Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Effectiveness of Training Program to Improve Recovery-Orientation for Nurse Working in the Psychiatric Wards
Tatsuya TamuraMasato AkemaTeruko WatanabeTakako Ohkawa
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2023 Volume 32 Issue 2 Pages 1-11

Details
Abstract

本研究は精神科病棟に勤務する看護師を対象に,リカバリー志向を高めるための研修プログラムを企画し,その効果を明らかにすることを目的とした.

研修参加者44名を対象として自記式調査を行い,リカバリーに対する知識や態度,ストレングスに焦点を当てた支援の実施度について,研修プログラム前後の変化を量的・質的に分析した.

その結果,研修プログラムによって,参加者はリカバリーに関する理解が深まり,リカバリーをより志向する方向への変化が認められた.患者のストレングスを知っていくための対話を実践していく中で,リカバリーの概念が知識としてだけではなく実体験を伴う理解に変化し,その人の可能性を信じ,その人の意思を尊重するといった,支援態度の変化が起こったことが示唆された.

ただし,臨床現場で生じた困難や課題によってはリカバリー志向の停滞が起こる可能性があり,困難や課題をフォローできる体制や機会は継続的に必要であると考える.

Translated Abstract

The present study aimed to clarify the effectiveness of a training program to improve recovery orientation for nurses working in psychiatric wards.

Forty-four nurses participated in the training program, and completed self-reported questionnaires both pre-and post-training. Then, their knowledge about and attitudes toward the concept of recovery, and degrees of strength-focused approach were analyzed both quantitatively and qualitatively.

Our results indicate that the training program led to a further understanding of recovery, and improved recovery orientation. The findings also showed that through engaging in dialogue to gain an understanding of the patient’s strength, the concept of recovery is understood as knowledge, which was deepened through practical experience. Furthermore, changes in the attitudes of the nurses regarding support were revealed. They started to believe in their patients’ potential and to respect the will of the patients.

However, recovery-orientation may stagnate depending on the difficulties encountered in clinical practice. Therefore, there is a continuous need for systems and opportunities to follow up on difficulties regarding a recovery-orientation approach.

Ⅰ  はじめに

わが国においては,精神障がい者への施策を「入院医療中心から地域生活中心へ」とシフトさせ,長期入院患者の退院促進に力を注いでおり,精神障がい者自身の能力を活かした主体的で自分らしい生活スタイルを築くことを重要視した「リカバリー」という考え方が注目されるようになった.リカバリーとは精神疾患をもつ人が,たとえ症状や障がいが続いていても,希望を抱き,自分の人生に責任を持って,意味ある人生を生きることを指す主観的な概念である(Anthony, 1993マーク・レーガン,2002/2005).精神科病院が治療構造を見直し,リカバリーを促すシステムへと変わることが脱施設化・在宅医療への推進に繋がる(伊藤,2006)とされるが,精神障がい者に対して保護的・管理的な関わり方に馴染み深い病棟看護師にとっては,当事者の主体性・自律性を重視した関わり方,つまりリカバリー志向にシフトしていくことが課題となっており,地域をベースに展開されるその人らしい生活への支援が体験できるような現任教育システムの強化が必要とされている(Kataoka et al., 2015).

実際に国内外において看護師のリカバリー志向を高めるための様々な具体的介入が実践されており,教育プログラムに関する系統的レビュー(Hawsawi et al., 2021)では参加した医療従事者のリカバリー関連の知識や信念,態度などが向上することが明らかになっている.しかしながらメタ解析の結果では,リカバリー志向のケアプランの作成や「実践」への影響は明らかになっておらず,「実践」には組織的な障壁もあることが指摘されている(Eiroa-Orosa, & García-Mieres, 2019).

そこで本研究では精神科病棟に勤務する看護師を対象に自らの組織の中でリカバリー志向の「実践」体験を課し,その体験を事例検討にて深め,ケアプラン作成を導く研修プログラムを企画し,量的・質的にその効果を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ  研究方法

1. 研究デザイン

1群事前事後テストとし,量的分析の補完のため自由記載の質的分析も行った.

2. 用語の定義

リカバリー志向はBorkin et al.(2000)により「精神疾患からリカバリーすることができるという姿勢」と定義されている.本研究においては看護師が「患者の希望や目標に向かい,その人らしい人生を歩んでいけることを信じ,患者の主体性・自律性を重視する支援の姿勢」とする.

3. 研究対象者の選定

A県内の11精神科病院,計24病棟に勤務する看護師および准看護師47名を対象とした.サンプルサイズは水本・竹内(2008)の効果量の目安を参照し効果量を0.5,αエラーを0.05,検定力を0.95とし算出された47を対象者数の目安とした.研究対象者の選定としては,研究者が研究の対象となる医療機関の看護部長に対し,研究への参加依頼書並びに研究説明書を用いて研究についての説明を行い,承諾を得た後に看護部長から病棟師長に研究協力の依頼を伝えてもらい,各病棟にて研究対象者を募った.

