Journal of Japan Academy of Psychiatric and Mental Health Nursing
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Family Interventions Provided by Psychiatric Home Nurses Focusing on the High Expressed Emotion in Family who Live with Patient with Schizophrenia
Rie MatsuoKiyomi Takahashi
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 78-86

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Abstract

目的:統合失調症者と同居し高い感情表出を呈する家族に対し,精神科訪問看護師がどのような家族支援をしているのかを明らかにすることである.

方法:高い感情表出を呈する家族への支援を語ることのできる看護師3名を対象に,半構造化インタビューを行い,家族支援における2つの視点で分析をおこなった.

結果:当事者と家族の関係に対しては【当事者と家族のコミュニケーションの歪みを捉え,ありのまま受け止める】ことと,【当事者と家族の安心を提供するために,関係を取り持つ具体的な提案をする】ことであり,家族個人に対しては,【家族の心情を労い,家族との関係性を深める】ことと,【家族関係に良い変化をもたらすために,その家族にしかできない当事者への効果的な方法に対するアセスメントや実践を行う】ことであった.

結論:精神科訪問看護師は,家族の対処スタイルを尊重しながらも,双方の関係を取り持つ具体的な提案をすることで本人と家族の安心を提供していることや,家族の自己決定を尊重することで協働関係を築いていたことが示唆された.

Ⅰ  研究背景

わが国では,統合失調症者(以下,当事者とする)のうちの73.8%が家族と同居している(厚生労働省,2003).同居する家族は,何らかのかたちで当事者の生活を支えているため,家族自身も支援を必要としている.同居家族の困難について,仕事・家事ができない,外出・留守ができない,自分だけの時間がない,心身ともに疲れるという家族自身の生活上の困難が報告された(栄・岡田,1998).また,家族は,自責感と無力感,孤立無縁感,荷重感といった情動的な負担を抱えており,その負担には,当事者の疾患に対する理解不足,精神病に対する偏見,および患者の依存や症状が影響していた(岩崎,1998).統合失調症では,環境要因およびストレッサーに含まれる「批判的あるいは過度に感情的な家族の雰囲気」が再発に関連する因子であり,感情表出(EE: Expressed Emotion)という概念で報告されている.家族内での過干渉や過保護といったコミュニケーションの機能不全が,患者にとって良い影響を与えないと報告されている(大嶋ら,1994).高EE(以下,高い感情表出とする)とは,「批判」「敵意」「過度の感情的な巻き込まれ」と判断されるような言動が高度に認められることをあらわし,1970年代に家族関係の測定方法として開発されたものである.高い感情表出を呈する家族は,当事者に対し情緒的な過度の巻き込まれや批判的な言動や態度を向ける.そのような状況においては,当事者への支援のみならず家族への支援にも困難が推測される.先行研究では,精神障害者を援助する訪問看護師の抱える困難として,看護師は家族と同居する利用者への援助は,家族の理解が得にくく大変だと語ったとの報告があり(林,2009),家族が当事者に対して批判的だったため,高い感情表出を呈していることも推測されるのだが詳細は不明であった.また,統合失調症者に対する効果的な訪問看護の目的と技術に関する研究において,家族関係から生じる弊害から利用者を引き離す技術として,家族関係を新たに構築しなおすための家族関係の把握と家族関係に対する働きかけについて報告されている(片倉・山本・石垣,2007)が,高い感情表出を呈する同居家族への支援は明らかにされていなかった.

Ⅱ  研究目的

本研究では,統合失調症者と同居し高い感情表出を呈する家族に対し,精神科訪問看護師がどのような家族支援をしているのかを明らかにすることを目的とし‍た.

Ⅲ  用語の定義

同居家族:統合失調症者と住居をともにする家族成員1人以上を指す.

高い感情表出:「批判(当事者の意見を否定する)」「敵意(当事者に反発する)」「過度の感情的な巻き込まれ(当事者の感情に同調し疲弊している)」のことを指し(大嶋ら,1994),本研究では,同居家族が当事者に抱くこれら3つの感情表現のうちどれか一つでも当てはまるものとする.

