Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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The Impact of the COVID-19 Pandemic on Individuals with Addiction: A Qualitative Study
Toko KidaYuki Miyamoto
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 49-58

Details
Abstract

新型コロナウイルス感染症拡大下において,依存症をもつ人は,再発のリスクを高めうる心理社会的影響を受けたと同時に,依存を克服するのに役立つ社会的資源の変容も経験した.本研究の目的は,依存症をもつ人が感染症拡大下でどのような体験をしたのかを明らかにすることである.そこで,依存症をもつ6名に半構造化面接を行った後,テーマ分析を行った.その結果,感染症拡大が依存対象の再燃を促す要因として,社会的制限や対面の自助グループへの参加困難が挙げられた.一方で,これらの悪影響を緩和した要素として,中でも依存症からの回復をともに目指す仲間の支えが大きいことが分かった.考察により,感染症拡大下においても仲間とのつながりを維持する工夫が依存対象の再使用の防止にとって重要であることが示唆された.本研究は,ポストコロナ時代における仲間との様々なつながり方の是非を考える布石となるものである.

Translated Abstract

During the COVID-19 pandemic, individuals with addiction faced increased relapse risks and changes in supportive social resources. This study aimed to uncover how the subjective experiences of people living through the pandemic influenced their addictive behaviors. Semi-structured interviews were conducted with six adults dealing with addiction, and subsequent thematic analysis was performed wherein several key findings emerged. Pandemic-induced social restrictions and the inability to access in-person support groups were identified as factors prompting substance reuse or addictive behaviors, however, peer support played a crucial role in buffering these negative impacts. This study underscores the importance for those on a recovery journey to maintain supportive connections with recovery peers during challenging times. This insight is vital for understanding addiction recovery dynamics in the post-pandemic era, suggesting the need for innovative approaches to foster and maintain supportive peer connections among those struggling with addiction.

Ⅰ  はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に初めて確認され,2020年3月にはWHOがパンデミック宣言をするまでに世界中に拡大した(WHO, 2020).感染症拡大とそれに伴う感染対策措置は世界中の人々に,感染への不安,フィジカルディスタンスや人的交流の制限による社会的孤立,ビジネス縮小による楽しみの喪失や経済的困難など様々な心理社会的影響を引き起こした(Ornell et al., 2020).世界中の人々が感染症拡大と感染対策のための措置からメンタルヘルス悪化などの影響を受けるが,中でも依存症をもつ人は,経済的困難や孤立により物質乱用や依存行動のリスクが上がり,依存症の悪化につながることが懸念される(Dubey et al., 2020).また,苦痛を和らげるために依存行動が起こるという「セルフメディケーション仮説」から考えれば(Khantzian, & Albanese, 2008),感染症拡大による心理社会的ストレスへの対処として依存行動が生じる人が増えると予測できる(Volkow, 2020).その上,依存症をもつ人の自助グループや依存症回復施設は感染症対策の措置のため集まりの開催が休止・縮小されるなどアクセス困難になった.

アルコールなどの依存対象の使用および依存症の有病率は,感染症拡大下に世界的に増えた.ロックダウンの間,米国・英国・フランス・ドイツではアルコール消費量が大幅に増え(a Dow Jones company, 2020Finlay, & Gilmore, 2020Rolland et al., 2020Koopmann et al., 2020),中国では2020年のアルコール使用障害の有病率が2018年(4.4%)の2倍以上(11.1%)になった(Ahmed et al., 2020).アルコールの他にも,COVID-19拡大以降,オーストラリアのオンラインギャンブル利用は67%増加(Hipther Agency, 2020),中国では重度のインターネット依存症の有病率(4.3%)は感染症拡大以前(3.5%)から23%増えた(Sun et al., 2020).

