Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Current Status and Challenges of Nursing Care for Drug Dependent Patients as Perceived by Nurses in Psychiatric Hospitals Without Specialized Dependency Care Units: Structuring the Content of Interviews With Nurses Using the KJ Method
Mayumi NabeshimaKazuko ShimamotoHiroki Tanoue
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2023 Volume 32 Issue 2 Pages 41-49

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Abstract

【目的】依存症治療専門病棟を持たない精神科病院の看護師が認識する薬物依存症患者への看護の現状と課題を明らかにする.

【方法】14名の看護師への半構造化インタビューを基に,認識・体験の再構築による質的記述的研究.

【結果及び考察】看護師は,薬物依存症患者の複雑な気持ち・個別性を尊重し自律性の回復に向けて,一人の患者「看護の対象者」として認識しているという,薬物依存症患者への向き合い方の本質が明らかになった.また,看護師は断薬による離脱症状や渇望期に襲ってくる症状と相まって,その苦しさや生きづらさを表現できない薬物依存症患者への対応の困難さの特殊性を強く認識していた.さらに,薬物依存症患者の退院後も多職種のネットワークを活用して〈面〉で支える必要性や,回復過程の複雑さに対して気長な教育的配慮を含めた支援の必要性や司法との連携などの課題が見いだされた.

Translated Abstract

OBJECTIVE: To clarify the current status and challenges of nursing care for drug-dependent patients as perceived by nurses in psychiatric hospitals that do not have specialized wards for addiction treatment.

METHOD: Based on semi-structured interviews with 14 nurses, we conducted a qualitative descriptive study using the KJ method. This method reconstructs information regarding participants’ perceptions and experiences derived from interviews as data, and qualitatively and descriptively structure the data itself.

RESULTS and DISCUSSION: Insights into the essence of how nurses face patients with drug dependence was revealed. Nurses respected the complex feelings and the individuality of patients with drug dependence, and they viewed them as patients—individuals receiving nursing care—trying to regain autonomy. Nurses were highly aware of the difficulties and unique challenges associated with caring for patients with drug dependence who have to deal with the withdrawal symptoms of drug abstinence combined with symptoms of cravings while being unable to express their pain or their difficulties in their lives. Issues such as the need to continue supporting discharged drug-dependent patients through the use of multifaceted interprofessional networks, the need for support that includes long-term educational considerations for addressing the complicated recovery process, and cooperation with the justice system, were identified.

Ⅰ  はじめに

2016年度より,薬物依存症の専門治療である依存症グループ療法が診療報酬化されることとなった.さらに,依存症対策全国センターでは,依存症治療を専門とする医療機関や支援施設の不足という背景がある中,相談・治療・支援施設へつながりやすいよう,国としての包括的な依存症対策が行われている(依存症対策全国センター,2017).これらの対策を踏まえ,厚生労働省は薬物依存症の専門医療機関や専門相談機関の未整備,薬物依存症に係る人材の不足,地域の様々な関係機関,自助グループ等民間団体との連携の不十分さ等,薬物依存症対策の課題を上げている(厚生労働省,2019).これらを裏付けるように,2021年3月末現在,薬物依存症専門医療機関を選定済みの自治体数は35都道府県,治療拠点機関選定済みは25都道府県にとどまっている(依存症対策全国センター,2021).この現状では,薬物依存症患者が回復を目指して依存症専門病院に通院する上で,時間的制約や経済的負担等が受診の妨げとなり,治療に繋がらず,支援が受けられないまま薬物の再使用となってしまうことが懸念される.

薬物依存症は精神障害の一つであり,医療や支援を必要とし,薬物事犯者であっても例外ではない.我が国における薬物犯罪の再犯防止や改善更生の対策において,2016年に刑法等の一部改正及び薬物使用の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予制度施行に伴い,刑事施設や保護観察所等では薬物事犯者に対する処遇や治療・支援の充実が図られている(法務省,2016).しかし,受刑中の覚醒剤事犯者を対象にした調査では,治療や回復支援を行う専門病院・保健機関・回復支援施設・自助グループなどの関係機関の過去の利用経験率は,いずれの機関においても1~2割程度にとどまっている.その理由として,「存在は知っていたが,支援を受けたことはない」と回答している(国立精神・神経医療研究センター・法務省法務総合研究所,2022).

