Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
Online ISSN : 2432-101X
Print ISSN : 0918-0621
ISSN-L : 0918-0621
Materials
Changes and Innovations in Psychiatric Nursing Education during the Coronavirus Pandemic by Faculty in Undergraduate Nursing Programs and Their Evaluation
Yuki HamadaHazuki IgitaMariko TashiroKyoko MayumiNaomi Saito
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 95-104

Details
Abstract

目的:4年制大学の精神看護学の担当教員が,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下で行った教育の変更と工夫,パンデミック時の教育評価,パンデミック後の教育に対する認識を明らかにする.

研究方法:2020年から2022年の間4年制大学で精神看護学を担当した教員を対象に,質問紙調査を実施した.

結果:有効回答105件を分析した.ほぼ全員が「登校制限」を経験し,86.7%が「講義」を変更していた.講義の教育目標の達成度を「十分」と「不十分」と評価した参加者はそれぞれ40%ずつであった.ほぼすべての参加者が「実習」を変更し,55%の参加者が教育目標の達成度を「不十分」,30%が「十分」と評価した.58%の参加者が,学生の対人関係能力が変化したと報告した.

考察:ICTを活用した遠隔講義や実習,対面学習を組み合わせた柔軟な指導方法が,パンデミック中に開発された.学生の対人関係能力を促進し,地域でのリカバリー支援等の課題について,デジタル化を含む精神看護学教育の開発が必要である.

Translated Abstract

Purpose: The study identifies changes and innovations in education developed by psychiatric and mental health nursing faculty at a four-year university during the coronavirus (COVID-19) pandemic, their evaluation of their education during the pandemic, and their perceptions of their education after the pandemic.

Research Method: A questionnaire survey was administered to psychiatric and mental health nursing faculty members working at four-year universities who oversaw psychiatric nursing education between 2020 and 2022.

Results: About 105 valid responses were analyzed. Nearly all the participants experienced “school attendance restrictions” and 86.7% created changes in “lectures.” Participants who rated the achievement of educational objectives of “lectures” as “sufficient” and “insufficient” were split at 40% each. Almost all the participants made changes in “practical training,” with 55% of participants rating the achievement of educational objectives as “insufficient” and 30% as “sufficient.” respectively. 58% of participants reported that the students’ interpersonal skills had changed.

Discussion: Online lectures and practical training sessions using ICT and flexible teaching methods that combined face-to-face learning were developed during the pandemic. Development of psychiatric nursing education, including digitization, is needed to promote students’ interpersonal skills and to address issues such as recovery support in the community.

Ⅰ  はじめに

2019年12月中国の武漢で新型コロナウィルス(COVID-19)が発見され,2020年3月WHOはパンデミックとして認定した(WHO, 2020).3密の回避,出社・登校制限,抗原検査等の感染対策に伴い,テレワークや遠隔会議等のデジタル化が進み,社会全体が大きな生活様式の変更を迫られることとなった.2020年2月と6月に文部科学省と厚生労働省は事務連絡「新型コロナウイルス感染症の発生に伴う医療関係職種等の各学校,養成所及び養成施設等の対応について」によって,新型コロナウィルスパンデミック(以下,パンデミックとする)下において実習や授業等を弾力的に行うよう周知し(文部科学省,2020),看護教育の場においても教員は変更への対応を余儀なくされた(文部科学省,2021).

感染拡大は収束し,2023年5月に新型コロナウィルスは5類感染症となったが(厚生労働省,2023),パンデミックによる生活様式の変化は「ニューノーマル」となり,コロナ前とは異なる社会となった.パンデミックに対応するために,教員は代替カリキュラムをつくり,デジタル機器を活用する中で,精神看護学の教育内容や教育方法の検討について試行錯誤したことが推察される.パンデミックはこれまでの教育方法の変更を迫まる緊急事態であったが,同時に慣例となっていた教育方法を変更し,新たな方法を試みる機会にもなったのではないだろうか.パンデミック下での登校制限によって,精神看護学においても遠隔講義等ICT(情報通信技術,以下ICT)の活用が進んだものと思われるが,それに合わせて教育方法や教育内容も再考され,変化したことが推測される.

精神看護学を担当する教員がパンデミック下においてICTを活用しながら行った教育内容の変更や教育における工夫を明らかにするとともに,教育の試行錯誤の中で精神看護学教育において強化したい内容についてどのような認識をもっているかを明らかにすることにより,今後の精神看護学教育のあり方への示唆を得ることができると考える.