前述のとおり,感染症拡大下で依存行動が量的に増加したことは報告されており,COVID-19拡大以前から依存症をもっていた人たちの依存症悪化が懸念されるものの,依存症をもつ人たちがこの状況下でどのように過ごしていたのかの報告は見当たらない.加えて,社会資源が依存症をもつ人に果たす役割は非常に大きいにも関わらず,感染症拡大下において,社会資源の状況変化が依存症をもつ人へどのような影響を与えたかに関する先行研究も確認されていない.COVID-19拡大以前から既に依存症に悩まされてきた人たちを対象として,COVID-19拡大による依存症をもつ人への影響を,社会資源が果たす役割にも着目し明らかにすることが求められている.

Ⅱ  研究の目的

本研究の目的は,依存症をもつ人が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大によりどのような影響を受けどのような体験をしたのかを明らかにすることである.

Ⅲ  方法

1. 参加者

①COVID-19感染拡大以前から依存症を抱えていること,②依存症回復コミュニティ(依存症回復施設や自助グループなど)を利用していること,③20歳以上であること,を組み入れ基準として,首都圏にある依存症回復施設2施設の協力を得て,5~10名程度を念頭に参加者を募集した.なお,本研究の参加者募集に協力を得た施設はアルコール,薬物,ギャンブル,性依存等さまざまな依存症をもつ人の利用する施設であった.依存症の経験期間について,感染拡大以前からということ以外には設定はしなかった.

2. データ収集方法

研究参加者6人中5人には,2021年7月~9月に個別に面接場面を設定した.面接は全て,施設スタッフが常駐する事務所で,女性である調査者(第一著者)によって行われたが,スタッフとは離れた位置で,スタッフは介入せずに参加者と調査者の1対1で話すことによって,プライバシーの保護に努めた.調査者はこの調査のために外部から訪問した者であり参加者と既知の関係ではなかった.参加者が自身の主観的体験を話すことに関する心理的負担を軽減するため,答えたくないことは答えなくてよいことなどの倫理的配慮を含め研究説明を丁寧に行った.属性や生活状況について自記式質問紙に記入してもらった後にインタビューガイドに沿った半構造化面接を行った.

インタビューでは,新型コロナウイルス感染拡大によって依存症をもつ人がどのような影響を受けどのような体験をしたのかを本人から聞くために,依存症回復コミュニティの利用状況と依存対象の使用状況に変化があったかどうか,変化があった(もしくはなかった)場合にはどのような変化があったのか,気持ち,生活,日々の過ごし方などその心理社会的背景について尋ねた.それ以外にも,面接の流れに応じて適宜質問を追加した.面接内容は,参加者の同意を得て録音し,逐語録を作成した.面接時間は,アンケート記入時間も含めて61分~77分であった.

残りの研究参加者1名は,参加者募集に協力した施設と本人からの要望により対面による面接を行わずに文書で回答を得ることになった.他の参加者同様自記式質問紙を記入してもらった上で,対面での面接におけるインタビューガイドと同じ質問項目により構成された自由回答アンケートに紙上で回答を得た.その文書による回答をそのまま書き起こしてデータとした.本人から得た自由回答は約3000字であった.

3. 分析方法

本研究では,依存症をもつ人が感染症拡大によりどのような影響を受け,どのような体験をしていたのか,そのパターン(テーマ)を参加者の語りのデータから帰納的に見出すために,テーマ分析を行った.

テーマ分析はBraun, & Clarke(2006)の方法を参考にし,以下の手順で分析を行った.インタビューデータの逐語録及び文書による回答の書き起こしを作成し,データを繰り返し読んで理解を深めた.データを意味のまとまりをもった数文ごとに区切り,語られた言葉を多く引用しながらコードを付けた.コードをそれぞれ短冊状の紙に印刷し,その短冊状の紙をコードが表す意味の関連に従って配列・グループ化した.グループ化されたコードをまとめテーマを生成し,テーマ内の一貫性やテーマ間の異質性が保たれるように,サブテーマを生成しながらテーマを繰り返し検討・修正した.生成されたテーマの内容を端的に表すようテーマ名を付け,テーマ間の関係性が分かるように図式化して確認した.

