2024 Volume 33 Issue 1 Pages 68-77
Recovery Self-Assessment Revised(RSA-R)はサービスのリカバリー志向性を測定する尺度である.本研究では利用者用日本語版RSA-Rの因子的妥当性・併存的妥当性・内的一貫性・再テスト信頼性を検証した.因子分析の結果,4因子構造のモデルが確認でき,CFI = .86,RMSEA = .065であった.RSA-Rの全体得点はHerth Hope Index(ρ = .390; p < 0.01)及びClient Satisfaction Questionnaire-8(ρ = .612; p < 0.01)の間に有意かつ正の相関を認め,各因子得点も同様に有意な相関を認めた.尺度全体のCronbachのα係数は0.94であった.再テスト法における重み付きκ係数は22項目で中等度以上の一致度であり,ICC > 0.85であった.以上の結果から日本語版RSA-Rは,妥当性が不十分ながら4因子構造を持つこと,良好な併存的妥当性,内的一貫性,再テスト信頼性を示していることが明らかとなった.
The Recovery Self-Assessment Revised (RSA-R) is a scale for measuring service recovery orientation. This study examined the factorial and concurrent validity, internal consistency, and retest reliability of the Japanese version of the RSA-R for persons in recovery. Factor analysis revealed a four-factor model with CFI = 0.86 and RMSEA = 0.065. RSA-R’s total score was significantly higher than those of the Herth Hope Index (ρ = 0.390; p < 0.01) and Client Satisfaction Questionnaire-8 (ρ = 0.612; p < 0.01). The factor scores were also significantly correlated with both scales. The Cronbach’s alpha for the overall scale was 0.94. The weighted kappa coefficients for the retest method showed moderate or better agreement for 22 items. Finally, the ICCs for all factor and total scores exceeded 0.85. In summary, the Japanese version of the RSA-R has a four-factor structure with insufficient factorial validity, good concurrent validity, internal consistency, and retest reliability.
リカバリー(Recovery)とは,自分が主体となり自分自身の人生の目標に向かい回復していくプロセスである.リカバリーは米国で1980年代に誕生し発展した概念(Deegan, 1988)で,米国の薬物乱用精神保健管理庁(SAMHSA)では,リカバリーを「人が健康と活力(元気)を改善させ,自律した生活を送り,自分の全ての可能性に到達するよう努力をするときの,変化のひとつの過程」と定義している(SAMHSA, 2012).近年は援助にも「リカバリー志向の実践(Recovery Oriented Practice)」として,当事者のリカバリーを目指した実践が概念化され(Chester et al., 2016),リカバリーの考え方を取り入れた利用者主体のサービス開発の一つの表現型として用いられている.
精神保健サービスのリカバリー志向性に関する評価指標として,Recovery Self-Assessment(RSA)やINSPIRE(千葉・宮本,2009;Kotake et al., 2020)が存在する.このうちRSAはO’Connellら(2005)によって開発された尺度であり,リカバリー志向のサービス及びケアを提供する際の自己省察に用いられている.現在,改訂版であるRSA-R(Recovery Self-Assessment Revised)が多く用いられ,評価者ごとにPerson in Recovery Version,Family member/advocate Version,Provider Version,CEOs and Directors Versionの4つのバージョンが存在する.そのうちPerson in Recovery Versionは32項目からなる尺度である.原版では「Life Goals」「Involvement」「Diversity of Treatment Options」「Choice」「Individually-Tailored Service」「Inviting Environment」の6因子構造を示しており,因子ごとに平均点を算出し得点化する尺度となっている.既に中国語(Chao et al., 2019)やノルウェー語(Johannessen, Geirdal, & Nordfjærn, 2021)など複数の言語版があり,各国・各文化圏で異なる因子構造を示している.
本邦では笹川らがRSA-Rを日本語に翻訳しており,質問項目ごとに平均点を算出することで調査対象となった精神科デイケアの特性を明らかにし,尺度の使用可能性を示している(笹川・福智,2014)が,因子構造の同定や信頼性と妥当性の検証は行われていない.RSA-Rは,文化的背景の影響を大きく受けるため異文化適応の確認が必要(Zuaboni et al., 2015;Ricci et al., 2020)な尺度であり,日本語版RSA-Rでも検証が必要である.
以上のことから,日本語版RSA-Rの信頼性と妥当性を検証することで,本邦の文化的背景を踏まえてリカバリー志向性という概念から精神医療及び精神保健福祉サービスの質を評価できる可能性を高めることができる.このことは,本邦の精神医療及び精神保健福祉サービスの質の向上に寄与できるものである.
