Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
Online ISSN : 2432-101X
Print ISSN : 0918-0621
ISSN-L : 0918-0621
Original Articles
The Process of Nursing Students’ Embeddedness of the Strengths Model in Mental Health Nursing Practicums
Miho KatayamaRitsuko AijoKazuyo Kitaoka
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 32 Issue 2 Pages 32-40

Details
Abstract

目的:看護実習において学生がストレングスモデルを自身の看護に取り入れるプロセスを明らかにする.

方法:ストレングスモデルを適用した実習を行った学生16名を対象に半構造化面接を行った.分析はグラウンデット・セオリー法を用いた.

結果:学生は《ストレングスに着目》していた.そこから様々なプロセスを経て《リスクや問題の解決》あるいは《夢やしたいことに添う》に至っていた.《夢やしたいことに添う》に至るプロセスにおいて【当事者の夢の実現可能性】が中核概念であった.また,学生自身の《ストレングス承認の体験》が【当事者の夢の実現可能性】に向かうプロセスに影響していた.

考察:ストレングス・マッピングシートの活用と教員によるストレングスモデルを土台とした教育的関わりにより“people come first”の当事者理解とリカバリーを促進する医療者を育成できる可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: To elucidate the process by which nursing students’ embeddedness of the Strengths Model in the context of mental health nursing practicums.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 16 students who took part in practical training that involved using the Strengths Mapping Sheet. Analysis was performed based on the Grounded Theory Approach.

Results: Students focused on strengths and deploying those strengths in their nursing practicums. Through various processes, they arrived either at the resolution of risks and problems or supporting patients’ dreams and desires. In the process that led students toward supporting patients’ dreams and desires, the “feasibility of patients’ dreams” emerged as the core concept. Additionally, students’ own experience of recognizing their strengths influenced the process that led to understanding the “feasibility of patients’ dreams.”

Discussion: Use of the Strengths Mapping Sheet together with educators’ pedagogical engagement based on the Strengths Model suggested the potential to cultivate healthcare professionals who promote patient understanding and recovery through a “people come first” approach.

Ⅰ  はじめに

ストレングスモデルは,1990年代にチャールズ・A・ラップらによって提唱された障がい者への支援技法(Rapp, & Goscha, 2011)である.誰もが持っている「問題と付き合っていく力」を信じ,当事者自身がなりたい姿に向かっていく「希望」を支援するモデルである(Rapp, & Sullivan, 2014).社会福祉分野で注目され,地域精神保健分野においてより発展してきた.重度の精神疾患を有する人々の入院の減少や症状の軽快,社会的機能の改善(Rapp, & Wintersteen, 1989Macias et al., 1994Fukui et al., 2012)が認められている.このモデルは,当事者の「ストレングス=つよみ」に焦点を当て,それを活用して当事者の夢やなりたい姿の達成を目指している.当事者を一人の人間として位置づけ,互いに尊重するパートナーシップに基づいて目標に向かうことを支援の在り方とする理論を枠組みとしている(Rapp, 1993).このモデルは単なる理念にとどまらず,30年余の時間を得て洗練され,実践理論や厳格な実践手法が形成されており(Rapp, & Goscha, 2011),臨床的効果についての報告(Barry et al., 2003)がある.

看護教育においては当事者が抱える「健康問題」を抽出する問題解決モデルを取り入れた教育が主流である(Rapp, & Goscha, 1997/2014).患者の対処能力の欠如や社会資源活用不能な状況に注目し,問題点を抽出し,解決のための対策を計画し,実践することを看護の役割とする考え方である.そこでの問題解決の主体は看護師にあり,入院施設内での看護においては有効な支援モデルである.しかし,精神に障がいをもつ人々の退院を促進し,地域生活への支援を基本にしようとしている国の方針転換の法律改正(厚生労働省,2022)が進んでいる今,問題解決モデルを主に活用している看護師とストレングスモデルに注目している当事者や福祉領域の専門家との間にズレが生じている可能性がある(萱間,2016).看護師は医療の場における専門職者として,問題解決モデルを用いた支援を放棄することはできない.その一方で,地域を生きる場とする当事者のパーソナル・リカバリーをともにめざすチームの一員として,看護師もストレングスモデルを活用した支援の在り方を理解し導入していくことが求められていると考える.そのために,ストレングスモデルを活用した教育を授け,地域において当事者と伴走することができる看護師の養成は必要である(Graham et al., 2020).海外においても,ストレングスモデルを実践の場において適用している,あるいは適用を試みているという報告はある(Bitter et al., 2019Chang et al., 2021Durbin et al., 2022).しかし,このモデルを適用した看護学生を対象とした報告は見当たらない.日本においては,萱間(2016)がストレングスモデルを活用するためにストレングス・マッピングシート(以下,ストレングスシート)という当事者のストレングスに関わる情報を収集しアセスメントできるものを看護学生のために開発している.そのシートを病棟看護師が用いて実習生と共有しているという実践報告(佐藤,2018),学生が実習に使用しているシートは病棟看護師の患者に対する認識を変化させたのかを検討した報告(林ら,2022),モデルを実習に適応させるための検討報告(林ら,2019)があるのみである.萱間もシートを用いた先駆的な学生教育を行っているが,その効果は検討していない.我々は2019年以降,ストレングスモデルを学生に教授し,萱間のストレングスシートを用いて学生に実習を行わせている.