前述の刑の一部執行猶予制度により,覚醒剤取締法違反による保護観察開始人員は,2010年以降は増加傾向にあり,2019年は5,127人(前年比0.2%増)であった.さらに覚醒剤取締法違反の出所受刑者の5年以内再犯率は,他の犯罪の出所受刑者と比べて高い(法務省,2020).つまり,薬物依存症は治療と支援により回復可能な疾患であるが,刑務所や保護観察所で薬物離脱指導を受けても,再犯により薬物依存症からの回復には至らない者も多い.これらのことから,専門医療機関以外の精神科病院でも適切な支援が提供されるようになることが望まれる.

青柳(2019)は,「依存症の特徴として,入院中の飲酒や薬物の使用も頻繁にあり,医療者は患者の回復を信じつつ,「症状」としての患者の行動に疑念を持って観察しているという矛盾・葛藤も抱えている」と述べている.さらに,訪問看護の現場では,薬物依存症は回復可能な対象と捉えているが,その実態や回復過程の理解が難しく,利用者に必要な支援が不明瞭であり,多くの支援者が困難を抱えていることが明らかになっている(渡邊・森田・中谷,2011松下ら,2016片山・塩月・松下,2019松下ら,2020).これらのことから,薬物依存症患者に有効な支援を提供するためには,薬物依存症患者への看護の現状と課題に関する看護師の認識を明らかにし,看護の質の向上させる方略を検討することが求められる.また,薬物依存症専門医療機関の整備されていない地域での看護師の語りを構造化することで,課題を明確化し,同様の地域における実践的示唆を提示することができると考える.そこで,本研究では,依存症治療専門病棟を持たない精神科病院の看護師の薬物依存症患者への看護の現状と課題を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ  用語の定義

本研究では,「薬物依存症患者」という用語を,「規制薬物等(指定薬物及び危険ドラッグを含む),向精神薬の乱用により,健全な社会生活に障害をきたしている者」を総称して使用する.アルコール・タバコ・カフェインの使用は含んでいない.

Ⅲ  研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,半構造化インタビューによる質的記述的研究である.支援の場面における個別の看護の体験や認識は,総合的な視野から再構築することで普遍的な状況・課題の提示が可能となる.そのため本研究では,薬物依存症患者への看護の現状と課題に対する看護師の認識を「データそのものから創造的に発想して統合する」ことで明らかにできるKJ法を用いた.KJ法は民族地理学者・川喜田二郎の創案による「渾沌をして語らしめる」方法であり,収集した情報を創造的に発想し統合することにより渾沌としたデータ群を構造化し,その本質をシンボリックに明らかにすることができる方法(川喜田,19901997a1997b)である.

2. 研究参加者

依存症治療専門病棟を持たない精神科病院の看護管理者に研究の趣旨を説明し,承諾を得て参加者を募った.事前調査で,薬物依存症患者が治療のため病院受診をする機会が少ないことから,半年以上精神科病棟に勤務し,一度でも薬物依存症患者への看護経験がある看護師を選定条件とし,年齢や性別は限定しなかっ‍た.

3. データ収集方法

データ収集は2017年4月に行った.データ収集は,研究参加者に対してインタビューガイドを用いて半構造化グループインタビューを実施した.グループインタビューのメリットとして,研究テーマの背景情報の把握や研究対象者のニーズや意見が明確になること,お互いに共通点があるために,グループ内の親和性が高まり,率直な発言や,相互作用による活発な意見の提示が可能になりやすいことが挙げられる.また,個別のインタビューと比較すると,比較的短時間で多数の意見が得られるという点を考慮しグループインタビューを採用した.インタビュー内容については参加者の許可を得てICレコーダーに録音した.事前調査での,看護師の薬物依存症患者に対しての認識やイメージ,援助で困っていることや限界,多職種連携の必要性等についての情報を元に作成したインタビューガイドを用いて半構造的グループインタビューを実施した.