本研究の目的は日本語版RSA-Rの因子構造を明らかにし,その信頼性と妥当性を検証することである.
2022年6月から8月にかけて,精神科デイケア利用者を対象に横断的質問紙調査を実施した.
1) 対象施設対象施設は5つの府県内にある精神科デイケア133施設のうち,同意が得られた27施設とした.対象施設には研究協力の諾否を得る際に研究協力の名前と連絡先・調査に協力できる利用者の見込み人数を紙面にて確認した.再テスト信頼性を検討するための追跡調査は,初回調査の1か月後に同様の内容で質問紙調査を実施し,同意が得られた回答者のデータを紐づけて使用した.追跡調査は1府県内の精神科デイケア16施設のうち,初回調査に同意が得られた5施設に依頼した.
2) 対象者調査対象者は対象施設の利用者のうち ①デイケアの利用登録から3か月(90日以上)経過している ②週に1回以上デイケアを利用している の2つの基準を満たすものとした.
2. 調査内容 1) 対象者の属性及び社会的背景対象者の属性及び社会的背景として,性別,年齢,教育歴,対象施設への通所期間,対象施設への通所頻度,自助グループへの参加経験の有無を調査した.
2) 日本語版RSA-R利用者用RSA-RはO’Connellらが作成した32項目からなる精神保健サービスのリカバリー志向を測定する自記式尺度であり,全体の平均点と項目及び因子ごとの平均点を算出し,サービス間ないし評価者間で比較することでリカバリー志向性を相対的に評価する尺度である.スコアが高いほどサービスのリカバリー志向性が高いことを意味する.Person in Recovery Versionの日本語版は笹川らが翻訳・逆翻訳の過程を経て作成しフィールドテストを経て利用可能性を示している(笹川・福智,2014).すべての項目は1(全くあてはまらない)から5(とてもよくあてはまる)のリッカート尺度であり,D/K(わからない)もしくはN/A(施設が提供するサービスに合致しない)という回答もできる.本研究で使用した日本語版RSA-Rは翻訳者である笹川らに許可を得て使用した.
3) 日本語版Client Satisfaction Questionnaire 8項目版(CSQ-8J)CSQ-8Jは国際的に使用されている標準化された患者満足度の測定尺度であるCSQ-8(Larsen et al., 1979)の日本語版である.8項目の4段階リッカート尺度であり,合計得点が高いほど満足度が高いことを示す.十分な内的一貫性と基準関連妥当性がある(立森・伊藤,1999).同種のリカバリーに関する尺度研究において併存的妥当性の検証に用いられている(Kotake et al., 2020).
4) 日本語版Herth Hope Index(HHI)Herthによって作成されたHerth Hope Scaleの短縮版尺度であり12項目からなる尺度である(Herth, 1992).12項目の4段階リッカート尺度であり,合計得点が高いほど希望のレベルが高いことを示す.日本語版にも十分な内的一貫性と基準関連妥当性が示されている(小泉ら,1999).本邦におけるリカバリーに関する尺度研究においてHHIや希望に関する尺度が併存的妥当性の検証に用いられている(Chiba, Miyamoto, & Kawakami, 2010;Chao et al., 2019).
3. 分析方法妥当性及び信頼性の検証には以下のプロセスを実施した.データ集計及び分析には統計パッケージソフトIBM SPSS Statistics Base Version 24及びIBM SPSS Amos Version 28を用いた.有意水準は両側検定で5%とした.
1) 記述統計対象者の属性及び各尺度について,度数分布・平均値・標準偏差を算出した.日本語版RSA-RにおいてD/KもしくはN/Aと回答した項目については,それぞれの割合を集計した.なお,D/KもしくはN/Aの回答は2)以降の分析には含めなかった.D/K・N/Aと回答した人が特に多い項目については,D/K・N/Aという回答が持つ意味合いを検討するために,D/K・N/Aと回答した人とそれ以外の回答をした人の2群に分け,HHI及びCSQ-8のスコアについてMann-WhitneyのU検定を実施した.
2) 因子的妥当性因子的妥当性の検討を行うため,最尤法・プロマックス回転を用いて探索的因子分析(Exploratory Factor Analysis: EFA)を行った.因子分析を行うためのデータ適合性は,Kaiser-Mayer-Olkin of Sampling Adequacy(KMO指標)と,Bartlettの球面性検定を用いて評価した.KMO指標の基準値は0.80以上を良好であると判断した(Kaiser, 1974).