4. データ収集方法

精神科病棟に勤務する看護師を対象に研修プログラムを実施した.研修プログラムは全4回,各90分で開催し,4回すべてに参加した者を分析対象者とした.研修プログラムはA県内の4つの地域で行い,対象者には近隣の開催地へ参加してもらった.各開催地への参加人数は10~12名程度となるように調整を行った.

尚,研修内容を検討するにあたり,香田ら(2013)がまとめた「リカバリーを志向する効果的な研修の在り方についての配慮」を参考とした.また,対象者へは「ストレングス・マッピングシート」(萱間,2016)を用いた対話の実践や,「パーソナルリカバリープラン」(Rapp, & Goscha, 2011/2014小澤,2015)を参考とした「私の希望を実現するための計画」について受け持ち患者と共に立案する課題を課した.研修プログラムは看護学修士号を持つ研究者3名で実施し,看護師9名を対象としたパイロットスタディの結果を踏まえてプログラム内容の修正を行った上で本研究に臨んだ.本プログラム実施中も前後にミーティングを重ね‍た.

また,研修プログラム第1回の実施前と,第4回の終了1ヶ月経過後に質問紙調査を実施した.2回目の質問紙調査は研修プログラム終了後の1ヶ月間のリカバリーに関する姿勢や態度,実践度の変化を振り返ってもらう形で記載を依頼した.研修プログラムの概要については図1に示した.

図1

精神科病棟看護師のリカバリー志向を高める研修プログラムの概要

5. 調査項目

質問紙調査の内容は以下の内容を含むものとした.一部信頼性の低い因子があるが,自分の態度や知識を評価する尺度において,状況や環境によってはその態度や知識に変化があるのは当然のことであり,高い内的一貫性は必ずしも期待されないものと考え,本調査に使用した.

1) Recovery Attitude Questionnaire日本語版(以下RAQ-7)

RAQはBorkin et al.(2000)によりリカバリー概念への態度を評価する尺度として開発され,スタッフへのリカバリー志向の教育プログラムの効果評価などに用いられている.今回7項目短縮版を使用した.5件法であり,高スコアほどリカバリーへの態度が高いとされる.日本語版の信頼性・妥当性は確認されている(Chiba et al., 2016).質問紙の使用に関して日本語版開発者より許可を得た.因子構造は第1因子『リカバリーは可能であり,信念を必要とする』・第2因子『リカバリーには困難さがあり,その仕方は人によって異なる』で構成される.Cronbachのα係数は7項目合計で0.64,第1因子0.53,第2因子0.56である.

2) Recovery Knowledge Inventory日本語版(以下RKI)

RKIはBedregal et al.(2006)によりリカバリー概念への意識や知識を評価する尺度として開発された精神保健サービスで働く専門職者を対象とした代表的な尺度の一つである.20項目,5件法であり,高スコアほどリカバリーへの意識や知識が高いとされる.日本語版の信頼性・妥当性は確認されている(Chiba et al., 2017).質問紙の使用に関して日本語版開発者より許可を得た.本研究では先行研究(Chiba et al., 2017)の分析結果に示されている通り,(1)(4)(5)(13)の問いは削除し,16項目を調査対象とした.因子構造は第1因子『精神症状とリカバリーに関する知識』・第2因子『リカバリーの過程に関する知識』・第3因子『リカバリーにとって重要なことの理解』・第4因子『リカバリーにおける挑戦と責任の理解』で構成される.Cronbachのα係数は16項目合計で0.77,第1因子0.75,第2因子0.66,第3因子0.59,第4因子0.29である.

3) ストレングス志向の支援態度評価尺度

患者本人や環境のストレングスに焦点をあて,それを活かしたり伸ばしたり出来るような支援を本人と共に考えるスタッフの支援態度を評価する尺度として開発され,信頼性・妥当性は確認されている(贄川・前田・山口,2012).11項目,4件法の尺度であり,質問項目に対して「自信度」と「実施度」の2つの回答が求められているが,両者で回答傾向に大きな違いは見られていないこと,因子構造は実施度の方が当てはまりの良さが相対的に高いことから,今回は「実施度」のみの回答を求めた.故に高スコアほどストレングス志向の支援の実施度が高いとされる.質問紙の使用と「実施度」のみの測定に関しては質問紙の開発者より許可および了承を得た.因子構造は第1因子『Person-Centered Approach』・第2因子『Shared Decision-Making』・第3因子『Strength-Focused Approach』で構成される.Cronbachのα係数は11項目合計で0.87,第1因子0.65,第2因子0.79,第3因子0.65である.

4) 個人属性について

年齢,性別,看護師(准看護師)歴,精神科勤務年数について回答を求めた.

5) 自由記述式の質問調査

研修プログラム参加前と比較し,終了後1ヶ月経過した時点でのリカバリーに関する自身の姿勢や態度の変化と,変化の契機に関することの質問を含めた.

6. データの分析方法

1) 量的分析

質問紙調査の結果についてはWilcoxonの符号順位検定を用いて各項目の研修プログラム前後での値を比較した.またZ値を変換して効果量r( r = Z / n )を求め,水本・竹内(2008)の効果量の目安を参照し0.3 < r < 0.5を中程度の効果,0.5 < rを大きな効果と評価した.尚,rは絶対値として処理し,表記した.統計処理はSPSSを用いた.