Ⅱ  研究目的

本研究の目的は,4年制大学の精神看護学の担当教員が,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下で行った教育の変更や工夫,パンデミック時の教育評価,パンデミック後の教育に対する認識を明らかにすることである.本研究におけるパンデミック時とは,WHOがパンデミックを認定した2020年3月から我が国において5類感染症となった2023年5月までの期間をさす.

Ⅲ  研究方法

1. 研究デザイン

質問紙を用いた横断的研究デザイン.

2. 研究対象者

厚生労働省ホームページに掲載されている「医療関係職種養成所情報(2023年8月21日現在)」に掲載されている4年制大学で看護師養成を行っている299機関(研究者所属機関を除く)に勤務する精神看護学教員のうち,2020年度~2022年度に精神看護学教育を担当したものを研究対象者とした.

3. 調査方法

調査票は,デモグラフィックデータ8項目,コロナパンデミック下での精神看護学教育の状況13項目,精神看護学教育についての教員の認識に関する16項目の計37項目で構成されたものを研究者らが作成した.対象となった299施設の学部長または学科長宛に調査票各3部を郵送し,精神看護学の領域長に渡していただくよう依頼した.精神看護学の領域長宛の文書を同封し,2020年度~2022年度に精神看護学教育を担当した教員への配布を依頼した.調査期間は,2023年11月~2024年1月であった.

日本看護系大学協議会(2021)の看護系大学(国公私立)教員数に関する調査結果(2021年度)をもとに精神看護学の教員数2人(31%)と3人(45%)の割合を反映し,対象数を598として回収率を算出した.

4. 分析方法

アンケート項目の基礎統計量を算出し,回答の傾向を把握した.自由記述については,記述内容の差異と類似性に着目してコード化しカテゴリーを抽出した.

5. 倫理的配慮

調査票に,本研究の目的,自由意思による参加,調査方法,資料の保管,個人情報の取り扱い,研究体制等について記載した研究説明文書を添付し,無記名での調査票への回答によって調査協力の同意を得た.インターネット回答による電子メール情報は,データをダウンロードして保存する際にデータと切り離して保存した.回答は教員各自がインターネットあるいは郵送にて行い,自由意思による研究参加が保証され,職場での強制力や回答内容による不利益が生じないように配慮した.調査票およびデータは研究終了後10年保管し,シュレッダーを用いて破棄する.東京女子医科大学倫理委員会の承認を受けて行った(承認番号2023-0059).

Ⅳ  結果

郵送による書面での回答数は42,オンラインでの回答数は70,回収率は17.6%であった.そのうち回答内容に不備がある7件を除外し,有効回答105件(有効回答率93.8%)について分析を行った.

1. 対象者の背景(表1
表1 対象者の背景

N = 105(人)

年代 30代 17(16.2%)
40代 29(27.6%)
50代 37(35.2%)
60代 22(21.0%)
精神看護学の教員としての経験年数 平均14.7年(範囲3~46年)
現在の職位 教授 42(40.0%)
准教授 19(18.1%)
講師 16(15.2%)
助教 28(26.7%)
所属する教育機関の設置主体 国公立 36(34.3%)
私立 69(65.7%)
コロナ禍での登校制限 あり 103(98.1%)
なし 2(1.9%)
「講義」の変更 あり 91(86.7%)
なし 14(13.3%)
「実習」の変更 あり 100(95.2%)
なし 5(4.8%)

対象者の年代の内訳は,50代37人(35.2%),40代29人(27.6%),60代22人(21.0%),30代17人(16.2%)の順に多かった.精神看護学の教員としての経験年数は平均14.7年(範囲3~46年),現在の職位は教授42人(40.0%),准教授19人(18.1%),講師16人(15.2%),助教28人(26.7%)であった.所属する教育機関の設置主体は,国公立36人(34.3%),私立69人(65.7%)であった.パンデミック下において学生の登校制限があったかを尋ねたところ「登校制限があった」が103人(98.1%),「登校制限はなかった」が2人(1.9%)であった.

2. パンデミック下での精神看護学教育の変更とその評価

1) 講義内容の変更とその評価

パンデミックによる精神看護学の「講義」の内容や方法の変更は,「あり」が91人(86.7%),「なし」が14人(13.3%)であった.変更「あり」のものに対し,教育目標の達成度をどのように評価しているか尋ねたところ,「教育目標を達成するのには十分な内容や方法である」が45人(42.9%),「教育目標を達成するのにはやや不十分な方法である」が43人(41.0%)とほぼ同数であり,「教育目標の達成にむけて従来のものよりもよりよい内容や方法となった」が3人(2.9%),「変更した内容や方法では教育目標を達成することはできない」と回答した者はおらず,「無回答」であった者が14人(13.3%)であった.