Ⅱ  目的

看護実習において学生がストレングスモデルを自身の看護に取り入れるプロセスを明らかにする.

Ⅲ  方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザインとし,研究方法はGrounded Theory Approach(以下GTA)(Glaser, & Strauss, 1967/1996)を用いた.

2. 研究参加者

看護師養成課程において,ストレングスモデルを活用した看護実習を実施している養成施設の看護学生を対象とした.参加者は公立の複合大学1校の看護学科4年次生16名で,男性2名,女性14名,社会人経験者は男性1名であった.

参加者は2年次に履修する精神保健看護学科目の中でストレングスモデルを学修し,2年次及び3年次に地域で生活している当事者を対象とした看護実習を履修した.それらの実習の中で当事者のストレングスをアセスメントするストレングスシート(萱間,2016)を使用していた.ただし,本参加者は文部科学省及び厚生労働省の通達により,2年次における実習は対面の実習であったが,3年次では新型コロナウイルス感染症感染拡大のため,実習は遠隔での実施となり,当事者とはモニター越しにコミュニケーションをとった.なお,研究参加大学において支援モデルとしてストレングスモデルを用いているのは精神保健看護学領域のみであった.

3. データ収集および分析方法

データ収集期間は2021年10月の1か月間であった.卒業研究以外の全ての成績評価が出ている4年次後期に面接を行った.面接は4人グループの集団にて,半構造化面接法を用いた.実習中のことを思い出しやすいように,ストレングスシートを閲覧する時間を設けた後,面接を行った.面接では実習当時を振り返り,実習記録であるストレングスシート使用することで起こった出来事,およびその時の思いと行動,ストレングスモデルについて感じた思いとその後の行動について自由に語ってもらった.面接は1時間程度で1回実施した.面接の日時や場所等は参加者の希望に応じ,研究者の所属機関にある個室で行った.研究参加者の承諾が得られた場合はICレコーダーに録音した.

分析はGTA(戈木,2016)の手順に厳密に従った.手順は次のとおりであった.a)データを読み込み,一内容ごとに切片データにした.b)切片データごとにプロパティ(切り口や視点)とディメンション(プロパティからみた時の位置づけ)を抽出しそれらをもとにラベル名をつけ,さらにカテゴリーにまとめた.c)データの中に複数存在する現象を整理するためにカテゴリーを状況,行為/相互行為,帰結に分類した.d)理論的比較をもとに次のデータを収集,分析し,他のデータとの統合を繰り返し,現象の中心となるカテゴリーを選び【中核カテゴリー】,他を《サブカテゴリー》にしたカテゴリー関連統合図を作成し,現象を説明するストーリーラインを述べた.

ストレングスモデルで看護実習を行った1学年の学生のみを研究参加者とするという制約があり理論的サンプリングはできなかった.データの信憑性を高めるために前述の研究参加者の選抜プロセスを実施した.また分析の真実味を確保するためにGTAの研修を受けるとともに,質的研究に精通した複数の研究者のスーパーバイズを受け,分析の妥当性を確認した.

4. 倫理的配慮

研究参加者には文書と口頭で研究の趣旨等を説明し,研究協力は自由意思であること,研究参加中や参加後であってもいつでも参加の拒否ができること,拒否した場合でも一切の不利益をこうむらないこと,面接内容が研究参加者の学業成績等への影響がないことを保障し,同意文書を得た.本研究は公立小松大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号:2104-2)を受けて行った.

