Journal of Japan Academy of Transplantation and Regeneration Nursing
Online ISSN : 2435-4317
Print ISSN : 1881-5979
Note
Measures of self-management in pediatric liver transplant recipients:
A literature review
Mitsuhiro Horibe
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2023 Volume 18 Pages 13-28

Details
Abstract

【目的】

幼少期に肝移植を受けたレシピエントは成長や発達するにしたがって、服薬や受診、日常生活の管理行動などを親管理から自己管理へと移行する。この移行の時期はレシピエントの思春期にあたることが多く、思春期のレシピエントでは服薬ノンアドヒアランスや未受診の発生率の高さが指摘されている。そのため、本研究では小児肝移植レシピエントの自己管理に関する尺度を概観し、それらをもとに看護師が親管理から小児肝移植レシピエントの自己管理へと移行する状態の判断に有用な尺度を検討する。

【方法】

医中誌、PubMed、CINAHL、MEDLINEでキーワードを「小児」「肝移植」「自己管理」「Child」「Liver Transplantation」「Self-Management」「Self Care」とし、2010年1月1日~2023年6月30日までの期間で検索し、7つの文献が分析対象となった。

【結果】

分析対象の文献で用いられていた尺度は、責任の割り当て(Allocation of Responsibility)、責任と病気の理解度調査(the Responsibility and Familiarity with Illness Survey)、 発達による健康マネジメント能力チェックリスト(Developmentally Based Healthcare Management Skills Checklist)、健康能力チェックリストツール(the Healthcare Skills Checklist Tool)、包括的アセスメント測定 (Global Assessment Measure)、移行準備調査:思春期・若年成人期版(Transition Readiness Survey: Adolescent/Young Adult Version)であった。しかし、これらの尺度は必要な健康管理を親管理からレシピエントの自己管理に移行できる状態か否かを判断するために用いられていなかった。また、分析対象の文献は全て国外文献であり、小児医療から成人医療への移行の中で親管理から自己管理への移行が捉えられていた。そのため、医療体制の移行について検討されることの少ない日本国内の現状にはそぐわない内容であった。

【結論】

今後は日本の医療体制を踏まえて、看護師が親管理から小児肝移植レシピエントの自己管理へと移行できる状態か否かを判断できる尺度の開発が求められる。

Translated Abstract

Purpose: Liver transplant recipients who undergo transplantation at an early age transition from parental management for taking medications, visiting doctors, and managing their everyday lives to self-management as they grow and develop. However, during adolescence, the incidence of medication nonadherence and missed medical visits is high. Therefore, this study aimed to review the literature on scales useful for nurses to evaluate the state of transition from parental management to self-management in pediatric liver transplant recipients.

Methods: The keywords “Child,” “Liver Transplantation,” “Self-Management,” and “Self Care” were searched on Ichushi-Web, PubMed, CINAHL, and MEDLINE from January 1, 2010 to June 30, 2023, and seven references were selected.

Results: Although the measures included Allocation of Responsibility, the Responsibility and Familiarity with Illness Survey, Developmentally Based Healthcare Management Skills Checklist, the Healthcare Skills Checklist Tool, Global Assessment Measure, and Transition Readiness Survey: Adolescent/Young Adult Version, they were not used to evaluate recipients’ transitioning from parental management to self-management. Furthermore, this transition was considered in the international literature section as a part of transition from pediatric to adult care. Thus, these items in the scales were unsuitable for the current healthcare situation in Japan, where the transition from pediatric to adult care is scarcely discussed.

Conclusion: In the future, a scale to evaluate the transition from parental management to self-management of pediatric liver transplant recipients should be developed for Japanese nurses.