1)薬物依存症に対する認識

2)薬物依存症患者に対してのイメージ

3)2でイメージした理由

4)薬物依存症患者に対して援助で困ったこと

5)病院内での関わりにおける援助の限界

6)限界を感じた時の院外の多職種との連携

7)多職種連携の課題

4. データ分析方法

録音したデータを逐語録におこし,「薬物依存症患者に対してのイメージ」と「イメージした理由」,「病院内での関わりにおける援助の限界」,「限界を感じた時の院外の他職種との連携」,「多職種連携の課題」に関する語りを抜き出して単位化し,意味内容を圧縮してラベルを作成した.そして,狭義のKJ法で統合し,構造を示して看護師の認識を明らかにした.KJ法は,広義のKJ法と狭義のKJ法に大別される.狭義のKJ法は,ラベル化したデータ群をグループ編成して図解化・叙述化する一連のプロセスを指し,広義のKJ法は,狭義のKJ法の前提としての取材の技法や,狭義のKJ法を累積的に活用する技法をも含む,この方法の技法全体を指す.

本研究では,逐語録の語りをラベル化した後,「多段ピックアップ」という技法で段階的に精選されたラベル群を,狭義のKJ法によってグループ編成した.多段ピックアップとは,テーマをめぐって取材された内容のラベル群の全体感(質のバラエティーやラベルの重複感)を吟味した上で,段階的にバランス良くラベルを精選する技法である.本研究においては,ラベル群の全体感を吟味した結果,バランス良くラベルを精選することで十分な精度の構造化が可能であると判断し,以下の手順で多段ピックアップを実施した.まずラベル化したデータを,全てのラベルをよく読んだ上で,研究テーマに対応しているラベルに印を1個つけて1回目のピックアップを行った.次に1回目の印付きのラベルだけを読み,より研究テーマに対応しているラベルに印を1個増やした(そのラベルには印が2個つく).その後も,同様のピックアップを繰り返し,目標枚数の2~3割増しまで近づけた.最後のピックアップでは,最も研究テーマに対応しているラベル1枚を丸で囲み,この作業を目標枚数(60枚程度)になるように繰り返し,精選したラベルを清書し「狭義のKJ法」の元ラベルとした.グループ編成では,ラベル群の全体感を背景としてラベルの質の近さを吟味し,セットとなるラベルと「一匹狼」と呼ばれるラベルを確定し,セットとなるラベルには「表札」と呼ばれる統合概念を与えた.このグループ編成による統合を,最終的に10束以内になるまで繰り返し,統合のプロセスと結果の構造が把握できるように図解化した.図解上では,統合されたラベル群は「島」となり,最終統合の各島には「シンボルマーク」と呼ばれる象徴的概念を与え,島同士を関係線で結び,図解タイトルを考案し,叙述化した.

研究の厳密性を確保するために,インタビュー内容から作成した逐語録は研究参加者にインタビューの実際と隔たりがないか確認を行った.なお,本研究でKJ法を活用するにあたっては,論文執筆前の準備として,KJ法の正規の研修機関において質的研究に必要な研修コースを受講し,更にグループKJ法についてもワークショップに複数回参加し,トレーニングの機会を持った.その上で,KJ法の実施手順の全過程においてKJ法を活用した研究実績を有する教育研究者のスーパービジョンを受けた.

5. 倫理的配慮

本研究は,宮崎大学医の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:O-0797-1).その上で,研究協力施設に対する研究依頼は研究参加者の所属長に研究の趣旨を説明し研究実施の承諾を得て実施した.

研究参加者に対して,研究への協力は研究参加者の自由意思によるものであること,拒否により不利益は生じないこと,また,研究の途中の同意撤回した場合にも不利益は生じないこと,さらに個人情報の保護について文書と口頭で説明し承諾を得た.

