Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
Online ISSN : 2432-101X
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ISSN-L : 0918-0621
Materials
A Literature Review on the Difficulties Experienced by Nurses Working in Physical Medicine in Dealing with Patients with Mental Health Problems
Hiromi TokiAki FukudaTerumi TataraKazuya Norikane
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 69-77

Details
Abstract

本研究は,身体科の経験を有する看護師がメンタルヘルスに不調を呈する患者対応において感じた困難さを文献レビューによって明らかにすることが目的である.身体科の経験を有する看護師が感じたメンタルヘルスに不調を呈する患者対応の困難さが記述された13文献を対象とし,文献統合を行った.文献統合の結果,【精神看護の展開に必要な知識や経験の不足】【思い描くようにいかない看護援助】【触発された否定的感情の滞留】【実現が難しい組織の支援体制】が抽出された.患者の疾患理解や症状アセスメントに加え,実際の看護援助やその看護援助に対する患者の反応から,看護援助をどのように展開していくか想定した臨床知を獲得することを支える学びの機会が必要である.また看護師自身のメンタルヘルスを支えるために,患者との心的距離に関する知識やセルフケア強化を目指したストレスマネジメントについても学ぶ機会が重要であることが示唆された.

Translated Abstract

Objective: The purpose of this study was to conduct a literature review on the difficulties experienced by nurses in physical medicine departments when dealing with patients with mental health problems, and to obtain suggestions for continuing education.

Method: This study focused on 13 documents related to the difficulties perceived by nurses in physical medicine departments with patients with mental health disorders, and synthesized the documents.

Results: As a result of the literature synthesis, we identified the following problems: “lack of knowledge and experience necessary for the development of psychiatric nursing”, “nursing practices that do not go as planned”, “retention of triggered negative emotions”, and “support systems for organizations where implementation is difficult”.

Conclusions: We used simulation techniques that support not only understanding the patient’s disease and assessing symptoms, but also acquiring clinical knowledge that envisions how to provide nursing support based on actual nursing assistance and the recipient’s reaction to that assistance. The development of a continuing education program that incorporates this was suggested. We also believe that educational support regarding stress management aimed at strengthening nurses’ own self-care is necessary.

Ⅰ  はじめに

精神疾患を有する総患者数は,258.4万人(2002年)から614.8万人(2020年)と18年間で約2.4倍増加しており,そのうち外来患者数は223.9万人(2002年)から585.4万人(2020年)と約2.6倍増加している(厚生労働省,2022).これより精神科で治療を受けている患者の95%以上は外来患者であり,何らかの精神疾患を有する人が身体疾患の治療目的によって入院となる状況は,今後増加することが考えられる.また人は疾患を抱えることで心理的に不安定になり,治療のため入院を余儀なくされる患者は入院環境に対する苦痛など様々なストレスを感じやすい状況に置かれる(吉田・多喜田,2015).さらに身体疾患に罹患し治療を受けることは,疾患やその治療薬剤によって精神症状が惹起される場合もある.不安やパニック,セルフケアへの影響として現れる食欲低下や不眠,さらに心理的反応として現れる怒りや否認など身体疾患の入院治療中にメンタルヘルスに不調を呈する状況は決して少なくない.つまりメンタルヘルスに不調を呈する患者への看護援助を行う機会は,今後も増加することが予想でき‍る.

そういった中,身体科領域での精神疾患を有する患者の対応について,身体科領域で働く看護師の約88%が対応に困り(佐藤ら,2005),約93%が精神症状のアセスメントが難しい(富原・田場・栗栖,2007)との報告がある.また総合病院で働く看護師が身体・精神合併症患者への対応に困難さを感じる要因について先行研究から抽出し,身体科と精神科の橋渡しの役割を担うリエゾン精神医学・精神看護の視点から,継続教育や継続教育を担う看護師の必要性を提言している(大津,2011).しかしながら,依然として身体科領域で働く看護師は専門性の相違から精神疾患を有する患者に対する困難さを抱えており,臨床現場での看護援助を模索している(加藤・神里・謝花,2020).精神看護の専門領域であるこころのケアは精神看護学における一般化された知識と技術に基づいて繰り返される再現性のある側面と,同じ現象としては二度と繰り返されることのない側面の2つの側面がある(野嶋・南,2000).つまり看護師は患者と向き合った瞬間,修得した知識や技術を基に患者との相互作用によって瞬時に判断し看護援助を展開する.たとえ同じ対象や状況下にあったとしても,時間的流れによって,異なった展開が広げられ,同じ現象は繰り返されることはない.同じ知識と技術を活用し看護援助を展開しているにも関わらず,再現不可能な状況も生じる.このように一律にはいかない看護援助の展開に困難さを感じることは当然のことであり,この困難さを軽減することが重要であると考える.