Ⅳ  結果

看護学生がストレングスモデルを自身の看護に取り入れるプロセスの中で生じている現象および現象に関連する概念を抽出した.関連する中核カテゴリーは1つ,サブカテゴリーは6つであった.これらをプロパティとディメンションを用いて関連付け,カテゴリー関連統合図を作成した(図1).以下,ストーリーラインおよび,中核カテゴリーとサブカテゴリーを説明する.なお,中核カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは《 》,各参加者のデータから抽出したカテゴリーは〈 〉,プロパティは『 』,ディメンションは斜体,参加者の語りを「 」で示し最後に参加者IDを付けた.

図1

【当事者の夢の実現可能性】という現象に関わるカテゴリー関連統合図

1. ストーリーライン:当事者の夢の実現可能性(図1

学生は《ストレングスに着目》して,看護を展開しようとしていた.そこから様々なプロセスを経て《リスクや問題の解決》あるいは《夢やしたいことに添う》のいずれかの帰結に至っていた.そして再び《ストレングスに着目》した看護を展開する循環が見られた.今回,《リスクや問題の解決》に至る3プロセス,《夢やしたいことに添う》に至る2プロセスが認められた.学生が《夢やしたいことに添う》に至るプロセスにおいて【当事者の夢の実現可能性】が中核概念であった.また,《ストレングス承認の体験》は【当事者の夢の実現可能性】に向かうプロセスに関連していた.以下,2つの帰結に至るプロセスを説明する.

1) 帰結《リスクや問題の解決》に至るプロセス

プロセス1)-1:学生は『ストレングスモデルの学びの機会』を得て,《ストレングスに着目》して当事者支援を行っていた.しかし,ストレングスモデルの『意義や活用法の理解度』が低く,『ストレングスシートの活用方法』を情報収集と捉え,当事者の『ストレングス発見の実感』が無い場合,『当事者の捉え方』は精神疾患患者であり,『活用する支援モデル』は問題解決モデルのまま,《リスクや問題解決》に至っていた.

プロセス1)-2:学生は《ストレングスに着目》して当事者支援を行っていた.ストレングスモデルの『意義や活用法の理解度』が高く,『ストレングスシートの使い心地』が良く,『ストレングスシートの活用方法』を会話のきっかけと捉えて会話していた場合,《当事者のストレングスを実感》していた.しかし『当事者のストレングスの認知』が有りながらも,『当事者に意識したこと』が病気の状態や症状で,『見えてきたこと』が当事者の問題点や悪い面であった場合,症状や問題の解決,治療の継続を『ケアの目標』とする《リスクや問題の解決》に至っていた.

プロセス1)-3:学生は《ストレングスに着目》した支援で《当事者のストレングスを実感》していた.この時,『当事者とストレングスシートの共有』が有り,『ストレングスを知る人』が当事者と学生で,夢やしたいことに気づき,これからのことを考える『当事者の変化』から『当事者の捉え方』が夢ややりたいことを持つ人となった場合,【当事者の夢の実現可能性】を感じていた.しかし,『夢の実現可能性を感じている人』が学生だけで,医療者が『当事者の夢を実現させる人』と捉えた場合,《当事者と医療者のゴール》に繋がっていた.この時,『ゴールを考える人』は医療者で,『ゴールのために目指すこと』は当事者のできないことの解決で,『伝える情報の内容』は当事者に知ってほしいことで,『情報の伝達方法』は,説明,説得,提示となり,『当事者と医療者のゴールの一致』が無い方が多い場合,《リスクや問題の解決》に至っていた.

2) 帰結《夢やしたいことに添う》に至るプロセス

プロセス2)-1:学生は《ストレングスに着目》した支援で《当事者のストレングスを実感》し,【当事者の夢の実現可能性】を感じていた.しかし,感じる『当事者の夢の実現可能性度』が低く,『夢の実現可能性を感じている人』が学生だけで,当事者には導きが必要と考えた場合,《当事者と医療者のゴール》に繋がっていた.ここで,『ゴールを考える人』は当事者で,『ゴールのために目指すこと』はできることの模索で,『伝える情報の内容』は当事者が知りたいことで,『情報の伝達方法』は,解説,説明,提案で,『当事者と医療者のゴールの一致』が有り,『当事者の捉え方』が支援が有ればできる人,としていた場合,夢やしたいことの実現を『ケアの目標』にする,《夢やしたいことに添う》に至っていた.