分析の途中で依存症をもつ人との関わりの経験を有する研究者や看護師とのディスカッションを行い,データが確実に把握され結果に表現されるよう努めた.

4. 倫理的配慮

研究参加者には,研究の目的,方法,研究協力の任意性と撤回の自由,個人情報の保護について,調査開始前に説明文書と口頭で説明した.そして,研究参加について書面で同意を得,面接内容の録音について口頭で同意を得た.プライバシーの確保のため,面接は1対1で静かな環境で行い,データ収集後はデータを匿名化して分析を行った.本研究は東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認を得て実施された(審査番号:2020136NI-(3)).

Ⅳ  結果

1. 研究参加者の概要

参加者6名の年齢は,二十代が1名,三十代が4名,四十代が1名で,全員男性であった.依存対象はアルコールが3名,ギャンブルが2名,性が1名であった.5名がグループホームを利用,残り1名は一人暮らしであった.全員が自助グループを利用していた.

2. COVID-19拡大以前の参加者の状況

COVID-19拡大以降に施設に繋がった参加者もいた一方で,それ以前から施設に繋がっていた参加者は全員,以前は週5~7日ほど,日中は施設のデイケアに参加し,夜は各自で外部の自助グループに参加する生活を送っていた.参加者からは,COVID-19拡大以前は,自助グループがしらふでいるための支えとして重要な意義を持っていたことが語られた.

3. COVID-19拡大による研究参加者への影響

参加者の語りから,感染症拡大下で,依存対象の使用を促してしまうような「COVID-19拡大に関連して依存対象の再使用を促進した体験」(7テーマ)と再使用を促進するような悪影響を打ち消したり救ったりする「COVID-19拡大に関連した悪影響を緩衝した体験」(6テーマ)が見いだされた(表1).

表1 新型コロナウイルス感染症拡大による依存症をもつ人への影響

テーマ サブテーマ
依存対象の再使用を促進 感染症への恐怖を感じた
店の休業などで依存対象がなくなった
違う対象に依存するようになった
依存はなくなったが精神的な打撃を受けた
趣味や仕事など社会参加がしづらくなった
ストレス発散法が自粛のせいで出来なくなった
対面の自助グループに行けなくなった
周りに感染させないように自ら自助グループに行くことを自粛した
第一回緊急事態宣言時は自助グループが閉鎖してしまった
所属する施設の要請により自助グループに行くことを自粛した
対面の自助グループに行けないことで心理的影響を受けた
対面の自助グループに行けないストレスを感じた
対面の自助グループに行けなくなって逆に良かった
対面の自助グループがなくなり時間やお金の余裕ができた
自助グループに行けない代わりに様々な時間の過ごし方をした
依存対象を使いやすくなった
感染症拡大の悪影響を緩衝 施設が感染症拡大下での対応を行った
施設の対応が助けになった
施設の対応に不満を感じた
仲間と一緒にオンラインミーティングを始めた
オンラインミーティングが助けになった
オンラインミーティングに不満や物足りなさを感じた
対面の自助グループに改めて価値を感じる
仲間を目の前にして話を聴くことで改めて自分の依存について気づきを得た
ミーティング以外の時間も仲間と過ごすのが楽しみで癒しになる
対面だからこその雰囲気や温かい感覚などを感じる
対面の自助グループに行くことが必要だと感じる
感染対策との兼ね合いを考えながら対面の自助グループに行く
仲間に支えられた
施設を居場所として仲間と時間を共にしたことが楽しさや安心につながった
グループホームで共同生活する仲間が心の支えになった
施設の職員に相談することで依存対象への欲求を解消できた
スポンサーに相談したおかげでスリップしなかった
仲間がいるからスリップしないでいられる
体を動かすことがストレス発散になった
仕事があるおかげで依存欲求もなくなった

以下に,サブテーマと参加者の語りを用いながらそれらのテーマを説明する.テーマは【 】,サブテーマは〈 〉,で示す.参加者の語りは斜体で示し,データの後の( )内に発言者とその発言者の依存対象を示す.語りに出てくる「AA」とはアルコール依存の人のための自助グループを指す.