またメンタルヘルスに不調を呈する患者に対する看護師が感じる実践の困難さは,文化や社会的背景に影響を受ける.患者理解において,患者の世界や患者の属している地域の知識・経験に関する情報は重要である(Leininger, 1991/1995).したがって本研究では,より本邦の看護師の具体的な経験や関連性の高い結果を抽出することを目的とし,対象文献を和論文に限定した.以上より本研究では,本邦におけるメンタルヘルスに不調を呈する患者の看護援助を展開するなかで抱いた困難さに焦点をあてた文献をレビューし,身体科領域で働く看護師に対する支援の在り方を考察する.

Ⅱ  用語の定義

メンタルヘルスに不調を呈する患者とは,精神的健康に不調があらわれている患者とした.

対応の困難さとは,身体科の経験を有する看護師がメンタルヘルスに不調を呈する患者に対する看護援助のなかで,難しいと感じ,苦労した状況のこととする.

Ⅲ  研究目的

文献レビューより身体科の経験を有する看護師が感じたメンタルヘルスに不調を呈する患者への対応の困難さを明らかにする.

Ⅳ  研究方法

医学中央雑誌Web版で,2023年1月末までとし,「メンタルヘルスor精神症状(61,527件)」and「困難感or困難さ(8,547件)」and「看護師」をキーワード検索した結果,219件が抽出され,まず「認知症(66件)」を除外した.抽出した論文のタイトルと抄録を精査し,身体科の経験を有する看護師を対象としていない論文(137件),教育プログラム開発に関する論文(2件),文献レビュー(1件)は対象外とした.身体科の経験を有する看護師の体験を理解するため主観性や多面性を読み取れる質的研究の限定を検討したが,極めて対象文献が少なかったため,量的研究も対象とした(表1).以下[ ]は表1の文献番号を示す.

表1 対象文献

文献
番号
著者
発行年
タイトル 雑誌名,巻(号),ページ.
1 安藤ら(2003) 患者との関わりにおいて一般病棟の看護師が感じる困った状況 神戸市看護大学紀要,7, 45–54.
2 田中ら(2003) 末期癌患者の精神症状へのケアの実態 死の臨床,26(2), 258.
3 遠藤(2005) 精神疾患に身体疾患を合併した患者をケアする一般科看護師が直面する困難 日本看護科学学会学術集会講演集,25, 247.
4 西野ら(2005) 精神的ケアに対する一般科看護師の感情とケアへの不安 日本看護学会論文集,36,精神看護,234–236.
5 佐藤ら(2005) 精神科的問題を抱える患者への看護師の対応に関する調査 病院管理,42(4), 493–502.
6 富原ら(2007) 一般病棟における精神看護に関する意識とそのサポート体制の実態調査 病棟看護師へのアンケート調査より 日本看護学会論文集:看護総合,38, 226–228.
7 大達ら(2013) 一般科看護師が対応困難と感じる精神症状と精神障害者の入院に対する拒否感との関連 産業医科大学雑誌,38(4), 317–324.
8 山根ら(2015) 一般科看護師が身体合併症を伴う精神障がい者の入院治療に対して対応困難と感じる要因 日本精神科看護学術集会誌,58(3), 234–238.
9 吉田ら(2015) 精神症状を合併した患者をケアする看護師の体験 日本看護学会論文集:精神看護,45, 171–174.
10 佐藤(2016) 造血細胞移植患者のうつ状態に対する看護師の認識とうつ状態評価に対する看護師の困難感 インターナショナルNursing Care Research,15(1), 105–114.
11 大島ら(2018) 初めて精神科看護を経験した中堅看護師の困難感とレジリエンス 日本赤十字豊田看護大学紀要,13(1), 71–81.
12 丹下ら(2018) 精神科病棟を有さない総合病院で勤務する看護師が精神疾患をもつ入院患者の関わりに生じる思い 日本赤十字広島看護大学紀要,18, 29–36.
13 加藤ら(2020) 統合失調症を有する終末期がん患者の緩和ケアの困難感と質向上に向けた取り組み 沖縄県立看護大学紀要,22, 15–28.