変更「あり」と回答した者に,変更内容を自由記述にて回答を依頼し,記載のあった88人の回答を分析した(表2).回答は,〈対面授業の制限〉,〈ICTの活用〉,〈LMS(Learning Management System,以下LMS)の活用による遠隔授業(オンデマンド)への切り替え〉,〈同時双方向オンライン授業(Teams©, Zoom©等)への変更〉,〈オンライン授業や課題学習への切り替えに伴う演習やグループワークの個人ワークへの変更〉,〈オンライン授業でのコミュニケーション演習の導入〉,〈対面交流の制限に伴うオンライン上での学習や評価の増加〉,〈遠隔授業への変更に伴う教材や試験の形式の変更〉,〈遠隔教育と対面とのハイブリッド形式の採用〉であっ‍た.

表2 コロナ禍での精神看護学講義の変更内容と工夫および今後強化したい内容

講義の変更内容
(n = 88)
〈対面授業の制限〉〈ICTの活用〉
〈LMSの活用による遠隔授業(オンデマンド)への切り替え〉
〈同時双方向オンライン授業(Teams©, Zoom©等)への変更〉
〈オンライン授業や課題学習への切り替えに伴う演習やグループワークの個人ワークへの変更〉
〈オンライン授業でのコミュニケーション演習の導入〉
〈対面交流の制限に伴うオンライン上での学習や評価の増加〉
〈遠隔授業への変更に伴う教材や試験の形式の変更〉
〈遠隔教育と対面とのハイブリッド形式の採用〉
講義の変更における工夫
(n = 83)
〈双方向性の促進〉:Zoom©のチャット機能やブレイクアウトルームの活用し,学生同士や教員との双方向のコミュニケーションを促進する.チャットやブレイクアウトルームなどを活用してグループワークを行うことで,学生同士の議論や活発なコミュニケーションを可能にする.
〈オンライン教材の充実〉:資料や動画をオンラインで提供し,学生が自宅で学習を進めるための資料を充実させ,オンデマンドでアクセス可能な環境を整える.オンラインでの課題提出や小テストの実施を行い,学生の理解度を評価し,学習の進捗を確認する.
〈学生のメンタルヘルスへの配慮〉:ストレッチや休憩時間の設定することで,長時間の画面操作による疲労を軽減し,学生の集中力やメンタルヘルスをサポートする.連絡を確実に行い,通信環境に制約がある学生のために授業の録画を提供して自主学習を促進するなど,学生への不安等への配慮を行う.
〈対面授業との連携・感染対策〉:対面授業において課題提出の機会をつくる等,オンラインと対面の両方の形式を活用し,学生が柔軟に学習できる環境を提供する.対面では教室を分けるなどの感染対策を行う.
今後強化したい講義の内容
(n = 56)
〈学生の自己学習力の強化〉:学生の自発的な学習や主体的な取り組みを促すための教材や教育方法(オンラインや対面での演習,動画活用,アクティブラーニングなど)の導入.
〈基礎的な知識の強化〉:基礎的な知識や概念に焦点を当て,学生の理解を促進すること.
〈コミュニケーション能力の向上〉:コミュニケーション能力やカウンセリングスキルの強化,対人関係能力向上のための演習やカウンセリング講義の強化.
〈実践的な経験の重視〉:当事者や模擬患者とのロールプレイやシミュレーション教育を通じて,実践的な経験を積ませること.
〈リカバリー志向の看護過程〉:患者のリカバリーを重視し,看護過程にリカバリーの視点をより組み込むこと.
〈地域連携と看護の独自性〉:地域の多職種連携や看護の独自性・専門性から,地域包括ケアやリカバリー支援に焦点を当てること.
〈現実の臨床状況への対応〉:精神科の現実的な臨床状況や患者のリアルな状況を学生に伝えるために,映像教材やディスカッション,実習前のシミュレーションなどの導入.
〈遠隔医療への対応〉:遠隔医療の普及に伴い,遠隔医療に必要なスキルや知識を教育に取り入れる必要性があること.