2) 質的分析

自由記述のテキストについては,電子化した後,文のまとまりごとに区切り,意味内容の近いコードごとにグループ分けし,各グループ間の意味的・概念的類似性に応じて大きなグループを作るという手順でカテゴリーを作成し,研修プログラムの効果を検討した.分析の過程において,分析の真実性と妥当性を高めるため,質的研究に精通する研究者のスーパーバイズを受けて分析を行った.

7. 研究の期間

2018年6月1日から2020年6月30日

8. 倫理的配慮

研究者は研究対象者候補に対して,研究者の所属する大学の倫理委員会の承認を得た同意説明文書を用いて研究の説明を行った(承認番号:30005).その際,一旦研究参加に同意した後でも特段の不利益を受けることなくいつでも同意撤回できること,ただし,同意撤回以前に学会,論文等で発表した結果は取り消すことができないこと等も併せて説明した.その後,十分に考える時間を与え,研究対象者候補が研究の内容をよく理解したことを確認した上で,研究への参加について依頼し,承諾書に署名をしてもらった.

Ⅲ  結果

1. 分析対象者の属性

対象者47名中,全4回すべての研修プログラムに参加できた44名(内男性22名,内准看護師6名)を分析対象とした.尚,脱落した3名はいずれも勤務時間の変更にて不参加となった.対象者の平均年齢は39.1歳(SD11.6),精神科経験年数は平均12.7年(最小0.3年~最大32.3年)であった.

2. 研修プログラム前後での質問紙調査の量的分析

研修プログラムの参加前と研修プログラム終了後1か月経過時点で質問紙の内容について量的分析を行った.結果については表1に示す.3つの尺度において最も効果量が大きかったのはストレングス志向の支援態度評価尺度の合計得点(r = 0.67)であった.尚,看護師・准看護師の資格で結果の内容に有意差は認められなかった.以下,尺度の構成因子を『 』で示す.