文献レビューのプロセスは,対象文献の内容検討を行い,文献統合を行った(大木,2022).質的研究は,結果より身体科の経験を有する看護師が感じたメンタルヘルスに不調を呈する患者に対する対応の困難さに関する記述を抽出した.量的研究は身体科の経験を有する看護師がメンタルヘルスに不調を呈する患者に対する対応の困難さに関わる質問項目に対する結果および考察から困難さに関する記述を抽出した.さらに,質的研究および量的研究より抽出した記述部分が忠実な意味内容を表すように全文から補いコード化し,類似性と相違性に注目しながら,カテゴリ化を行った.使用した文献は,著作権に留意し,対象文献の意図や解釈を損なわないよう考慮し,本文中に引用したことを明記するとともに対象文献(表1)として記載した.本研究は,筆者の所属する大学の倫理審査委員会の承認を得た.(承認番号376)

Ⅴ  結果

1. 対象文献の概要

文献は2003~2020年に発表された論文であった.質的記述的研究6文献[3,9,11~13],量的研究は7文献[2,4~8,10]であった.

2. 身体科の経験を有する看護師が感じたメンタルヘルスに不調を呈する患者への対応の困難さ

身体科の経験を有する看護師が感じるメンタルヘルスに不調を呈する患者への対応の困難さを抱く状況や状態である4つの局面が抽出された(表2).カテゴリは【 】,サブカテゴリは「 」で示す.

表2 身体科の経験を有する看護師が感じたメンタルヘルスに不調を呈する患者対応の困難さ

局面 カテゴリー サブカテゴリー 文献番号
精神看護の展開に必要な知識や経験の不足 現れる精神症状を読み解くことが容易にはいかない 精神症状のアセスメントが難しい 1.6.10.11
向精神薬の中断による精神症状の出現に困る 3
身体疾患や治療の影響と精神症状による判別が難しい 10.13
多様な精神症状や反応を呈す患者の対応について難しい 不安感への対応に困る 7.8
陽性症状の対応に困る 7.8
陰性症状の対応に困る 2.7.8
患者の暴力や攻撃性への対応に困る 1.8
徘徊への対応に困る 5
せん妄の対応に困る 2.5.7.8
てんかん発作の対応に困る 7
患者の特性や心理的反応によってあらわれる反応に困る 1.7.8.9
不眠や食行動の異常などセルフケア援助に関わる対応に困る 2.7.8
予測が立たない気分や言動の変化の対応に困る 1.2.5.7.8.9
患者の生命の危機をもたらす言動の対応に困る 8
知識不足や不慣れさのために患者への対応に糸口が見つからない 患者への対応に行き詰まる 2.4.9
知識不足や対応の不慣れからよい援助の方向性を判断しかねる 1.13
暴力が出現する予測の見極めや対応の見当がつかない 11
思い描くようにいかない看護援助 積み重ねてきた経験が通用しない 身体科の経験から習得した方法が通用しない 3.11
精神看護特有の治療的関係が腑に落ちない 11
精神症状を予防するための援助の見当がつかない 2
患者の家族と関わることが単純ではない 13
患者の身体的治療や看護援助を妨げる言動を防ぐことが厳しい 身体的治療や看護援助を妨げる対応に困る 1.3.7.8
患者の拒否による身体的治療や看護援助を妨げる対応に困る 1.8.9.13
本人の意に反する治療や処置を行わざるをえずジレンマを感じる 不要と考える身体処置を行うことに疑問を感じる 11
生活を多く規制する看護へ疑問を感じる 11
安全を第一に考え抑制が増える 9
触発された否定的感情の滞留 患者に対しネガティブな感情が湧き上がる 他患者に申し訳なく思うほど看護援助に時間を取られる 12
患者に対し嫌悪感や偏見を抱く 9
思うようにいかない患者との関わりに自信を無くし,不安や恐怖を抱く 思った通りに進まない患者看護師関係構築に難渋する 1.8.13
うまく運ばない患者との関わりに自信がなく,不安を抱いてる 2.3
予想外の結果になった経験から関わりを回避するほど恐怖心を抱いている 12
自尊心が低下していく経験が積み重なる 看護師経験歴があるプライドが邪魔をして相談できない 11
感情的にならないよう自分をコントロールすることが難しい 9.12
上手くできないことで自分の看護力に対する不信感が湧き上がる 11.12
実現が難しい組織の支援体制 看護援助を展開するための支援が不足している 看護師への支援体制が不足している 9.10.11
多忙のため介入する時間がない 2.9
精神症状に応じた療養環境を調整することが期待できない 迷惑行為から周囲の患者との間を取り持つことが簡単ではない 1.3.8
精神状態に適した療養環境を調整することが難しい 3.13
医療スタッフ間のチームアプローチは一筋縄でいかない 医療スタッフ間のチームアプローチが難しい 3.9.11.13