1) COVID-19拡大に関連して依存対象の再使用を促進した体験

参加者らは,感染症拡大に伴って【感染症への恐怖を感じた】.それと同時に,【店の休業などで依存対象がなくなった】り,【趣味や仕事など社会参加がしづらくなった】り,【ストレス発散ができなくなった】り,【対面の自助グループに行けなくなった】り,感染対策のための規制や自粛による社会的影響を受けた.中でも,【対面の自助グループに行けなくなった】影響は大きく,【対面の自助グループに行けないことで心理的影響を受け】て〈対面の自助グループに行けないストレスを感じた〉り,【対面の自助グループに行けないことで時間やお金の余裕ができた】ことで〈依存対象を使いやすくなった〉りした.

(1) 【感染症への恐怖を感じた】

参加者のうち2人は感染症への恐怖を感じていた.これらが直接依存行動の変化の原因として語られることはなかったが,1人は依存対象を再使用しそうになり,もう1人は再使用してしまっていた.

(2) 【店の休業などで依存対象がなくなった】

感染症対策措置として,依存行動がとれる様々な店が時短や休業の措置をとった.この影響で〈違う対象に依存するようになった〉人もいれば,〈依存はなくなったが精神的な打撃を受けた〉人もいた.

「スリップの内容が風俗店や出会い系,ハプバーなどの比較的合法なものが多めだったのに,それらも自粛や休業となって,再びのぞきの方に向かう率が高くなってしまったと思います.」(F氏,性)

「パチンコ屋さんがしまったりして好き放題ギャンブルがなかなかできなくなったってところはありますね.(その状況は気持ち的にマイナスに働いたんですか.)自分にとってはちょうどいいかなとも思ったんですけど,…マイナスの部分もあるかなって思います,気が滅入るというか.」(E氏,ギャンブル)

(3) 【趣味や仕事など社会参加がしづらくなった】

感染対策のための規制や自粛などの感染対策措置により社会参加がしづらくなったことは,依存対象の再使用の直接的な原因となっていた.

「自助グループは一時自粛になり,友人と遊んだり映画館などの趣味の時間は圧倒的に減り,またアルバイトや自営の仕事依頼の受注も圧倒的に減りました.……中略……それまで毎日スリップしていたわけではなかったのが,(スリップが)ほぼ毎日に増えたと思います.」(F氏,性)

(4) 【ストレス発散法が自粛のせいで出来なくなった】

他にも,感染対策措置によって,再使用しないために普段から工夫していた様々なストレス発散法ができなくなってしまった人がいた.

「部活(※施設の課外活動)自体自粛になって,もちろんAAも自粛になって,夕方ミーティングもなかった時もあって.(それまではそれらの活動で)ストレスをいっぱい分散させてたんですけど,それがまた全部なくなっちゃって.やっぱりお酒しかなくなっちゃって.」(C氏,アルコール)

(5) 【対面の自助グループに行けなくなった】

対面の自助グループは,感染症拡大以降,様々な理由によって行くことが困難になった.まず,〈第一回緊急事態宣言時は自助グループが閉鎖してしまった〉.その後,対面の自助グループが少しずつ再開されてからも,〈周りに感染させないように自ら自助グループに行くことを自粛した〉り,〈所属する施設の要請により自助グループに行くことを自粛した〉りした.

(6) 【対面の自助グループに行けないことで心理的影響を受けた】

〈対面の自助グループに行けないストレスを感じた〉ことも語られていた.