EFAによって同定された因子構造に対するデータ適合性を検証するために,確認的因子分析(Confirmatory Factor Analysis: CFA)を行った.原版の6因子構造についても同様にCFAを実施し,新たに作成したモデル適合度の評価の参考とした.モデル適合度はχ2値,CFI(Comparative Fit Index),RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)を用いて評価した.CFIは0.95以上,RMSEAは0.05以下でよい当てはまりであると判断した(星野・岡田・前田,2005).なお,いずれの因子分析もD/K,N/A,未回答を欠損値としてペアワイズ法で除外した.
3) 併存的妥当性並存的妥当性はRSA-Rの総得点及びサブスケールの得点と,日本語版CSQ-8の総得点及び日本語版HHIの総得点との相関を用いて検討した.データの相関はSpearmanの順位相関係数を用いた.
4) 内部一貫性内部一貫性の検討にはCronbachのα係数を用いた(Cronbach, 1951).全体及び各因子を構成する質問項目について,α係数を算出し検討した.α係数の基準値は0.70以上で十分な内的一貫性を示しているとみなした(Cortina, 1993).
5) 再テスト信頼性再テスト信頼性の検証は追跡調査に同意が得られた34人を対象に実施した.RSAの総得点及び因子得点についてはICC(Intraclass Correlation Coefficient)を算出し検討した.各質問項目についてはCohenの重み付きκ係数を算出し検討した.ICCは0.80以上であれば優れた一致度を示しているとした(Bartko, 1966).κ係数はLandisらの基準を用いた.0.00~0.20はわずかに一致,0.21~0.40はまずまずの一致,0.41~0.60は中等度の一致,0.61~0.80はかなりの一致,0.81~1.0はほぼ完全もしくは完全一致を示している(Landis, & Koch, 1977).
4. 倫理的配慮調査票の説明文に研究の目的や意義などの趣旨,研究協力は任意かつ自由意思によること,研究に協力しなくとも不利益な扱いを受けることはないこと,調査票には氏名などの特定個人情報を含まず匿名化・ID化してデータ処理すること,調査協力機関の諾否や協力者に関するデータは施錠できる場所で厳重に保管すること,データは共同研究者間のみで共有し研究目的以外では使用しないこと,研究者の所属機関及び調査施設の承認のもと実施している研究であること,調査票の返送をもって研究協力の同意が得られたものとすることを明記した.本研究は筆頭著者の所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2110-2).
本研究の調査協力が得られた施設は27施設で,376人の利用者から回答が得られた.そのうち,日本語版RSA-Rの不備なく回答した287人をデータ分析に使用した(有効回答率76.3%).再テスト信頼性を検討するための追跡調査は初回調査の1か月後に実施し,同意が得られた5施設34人のデータを使用した.
対象者の属性について表1に示す.対象者の男女比率はやや男性が多く(54.7%),平均年齢は51.2歳(SD:14.6歳,範囲:21~90歳)であった.調査対象施設の平均利用期間は6.1年(SD:6.2年,範囲:0~30年),1週間の平均利用頻度は3.5日であった.回答者の約25%が当事者主体の活動への参加経験があると回答し,約30%が高等教育を受けた経験があると回答していた.なお,平均利用期間については,月単位での回答が半数以下であったため切り捨てとした.
対象者の属性および社会的背景
n [Mean] |
(%) [SD] |
Min | Max | |
---|---|---|---|---|
性別(n = 287) | ||||
女性 | 128 | 44.6 | ||
男性 | 157 | 54.7 | ||
答えたくない | 2 | 0.7 | ||
年齢 | [51.23] | [14.55] | 21 | 90 |
所属施設の利用期間(年) | [6.11] | [6.18] | 0 | 30 |
所属施設の利用頻度(日/Week) | [3.48] | [1.55] | 1 | 7 |
当事者主体の活動への参加経験(n = 280) | ||||
ある | 72 | 25.7 | ||
ない | 137 | 48.9 | ||
わからない | 71 | 25.4 | ||
最終学歴(n = 282) | ||||
中学校卒業 | 48 | 17.0 | ||
高校卒業 | 127 | 45.0 | ||
短大・専門学校卒業 | 48 | 17.0 | ||
大学卒業 | 43 | 15.2 | ||
大学院博士前期課程修了 | 4 | 1.4 | ||
大学院博士後期課程修了 | 0 | 0.0 | ||
その他 | 12 | 4.3 |
RSA-R各項目の得点と回答率を項目ごとに表2に示す.No. 1(Mean: 4.29, SD: 0.79)とNo. 6(Mean: 3.84, SD: 1.35)の2項目において,天井効果が確認された.D/K・N/Aを除いた各項目の回答率は,No. 4(63.8%),No. 5(58.9%),No. 14(64.8%),No. 15(63.8%)の4項目で70%を下回っていた.
