2024 Volume 33 Issue 2 Pages 116-120
日本精神保健看護学会は1991年に稲岡文昭名誉会員を初代理事長として設立,2017年6月に法人化され,今年は創設から34年目を迎えた.本学会は,精神看護学が看護基礎教育のカリキュラムの中で独立した柱として位置づけられていなかった当時,一学問分野として確立し,精神保健看護学の発展をはかり,広く知識の交流を行うことを目的に設立された.本学会は,日本に看護系の専門学会が少なかった時代に専門学会として発足し,日本の精神保健看護学を牽引してきた.日本の精神保健看護学における学術団体としての礎を築き,精神保健看護学の発展のために実践・教育・研究に係るさまざまな実績を積んでいる.その歴史については,本学会20周年記念誌を参照されたい.本稿では,34年間に開催された本会学術集会一覧を表に示した.
本シンポジウムは,本学会の創設や発展に貢献された南裕子名誉会員(本会設立発起準備委員),中山洋子会員(本会第3期理事長),武井麻子会員(本会設立発起準備委員,第4期理事長)の3名のシンポジストの発表と,精神保健看護学のさらなる発展のための取り組みについてフロアーとの語りあいを目的として行われた.座長は,設立準備から本学会に関与している会員として,永井優子(本会法人第3期理事長)田上美千佳(本会設立発起準備委員,本会法人第2期理事長)が担った.各シンポジストの発表内容は,本誌に掲載されている.掲載に際しては,シンポジウムのリアリティを再現できるように文体は発表時の話しことばとした.
本学会の歴史を振り返る上で,学術集会の変遷を把握することが役に立つ.そこで,本学会学術集会を概観し,表1に示した.
日本精神保健看護学会学術集会一覧(1991年~2024年)
回 | 会場 | テーマ | 主なプログラム |
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1 | 日本赤十字看護大学 (東京都) |
いま,なぜ精神看護学なのか | 対談「いま,なぜ精神看護学なのか」 稲岡文昭(日本赤十字看護大学)南裕子(聖路加看護大学) シンポジウム「精神看護学への期待」 羽山由美子(東京医科歯科大学)佐藤静子(松戸市立病院)野口美和子(干葉大学)宇田真紀子(東京共済病院) |
2 | 精神看護の未来と現実 | 講演「心の健康に援助する人のメンタルヘルス」 稲岡文昭(日本赤十字看護大学) シンポジウム「精神看護の過去・現在・未来」 宮良康永(東京武蔵野病院)松崎澄子(長野県駒ケ根病院)宮本真巳(東京精神医学総合研究所)川名典子(聖路加国際病院) |
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3 | 精神看護とチーム医療 | 講演「看護におけるチーム・ワーク」 鈴木純一(海上療養所院長) シンポジウム「精神医療におけるチームアプローチ―他職種と看護の接点を探る」 高林健示(都立梅ヶ丘病院)野坂節子(滋賀県立精神保健総合センター)深沢里子(聖路加国際病院社会事業部)富岡詔子(信州大学医療技術短期大学部), |
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4 | 精神看護と患者の意思決定 | 講演「精神病者の自己決定なしで人権擁護は存在しない」 小林信子(東京精神人権センター) シンポジウム「患者の意思決定を支える看護とは―患者の自立・看護の自立を考える―」 伊藤文(千葉県立精神医療センター)宮崎弘光(駒木野病院)小松博子(地域ケア福祉センター)小林政子(砧保健所) |
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5 | 北里大学看護学部 (神奈川県) |
精神看護の専門性を問う | 講演「精神看護の専門性を問う」 柴田恭亮(西南女学院短期大学) シンポジウム「精神科看護の危機―精神保健・福祉サービスの統合をめざして」 寺山久美子(東京都立医療技術短期大学)岡谷恵子(日本看護協会)岡崎直人(国立療養所久里浜病院)佐藤ゆみ(東京武蔵野病院) |
6 | 続・精神科看護の専門性を問う | 講演「ケアの時代に求められる看護婦の能力」 外口玉子(地域ケア福祉センター「かがやき会」理事長) シンポジウム「生活の場で患者を支える実践を通して」 遠藤俊子(NTT関東健康管理所)世良守行(高田馬場クリニック)柏木由美子(東京都三鷹保健所)鈴木純惠(北里大学東病院)司会:稲岡文昭(日本赤十字看護大学)中山洋子(聖路加看護大学) |