また変更にあたり効果的に教育を行うために工夫した点について自由記述を求めたところ,83人の自由記述があり,以下の内容が得られた(表2).〈双方向性の促進〉では,Zoom©のチャット機能やブレイクアウトルームを活用し,学生同士や教員との双方向のコミュニケーションを促進していた.またチャットやブレイクアウトルームなどを活用してグループワークを行うことで,学生同士の議論や活発なコミュニケーションを可能にしていた.〈オンライン教材の充実〉では,資料や動画をオンラインで提供し,学生が自宅で学習を進めるための資料を充実させ,オンデマンドでアクセス可能な環境を整えていた.またオンラインでの課題提出や小テストの実施を行い,学生の理解度を評価し,学習の進捗を確認していた.〈学生のメンタルヘルスへの配慮〉として,ストレッチや休憩時間の設定することで,長時間の画面操作による疲労を軽減し,学生の集中力やメンタルヘルスをサポートしていた.連絡を確実に行い,通信環境に制約がある学生のために授業の録画を提供して自主学習を促進するなど,学生への不安等への配慮が行われていた.〈対面授業との連携・感染対策〉では,課題提出の機会をつくる等,オンラインと対面の両方の形式を活用し,学生が柔軟に学習できる環境を提供し,対面では教室を分けるなどの感染対策を行っていた.

精神看護学の講義について,今後強化したい内容とその理由を自由記述で回答を求め,56人から得られた記述を分析した(表2).学生の自発的な学習や主体的な取り組みを促すための教材や教育方法(オンラインや対面での演習,動画活用,アクティブラーニングなど)を導入する〈学生の自己学習力の強化〉,基礎的な知識や概念に焦点を当て,学生の理解を促進する〈基礎的な知識の強化〉,コミュニケーション能力やカウンセリングスキルの強化,対人関係能力向上のための演習やカウンセリング講義の強化する〈コミュニケーション能力の向上〉,当事者や模擬患者とのロールプレイやシミュレーション教育を通じて,実践的な経験を積ませる〈実践的な経験の重視〉,患者のリカバリーを重視し,看護過程にリカバリーの視点をより組み込む〈リカバリー志向の看護過程〉,地域の多職種連携や看護の独自性・専門性から,地域包括ケアやリカバリー支援に焦点を当てる〈地域連携と看護の独自性〉,精神科の現実的な臨床状況や患者のリアルな状況を学生に伝えるために,映像教材やディスカッション,実習前のシミュレーションなどの導入を行う〈現実の臨床状況への対応〉,遠隔医療の普及に伴い,遠隔医療に必要なスキルや知識を教育に取り入れる〈遠隔医療への対応〉が今後強化したい内容であった.

2) 実習内容の変更とその評価

パンデミックによる精神看護学の「実習」の内容や方法の変更は,「あり」が100人(95.2%),「なし」が5人(4.8%)であった.実習の変更「あり」と回答した者に,変更した内容について教育目標の達成度をどのように評価しているかを尋ねたところ,「教育目標を達成するのにはやや不十分な方法である」と回答した者が58人(55.2%)と最も多く,次いで「教育目標を達成するのには十分な内容や方法である」と回答した者が32人(30.5%),「教育目標の達成にむけて従来のものよりもよりよい内容や方法となった」と回答した者が5人(3.8%),「変更した内容や方法では教育目標を達成することはできない」と回答した者が4人(3.8%),「無回答」であった者が6人(5.7%)であった.

実習の変更「あり」と回答したものに,変更内容を自由記述で回答を求め,98名の記載内容を分析した(表3).臨地実習が制限され,学内での演習やシミュレーションなど〈学内実習への切り替え〉が行われ,これにはペーパーペイシェントを使った事例の看護過程の展開や,教員が患者役としてロールプレイすること,学生同士の対話などが含まれた.〈オンライン実習の導入〉では,Zoom©やオンデマンド形式を用いた実習が導入され,病院や施設とのオンライン接続によるオリエンテーションやSSTプログラムへの参加,オンラインインタビュー,オンラインカンファレンス,動画教材やVR教材の活用などが含まれた.〈実習時間の変更〉では,感染リスクの管理や学生の健康を考慮し,実習日数や時間の短縮,実習内容の一部変更が行われた.〈実習施設の変更〉では,感染状況による一部の実習施設の受け入れ制限に伴い,他の施設への変更や新たな施設の開拓が行われた.〈感染対策の導入〉では,マスクやフェイスシールドの着用,検査キットの使用,健康観察アプリの導入など,感染対策が強化された.〈学内実習と臨地実習の組み合わせ〉では,臨地実習の制限がある場合でも,一部の臨地実習が可能な場合は,学内実習との組み合わせが行われたり,実習スケジュールが調整されたりした.臨地実習は時間の短縮に伴い,受け持ち実習からシャドーイング,参加観察等へ内容が変更された.学内演習では体験したことの意味付けが行われた.