家族支援:家族システム理論では,家族のメンバーに起きている問題,あるいはその解決方法を,メンバー個人の特性のみで考えず,家族メンバー間の関係性や社会と家族の関係性も含めて捉えていくのが特徴である(福島,2017)ことから,本研究では,看護師が,当事者と同居家族の関係性に意図的に働きかけること,ならびに,同居家族に意図的に働きかけること,これら2つを指す.

Ⅳ  研究方法

1. 研究デザイン

半構造化インタビューによる質的記述的研究デザインとした.

2. 研究参加者

A県の精神科に特化した訪問看護ステーションに従事し,精神科訪問看護の経験が5年以上であり,高い感情表出を呈する同居家族への家族支援を語ることのできる看護師とした.研究参加者の選定条件は,Benner(2001/2005)による技能習得モデルより,状況把握能力が優れ,さらに経験に基づき対象者や状況の全体像を把握することができる中堅レベル以上の看護師とし‍た.

3. データ収集期間

2022年3月から2022年6月

4. データ収集方法

データ収集方法は,半構造化面接調査とした.データ収集内容は,1)基本属性,年齢,精神科臨床の経験年数,精神科訪問看護師としての経験年数,現在の職位,2)高い感情表出を呈する家族に対して行った家族支援で印象的な場面についての内容,3)当事者と家族の関係に対して,考えたこと,行動したことやその理由,4)同居家族に対して,考えたこと,行動したことやその理由,とした.面接回数は1回で,60分程度とした.

5. データ分析方法

面接内容は研究参加者の同意のもと,メモの記載とICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.次に逐語録を熟読し,時間の経過に照らし合わせて,研究参加者が語った文脈を明確にした.家族支援の定義に準じ,当事者と家族の関係性に対して考えたことや行動したこと,家族に対して考えたことや行動したことに着目した.更には,それぞれの内容における多様性に留意しながら,意味のまとまりに沿って切片化した.切片化したデータは,データに現れている具体的な描写やニュアンスを拾い上げコード化し,個別分析にて,各家族支援においてサブカテゴリー,カテゴリー化を行った.さらに,個別分析によって各家族支援毎のカテゴリーは大カテゴリーへと統合分析をおこなった.分析結果は,質的研究の専門家よりスーパーバイズを受け,質的研究に精通した研究者間で検討を行い,研究参加者によるメンバーチェッキングを行った.

6. 倫理的配慮

研究参加者には文書と口頭で研究の趣旨等を説明し,研究協力は自由意思であること,研究参加中や参加後であってもいつでも参加の拒否ができること,拒否した場合でも一切の不利益をこうむらないことを保障し,同意文書を得た.本研究は日本赤十字九州国際看護大学倫理審査委員会の承認(承認番号:21-012)を得て実施した.

Ⅴ  結果

1. 研究参加者の概要

精神科経験年数は21~23年で,そのうち,精神科訪問看護経験年数は5~21年であった.すべての研究参加者が訪問看護ステーション管理者であった.インタビュー回数は1回で,インタビュー時間は44分から61分であった.研究参加者概要並びに語られた事例の概要を表1に示す.

表1 研究参加者の概要

参加者 性別 年齢 役職 精神科
経験
精神科
訪問看護
経験
インタ
ビュー
時間
語った事例の概要
A氏 女性 50代 管理者 21年 21年 61分  当事者は30代女性.70歳代の父と二人暮らし.発症は10代.未治療で自宅にて父が介護していた.父が当事者から暴力を受け,車中泊しているのをみかねた民生委員から保健所と警察に繋がり,訪問看護導入となった.インタビュー時は訪問開始から12年目.訪問看護開始から約5年後(インタビュー時から約8年前)父は突然亡くなる.父亡き後当事者は入院を経てグループホームに入居中.今も訪問看護利用中.
B氏 男性 50代 管理者 23年 14年 44分  当事者は40代男性.70代の父母と3人暮らし.入退院を繰り返していたが,父母が高齢になったのもあり,退院後のサポートを父が求め訪問看護開始となった.インタビュー時は訪問看護開始から6年目である
C氏 男性 40代 管理者 21年 5年 45分  当事者は40代男性.70代母の2人暮らし.父が亡くなり,親戚を頼って引っ越してきた新しい土地で,母は家族会に繋がった.家族会で知った訪問看護を母が依頼し,訪問看護開始となった.インタビューは,訪問開始から1年半が経過した時点であった.