1.はじめに

肝移植の嚆矢は、1963年に米国コロラド大学のStarzl医師らによって胆道閉鎖症の患児に実施された死体肝移植である(Starzl et al., 1963)。日本国内では生体肝移植(LDLT)が主流であり、日本初のLDLTは1989年に島根医科大学(現島根大学)の永末医師らによって父親をドナーとして胆道閉鎖症の患児に実施されている(永末他, 1991)。そして、これまでに3,730例のLDLTが0~19歳のレシピエントに行われており、2021年には112例の実施が報告されている(日本肝移植学会, 2021; 2022)。LDLT後の5年生存率と30年生存率は、移植時年齢が0~9歳のレシピエントで89.0%と77.7%、10~19歳のレシピエントで82.5%と65.3%であり、小児肝移植レシピエントは長期にわたって生存している(日本肝移植学会, 2022)。

しかし、思春期・若年成人期(AYA)のレシピエントでは、服薬ノンアドヒアランスや未受診などで移植肝に生じる拒絶反応や再移植に至る割合が高いと報告されている(Berquist et al., 2008; Burra et al., 2011; Fredericks, 2009)。日本国内の先行研究では、AYAレシピエント83例中42例が服薬ノンアドヒアランス群に分類され、その78.6%(42例中33例)に肝機能障害、8.1%(42例中3例)にグラフト不全が生じている(尾沼他, 2015)。また、漆舘他(2014)もAYAレシピエントの免疫抑制剤の飲み忘れを指摘している。このようにAYAレシピエントの不十分な自己管理が指摘されているが、移植された肝臓の機能を維持するためには日々の自己管理の継続が肝心であり、自己管理を開始するレシピエントはその重要性を学び、実行できる能力を身に着ける必要がある。

小児肝移植レシピエントでは、9~16歳(平均12歳頃)に内服の自己管理を始めており(Shemesh et al., 2004)、米国小児科学会なども14歳までに自己管理への移行プロセスの開始を推奨している(American Academy of Pediatrics et al., 2002)。肝移植レシピエントにとって内服管理は重要であるが、それ以外にも受診、食事、運動など多岐にわたる健康管理をしている(Annunziato et al., 2011; Kelly et al., 2013)。そのため、小児肝移植に関わる看護師は、レシピエントが内服などの管理を親管理から自己管理へ移行できるタイミングやその能力を評価し、判断する必要がある。

そこで、本研究の目的は、小児肝移植レシピエントの自己管理に関する尺度を概観し、それらをもとに看護師が親管理から小児肝移植レシピエントの自己管理へと移行する状態の判断に有用な尺度を検討することとした。

2.研究方法

2.1 対象文献の検索

検索データベースは、医中誌Web、PubMed、CINAHL、MEDLINEを用いた。検索キーワードは、「小児(0~18歳)」「肝移植」「自己管理」「Child: birth-18 years)」「Liver Transplantation」「Self-Management」「Self Care」とした。最新の現状から分析するために過去5年以内の文献を検索したが、文献数が僅少であったため、検索期間は2010年1月1日から2023年6月30日までとした(検索日2023年7月2日)。

2.2 対象文献の選定

医中誌Webで10件、PubMedで86件、CINAHLで19件、MEDLINEで28件、合計143件が検索され、重複した37件の文献を除外した。その後、タイトルやアブストラクト、文献の精読から①小児肝移植レシピエントの自己管理に関する測定尺度が使用されていない文献、②レビューやガイドライン、③論文の体裁ではない文献を除外し、7件を分析対象の文献とした(図1)。

2.3 分析

7件の対象文献の概要(著者名、発行年、国名、対象者の属性、尺度について、尺度の項目と調査結果)をマトリックス表にして整理した(表1-1、表1-2、表1-3、表1-4)。その後、尺度の評価者、内容、信頼性・妥当性、尺度による親管理からレシピエントの自己管理への移行の判断の有無、尺度のスコアと他の自己管理の状況を評価する項目との関係性について検討した。

3.結果

研究が行われた国は、アメリカが6件(Annunziato et al., 2018; Bilhartz et al., 2015; Fredericks et al., 2010; Fredericks et al., 2011; Jerson et al., 2013; Piering et al., 2011)とオーストラリアが1件(Culnane et al., 2022)であり、対象者数は20~213名と各研究により異なっていた。

