Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Loneliness Experienced by People with Schizophrenia Living in the Community with a History of Hospitalization
Rika NakaiMika KataokaMasato Oe
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2024 Volume 33 Issue 1 Pages 1-9

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Abstract

本研究の目的は,地域で暮らす統合失調症者のより質の高い支援に向け,入院歴のある地域で暮らす統合失調症者が体験する孤独を明らかにすることである.精神科病院への入院歴があり,地域で1年以上生活する統合失調症者10名を対象に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.研究参加者の語りは【精神疾患への無理解】【自己評価につきまとう精神疾患への偏見】【見失う帰属意識】【病気によって躊躇する人との関わり】【失望感が残る入院中の医療者の態度】【今も消えない強要された環境での傷み】【ひとりの空間で得られる心身の整理】の7カテゴリに分類された.統合失調症者が体験する孤独は,入院によるトラウマ的な体験に加え,偏見と自己スティグマによって帰属意識を見失う一方で,ひとりの空間に身を置き,心身の整理を行うことであった.統合失調症者の地域生活継続支援として,帰属意識を高める関わりや孤独を尊重する重要性が示唆された.

Translated Abstract

This study clarifies the loneliness experienced by people with schizophrenia, who live in the community and have a history of hospitalization, to offer higher quality support. Ten people with schizophrenia, with a history of hospitalization in a psychiatric hospital and living in the community for at least one year, were qualitatively analyzed through semi-structured interviews. The narratives of the participants were classified into seven categories: (1) lack of understanding of mental disorder; (2) prejudice against mental disorder that haunted self-evaluations; (3) loss of the sense of belonging; (4) relationship with people who were hesitant due to their schizophrenia; (5) disappointing attitude of medical staff during hospitalization; (6) lingering hurt from the coerced environment; and (7) mental and physical stability gained in a personal space. The results revealed that the loneliness experienced by people with schizophrenia was brought about by the traumatic experience of hospitalization, and the prejudice and self-stigma that made them lose a sense of belonging, on the other hands, their mental and physical condition stabilized in a personal space. To support the community life of people with schizophrenia, this study recommends their involvement in a manner that enhances a sense of belonging and the importance of respecting their loneliness.

Ⅰ  研究背景

統合失調症は,精神科病院入院患者の約半数である14.3万人を占め,入院が長期化するほどその割合は高くなる(厚生労働省,2020).さらに退院後は,服薬の中断や生活上のストレスに対処できず,症状を悪化させ再入院を繰り返す(的場・遠藤,2019)ことから,入院歴のある統合失調症をもつ人(以下,統合失調症者とする)が入院から地域生活へ移行することや地域における生活を定着させることは精神保健看護における課題である.

入院は,一般的に安全性の確保や責任からの解放といった利点もあるが,患者の自己決定権を侵害する場合もある(田中・濱田・小山,2010).統合失調症では,入院によって生活機能障害や社会適応能力の低下を引き起こすこと,病気による生きにくさや退院後,周囲の受け入れへの不安がある(藤野・脇崎・岡村,2007).これらのことから,入院は統合失調症者の生活に孤独をもたらし,孤独が地域生活継続の阻害要因のひとつになると考えた.

孤独は,個人の社会的ネットワークが量的・質的に欠損が生じたときに生起する不快な経験(Peplau, & Perlman, 1982/1988)と定義される一方で,思考や自己洞察を促し,考えを整理する貴重な資産である(Storr, 1997/1999)とも言われ,個人の主観によって多様な側面をもつことが推察される.また孤独は,社会的相互作用からの解放(Lindgren et al., 2014)とも言われることから,対人関係を不得手とする統合失調症者では肯定的な意味を併せ持つと考えた.

先行研究において,精神障害者はコミュニケ―ションや関係構築の困難さと周囲の否定的な態度によって孤独になる(Yildirim, & Kavak Budak, 2020)こと,ピアサポーターや看護師の介入によって孤独感が軽減する(Christina et al., 2021)ことが明らかとなっていた.統合失調症者では,入院体験に孤独があること(片岡・野島・豊田,2003),入院によって地域でのつながりを喪失すること(成田・小林,2020)が明らかとなっているが,統合失調症者が体験する孤独の具体的な内容やその捉え方について明らかにした研究は見当たらなかった.