プロセス2)-2:学生は《ストレングスに着目》した支援で《当事者のストレングスを実感》し,【当事者の夢の実現可能性】を感じていた.『当事者の夢の実現可能性度』が高く,『夢の実現可能性を感じている人』が当事者と学生で,当事者が夢の実現のために行動を起こし当時者こそが『当事者の夢を実現させる人』とし,『当事者の捉え方』が自己決定できる人生を決められる,となった場合,《夢やしたいことに添う》に至っていた.この場合,『活用する支援モデル』はストレングスモデルと問題解決モデルで,『医療者の立場』は一緒に考えて行動,協力者,伴走者であった.

3) 《ストレングス承認の体験》の関連

《ストレングス承認の体験》は,《当事者のストレングスを実感》において,【当事者の夢の実現可能性】に向かうディメンションを強化していた.学生は,教員や当事者から,学生自身の『ストレングスを伝えられた体験』を有し,その時に嬉しい,頑張ろうと思えている.学生自身『自分のストレングスの新発見』の経験から,当事者の見方や対応の変化,自分自身の成長を実感していた.『ストレングスを伝える経験』『ストレングスを伝えられた経験』は医療者も当事者もお互いにポジティブな気持ちになり,当時者を応援したいとなっていた.

2. 中核カテゴリーと6サブカテゴリー

【当事者の夢の実現可能性】:これが中核カテゴリーであった.3カテゴリー〈夢の実現の可能性を感じる〉,〈当事者の夢や興味・関心をもっと知りたい〉,〈ストレングスシートから当事者がわかる〉から構成されてい‍た.

「患者さんも初めはこんな夢だったけど,だんだん治療とか続けていくうちに,もっとこれもやりたいとかっていう思いが広がって,結構,夢の実現の可能性が残されてることが,患者さんにとってもいいなって思います.[2D-7]」

「ストレングスシートを初めて書いたとき,ほんとに失礼なんですけど,当事者さんはネガティブなことばかり考えてる人ってイメージがあったんですけど,なんだか夢を聞いたら,ちゃんと夢を持っているっていうことに気付いて,ああ同じ,(自分と)同じなんだなって.[2A-19]」

《ストレングスに着目》:8カテゴリー〈ストレングスシートの特徴や書き方を知る〉,〈ストレングスシートを介してのコミュニケーション〉,〈ストレングスモデルの考え方を学ぶ〉,〈会話の着目点はストレングス〉,〈ストレングスの発掘〉,〈当事者へのアプローチが異なる〉,〈ストレングスシートは会話のきっかけ〉,〈ストレングスを見つけるためのストレングスシート〉から構成されていた.

「ストレングスシートがあると私のしたいこと,夢っていうのが一個,バーンって決まっていて,だから話していても,話の着目できるところが分かるなって思いました.[3D-6]」

《当事者のストレングスを実感》:3カテゴリー〈ストレングスシートでストレングスを意識する〉,〈当事者のストレングスを強く実感〉,〈当事者をストレングスで呼んだ〉から構成されていた.

「ちゃんと,そのネガティブなことばっかりじゃなくて,夢,考え,将来のこととか興味持ってることとかやりたいことがあって,すごいなんか,このストレングスシート書いていて気付けたっていうの,ほんとあります.[2A-20]」

《当事者と医療者のゴール》:4カテゴリー〈当事者に提供する情報の内容〉,〈当事者の人生だから当事者の思いを確認〉,〈ストレングスモデルは当事者と医療者のゴールが一緒〉,〈考え方がポジティブに変化〉から構成されていた.

「ストレングスモデルだったら,家に帰るための問題解決みたいな,夢をかなえるための問題解決みたいな感じだから,お互い,当事者と医療者のゴールが一緒みたいな気がします.[2A-16]」

「ストレングスモデルを使えるようになった後は,こういうことがこの人(当事者)はできるとか,可能だみたいな,こういう強みを持っているみたいな,そういう文章が,実習記録に増えた気がするから,ほんとうに,自分の根本の考え方が,たぶんポジティブに変わったってすごく思いました.[4A-20]」

《リスクや問題の解決》:5カテゴリー〈問題解決モデルでの看護〉,〈リスクや問題を探す〉,〈患者の病気への目標を立てる〉,〈行った方が良いことに目が向く〉,〈当事者の疾患に気を遣って関わる〉から構成されてい‍た.

