Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Thought and Emotion of Families Who Lost Their Family Member by Unexpected Death: A Literature Review
Junko Kurihara
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 59-68

Details
Abstract

目的:家族の不慮の死を体験した遺族の思いについて文献検討を行った.

方法:PubMed,CINAHL,CiNii,医学中央雑誌Web版で自殺,不慮の死,家族,体験,語り,感情,思いを検索語に英語と日本語で書かれた質的研究を対象とし文献を抽出した.そして,抽出された内容についてコード化しカテゴリー化した.

結果:7,845件抽出され,1次,2次スクリーニングの結果7件が選定された.【精神的ショックと悲嘆,否認】【怒りと誰かを責める気持ち】【一人残され,悲しみを共有できない孤独感】【後悔と罪責感】【罪と恥意識から社会的に孤立する】【死への願望】【他者との関係性からくる心の支えと傷】【あきらめと受容】【家族に対する不信感と残された家族を大切にしようという思い】【自死に何らかの意味を見出す】【故人とのつながりを感じる】の11カテゴリーに分類された.

考察:不慮の死による遺族の関係の亀裂や自死と事故による遺族の思いの違いに配慮していく必要がある.

Ⅰ  緒言

不慮の死とは,思いがけない,予期しない死のことを指し,定められた寿命を全うしていないと人々が感じるものである(山田ら,2020).具体的には,交通事故や失踪,食事中の窒息などの事故による死と自死が挙げられる.自死は意図的に自らを死に至らしめる行為であり,その背景にはうつ病や統合失調症,アルコール依存症などの精神疾患が関連している場合がある(Dutra et al., 2018).自死は事前にそれを想起させる兆候が明らかな場合には,家族や周囲の人々が注意深く観察し,医療につなぐなどして防止できるが,本人が自死した後に自死を考えるほど追い込まれていたことに気づく場合が多い(厚生労働省,2022).

事故による死も自死も家族にとっては突然予期しないかたちで現れる.突然の子どもの不慮の死,あるいは伴侶の自死を聞かされて,それらに直面した親や伴侶,子ども,きょうだいは家族の突然の死という心理的な衝撃に加えて警察からの事情聴取という精神的負担を負わされる.このような家族の突然の死は,遺族の日常生活を奪い,食欲不振や不眠などの身体的な不調をきたし,うつなどの精神症状を呈する場合がある.また,故人の後を追って自死する死の連鎖が起こる危険性が高い(Dutra et al., 2018).

このような突然の死により家族を失った衝撃と悲嘆の中にいる遺族の周囲にいる人々は,遺族にどのように接したらよいか戸惑い,慰めたいと思うが,遺族に故人を思い出させて悲しい思いをさせないように故人の話しをすることは少なく,遺族は自分の感情や思いを表出する場がない(Harper, O’Connor, & Dickson, 2011).また,遺族の間でも家族の自死について話そうとすると「その話は止めて欲しい」と言われてしまい,思いを共有することが難しい(Zavrou et al., 2023).

しかし,遺族が愛する伴侶や親,子ども,きょうだいの死を悼み,悲しむことは人間の自然な心の営みである.そして,故人との関わりを語ることにより故人が自分や家族にとってどれほど大切な存在であったかを理解し,故人との思い出から慰めや励ましを受けることは喪失の悲嘆から立ち直り,再び心身の健康を取り戻し,再生して行く上で不可欠である(小此木,1994).

そこで,家族の不慮の死を体験した遺族がどのような思いを抱いているか文献検討により明らかにし,必要な看護の示唆を得たいと考えた.

Ⅱ  目的

家族の不慮の死を体験した遺族の思いについて文献から抽出し明らかにする.これにより,家族の不慮の死を体験した遺族に対する必要な看護の示唆を得る.

Ⅲ  用語の定義

自殺と自死

「自殺」という言葉は,「殺」という言葉の持つ強さや「命を粗末にした」という偏見を生みやすいことから遺族に配慮した「自死」という言葉が使われるようになっている.自殺総合対策大綱(厚生労働省,2022)では「自殺」を追い込まれた末の死と定義している.国語辞典によると,「自殺」が「くだけた会話から硬い文章まで幅広く使われる日常の漢語」(中村明,2010)であるのに対し,「自死」は,「『自殺』の意の婉曲(えんきょく)表現」(山田ら,2020)とある.そこで,本研究では文献中にある「自殺」はそのまま引用し,また,「自死」は比較的最近使用されるようになった言葉であり自殺と同じ意味を持つことから文献検討で使用する用語は「自殺」とする.しかし,それ以外の表現は遺族の心情を配慮して「自死」を用いる.

Ⅳ  研究方法

1. 対象となる文献の選定

学術論文データベースPubMed,CINAHL,CiNii,医学中央雑誌Web版を使用した.検索対象を「Human(人)」に制限した.PubMed,CINAHLでは,検索式に(suicide OR “unexpected death” OR “accidental death”)AND family AND(experience OR emotion OR thought)を用いた.CiNii,医学中央雑誌Web版では検索式を(自殺OR不慮の死)AND家族AND(体験OR語りOR思い)とし,検索期間は設定せず.言語は日本語と英語に限定した.対象は,不慮の死を遂げた本人との関係性が強いことから伴侶,実の両親,きょうだい,子どもとした.また,不慮の死を体験した遺族の思いを理解するにあたって重要な主観性や多面性を捉えられることから質的に研究された原著論文,事例報告,症例とし,解説は除外した.表1に文献のスクリーニングの包含基準と除外基準を示す.