表1

研修プログラム前後での質問紙調査の量的分析 n = 44

研修前 研修後 Z値 漸近
有意確率
効果量
(r)
平均値
(標準偏差)
中央値
(最小~最大)
平均値
(標準偏差)
中央値
(最小~最大)
RAQ-7 合計得点(7~35点) 27.48
(2.52)
28.0
(21~33)
29.66
(2.67)
29.0
(25~35)
–4.264 0.000** 0.64
第1因子 リカバリーは可能であり,信念を必要とする(4~20点) 15.07
(1.70)
15.0
(12~19)
16.45
(1.87)
16.0
(12~20)
–4.015 0.000** 0.61
(2)リカバリーには信念が必要である 3.34 4.0 3.68 4.0 –2.373 0.018*
(4)たとえ精神の病気の症状があったとしても,リカバリーは起こり得る 4.11 4.0 4.48 5.0 –3.398 0.001**
(5)精神の病気の原因を何であると考えていたとしても,リカバリーは可能である 4.07 4.0 4.41 4.5 –2.499 0.012*
(6)重い精神の病気を持つ人は誰でも,リカバリーするために励むことができる 3.55 4.0 3.89 4.0 –2.413 0.016*
第2因子 リカバリーには困難さがあり,その仕方は人によって異なる(3~15点) 12.41
(1.26)
12.0
(9~15)
13.20
(1.27)
13.0
(11~15)
–3.232 0.000** 0.49
(1)リカバリーの過程にある人は,時には後戻りすることもある 4.02 4.0 4.32 4.0 –2.982 0.003**
(3)精神の病気についての偏見は,リカバリーの進行を遅らせることがある 4.02 4.0 4.25 4.0 –1.641 0.101
(7)精神の病気からのリカバリーのしかたは,人によって異なる 4.36 4.0 4.64 5.0 –2.683 0.007**
RKI(16項目版) ※逆転項目 合計得点(16点~80点) 56.55
(4.63)
56.0
(47~66)
60.00
(5.69)
59.0
(48~70)
–3.927 0.000** 0.59
第1因子 精神症状とリカバリーに関する知識(4~20点) 15.07
(1.85)
15.0
(10~18)
16.00
(2.22)
16.0
(10~20)
–2.259 0.024* 0.34
(11)精神症状が激しい人やアルコール・薬物を乱用中の人には,リカバリーはあてはまらない 3.05 3.0 3.59 4.0 –2.726 0.006**
(10)病状が安定している人だけが,自分のケアについて決めることに参加できる 3.93 4.0 4.18 4.0 –1.863 0.062
(2)精神科治療やアルコール・薬物乱用の治療を受けている人が,自分の治療やリハビリテーションの目標を決めることは出来ないだろう 4.02 4.0 4.20 4.0 –0.988 0.323
(14)自分の病気や状態,治療の必要性を受け入れる準備ができていない人には,リカバリーするために専門職者が手助けできることはほとんどない 4.07 4.0 4.02 4.0 –0.220 0.826
第2因子 リカバリーの過程に関する知識(5~25点) 15.61
(2.55)
16.0
(9~20)
17.02
(3.03)
17.0
(11~24)
–3.090 0.002** 0.47
(19)治療に従えば従うほど,その人はリカバリーしやすい 3.75 4.0 3.89 4.0 –1.414 0.157
(18)リカバリーの考え方がもっとも有用な人は,治療が一段落した人や治療をほぼ終えた人である 3.45 4.0 3.89 4.0 –1.933 0.053
(16)症状の軽減は,リカバリーの不可欠な要素である 2.61 2.0 2.86 3.0 –1.736 0.083
(17)その人の病気や状態の深刻さに応じて,リカバリーへの期待や希望を調整する必要がある 2.43 2.0 2.91 3.0 –2.452 0.014*
(15)リカバリーには,大きな後戻りはせずに,徐々に前に進んでいくという特徴がある 3.36 3.0 3.48 4.0 –0.721 0.471
第3因子 リカバリーにとって重要なことの理解(3~15点) 12.30
(1.50)
12.0
(8~15)
12.59
(1.19)
12.0
(10~15)
–1.579 0.114
(12)病気や状態にかかわらず,自分がどんな人間なのかを理解することは,リカバリーに不可欠な要素である 3.84 4.0 3.89 4.0 –0.591 0.555
(20)重い精神の病気をもつ人や,アルコール・薬物乱用からリカバリーしつつある人も,精神保健の専門職者と同様に,他の人のリカバリーの手助けとなることができる 4.05 4.0 4.23 4.0 –2.000 0.046*
(8)趣味や余暇の活動を楽しむことは,リカバリーのために大切である 4.41 4.5 4.48 4.0 –0.577 0.564
第4因子 リカバリーにおける挑戦と責任の理解(4~20点) 13.57
(1.98)
13.5
(9~18)
14.39
(2.19)
14.5
(10~19)
–2.739 0.006** 0.41
(6)精神の病気やアルコール・薬物乱用のある人は,日々の生活に生じるさまざまな責任を負うべきではない 4.00 4.0 4.05 4.0 –0.035 0.972
(7)重い精神の病気やアルコール・薬物乱用におけるリカバリーは,決められた手順に沿えば実現する 3.39 4.0 3.20 3.0 –1.272 0.203
(9)相談者が失敗や落胆をしないように守るのは,専門職者の責任である 3.18 3.0 3.61 4.0 –2.204 0.027*
(3)どの専門職者も,相談者に,リカバリーの追求のためなら思い切ってやってみるよう励ますべきである 3.00 3.0 3.52 4.0 –3.075 0.002**
ストレングス志向の支援態度評価尺度(実施度) 合計得点(0~33点) 17.77
(6.03)
18.0
(3~29)
21.91
(6.46)
22.5
(6~33)
–4.416 0.000** 0.67
第1因子 Person-Centered Approach(0~9点) 5.64
(1.89)
5.5
(2~9)
6.59
(1.79)
6.5
(3~9)
–3.621 0.000** 0.55
(1)本人の病状が不安定になる可能性があるとあなたが感じた場合でも,本人の挑戦したいという気持ち(就職や恋愛など)に,まずは肯定的なコメントを返す 2.00 2.0 2.23 2.0 –2.041 0.041*
(5)病気や症状以外の本人の個性,価値観などについても積極的に焦点を当てて,本人と会話をする 1.89 2.0 2.20 2.0 –2.744 0.006**
(10)支援にあたっては,本人が地域生活を送る上で望むことややりたいこと,現在の課題などを尋ねる 1.75 2.0 2.16 2.0 –3.164 0.002**
第2因子 Shared Decision-Making(0~15点) 7.45
(2.99)
7.0
(1~13)
9.32
(3.47)
9.0
(0~15)
–3.679 0.000** 0.56
(3)目標設定や支援計画づくりは,本人と共に考え,本人が主体的に選択できるようにサポートする 1.86 2.0 2.18 2.0 –2.557 0.011*
(4)クライシス(危機的状況)時に備え,本人が自分で行うと良いこと,周囲の人にやってほしいことなどを,事前に本人と一緒に考える 1.68 2.0 2.05 2.0 –2.396 0.017*
(6)目標設定や支援計画づくりのカンファランス・話し合いは,本人が参加して行う 1.14 1.0 1.43 1.0 –2.008 0.045*
(7)アセスメント票や支援計画には,本人の言葉を積極的に活用する 1.50 1.5 2.05 2.0 –3.423 0.001**
(11)アセスメント票と支援計画は,本人と一緒に定期的に見直し,更新する 1.27 1.0 1.61 1.5 –2.473 0.013*
第3因子 Strength-Focused Approach(0~9点) 4.68
(1.71)
5.0
(0~9)
6.00
(1.78)
6.0
(2~9)
–4.07 0.000** 0.61
(2)本人の個人および環境の持つストレングス(長所・強み)を,本人との会話の中で一緒に見つける 1.98 2.0 2.41 2.0 –3.046 0.002**
(8)本人の上手くいった経験も,上手くいかなかった経験も,次の活動を行う際に役立つ体験と捉え,本人がそれを活用しやすいように対話を進める 1.77 2.0 2.27 2.0 –3.378 0.001**
(9)支援計画は,支援活動の大部分が地域の中で(入院中の者に対しては,すみやかに病院の敷地外で)行われるように作る 0.93 1.0 1.32 1.0 –2.805 0.005**