日本語版RSA-R(32項目版)・HHI・CSQ-8のスコア n = 287
Items | n | Mean | SD | Min | Max | D/K(%) | N/A(%) | 未回答(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
No. 1 | 285 | 4.29 | 0.79 | 1 | 5 | 2(0.7) | ― | ― |
No. 2 | 284 | 3.98 | 0.86 | 1 | 5 | 3(1.0) | ― | ― |
No. 3 | 271 | 3.87 | 0.93 | 1 | 5 | 13(4.5) | 1(0.3) | 2(0.7) |
No. 4 | 183 | 3.17 | 1.17 | 1 | 5 | 100(34.8) | 2(0.7) | 2(0.7) |
No. 5 | 169 | 2.92 | 1.30 | 1 | 5 | 115(40.1) | 2(0.7) | 1(0.3) |
No. 6 | 269 | 3.84 | 1.35 | 1 | 5 | 15(5.2) | ― | 3(1.0) |
No. 7 | 247 | 3.96 | 0.87 | 1 | 5 | 38(13.2) | 1(0.3) | 1(0.3) |
No. 8 | 248 | 3.92 | 0.89 | 1 | 5 | 39(13.6) | ― | ― |
No. 9 | 244 | 3.93 | 0.87 | 1 | 5 | 42(14.6) | ― | 1(0.3) |
No. 10 | 270 | 4.14 | 0.80 | 1 | 5 | 15(5.2) | 1(0.3) | 1(0.3) |
No. 11 | 256 | 3.36 | 1.03 | 1 | 5 | 30(10.5) | 1(0.3) | ― |
No. 12 | 253 | 3.70 | 0.99 | 1 | 5 | 31(10.8) | 1(0.3) | 2(0.7) |
No. 13 | 249 | 3.79 | 0.95 | 1 | 5 | 31(10.8) | 2(0.7) | 5(1.7) |
No. 14 | 186 | 2.66 | 1.17 | 1 | 5 | 96(33.4) | 2(0.7) | 3(1.0) |
No. 15 | 183 | 2.84 | 1.22 | 1 | 5 | 100(34.8) | 3(1.0) | 1(0.3) |
No. 16 | 267 | 4.01 | 0.88 | 1 | 5 | 18(6.3) | 1(0.3) | 1(0.3) |
No. 17 | 229 | 3.53 | 1.06 | 1 | 5 | 39(13.6) | 15(5.2) | 4(1.4) |
No. 18 | 247 | 3.69 | 1.06 | 1 | 5 | 36(12.5) | 1(0.3) | 3(1.0) |
No. 19 | 232 | 3.49 | 1.09 | 1 | 5 | 53(18.5) | 1(0.3) | 1(0.3) |
No. 20 | 232 | 3.22 | 1.09 | 1 | 5 | 49(17.1) | 3(1.0) | 3(1.0) |
No. 21 | 222 | 3.39 | 1.11 | 1 | 5 | 60(20.9) | 2(0.7) | 3(1.0) |
No. 22 | 222 | 3.06 | 1.08 | 1 | 5 | 54(18.8) | 9(3.1) | 2(0.7) |
No. 23 | 238 | 3.13 | 1.07 | 1 | 5 | 43(15.0) | 3(1.0) | 3(1.0) |
No. 24 | 226 | 3.01 | 1.19 | 1 | 5 | 50(17.4) | 5(1.7) | 6(2.1) |
No. 25 | 229 | 2.60 | 1.26 | 1 | 5 | 50(17.4) | 5(1.7) | 3(1.0) |
No. 26 | 234 | 3.09 | 1.10 | 1 | 5 | 44(15.3) | 4(1.4) | 5(1.7) |
No. 27 | 250 | 3.76 | 0.98 | 1 | 5 | 34(11.8) | ― | 3(1.0) |
No. 28 | 268 | 3.85 | 0.99 | 1 | 5 | 17(5.9) | ― | 2(0.7) |
No. 29 | 218 | 2.58 | 1.25 | 1 | 5 | 59(20.6) | 7(2.4) | 3(1.0) |
No. 30 | 255 | 3.70 | 1.04 | 1 | 5 | 28(9.8) | 1(0.3) | 3(1.0) |
No. 31 | 209 | 3.49 | 1.15 | 1 | 5 | 73(25.4) | 2(0.7) | 3(1.0) |
No. 32 | 231 | 3.77 | 1.02 | 1 | 5 | 52(18.1) | 1(0.3) | 3(1.0) |
RSA-R Total Score | 287 | 3.55 | 0.68 | 1 | 5 | ― | ― | ― |
HHI Total Score | 274 | 32.85 | 7.63 | 12 | 48 | ― | ― | 13(4.5) |
CSQ-8 Total Score | 280 | 25.40 | 5.28 | 8 | 32 | ― | ― | 7(2.4) |
なお,No. 4,5,14,15の4項目において,D/K・N/Aと回答した人の特徴を調べるため,D/K・N/Aと回答した人とそれ以外の回答をした人の2群に分け,HHI及びCSQ-8のスコアについてMann-WhitneyのU検定を実施したが,有意差があるとはいえなかった.