表1 文献選択の包含基準・除外基準

包含基準 除外基準
・家族の事故死(交通事故,失踪,誤嚥による窒息などの外因的な要因による死)と自死についての家族の思いが記載されている論文
・思いがけない,予期せぬ一時的な衝動行動(自死)によりもたらされた死
・本人の実の両親,きょうだい,子どもが対象の論文
・日本語または英語で記載されている
・原著論文,事例報告,症例
・質的研究
・家族が病気(内因的な要因によるもの)により死が予想されていた場合,手術や危険を伴う検査や処置による身体的な侵襲があり,死の危険性があった場合,入院中の患者
・災害などで不特定多数の人が亡くなった場合
・自死することが明らかで遺族が死を予想できた場合,自殺企図があり治療中
・不慮の死を遂げた本人が65歳以上の高齢者
・学会抄録,会議録
・解説(レター,コメンタリー)
・量的研究

1次スクリーニングで抽出された論文のタイトルと抄録について表1にある包含基準と除外基準に沿って家族の不慮の死を体験した遺族の思いが記載されている論文を抽出した.次に2次スクリーニングで本文を精読し,文献を選定した.

2. 分析方法

各論文を精読し,著者,出版年,国,研究目的,研究対象,研究方法,家族の不慮の死を体験した遺族の思いについて整理した(表2参照).