Ⅱ  研究目的

本研究の目的は,統合失調症者の地域生活継続支援への示唆を得るために,入院歴のある地域で暮らす統合失調症者が体験する孤独の具体的な内容を明らかにすることである.

Ⅲ  用語の前提

本研究ではStorr(1997/1999)Peplau & Perlman(1982/1988)を参考に,孤独を自己と向き合う時間,個人が望む社会的ネットワークが満たされていない状態及びその時に感じる感情とした.

Ⅳ  研究方法

1. 研究デザイン

統合失調症者が体験する孤独の内容を率直に記述することが重要であると考え,質的記述的研究デザインを用いた.

2. 研究参加者

精神科病院への入院歴があり,地域で1年以上生活する統合失調症者10名とした.統合失調症は退院後1年で42%と再発率が高い(岩﨑・山﨑,2023)ことから,地域で1年以上生活していることは,精神状態が安定していると判断した.選定基準は,精神科病院への通院や訪問看護を利用していること,自己の体験を語ることができることとした.リクルート方法は,研究者と関係のある施設に依頼する機縁法をとった.

3. データ収集期間

データ収集期間は,2021年12月~2022年8月であった.

4. データ収集方法

データ収集方法は,半構造化面接であった.データ収集内容は,個人属性と土屋・齋藤(2011)を参考に,孤独をどのように捉えているか質問し,その具体的な体験を語ってもらった.研究参加者の捉え方に影響しないよう孤独の説明は伝えなかった.研究参加者の負担を考慮し,面接時間は30~60分とした.面接内容は同意を得て録音し,追加情報が必要な場合に再度面接を依頼した.

5. 分析方法

研究参加者の語りから逐語録を作成し,データを精読した.語りの中から孤独の体験に関する記述を抽出し,コード化を行った.抽出されたコードの類似性や共通要素の特徴を表す名前を付け,カテゴリ化を行った.分析結果は,質的研究の専門家よりスーパーバイズを受け,研究者間で検討した.さらに研究参加者によるメンバーチェッキングを行った.

6. 倫理的配慮

研究参加者と研究協力施設へ文書と口頭にて本研究の目的,方法,研究への参加は自由意志によるものであること,途中拒否の権利,匿名性の保証,公表方法を説明し,同意を得た.研究参加者の負担軽減のため,希望に応じてスタッフに面接時の同席を依頼した.また面接中は休憩の確保や体調確認を行った.

本研究は,研究参加者の所属する施設管理者の承認と三重大学大学院医学系研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号 U2021-010).

Ⅴ  結果

1. 研究参加者の概要(表1
表1

研究参加者の概要

参加者 年齢/性別 入院回数 入院期間
最短~最長
退院後の
生活年数
住居形態 利用中の
社会資源
面接時間
A 70代/F 2回 4ヶ月~
1年
2年6ヶ月 グループ
ホーム
就労継続支援B型事業所,
通院,訪問看護
193分*
B 50代/M 4回 3~6ヶ月 6年 グループ
ホーム
就労継続支援B型事業所,
通院
89分*
C 60代/M 1回 1年6ヶ月 20年 グループ
ホーム
就労継続支援B型事業所,
通院
107分*
D 50代/F 10回以上 3ヶ月以内 1年 持ち家:
夫と実母
通院,訪問看護 57分
E 40代/M 10回程度 7ヶ月~
1年
4年 持ち家:
ひとり暮らし
通院,訪問看護 訪問介護 132分*
F 40代/F 2回 2週間~
1ヶ月
6年 持ち家:
夫と息子
通院,訪問介護 64分
G 40代/M 8~9回 2ヶ月~
13年
2年 賃貸:
ひとり暮らし
通院,訪問看護 訪問介護 61分
H 50代/M 2回 6ヶ月~
1年
4~5年 賃貸:
ひとり暮らし
通院,訪問看護 デイケア 43分
I 50代/M 11回程度 3ヶ月~
1年1ヶ月
1年4ヶ月 賃貸:
ひとり暮らし
通院,訪問看護 42分
J 40代/F 5回 1~3カ月 8ヶ月 持ち家:
夫と両親
通院のみ 51分

* 2回面接を行った各所要時間(1回目,2回目).研究参加者A(80分,113分),研究参加者B(36分,53分),研究参加者C(63分,44分),研究参加者E(78分,54分).