「結構コロナで,AA(に)行ったり行けなかったりはして,ストレスがだんだん溜まってって,…で結構ストレスが溜まるとやっぱお酒を飲んでしまうっていうのがあって.」(C氏,アルコール)

「AA行こうかって思ったらAAが閉まりだしたんですよ.で,あ,これ俺飲む,飲むしかねえじゃねぇかよと思った時期がこのくらいの時です.」(A氏,アルコール)

一方で,通いだしてまだ日が浅い時に自助グループに行けなくなった者の中には,〈対面の自助グループに行けなくなって逆に良かった〉と感じた人もいた.

「僕その頃ね,まだ(施設に)来て2,3ヶ月でしょ.…早く帰りたいな,なんて思ってたから,AAなんて(閉まって)もう別にラッキーくらいに思ってたと思います.」(B氏,アルコール)

(7) 【対面の自助グループがなくなり時間やお金の余裕ができた】

それまで自助グループに使っていた時間が余り,〈自助グループに行けない代わりに様々な時間の過ごし方をした〉.その時間を楽しんでいた人もいれば,そうではない人もいた.対面の自助グループに通っていた時期に比べて,時間とお金の余裕により〈依存対象を使いやすくなった〉結果,再使用に至った人もいた.

「コロナ前はスケジュールが(自助グループで)夜までしっかり詰まってるんで,…実質的に(ギャンブルしに行くのが)無理だったというか.」「普段は生活費を毎日一日2000円でもらって,全部交通費もそこん中に含まれてるんですけど,自助グループ行かなかったことによって,その交通費の分がどんどん貯金みたいな感じになって…2万5千円くらい手元に余って,でー,時間があるってなって,…スリップしました.…お金があって暇な時間があったら多分行っちゃうんですよね.」(D氏,ギャンブル)

2) COVID-19拡大に関連した悪影響を緩衝した体験

参加者は,感染症拡大による影響により依存対象の再使用を促されるような体験とともに,再使用せずにすむような行動や体験についても語っていた.【施設が感染症拡大下での対応を行った】り,【仲間と一緒にオンラインミーティングを始めた】り,それを受けて【対面の自助グループに改めて価値を感じた】りした.そして,同じように依存症からの回復を目指す【仲間に支えられた】ことは全員から語られた.その他にも,【体を動かすことがストレス発散になった】り,【仕事があるおかげで依存欲求もなくなった】りした参加者もいた.以上が,感染症拡大下での悪影響を緩衝した体験である.

(1) 【施設が感染症拡大下での対応を行った】

参加者の利用施設では,緊急事態宣言下で対面の自助グループの自粛を求め,代わりに施設内でのミーティングの追加,夕食を作り一緒に食べる,課外活動(マラソンや映画鑑賞など)を積極的に行うなど,利用者の依存対象の再使用を防ぐための対応をしていた.〈施設の対応が助けになった〉ことを語った人が半数以上いた一方で〈施設の対応に不満を感じた〉人もいた.不満を感じた人の中には,ミーティングが増えたことで同じメンバーで似た話を繰り返すことへの飽きが生じたり,緊急事態宣言中に自助グループを自粛させられることへの怒りが生じたりした.

(2) 【仲間と一緒にオンラインミーティングを始めた】

対面の自助グループに行けなくなってしばらくすると,仲間とオンラインでミーティングをする参加者も出てきた.オンラインミーティングに対しては様々な感触が語られた.〈オンラインミーティングが助けになった〉という語りからは,オンラインミーティングしか頼みの綱がなかった時期があったことや,オンラインミーティングだからこそ様々な人に出会いやすいことが分かった.