表2 家族の不慮の死を体験した遺族の思いに関する文献検討

著者,出版年,国 研究目的 研究対象 研究方法①方法②分析方法 家族の不慮の死を体験した遺族の思い
1 小山,2009
日本
自死により家族を失った遺族の思いや主観的体験を明らかにし,今後の遺族に対する援助を行うための示唆を得る. 遺族の会などに参加している父親やきょうだいを自死で亡くした女性3名 ①インタビュー
②質的記述的研究
①ありえないような,ほんとにあってはいけないような感覚,何も考えられない.起こってしまったかという気持ちと止められれば止めたいけれど,止められないような気持ち.医療者から「自殺ですから騒がないで下さい」ときつく言われたことから医療者側にとって自殺は迷惑なのだと感じた.②遺族がどれだけ辛い思いをしているか,本人がどれだけひどいことをしていったのか本人にはわからないだろうという本人に対するずるいという感情,何でこんな目に遭わなくてはいけないのかという怒り.家族で話し合い自死であることを隠すことにしたが,事実を語れない辛さ.問題を抱えていても生きている人はいるのに,なぜ死という結果なのかという悔しい気持ち.姉から同居していたのになぜ家族が自死を考えていたことに気がつかなかったのかと責められつらくなった.③母親の悲しんでいる様子から自分の母親でもあるのに故人だけの母親のように感じる孤独感④家族が自死したことを人に話すと腫れもの扱いされるのではないかと困惑して誰にも話せない.死因が自殺であるというだけで人に話せない悔しさ.④立ち直って行く過程で本人への怒りが和らぐ.気持ちはきれいなグラデーションのようにはいかないが,行きつ戻りつしながら落ち着いている.⑤本人がいないことに馴染んでしまう,そのことに気づくと切なくなり自分は冷たい人間なのではないかと感じる.⑤「何があっても死んではいけない」という思いから「受け入れてあげなくてはいけないこともあるのではないか」と考えるようになった.自死は大罪という教えに対するショックと疑問から自死したことに何か意味があるのではないかと考えるようになった.自分の経験を役立てて行きたい.色々な経験があったからこそ今の人生を生きることができている.トンネルを抜け出た時に感じる喜びと感謝.
2 Harper et al., 2011
UK
子どもを亡くした母親が喪失にどのように対処しているか自分の言葉で語ってもらい,明らかにする. 子どもを事故や自死,病気で亡くした母親13名 ①インタビュー
②解釈的現象学的分析
①故人とのつながりを感じる.亡くなった子どもが存在しているように感じ,故人のお墓に行くなどして身体的なつながりを感じ,母親として子どもにできる世話をしたいと思う.亡くなった子どもが自分にくれた物や自分が亡くなった子どものお墓に亡くなった子どものために置いた物を通してつながりを感じる.亡くなった子どもを象徴するテントウムシが家に来たのを見て,亡くなった子どもが遺族を見守ってくれていると感じる.②喪失の苦痛から解放され,故人のところに行けるという思いから死を願うが,自分の親に自分と同じ思いをさせてしまうという思いと残された子どもたちの世話をしなければならないという思いから来る葛藤.
3 Maple et al., 2013
Australia
自死で若い子どもを失った両親の体験を明らかにする. 22名の子どもを自死で亡くした両親 ①インタビュー
②体験についてのnarrative inquiry(物語の探求)で3つの階層(1.ナラティブそのものについての分析,2.ナラティブ同士の比較,3.社会や環境という分脈でのナラティブの対比)の分析.
①亡くなった子どもの傍にいる,葬式を通してその子どもが特別な存在であることを認識する.葬式に参列した人たちを見て,亡くなった子どもがこの世にいたことを知る人たちがいる限り子どもは肉体的には死んでもほんとうに死んではいないと思う.②子どもの死を無駄にしたくないという思いで自死を予防する働きに参加したり寄付などを行う.③亡くなった子どもが自分を見守っているように感じる.亡くなった子どもが使っていたおもちゃが部屋に置いてあるなどの不思議な現象を通して亡くなった子どもが自分に応答しているように感じる.子どもの自死により暴力を振るう夫と別れるという人生の大きな決断をした.④肉体的には滅んだが,亡くなった子どもは依然と変わらない家族の一員であり,こころのつながりを感じる.
4 吉野,2018
日本
自死遺族の夢から自死者の対話的な関係を再構築し,喪の作業の意義を明らかにする 夫を自死で亡くした妻1名 ①対象者が見た夢を描写して語るナラティブ・イメージワーク ①事態の幕開けを告げるざわざわする音②夫に仲間がいて引っ越しの準備をして引っ越しをする夢③夫が黙って行ってしまうことに対する憤り.夢の中で「黙って行っちゃうの?」という夫への問いに対して夫のどうしようもないんだよという表情による返答.その後,妻は泣き崩れる.④夫が違う世界へ行ってしまったという認識⑤夫には仲良しではないが,何かで結びついている仲間の存在を知り,安堵する.