表3 コロナ禍での精神看護学実習の変更内容と工夫および今後強化したい内容

実習の変更内容
(n = 98)
〈学内実習への切り替え〉:臨地実習の制限に伴う学内での演習やシュミレーションへ実習を切り替えた.ペーパーペイシェントを使った事例の看護過程の展開や,教員が患者役としてロールプレイすること,学生同士の対話などを含む.変更に合わせた実習目標の見直し.
〈オンライン実習の導入〉:Zoom🄫やオンデマンド形式を用いた実習の導入.病院や施設とのオンライン接続によるオリエンテーションやSSTプログラムへの参加,病院関係者や当事者へのオンラインインタビュー,オンラインカンファレンス,動画教材やVR教材の活用,などを含む.
〈実習時間の変更〉:感染リスクの管理や学生の健康を考慮して,実習日数や時間の短縮,実習内容の一部変更が行われた.
〈実習施設の変更〉:COVID-19の感染状況による一部の実習施設の受け入れ制限に伴い,他の施設への変更や新たな施設の開拓を行った.
〈感染対策の導入〉:マスクやフェイスシールドの着用,検査キットの使用,健康観察アプリの導入など,感染対策が強化された.
〈学内実習と臨地実習の組み合わせ〉:臨地実習の制限がある場合でも,一部の臨地実習が可能な場合は,学内実習との組み合わせを行い,実習スケジュールを調整した.臨地実習は時間の短縮に伴い,受け持ち実習からシャドーイング,参加観察等へ内容を変更をした.体験したことの意味付けを学内実習で行う.
実習の変更における工夫
(n = 94)
〈実習環境の再現とリアリティの確保〉:学内の実習室をリアルな医療現場に近づける工夫,ナースステーションや病床の再現,電子カルテ教材の活用,学内での演習や討論を通じたリアリティの追及などを行うこと.
〈学生間や学内外とのコミュニケーションと協働〉:学生同士の話し合いの促進,多様な施設や関係者との連携・協力,オンライン講義やセミナーの開催,オンラインでの実習や指導を通じて,対面で制限されたコミュニケーションと協働を増やす試みをすること.
〈ICT(情報通信技術)の活用〉:オンライン教材や動画の導入,ビデオカンファレンスやモバイルアプリの使用などを活用すること.
〈個別ケースの検討と模擬患者の活用〉:シミュレーションやロールプレイ,ペーパーペイシェントや模擬患者の使用,個別の事例検討やグループディスカッションなどを行う.
〈教育プロセスの調整と学生サポート〉:オンラインでの個別面談やフィードバックを取り入れたり,質問時間を確保する,実習記録用紙の変更,学生の自己学習サポートなどを行う.
〈感染症対策と安全性確保〉:オンラインや学内での実習の実施をすることで,患者との直接的な接触を最小限に抑えた実習方法を選択する.安全確保のための連絡体制の整備.
今後強化したい実習の内容
(n = 51)
〈地域志向と地域資源の活用への関心〉:実習内容の地域志向化や地域での実践を増やしたい,地域の福祉施設や支援機関での実習.
〈地域移行・定着支援やリカバリー志向の強化〉:当事者主体の地域生活支援や社会復帰のサポートに関する実践や,多職種協働による地域移行やリカバリー,ストレングスの概念に基づいた実習.
〈コミュニケーションスキルの向上への取り組み〉:患者とのコミュニケーションや対人関係技術の向上.
〈実習後の振り返りや意味づけの改善〉:実習後の振り返りや意味づけを強化し,学生の感情や経験を中心に据えるアプローチに変更したい.
〈知識の深化と自己学習への意識〉:基本的な看護過程の展開に必要な症状アセスメントやリカバリーやストレングスの理解を深めるための知識やスキルの強化,学生の内発性や現象の背景に気づく力を向上したい.