「これ(※オンラインミーティング)やるから俺は何とか生きてられるんだみたいな感じ.」(A氏,アルコール)

「オンラインで良かった部分とかもあるんで.リアルで行けない場所の人たちと出会うとか…楽しいは楽しいんですよね.」(E氏,ギャンブル)

一方で,オンラインミーティングに言及した5人全員が,最終的には〈オンラインミーティングに不満や物足りなさを感じた〉.人の話をあまり聞いている感じがせず気持ちが入らない,ハイブリッド方式(※オンラインと対面のどちらも参加できる方式)では対面で参加している人への遠慮が働いたなどが理由として挙げられた.そもそもオンライン環境がなく参加に障壁がある場合もあった.

「オンラインだとちょっと画面オンオフもできたりミュートとかできたりするじゃないですか.あんまり気持ちが入らないっていうのが正直あって.タバコ吸いながらやってるなあとか,他のこと,誰かに連絡取りながらやってるなあだとか.」(E氏,ギャンブル)

(3) 【対面の自助グループに改めて価値を感じる】

オンラインミーティングを経て改めて対面の自助グループの価値に気づく人もいた.〈仲間を目の前にして話を聴くことで改めて自分の依存について気づきを得た〉,〈ミーティング以外の時間も仲間と過ごすのが楽しみで癒しになる〉,〈対面だからこその雰囲気や温かい感覚などを感じる〉などがその内容であった.

「リアルだと,その空間,その雰囲気を肌で感じることができている,っていうのを感じるのと,あとはそうですね,顔を見て話せるっていうのが一番大きなところですね.」(E氏,ギャンブル)

「仲間で顔合わせて話して,そうするとね,あったかいものがね,とってもあるんですよね.俺やっぱ行ける限りはオンラインはほどほどにして,リアルで会って話したいなって….でもよく仲間も言うんですよ.アル中三密必要だよなとかっていうのは.対面して会って話すのが一番効くっていう実感があって….」(A氏,アルコール)

〈対面の自助グループに行くことが必要だと感じ〉た者は,〈感染対策との兼ね合いを考えながら対面の自助グループに行く〉ようになっていった.

「今と一年前とは考えが違っていたりして.一番初めはもうシャットアウト.接触しなきゃ,絶対うつさない.うん,(自助グループは)生き死にに影響しない,だから(自助グループに行けなくても)俺が我慢してればいいだろうって.でもそうじゃなくって,自分死んじゃうから,その,息吸ってね,ご飯食えるだけじゃね,生きてるって言えるのかな,とか思って.」(A氏,アルコール)

(4) 【仲間に支えられた】

仲間は支えとなっており,〈施設を居場所として仲間と時間を共にしたことが楽しさや安心につながった〉,〈グループホームで共同生活する仲間が心の支えになった〉,〈施設の職員に相談することで依存対象への欲求を解消できた〉,〈スポンサーに相談したおかげでスリップしなかった〉などが挙げられた.

「みんなといるのが楽しいですよね.くだらないこと言って笑ってんのが一番楽しいですし.(集まる場があって)それはね,感謝しているんですよ.僕はあのX(依存症回復施設)が閉まっちゃいますよって言われたら,…たぶん(仲間の)半分以上は飲んでるか打ってるか,やってると思いますね.」(B氏,アルコール)

〈仲間がいるからスリップしないでいられる〉と仲間の存在の大きさも語られていた.

「今は,僕が例えばどうでもいいって感情になったときでもギャンブルをせずに逃げずにいられるのは,施設もそうだし自助グループもそうだし,仲間の中につながってるから.一人になっちゃうと,たぶん(ギャンブルに)行っちゃうんですよ,普通に.…でもどっかしらで,仲間とつながってれば,そこがストッパーというか.…今逆にほんとに自分の状態が不安定なときでも,今仲間の輪の中にいることによって,誰かしら仲間がみててくれてるんで.それで気にかけてくれたりとか,声かけてくれたりとか.それでそういう今の状況ができてる,ギャンブルもしない,暴力も使わない,逃げ出さない,とか….」(D氏,ギャンブル)

(5) 【体を動かすことがストレス発散になった】

体を動かしストレス解消をしていたことも語られた.マシンでトレーニングをする人もいれば,仲間と一緒にスポーツに取り組むことに意義を感じる人もいた.