3. 日本語版RSA-Rの妥当性 1) 因子的妥当性32項目のRSA-Rの全体得点は3.55(SD: 0.68)点であった.32項目のRSA-RのKMO指標は.84で良好なサンプリングの妥当性を示しており,Bartlettの球面性検定も統計学的に有意であった(χ2(df) = 1996.181 (496), P < 0.01).本研究では2項目(No. 1, No. 6)において天井効果が確認されたため項目の削除を検討したが,RSA-Rは高得点が望ましい尺度であり,特にNo. 1「スタッフは私を温かく迎え入れ,施設内で心地よく過ごせるようにしてくれる」No. 6「スタッフは,私を言いなりにしようと圧力(脅しや金品を用いる等)をかけることがない」の2項目は本研究の趣旨を理解し同意が得られた施設において高得点であることが推測できた.そのため,項目を削除することなく因子分析を行った.
対象となった287人のデータから項目ごとD/K・N/Aの回答をペアワイズ法で除外しEFAを行ったところ,4因子構造で妥当かつ解釈可能な因子構造が得られた(表3).各因子は,第1因子を「人生のゴールと主体性(Life Goals and Responsibility)」,第2因子を「関与・参加すること(Involvement)」,第3因子を「他者や社会とのつながり(Connectedness)」,第4因子を「多様性(Diversity)」と解釈できた.
日本語版RSA-Rの因子負荷量(4因子構造・最尤法/Promax回転) n = 287
No | Items | Factor | |||
---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | ||
Factor 1:人生のゴールと主体性(Life Goals and Responsibility) | |||||
1 | スタッフは,私を温かく迎え入れ,施設内で心地よく過ごせるようにしてくれる. | .870 | .126 | –.220 | –.113 |
2 | この施設内の環境は,魅力的である. | .582 | .183 | .111 | –.192 |
3 | スタッフは,私がリカバリーへの希望や高い目標をもつよう励ましてくれる. | .751 | –.099 | .058 | –.068 |
4 | 私が希望すれば担当医や担当ケースワーカーを変更できる. | .361 | .353 | –.207 | .222 |
6 | スタッフは,私を言いなりにしようと圧力(脅しや金品を用いる等)をかけることがない. | .427 | –.008 | –.189 | .104 |
7 | スタッフは,私がリカバリーを達成できると信じてくれる. | .766 | –.162 | .005 | .118 |
8 | スタッフは,私が自分の症状をコントロールする力を持っていると信じてくれる. | .829 | –.031 | –.083 | –.007 |
9 | スタッフは,住む場所,仕事を始める時期,友人関係など,生活に関することは私が自分で決めることができると信じてくれる. | .736 | .020 | –.060 | –.052 |
10 | スタッフは,治療やケアについての私自身の意見に耳を傾け,尊重してくれる. | .841 | .036 | –.067 | –.142 |
12 | スタッフは,何らかのリスクがあっても新しいことに挑戦するよう私を励ましてくれる. | .536 | .083 | .111 | –.029 |
16 | スタッフは,病状を安定させるだけでなく,私が人生の目標を立て,それに向かって進んでいくことをサポートしてくれる.(就労,教育,身体的健康,家族や友人との関係,趣味等) | .522 | –.107 | .281 | .127 |
17 | スタッフは,私が仕事を見つけるのを日ごろからサポートしてくれる. | .428 | –.111 | .216 | .164 |
18 | スタッフは,私が生涯教育,スポーツ,趣味などの,精神科とは直接関係のない活動にも参加できるようサポートしてくれる. | .384 | –.004 | .315 | .082 |
28 | スタッフは,私が目標を達成する手助けをすることに一生懸命である. | .495 | .034 | .365 | –.094 |
32 | この施設のスタッフは,ライフスタイルや関心ごとなどの面で偏りがない. | .336 | .091 | .247 | .077 |
Factor 2:関与・参加すること(Involvement) | |||||
5 | 私が希望すれば複雑な手続きをせずに,カルテなど自分の記録を見ることができる. | .161 | .326 | –.044 | .184 |
23 | 新しい活動やプログラムを立ち上げるときには,私もスタッフの手伝いをするように勧められる. | –.124 | .570 | .280 | –.041 |
24 | 施設(サービス内容やスタッフの動き)の評価活動をするときには,私も参加するように勧められる. | .067 | .646 | .028 | .056 |
25 | 施設の運営に関する会議が開かれる際には,私も参加するように勧められる. | –.001 | .851 | –.148 | –.015 |
26 | スタッフは,私がこの施設を「卒業」するために何が必要かを,私と話し合ってくれる. | .194 | .221 | .171 | .215 |