Ⅳ  結果

1. 研究参加者の概要

本研究では,半年以上の精神科病棟勤務経験があり,一度でも薬物依存症患者への看護経験をもつ看護師14名(男性7名,女性7名)が参加した.すべての看護師が同じ精神科病院に勤務していた.平均年齢は39.3歳(20代1名,30代4名,40代4名,50代5名),臨床の平均経験年数は19.9年(30年以上3名,20年以上4名,10年以上5 名,2年以上2名),精神科病院の平均経験年数は9.5年(20年以上1名,10年以上7名,1年以上6名)であった.1グループ3~4名で,1回のインタビュー時間は28分から45分であった.

2. KJ法による構造化

逐語録から抽出したラベルは181枚であった.多段ピックアップによって精選した60枚を元ラベルとして狭義のKJ法を実施した結果は図1のように示された.内容の叙述化においては,シンボルマークを【 】,ラベルの一部を「 」,グループ編成第1段階の表札を〈 〉,グループ編成第2段階の表札を《 》として示した.図の中で,文章末尾に①があるものは第1段階の統合における表札,②は第2段階における表札,統合の過程で他のラベルとセットにならないラベル(一匹狼)は●印で示した.●は第1段階のラベル集めにおける一匹狼,●●は第2段階のラベル集めにおける一匹狼である.

図1

KJ法を用いた看護師へのインタビュー内容の構造化(2段階目以降の統合のみを示した略図)

3. 狭義のKJ法図解の全体像と各島の詳細

インタビュー内容は,KJ法により図1のように示された.

看護師は,薬物依存症の患者という特殊性はあっても一人の患者,【看護の対象者】として認識していた.しかし,看護師は,薬物依存症患者が,これまで生きてきた環境の中で【満たされない心】を抱えて依存症となったことを洞察しつつも,他の依存症患者と比べて【患者理解の難しさ】があると感じていた.また,看護師は,薬物依存症患者が【激しい離脱症状】に苦しみ,依存から抜け出したくても【理性が効かない】ため,【薬物入手に知恵を絞る】といった特徴を持つ点に支援の難しさを感じていた.さらに,薬物の【入手・使用のハードルの低さ】という患者を取り巻く社会環境と,患者本人の意識の安易さがありながら,薬物依存症の患者の外来受診や入院患者の減少により【看護経験が少ない】状況に,看護師は困惑していた.このような薬物依存症患者を取り巻く状況の特殊性は,【患者理解の難しさ】を促進し,看護師に葛藤を生じさせていた.そのため,薬物依存症患者が回復し続けるには,退院後も地域・多職種のネットワークといった【〈面〉で支える必要性】や【気長な教育的配慮の必要性】が課題であると認識していた(図1).

各島の詳細を以下に記述する.

1) 【看護の対象者】

〈薬物依存という限定はあるが,アディクション患者であり,精神障害者の一人である〉との認識があり,「入院中に薬物を使用しない状況では,他の依存症の患者と変わりない」との語りもあった.以上から,《薬物依存症の患者という特殊性はあっても,一人の患者として認識している》ことが導き出された.

2) 【満たされない心】

「薬物に手を出した人も幼児期,小児期,子どものころは薬物のことは何も知らない」まま育ち,「環境や生活史の問題が大きく関連している」という語りから,〈環境や生活次第で薬物依存への道が決まってしまう〉と看護師は認識していた.また,薬物使用の理由については,〈薬物で欠如感を埋めたいという切実さに基づいている〉と看護師は捉えていた.さらに,心のあり方については,〈自分の中にも外にも拠り所がない人たちである〉と認識していた.以上から,看護師は,薬物依存症患者を《生きてきた環境の中で,空虚感を抱え込まざるを得なかった人たちである》と認識していることが導き出された.

3) 【患者理解の難しさ】

「どれだけ薬物が欲しいのか気持ちが理解できない」「離脱症状が激しい」「気分の波が激しく離院した」など,〈他の依存症と比べて症状の激しさの理解が難しい〉と看護師は認識していた.また,「水面下の問題がうまく伝わってこない」「基本的な知識の指導しかできない」など,〈本質や関りの手応えがなく,無力感がある〉と看護師は認識していた.これらから,《支援において患者の本質や症状の理解に難しさを感じる》と看護師は認識していることが導き出された.