2. 当事者と同居家族との関係に意図的に働きかける家族支援

分析の結果,21のサブカテゴリー,7のカテゴリー,2つの大カテゴリーに分類された(表2).以下,大カテゴリーを【 】,カテゴリーを[ ],サブカテゴリーを( ),各研究参加者の象徴的な語りを「斜体」にて示し,末尾に対象者のIDを付記した.大カテゴリーを構成するカテゴリーについて,サブカテゴリーと語りを用いて説明する.

表2 当事者と同居家族との関係に意図的に働きかける家族支援

大カテゴリー カテゴリー サブカテゴリー
当事者と家族のコミュニケーションの歪みを捉え,ありのまま受け止める 家族内の会話や家族自身の背景から互いの気持ちを察することができない現状を捉える 家族員が当事者にうまく関われないことを捉える
家族のコミュニケーションを観察し,機能不全家族と見立てる
父は家族に対して無関心ではないことを捉える
家族間の力動の経過を観察しながら家族の現在を捉える 家族内に存在する,力を象徴する文化を察する
当事者と父の関係性をかつてと今と経時的に捉える
他害行為のある当事者が父を攻撃する背景に,家族内の力関係の逆転の存在を捉える
父が当事者に巻き込まれている関係を見立てる 当事者の実年齢にそぐわない現状とそれに至る養育状況を捉える
親の愛情を異様と感じ,緊急事態も予測し,密着した父子関係の状況を見出す
当事者の状態が不安定で,親子関係が密着していると認識する 状態が悪いときには,当事者の役割を母が代行していることを観察する
親子のコミュニケーションを観察し関係を捉える
親子関係が共依存関係となっている現状を分析する
当事者と家族の安心を提供するために,関係を取り持つ具体的な提案をする 家族の安心を保証しながら,当事者と看護師の関係を基に,父子が距離をとれることを支える 今後の生活を見据える目的で往診から通院への移行を支える
父の安心を保証しながら,当事者の視点を外に向け,父子の距離をとる
当事者の経験に粘り強く関わり,当事者の変化を察知し,学習のタイミングを逃さない
父と当事者の良好なコミュニケーションの場を創り出す 当事者と看護師の場に父を巻き込み,モデリングとして当事者と看護師のコミュニケーションを提示する
機能不全家族のコミュニケーションが大きな問題に発展していないことに貢献している側面を見出す
当事者と父のコミュニケーションによって,当事者の妄想が膨らみ父への攻撃性へとつながらないような適切な訪問時間で関わる
親子それぞれの視点を拡げ,母が受け入れやすい状況において解決策を提示する 当事者がデイケアに定着することで親子の距離をおける第一歩とする
入院も視野に入れながら段階的にショートステイの提案をする
当事者のペースを大事にしながら,親子両者の視点を外に拡げることを促す
母に対して受容を示して解決策を提示する

1) 【当事者と家族のコミュニケーションの歪みを捉え,ありのまま受け止める】

(1)[家族内の会話や家族自身の背景から互いの気持ちを察することができない現状を捉える]

「お父さん曰く,うちの母ちゃん,関わりが下手だから(B)」より(家族員が当事者にうまく関われないことを捉え)ていた.さらに,「お父さんや本人の発言,お母さんの様子より機能不全家族だと思いますよね(B)」からも(家族のコミュニケーションを観察し,機能不全家族と見立てる),一方で,「父親うるさいけども,それなりに家族や息子のことを心配されている.(B)」から(父は家族に対して無関心ではないことを捉える)ことによって,互いの気持ちを理解することが困難であることを捉えていた.

(2)[家族間の力動の経過を観察しながら家族の現在を捉える]

「昭和のお父さん的な考えなのか封建的(B)」という美徳的な考えの存在を念頭に置き,(家族内に存在する力を象徴する文化を察)していた.そして,「お父さんもその力関係が逆転して,何か言うと当事者からそんな酷い目に遭わされたりする(B)」より(当事者と父の関係性をかつてと今と経時的に捉える)ことや,「(父親は)結構,指導的,指示的に.“あれしろこれしろ”(B)」と,(他害行為のある当事者が父を攻撃する背景に,家族内の力関係の逆転の存在を捉え)ていた.