29 | スタッフの教育や研修に係わる機会が,私にも与えられている. | –.107 | .765 | .078 | .030 |
Factor 3:他者や社会とのつながり(Connectedness) | |||||
11 | スタッフは,私が地域の中でしたいことについて日ごろから尋ねてくれる. | .186 | .147 | .302 | .239 |
13 | この施設では,私独自の人生経験に合わせてサービスが提供してもらえる. | .318 | .035 | .467 | –.090 |
19 | スタッフは,私の治療プランを立てるにあたって,私にとっての重要な他者(家族,友人,職場の上司など)も参加してもらえるようにしてくれる. | .001 | –.115 | .786 | .067 |
20 | スタッフは,私がお手本や相談相手にできるような,リカバリーを目指しているほかの仲間に私を紹介してくれる. | –.172 | .071 | .907 | –.094 |
21 | スタッフは,私が自助グループや当事者が運営するサービスとつながりを持てるようにサポートしてくれる. | –.075 | .120 | .728 | .041 |
22 | スタッフは,私が地域に貢献するための方法を見つけるようサポートしてくれる.(ボランティア,地域清掃等) | –.129 | .292 | .598 | –.077 |
27 | スタッフは,私が目標に向かっていく成長のプロセスを振り返ることを助けてくれる. | .366 | .065 | .453 | –.089 |
30 | スタッフは,私がこれまでに生活してきた文化や集団の中での体験や興味についてよく聴いてくれるし,反応を示してくれる. | .331 | –.185 | .494 | .129 |
31 | スタッフは,地域で活動する研究会や,その活動内容についてよく知っている. | .054 | .334 | .366 | .007 |
Factor 4:多様性(Diversity) | |||||
14 | 希望すれば,宗教的なことについて話し合う機会を設けてもらえる. | –.096 | .020 | –.044 | .931 |
15 | 希望すれば,性的なことについて話し合う機会を設けてもらえる. | –.102 | .137 | .073 | .670 |
※D/K・N/Aを含む欠損データについてはPairwise除去
4因子のモデルについて,CFAを行い,CFI及びRMSEA の値からモデルの適合度を確認した.CFI及びRMSEAの値はいずれも推奨基準値には満たなかった(CFI = .86, RMSEA = .065).しかし原版と同様の6因子モデル(CFI = .84, RMSEA = .070)と比較し,高いモデル適合度を示していた.
2) 併存的妥当性RSA-Rの併存的妥当性を確認するため,RSA-Rの合計及び各因子得点と,HHI及びCSQ-8の合計得点との関係性について,Spearmanの順位相関係数を算出した(表4).RSA-Rの全体得点はHHIの合計得点(ρ = .390; p < .01)及びCSQ-8(ρ = .612; p < .01)のとの間に有意な正の相関を認めた.
日本語版RSA-Rの併存的妥当性
HHI | CSQ-8 | Factor 1 | Factor 2 | Factor 3 | Factor 4 | RSA-R Total | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
HHI | 1.000 (n = 274) |
||||||
CSQ-8 | .535** (n = 270) |
1.000 (n = 280) |
|||||
Factor 1 | .375** (n = 274) |
.660** (n = 280) |
1.000 (n = 287) |
||||
Factor 2 | .312** (n = 260) |
.299** (n = 265) |
.389** (n = 271) |
1.000 (n = 271) |
|||
Factor 3 | .369** (n = 269) |
.581** (n = 275) |
.723** (n = 282) |
.583** (n = 282) |
1.000 (n = 282) |
||
Factor 4 | .162* (n = 188) |
.189** (n = 192) |
.259** (n = 198) |
.442** (n = 196) |
.403** (n = 197) |
1.000 (n = 198) |
|
RSA-R Total | .393** (n = 274) |
.619** (n = 280) |
.866** (n = 287) |
.684** (n = 271) |
.906** (n = 282) |
.494** (n = 198) |
1.000 (n = 287) |
Spearmanの順位相関係数(ρ) * p < 0.05 ** p < 0.01
各因子得点も第1因子・第2因子・第3因子については,HHI及びCSQ-8とそれぞれ弱~中程度の相関(.20 ≦ ρ < .70; p < .01)を示していたが,第4因子についてはHHI(ρ = .16; p < .05)及びCSQ-8(ρ = .19; p < .01)の間にほとんど相関を認めなかった.ただし,第4因子はその他の因子及びRSA-Rの総得点と弱~中程度の相関(.20 ≦ ρ < .70; p < .01)を示していた.