「新しく12月くらいからランニング部があるんですけど,部活で,それを始めたり,仲間とプール行ったり,体を動かすことを取り入れたっていうか,それでストレスを発散させてましたね.…最初はなんか苦手だったんですよ,けどみんなで10人弱でやってたらなんか楽しいなって思ったし…」(C氏,アルコール)

(6) 【仕事があるおかげで依存欲求もなくなった】

感染症拡大下でも影響を受けない肉体労働のアルバイトを週5日していた参加者は,依存対象を使用しない最大の理由として仕事を挙げていた.

「(なぜ飲んでいないと思いますか?)アルバイトでかいですよね.酔払って行けない(酔っ払って行くわけにはいかない)ですし.」(B氏,アルコール)

Ⅴ  考察

本研究で語られた主観的体験の分析から,COVID-19拡大による影響の中には依存対象を断っていた人が依存対象を再使用することを促進してしまうような状況を体験していた一方で,そのような悪影響から依存症をもつ人を再使用から守ったり,再使用したとしても再び依存対象を断ち切る力となったりする行動や体験もあった.最終的な依存対象の再使用の有無に関わらず,この研究に参加した依存症をもつ人それぞれが体験していた.

1. 依存対象の再使用を促進した体験

感染症に対する恐怖や社会参加ができない体験は,依存対象の再使用の要因として語られていた.このような感染症による心理社会的影響が依存対象の使用につながることはDubey et al.(2020)による先行研究を裏付ける結果となった.また,規制や自粛による依存対象へのアクセス制限は,一見依存症からの保護因子とも思えるが,一方で参加者は依存対象が使用できなくなることで精神的打撃も受けており,メンタルヘルスの観点からは依存対象の規制が必ずしも良い結果をもたらすとは限らないことが分かった.性依存の参加者の例では,規制により依存対象が合法な性産業から非合法なのぞきにシフトしており,規制が依存対象を非合法な手段に転向させてしまう可能性を明らかにした.これらを踏まえると,依存対象を規制し断ち切らせようとすることの弊害もあり,様々な依存対象(今回の例で言えばギャンブルと性)についてもハームリダクションのアプローチが当事者のベネフィットを最大化しうると考えられる.また,自助グループに行けなくなったことは,大きな精神的打撃を与えたり,依存対象を使用するための時間とお金を生んでしまったりして,依存対象の再使用に結びつくことが分かった.

2. 感染症拡大に関連した悪影響を緩衝した行動や体験

本研究の参加者は全員依存症回復施設と自助グループという2つの社会資源につながっており,対面の自助グループに行けない時期も,施設が居場所となったり,オンラインミーティングに参加したりと,社会資源に繋がり続けていた.それらを通じ,施設の仲間やスタッフ,自助グループの仲間やスポンサーなど,依存症から回復するという同じ目標を持つ仲間が人的資源として互いを支え合い続けていた.仲間の存在や仲間で構成されたコミュニティの存在は感染症拡大による悪影響を打ち消す大きな影響力を持っていたと考えられ,本研究の参加者全員が再使用を防いだり精神的な支えとなったことを語っていた.仲間による支援が,再発率の低下などのアウトカムで示されるように依存症からの回復のために有効であることは先行研究でも知られているが(Boisvert et al., 2008),感染症拡大という特殊な事態の影響下においても有効であると言えるだろう.

感染症拡大による様々な影響から受けるストレスが運動によって発散されたことが語られていた.このテーマについて語った3人のうち2人から,仲間と一緒に運動することでやる気が起きて続いたり楽しいと思えたり仲間意識が強まったりすることが語られた.身体活動がアルコール使用障害患者に有効であることは示されており(Cabé, Lanièpce, & Pitel, 2021),また,集団での有酸素運動が物質使用障害患者の認知機能,感情,渇望,体力に有用な効果を示した研究(Zhu et al., 2022)と同様に,仲間と運動に取り組むことの相乗効果が示唆された.