研究参加者J:精神状態が安定した状態での環境調整目的の入院であったため対象とした.

研究参加者は,10名(男性7名,女性3名)であった.研究協力施設は5施設で,精神科病院(外来)が2施設,訪問看護ステーションが2施設,障害者施設が1施設であった.面接時間は1人あたり平均84分(最小42分~最大139分)で,追加情報が必要となった4名(研究参加者A,B,C,E)へ面接を2回実施した.研究参加者Jは,退院後の地域生活年数が8ヶ月であったが,その入院は精神状態が安定した状態での環境調整目的の入院であった.以上の理由から,研究参加者Jも選定基準を満たすと考え,対象とした.

2. 入院歴のある地域で暮らす統合失調症者の体験(表2
表2

研究参加者の語りから得られたカテゴリとサブカテゴリ,コードの一覧

カテゴリ サブカテゴリ 代表的なコード
精神疾患への無理解 関係を阻害する身近な人の精神疾患への理解のなさ 親友は障害への差別が強い人で離れてしまった
家族や医療者からも精神疾患を病気として認知されない辛さ 精神に病はないと話す母に理解されないことが一番悔しくて辛い
自己評価につきまとう精神疾患への偏見 他者と比べることで生じる劣等感 自分は家や車・奥さんや子どもをもつことから全部外れている
社会における自分の低い立ち位置 あの人は統合失調症だと言っているのを聞き悲しくなった
内なる偏見の自覚から生じる病気の隠ぺい 統合失調症がばれると余計に孤立したり周囲が怖がると思い病気を隠そうとしていた
見失う帰属意識 周囲から取り残される感覚 精神疾患が理由で離婚しぼっちになった
家族の態度によって揺らぐ自己存在感 母の求めるものに応えられず自分は存在していていいのかと思った
居場所のない生活 母から虐待を受け病院では監禁され行き場がなかった
病気によって躊躇する人との関わり 幻聴と現実の不明瞭さから生じる人への恐れ 幻聴という認識がなく周りの壁から自分を悪く評価する声が聞こえて不安だった
人と関われないことから選択せざるをえないひとりの時間 雑談ができずテレビを見てラジオを聞いて新聞を読むことしかできない
空気が読めない自覚から生じる関係性の希薄さ 怒らせるのは嫌なので近所の人とは挨拶と天気の話しかできない
失望感が残る入院中の医療者の態度 再燃する自分を無下に扱う医療者への怒り 看護師を呼んでも来ないと無視されているようで腹が立つ
今も残る医療者に関心を向けられていない感覚 看護師はミーティングをしていて窓をノックしたが返事もなかった
今も消えない強要された環境での傷み 入院する度に感じる閉鎖病棟での息苦しさ 扉を閉めると押さえつけられるようで追い詰められる
耐え忍んできた療養中の辛さ 薬も合っていなくてひとりでいた時は苦しかった
ひとりの空間で得られる心身の整理 対人場面を離れることで得る休息 話に入れない時や疲れた時は自分の部屋へ逃げる
活力を見出すひとり時間の工夫 頭をからにしてエネルギーを蓄えてまた何かできる
趣味に没頭する時間 音楽を聞いたりひとりで過ごす時間は楽しめる
楽しみを想起させる時間 ひとりの時間に何をしようか考えて楽しい気持ちにする
自分を見つめ直す時間 孤独は見つめ直す時間だと気づき自分を第三者目線で考えている

分析の結果,104コードが抽出され,【精神疾患への無理解】【自己評価につきまとう精神疾患への偏見】【見失う帰属意識】【病気によって躊躇する人との関わり】【失望感が残る入院中の医療者の態度】【今も消えない強要された環境での傷み】【ひとりの空間で得られる心身の整理】の7カテゴリ,20サブカテゴリに分類され‍た.