「今までの経過と,その人の病態,今,体に起こっていることと,今後の経過とかも含めた面談的な話をした気がします.[1B-1]」

「なんか,一歩,1テンポ,ちょっと考えて接さなきゃいけないなっていうのは,精神に障がいのある方への接し方では,特に症状でそういうのがあるから,より考えなきゃいけないんだなって思いました.[1B-6]」

《夢やしたいことに添う》:5カテゴリー〈ストレングスモデルの活用〉,〈ストレングスを取り入れる〉,〈当事者の夢の実現に焦点を当てる〉,〈退院後の生活に繋がるストレングス〉,〈やりたいことや夢に添う〉から構成されていた.

「ストレングスシートは,したいこと,夢が一番真ん中にきていて,それを達成するためには,体の状態はどうなんだろうとか,病気によって起こってることはなんだろうっていう見方なので,したいこと,夢っていうのがはっきりあると,この人(当事者)はこういうふうに仕事にも就いてるし大丈夫だよねとか,本人のやりたいことに沿いたいと思った.[3C-10]」

《ストレングス承認の体験》:3カテゴリー〈ストレングスを承認される体験〉,〈当事者も医療者もポジティブになる〉,〈成長した自分〉から構成されていた.

「自分で気付けないことを,自分自身だから気付けないこと(ストレングス)を,先生方が気付いて伝えてくださるのがほんとに嬉しくて,頑張ろうみたいにとても思えた.[4A-25]」

「ストレングスモデルだったら,夢に向かってどう努力するかっていうのも,結構,関わり方が多様にできるから,看護者も楽しいし,たぶん患者さんも,できないことよりもできることを追っていったほうが,わりとポジティブに生きられるっていうか,生活できるんじゃないかなって感じます.[2D-3]」

Ⅴ  考察

学生はストレングスシートを活用することで,看護支援の考え方に変化を起こしていた.その時のストレングスモデルを自身の看護に取り入れるプロセスについて考察する.また,【当事者の夢の実現可能性】を強化する《ストレングス承認の体験》についても考察する.それらの考察から,ストレングスモデルの学修効果および教育方法について検討する.

1. ストレングスモデルを取り入れるプロセス:ストレングスシートと夢の実現可能性

看護学生がストレングスモデルを看護に取り入れる帰結《夢やしたいことに添う》に至るプロセスには,ストレングスシートの活用と【当事者の夢の実現可能性】の実感という,二つのことが関連していた.

そもそも学生は当事者の「健康問題」を抽出し解決していく問題解決モデルを基にした看護教育を受けている.そのため,ストレングスモデルは新たに学ぶ看護支援モデルとなる.学生は学んだ内容である「ストレングス」に忠実に着目して,当事者の把握を試みている.しかし,これまで当事者の「健康問題」とその解決に注目してきた分,ストレングスの発見は難しい作業となっていた.また,当事者を精神に障がいのある人として,どのように接していけばよいのかわからず,戸惑いや不安を持っていた.ストレングスシートはそんな学生の当事者理解の手助けとなっていた.学生はストレングスシートを会話のきっかけに活用し,情報収集の中で,当事者には夢やしたいことがあり,それを語る力もあると,《当事者のストレングスを実感》していた.ストレングスシートは情報整理用紙としてだけでなく,当事者とのコミュニケーションをガイドする働きを持っていると考えられる.

《当事者のストレングスを実感》した学生は,当事者もまた自身のストレングスに気づき,その夢やしたいことといった,これからのことを考えていることに気づいていた(Tse et al., 2021).ストレングスモデルでの支援は当事者に,行動化の前兆(Barry et al., 2003)を引き起こす.そして,さらにその夢の実現のために行動しようとする当事者の変化に【当事者の夢の実現可能性】を感じていた.当事者を自己決定できる人,自分の人生を決めることができる人,と当事者を驚きと共に,尊敬の気持ちで捉えていた(Beckett et al., 2013).学生は当事者が自身の夢やしたいことを実現するために行動する姿を知り,実現できるかもしれないと実感することで,当事者の夢を叶えたいと《夢やしたいことに添う》ことをしていた.当事者を尊敬し心から親身になることは当事者と本当の信頼関係を築く土台となっていた(Onken et al., 2002).そして,当事者のいきいきと自分の人生を形作っていく姿にストレングスモデルの良さを実感していると考えられる.ストレングスモデルは「希望」を処方する支援モデルである.しかしそれは当事者だけにとどまらず,看護学生にも「当事者はできるかもしれない」という希望を処方していると考えられる.