(3)[父が当事者に巻き込まれている関係を見立てる]

「(当事者は)本当に赤ちゃんみたいに.お父さんが全部してくれるから(A)」より,(当事者の実年齢にそぐわない状況とそれに至る養育環境を捉え)ていた.さらに,「お父さんは,娘さんを膝に抱っこして“血圧測ってもらおうね”と.異様な親子愛ですね.(A)」から,(親の愛情を異様と感じ,緊急事態も予測し,密着した父子関係の状況を見出)していた.

(4)[当事者の状態が不安定で,親子関係が密着していると認識する]

「食事,入浴,歯磨き,靴下を履く行為一つ,着替えも(家族が)全部やっている(C)」から,(状態が悪いときには,当事者の役割を母が代行していることを観察)し,また,「本人さんは何も言わずに.体調聞いたら横からお母さんが“ちゃんと答えんね”っていうんで,本人さんが縮こまる.(C)」のように,(親子のコミュニケーションを観察し関係を捉え)ていた.さらに,「母親は本人が一人で家にいることも不安なので買い物にも連れて行く,常に2人で過ごしている.(C)」から(親子関係が共依存関係となっている現状を分析)していた.

2) 【当事者と家族の安心を提供するために,関係を取り持つ具体的な提案をする】

(1)[家族の安心を保証しながら,当事者と看護師の関係を基に,父子が距離をとれることを支える]

「バスで通院するのを何回も練習して(A)」と,(今後の生活を見据える目的で往診から通院への移行を支え),「(当事者に)私たちが付き添ったら“お父さん,心配しなくて大丈夫ですよ”というのをずっと伝えます.そうすると徐々に出かけられるようになって.(A)」のように,(父の安心を保証しながら,当事者の視点を外に向け,父子の距離をとる)ことをしていた.また,「(家の中の破壊)“これ,誰がしたの?”と聞いたら恥ずかしがるようになったんです.“いけないことだよね”って.“お話で言おうね”って.(A)」のように,(当事者の経験に粘り強く関わり,当事者の変化を察知し,学習のタイミングを逃さない)で,当事者の学習を促していた.

(2)[父と当事者の良好なコミュニケーションの場を創り出す]

看護師と当事者と父親で3人で話をする場面を設定し,「お父さんは僕と当事者との会話をなんとなく聞いているって感じ.どんな関わりをしているかっていう部分.モデリング.(B)」から,(当事者と看護師の場に父を巻き込み,モデリングとして当事者と看護師のコミュニケーションを提示)し,そして,「(家族が)顔を合わす時間がないから,大きな問題に発展しない,過干渉になっていないから(B)」から,(機能不全家族のコミュニケーションが大きな問題に発展していないことに貢献している側面を見出)していた.また,「会話がどんどん妄想に膨らんで強い怒りとか感情がそこで出てきちゃうから(中略)見極めながら訪問時間をコントロールしている.(B)」から,(当事者と父のコミュニケーションによって,当事者の妄想が膨らみ父への攻撃性へとつながらないような適切な訪問時間で関わ)っていた.

(3)[親子それぞれの視点を拡げ,母が受け入れやすい状況において解決策を提示する]

「行けそうなのがデイケアだったので(中略)お母さんが少し気が休まる時間を作る(C)」というように,(当事者がデイケアに定着することで親子の距離をおける第一歩とする)ことや,「家族が入院にはちょっと(抵抗がある)みたいな感じになった時に,ショートステイをサービスに入れておいたらどうですかって言って.(C)」と試行錯誤しながら(入院も視野に入れながら段階的にショートステイの提案を)していた.さらに,「訪問の時になるべく一緒に出かけるってことを提案するんですけど,本人さんなかなか出られないので.(中略)お母さんに気分転換をしてもらったりしてます(C)」から,(当事者のペースを大事にしながら,親子両者の視点を外に拡げることを促)し,「お母さんの方が“しんどい,大変”っていう話をされていて,(中略)“どうしたらいいんですかね”って話になった時に,まず一番は距離をとることだと思うんです.(C)」と,(母に対して受容を示して解決策を提示)していた.