以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉で示した.サブカテゴリの内容を代表的な生データ(斜体)で示し,意味内容が通るように言葉を補足した.

1) 【精神疾患への無理解】

このカテゴリは,以下の2つのサブカテゴリで構成され,統合失調症者を取り巻く人々の精神疾患に対する無理解が語られていた.

〈関係を阻害する身近な人の精神疾患への理解のなさ〉は,家族や友人,医療者の理解のなさが関係性を悪化させることを語っていた.

・親友は,あまりそのー障害とかそういうもの?に好意的ではなかったのでー差別…が強い人だったので離れる原因になって…うん….(F氏)

〈家族や医療者からも精神疾患を病気として認知されない辛さ〉は,精神疾患が弱さや甘えで病気として認知されていないことを語っていた.

・病気じゃないっていう理解しかないんですよ.精神に病なんかないっていう母の話しですから.理解されてないのが一番悔しいし,うーん辛い.(D‍氏)

2) 【自己評価につきまとう精神疾患への偏見】

このカテゴリは,以下の3つのサブカテゴリで構成され,統合失調症者が自分自身に抱く偏見として,自己スティグマが語られていた.

〈他者と比べることで生じる劣等感〉は,他者と比べ自分が劣っていると感じていることを語っていた.

・(自分は)家,車,奥さん,子ども,それを全部外れてますからね.(C氏)

〈社会における自分の低い立ち位置〉は,自分が社会的に低い立場にあると認識する場面を語っていた.

・「あの人統合失調症や」って言ってる人もいましたね.(そのような発言を聞くと)まあ寂しいというか悲しいですよね.(I氏)

〈内なる偏見の自覚から生じる病気の隠ぺい〉は,精神疾患に対する世間の偏見から逃れるため,病気を隠して生活することを語っていた.

・きっとばれたら,余計孤立するんじゃないかとか.あと統合失調症って,スラングで「きちがい」って言葉があるじゃないですか.心に病気…不具合があることを人に言ってはいけないっていう恐れがありました.(F氏)

3) 【見失う帰属意識】

このカテゴリは,以下の3つのサブカテゴリで構成され,周囲の人々の態度によって揺らぐ帰属意識が語られていた.

〈周囲から取り残される感覚〉は,精神疾患を理由に身近な人がいなくなってしまう怖さや寂しさを語っていた.

・3人で住んどったんさ,でー離婚して,このおっきな家でひとりになったもんで,めっちゃ寂しいし….ぼっちになっちゃったーって感じ.(E氏)

〈家族の態度によって揺らぐ自己存在感〉は,家族の言動によって自分の役割意識や存在意義が左右されることを語っていた.

・(母親に)ついていけないっていうか.せやけど,認めてほしかったなあっていう気持ちと自分は存在しててよかったのかなあっていう感じの….(D‍氏)

〈居場所のない生活〉は,入院中も退院後も安心できる場所や人間関係がないことを語っていた.

・家へ帰ったらさ,ワンコインとかで飯やんか.病院入ったら監禁やろ.両方やん.どっちも行き場がない.(H氏)

4) 【病気によって躊躇する人との関わり】

このカテゴリは,以下の3つのサブカテゴリで構成され,統合失調症者の対人関係にまつわる葛藤が語られていた.

〈幻聴と現実の不明瞭さから生じる人への恐れ〉は,幻聴による混乱や自己への違和感から抱く対人関係の不安や恐怖を語っていた.

・幻聴が聞こえるっていう認識がなかったんですよ.ただ自分を悪く評価する声が聞こえて,周りの壁から言われる感じだから,「お隣さんに悪く言われている」っていうところで彷徨ってて,不安でいっぱいでした.(F氏)

〈人と関われないことから選択せざるをえないひとりの時間〉は,他者との接し方が分からず,仕方なくひとりで過ごすことを語っていた.

・話に入っていけないんですよね.雑談ができないもんで.テレビ見てラジオ聞いて新聞読んで雑誌読んでとか.そんなんしかできないんですよね.(C氏)

〈空気が読めない自覚から生じる対人関係の希薄さ〉は,他者との関係性を悪化させないように表面的な関わりにとどめることを語っていた.