4) 【激しい離脱症状】

「渇望期が強い」「離脱症状の深さが違う」「入院して2週間から1か月で薬物を使いたくなってしまう」という語りにより〈他の依存症に比べ離脱症状の激しさが特徴的である〉との認識が導き出された.

5) 【理性が効かない】

「理性と反して体が欲していく症状に苛まれる」「やめると言いつつやめられなくてやり続けてしまっている」といった語りから,〈体が依存して蝕まれていくのを理性で止められない患者である〉と看護師は認識していた.以上から,薬物依存症患者を《薬物依存症から抜け出したくても,理性で歯止めが効かない難しさがある》と看護師が認識していることが導き出された.

6) 【薬物入手に知恵を絞る】

「理性や常識がある」「飲み過ぎた処方薬を補うために他の医療機関を利用していた」など,〈処方薬を入手するために医療機関を利用するなど,理性的に工夫をこらす患者である〉,「許可を取って外出・外泊をしても理由をつけて帰院しない」などから,《薬物依存症の患者は薬物入手のためにあらゆる知恵を絞る》と看護師は認識していた.

7) 【入手・使用のハードルの低さ】

入院中や退院後の薬物使用について,〈すぐに薬物を入手してしまう厄介さがある〉との認識を看護師は持っていた.また,〈体への悪影響や犯罪であるとの認識が弱く,安易に使い始める〉と捉えていた.さらに,「薬物を使いたい,帰りたいために嘘をつくのがうまい」「アルコール飲用はチェッカーがあるが,薬物は診断基準がなく,確認が難しい」と語ったように,〈薬物使用の有無を心理的にも,物質的にも見極めにくい〉と認識していた.そして「違法であることを理解させ難い」「簡単に薬物に手を出せる世の中」などから,看護師は《患者本人にも社会にも薬物の入手・使用を安易にしてしまう甘さがある》と認識していることが導き出され‍た.

8) 【看護経験が少ない】

「最近は外来を受診する人がいない」「覚醒剤,危険ドラッグ,大麻などの入院患者が少なく,看護の経験が乏しい」など〈薬物依存症患者の看護の経験が少なく困っている〉と認識していることが導き出された.

9) 【「面」で支える必要性】

「地域を巻き込んでの関りや支えるような経験」「薬物依存症の患者の退院支援」の乏しさや「病院から行政への連絡は敷居が高い」など,〈退院後の支援につなぐ経験が乏しい〉という認識を看護師は持っていた.また,「訪問看護を利用し,継続的な支援を受けている」「退院後のことを考えて支援する」「病院の役割は解毒してダルクにつなげるのが一番」「退院し,家族の協力と外来のサポートを受けている」など〈退院を見据えた支援が重要である〉という認識があった.さらに,「ネットワークがあれば薬物の使用を防げる」「ネットワークが今のところできていないので,国として動いてもらうしかない」など,〈ネットワークが必要であるが機能していない〉という認識を持っていた.回復については,〈周りの支援がないと独力での回復は困難である〉と認識していた.その他,「厚生労働省や行政機関の連携ができていれば薬物依存症に走らない」「具体的な包括支援システムの利用方法が分からない現状」など,〈本人と社会資源をつなぐような連携が機能していない〉という認識を持っていた.以上から,《独力では回復は難しい疾患なので,退院後の支援には地域・多職種のネットワークが必要である》との課題があることが導き出された.

10) 【気長な教育的配慮の必要性】

「長い目,長いスパンで支援を続ける必要性に気づかせる」「自立心,競争心,現実感など共同生活の中で学ぶことが大切である」などから,〈教育的な配慮のある支援が必要である〉との課題を看護師は認識していた.

Ⅴ  考察

KJ法による分析結果を踏まえ,1)看護師の薬物依存症患者への向かい合い方の本質,2)薬物依存症患者特有の症状の表れ方と対応の困難さ,3)支援に必要な連携面の課題の3つの観点から考察を加える.