1) 精神看護の展開に必要な知識や経験の不足

【精神看護の展開に必要な知識や経験の不足】とは,メンタルヘルスに不調を呈する患者を理解するために必要な精神看護学の知識や技術,経験の不足があると身体科の経験を有する看護師自身が捉えていることを意味している.看護師は患者特有の精神症状,また身体疾患の治療の影響や向精神薬を中断したことにより「現れる精神症状を読み解くことが容易にはいかない[1,3,6,10,11,13]」ことを実感し,精神症状のアセスメントに難しさを感じていた.さらには精神疾患による陽性症状や陰性症状,患者の特性によって現れる心理的反応や行動の異常など「多様な精神症状や反応を呈す患者の対応について難しい[1,2,5,7~9]」と感じており,特に生命の危機をもたらす予測が立たない言動の対応に苦戦していた.また「知識不足や不慣れさのために患者への対応に糸口が見つからない[1~4,9,11,13]」と援助の方向性を判断しかね,対応に行き詰まるなど迷いを抱えながら対応していた.そして暴力の出現や攻撃性が高まる状況を予測することや出現時の対応について効果的な展開を期待できる手がかりをつかむことができないことに困難さを感じていた.

2) 思い描くようにいかない看護援助

【思い描くようにいかない看護援助】とは,メンタルヘルスに不調を呈する患者への看護援助は自らが想定したとおりにはいかないことを意味している.看護師は身体科での看護実践を積み重ねることで,自らの看護援助に見通しを立て実践し,その効果も実感していた.しかし打って変わって,メンタルヘルスに不調を呈する患者や家族に対しては,身体科の経験から習得した知識や技術を最大限に活用しても「積み重ねてきた経験が通用しない[2,3,11,13]」こと,つまり精神科特有の治療的援助関係や精神症状に対する予防的援助について見当がつかないことに困難さを感じていた.さらに「患者の身体的治療や看護援助を妨げる言動を防ぐことが厳しい[1,3,7~9,13]」といった患者の身体的健康を回復,もしくは維持するために身体疾患の治療を優先した援助を展開することが極めて困難であり,緊急性が高い状況では制限を要するなど「本人の意に反する治療や処置を行わざるをえずジレンマを感じる[9,11]」看護援助を展開せざるえないことに困難さを感じていた.

3) 触発された否定的感情の滞留

【触発された否定的感情の滞留】とは,患者に対し自らが思い描くような看護援助を展開することが難しく,さらに経験があるがゆえに個人で抱え込み,自らに対する不信感や患者に対する否定的な感情をもち続けたまま,看護援助を展開することを意味している.看護師はメンタルヘルスに不調を呈する患者への対応に追われることで他患者への援助に十分な時間を費やすことができないなど他患者の入院環境に影響を及ぼすことに罪悪感を抱いていた.この要因からメンタルヘルスに不調を呈する「患者に対しネガティブな感情が湧き上がる[9,12]」ことを看護師自身が自覚していた.さらに治療的援助関係の構築に難渋し「思うようにいかない患者との関わりに自信をなくし,不安や恐怖を抱く[1~3,8,12,13]」困難さを感じていた.身体科の経験があるがゆえに上手くいかない自己の状況を客観視しており,周囲に相談することもできず「自尊心が低下していく経験が積み重なる[9,11,12]」ことでさらなる悪循環を招いていた.