3.1 測定尺度と評価者について

Piering et al(2011)では、Vessey & Miola(1997)をもとに作成された発達による能力チェックリスト(the Developmentally Based Skills Checklist)(Sawin et al., 1999)をAnnunziato et al(2011)がthe Pediatric Committee of the American Society of Transplantationの枠組みで修正した22項目の尺度を用いていた。この尺度は、「1点:決してない」「2点:時々」「3点:いつも」の3段階評価で自己回答し、高得点の場合にセルフマネジメントができていることを意味していた。また、Jerson et al(2013)では、Annunziato et al(2011)が作成した22項目の尺度を発達による健康マネジメント能力チェックリスト(Developmentally Based Healthcare Management Skills Checklist)と呼称して用いていた。さらに、Annunziato et al(2018)では、Annunziato et al(2011)が作成した22項目のうちの13項目を使用した責任と病気の理解度調査(the Responsibility and Familiarity with Illness Survey: REFILS)という尺度が用いられていた。この尺度は、「1点:決してない」「2点:時々」「3点:いつも」の3段階評価で自己回答し、高得点ほどセルフマネジメントができていることを意味しており、レシピエントの保護者にも回答を求めていた。  

次に、Fredericks et al(2010)では臨床での観察、小児移植チームとの議論、文献レビュー(McDonagh., 2005; Paone et al., 2006)から作成された38 項目と4つの質問で構成される移行準備調査:思春期・若年成人期版(Transition Readiness Survey: Adolescent/Young Adult Version: The TRS: A/YA)が用いられていた。これは「セルフマネジメント」「レジメン知識」「示されたスキル」「心理社会的適応」の4つのドメインに区分され、「セルフマネジメント」の下位尺度には「責任の割り当て」が含まれていた。3段階評価か4段階評価で自己回答し、高得点ほどよいことを意味していた。この尺度以外に、レシピエントの保護者が回答するための移行準備調査:保護者版(Transition Readiness Survey: Parent Report: The TRS: P)という36項目の尺度が作成されていた。

他方、Fredericks et al(2011)ではFredericks et al(2010)が作成したThe TRS: A/YAをMcPherson et al(2009)Walders et al(2000)を参考にして移行過程の態度や認識についての項目を追加した22項目の尺度が用いられていた。この下位尺度である「事前の考え」は「0点:全くない」~「3点:たくさんある」、「移行に関する学びへの関心」は「0点:全くない」~「3点:とてもある」、「移行プロセスに関する知識」は選択数が得点となり、「ケアの移行に対する懸念」は「0点:心配なし」~「4点:とても心配」、「移行プロセスの重要なステップ」は「0点:重要ではない」~「4点:とても重要」、「責任の割り当て」は「1点:親や介護者のみ」~「5点:患者のみ」で自己回答し、レシピエントの保護者にも回答を求めていた。

加えて、Bilhartz et al(2015)では責任の割り当て(Allocation of Responsibility: AoR)という臨床での観察、小児移植チームとの議論、文献レビュー(Bell et al., 2008; McDonagh., 2005; Paone et la., 2006)に基づいて作成された13項目の尺度が用いられていた。この尺度は、「1点:親などが責任主体」「2点:レシピエントと親などと責任の共有」「3点:レシピエントが責任主体」の3段階評価で自己回答し、高得点ほどレシピエント自身がセルフマネジメントに対して責任を持っていることを意味しており、レシピエントの保護者も回答していた。

最後に、Culnane et al(2022)では健康能力チェックリストツール(the Healthcare Skills Checklist Tool: HSCT)と包括的アセスメント測定 (Global Assessment Measure: GAM)が用いられていた。HSCTは、「健康状態と障がい」「薬剤、機器、治療」「援助を得ること」「サポートとウェルビーイング」を調査するための23項目で構成された尺度であった。この尺度は、「1点:改善が必要」「2点:もう少し」「3点:全てよし」「該当なし」で自己回答されていた。その一方で、GAMは移行支援職員がレシピエントの状況から5つのコンピテンシーに関する項目を「1点:よくない」「2点:まあまあ」「3点:よい」の3段階で評価し、また不安に関しても「1点:低」「2点:中」「3点:高」の3段階で評価していた。