1)看護師の薬物依存症患者への向かい合い方の本質

看護師は,薬物依存症患者の育った環境や生活史の問題がその人間形成に大きく関連していると認識し,さらに,薬物依存症患者という特殊性はあっても,一人の患者と認識していた.これは,依存症患者の基には,「自己評価が低く自信が持てない」「人を信じられない」「見捨てられ不安が強い」「孤独である」「自分を大切にできない」と述べている対人関係障害の特徴(成瀬,2010)と類似している.看護師のアセスメントにおいて,育ってきた環境や対人関係障害などの特徴を重視することが必要であると考える.また,看護師は,薬物依存症患者の看護経験が少なく,支援において患者の本質や症状の理解に難しさを感じながら「看護の対象者」として認識していることが明らかになった.治療プログラムでは,入院直後の過剰適応の時期が過ぎ,不適切な生活習慣に戻りたい気持ちやプログラムへの取り組みへの動機が低下する時期がある(近藤・和田,2007).また,入院前から続く不信感や無力感や抑うつ感は治療によっても軽減されず,積極的に助けを求めることもできない.つまり,薬物依存症患者への看護の質を高めるには,逆境体験によって基本的信頼関係が損なわれ,根深い不信感や対人関係障害から生きづらさを抱えて揺れ動く苦しみを持っている「一人の患者」として理解した上で寄り添うことが求められる.そのため,入院の初期から薬物依存症患者に対する様々な葛藤があっても,「看護の対象者」として捉える専門的視点が必要であると考える.

2)薬物依存症患者特有の症状の表れ方と対応の困難さ

薬物依存症患者が,激しい離脱症状に苦しみながらも,満たされない心を埋めるために,あらゆる手段を使って薬物を手に入れる様子から,薬物依存症患者に対する理解の困難さに直面している,と看護師は認識していた.これは,Khantzian, & Albanese(2013)の「人が依存性物質を使用し,それに依存してしまうのは,その物質がもつ,耐えがたい心理的苦痛や苦悩を監査する効果に起因している」と述べている自己治療説に類似している.また,薬物依存症患者は,逆境的体験や薬物依存の重症度も合わさって,意欲面,情動面,道徳面などの変化により,人間関係の不安定さがある.そのため,看護師は,薬物依存症患者に対して,理解の困難さに直面しているという認識を持つことが考えられる.一方で,看護師は,看護経験の少なさから看護の限界や無力に気づき,無力感を持ちながら援助を行っていることが明らかになった.Johansson, & Wiklund-Gustin(2016)は物質使用障害患者への看護経験について,「患者に操作されないように警戒し,その警戒が患者や同僚に伝わるのを避け,自分の脆弱性を守るために自分の感情にも警戒をするなど,多面的な警戒によって特徴づけられる」と導き出している.この警戒心は,看護師が薬物依存症患者に対する理解の困難さに直面し,看護経験の少なさから看護の限界や無力感を持つ中で増強される.このような無力感や警戒心を軽減するためには,看護師同士が安心して「語り合える居場所」が必要であると考える.薬物依存症患者に対して警戒心を持つことに,看護師が罪悪感を持つことなく,率直に話し合える環境があると,前向きな患者へのケアの姿勢を維持することが可能になると考える.

また,薬物依存症は慢性疾患であり,治療の主体は薬物依存症患者自身であることから,治療からの脱落を防ぐためには良好な治療関係に基づく看護が必要である.看護師が,「一人の人」として関心を向け,注意を集中し,専心することにより患者の経験する世界に入り,患者と経験を共有し,同一化することで患者を理解する(牧野・比嘉,2019)ためには,当事者参加型の教育が有効である(Hawsawi et al., 2021).さらに,看護師が,回復への可能性に向けて質の高い看護を追求することができるようになるためには,薬物依存症への専門的知識を深め,薬物依存症患者の回復に向けた強い意思の継続が求められる.そのため,依存症病棟スタッフの心得(成瀬,2010)にあるように,対人技能を向上させることやノーマライゼーションを念頭に,患者の行動変容を促す関わりが必要であると考え‍る.