4) 実現が難しい組織の支援体制

【実現が難しい組織の支援体制】とは,身体科領域ではメンタルヘルスに不調を呈している患者に対し,効果的な治療や看護援助を提供する組織的な支援体制が整備されておらず,改善することが難しいことを意味する.看護師は,メンタルヘルスに不調を呈する患者の「看護援助を展開するための支援が不足している[2,9~11]」ことに困難さを感じていた.また精神症状の出現によって他患者が安心できる入院環境を保つことが難しいといった「精神症状に応じた療養環境を調整することが期待できない[1,3,8,13]」ことにジレンマを抱いていた.メンタルヘルスに不調を呈する患者に看護師だけではなく多職種連携によるチームアプローチが望ましいと捉えていながらも「医療スタッフ間のチームアプローチは一筋縄でいかない[3,9,11,13]」といった各専門職者間での優先順位の相違によってチームアプローチが思うように進まないことに困難さを感じていた.

Ⅵ  考察

1. 身体科の経験を有する看護師のメンタルヘルスに不調を呈する患者に対する対応の困難さ

身体科の経験を有する看護師は,自身の【精神看護の展開に必要な知識や経験の不足】を客観的に捉え,実感することで迷いを抱えながら看護援助を展開していた.妄想や幻視,幻聴など統合失調症を連想しやすい精神病様症状は,せん妄や認知症,依存症などとの精神症状との判別が困難であり(大達・矢田・山根,2016)「現れる精神症状を読み解くことが容易にいかない」.さらに近年増加傾向にある気分障害やパーソナリティ障害などに現れる不安や不眠,抑うつなどの神経症様症状は,身体疾患や入院によるストレスとして現れる(大達・矢田・山根,2016).加えて身体科で働く看護師の体験から,不意打ちのような体験(吉田・多喜田,2015)であると表現されているように精神症状の出現は突発的であり,「多様な精神症状や反応を呈す患者の対応について難し(い)」く,「知識不足や不慣れさのために患者の対応に糸口が見つからない」精神症状の複雑な要因を読み解くことに苦慮していた.

また看護師経験の中で,積み重ねてきた経験が通用せず,精神症状により身体的治療や看護援助が円滑に進まず,本人の意に反する治療や処置を行わざるをえない状況から自らが【思い描くようにいかない看護援助】を経験していた.身体科領域で働く大半の看護師は,精神症状を発症する前の患者の姿を知っていることもあり,あきらめずケアを遂行しようとしている(吉田・多喜田,2015).しかしながら「積み重ねてきた経験が通用しない」ことで,メンタルヘルスに不調を呈する患者の状態を見通すことが困難であり(安藤ら,2003遠藤,2005),効果的な看護援助を展開したいと願いながらも,「患者の身体的治療や看護援助を妨げる言動を防ぐことが厳し(い)」く,「本人の意に反する治療や処置を行わざるをえずジレンマを感じ(る)」,複雑な要因による精神症状の対応に身体科領域で働く看護師は苦慮していた(大達・矢田・山根,2016).

これに加え,メンタルヘルスに不調を呈する患者が抱く不安や怒りの感情に看護師自身が触発され,【触発された否定的感情の滞留】となり,患者との関りに不安や恐怖を抱いていた.例えば末期癌患者への看護援助を提供する中で興奮やうつ症状,不眠などの対応に苦慮することで無力感やストレスを感じていた(田中・佐藤・高野,2003).また患者から拒否されることで無力感を抱き,知識経験不足による自信喪失や信頼関係を築けないことへの不安を抱えていた(三浦ら,2005).特に患者から批判や怒りを向けられる時や過度に依存される時,気分の変動が激しい時など患者の行動特性や反応が理解できず,うまく対応できなかった経験は患者に対する怖さや不安感を増大させる(安藤ら,2003)など看護師の感情を触発し,「患者に対しネガティブな感情が湧き上がる」ことで,さらに苦手意識となっていた.このように「思うようにいかない患者との関わりに自信を無くし,不安や恐怖を抱く」ことで,メンタルヘルスに不調を呈する患者に対する看護援助の困難さやそれに伴う看護師の陰性感情や否定的な態度がその状況を益々困難なものとし,悪循環を引き起こす(安藤ら,2003)ことは「自尊心が低下していく経験が積み重なる」.身体合併を伴う精神障害者が入院することに対し,否定的な感情をもち(大達・矢田・山根,2016),約8割の看護師が陰性感情を抱く(山根ら,2015)といった報告もある.