・空気読めないようなことしちゃって怒らせるのは嫌やなーって思ったりしたら,近所の人とは挨拶と天気の話しかできないなーと思って.(J氏)

5) 【失望感が残る入院中の医療者の態度】

このカテゴリは,以下の2つのサブカテゴリで構成され,入院中に感じた看護師や医師に対する失望感が語られていた.

〈再燃する自分を無下に扱う医療者への怒り〉は,過去の入院体験を想起し,看護師や主治医の対応に込み上げる怒りを語っていた.

・もうその(保護室から)呼んでも来ないっていうのがすっごいもう苛立ちとか,腹が立ってくるというか,無視されてるんじゃないかとか.(D氏)

〈今も残る医療者に関心を向けられていない感覚〉は入院中,話を聞いてもらえず,医療者に気にかけてもらっていないように感じることを語っていた.

・(看護師が)奥のほうでーミーティングとかしよって.で,ちょうど看護師さんに話したくて(窓を)コンコンってしたけど返事もなく….(G氏)

6) 【今も消えない強要された環境での傷み】

このカテゴリは,以下の2つのサブカテゴリで構成され,闘病生活の中で受けた心の傷が語られていた.

〈入院する度に感じる閉鎖病棟での息苦しさ〉は,病棟の閉鎖的な環境に感じる圧迫感を語っていた.

・とにかく圧迫感があるんですよね.壁が押し寄せてくるような.バーンと(扉を)閉めたらぐっとくるような,押さえつけられとるような.(I氏)

〈耐え忍んできた療養中の辛さ〉は,本人の意思とは関係なく治療を続けなければならない苦しみが,今も残っていることを語っていた.

・退院してた時に本当に状態が悪くなって.薬も合ってなくてーもう家におるしかなかったんですわ.でもひとりでいた時は本当に苦しかったです.(G‍氏)

7) 【ひとりの空間で得られる心身の整理】

このカテゴリは,以下の5つのサブカテゴリで構成され,統合失調症者が捉える孤独の意味が語られてい‍た.

〈対人場面を離れることで得る休息〉は,一時的な孤独が他者に見せる一面から解放され,休息になることを語っていた.

・話の中に入れないとかちょっと疲れたから休みたいとか,そういう時は自分の部屋に帰る.疲れたから休憩してくるわーとか言って上手に逃げる.(A氏)

〈活力を見出すひとり時間の工夫〉は,孤独を次の行動に取りかかるための充電期間につなげていることを語っていた.

・疲れた時とか,もうひとりでぽけーっと.無になるっていうか.そういうんでエネルギーを蓄えてまた何かするって.そんな感じかなー.(E氏)

〈趣味に没頭する時間〉は,趣味を通して孤独の時間を大切にしていることを語っていた.

・(音楽を聞いたり,ひとりで過ごす時間は)あったほうがいいと思う.やっぱり楽しめるで.(B氏)

〈楽しみを想起させる時間〉は,楽しいひとときを思い浮かべることで,自己を良い状態に保っていることを語っていた.

・なんかマイナスに考える人もおるやん.ひとりの時間で.でも今は次何しようかなーとか,そういうの.(中略)考えてるとなんか楽しくなる.(E氏)

〈自分を見つめ直す時間〉は,自己を振り返ることで思考を整理し,新たな気づきを得ることを語っていた.

・(孤独は)自分を見つめ直すというか,自分を決めるっていうか.自分を第三者目線で考えてやるようになってから必要やと思いました.(E氏)

Ⅵ  考察

1. 入院歴のある地域で暮らす統合失調症者が体験する孤独

入院歴のある地域で暮らす統合失調症者が体験する孤独は,【失望感が残る入院中の医療者の態度】など,過去の入院体験を抱えて生活することであった.さらに【精神疾患への無理解】に直面し【自己評価につきまとう精神疾患への偏見】が生じ,帰属意識を見失っていたと考える.また【病気によって躊躇する人との関わり】を体験する一方で,孤独に心身の整理を見出す側面もあった(図1).これらは人が生きていく中で時間,他者との関係性,空間が根底にあると考え,3つの視点が浮かんできた.よって1)入院が影響し体験する孤独,2)他者からの影響を受けて体験する孤独,3)自己の空間で体験する孤独の視点で考察する.

