験年数に有意差が認められた.

対象者の職位(副師長級,主任級,スタッフナース)を独立変数としてUWES-J,看護師長のリーダーシップ,職業性ストレスについての比較では,職業性ストレスの仕事のストレス要因についてのみ,主任級とスタッフナースの得点に有意差が認められた.

看護師長のリーダーシップ,職業性ストレスに関する設問では級内相関係数(ICC)は有意であった.またマルチレベル相関分析においては,個人レベルではUWES-Jと看護師長のリーダーシップに正の相関,職業性ストレスには負の相関が認められ,集団レベルでは看護師長のリーダーシップのM機能行動にのみ職業性ストレスと負の相関が認められた(表2).

表2 看護職員のUWES-Jと職業性ストレスおよび看護師長のリーダーシップについてのマルチレベル相関分析(n = 403,集団数=37)
級内相関係数
(ICC)
Design effect マルチレベル相関分析
UWES-J 看護師長のリーダーシップ 職業性ストレス
(ストレス要因
+ストレス反応)
仕事の
ストレス要因
心身の
ストレス反応
PM機能行動 P機能項目 M機能項目
UWES-J .056 1.55 .281** .234** .284** –.464** –.315** –.461**
リーダーシップPM機能行動 .260** 3.55 .021 .915** .950** –.249** –.227** –.228**
 リーダーシップP機能行動 .290** 3.84 .135 .854** .743** –.175** –.161** –.159**
 リーダーシップM機能行動 .276** 3.71 –.075 .908** .559* –.277** –.251** –.254**
職業性ストレス .084* 1.83 .011 –.547 –.269 –.656* .738** .974**
 仕事のストレス要因 .243** 3.38 .018 –.416 –.215 –.491* .937** .566**
 心身のストレス反応 .040 1.39 .003 –.607 –.289 –.736* .945 .771

**:p < .01,*:p < .05,

※マルチレベル相関分析結果の上三角行列は個人レベル相関,下三角行列は集団レベル相関を表す

個人レベルの相関係数は個人間の変動に基づいて算出し,集団レベルの相関係数は集団間の分散から個人間の分散を差し引いて算出するものである.

※マルチレベル相関分析においては,制御変数として病院規模(病床数),部署の規模(所属看護職員数)を投入し分析を行った.

2. 看護師長のリーダーシップ,看護職員のワーク・エンゲイジメントおよびストレス反応との関連

看護師長のリーダーシップが看護職員の心身のストレス反応に与える影響について,看護職員のUWES-Jを媒介変数として媒介分析を行った.分析の結果,看護師長のリーダーシップPM機能行動から看護職員の‍心身のストレス反応へ有意な負の効果が認められた(β‍ ‍= –.26, p < .01).また,看護師長のリーダーシップPM機能行動から看護職員のUWES-Jへ有意な正の効果が見られた(β = .24, p < .01).さらに看護師長のリーダーシップPM機能行動を独立変数,看護職員の心身のストレス反応を従属変数,看護職員のUWES-Jを媒介変数として間接効果の分析を行った.検定の結果,間接効果が有意で(z = –4.152, p < .01),媒介変数投入後にβ = –.26が,β = –.16になり,依然として総合効果は有意(p < .01)であった.そのため,看護師長のリーダーシップPM機能行動が看護職員の心身のストレス反応に与える効果は,UWES-Jが部分的に媒介していたという結果となった(部分媒介).図1の看護師長のリーダーシップ行動から看護職員の心身のストレス反応へのパス係数の変化は,直接のパス係数(直接効果)から,看護職員のUWES-Jを媒介した後のパス係数(総合効果)への変化を意味している.リーダーシップP機能行動のみを独立変数とした場合,看護職員のUWES-Jを媒介変数とすると,媒介変数投入後にβ = –.17が,β = –.08になり,有意ではなくなったため,リーダーシップP機能行動が看護職員の心身のストレス反応に与える効果は,UWES-Jが完全に媒介していることが明らかとなった(完全媒介).リーダーシップM機能行動のみを独立変数とした場合には,看護職員のUWES-Jの媒介効果が部分的であることが示され‍た.

図1

媒介分析結果

調整媒介分析では,調整変数に仕事のストレス要因の(a)平均値+SD,(b)平均値,(c)平均値–SDを投入して,仕事のストレス要因の高低でのモデルへの影響を検証した.結果としてモデル1では,(a)および(b)の場合に,媒介変数としてUWES-Jを投入後に看護師長のリーダーシップから心身のストレス反応へのパス係数が非有意になりUWES-Jが完全に媒介していた(完全媒介).モデル2では,(a)のときにUWES-Jが看護師長のP機能リーダーシップ行動と心身のストレス反応を完全に媒介し,(b),(c)では直接効果が有意ではなかった.一方で,モデル3においては,(a)の分析では看護師長のM機能リーダーシップ行動から看護職員のUWES-Jへのパス係数が有意ではなく,(b)の平均を投入した場合にUWES-Jの完全媒介が認められた(図2).