また身体的治療の優先から「精神症状に応じた療養環境を調整することが期待でき(ない)」ず,「看護援助を展開するための支援が不足し(ている)」,さらに各医療スタッフの優先順位における認識の違いから,「医療スタッフ間のチームアプローチは一筋縄でいかない」といった【実現が難しい組織の支援体制】にジレンマを抱いていた.ネガティブな感情を触発されるような経験が昇華されず持ち続け,積み重なることは負の連鎖を引き起こす.これは看護師の心身の疲弊の蓄積となり,バーンアウトを招きやすい状況になると考える.

以上より,本邦における身体科の経験を有する看護師のメンタルヘルスに不調を呈する患者に対する対応の困難さが示された.他国の文化と比較することによってのみ明らかになるものではなく,むしろ自国の実践のこだわり,そうした行為や実践を支える制度や社会や風土の中で積み上げられ,実践されているケアというものを丹念に見ていくことで,科学的・普遍的知識をもとにしながら,個に対応した細やかなケアが可能となる(望月,2016).本結果から,本邦におけるより詳細で具体的な実態が明確になり,身体科の経験を有する看護師に対する具体的な支援の手掛かりになると考える.

2. 身体科の経験を有する看護師に対する支援の在り方

精神科以外の診療科においても,メンタルヘルスに不調を呈する患者への看護援助を行う機会は増加している.今回の結果をもとに身体科の経験を有する看護師の困難さを軽減するための支援の在り方について考察する.

1) 身体科の経験を有する看護師の臨床知を支える機会

身体科領域で働く看護師は,患者の状態によっては身体科の入院治療が望ましいと(山根ら,2015),患者にとって最善の医療を提供することを第一に考えている.しかし一方で,精神看護に関する知識や技術が不足していると感じており(永嶋ら,2003),この課題を解決するための具体的な内容については明らかにされていない.そういった中,身体科領域の臨床から勉強会や対応のモデリングの実施が求められており(山根ら,2015),精神看護の知識や対応スキルを再学習する機会をつくることは重要であると考える.こころのケアには1つ1つの場面に独自性があり,そのこころのケアを実現するためには,全体性,個別性,複雑さの中に身を置きながら,慎重にアセスメントや看護援助を行うことが重要である(野嶋・南,2000).また精神症状やアセスメントの知識は,臨床経験において知識を活用することで技術として獲得される(大津,2012).つまり対象や場面を設定し,その中で自らが看護援助を実施し,その看護援助に対する患者の反応から,さらにどう看護援助を展開していくかといった臨床知を獲得することを支える学びの場が必要である.成功体験の積み重ねと臨床知の獲得,両方の機会を提供するための技法として,シミュレーション的技法があげられる.シミュレーション的技法は臨床知の形成を目指す教育技法である(藤岡・野村,2000).すでに蘇生訓練などは,臨床現場で取り入れられている.この技法をメンタルヘルスに不調を呈する患者の疾患理解や症状アセスメントに加えて,実際の看護援助やその看護援助に対する患者の反応から,どう看護援助を展開していくか,より実践に即した学ぶ機会を提供していくことが必要であると考える.また精神疾患を抱えている患者対応が難しい状況において,リエゾン精神看護専門看護師の活動により,看護師自身が適切な看護援助が行なえた実感を得た(坂口・古城門・藤原,2006)ことや現場で困っている看護師の孤立感を緩和し,患者の精神症状が早期に緩和することへの貢献など波及効果がある(早川,2022)ことが報告されている.リエゾン精神看護専門看護師のもつ臨床知を取り入れることは,心身両側面における看護援助の提供を助けるであろう.