4. 日本語版RSA-Rの信頼性 1) 内的一貫性RSA-Rの内的一貫性を確認するために,すべての質問項目及び各因子を構成する質問項目について,Cronbachのα係数を算出した.RSA-Rの全体得点のCronbachのα係数は.94であり,第1因子は.93,第2因子は.84,第3因子は.84,第4因子は.80であった.
2) 再テスト信頼性RSA-Rについて,追跡調査に同意が得られた34名をサブサンプルとし,初回調査と追跡調査の回答内容を対応させ,重み付きκ係数及びICCを算出した.各項目の重み付きκ係数は,22項目で中等度以上の一致,5項目でまずまずな一致度を示していた.No. 8,9,31の3項目のみ,わずかな一致度であった.
2回の調査における各因子得点間のICC(1, 2)は,全ての因子及び全体得点において基準値以上の値(第1因子:.891,第2因子:.851,第3因子:.871,第4因子:.877,全体得点:.903)を示していた.ICCの95%信頼区間の下限値は第4因子で基準値とされる.70をわずかに下回っていた(第1因子:.783第2因子:.701,第3因子:.740,第4因子:.679,全体得点:.807).
本研究ではNo. 1,No. 6の2項目について,天井効果が確認された.この2項目は笹川らが行った先行研究でも同様に天井効果が確認されていた.No. 1「スタッフは,私を温かく迎え入れ,施設内で心地よく過ごせるようにしてくれる」については殆どの利用者が「当てはまる」と回答していたことから平均値が高くなり天井効果を示したと考えられる.No. 6「スタッフは,私を言いなりにしようと圧力(脅しや金品を用いる等)をかけることがない」は平均値が3.84でありながらSDが最も大きく,多くの利用者が「当てはまる」と回答している一方で,「当てはまらない」と回答した人が一定数いたことを意味している.
EFAでは,原版の6因子構造や他国の先行研究の因子構造と異なる4因子構造であることが示された.しかし,CFAにおけるモデル適合度は基準値に達しておらず,因子的妥当性を強く支持する結果は得られなかった.一方で,原版の6因子構造へのモデル適合度と比較すると良い数値を示していた.
本研究で示された4因子は原版の6因子構造と比較すると,本研究の第1因子「人生のゴールと主体性」は原版の第1因子「Life Goals」のうち10項目と第6因子「invite」の2項目を含んでいること,原版の第5因子「Individually Tailored Service」4項目は本研究の第3因子「Connectedness」にすべて含まれていることなど,半数の因子に共通点は見いだせるものの,残り半数の項目については複数の因子に分散している.共通点の多かった本研究における第1因子及び第3因子はCSQ-8と中程度の相関を認めており,他の第2因子・第4因子よりも強く相関していた.このことから第1因子・第3因子は本尺度の中でも特にサービス評価の概念を強く捉えている可能性が高いと考えられる.第2因子・第4因子はCSQ-8との相関も弱く,原版の第2因子「Involvement」第3因子「Diversity of Treatment Options」第4因子「Choice」が分散されていた.これは米国と本邦におけるサービス評価の概念や評価者の感覚の違いが影響していると考えられ,4因子構造で示されるモデルがより本邦のサービス評価の概念を反映していると考えられる.本邦のサービス評価の概念をより反映していると思われる4因子構造においても,モデル適合度が低い値を示していたことは,本尺度によって本邦におけるサービス評価の概念全体を明確に捉えることができていない可能性を示唆している可能性がある.
2) 日本語版RSA-Rの併存的妥当性日本語版RSA-RはHHI及びCSQ-8と有意かつ正の相関を示した.RSA-Rの全体得点はHHIよりもCSQ-8と強く相関しており,希望というリカバリーの構成要素(Copeland, 1997)よりも,患者満足度というサービス評価との関係が強いことを示すものである.すなわち,RSA-Rは利用者のリカバリーの要素を踏まえながらも,サービス評価尺度の側面を持つことを証する結果であり,RSA-Rの尺度としての目的に合致する妥当性を示すものと解釈できる.