5 Adams et al., 2019
Australia
きょうだいを自死で亡くした人の悲嘆の体験についての主な問題を明らかにする. 16~23歳の時にきょうだいを自死で亡くした男性3名,女性4名 ①インタビュー
②解釈的現象学的分析
①精神的なショックを受ける.自分を置いて死んでしまったことに怒りを感じる.反省し,罪責感を感じる.心の痛みを感じないようにスイッチをオフにして事実を否定する.母親の様子を心配して傍にいるようにする.自分の存在に価値を見出せなくなり,故人のところに行きたいと自死を考える.羞恥心を感じる.家族に自死者が出たという自分たちにレッテルを貼られる認識.もしこうしていたらと考え後悔する.この後どうして自分が幸せになれるだろうかという悲しみを感じる.忙しくして兄弟が亡くなったことを考え過ぎないようにする.②きょうだいの死を受容する.故人はもう苦しむことはないと考えて気持ちを楽にする.②母親が故人を悼んで自分たちのことを考えてくれないと淋しく感じる.家族間できょうだいの自死に触れず,沈黙を守る.父親が自分たちとは違う反応(あまり感情を外に出さない,決められた宗教的行動を守る)であったため家族間の関係が悪くなった.友だちが傍にいてくれて心の支えになった.「すべてうまくいくよ」という安易なお悔みの言葉や「何も隠すことはないよ」という家族に自死者が出たという烙印を押されるような言葉にストレスを感じる.③故人との思い出を大切にする.故人が生きていたら結婚して子どもがいただろうかと考える.故人と霊的に繋がっていると感じる.故人の分まで生きようとする.家族の中で亡くなったきょうだいの代わりを務める.故人が自分に望んでいることをしようとする.生前の故人を真似して家族を笑わせようとする.遺体を初めて見て自分も死ぬんだということを考える.故人のために最高のお葬式をしたことが自分の癒しになる.④混乱し,何故という疑問を持つ.個人の死に意味を見出す.世の中や人生に対する理解が弱まったが,その後人の痛みがわかるようになった.精神面で敏感になった.喪失の苦しみを人の役に立てるようにして自分自身が成長する.自分の心をオープンにして考えていることや感情を人に伝える.
6 Lee, 2022
韓国
自死で家族を失った遺族の体験を明らかにする. 両親あるいは夫を自死で亡くした男性3名,女性4名 ①インタビュー
②Colaizzi’sの記述的現象学的分析
①現実を受け入れられない,何が起こったのかわからず,信じられなかった.私には乗り越えられない試練だ.なぜ神は耐えられない試練を与えられるのか.家族から愛されていたのに家族に相談せずに死を選んだことへの怒りと悲しみ②個人が出していたサインに気が付かずに死なせてしまったことへの後悔と罪悪感,もう二度と会えないという最も深い心の痛み③家族から自死者が出たということを恥じて社会から孤立する④自死をした人の葬儀をする必要はないや家族を亡くされてどんなにつらいことでしょうとつらいときに言われるなどの望まない慰めの言葉によって傷つく⑤自死は罪,恥という意識があるため事実や感情を隠そうとする⑥生きる望みを失い,何もできなくなる⑦この苦しみから逃れる道は自死しかないと考え,死を望む⑧仕事に打ち込み家族の死を考えないようにする⑨亡くなった家族との思い出に向き合い死を受け入れようとする⑩これ以上誰もう失いたくないと思って残された家族を大切にし,家族で新しい希望が持てるようにする.
7 Zavrou et al., 2023
Cyprus
自死で子どもを失った両親の自死による影響と自死をどのように受け止め,対処したかについて明らかにする. 自死で子どもを失くした母親10名,父親10名 ①インタビュー
②コードとカテゴリー化
①意味の見出せないところに意味を見出す.「なぜと問うほど苦しくなる」「そういう運命だったと思う」「神が子どもを連れて行ったのだと思う」「将来も今のように残酷なものになりそうで考えられない」②罪意識を持ち続ける.「話しをしたり食べたりすることはできるけれど,傷は傷としてある」③他者を責める.医療機関は自殺する恐れがあることを教えてくれなかった.夫婦のどちらかの態度が問題だったと考える.④「将来も今のように残酷なものになりそうで考えられない」「残された家族のためにしっかりしようと思う」⑤家族で自死についてそれぞれの思いを共有することができない.「話そうとすると,止めてとと言われてしまう」⑥本当の自分の気持ちをわかってもらえず,偏見の目で見られることを恐れて他者との交流を避ける.⑦苦難を乗り越える方法を取る(自分から積極的に物事に取り組んでみる(趣味など).忙しくして子どもの死を考えないようにする.自然に触れる(ガーデニング).「亡くなった子どものお墓に行って安らぎや慰めを得るんです」⑧子どもの自死を受け入れる.⑨自分たちと同じ境遇にある人を支援する.「息子の名前で奨学基金を設立する」