2) 看護師のストレスに対するセルフケア強化を目指した機会

今回【精神看護の展開に必要な知識や経験の不足】がある自分の状況を捉えていることに加え,【思い描くようにいかない看護援助】,【触発された否定的感情の滞留】の状況にあることが明らかになった.特に精神看護の領域では,適切な心理的距離を保って看護援助を展開することが重要であることを理解していても,実際には困難であることが多い(香月,2009).さらに経験があるがゆえに個人で抱え込み,自らに対する不信感や患者に対する否定的な感情をもち続けたまま,うまく運ばない看護援助を継続している看護師にとって,ストレスフルな状況であることは想像できる.さらに【実現が難しい組織の支援体制】,つまり支援体制を整えることに時間を要し,その状況下において課題を抱えながら看護実践を展開していることも明らかになった.看護職は生命を預かるという責任の重さのなか,常に厳しさをはらんで推移する事態や状況のなかで,自分をどこまで認められ,自分の能力にどれだけ信頼ができるかどうかが強くあらわになる特殊な場で仕事をしている(吉本,2007).つまり看護師の業務は常に完全志向が求められるため,“自分はこれでよいのだ”といった自分の価値を認める自尊感情や“自分はやっていける大丈夫だ”といった自分の経験や力を信頼する自己効力感が弱められてしまいかねない(吉本,2007).本結果からも【精神看護の展開に必要な知識や経験の不足】,【思い描くようにいかない看護援助】,【実現が難しい組織の支援体制】がある状況を捉えることで困難さを感じており,自尊心や自己効力感が弱められる状況にあることが明らかになった.看護師が患者に対して抱く苦手,困難,恐怖などの否定的な感情に直面し,その感情を看護に活かすためには,教育のみでは限界がある(大津,2012)ともいわれている.このようなストレス要因となる自尊感情や自己肯定感の低減を招きやすい状況下にある看護師は,自分の心身の健康を守るための知識や技術であるストレスマネジメントについて学ぶ機会が望まれる.また【触発された否定的感情の滞留】に困難さをキャッチした時には,患者との心理的距離を自己洞察することで,患者との関係をより健全に保つことができる(香月,2009).このように自分の心身の状態に目を向け,いつどんな時でも自分で手当てできるセルフケア強化を目指した支援の機会が重要であると考える.そして困難さの悪循環から脱することが難しい時には自らリエゾン精神看護専門看護師を活用することが重要であると考える.

Ⅶ  結論

1.身体科の経験を有する看護師が感じたメンタルヘルスに不調を呈する患者への対応の困難さは,精神症状や看護援助の糸口が容易に見つからず,対応について難しいといった【精神看護の展開に必要な知識や経験の不足】がある自分の状況を捉えていた.また積み重ねてきた経験が通用しないだけではなく,本人の意に反する治療や処置を行うことは【思い描くようにいかない看護援助】となり,患者との関わりに自信をなくし,不安や恐怖さえも抱いていた.そして患者に対しネガティブな感情が湧き上がり,自尊心が低下していく経験が積み重なることで【触発された否定的感情の滞留】を引き起こしていた.さらに看護援助を展開するための支援不足や医療スタッフ間の協同体制,精神症状に応じた療養環境を調整することが期待できない【実現が難しい組織の支援体制】は,身体科の経験を有する看護師にとって心身の疲弊を招く状況にあったと考えられる.

2.患者の疾患理解や症状アセスメントの知識を習得することに加え,実際の看護援助やその看護援助に対する患者の反応から,どう看護援助を展開していくか想定した臨床知を獲得することを支える学びの機会を提供することが必要である.また看護師自身のメンタルヘルスを支えるために患者との心的距離に関する知識やセルフケア強化を目指したストレスマネジメントについても学ぶ機会を提供することが重要である.

Ⅷ  本研究の限界と課題

本研究は和論文13文献に限定されているため,対象とする情報が限られている.今後は,臨床から得られるデータをもとに文献レビューによる知見の妥当性を検討するとともに,実態のさらなる解明を図る必要があると考える.

 利益相反

本研究における利益相反は存在しない.

 著者資格

HTは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文の作成を行い,AFは分析,研究プロセス全体の助言,TT,KNは研究プロセス全体の助言を行った.全ての著者が最終原稿を読み,承認した.

 付記

本論文の一部は,第43回日本看護科学学会学術集会にて報告した.

文献
  •  安藤 幸子, 山下 裕紀, 鵜川 晃,他(2003).患者との関わりにおいて一般病棟の看護師が感じる困った状況.神戸市看護大学紀要,7, 45–54.
  •  遠藤 太(2005).精神疾患に身体疾患を合併した患者をケアする一般科看護師が直面する困難.日本看護科学学会学術集会講演集,25, 247.
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