3. パンデミックが依存症をもつ人に与える影響を緩衝するためにできる工夫

感染対策措置が依存対象の再使用を促進する要素となったことから,感染対策のみを一義的に優先するのではなく,依存症をもつ人や人々のメンタルヘルスへの影響とバランスを取ることが公衆衛生上重要だと示唆された.依存症をもつ人にとって,同じように依存症からの回復を目指す「仲間」の存在が非常に大きいことが改めて確認され,また,依存症をもつ人にとって対面の自助グループが,依存対象の使用を防ぐ上で特別な意義を持つことが明らかになった.調査先の依存症回復施設では,自助グループを自粛する代わりに施設の仲間で過ごす時間を増やす工夫をしていた.限定されたメンバーのみで顔を合わせることで感染のリスクを下げつつ,人とのつながりを保ち依存対象の再使用を防ぐのに良い工夫と思われた.

また,オンラインミーティングについて,対面の自助グループが閉鎖したCOVID-19拡大の初期に頼みの綱になったこと,施設での同じメンバーでの頻回のミーティングに比べ様々な人と出会えること,の2つのメリットが語られた.特定非営利活動法人ASK(2021)の調査でもオンラインミーティングは高評価であったこととも一致する.一方で,オンラインミーティングに言及した参加者5人全てがオンラインミーティングに対する否定的意見または対面の自助グループの方が良いとする意見を述べていた.オンラインミーティングの開催はできる工夫の一つであると思われるものの,オンラインミーティングのみの参加が長期化した場合に,対面での自助グループの参加と比較して,仲間意識やひいては依存対象の再使用率などに影響を与える可能性もあると考えられる.

加えて,運動しやすい環境を整えることも有効な工夫だと考えられる.

4. 本研究の限界

本研究の参加者は6名の男性のみで,依存対象はアルコール・ギャンブル・性のみだった.これは調査協力施設の性質によるものであるが,そのため,女性に起こりやすい経験や,薬物依存などその他の依存対象の人ならではの経験は含まれなかった.また,本研究では対面インタビューではなく書面による回答を希望した参加者の書面回答をインタビューデータと同等のデータとして扱い分析した.この参加者の書面回答は詳細にそのときの状況や心理状態も記載されていたため本研究では他の参加者のインタビューデータと同様に扱い分析した.追加の質問や掘り下げた問いの発生しない書面による回答をインタビューデータと同じように扱うことについては,今後も状況による検討が必要と思われる.

Ⅵ  結論

COVID-19拡大に関連して依存対象の再使用を促進した要素として感染症への恐怖や自粛や規制による社会的影響や自助グループに行けないことによる影響が見つかり,一方でそのような悪影響を緩衝した要素として仲間の支えや運動や仕事が見つかった.特に,感染症拡大下においても,自助グループをはじめとする社会資源や,同じように依存症からの回復を目指す仲間とのつながりを保つことが重要であることが示唆された.

 謝辞

本研究にご協力くださった皆様に心より感謝申し上げます.

本研究の一部はJSPS科研費 JP19K10923の助成を受けたものです.

 著者資格

TKは研究の着想からデータ収集,分析,原稿の作成に至るまで研究プロセス全般を遂行した.YMは研究計画から原稿の作成に至るまでのプロセス全般への助言と論文修正を行った.全ての著者が原稿の初回投稿原稿を読み承認した.

木田塔子様におかれましては2024年5月に逝去されました.本稿は,生前に第一著者と第二著者がともに準備を進めていたもので,ご逝去後,ご遺族の同意のもと投稿いたしました.

木田様のご逝去を悼み,心よりお悔やみ申し上げま‍す.

利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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