Wilcoxonの符号付順位検定 *有意水準5% **有意水準1%

効果量r( r = Z / n :rは絶対値として処理) 0.3 < r < 0.5:効果量 中 0.5 < r:効果量 大

1) RAQ-7の変化について

RAQ-7では合計得点,第1因子・第2因子の得点において1%水準で有意な上昇が認められた.効果量としてはRAQ-7合計得点(r = 0.64)と第1因子得点(r = 0.61)で大きな効果が,第2因子得点(r = 0.49)で中程度の効果が認められた.

2) RKIの変化について

RKIでは合計得点,第2因子・第4因子の得点において1%水準で有意な上昇が認められた.第1因子の得点は5%水準で有意な上昇が認められた.効果量としては合計得点(r = 0.59)では大きな効果が,第1因子得点(r = 0.34)・第2因子得点(r = 0.47)・第4因子得点(r = 0.41)では中程度の効果が認められた.

3) ストレングス志向の支援態度評価尺度の変化について

ストレングス志向の支援態度評価尺度では合計得点,第1因子・第2因子・第3因子それぞれの得点において1%水準で有意な上昇が認められた.効果量としては合計得点(r = 0.67),第1因子得点(r = 0.55),第2因子得点(r = 0.56),第3因子得点(r = 0.61)それぞれに大きな効果が認められた.

3. 研修プログラム前後でのリカバリーに関する姿勢や態度の変化と,変化の契機に関する質的分析

研修プログラム前後でのリカバリーに関する姿勢や態度の変化と,変化の契機に関する質的分析については表2に示す.以下,【 】をカテゴリー,[ ]をコードとして示す.