3.2 尺度の項目の内容

Fredericks et al(2010)はThe TRS:A/YAの項目を示しておらず、詳細は不明であった。その他の文献では、内服管理や外来受診、医療者への連絡についての知識を問う項目が共通してあった(Annunziato et al., 2018; Bilhartz et al., 2015; Culnane et al., 2022; Fredericks et al., 2011; Jerson et al., 2013; Piering et al., 2011)。また、5つの文献で医療保険に関する知識を問う項目があり(Annunziato et al., 2018; Culnane et al., 2022; Fredericks et al., 2011; Jerson et al., 2013; Piering et al., 2011)、対象がAYAレシピエントであることから性や生殖(Culnane et al., 2022; Fredericks et al., 2011)、違法薬物(Culnane et al., 2022; Jerson et al., 2013; Piering et al., 2011)、教育や就職(Culnane et al., 2022)についての項目を含む尺度もあった。Fredericks et al(2011)の尺度では、移行準備に関する内容が複数あり、小児クリニックから成人クリニックへの移行についての考えや、成人クリニックへの移行についての心配事などが問われていた。

3.3 尺度の信頼性と妥当性

尺度の信頼性に関して、Annunziato et al(2018)のREFILS はクロンバックのα係数が.80で、Bilhartz et al(2015)のAoRはクロンバックのα係数が.93であることを示して、内的整合性を確認していた。また、Fredericks et al(2010)では主成分分析が行われ、4因子が回答の分散の32.5%を占め、各領域のクロンバックのα係数が.68~.81で、38項目のThe TRS:A/YA全体のクロンバックのα係数は.85であった。Jerson et al(2013)Annunziato et al(2011)がクロンバックのα係数を.74と示した22項目の尺度を信頼性の根拠としていた。Piering et al(2011)Annunziato et al(2011)が作成した22項目の尺度を用いていたが、研究対象から得られた結果からクロンバックのα係数を算出し、.81と示していた。Culnane et al(2022)Fredericks et al(2011)では、信頼性に関して示されていなかった。

尺度の妥当性に関して、7つの対象文献とも文献レビューや臨床での観察、小児移植チームとの議論などをもとに作成することによって表面妥当性や内容妥当性を確保していた。また、Annunziato et al(2018)ではREFILSの収束妥当性が思春期服薬障壁尺度(Adolescent Medication Barriers Scale: AMBS)(Simons & Blount., 2007)との相関で示されており、r = −.22、P < .01であった。

3.4 尺度のスコアによる自己管理への移行の判断

Bilhartz et al(2015)Jerson et al(2013)では、尺度で得られた点数は示されていなかった。他の5つの文献では(Annunziato et al., 2018; Culnane et al., 2022; Fredericks et al., 2010; Fredericks et al., 2011; Piering et al., 2011)、点数は示されていたが、その点数を用いて小児肝移植レシピエントが自己管理できる状況か否かの判断はなされていなかった。

3.5 尺度のスコアと他の自己管理を評価する項目の関係性

4つの文献で、尺度を用いた内服管理に関する自己評価と、タクロリムス連続血中濃度の標準偏差で示される Medication Level Variability Index(MLVI)という薬剤レベル変動指数の客観的指標との関連が検討されていた(Annunziato et al., 2018; Bilhartz et al., 2015; Fredericks et al., 2010; Jerson et al., 2013)。さらに、Bilhartz et al(2015)では免疫抑制剤の血中濃度の目標範囲からの「逸脱率」や来院せず予約変更もない場合を「未受診数」として評価項目としていた。他には、「受診率」も評価項目とされていた(Bilhartz et al., 2015; Culnane et al., 2022; Fredericks et al., 2010)。

Annunziato et al(2018)では、尺度のREFILSとMLVIが正の相関(r = .26、P < .01)にあり、加えてREFILSの点数が高く自己管理が良い状態であると拒絶が生じていたという矛盾を示していた。Bilhartz et al(2015)では、尺度のAoRと免疫抑制剤の血中濃度の目標範囲からの逸脱率・MLVI・未受診数・受診率の関係に統計学的な差はなかった。さらに、AoRと拒絶での入院日数・生検で診断された拒絶の回数にも統計学的な差はなかった(Bilhartz et al., 2015)。Fredericks et al(2010)では、TRS: A/YAの点数とMLVI・受診率との間に関係性はなく、TRS: A/YAの点数とAST・ALT・総ビリルビン・入院頻度・肝生検の頻度・拒絶の頻度とも関係性はなかった。