家族の不慮の死を体験した遺族の思いを抽出する際には,それが記載されている部分について文献中の表現の意図が損なわれない範囲で抽出し,コード化した.その後,同じ内容が記載されている部分を集めてサブカテゴリー,カテゴリー化を行った(表3参照).カテゴリーを記載する順番については,遺族の怒りや悲嘆,罪責感などの思いは行きつ戻りつするものであるが,各文献では遺族の大きな心の揺れが次第に落ち着いていく順に遺族の思いが記載されていたため,それに沿ってカテゴリーの順番を設定した.家族の不慮の死を体験した遺族の思いを抽出する際に抽象度が高い場合には,論文中に記載されている家族の不慮の死を体験した遺族の思いを理解する上で必要な背景を抽出した.

表3 カテゴリー表

コード サブカテゴリー カテゴリー
何も考えられなくなった. 精神的ショックと悲嘆 精神的ショックと悲嘆,否認
混乱し,何故という疑問を持った.
ありえないような,ほんとにあってはいけないような感覚
何が起こったのかわからず,信じられなかった.
なぜ神は耐えられない試練を与えられるのか
起こってしまったかという気持ちと止められれば止めたいけれど,止められないような気持ち
私には乗り越えられない試練だ.
現実を受け入れられない 否認
スイッチをオフにするように心の痛みを感じないよう事実を否定した.
忙しくして兄弟が亡くなったことを考え過ぎないようにしようと思った. 直面化を避ける
仕事に打ち込み家族の死を考えないようにしようと思った.
生きる望みを失い,何もできなくなった. 悲嘆
なぜと問うほど苦しくなった
もう二度と会えないと思うと深い心の痛みを感じた.
愛する家族を失ってこの先どうして自分が幸せになれるだろうかと思った
将来も今のように残酷なものになりそうで考えられない
日常生活はできるけれど傷は傷としてある
遺族がどれだけ辛い思いをしているか,本人がどれだけひどいことをしていったのか本人にはわからないだろうと本人をずるく思った. 故人に対する怒り 怒りと誰かを責める気持ち
何でこんな目に遭わなくてはいけないのかという怒り
問題を抱えていても生きている人はいるのに,なぜ死という結果なのかという悔しい気持ち
家族から愛されていたのに家族に相談せずに死を選んだことに怒りと悲しみを感じた.
子どもが自死したのは父親である夫に責任があると思った. 他者を責める
気持ち
医療機関は自殺する恐れがあったのに教えてくれなかったと責める気持ち
姉から同居していたのになぜ家族が自死を考えていたことに気がつかなかったのかと責められつらくなった. 自分を責める
気持ち
故人がいないことに馴染んでしまったことに気づくと切なくなり自分は冷たい人間なのかと感じた.
自分を置いていってしまったと感じた. 一人残され,悲しみを共有できない孤独感 一人残され,悲しみを共有できない孤独感
母親の悲しんでいる様子を見て,自分の母親でもあるのに故人だけの母親になったように感じ孤独になった.
遺族の間で故人の自死に触れないことを淋しく感じた.
故人が出していたサインに気がつかずに死なせてしまった後悔と罪悪感があった. 後悔 後悔と罪責感
もしこうしていたらと考え後悔した.
罪責感を感じた. 罪責感
生きている限り罪意識を持ち続けると思った.
家族が自死したことに羞恥心を感じた. 人や社会に対する恥意識と孤立感 罪と恥意識から社会的に孤立する
死因が自殺であるというだけで人に話せない悔しさがあった.
家族から自死者が出たことにより自分たちにレッテルが貼られたと思った.
家族から自死者が出たことを恥に感じ,社会から孤立していく感じがした.
「自殺ですから騒がないで下さい」と言われ,自殺は迷惑なのだと感じ,肩身の狭い思いをした.
自分のほんとうの気持ちは誰にもわかってもらえないと思った. 罪と恥意識から
人や社会を避ける
気持ち
自死は罪,恥という意識から事実や感情を隠そうとした.
偏見の目で見られることを恐れて他者との交流を避けたいと思った.
喪失の苦痛から解放され,故人のところに行けるという思いから死を願うが,自分の親に自分と同じ思いをさせてしまうという思いと残された子どもたちの世話をしなければならないという思いから来る葛藤を感じた. 死への願望 死への願望
この苦しみから逃れる道は自死しかないと考え,死を望んだ.
自分の存在に価値を見出せなくなり,故人のところに行きたいと自死を考えた.
友だちが傍にいてくれたことが心の支えだった. 他者との関係からくる心の支えと傷 他者との関係性
からくる心の支えと傷
家族が自死したことを人に話すと腫れもの扱いされるのではないかと困惑した.
自分が望んでいない慰めの言葉によって傷ついた.
「すべてうまくいくよ」という安易な慰めの言葉や家族の自死について「何も隠すことはないよ」という言葉に傷ついた.
亡くなった夫は違う世界へ行ってしまったのだと思った. あきらめ あきらめと受容
どうしようもないという絶望感とあきらめを感じた.
そういう運命だったと思うようになった.
神が子どもを連れて行ったのだと思った.
故人が生きていたら結婚して子どもがいただろうかと考えた.
夢で亡くなった夫とともにいる仲間の存在を知り,夫は独りではないと安心した. 自死を建設的に受け入れようとする
故人はもう苦しむことはないと考えて気持ちを楽にした.
故人との思い出を大切にしたいと思った.
故人の分まで生きようと思った.
故人が自分に望んでいることをしようと思った.
趣味など好きなことに取り組んで苦しみから立ち直ろうと思った.また
自然に触れて立ち直る力を得ようと思った.
亡くなった子どものお墓に行って立ち直る力を得ようと思った.
家族の中で亡くなったきょうだいの代わりを務めようと思った.
トンネルを抜け出た時に感じる喜びと感謝の気持ちがあった.
本人への怒りが和らいで,きれいなグラデーションのようにはいかないが,行きつ戻りつしながら気持ちが落ち着いてきているのを感じた.
色々な経験があったからこそ今の人生を生きることができていると思った.
父親の自分たちとは違う反応(感情を外に出さない,死者に関する宗教行事を守ることだけを重視する)が理解できず怒りを感じた. 家族に対する
不信感
家族に対する不信感と残された家族を大切にしようという思い
子どもが自死したことで暴力を振るう夫と別れる決心をした.
子どもを亡くした母親の嘆き悲しむ姿を見て心配し,そばにいようと思った. 残された家族を大切にしようという思い
これ以上誰もう失いたくないと思って残された家族を大切にしようと思った.
家族で新しい希望が持てるようにしようと思った.
生前の故人を真似して家族を笑わせようと思った.
「何があっても死んではいけない」という思いから「受け入れてあげなくてはいけないこともあるのではないか」と考えるようになった. 自死に対するとらえ直し 自死に何らかの意味を見出す
確かに自死は大罪であるが,自死したことにも何か意味があるのではないかと考えるようになった.
故人の死から意味を見出そうと考えた.
心を開いて自分の考えていることや感情を人に伝えようと思うようになった. 自己への理解の
深まり
故人のために最高のお葬式をしたことが自分たちの癒しになったことに気がついた.
以前より他者に対して精神的に敏感になった. 他者への理解の
深まり
人の痛みがわかるようになった.
家族を失った自分の経験を人の役に立てたいと思うようになった. 家族の自死を人のために役立てたいと考える
喪失の苦しみを体験したが,このことを通して成長し人の役に立ちたいと思うようになった.
子どもの死を無駄にしたくないと思い自死を予防する働きに参加し,寄付を行った.
亡くなった子どもがこの世にいたことを知る人たちがいる限り子どもは肉体的には死んでもほんとうに死んではいないと思った. 故人が見守っていてくれていると
感じる
故人とのつながりを感じる
あるはずのない亡くなった子どもが使っていたおもちゃが部屋に置いてあるのを見て,亡くなった子どもが自分に応答しているように感じた.
死者を象徴するテントウムシが家に来たのを見て,亡くなった子どもが遺族を見守ってくれているように感じた.
亡くなった子どものお墓に行って子どもが好きだった物を供えて母親として子どもにできる世話をしたいと思った. 故人とのつながりを意識する
亡くなった子どもが自分にくれた物やお墓に亡くなった子どもに備えた物を通して故人とつながっていることを感じた.
故人と霊的につながっていると感じた.

引用する際には,各文献の著作権に配慮し,文献中の表現を使用し,あるいは文献中の表現の意図が損なわれない範囲で要約した.また,簡潔で明確な記述となるように複数の研究者で話し合い,信憑性の確保に努めた.