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7 | 聖路加看護大学 (東京都) |
精神看護領域における臨床教育―基礎教育から卒後教育への継続性― | 講演「精神看護における臨床教育」 池田明子(北里大学看護学部) シンポジウム「基礎教育から卒後教育への継続性」 中川幸子(千葉大学看護学部)宮内美紀子(医療法人近森会近森病院第二分院)坂田三充(長野県看護大学)粕田孝行(碧水会長谷川病院)司会:岡谷恵子(日本看護協会研修センター)安藤幸子(神戸市立看護大学) |
8 | 急性期ケアのジレンマ―人権の保障と最小限の拘束― | 「急性期ケアのジレンマ―人権の保障と最小限の拘束―精神科臨床における倫理上の諸問題:意志決定に関連して」 Lucy Fisher RN.MS (Educational Director of the San Francisco Mental Health Rehabilitation Facility)} シンポジウム「急性期ケアのジレンマ―人権の保障と最小限の拘束―」 釜英介(東京都松沢病院)荻野美智子(青木末次郎記念会相州病院)Lucy Fisher中山洋子(福島県立医科大学) |
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9 | 精神科長期在院患者の看護ケアへのチャレンジと資源開発 | 講演「フィンランドにおける精神科慢性患者の看護ケア」 Maritta Valimaki, (University of Turku, Dept of Nursing, Finland) シンポジウム「精神科長期在院患者の患者ケアへのチャレンジと資源開発」 千葉信子(井之頭病院)工藤正(東京都立松沢病院)安藤 一博(東京武蔵野病院)小峯和茂(西ヶ原病院)Meritta Valimaki |
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10 | 福島県立医科大学看護学部 (福島県) |
看護理論とその精神科実践への適応 | 講演1「セルフケアモデルと日本の精神科看護実践への適用」 Patricia Underwood(兵庫県立看護大学) ケースプレゼンテーション 事例提供:池田由利子・遠藤都子(竹田総合病院)大川貴子(福島県立医科大学)コメンテーター:Patricia Underwood 講演2「人間間係の理論と精神科看護実践」 Philip J Barker (University of Newcastle) |
11 | 東京女子医科大学 (東京都) |
リエゾン精神看護―その学的基盤と実践― | 講演「リエゾン精神看護―その学的基盤と実践―」 Pamela A, Minarik(エール大学)川名典子(聖路加国際病院) シンポジウム「日本におけるリエゾン精神看護の可能性」 野末聖香(慶応義塾大学)川名典子(聖路加国際病院)池田明子(北里大学)堀川直史(東京女子医科大学)Pamela A, Minarik コメンテーター:田中美恵子(東京女子医大学) |
12 | 日本赤十字広島看護大学 (広島県) |
精神病院文化と看護者のかかわり | 講演「ヘルスケア環境の変化と精神看護の実践」 W. Pearl, Washington シンポジウム「精神科看護の常識と非常識」 今泉正臣(国立療養所星塚敬愛園)荻野雅(千葉大学)柴田恭亮(日本赤十字広島看護大学)三原淳子(岡山県河田病院) |
13 | 都市センターホテル (東京都) |
精神科看護の経験 | 講演1「仕事,それとも愛情?―社会学者からみたケアの現在―」 春日キスヨ(安田女子大学) 講演2「感性を磨く技法」 宮本真巳(東京医科歯科大学) シンポジウム「越境する看護―精神科ナースの経験」 橋本きみ(元北見医師会看護専門学校)宮本めぐみ(東京医科歯科大学)古城門靖子(神戸大学医学部付属病院) |
14 | 朱鷺メッセ(新潟県) | 精神看護の近未来~二極化現象を越えて~ | 講演「精神看護の近未来~二極化現象を越えて~」 阿保順子(北海道医療大学) シンポジウム「教育と臨床のコラボレーション」 五十里瑞枝(牧病院)野田文隆(大正大学,ブリティッシュ・コロンビア大学)佐藤久美(小千谷市健康福祉課健康センター)永井優子(自治医科大学) |
15 | 北海道立道民活動センター(かでる2・7) (北海道) |
変容する精神保健問題への看護職のチャレンジ~医療・司法・看護の重なりのなかで~ | 講演「ボーダレス社会での看護の行方」 粕田孝行(高知女子大学) シンポジウム「うつの時代―社会の読み解きと看護実践の手がかり―」 高岡健(岐阜大学医学部)山城紀子(フリーライター-元沖縄タイムス論説委員)宇佐美しおり(熊本大学)横尾由紀子(ダイエー健康保険組合) |