Culnane et al(2022)では、成人ケアプログラムに向けたトランジションの介入を受ける前後でHSCTの点数に変化が生じ、項目の「私は健康状態に関連する質問を用意し、医療チームに尋ねられる」「私は自分の服薬に責任を持っている」「私は自分の医療用品や機器(処方箋、発注、支払いを含む)に責任を持っている」「私は自分のメディケアがあり、その用途を知っている」「私は自分の健康管理カードを持っている」「私はどのように薬物やアルコールが私の状態や障がいに影響を与えるか知っている」において統計学的に有意に改善した。また、GAMはすべての項目で統計学的に有意に改善していた(Culnane et al., 2022)。しかし、トランジションに向けた介入を受けても、受診率や拒絶の頻度は統計学的に有意な改善は見られなかった(Culnane et al., 2022)。

Jerson et al(2013)では、小児肝移植レシピエントがメンターになる訓練を受け、メンターとしてリーダーシップをとることによって自己管理の状況の改善、つまり尺度の点数の上昇が期待されたが、前後で点数に統計学的な差は生じなかった。

4.考察

4.1 小児肝移植レシピエントの自己管理(セルフマネジメント)

Richard & Shea(2011)はSelf-Managementを「家族・コミュニティ・医療専門職とのつながりの中で、症状、治療、ライフスタイルの変化や心理社会的・文化的・霊的健康状態の問題を管理する個人の能力」と定義している。しかし、対象文献では肝移植後のセルフマネジメントとして、服薬アドヒアランスや受診行動に焦点が当てられており、小児肝移植レシピエントの日常生活全般の評価にはなっていないと言える。また、セルフマネジメントにはコンプライアンス、アドヒアランス、ライフスタイルマネジメント、セルフモニタリングなどが関連する概念とされている(籏持, 2003; 黒江, 2002; Richard & Shea, 2011; Riegel & Dickson, 2008)。これまでは、医療者主導で管理行動を遵守させること(コンプライアンス)が重視されていたが、時代とともに患者と医療者の関係の捉え方が変化し、患者が必要な管理行動を納得して、自ら行っていくことへの支援(ライフスタイルマネジメント)が求められるようになってきたと指摘されている(黒江, 2002; Burra et al., 2011)。そのため、看護師にはレシピエントが肝移植後という特徴を踏まえて、日常生活をセルフマネジメントできているか評価することが求められる。また、思春期は心身の成長・発達が著しい時期であるため(McNeely & Blanchard, 2009)、一部の対象文献で見られたように性や生殖(Culnane et al., 2022; Fredericks et al., 2011)、違法薬物(Culnane et al., 2022; Jerson et al., 2013; Piering et al., 2011)などの問題も踏まえた評価が必要である。これらを考慮した尺度の作成を考えると、小児肝移植レシピエントのセルフマネジメントの定義やその構成概念の検討の必要性が示唆された。

4.2 セルフマネジメントと移行(Transitionトランジション)

対象文献では、小児肝移植レシピエントのセルフマネジメントの定義について検討されてはいなかったが、それは小児医療機関から成人医療機関へのトランジションに内包してセルフマネジメントが考えられていることに起因すると言える。

トランジションには親から子どもへの健康管理の責任の移行と、小児ケアから成人ケアへの移行の準備という2つの側面があり(Fredericks et al., 2010)、ケアの提供場所の変化を示すトランスファー(transfer)とは異なる意味合いを持つとされている(Kennedy & Sawyer, 2008; Sawyer et al., 1997)。しかし、今回の対象文献と同様に多くの国外文献において、トランジションは小児医療から成人医療に移行する準備として、セルフマネジメント能力を発達していく過程であり、思春期の医療的、心理社会的、教育的、職業的ニーズに取り組む能動的な過程と捉えられている(Blum et al., 1993; Suris & Akre, 2015)。つまり、小児医療から成人医療への移行が念頭にあり、その準備の一環としてセルフマネジメント能力を獲得するという位置づけである(Sarigol Ordin et al., 2017)。