実習の変更「あり」と回答したものに,変更にあたり効果的に教育を行うために工夫した点を自由記述で尋ね,94名の記載内容を分析した(表3).〈実習環境の再現とリアリティの確保〉では,学内の実習室をリアルな医療現場に近づける工夫,ナースステーションや病床の再現,電子カルテ教材の活用,学内での演習や討論を通じたリアリティの追及などが行われていた.〈学生間や学内外とのコミュニケーションと協働〉は,学生同士の話し合いの促進,多様な施設や関係者との連携・協力,オンライン講義やセミナーの開催,オンラインでの実習や指導を通じて,対面で制限されたコミュニケーションと協働を増やす試みであった.〈ICTの活用〉は,オンライン教材や動画の導入,ビデオカンファレンスやモバイルアプリの使用などの活用が行われていた.〈個別ケースの検討と模擬患者の活用〉では,シミュレーションやロールプレイ,ペーパーペイシェントや模擬患者の使用,個別の事例検討やグループディスカッションなどが行われていた.〈教育プロセスの調整と学生サポート〉は,オンラインでの個別面談やフィードバックを取り入れたり,実習記録用紙の変更,学生の自己学習サポートなどを行っていた.〈感染症対策と安全性確保〉によって,オンラインや学内での実習の実施をすることで,患者との直接的な接触を最小限に抑えた実習方法が考慮されていた.また安全確保のための連絡体制の整備が行われた.

精神看護学実習について,今後強化したいと考えている内容があるかおよびその理由を自由記述で回答を求め,51人から得られた内容は以下の通りであった(表3).〈地域志向と地域資源の活用への関心〉は,実習内容の地域志向化や地域での実践を増やしたいという希望や,地域の福祉施設や支援機関での実習を取り入れたいことである.〈地域移行・定着支援やリカバリー志向の強化〉は,当事者主体の地域生活支援や社会復帰のサポートに関する実践や,多職種協働による地域移行やリカバリー,ストレングスの概念に基づいた実習の希望である.〈コミュニケーションスキルの向上への取り組み〉は,患者とのコミュニケーションや対人関係技術の向上をめざしたいという内容であった.〈実習後の振り返りや意味づけの改善〉は,実習後の振り返りや意味づけを強化し,学生の感情や経験を中心に据えるアプローチに変更したいことであった.〈知識の深化と自己学習への意識〉は,基本的な看護過程の展開に必要な症状アセスメントやリカバリーやストレングスの理解を深めるための知識やスキルの強化,学生の内発性や現象の背景に気づく力を向上したいことが述べられていた.

3. 精神看護学教育におけるICTの活用

パンデミックによって教育におけるICTの活用が進んだことが推察されたため,精神看護学教育で調査時点までに使用したことのあるICT教育ツールについて複数回答にて回答を求めた(表4).その結果,「オンライン会議室システム」103(98%),「既存の動画教材」97(92.3%),「動画による講義・教材の配信」88(83.8%),「学習支援システムLMS」68(64.7%),「LMSやメールなどのICTを利用したレポートや課題などの提出」66(62.8%),「大型デジタル掲示装置」59(56.1%),「LMS等のWEBを用いた試験」50(47.6%),「教員が作成した動画教材」48(45.7%),「学生1人に1台のタブレット・PCを用いた授業」41(39%),「電子カルテシステム」34(32.3%),「実習記録のデジタル化」25(23.8%),「e-ポートフォリオを利用した学びの振り返り」22(20.9%),「オーディエンス・レスポンス・システム」20(19%),「バーチャルリアリティ(VR)教材」18(17.1%),「学生全員が購入する電子書籍」17(16.1%),「仮想病棟」12(11.4%)の順で使用経験が多かった.

表4 精神看護学教育において使用したことがあるICT教育ツール(複数回答)

N = 105(人)

オンライン会議室システム 103(98.0%)
既存の動画教材 97(92.3%)
動画による講義・教材の配信 88(83.8%)
学習支援システムLMS 68(64.7%)
LMSやメールなどのICTを利用したレポートや課題などの提出 66(62.8%)
大型デジタル掲示装置 59(56.1%)
LMS等のWEBを用いた試験 50(47.6%)
教員が作成した動画教材 48(45.7%)
学生1人に1台のタブレット・PCを用いた授業 41(39.0%)
電子カルテシステム 34(32.3%)
実習記録のデジタル化 25(23.8%)
e-ポートフォリオを利用した学びの振り返り 22(20.9%)
オーディエンス・レスポンス・システム 20(19.0%)
バーチャルリアリティ(VR)教材 18(17.1%)
学生全員が購入する電子書籍 17(16.1%)
仮想病棟 12(11.4%)

4. 学生の対人関係能力の変化に対する認識

パンデミック前後で,学生の対人関係能力の変化を感じることはあるかを尋ねたところ,「変化を感じる」が61人(58%),「変化を感じない」が10人(9.5%),「どちらともいえない」が30人(28%),無回答が4人(3.8%)であった.