16 | 自治医科大学キャンパス (栃木県) |
変貌する精神保健看護のゆくえ~病院と地域ケアの重なりとすき間~ | 講演「“あたりまえ”を当たり前に 精神保健看護専門職の役割を問う」 中山洋子(福島県立医科大学看護学部 学部長) シンポジウム「人と病院,地域,法とのつながりとはざま~ケアの可能性を探る~」 山本譲司(元衆議院議員)佐藤るみ子(国立精神・神経センター武蔵病院)小川悦子(群馬県伊勢崎市東保健センター)廣田真一(精神障害者生活支援センターさの) |
17 | 北里大学 L3号館 (神奈川県) |
いま,改めて精神看護を考える | 講演「日本精神保健看護学会の方向性を問う ~本学会の16年間の歩みを振り返って~」 池田明子(北里大学名誉教授) シンポジウム「私の精神看護を支えるもの・阻むもの」 河野伸子(医療法人社団碧水会長谷川病院)中嶋寿恵(慈恵柏看護専門学校)渡辺勝次(積善会曽我病院) |
18 | 東京女子医科大学 (東京都) |
精神看護における倫理 臨床倫理と権利擁護 | 大会長講演「精神看護と臨床倫理」 田中美恵子(東京女子医科大学) 基調講演「精神看護における倫理と権利擁護」 ダグラス P. オルセン(エール大学) シンポジウム「精神看護の臨床倫理と権利擁護」 |
19 | 慶應義塾大学看護医療学部 (神奈川県) |
精神看護実践における看護師の役割拡大 | 大会長講演「精神看護実践における看護師の役割拡大―担うべき役割と方向性―」 野末聖香(慶應義塾大学) 基調講演「Expanding the role of psychiatric & mental health nurses-processes, achievement & challenges」 Susan M. Adams (Vanderbilt University School of Nursing) シンポジウム「精神看護分野における看護師のチャレンジ―役割拡大を目指して―」 |
20 | 聖路加看護大学 (東京都) |
精神看護のアウトカム―測れるもの・測れないもの― | 大会長講演「精神看護のアウトカム」 萱間真美(聖路加看護大学) 基調講演「Evaluation of Outcomes in Psychiatric Nursing Practice」 Richard Yakimo(University of Missouri-St. Louis College of Nursing) シンポジウム「精神看護のアウトカム―測れるもの・測れないもの―」 野末聖香(慶應義塾大学)宮本真巳(東京医科歯科大学)岡田佳詠(筑波大学) |
21 | 愛知県産業労働センター(ウインクあいち) (愛知県) |
精神看護の先進的実践を求めて | 大会長講演「精神看護の先進的実践を求めて:精神看護の業務拡大と課題」 岩瀬 信夫(愛知県立大学) 基調講演「Role Development & Education of the Psychiatric Advanced Practice Registered Nurse」 Bethany Phoenix(カリフォルニア大学サンフランシスコ校) シンポジウム「精神看護の先進的実践を求めて:精神看護の専門性と看護業務の拡大のあり方に焦点をあてて」 三ヶ木聡子(筑波メディカルセンター病院)長谷川雅美(金沢大学)藤田幸子(Toowong Private Hospital,Australia)指定発言者:Bethany Phoenix |
22 | 熊本市民会館・熊本市国際交流会館 (熊本県) |
根拠に基づく精神看護の実践~患者・家族の体験及び研究を統合した先駆的看護実践~ | 大会長講演「根拠に基づく精神看護の実践―患者・家族の体験,先駆的看護実践と研究の統合―」 宇佐美しおり(熊本大学) 基調講演「Evidence-Based Psychiatric Nursing for Community-Based Patients:Behavioral Management of Auditory Hallucinations(精神障害者の地域生活を促進するための根拠に基づく看護―幻聴の行動マネージメントプログラム―)」 Robin Buccheri(University of San Francisco, School of Nursing)Louise Traygstad(Emerita in the School of Nursing, USF) シンポジウム「精神看護における患者・家族の体験,先駆的看護実践と研究の統合」 福嶋好重(横浜市立市民病院)池田学(熊本大学)宇野木照代(菊陽病院)中山洋子(福島県立医科大学) |