Ⅴ  研究結果

1. 文献の概要

検索の結果,PubMed 6,517件,CINAHL 915件,CiNii 32件,医中誌381件の計7,845件が選出された.1次スクリーニングでタイトルと抄録から7,828件を除外した.次に重複文献1件を除外した.その後,2次スクリーニングで本文を精読し質的研究でないもの3件,対象が家族でないもの1件,不慮の死を体験した遺族の思いが記されていない文献5件の合計9件を除外し,7件が選定された(図1参照).選定された文献は,2009年から2023年の文献で,日本の文献が2件,Australiaが2件,UKが1件,韓国が1件,キプロスが1件であった.

図1  家族の不慮の死を体験した遺族の思いに関する文献検討

文献抽出手順

これらの文献から見出された不慮の死を体験した家族の思いは,【精神的ショックと悲嘆,否認】【怒りと誰かを責める気持ち】【一人残され,悲しみを共有できない孤独感】【後悔と罪責感】【罪と恥意識から社会的に孤立する】【死への願望】【他者との関係性からくる心の支えと傷】【あきらめと受容】【家族に対する不信感と残された家族を大切にしようという思い】【自死に何らかの意味を見出す】【故人とのつながりを感じる】の11のカテゴリーに分類された.カテゴリーを【 】で示す.対象文献について[1]小山,2009[2]Harper et al., 2011[3]Maple et al., 2013[4]吉野,2018,[5]Adams et al., 2019[6]Lee, 2022[7]Zavrou et al., 2023と[ ]で示す.また,対象者の語りは“ ”で示す.以下に詳述する.

2. カテゴリーの内容

1) 【精神的ショックと悲嘆,否認】

家族が自死したことを聞いた時の遺族の思いは,

“ありえないような,ほんとにあってはいけないような感覚”[1].

“何が起こったのかわからず,信じられなかった”[6].

とあってはならないことと捉え[1],家族が自死したことを受け入れられず,戸惑い,ショックを受けていた[1][6][7].

また,心の痛みを感じないよう事実を否定していた[5].

そして,人間の存在を超える対象である神に,

“神はいるのか?”“なぜ神は耐えられない試練を与えられるのか”

と問いかけ[6],なぜと問うほど苦しくなる体験をしていた[7].

そして,「将来も今のように残酷なものになりそうで考えられない」と先のことが考えられない遺族もいた[7].

この他に大切な家族を失って,この先どうして自分が幸せになれるだろうかと感じ[5],遺族は故人ともう二度と会えないことに深い悲しみを感じていた[6].

2) 【怒りと誰かを責める気持ち】

子どもを自死で失った遺族は,自分たちが本人をどれほど愛していたかしれないのに,なぜ自分たちに相談をせずに死を選んだのかと裏切られたような怒りと悲しみを下記のように語っていた.

“何でこんな目に遭わなくてはいけないのか.”

“遺族がどれだけつらい思いをしているか,本人がどれだけひどいことをしていったのか本人にはわからないだろう.”[6].

自死できょうだいを亡くした遺族は,同居していた他のきょうだいに対して「なぜ気がつかなかったのか」と責めていた[1].これにより責められたきょうだいは責任を感じ,苦しんでいた[1].

また,精神科に通院歴のある子どもが自死したことについて,親は医療者に自殺の恐れがあったなら言って欲しかったと怒りを感じていた[7].

3) 【一人残され,悲しみを共有できない孤独感】

夫を自死で失った妻は独りにされたという孤独を感じていた[4].きょうだいを亡くした遺族は,母親の嘆き悲しんでいる姿を見て,自分の母親でもあるのに故人だけの母親になったような淋しさを感じていた[5][6].また,遺族の間で故人の話しをしようとすると「その話しはしないで欲しい」と言われ,感情を共有できない淋しさを感じていた[6][7].

また,子どもを亡くした親は,子どものいない日常から受ける淋しさを次のように語っていた.

“息子がいなくなってとても淋しい.いちばんつらいことはもうこの世で息子に会えないことだ.ふと,息子が部屋から出てくるように感じることがある.「ただいま」と言って学校から帰って来るような,そんな気がしてしまう[6].”

4) 【後悔と罪責感】

家族を自死で失った遺族は,どうして故人にもっと気をつけてあげなかったのだろう,自分たちは自死を防ぐことができたかも知れないのにという後悔と罪責感を下記のように語っていた[5][6].

“私はもっと妻に気を配るべきだったんです.…….なのに,私は彼女が自死するとは思わなかった.なんで気がつかなかったんだろう.”[6].

また,他の子どもは自殺しないのに自分の子が自殺したのは,親である自分のせいだと感じ,生きている限り罪意識を持ち続けると語っていた[7].

5) 【罪と恥意識から社会的に孤立する】

親族で話し合い自死であることを隠すことに決めた遺族は,死因が自死であるというだけで人に話せない悔しさを感じ,下記のように語っていた[1].

“(子供が自死したことは)誰にも言えない.…….今でさえ,人に聞かれないように家では泣かないんです.泣いたとしても,声を上げては泣けない.”

“誰にも会わないようにしているんです.”[6]

また,自分たちの家族から自死者が出たことによりレッテルを貼られたような罪や恥意識が生じ,社会から孤立したような気持になっていた[5][6][7].