3)支援に必要な連携面の課題

看護師は,退院後の薬物依存症患者が回復し続けるためには,生活状況や回復段階に応じた継続的で個別性に応じた多職種による支援の必要性を認識していた.しかし,地域の多職種とのネットワーク構築に必要な薬物依存症問題の現状や課題などの情報共有の準備段階には至っていない.その一つの要因には,インタビューの結果からも,看護師は,面で支える必要性を感じながらも,「退院後の支援につなぐ経験が乏しい」と認識していた.また,医療機関の窓口として精神保健福祉士や社会福祉士等が退院に向けた調整や他機関からの相談や連絡の役割を担い,「ネットワークが必要であるが機能していない」と認識し,看護師が地域の多職種と直接連携をとる機会がないことがあげられた.

依存症治療専門病院におけるアルコール依存症患者の退院に向けた地域 連携支援では,看護師自身が地域とつながる活動や患者を地域へつなぐための活動をして,回復段階に沿った看護が行われている(足立・渡井,2020).しかし,依存症対策による専門医療機関の未整備の現状から,依存症治療専門病院以外でも,薬物依存症患者にとって最も身近な存在である看護師の地域支援活動は必要である.つまり,看護師が,彼らの回復にむけての生きづらさや回復過程の複雑さを多職種と情報共有するためのネットワークの構築や連携に参加することは重要である.

若狭ら(2003)は,薬物依存症患者を看護する上で,患者の処遇について司法との関係が理解しにくいと述べている.今後は,刑の一部執行猶予制度によって保護観察中の薬物依存症患者の入院も考えられることから,看護と連携のなかった司法の中の保護観察官や保護司の職種の違いや本人が守るべき特別遵守事項など支援対象者の社会的制約についての理解も必要となる.協働的な連携をめざすには,専門の垣根を越えてそれぞれの視点の違いを活かし患者を中心とした共通の目標をもつことが必要である.複雑な社会的背景をもつ薬物依存症患者が回復に向けて歩みだす時に,多職種連携の支援の輪の中に取り組まれることにより,孤立せず居場所が確保でき安心して治療に向かい合うことができる.また,様々な支援者の気長な教育的配慮のある関わりにより,信頼関係を築きながら支えられている実感をもつことができ,ひいては治療効果を高め再犯防止にもつながると考える.

Ⅵ  本研究の限界と課題

本研究では一施設によるデータ収集のみでデータの偏りが懸念され,施設内での人間関係によっても影響を受けることが考えられる.また,看護師の認識は,環境(病院文化)の影響も大きいため,今後は,一施設だけでなく他施設や専門機関のある地域の看護師への実態を調査し把握する必要がある.また,本研究では,一施設でのグループインタビューであり,グループ力動に影響を受けることを考えると,グループ内の発言が多い研究参加者に引きずられて意見が偏りやすく,データの偏りが懸念されることが考えられ,一般化することはできない.今後は,他人に意見を左右されずに,個々人の体験を詳細に深堀できる個別インタビューの調査も必要である.

Ⅶ  結語

看護師は,薬物依存症患者の複雑な気持ち・個別性を尊重し自律性の回復に向けて,一人の患者「看護の対象者」として認識しているという,薬物依存症患者への向き合い方の本質が明らかになった.また,看護師は断薬による離脱症状や渇望期に襲ってくる症状と相まって,その苦しさや生きづらさを表現できない薬物依存症患者の対応の困難さの特殊性を強く認識していた.さらに,薬物依存症患者の退院後も多職種のネットワークを活用して「面」で支える必要性や,回復過程の複雑さに対して気長な教育的配慮を含めた支援の必要性や司法との連携などの課題があると認識してい‍た.

謝辞

本研究にご協力を頂きました精神科病院の看護師の皆様,KJ法についてご指導を頂きました霧芯館主宰川喜田晶子氏に深く感謝申し上げます.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

著者資格

NMは研究の着想から最終原稿作成に至るまで,研究のプロセス全般を遂行した.TH,SKは研究デザイン,データ最終原稿作成までの研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が研究計画書から論文の初稿,改定原稿,最終原稿に至るすべての原稿を読み,承認した.

文献
 
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