23 | 京都テルサ(京都府) | 精神看護の原点―叡智の伝承― | 大会長講演「臨地・教育から学んだ精神看護の原点と叡智」 北島謙吾(京都府立医科大学) 基調講演 精神看護の原点―変わっていくもの,変わってはならないもの― 坂田三允(多摩あおば病院) シンポジウム「精神看護の原点―臨床・研究・地域の叡智を伝承する―」 宮本真巳(亀田医療大学)田上美千佳(東京医科歯科大学)清水美代子(元兵庫県精神保健福祉センター) |
24 | 横浜市立大学金沢八景キャンパス (神奈川県) |
嗜癖を知って看護に活かす―精神保健看護とアディクション問題 | 大会長講演「嗜癖を知って看護に活かす―精神保健看護とアディクション問題―」 松下年子(横浜市立大学) 基調講演 アディクション問題を含めた精神保健医療における高度実践看護の実際と展望 Diane Snow(The University of Texas at Arlington College of Nursing) シンポジウム「精神保健看護における先駆的実践と将来展望」 増子徳幸(訪問看護ステーションACT-J)渡辺純一(公益財団法人井之頭病院)白井教子(北里大学病院)田上美千佳(東京医科歯科大学) |
25 | つくば国際会議場 (茨城県) |
新たな精神保健看護の開発を求めて | 大会長講演「精神看護の新たな援助の開発を求めて―その人らしく生きることを支援するために―」 森千鶴(筑波大学大学院) 法人化記念対談「これからの精神保健看護を支える学会への期待」 池田明子(北里大学名誉教授,社会福祉法人らっく)武井麻子(日本赤十字看護大学名誉教授) シンポジウム「質の高い看護実践を目指した新たな取り組み」 安保寛明(山形県立保健医療大学)鬼塚愛彦(駒木野病院)瓶田高和(国立精神・神経医療研究センター病院)熊地美枝(国立精神・神経医療研究センター病院) |
26 | びわ湖ホール・ピアザ淡海 (滋賀県) |
こころと身体と社会を紡ぐ精神保健看護 | 理事会企画「論文投稿時の研究者ルール」 岡田佳詠(筑波大学大学院) 基調講演「災害からの復興と心のケア―新たなパラダイムの予知」 南裕子(高知県立大学) シンポジウム「こころと身体と社会を紡ぐ看護の今とこれから」 田村恵子(京都大学大学院)岡美智代(群馬大学大学院)木村里美(社会福祉法人恩賜財団済生会滋賀県病院) |
27 | 札幌市教育文化会館(北海道) | “語り”の後の精神保健看護を語り合う~試される未来へ向けて~ | 大会長講演「語りの後の精神保健看護を語り合う~私のナラティブ・ターン~」 吉野淳一(札幌医科大学) 教育講演「精神科看護は当事者の言葉からはじまる―ストレングスモデル・質的研究における当事者の言葉のチカラ」 萱間真美(聖路加国際大学) 対話シンポジウム「語り合う当事者・看護者~試される未来へ向けて~」 コンダクター:武井麻子(Office-Asako)守村洋(札幌市立大学)座長:山本勝則(岩手保健医療大学)澤田いずみ(札幌医科大学) |
28 | 国立看護大学校(東京都) | 共生社会をひらく 精神保健看護の力―語る力 受ける力 つくる力― | 学術集会会長講演「共生社会をひらく 精神保健看護の可能性」 森真喜子(国立看護大学校) 教育講演「浜松市でのNPO法人E-JAN,20年の取り組み―問と解の螺旋から共生社会を考える」 大場義貴(聖隷クリストファー大学) 特別講演「精神医療従事者と利用者らの関係性の再考―アウトリーチサービス,共同意思決定の実践などからの考察」 伊藤順一郎(メンタルヘルス診療所しっぽふぁーれ) 市民公開講座「親が精神障がいを抱えている子供たちを絵本を通して応援する」 細尾ちあき(NPO法人ぷるすあるは,NPO法人埼玉ダルク)北野陽子(NPO法人ぷるすあるは)座長:横山惠子(埼玉県立大学) |
29 | ウインクあいち(愛知県) | 当事者・家族・支援者を結ぶ 精神保健看護の理論と実践~私たちは声をきけているか?~ | 学術集会会長講演「家族ケアの実践とエビデンス」 香月富士日(名古屋市立大学) 教育講演「精神疾患をもつ人を支える包括的ケア」 大島 巌(日本社会事業大学・地域精神保健福祉機構COMHBO) シンポジウム「リカバリーを目指す支援~家族ケアの重要性~」 木村尚美(ひだクリニック)ご家族 渕野真広(愛知県精神医療センター)加藤明美(愛知県医療療育総合センター中央病院) 市民公開講座「マインドフルネスと臨床瞑想法」 大下 大圓(飛騨千光寺/日本スピリチュアルケア学会) |