この他に,自分のほんとうの気持ちは誰にもわかってもらえないという思いから他者との交流を避けようとしていた[6][7].

6) 【死への願望】

子どもを事故で亡くした母親は子どもを失った苦しみから解放されて故人のところに行きたいと死を願うが,自分の親に自分と同じ思いをさせてしまうという罪責感と残された子どもたちの世話をしなければならない責任感から生きることも死ぬこともどちらも選べない葛藤を抱えていた[2].そして,その心情を

“今でさえ,(自死した)息子のように私も死にたいと思う.”[6]

と語り,生きる望みを失って何もできなくなり,この苦しみから逃れる道は自殺しかないと死を望むようになっていた[6].

7) 【他者との関係性からくる心の支えと傷】

遺族は,家族が自死したことを人に話すと腫れもの扱いされるのではないかと困惑していた[1].そして,「すべてうまくいくよ」という安易な慰めの言葉や家族の自死について「何も隠すことはないよ」と言われたことで自分たちを理解してはもらえないと感じ,レッテルを貼られたように感じて傷つき,これまでのような関係は持てないと感じていた[5][6].

一方で友だちが傍にいてくれたことが心の支えになったと友人の存在をありがたく身近に感じる遺族もいた[5].

8) 【あきらめ,受容】

子どもを自死で失った親は,子どもの死について

“そういう運命だったと思うようになりました”[1].

“(あの子は)もう苦しむことはないと思っています”[5].

と受け止めていた[1].

また,遺族は故人が生きていたら結婚して子どもがいただろうかと考えるようになっていた[5].そして,故人の分まで生きようと思い,故人が自分に何を望んでいるかを考え,故人が望んでいることをしようと思っていた[5].

この他に遺族は,自分の好きなことや自然に触れて悲嘆から立ち直る力を得ようと努めるようになっていた[7].

また,時間の経過とともに,

“きれいなグラデーションのようにはならないが,気持ちは行きつ戻りつしながら落ち着いて行った”[1].

と語っていた[1].

9) 【家族に対する不信感と残された家族を大切にしようという思い】

遺族の中には,悲しみの感情を表すことなく決められた宗教的儀式を守ろうとする父親が理解できず不信感を抱くようになった者もあった.そして,このようなずれが遺族の関係をぎくしゃくしたものにしていった[5].また,子どもの自死により暴力を振るう夫と離婚する決意をする妻もいた[3],あるいは子どもの自死は夫の子どもへの接し方が原因だったと考えて離婚するケースもあった[7].

一方,もうこれ以上誰も失いたくないという思いから残された家族を大切にし,以前よりも絆の深まった遺族は以下のように語っていた[6][7].

“(子どもを自死で失って)夫は体重が7~8 kg減ってしまいました.それで私は夫のことを心配しているんです.…….でも,私たちにはもう一人子どもがいるんです.だから,私たちはしっかりしないといけない”[6].

この他に悲嘆している母親に付き添い,生前の故人を真似して家族を笑わせて家族のつながりを大切にしようとする故人のきょうだいもいた[5].

10) 【自死に何らかの意味を見出す】

遺族はつらいこともあったが,自分から心を開いて自分の考えていることや感情を人に伝えようと思うようになっていた[5].

そして,故人の死について,

“受け入れてあげなくてはいけないこともあるのではないかと思うようになったんです.”[1]

と語り,自殺は大罪という教えに苦しみながらも家族が自死したことには何か意味があるのではないかと考え,その意味を見出すようになっていた[1][7].

自死により子どもを失った両親は,

“あの子は自分の死が無意味だったと思って欲しくないと思うんです.”[3]

と語り[3],そのような思いから自殺予防を推進する活動や自分と同じように子どもを自死で亡くした親を支援する働きに参加して寄付を行っていた[3][7].

11) 【故人とのつながりを感じる】

子どもを事故で亡くした母親は,つながりを感じようと故人のお墓に行き,亡くなった子どもが好きだった食べ物やおもちゃを供えて子どもが亡くなっても母親として子どもにできることをしたいと思っていた.また,亡くなった子どもを象徴するかのように天に向かって飛んでいくテントウムシが家に来たのを見て,亡くなった子どもが遺族を見守ってくれているように感じていた[2].

家族を自死で失った遺族は,神が自分たちに試練を乗り越える力を与えてくれ,以前よりも故人が近くにいるようだと感じていた[5].子どもを失った両親は,そこにあるはずのない亡くなった子どもが使っていたおもちゃが部屋に置いてあるのを見て,亡くなった子どもが自分に応答してくれているように感じていた.そして,亡くなった子どもはもうこの世にはいないけれど,生きていた時と変わらないかけがえのない家族の一員であり,今もつながっていると感じていた[3].