2. 日本語版RSA-Rの信頼性 1) 日本語版RSA-Rの内的一貫性日本語版RSA-RのCronbach’s α係数は全体的に良好な内的一貫性を示していた.また,スウェーデンで行われた先行研究(Rosenberg, Svedberg, & Schön, 2015)と比較しても良好な値であり,十分に内的一貫性をもつと証することができる.
2) 日本語版RSA-Rの再テスト信頼性日本語版RSA-Rの各因子得点と全体得点における初回調査と追跡調査の得点間のICCは,いずれも基準値である.81を上回っており,良好な数値を示した.ICCの95%信頼区間下限値は第4因子のみ.70をわずかに下回っていたが,第4因子を構成する質問項目が2項目と少ないために,1項目の回答の変化が各因子得点に大きく反映されてしまったためであると考えられる.一方,その他の因子得点や全体得点は95%信頼区間の下限値が.70以上を示しており,良好な数値であるといえる.それぞれの項目の重み付きκ係数は,22項目で中等度以上の一致(moderate agreement),5項目でまずまずな一致度(fair agreement)を示していた.No. 8,No. 9,No. 31の3項目のみわずかに一致(Slight agreement)という結果であった.ICC及び重み付きκ係数の値から,全体的に良好で許容可能な再テスト信頼性が示された.なお,一致度の低い項目のうちNo. 8,9は「スタッフは~を信じてくれる」という設問であった.これはスタッフの内面や態度に対する推察を必要とする項目であり,根拠をもって評価しにくく,印象的な出来事があれば評定が変わる項目であることが考えられる.
3. 日本語版RSA-Rの各項目の回答率本研究ではNo. 4,5,14,15の4項目において,全回答者の3割以上がD/Kと回答していた.笹川らの研究においても同様に,これら4項目は回答率が特に低かった(有効回答率55.6%~65.3%).これらの項目は,利用者にとって判断しにくい内容であると考えられる.No. 4,5は担当医の変更やカルテ開示に関する応答を経験したかで回答が変わるが,経験していないと判断することができずにD/Kと回答した回答者が多かったと考えられる.また,No. 14,15は性や宗教に関する項目であり,これらの話題が少ないためにD/Kの回答を選択した者が多いと考えられる.この4つの項目について,D/Kと回答した人とそれ以外の回答をした人の間にHHI及びCSQ-8のスコアの有意差は確認できず,希望やサービス評価に大きく影響を与えている項目であるとは言えない.D/Kという回答はサービスに対する不満足を意味しているわけではない.よってD/Kは質問項目について,経験していないことを不満足であると回答することや無回答になることを防ぐ意味合いを持っている可能性がある.このことが,経験していない項目に回答する際の心理的負担を減らすことにもつながることが推察されるため,D/Kは回答可能性を高めるために必要な選択肢であると考えられる.
本研究は精神科デイケアの利用者のみを対象とした調査である.そのため,精神科デイケア以外のサービス利用者について同様の結果が得られるかは未検証である.
本研究では,精神科デイケアの利用者を対象に日本語版RSA-Rの因子的妥当性,併存的妥当性,内的一貫性,再テスト信頼性について検討した.日本語版RSA-Rは,リカバリー志向性の評価尺度として活用できる可能性が示された.
本研究は,日本精神保健看護学会令和4年度研究助成を受け実施し,本研究の一部は日本精神保健看護学会第33回学術集会において発表した.また,本研究は山形県立保健医療大学大学院保健医療学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.本尺度を検証するにあたり,翻訳した尺度の使用についてご承諾し,ご協力くださりました医療法人福智会 福智寿彦先生に感謝申し上げます.本研究を進めるにあたって,調査の準備段階から山形県立保健医療大学 髙谷新講師,東北文化学園大学 佐藤大輔講師にご指導・ご助言いただきました.ここに感謝申し上げます.加えて,Covid-19流行下において本調査を円滑に進めるために各府県で協力くださった,千里金蘭大学 木下みき助教,一般社団法人HOPE ケアフル訪問看護ステーション 酒井大輝氏,医療法人第一病院 豊内紳悟氏に感謝申し上げます.
本研究における利益相反は存在しない.
RSは研究の着想及びデザイン,データ収集・分析,論文の作成,SMはデータ分析,HAは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.