2. 【当事者の夢の実現可能性】へのプロセスの強化

学生は実習中,教員や当事者から自身のストレングスを言われたり,共感されたりする体験をしていた.これまで,自分のストレングスについてはあえて考えることはしてこなかった学生は,新鮮な驚きとともに自身のストレングスを新発見していた.また,当事者にストレングスを伝えたときの当事者の嬉しそうな様子を見て,自身も嬉しい気持ちになる体験をしていた.特別なストレングスでなくても,これまでできていたこと,続けていたことを他人から認められる体験は,お互いの気持ちをポジティブに変化させ,相手への見方や行動を変えていた.

学生は指導を受ける際,不足している点や間違った点を指摘される場合が多い.それは教育手法のスタンダードではあるが,視点は問題点や不足に向きやすい.

しかし,本実習で教員はストレングスモデルを学生指導に活用している.つまり,学生は当事者に実施しようとしていることを教員から受けることになる.自身のストレングスを承認される体験を通して,学生はストレングスモデルの良さを実感していた.学生は当事者を応援したい気持ちを持ち,当事者と関わることができていたと考えられる.そのため,この《ストレングス承認の体験》は,【当事者の夢の実現可能性】に繋がるディメンションへと学生の思考を導いていた.

3. ストレングスモデルの学修効果および教育方法への示唆

本研究から学生がストレングスモデルを活用することによって,当事者の持てる力を活用した当事者主体の支援を看護に取り入れたいと考え行動するプロセスが有ることがわかった.そのプロセスに進むうえで,2つのことが効果的に作用していると考えられた.それは,ストレングスシートの活用と教員によるストレングスモデルを活用した教育的関わりである.まず,ストレングスシートを活用することによって,ストレングスモデルの初学者である学生を必然的にストレングスに着目させる効果があった.また,当事者に抱く恐れやコミュニケーションできるだろうかといった不安な気持ちを記録用紙として活用する過程において薄れさせていた.その結果,当事者のストレングスを自然と見つけ支援に活用していた.次に,教員によるストレングスモデルでの教育的関わりは,ストレングスモデルのポジティブな面を感じさせ,当事者と支援者双方の,自立して生きる力を支援するモデルであると実感させていた.

精神疾患は完治することが難しい病気である.精神に障がいをもつ人はその症状とうまく付き合い,自己決定しながら地域で生活している.そのような当事者は自身を取り巻くストレングスを活用して生活している.支援者には当事者のストレングスを引き出し,支え,活用を見守れる支援が求められる.ストレングスモデルは当事者の自己決定を支え,主体的に生きることを支援するモデルであることを学生は実感している(Pullman et al., 2023).精神障がいをもつからできない,病をもつ弱者であるから支援してあげる存在という考えから,当事者には自分の人生を生きる力(ストレングス)があると実感し,支援者は支え,共に歩み,見守るだけで良いと感じている.まさに“people come first”,ストレングスモデルでいう“partnership”(Rapp, & Goscha, 1997/2014)である.この考え方を支持するストレングスモデルを看護教育に取り入れることは当事者理解とリカバリーを促進する医療者を育成できる可能性があることが示唆された.

Ⅵ  本研究の限界と課題

一大学,一学年の特性や看護教育の内容が影響していることは否めない.また,実習形態が遠隔による方法であった点が結果に与えている影響は大きいと考えられる.また,先に述べたように理論的サンプリングを行っておらず,飽和に至ったとはいえない可能性がある.今後は対面での研究参加者のデータを含め検証を続ける必要がある.さらに,ストレングスシートの活用が当事者理解においてどのように活用されるのか,その時の思いと行動のプロセスを明らかにしていくことは次の課題である.

付記

本論文の一部は日本精神保健看護学会第32回学術集会において報告した.

謝辞

本研究は,令和3年度公立小松大学重点研究「みらい」の助成を受けて行った研究の一部である.

著者貢献度

MKは研究の構想およびデザイン,データ収集・分析および解釈,草稿の作成;RAはデータ収集・分析および解釈,原稿への示唆および作成;KKは研究のデータ分析および解釈,原稿への示唆および作成.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

利益相反の開示

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
© 2023 Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
feedback
Top