Ⅵ  考察

家族の不慮の死を体験した遺族の思いは,【精神的ショックと悲嘆,否認】【怒りと誰かを責める気持ち】【一人残され,悲しみを共有できない孤独感】【後悔と罪責感】【罪と恥意識から社会的に孤立する】【死への願望】【他者との関係性からくる心の支えと傷】【あきらめと受容】【家族に対する不信感と残された家族を大切にしようという思い】【自死に何らかの意味を見出す】【故人とのつながりを感じる】の11のカテゴリーに分類された.遺族の思いは,悲嘆と怒り,孤独と罪責感など多くの感情が入り混じった複雑なものになっていた.以下,遺族の関係性の変化と自死と事故死の違い,医療者に対する思いについて考察する.

1. 家族の不慮の死による遺族の関係性の変化

自分と同じように悲しみを表に出さない遺族に対する不信感や家族の死について遺族に責任を追及する思いが遺族間に亀裂を生んでいた.このように家族の不慮の死により分裂する遺族が存在する一方で,他の遺族の悲嘆を気遣って,もうこれ以上誰も失いたくないという思いから残された遺族を大切にし,関係性が強くなる遺族もおり,家族の不慮の死により遺族の関係性は変化していた.

看護師は,人により死についての受け止め方や置かれている立場が異なるため,必ずしも家族の死に対する反応が自分と同じにはならないことを伝える必要がある(日本グリーフケア協会,2019).そして,遺族の間のかけ橋のような存在になって,遺族が再び家族としての絆が持てるように働きかけていく必要がある.

2. 自死と事故死の違い

本研究では,自死以外の事故で家族を失った遺族の思いを扱った研究は1件であった.家族を事故で失った遺族よりも自死で失った遺族の方が,罪責感や社会の自分たちに貼られたレッテルを意識し,社会的孤立を感じていた.自死,あるいは事故で伴侶を失った妻の思いについて調査した先行研究では,自死で伴侶を失った妻の方が事故で伴侶を失った妻に比べて罪責感や故人を非難する思いが強かった(McNiel, Hatcher, & Reubin, 1988).また,子どもを自死で亡くした親の方が交通事故などの事故で子どもを亡くした親よりも精神的にも身体的にも問題を抱えていた(Bolton et al., 2013Pitman et al., 2014).これらのことから,遺族のやり場のない怒りや悲しみと自責の念が遺族の健康をも脅かしていたことがわかる.

HomesとRaheによるライフイベントストレス尺度では,配偶者の死が100と最も高い数値を示し,他の家族のメンバーの死については63と高い値となっている(Homes, & Rahe, 1967).この他,警察からの事情聴取や遺族間で亀裂が生じた場合にはさらにストレスがかかることになる.看護師は,遺族が思いを表出できるように適切な機関や支援団体を紹介し,自死の連鎖を防ぐために速やかに医療につなぐ体制を作る必要がある.

人はこのような危機に直面したときに新しい対処方法を取ることができれば健康な状態に移行するが,有効な対処ができなければ,不健康な状態に陥る(山勢,2007).Finkはこの危機状態に適応していくプロセスを①強烈な不安やパニックに襲われる衝撃の段階②否認や抑圧による防御的退行の段階③変化に抵抗できないことを知って怒りや深い悲しみなどを呈する承認の段階④新たな価値観や自己のイメージを確立させる適応の段階に分け危機理論を確立させた(Fink, 1967).本研究では,このFinkの危機理論を支持する結果となった.また,適応の段階まで到達できない遺族も存在した.この理論を基に看護師は遺族が状況に適応して健康を回復するために,対象喪失による孤独感と罪責感に対するケアと周囲の人々とともに生きていく新しい希望が持てるように支援していく必要がある.

3. 医療者に対する思い

精神科に通院歴のあった子どもが自死した親は医療者に対して,自殺の恐れがあったなら言って欲しかったと語っていた[7].このことから医療者は,精神疾患を持つ人に自殺リスクがある場合には,必ず家族に伝える必要がある.この他に家族が自死を試みたとの連絡を受け病院に駆けつけた家族は,医療者から「自殺ですから騒がないで下さい」ときつく言われたことから自殺は迷惑なのだと感じ肩身の狭い思いをしていた[1].医療者はどのような場合でも患者とその家族が自分たちは迷惑な存在なのだと感じ,肩身の狭い思いを抱くことがないように家族に及ぼす影響を考えた言葉かけや態度を取ることが必要である.

家族の不慮の死を体験した遺族は,悲嘆の中で不慮の死に何らかの意味を見出そうとし,故人はもうこの世に存在しなくても,それでも家族であるという死を越えた家族のつながりを感じていた.このような故人の死に意味を見出し,故人とのつながりを大切にする遺族の思いが現実に適用して新しい道を開くことにつながったと考えられる.

看護師は,遺族のこの心の揺れに寄り添い,遺族の話しを聴いて慰め,遺族が現実に適用して新しい道を開いて行けるよう見守る存在であることを遺族が感じ取ることができるように遺族にかかわり,関係性を築いていく必要がある.

本研究で使用した文献検索データベースは,PubMed,CINAHL,CiNii,医中誌であったため,レビューの網羅性という点で課題が残ると考えられる.今後は文献検索データベースを増やすなどの検討が必要である.

 付記

本論文の内容は,第43回日本看護科学学会学術集会において発表した.

 著者資格

JKは,研究の着想からデータ分析,論文作成の全過程に貢献した.

 利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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