図1

研究参加者の語りから得られたカテゴリ間の関連

* カテゴリは重要なほど枠を太くした.

1) 入院が影響し体験する孤独

研究参加者は過去に孤独として体験した【今も消えない強要された環境での傷み】【失望感が残る入院中の医療者の態度】が今なお消えないことで,現在の孤独に影響したと考える.

國方・本田(2009)は,入院環境は自尊感情に影響し,精神的外傷として残ると述べている.【今も消えない強要された環境での傷み】は,〈入院する度に感じる閉鎖病棟での息苦しさ〉や幻覚妄想に〈耐え忍んできた療養中の辛さ〉によって自尊感情が脅かされたと考える.また医療者との関係やコミュニケーションは,患者の尊厳に影響する(Chambers et al., 2014)と言われている.【失望感が残る入院中の医療者の態度】は,医師や看護師に話を聞いてもらえず,〈再燃する自分を無下に扱う医療者への怒り〉や〈今も残る医療者に関心を向けられていない感覚〉が残り,研究参加者の尊厳に影響したと考える.これら精神科病院への入院による物的・人的環境が精神的外傷となり,精神的外傷が帰属意識や理解されている感覚を阻害する(Wilde, 2022)ことから,過去の体験が現在の帰属意識にまで及び,孤独と捉えられたと考える.

2) 他者からの影響を受けて体験する孤独

研究参加者は入院体験に加え,地域生活の中でも【精神疾患への無理解】に直面し,【自己評価につきまとう精神疾患への偏見】を抱いていた.そして【見失う帰属意識】を体験していた.

統合失調症者の家族は,疾患の理解や対応を学習しながら家族の形を取り戻す(木村・天賀谷,2020).しかし,研究参加者は,家族や友人とのつながりを失い,医療者からも理解されず【精神疾患への無理解】に直面していた.そこには偏見や差別から生じる〈関係を阻害する身近な人の精神疾患への理解のなさ〉や精神疾患は弱さや甘えであるという〈精神疾患を病気として認知されない辛さ〉があった.これは,精神保健医療福祉の改革ビジョン(2004)において,精神疾患の正しい理解に基づく態度や行動促進が謳われる中で,未だ精神障害者に対する正しい理解が不十分であることを示す結果となっていた.

そして【精神疾患への無理解】は,【自己評価につきまとう精神疾患への偏見】を生み出していた.統合失調症者は,周囲の言葉や態度によって社会からの拒絶を知覚し,それが自己スティグマの起源となる(Yen, Huang, & Chien, 2020).【自己評価につきまとう精神疾患への偏見】は〈他者と比べることで生じる劣等感〉や〈社会における自分の低い立ち位置〉,〈内なる偏見の自覚から生じる病気の隠ぺい〉が語られており,先行研究同様,周囲の精神疾患に対する偏見や否定的な態度が影響して生じたと考える.さらに自己スティグマの影響は,地域社会への帰属にまで及ぶ(Berry, & Greenwood, 2018).本研究においても精神疾患によって家族や友人が離れていき,〈周囲から取り残される感覚〉や,家族に認められず自己存在感が揺らぐこと,〈居場所のない生活〉から自己スティグマを抱くことで,地域や家族に属しているという感覚が薄れ,【見失う帰属意識】に至ったと考える.

3) 自己の空間で体験する孤独

研究参加者は,【病気によって躊躇する人との関わり】によって孤独を体験する一方で,【ひとりの空間で得られる心身の整理】を見出していたと考える.