3. 同居家族に意図的に働きかける家族支援

分析の結果,15のサブカテゴリー,6のカテゴリー,2つの大カテゴリーに分類された(表3).

表3 同居家族に意図的に働きかける家族支援

大カテゴリー カテゴリー サブカテゴリー
家族の心情を労い,家族との関係性を深める 父の価値観を受け止め,温かい関心を寄せながら,信頼関係を構築する 父の価値観を尊重する
娘の年齢と親としての年齢の現実に,父自身が気づく過程に寄り添う
父を脅かすことのないよう配慮し,繋がりを維持する
父の立場を考えながら,父との信頼関係を構築する 父が家族の中で役割を得ていることを労い認める
父自身の健康にも気を配る
今現在の母が発する言葉をひとつひとつ丁寧に扱い,母と向き合う 情動的に対処しようとしている母を捉える
母の言葉を受け止め,母に対して承認している態度を示す
提示された解決策に同意されない母を受け止める
家族関係に良い変化をもたらすために,その家族にしかできない当事者への効果的な方法に対するアセスメントや実践を行う 専門家として,父へ当事者との関り方を明確に示す 誰が伝えられる関係性が取れているかを査定し,タイミングを冷静に判断して現実を伝える
当事者の病気を適切に伝え,具体的な対処方法を助言する
父への効果的な教育計画を立て実践する 父の行動変容に目標設定し,簡単な疾病教育を計画する
父に事実を受け止めてもらえるように必要な対処を伝える
警察を巻き込み,父が対処する負担を軽減する
母を信じながら支え,変化をもたらすタイミングを冷静に判断する 母とのつながりを意識して,解決策を導入できるタイミングを冷静に判断する
母を支える必要性に信念をもち,家族教育のタイミングを見計らう

1) 【家族の心情を労い,家族との関係性を深める】

(1)[父の価値観を受け止め,温かい関心を寄せながら,信頼関係を構築]

「お父さんのその屈折した愛が,闇雲にそこ否定するんじゃなくて.(A)」と,(父の価値観を尊重)し関わっていた.また,「お父さんも気づいて“自分がやっぱりいびつでしたよね,気持ち悪かったですか”って言われたことがあって.訪問看護開始から5年くらいのとき.(A)」というように,(娘の年齢と親としての年齢の現実に,父自身が気づく過程に寄り添)っていた.さらに,「フィルターかかって自分(父自身)のこと見てるって思われたら,もう訪問看護要らないよってなったら元も子もない.(A)」と,訪問看護を拒否されると事態は悪化すると考え,(父を脅かすことのないよう配慮し,繋がりを維持)していた.

(2)[父の立場を考えながら,父との信頼関係を構築する]

「“こうやって安定してるのはお父さんのおかげよね”と.(B)」と,(父が家族の中で役割を得ていることを労い認め),「“でも,お父さんが居らんかったらこの家はどうにもならんのやけ,健康にも気をつけとってね”って.(B)」のように,(父自身の健康にも気を配)っていた.

(3)[今現在の母が発する言葉をひとつひとつ丁寧に扱い,母と向き合う]

「お母さんからしてみたらまだ本人をコントロールしたいんですよね.お母さんがきついから衝動的にあるんでしょうけど.(C)」というように,(情動的に対処しようとしている母を捉え),「訪問のたびにお母さんから“もう息子を叩きました”という報告があって,まずずっと聴くことが多かったです.(C)」というように,母の気持ちを汲む場面において親子の訪問でありどちらかを肯定するとどちらかを否定せざるを得ない状況で気を遣いながら(母の言葉を受け止め,母に対して承認している態度を示)していた.さらに,「お母さんからSOSを出すことがあって,このままだったらやっぱり(入院をする)と話をして,お母さんが入院を可哀想という思いがあるのか,渋るんですよね,感情的になりつつもお母さんの方も手を離し切らないところがある.(C)」と,(提示された解決策に同意されない母を受け止め)ていた.