図2

調整媒介分析結果

Ⅴ  考察

1. 研究対象者のワーク・エンゲイジメントの状況および使用尺度の信頼性

本研究の対象である看護職員のUWES-Jの得点(中央値)は2.4であった.先行研究(中村・吉岡,2016須藤・石井,2017)と比較すると本研究で得られたUWES-Jの値は同等の得点であった.また,本研究で使用したUWES-J,リーダーシップに関する設問,職業性ストレスに関する設問の信頼性係数は各々.70以上を示しており,内的整合性があるものと判断した.本研究対象者の職位(副師長級,主任級,スタッフナース)を独立変数としてUWES-J,看護師長のリーダーシップ,職業性ストレスについて比較を行ったところ,職業性ストレスの仕事のストレス要因についてのみ,主任級とスタッフナースの得点に有意差が認められ,主任級がやや仕事のストレス要因が高く,主任としての業務負担の影響が推測された.

看護師長のリーダーシップ,職業性ストレスに関する回答の級内相関係数(ICC)は有意でありデータの階層性の判断基準(清水,2014)に基づき,本調査データが階層的であると判断した.またマルチレベル相関分析の結果では,リーダーシップとワーク・エンゲイジメントとの相関は個人レベルでのみ有意な相関関係であり,リーダーシップがワーク・エンゲイジメントに与える影響は個人レベルの影響であるという先行研究(髙谷・安保・佐藤,2022)の知見に一致していた.

2. 看護師長のリーダーシップによる看護職員の心身のストレス反応への影響

媒介分析では,看護師長のリーダーシップと看護職員の心身のストレス反応との関連をワーク・エンゲイジメントが媒介していることが示された.これはリーダーシップがワーク・エンゲイジメントの規定要因の一つであることやワーク・エンゲイジメントと身体愁訴等との関連に関するこれまでの研究(Hakanen et al., 2006Koyuncu et al., 2006Shimazu et al., 2012)と一致する結果である.

また,調整媒介分析の高ストレス状況を想定した分析において,モデル1でUWES-Jの完全媒介が認められた一方,モデル3ではリーダーシップM機能行動からUWES-Jへのパスが有意ではなく間接効果が認められなかった.これは仕事のストレスが高い状況下で看護職員のワーク・エンゲイジメントを高めるには人間関係の維持に関する役割機能の発揮だけでは不十分であり,課題志向的なP機能,人間関係志向的なM機能両方のリーダーシップの発揮がワーク・エンゲイジメントに正の効果があることを実証した結果であるといえる.

塚本らは看護職員の組織風土とバーンアウトの関連について調査を行い,職務での役割の曖昧さがバーンアウトに影響する要因の一つであることを明らかにしている(塚本・野村,2007).高ストレス状況下での役割の曖昧さはさらにワーク・エンゲイジメントの低下を引き起こす可能性があると考えられ,計画の立案やスタッフに対する指示などによって目標達成や課題の解決に導くリーダーシップ行動(P機能行動)が伴うことが必要であると考えられる.一方で,同分析モデルにおいて看護師長のリーダーシップM機能行動から心身のストレス反応への直接効果は有意であるために,所属組織や集団に関連する他の変数が看護師長のM機能行動と看護職員のUWES-Jを媒介している可能性が示唆された.先に述べた塚本らの研究では,看護職員のバーンアウトに病棟スタッフの親密さが関係していることも明らかにしている.M機能は集団の凝集性を高めるリーダーシップ機能であるため,部署のスタッフの親密さ,スタッフ間のコミュニケーションの質などの組織的な要因を媒介することによって看護職員個人のワーク・エンゲイジメントに影響する可能性があると考えられる.

リーダーシップは,ワーク・エンゲイジメントの規定要因の一つであり,本研究の結果は課題志向的な行動と人間関係志向的な行動の両側面でのリーダーシップの発揮が,仕事のストレスが高い状況下での看護職員のワーク・エンゲイジメントを高めることの裏付けとなるものであり,看護師長を対象とした管理監督者研修を検討するうえでの資料として意義があるものである.看護師長のリーダーシップの発揮は,部下である看護職員のワーク・エンゲイジメントを高め離休職予防や専門性,労働の質の向上への寄与に期待できる.看護職員の離休職予防は本邦の喫緊の課題であり,本研究で得られた看護師長のリーダーシップと看護職員のワーク・エンゲイジメントに関する知見に基づき,看護師長のリーダーシップの醸成に資する効果的,実践的な介入方法について検討することが必要である.

Ⅵ  研究の限界と今後の課題

本調査は,看護職員の心身のストレス反応と看護師長のリーダーシップ行動との関連について看護職員のワーク・エンゲイジメントを媒介変数,仕事のストレス要因を調整変数としてその関連を示すものである.そのため看護職員個人の資源に関する項目との関連については調査していない.今後は個人の資源との関連に加え,組織での仕事の資源とされるリーダーシップ以外の組織風土や部下のフォロワーシップ等所属する組織の上司―部下間,同僚間の相互作用を考慮し,ワーク・エンゲイジメントとの関連を明らかにすることが本研究分野発展のための課題であると考えられる.

謝辞

本研究に快く承諾しご協力をいただきました看護職員の皆様に心より御礼を申し上げます.なお,本研究は,日本精神保健看護学会2019年度研究助成事業に採択され実施したものであり,本研究の一部は日本精神保健看護学会第31回学術集会において発表した.

著者資格

STは調査に使用した尺度の選定,調査の実施と分析,主要な執筆を行った.HAは研究枠組みの構成と倫理面を含む研究過程全般に有力な案を与えるなどの助言を行った.DSおよびHSは調査の分析およびその結果の解釈に貢献した.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

利益相反に関する開示

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
© 2023 Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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