日本国内では、親管理から小児肝移植レシピエント自身による自己管理への移行は、自己管理自体に焦点を当てて検討されている。しかし、国外では小児医療から成人医療への医療体制の移行という面に焦点を当てる中で、親管理からレシピエントの自己管理への移行が捉えられており、その位置づけにおける差異が明らかとなった。そのため、対象文献の尺度で用いられていた項目が日本国内の小児肝移植レシピエントに適するかは検討の余地がある。

4.3 セルフマネジメントの評価方法

まず、今回の対象文献では認知機能の評価は実施されていなかったが、幼少期に肝移植を受けたレシピエントでは認知面の遅れが指摘されている(Sorensen et al., 2011)。そのため、親管理から移行を検討する際には、セルフマネジメントできるか否か認知面の評価が必要と考える。

次に、対象文献では信頼性を確保するためにクロンバックのα係数を用いて尺度の内的整合性を検証していたが、同一尺度での研究頻度が少ないため、今後、異なった集団での研究がなされることで、より尺度としての信頼性が高まると言える。また、妥当性に関しては、専門家である小児移植チームとの議論や文献レビューなどから尺度の項目を作成することによって、表面妥当性や内容妥当性の考慮はされていた。しかし、Fredericks et al(2010)のThe TRS:A/YAのようにセルフマネジメントを移行に内包された概念として捉える場合と、セルフマネジメントを主要概念と捉える場合では概念の位置づけが異なる。そのため、セルフマネジメントの構成概念妥当性の検討が必要とされる。

対象文献でも見られたが、自己回答のみではセルフマネジメントの実態が反映されていないことがあり、親や介護者の回答(Annunziato et al., 2018; Bilhartz et al., 2015; Fredericks et al.,2011)、親や介護者用の尺度(Fredericks et al., 2010)、医療者用の尺度(Culnane et al., 2022)の結果も合わせて、小児肝移植後レシピエントの自己管理の現状把握が試みられている。例えば、Annunziato et al(2018)では、子と親のREFILSの差を用いることで拒絶の頻度が高いことを示している。さらに、Shemesh et al(2004)では患者、親、医師、看護師の主観的評価よりも、MLVI(薬剤レベル変動指数)によって服薬アドヒアランスが評価でき、拒絶も予測できることを明らかにしている。しかし、対象文献の尺度では、拒絶や肝機能障害の悪化などの肝移植後に望ましくない結果を予測することはできていない。例えば、Annunziato et al(2018)ではセルフマネジメントができていると免疫抑制剤の血中濃度の変動が大きいという矛盾が生じている。また、メンターになるための介入の前後でセルフマネジメントを評価していたJerson et al(2013)では、スコアの変化を示せておらず、MLVI(薬剤レベル変動指数)も介入前より小さくなってはいたが、統計学的な差はない。さらに、Culnane et al(2022)ではトランジションに向けた介入を受けることでHSCTやGAMが統計学的に有意に改善していたが、「受診忘れ」の減少との関係性は示せていない。

よって、今後、セルフマネジメントを評価するにあたり、尺度の項目や評価者の吟味以外にも尺度のスコアが拒絶や肝機能障害の悪化といったアウトカムを予測できるものとして機能するように検討する必要がある。それによって、看護師が肝移植後に必要な健康管理を親管理から小児肝移植レシピエントの自己管理へと移行するタイミングやそれを判断できるようになると考えられる。

5.結論

対象文献の尺度では、肝移植後に必要な健康管理を親管理から小児肝移植レシピエントの自己管理へと移行するタイミングやその判断の評価には用いられていなかった。また、海外とは異なり、日本国内では小児医療から成人医療への医療体制の移行の一環として、親管理から小児肝移植レシピエントの自己管理への移行が捉えられていないため、国内の小児肝移植レシピエントに合った尺度の開発が求められる。

図1 文献の検索
表1-1文献一覧


表1-2文献一覧


表1-3文献一覧


表1-4文献一覧


利益相反

本研究に利益相反はない。

本研究の一部は、第18回日本移植・再生医療看護学会学術集会で発表した(ポスター・セッション)。

引用文献
 
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