表2

研修プログラム前後でのリカバリーに関する姿勢や態度の変化と,変化の契機に関する質的分析

【カテゴリー】 [コード] 代表的な記述
研修前後でのリカバリーに関する姿勢や態度の変化について これまでの看護実践の見つめ直し 看護師主導であったことへの反省 目標を決めればあとは支援者が道筋を立てて,問題を支援者側で対処し,本人を置いて行ってしまいがちだったと反省した
患者の思いを軽視していたことへの反省 今までは患者の思いを傾聴する意識はあったが,どこか「現実的ではない」と話半分に聞いていた
問題や症状ばかりに注目していたことへの自覚 ある程度の情報を得ると患者の苦手なことや問題点,症状にばかり焦点を当てて計画を立ててきたと反省した
指示・指導が主体であった看護実践への反省 「看護師と患者」における立場の違いから患者に対し指示的・指導的な言動をしていることが多かった
自身の看護観がリカバリー志向であったことの再確認 何もわからないうちに自分で行っていたことがリカバリー志向だったと気付かされた
学びを拡大しようとする意欲の向上 自己研鑽への意欲の向上 まだ知識が不足している部分が多いので今後も学習や研修に参加していきたい
他スタッフとの学びの共有へ向けた取り組み 他のスタッフへ周知や指導教育を行い,一緒に実践できるような環境づくりを行っていきたいと思う
病棟文化の変革への意気込み 病棟ではまだまだ問題志向が強いが,看護師間で学びを共有し,リカバリー志向が当たり前の病棟文化革命を起こしたい
患者への関心・期待の拡大 患者と対話する時間・機会の増加 以前より患者との会話が増え,本人自ら話しかけてくる,相談してくることが増えた
患者への関心・想いの拡大 患者をより知っていこうと思えるようになり,普段から関心があることを相手に伝えるようになった
患者への期待感の萌芽 「だめだ」と思っていたことが,本人も支援者も少し前向きに,期待を持てるようになった
患者の思いを尊重する姿勢へ 患者の発言を否定せず尊重する姿勢へ 傾聴する機会を以前よりも多く持つようになった.会話中否定しなくなったように思う
患者が主体であることを意識した会話の展開へ 患者の想いに重点を置いて対話することで,主体がどこにあるか意識しやすくなった
患者の思いや意見を汲み入れる機会の増加 治療の段階を問わず,本人の思いや意見を確認し,受け止める機会が増えた
患者の希望へ共に取り組む姿勢へ 患者の希望に関心をもって聞く姿勢へ 本人がしたいことや希望について,じっくりと関心を持って聞けるようになった
患者の失敗を恐れない姿勢へ ついつい手を差し伸べて失敗しないようにと支援をしていたが,本人には失敗する権利があると気付けた
患者と共同した計画立案への挑戦 患者さんと一緒に目標設定や支援計画を考え,それを基に看護ケアを実践していきたい
患者の可能性を信じながら共に取り組む姿勢へ その人の希望を共に実現していくためにも,その人の可能性を信じていきたいと思うようになった
リカバリー志向の看護実践の困難さによる停滞 患者に責任を持たせることの困難さを実感 管理責任の負う側の考えや苦い経験から入院患者に対して「責任を負わせるような行為」を避けてしまう.
保護的・管理的思考からの脱却することへの困難さを実感 病棟ではまだまだ保護的・管理的思考が強い.長期の患者は病院という居場所に慣れ,新しい目標を見出すことが困難だと思う
対象や家族からのネガティブな反応を体験 妄想等が激しすぎるとどんどん違う方向に進んでしまい,家族も巻き込まれたため,中止せざるを得なかった
急性期にある人への適応の困難さを実感 治療段階にある人(急性期)には問題解決思考の方が良いのではと思った.妄想を助長しているのでは?といった部分も感じた
リカバリー志向への変化の契機について 患者の変化を実感した体験 患者のリカバリーへ向かう変化を実感 願いを叶えるために行動するなど,本人が前向きな姿勢に変化していることが感じ取れた
患者との関係性の肯定的な変化 会話を広げるだけでなくそのテーマを基に互いに主張し合えるより良い関係性ができてきた
患者の表情や言動が活気あるものへと変化 目標に向けて計画を一緒に考える中で,本人の表情や言動が活気あるものへ変化したのを感じた
リカバリー志向で関わったことで症状が軽減・緩和した体験 本人が目標を決めたことによって,今まで起こっていた不穏状態の回数の減少・程度の低下があった
ピアサポーターのリカバリーに触れた体験 ピアサポーターの生の声が聞けた新鮮な体験 ピアサポーターの話を聞く機会は今までなかったのでとても貴重な経験になった
一人一人の人生の重さを再確認できた体験 ピアサポーターの話を聞いて一人一人の人生の重さを再確認できたこと
リカバリーは起こりえると実感できた体験 ピアサポーターの生き生きとした姿に,リカバリーは起こりえるんだと実感できた
リカバリー志向での看護実践の楽しさを実感 患者と夢や希望を語り合う時間の楽しさを体験 本人と看護師ともに夢や希望を語り合うことで,看護が楽しいと思えるようになった
患者の夢や希望に向けて共に取り組むことの楽しさを実感 夢や希望に向けて一緒に取り組むことが経験でき,支援する看護者側も面白さを感じるようになった
チームで患者の夢を共有することでの充実感の獲得 チーム一丸で本人の希望への応援団のようになれ,職種を超えた支援体制に充実感を得たこと
GSV(グループ・スーパービジョン)で刺激を受けた体験 GSVのグループメンバーとの協働意識 一つのケースをみんなで考え,様々な意見を出し合い,その後実際行ったことの評価など,協働できたこと
GSVで自身の看護観・看護実践を肯定された体験 他の病院の方々に自分の考えや取り組みについて,支持・肯定してもらえたことがうれしかった
GSVで悩みを表出・共有できた体験 GSVにて他施設のスタッフも同じような悩みや問題を抱えていることが理解できたこと
GSVで様々な意見・感性に触れた刺激 他の病院の方々と意見交換ができ,いろいろな感性に触れて刺激になった
GSVでの創造的な話し合い GSVを通して自分では思いつかなかったアイデアが様々な視点から生み出され,実践にも活かせたこと
ストレングス・マッピングシートの枠組みを用いた対話の経験 ツールを用いて患者とゆっくり対話するという貴重な体験 ツールを使うことで,心に余裕をもって対話を楽しむ貴重な経験となった
ツールを用いたことで患者の夢や希望を知れた経験 シートを使うことで,そんな風に思っていたのか,考えていたのかと,夢や希望を発見することが多々あった
ツールを用いての患者の持つ多様なストレングスの発見 その人らしさを見出す視点で対話したことで,目標や楽しみ,それまで培ってきた多様な強みを発見できたこと

1) 研修プログラム前後でのリカバリーに関する姿勢や態度の変化について

自由記載の質的分析では,リカバリーに関する姿勢や態度の変化について,6つのカテゴリー,22のコードが抽出された.

まず【これまでの看護実践の見つめ直し】については,これまでの支援態度について自覚し反省する記述と,逆にこれまで自信が持てずにいた[自身の看護観がリカバリー志向であったことの再確認]ができたという記述が含まれた.【学びを拡大しようとする意欲の向上】については,対象者自身のポジティブな変化を病棟スタッフへも拡大させたいという思いが記述に表れていた.【患者への関心・期待の拡大】については,対話の時間や機会の増加の他,患者を想う心情の変化も生じていた.【患者の思いを尊重する姿勢へ】については,患者への向き合い方の変化と,患者主体への対話にシフトしていったことが記述された.【患者の希望へ共に取り組む姿勢へ】については,患者の可能性を信じながら実践場面での共同が行われるようになった記述が得られた.【リカバリー志向の看護実践の困難さによる停滞】については,これまでの前向きな変化のカテゴリーと異なり,研修プログラムでの課題の実践や,その後の受け持ち患者とのかかわりの場面の中で,リカバリー志向でかかわることの限界を感じたことが抽出され,リカバリー志向を持てたとしても実践における変化の生じにくさが記述された.

2) リカバリー志向への変化の契機について

自由記載の質的分析では,リカバリー志向への変化の契機について,5つのカテゴリー,18のコードが抽出された.