【病気によって躊躇する人との関わり】において,統合失調症は,幻聴による混乱や他者の感情や行動に対する感受性の低下(Miller, & Lenzenweger, 2012)やコミュニケーションの取り方が分からず,人と接することに恐怖を感じる(Chen, Huang, & Cheng, 2020)と指摘されている.同じように本研究の研究参加者は,〈幻聴と現実の不明瞭さから生じる人への恐れ〉を感じていた.そして人と関わることを望みながらも,〈空気が読めないことから生じる関係性の希薄さ〉や〈人と関われないことから選択せざるを得ないひとりの時間〉を過ごしていた.一方,対人関係を離れることは,精神状態を安定させる行動にもつながったと考える.社会的な接触を避けることは,自分自身に集中し,精神的苦痛を回避する方法であり,気分転換や休養をとって再び人と付き合うための力を蓄えることができる(Andersson et al., 2015川村ら,2007)とされている.本研究の結果でも,〈対人場面を離れることで得る休息〉や〈活力を見出すひとり時間の工夫〉は,生活の中に孤独の時間を設け,精神状態の回復を図っていたと考える.さらに,〈趣味に没頭する時間〉や〈楽しみを想起する時間〉として孤独を活用し,精神状態を良好に保つ工夫をしていた.Weinstein, Hansen, & Nguyen(2022)は,過度の孤独は内面に集中する過程を妨げるとしているが,〈自分を見つめ直す時間〉には,病気や療養環境の影響を受けつつも孤独に意味を見出す側面が見られた.

2. 入院歴のある地域で暮らす統合失調症者の支援

本研究より,統合失調症者が体験する孤独に沿って,帰属意識を高める関わりや孤独を尊重する関わりが示唆された.

第一に,帰属意識が高まるよう寄り添うことである.統合失調症者の帰属意識は,入院や周囲の偏見と自己スティグマなどが関係していた.看護師は,統合失調症者がトラウマ的な体験を抱えているかもしれないという視点や当事者の立場に立つ姿勢で関わることで,統合失調症者が理解されているという感覚を持てるようになることが重要である.

さらに他者とつながるための橋渡しとしての役割を担うことである.看護師は統合失調症者と家族の間を取り持ち,関係性の修復や家族内での居場所,存在意義を取り戻すきっかけを作る.また,社会参加の場を設けることで,統合失調症者が地域の一員であると感じる機会につながること,統合失調症者との交流を通して,地域住民が精神疾患に対する正しい理解を得られるようにすること,さらに,当事者同士で語り合う場を提供し,病気や生活への思いを共有できるようにすることといった関わりが,統合失調症者の帰属意識の向上につながると考える.

第二に,個人がもつ孤独を尊重することである.看護師は,孤独が休息や内省の機会となり得ることを認識し,プライベートが保持できる場の提供や見守ることも必要である.看護師は,統合失調症者の生活がより暮らしやすいものになるよう孤独が生じる要因や統合失調症者の求めるものを見極めて関わることで,地域生活継続に向けた支援になると考える.

Ⅶ  研究の限界と今後の課題

本研究は特定の地域で実施され,結果を他の統合失調症者に適応することに限界がある.また,機縁法を用いたことや選定基準に満たない研究参加者が含まれることが語りの質に影響した可能性がある.今後は調査対象や範囲を拡大し,孤独の体験への理解を深めていく必要がある.

Ⅷ  結論

地域で暮らす統合失調症者が体験する孤独を明らかにするため,入院歴のある統合失調症者10名へ半構造化面接を行い,【精神疾患への無理解】【自己評価につきまとう精神疾患への偏見】【見失う帰属意識】【病気によって躊躇する人との関わり】【失望感が残る入院中の医療者の態度】【今も消えない強要された環境での傷み】【ひとりの空間で得られる心身の整理】のカテゴリが明らかとなった.統合失調症者の地域生活継続に向けて,帰属意識の向上や孤独を尊重する支援が重要であることが示唆された.

謝辞

本研究を行うにあたり,研究の趣旨をご理解いただき,面接に応じてくださった研究参加者の皆様,研究にご協力いただいた各施設のスタッフの皆様に心より感謝申し上げます.

本稿は,三重大学大学院医学系研究科に提出した修士論文に加筆修正を加えたものであり,一部を第33回日本精神保健看護学会学術集会・総会にて発表した.

利益相反の開示

本研究における利益相反は存在しない.

著者資格

RN,MK,MOは,研究の構想,データ分析,論文の作成までのプロセス全体に関わった.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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