30 | オンライン開催 | 地域移行支援の哲学~政策と実践への具現化(embodiment)~ | 会長講演 地域移行支援の哲学―政策と実践への具現化(embodiment)― 白石裕子(国際医療福祉大学福岡看護学部) 教育講演1「伴走型支援と問題解決型支援―看護はハイブリッドモデルで」 萱間真美(聖路加国際大学) 教育講演2「自尊心回復グループセラピーにみるリカバリー」 國方弘子(香川県立保健医療大学) 教育講演3「『ベネフィット・ファインディング』―概念をどのように看護に生かせるか」 千葉理恵(神戸大学大学院) 教育講演4「精神看護における認知行動療法を再考する:看護師でもできること,看護師だからできること」 吉永尚紀(宮崎大学) |
31 | ライブ配信(配信会場:山形テルサ,山形県) | 精神保健の時代をひらく共創造 | 会長講演「精神保健の時代をひらく共創造」 安保寛明(山形県立保健医療大学 |
32 | ライブ配信(配信会場:武蔵野大学有明キャンパス,東京都) | 精神保健における精神看護の責務~Withコロナの中でのチャレンジ~ | 会長講演「精神保健における精神看護の責務―Withコロナの中でのチャレンジ」 荻野雅(武蔵野大学) |
33 | 神戸国際会議場 (兵庫県) |
精神保健看護がめざす多様性と包摂性の実現に向けて | 会長講演「精神保健看護が目指す多様性と包摂性~生きづらさを抱える人たちに何ができるか~」 船越明子(神戸市立大学) |
34 | 国際医療福祉大学成田キャンパス(千葉県) | 共に考え,創り,積み上げる | 会長講演「共に考え,創り,積み上げる」 岡田佳詠(国際医療福祉大学成田看護学部) |
本稿では,シンポジストとの事前打ち合わせやフロアディスカッションから浮かび上がった本学会と精神保健看護学への希望・期待と課題を中心に述べる.これらは,以下の7項目にまとめられた.
1.コロナ禍の看護状況の総括を行うこと:①コロナ禍での看護職の苦しみや心的外傷を見据えたコロナ禍の状況を総括し記録に残し,現在もある支援の必要性をふまえ学会を挙げて取り組むこと・研究を行うこと.②コロナ禍の看護教育を振り返ること・語ることの必要性とそれらが行われること.③家族との断絶を患者に強いたこと,安全を守るために家族からの隔離を強いたことの整理と共有を行うことで同じことを繰り返さないようにすること.④コロナ禍の振り返りを行う上では時期や内容を考慮し,今,語れることを語り始め,それを積み重ねていくことが総括につながっていくであろうことから,学会として語ることを継続していくことへの期待.
2.看護師支援の体制を作ること:コロナ禍で精神看護専門看護師が病院や地域を超えて援助やコンサルテーションを行った経験から,精神看護の専門性の高い人たちが組織や地域を超えて看護師(訪問看護を含む)が,看護師を支えあう体制・システム作りを全体的に考えることへの期待.
3.教育の場にいる看護職が,日ごろから看護実践活動を行うこと:普段から看護実践活動を行うことで実践の場のニーズを支援する力量や関係性の構築を図ることにより,コロナ禍での組織管理者の苦難(悲鳴・悲嘆)への相談等,必要な時に実践に還元することへの期待.
4.在宅での看取りの際の家族が満足する支援体制を築くこと:①地域看護・入院医療機関でできることと地域で行う支援体制の構築の強化・補強,②実践的に使えるケアの方法や手立てを増やすこと,③経験から学んだものを手立てとして実践に活用できる形を示すこと.
5.人権意識がたやすく失われることを認識すること:施設や医療機関における虐待の問題やコロナ禍で家族が面会できるようにどうしたらよいかという考えではなく,患者と家族の面会を禁止するような流れの中で容易に生じる人権意識の軽さ(低さ)への警告.
6.相互信頼がなくなることの危惧を抱くこと:コロナ禍や震災・凶悪犯罪で人間関係が難しくなり,「心理的安全性」が傷つけられることが個人だけではなく組織全体を揺るがす現代社会の課題であることの認識.
7.精神保健看護学の方向性と取り組みを考えること:現在,看護職がメディカルモデルに専門性を見出す傾向が加速する中で,精神保健看護学は何をめざして何を行っていくのかを考えることの必要性.
この他,精神科医療において虐待が生じる問題や,臨床現場で「リカバリー」の考え方が浸透せずにケアに反映されないという課題についての疑問もフロアーから寄せらせた.
これらの希望・期待や課題は本学会員に託されたことである.このシンポジウムを契機に,今後,語りあって共に実践していくことが会員への期待であり,責務でもあると考える.90分間というシンポジウムとしては長くない時間の中で,シンポジストの先生方に端的にお話しいただき,語り合う時間を含めて多くの示唆が得られたことに感謝したい.