「変化を感じる」と回答したものにその理由を尋ね,51人の自由回答を内容分析した.〈コミュニケーションスキルの低下〉は,オンライン学習やコミュニケーションの制限により,コミュニケーション能力の低下が感じられるとの意見があった.〈社会的孤立感と交流の減少〉は,パンデミックによる外出自粛や学内での活動制限により,学生間の交流が制限され,社会的孤立感が増大したことが述べられていた.〈対面での経験の不足〉は,実習や臨床実践での対面での経験の不足が,学生の対人関係能力に影響を与えているという意見であった.〈自己中心的な傾向や他者への関心の低下〉は,パンデミックにより,学生の自己中心的な考えや他者への関心の低下が見られるとの意見があった.〈ストレスへの対処能力の低下〉は,パンデミックによるストレスや不安に対する学生の対処能力が低下しているという意見であった.

Ⅵ  考察

1. パンデミック下で行われた精神看護学教育とその評価

本研究の対象者は,98%がパンデミック下での登校制限を経験し,精神看護学の講義の変更を86%が,実習の変更を95%が経験していた.パンデミック下での看護学実習に関する大規模調査として,2021年文部科学省から「新型コロナウイルス感染症下における看護系大学の臨地実習の在り方に関する有識者会議報告書」(文部科学省,2021),日本看護系大学協議会看護学教育質向上委員会(2021)から「2020年度COVID-19に伴う看護学実習への影響調査(2021)」が報告されている.両報告は感染拡大による制限が開始された初期にだされ,特にどのように質を保障すべきかわからなかった実習について,各教育機関に指針を示す役割を担ったといえる.本研究は2020~2022年度の経験を尋ねる調査を2023年に行ったものであり,対象者はこれらの報告書を参考に変更を経験したことが推察される.

教育目標の達成度を尋ねた問いでは,講義では十分と回答したものと,やや不十分と回答した者がいずれも4割程度とほぼ同数であったのに対し,実習ではやや不十分は5割を超えていた.臨地実習については,学内実習等の代替プログラムだけでは十分に学ぶことができなかったという評価であったといえる.しかしながら「変更した内容や方法では教育目標を達成することはできない」と回答したものは講義・実習ともにごくわずかであった.制限の中でも精神看護学の教育目標を達成することができるよう柔軟に教育内容や教育方法の工夫がなされた結果であり,これらの内容や方法は取捨選択されながら新しい教育の形として定着していくものと思われる.

行われた変更と工夫の内容をみると,講義では〈対面授業の制限〉に伴い,〈LMSの活用による遠隔授業(オンデマンド),オンライン(Teams©, Zoom©)への切り替え〉や〈オンライン授業や課題学習への切り替えに伴う演習やグループワークの個人ワークへの変更〉を余儀なくされたが,その中でも〈同時双方向オンライン授業(Zoom©等)の方法を取り入れる〉ことや〈遠隔教育と対面とのハイブリッド形式の採用〉,〈オンライン授業でのコミュニケーション演習の導入〉を行うことで,学生と教員間あるいは学生同士の〈双方向性の促進〉の維持を図っていた.また〈グループワークや対面での交流の制限とオンライン上での学習や評価の増加〉や,〈遠隔授業への変更に伴う教材や試験の形式の変更〉など,〈オンライン教材の充実〉が図られたものと推察される.〈ICTの活用〉と〈対面授業との連携〉を図り,〈学生のメンタルヘルスへの配慮〉を行っていた.精神看護学では対人関係論にもとづく理論や支援方法が学修内容に含まれており双方向でのコミュニケーションを重視する内容や,メンタルヘルスを専門とする教員としての配慮も見られたのではないかと考える.

実習では,精神科病院には換気しづらい構造や長期入院者や高齢者など易感染性や重症化のリスクを抱える患者が多いことへの配慮が必要であったと推察される.〈感染症対策と安全性確保〉にむけて,〈学内実習への切り替え〉,〈感染対策の導入〉,〈実習施設の変更〉,〈実習時間の変更〉,〈オンライン実習の導入〉,〈学内実習と臨地実習の組み合わせ〉が行われた.臨地実習の制限に対して,〈実習環境の再現とリアリティの確保〉,〈学生間や学内外とのコミュニケーションと協働〉,〈ICTの活用〉を整えることで,〈個別ケースの検討と模擬患者の活用〉を行い,〈教育プロセスの調整と学生サポート〉を実施していた.Akiyama et al.(2023)のパンデミック下に校内または自宅での実習に振り替えた看護実習についての文献レビューでは,知識や基礎技術の習得,学生間のメンバーシップについては学内で行われることでリラックスして学べる利点があるとし,一方患者対応型コミュニケーションは難しく,看護技術を部分的にしか習得できないデメリットがあるとされている.本研究の結果では〈学内実習と臨地実習の組み合わせ〉により,臨地実習が短時間でも可能な場合には感染に留意しながらシャドーイングや参加観察,電子カルテの閲覧を取り入れる等の方法で臨地実習でしかできない経験を保証していた.また〈学生間や学内外とのコミュニケーションと協働〉により,学生が臨床の看護師や当事者とオンライン上で交流する等,臨地実習で経験する人との関わりを経験できるような試みが行われていた.