まず【患者の変化を実感した体験】については,患者の思いを大切にすることを意識して対話を展開したことで,症状の軽減や緩和も含め患者の肯定的な変化が生じたという経験が対象者のリカバリー志向への変化の契機として記述された.【ピアサポーターのリカバリーに触れた体験】については,これまで話を聞く機会がなかったピアサポーターの生の声が聞けた体験が,どのような患者にもリカバリーが起こりうるものであることを実感させる大きな刺激となっていた.【リカバリー志向での看護実践の楽しさを実感】については,対象者が受け持ち患者との関わり合いの中で,それまでとは違うアプローチを心掛けたことで看護実践への楽しさが生まれたこと,その楽しさを自身だけでなくチームでも共有できたことがリカバリー志向への変化の契機として記述された.【GSV(グループ・スーパービジョン)で刺激を受けた体験】については,病院や病棟といった背景が異なる対象者同士が,GSVという形で事例検討する中で多様な刺激を受けつつ,共通した苦悩にねぎらい合いながら,ストレングスを見出すような創造的な話し合いが行えたことがポジティブな体験として刻まれ,リカバリー志向への変化の契機として記述された.【ストレングス・マッピングシートの枠組みを用いた対話の経験】については,これまでの対話の中で意識化できなかったことがツールを用いたことで新たな気付きとして呼び起こされ,リカバリー志向への変化へ機能していたことが記述された.

Ⅳ  考察

1. 精神科病棟看護師のリカバリー志向性の変化と研修プログラムの効果

本研究参加者にリカバリー志向を高める研修プログラムを実施した結果,リカバリーに関する知識と理解が深まり,リカバリーをより志向する方向への変化が生じたことが示唆された.RAQ-7とRKIについて特に効果量が大きかった因子をみるとRAQ-7の第1因子『リカバリーは可能であり,信念を必要とする』(r = 0.61)であった.リカバリー志向への変化の契機についての自由記述では【ピアサポーターのリカバリーに触れた経験】【患者の変化を実感した体験】といったカテゴリーが抽出されており,「たとえ精神の病気の症状があったとしても,リカバリーは起こり得る」という項目が知識としてだけではなく実体験を伴う理解に変化し,その人の可能性を信じ,その人の意思を尊重するといった支援態度の変化が起こったことが示唆された.ピアサポーターや受け持ち患者等のリカバリーを信じる気持ちが高まることで,【患者への関心・期待の拡大】【患者の思いを尊重する姿勢へ】【患者の希望へともに取り組む姿勢へ】といった患者への向き合い方や関係性の変化が生じ,患者を主体とした支援が実践されていくものと考える.

実際,ストレングス志向の支援態度評価尺度ではその実施度について合計得点,3つの下位因子それぞれが研修プログラム前後で有意な上昇と大きな効果量を示した.本研修プログラムの中では受け持ち患者等を対象に「ストレングス・マッピングシート」の枠組みを活用しながらの対話,さらにニーズに沿って「私の希望を実現するための計画」を患者と共に考え,患者が主体的に選択できるようにサポートする実践を課したが,この経験がストレングス志向の実施度の維持に繋がったと考える.このようにリカバリー志向を高める研修にはストレングスモデルの実践が体験学習できるような機会や体制づくりが必要と思われ,所属する職場等を実践のフィールドとして活用できるように調整することが求められる.

2. リカバリー志向の停滞が起こらないようにするための研修プログラムの課題

本研修プログラム後のリカバリーに関する姿勢や態度の変化の質的分析では【リカバリー志向の看護実践の困難さによる停滞】というカテゴリーが抽出され,精神科病棟にリカバリー志向が普及されていく中でも,実践したことで感じた困難や課題によってはリカバリー志向でかかわることの限界を感じてしまう可能性が示唆された.こうしたリカバリー志向の停滞が起こらないようするための研修プログラムの課題について以下に述べていく.

1) 継続的な事例検討の実施に向けて

【リカバリー志向の看護実践の困難さによる停滞】のカテゴリーの代表的な記述からは看護の実践の中で直面したためらい,戸惑い,行き詰まり,つまずき体験が示されたが,こうしたネガティブな体験をもちより,フォローできる体制や機会は継続的に必要であると考えられ,その中心を担うのは看護の現場の中で馴染み深い事例検討なのではないかと考える.外口(1981)は事例検討について「①看護実践を通して“成長”を遂げていくための方法,②実践行為としての看護の“かくされた構造”を明らかにしていくための方法,③自己の看護体験を積み重ねていくための方法」と述べている.本研究ではストレングスモデルのGSVによる事例検討を試み,研修プログラムの軸としたことで【GSVで刺激を受けた体験】がリカバリー志向への変化の契機の一つとして抽出された.多施設合同で行ったため,自分と異なる病棟文化に出会い,[様々な意見・感性に触れた刺激]から,自分たちの行為の判断の根拠をたどり,見直しや新たな視点を得るような「実践行為としての“かくされた構造”」が明らかになっていったこと,[悩みを表出・共有できた体験]や[自身の看護観・看護実践を肯定された体験]を通して自分の行なっていることの意味を自覚し「自己の看護体験を積み重ねて」いったこと,そして[グループメンバーとの協働意識]をもちながら[創造的な話し合い]ができ,それを活かした「看護実践を通して“成長”を遂げて」いったことがリカバリー志向への変化につながったのではないかと考える.