2) 【家族関係に良い変化をもたらすために,その家族にしかできない当事者への効果的な方法に対するアセスメントや実践を行う】

(1)[専門家として,父へ当事者との関り方を明確に示す]

「お父さんにどう認識してもらおうかとか.(父に35歳の普通はこうですよということを)言おうってなったのが,(訪問看護開始から)3年目ぐらいの時だった.(A)」と,チームで相談しながら(誰が伝えられる関係性がとれているかを査定し,タイミングを冷静に判断して現実を伝え),そして,「お父さんと,当事者の病気について経過を少しずつ.あと治療も大切だってことを.(中略)お父さんが“この子死にたいって言ったんですよ,その時どう答えたらいいですか”って.死んだら悲しいっていうことをひたすら伝えてくださいって.今度訪看さんに相談しようねって.その日まで生きてる約束をしてくださいって(話した).」と,父との単独の面談において,(当事者の病気を適切に伝え,具体的な対処方法を助言)していた.

(2)[父への効果的な教育計画を立て実践する]

「今までの行動パターンってそうそう変わるもんじゃないし,(中略)このお父さんはきっとこういう理由でこうなんだろうな,ここをまず言っとかな難しくなるだろうなと思いながら.(B)」と,父の,病気に対する理解の限界がある中でできることを見極め(父の行動変容に目標設定し,簡単な疾病教育を計画)していた.そして,「必要な対処を3つ程度お知らせする.病気はこうだからっていうのはあまり入らない.(B)」というように,疾病教育の実践として,(父に事実を受け止めてもらえるように必要な対処を伝え),また,「暴れてお父さんがひどい暴力行為がくる場合はためらわず警察を呼んでください,お父さんを守る術でもあるし,本人のためにもなるからと.(中略)警察も何回かきとるんですよね,一つの抑止力みたいになっている.(B)」と,父にわかりやすく伝え,(警察を巻き込み,父が対処する負担を軽減)していた.

(3)[母を信じながら支え,変化をもたらすタイミングを冷静に判断する]

「(お母さんに対して)指導的にとか教育的にって入ると,お母さんとしては“こんなに頑張っているのに”ってなる.介入のチャンスはクライシスの時かなとは思っている.(C)」のように,(母とのつながりを意識して,解決策を導入できるタイミングを冷静に判断)していた.また,「まだ,お母さんが,あなたたち(訪問看護)にどうにかしてほしい,母自身がどうかするんじゃなくて.(C)」と,看護師は,母の主体性を引き出そうと考えて,(母を支える必要性に信念を持ち,家族教育のタイミングを見計ら)っていた.

Ⅵ  考察

1. 当事者と家族の関係に意図的に働きかける家族支援に関する考察

精神障がい者の家族が高い感情表出を呈する背景とは,慢性疾患を身内に抱えたことに伴う一般的な情緒反応で,一種の対処スタイル(佐藤ら,2016)であり,また,家族の罪悪感を無意識に刺激していることに留意し,看護者は共感的に家族の話を傾聴するばかりでなく,家族が自責的に捉えていく傾向があることを熟知し予測して関わることは重要である(野嶋,2005).本研究結果から訪問看護師は,家族が高い感情表出を呈することについて,慢性疾患を身内に抱えた一般的な情緒反応であって,家族自身の一種の対処スタイルと受け止め,そして,精神科訪問看護師は家族の罪悪感を刺激しないようにしているのではないかと考える.家族のコミュニケーションに歪みがあったとしてもありのままを受け止めるというように,現状についての看護師の認識の在り方が,具体的な提案につなげる家族支援において重要であると考える.訪問看護師という第三者が関わることで,本人と家族の緊張関係を緩和する一助となり,苦労をねぎらい具体的な助言をすることで,家族の対処能力の維持向上を図る(瀬戸屋ら,2008)と報告されている.これと同様に,精神科訪問看護師は,本人と家族の希望する生活に対する現状の課題に直面する存在である.だからこそ,生活の場で看護をする精神科訪問看護師はその家族に必要な具体的な提案ができるのではないかと考える.本結果から,当事者と同居家族の関係に意図的に働きかける家族支援は,家族の対処スタイルを尊重しながらも,双方の関係を取り持つ具体的な提案をすることで,本人と家族の安心を提供していることが考えられる.