2. パンデミックを通じて考える今後の精神看護学教育

パンデミックでの対人接触の制限により,対象である教員の58%が学生の対人関係能力の変化を感じていると回答した.教員は学生のコミュニケーションスキルの低下や対人経験の不足などを感じており,パンデミック下での講義や実習においても双方向性の確保や協働を通じてコミュニケーション能力への働きかけを重視していた.現在,対人接触の制限はなくなったが,小中高時代での対人接触の制限や急速に進んだデジタル化により,コロナ後の学生においても対人接触やコミュニケーションの経験の少なさという課題は継続していくものと思われる.精神看護学教育では対人関係に焦点をあてた教育が行われるが,学生自身が自らのメンタルヘルスを維持し,支援者として必要とされる対人関係能力を育成する働きかけが重要となるのではないだろうか.

今後強化したい内容については自由回答したものに限られるが,講義・実習ともに共通していた内容は,〈学生の自己学習力の強化〉や〈知識の深化と自己学習への意識〉,〈基礎的な知識の強化〉といった学生の基礎知識や学習に関する内容,〈コミュニケーション能力の向上〉,〈コミュニケーションスキルの向上への取り組み〉というコミュニケーション能力を高める取り組み,〈地域連携と看護の独自性〉,〈リカバリー志向の看護過程〉,〈地域移行・定着支援やリカバリー志向の強化〉,〈地域志向と地域資源の活用への関心〉といった地域におけるリカバリー志向の内容,〈現実の臨床状況への対応〉,〈実践的な経験の重視〉といった実践経験に関する内容であった.地域包括ケアシステムやリカバリーなど近年の潮流を取り入れつつ,これまでも行われてきた基礎学力の習得,コミュニケーション能力や臨床実践を重視する内容であった.

病院中心であった医療が地域ケアへと移行するのに伴い,臨地実習の場も地域に移行していくことが予測される.それは単に場の移行ということにとどまらず,リカバリー志向の支援を学生が学ぶことである.今後強化したい講義内容に〈リカバリー志向の看護過程〉や〈地域連携と看護の独自性〉が見られたように,今後実習場面で経験すると想定されるコミュニケーションや支援が,地域で行われることを想定して精神看護学の知識や技術を教育していくことが求められる.

調査時点でのICTの活用状況とみると,オンライン会議室システム,動画教材,動画による講義・教材の配信,LMS等については,半数以上の対象者が利用しており,パンデミックにより教育システム全体のデジタル化が進んだものと考えられる.調査時点で利用の少なかった電子カルテシステム,実習記録のデジタル化,e-ポートフォリオを利用した学びの振り返りなども,今後社会のDX(Digital Transformation)化とともに利用しやすい形になることで活用が進むことが予測される.社会のDX化にあわせて効果的に精神看護学に必要な教育内容を提供できるよう,新たな教育内容や教育方法の工夫を精錬しながら,デジタルコンテンツを含む新しい教育教材の開発が求められる.

Ⅶ  おわりに

本研究の限界として,限られた回答の分析であり,精神看護学教育全体の取り組みを反映しているとはいえない.また今回は教員自身による精神看護学教育の評価であり,学生の評価やその後の経時的な評価を含む多面的な評価が必要であると考える.

 謝辞

本研究にご協力くださいました対象者の皆様に感謝申し上げます.本研究は,JSPS科研費(課題番号22K10739)「ポストコロナの『対話の力』に焦点をあてたICTを活用した精神看護学教育プログラム」の助成を受けた.

 利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はな‍い.

 著者資格

HYは研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,論文執筆のすべてを実施した.IH,TMはデータ収集,データ分析及び解釈に寄与した.MKは研究全体のプロセスで助言を行い,SNは論文執筆の推敲を行った.すべての著者は,原稿の最終確認を行っ‍た.

文献
 
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