今回のGSVにおいてファシリテーターは研究者が務めたがファシリテーションの技法だけでなく,スーパーバイザーとして水平な関係性の中で創造的な会話が生まれるような工夫も必要(小澤,2015)であった.こうした技法や役割について整理し対象者に伝えておき,各所属先で継続して事例検討を行えるような体制づくりも必要であったと考える.

2) 病棟組織のリカバリー志向へのパラダイムシフトに向けて

【リカバリー志向の看護実践の困難さによる停滞】には[保護的・管理的思考から脱却することへの困難さを実感]したことがコードとして抽出された.本当の意味でリカバリー志向を実践していくには個々の専門職者の意識だけでなく,組織の風土もリスクマネジメントだけに偏らないように変えていくことが必要である(千葉ら,2018).ただし,従来型の方式での実践に愛着や誇りを持つ中堅からベテランといわれる層の看護者の中には,リカバリー志向のアプローチに抵抗を感じることもあると思われる.

中込ら(2019)は中堅看護師が「いきいき」働き続けるための要素として「看護の仕事を楽しむ」「成長に向けた主体的な学習行動」「やりがいをもって組織に参画」の3因子をあげている.本研修プログラムに参加した対象者は平均年齢39.1歳,精神科経験年数は平均12.7年と中堅の病棟看護師である.対象者たちは体験学習を通して,【これまでの看護実践の見つめ直し】を行い,患者の思いを軽視し看護師主導であったことや問題解決思考であったことから変容をしようする記述が得られた他,【学びを拡大しようとする意欲の向上】も認められ,[他スタッフとの学びの共有へ向けた取り組み],[病棟文化への変革への意気込み]といった組織を変革しようとする記述も抽出された.また,リカバリー志向への変化の契機については[チームで患者の夢を共有することでの充実感の獲得]といったコードをはじめ【リカバリー志向での看護実践の楽しさを実感】したことが抽出された.内的ワークモチベーションは良好なリカバリーの知識および姿勢に積極的に関与する可能性が示されており(Chiba et al., 2020),研修プログラムによって中堅看護師が「いきいき」働き続けるための要素が充足されたこともリカバリー志向への変容につながったと考えられる.

特に【リカバリー志向での看護実践の楽しさを実感】したことについては,「チーム一丸で患者の希望の応援団のようになれ,職種を越えた支援体制に充実感を得た」との記述があり,リカバリー志向の看護実践の「楽しさ」を組織へ波及させていったことが読み取れた.数日間の研修を体験して参加者やその組織の信念体系ががらりと変わることは稀であろうが,リカバリー志向の看護実践の「楽しさ」を共有することは可能と思われ,志向性や看護観の対立を招くことなく組織の中にリカバリー志向が浸透していきやすいのではないかと考える.リカバリーに関する研修においては,知識や技術の習得よりも,患者の夢や希望に可能性を抱き,実現すべく共に取り組もうとする態度の習得が求められ,そうした実践を通して支援者と組織が楽しさを共有し,エンパワーされるような機会を意図することが必要であると考える.

Ⅴ  本研究の限界と今後の課題

今回は対照群を設けず,研修プログラム前後の病棟看護師の態度や実践を評価した.研修プログラムのアウトカムは,精神保健サービスの利用者(本研究では入院患者)がリカバリーのプロセスを歩むことで評価されるべきである.特に【リカバリー志向の看護実践の困難さによる停滞】には[急性期にある人への適応の困難さを実感]というコードも抽出されているが,病期による適応の可否については利用者への質的調査が必要であると考える.今後は無作為化対照試験などの研究デザインを設ける他,アクションリサーチにて研修参加者の実際のサービスの変化の評価や,利用者による評価なども求められると考える.

Ⅵ  結論

本研修プログラムによって参加者はリカバリー志向の向上とストレングス志向の実施度の向上が認められた.ただし,臨床現場で生じた困難や課題によってはリカバリー志向の停滞が起こる可能性があり,困難や課題をフォローできる体制や機会は継続的に必要であると考える.

謝辞

本研究にご協力いただきました各施設の関係者の皆様,研修プログラムに参加し質問紙への回答・提出していただきました看護師の皆様に心から感謝申し上げます.なお,本研究は平成29年度科学研究費助成事業若手研究(B)の助成を受けた.本論文の内容の一部は日本精神保健看護学会第30回学術集会において発表した.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

著者資格

TTは研究の着想およびデザイン,研修プログラムの実施(第1回講師,全体の進行,ファシリテート),データ収集と分析,論文の作成を行った.MAは研修プログラムの実施(ファシリテート)とTWは研修プログラムの実施(第4回講師,ファシリテート),TOは研究プロセス全体への助言,質的分析へのチェック,スーパーバイズを行った.すべての著者が最終原稿を読み承認した.

文献
 
© 2023 Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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