2. 同居家族に対して意図的に働きかける家族支援に関する考察

野嶋(2005)は,家族の力で解決できない状況にあるときは,その家族は看護ケアを必要とし,家族をエンパワメントする援助を必要としていると述べている.さらに,家族看護エンパワーメントモデルの前提のひとつとして,家族自身強い自治能力があり,自己決定権を尊重する姿勢が必要で,エンパワメントが生じる条件に家族との相互尊敬,ともに参加する関係/協働関係,信頼が挙げられている(野嶋,2005).本研究の3事例どの事例においても家族成員間に人間関係の葛藤があったように,訪問看護師は,当事者と同居家族との板挟みになりかねない状況にさらされていた.そのような状況下で,同居家族の価値観を受け止め,立場を考え,発する言葉をひとつひとつ丁寧に扱うことで同居家族の心情を理解しようと同居家族への深い理解を示していたことは,看護師が家族の自己決定を尊重することにつながり,協働関係を築いていたのではないかと考える.その協働関係という基盤があるからこそ,[専門家として,父へ当事者との関り方を明確に示す][父への効果的な教育計画を立て実践する]というように,具体的なアドバイスができたのだと考える.また,A氏は5年,B氏は6年,C氏は1年というように年単位という時間をかけて協働関係を築いたからこそ,その家族に合ったタイミングで必要な情報を届ける関りができると考える.そして,[母を信じながら支え,変化をもたらすタイミングを冷静に判断する]ように,たとえ提案が家族に受け入れられなかったとしても,普段のありのままの生活を受け止め,経過としての通過点となることを認識して関わり,協働関係の維持ができたのだと考える.

3. 統合失調症者と同居し高い感情表出を呈する家族に対する精神科訪問看護師の家族支援に関する考察

家族支援の2つの視点を通してみても,【当事者と家族の安心を提供するために,関係を取り持つ具体的な提案をする】こと,【関係に良い変化をもたらすために,その家族にしかできない当事者への効果的な方法に対するアセスメントや実践を行う】ことというように,具体的で個別的であることによって家族が受け止めやすい情報であったと考える.訪問看護は,当事者と家族の日常生活の間に参画するため,当事者と家族をより現実的に理解することができる.高い感情表出を呈する家族の現実とは,先行文献では,家族生活全体における当事者への援助機能の位置付けの仕方によって家族が生活困難に陥り,それがEEを高めている事実がある(大嶋ら,1994).そのため,訪問看護師は,当事者と家族の日常生活状況を目の当たりにし,訪問先での当事者と家族の現実をアセスメントするからこそ,具体的かつ,家族に合った提案ができると考える.これは,生活の場に赴く精神科訪問看護の強みであると考える.そのような生活の場での実践が,統合失調症者と同居し高い感情表出を呈する家族に対する精神科訪問看護師の家族支援だと考える.

Ⅶ  研究の限界と今後の課題

本研究の研究参加者が語った事例は,インタビューした時点において,訪問開始し始めてからの経過年月が様々であったことや,訪問看護導入のきっかけも,保健所からの依頼や,病院を介して紹介されてからの依頼,そして家族会を通じて訪問看護を知った家族自身からの依頼など,紹介経路も様々であるため一般化するには限界があった.家族の状況でも実践事例を重ね,精神科訪問看護の家族支援の内容を引き続き検討していく必要がある.

Ⅷ  結論

家族支援は,そのご家族それぞれの普段の生活をあるがままに理解しているからこそ,具体的かつ,本当にその家族に合った提案ができると考える.精神科訪問看護師は,家族の対処スタイルを尊重しながらも,双方の関係を取り持つ具体的な提案をすることで本人と家族の安心を提供していることや,家族の自己決定を尊重することで協働関係を築いていたことが示唆された.

 謝辞

本研究を行うにあたり,ご多忙な中,インタビューをお引き受けくださった看護師の皆様に,心より御礼申し上げます.本稿は,日本赤十字九州国際大学大学院に提出した修士論文に加筆修正を加えたものである.

 利益相反の開示

本研究における利益相反は存在しない.

 著者資格

RMは研究の構想,データ分析,論文の作成までのプロセス全体にかかわった.KTは,データ分析と考察に対して助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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